後ろからガツンと 車の免許を取ったのは18歳の時である。しかし、実際に運転するようになったのは、随分と遅く26歳の頃であった。それまでは、ただの一度もハンドルを握ったことがないというペーパードライバーであった。東京で生活していたころは、別に車がなくても不自由しなかったのだが、熊本で生活するには、独身男性がエロ本やエロビデオを必要とするのと同じように車が絶対必要不可欠なのだ。そこで仕方なく車を購入し、運転を始めたのだが、ブランクが大きかったせいか、元々運転の才能がないせいなのかわからないが、かなり下手くそであった。あっちの壁やこっちの縁石にこすったり乗り上げたりと悪戦苦闘の日々が続いた。しかし、通勤で毎日、運転するようになってからは、少しは腕も上達したようで、めったに擦ったりしなくなった。また、事故や違反とも無縁で、無事故無違反が僕の自慢でもあった。そんなある日の夜のことだ。僕は仕事を終えて自宅までの道を帰っていた。デュランデュランをBGMに、鼻歌を歌いながらノリノリで走っていると、前方の信号が赤になった。ゆっくりとブレーキを踏み停止。僕の前には2、3台が止まっていたと思う。さあて、テープを交換しようかなと、下を向いた瞬間、「ゴン」という音とともに、全身を「ガツン」という衝撃が走り抜けた。「やられた・・・」と思いながらバックミラーを見ると、僕の車の後ろに白い車がぴったりと、くっついているのが見えた。所謂、オカマを掘られた状態である。「あら。いやん。バックからなんて。」という間もなく、信号が青になり前の車は発進していった。このままでは通行の邪魔になると思い「動くかな?」と、思いながらゆっくりとアクセルを踏み左側の歩道の上に乗り上げた。後ろの車も僕に続いて歩道に乗り上げてきた。「さあ、降りるか。」と思いドアを開けると、後ろの車のドライバーが近づいてきた。「もし恐いお兄さんだったらどうしよう。でもこっちは全然悪くないんだし。」とか考えながら姿を見ると20代前半と思われる、見るからに好青年という顔をした男性だった。内心ホッとしたのはいうまでもない。好青年は「すいません。大丈夫ですか?」と聞いてきたので、僕は「大丈夫。」と答えた。それから車を降りて後ろを見てみると、見事にバンパーが潰れ、トランクが開いていた。「警察呼びましょう。」と、僕が言い、好青年が持っていたPHSで警察へ連絡した。僕はパトカーか事故処理車が来て現場検証するものと思っていたら、自走できるんなら近くの交番まで来てくれというではないか。「あらら。」と思いながらも、近くの交番までゆっくりと車を移動した。交番に入るとおまわりさんが「免許証と車検証を出して。」と言われたので指示にしたがった。それから簡単に事故の場所、経緯を聞かれた。それから事故とはまったく関係のない世間話を聞かされその挙げ句、「警察はどちらが悪いとか言えないんで双方とも保険屋さんに連絡して下さい。」とだけ言われて帰ることとなった。交番の駐車場で相手の好青年は何度も「すみません。」と謝ってくれたので「まあ、たいしたことないし、そんなに気にしなくていいよ。」と言って名刺を渡しながら僕って結構大人じゃんと思った。彼は名刺を持っていないというので連絡先をメモしてもらった。「仕事は何?」と尋ねたら、小さな声で「公務員です。」と答えた。公務員にも色々あるんで「自衛官?お役所?」と尋ねると「いえ。空港で・・・。その・・・管制官やってます。」と好青年。「へぇ・・・」と言いながら、頭の中で「このお兄ちゃんが管制官だなんて・・・。飛行機大丈夫かな?」と少し考えてしまった。翌日になり相手の保険屋から連絡があり、100%好青年が悪いんで修理代は全額出るとの事。修理に出すディーラーを教えて、保険屋とディーラーで連絡を取ってもらった。翌日、ディーラーへ車を持っていくと「いやあ。こりゃ。かなりイッてますねぇ。」と言われた。「はあ。後ろからやられていっちゃったんですね。ははは。」と答えた。それから約2週間ののち、戻ってきた愛車は元通りに元気な姿になっていた。それにしても、こちらはまったく何の落ち度もないのに追突されるなんて。事故というのは、予想もしない時に起きるものだと改めて思った。もし、追突してきたのが、小型車でなくて大型トラックだったら・・・と考えたら小便ちびりそうになってしまった。完全に安全な交通システムってできないものだろうか?みなさんも交通事故にはくれぐれもご注意を。