若き日の過ち 高校生の頃だ。授業を終えた僕は、いつものように友達と2人で自転車で家へ帰っていた。家まであと2、3キロのあたりに小さな交差点があったのだが、そこにおまわりさんが立っているのが見えた。多分、交通安全週間か何かだったのだろう。僕が前を走り、すぐ後ろに友達が続いていたのだが、ちょうど交差点にさしかかった時に、信号が青から黄色に変ってしまった。僕は「間に合う」と判断し、加速して交差点を通過した。その瞬間、背中のほうから「こらあああ!」という怒声が響いてきた。しかし、僕は「もう渡っちゃったもんね。へへへ。」と思い、後ろを振り返ることもせずに走り去った。もう大丈夫だろうと思い後ろを見ると、てっきり一緒に付いてきていると思っていた友達の姿がないことに気付いた。「あれれ?」と思い後方を見てみると、遠くのほうでおまわりさんと何か話してるじゃないか。僕の代わりに怒られてんのかなあと思い、少し悪かったかなと彼を待つことにした。ちょうど右手にスーパーがあったので、そこの駐車場に自転車を止めしばらく待っていた。やがて友達が追いついてきたのだが、僕を見つけるなり「おい。まずいよー。おまわりさん、相当怒っとったよ。」と言った。僕は「もう大丈夫。大丈夫。ははは。」と答えた。その直後、友達の後方にすごい形相をしたおまわりさんが走ってくるのが見えた。「えっ!」と思っていると、おまわりさんはどんどん近づいてくるではないか。それを見た僕は、何故だかわからないが「逃げろ!」と思い、自転車も鞄も放り出し走り出していた。ちょうどスーパーの入り口が見えたので店内へと逃げ込んだ。どちらへ逃げようか慌てていると、後ろからものすごい力で腕を掴まれてしまった。振り返ると鬼のような形相をしたおまわりさんであった。周りを見渡すと買い物かごをさげたおばさんが数人、「何の事件かしら?」といった顔でこちらを見ていた。僕はおまわりさんに片手を掴まれたまま店の外へ連れ出された。連れ出されながら「太陽にほえろの犯人みたい」なんて馬鹿なことを考えてしまった。腕が痛かったので「止めて下さい。」と言ったのだが、すでに大魔人の怒りモードに入っているおまわりさんに通じることはなかった。おまわりさんは僕を交番へと引っ張って行った。途中で腕をふりほどこうとしたら、「これ以上、抵抗すると逮捕すっぞ!手錠かけるぞ!」とドスの効いた声で言われてしまった。さすがに手錠をかけられるのは嫌だったので「わかりましたよ。」と抵抗を止めた。交番につくと椅子に座らされた。「お前、警察ばなめとるのか?」「俺がぁ見とる前で信号無視ばするとは何事かぁ。」等々言われたので「信号は黄色だったです。だから大丈夫だと思ったんです。」と少し強い口調で反論したが、「何ば言うか。俺は目の前で見とったぞ。そぎゃん嘘ばつくな。」と言われてしまった。そこへおまわりさんの奥さんと思われる女性が麦茶を持ってきてくれた。「飲め。」と言われたが、僕も興奮していたので「いりません。」と言ってしまった。途端におまわりさんの表情が大噴火状態になるのが見えたかと思うと、おまわりさんは麦茶を机の横の床に全部捨ててしまった。内心「しまった。火に油を注いでしまった。」と思ったが、後の祭りであった。それから延々と説教された挙げ句に、家へ電話され始末書を書かされてしまった。さすがに時間がたつと僕もおまわりさんも興奮がさめてきて冷静になってきて「どうも申し訳ありませんでした。」と謝りやっと解放された。重い足取りでスーパーまで行くと、友達が待っていてくれたので一緒に帰った。お互いにほとんど話しもしなかった。家に帰ると親に散々怒られたのはいうまでもない。それにしても自転車で信号無視して逮捕寸前までいってしまうなんて、僕はなんという大馬鹿ものなんだろうと反省した。でも心の底では「信号は絶対、黄色だった。」と、いまでも思っている。若き日の過ちの思い出である。