鳩の恩返し 僕が住んでいる部屋は、10F建て賃貸マンションの8Fである。ベランダからは熊本市の東部が一望でき、遠くには阿蘇の山々まで眺めることができる。天気のいい朝などは、ベランダに出て思い切り深呼吸をすると、大変すがすがしい気持ちになれる。また、けっこう広いのでガラクタを一時置いておくには非常に便利なスペースである。ところが最近、このベランダにお客さんが現われるようになった。お客さんとは鳩のことである。現在の場所に越してきて7年くらいになるのだが、以前はほとんど姿を見なかったのに、最近やたらと鳩を見かけるようになった。市街地の開発が進み緑地が減ってきたためなのだろうか。朝は早くから「バタバタ」という鳩の羽ばたく音で目が覚めてしまう。そして「クルックルウ」と繰り返し鳴いているのだ。カーテンのすき間から覗いてみると、ベランダの柵の上で、多分つがいと思われる2匹の鳩が仲よさそうにしている。ひとり身の僕にとっては「朝っぱらからいいことしやがって。この野郎!」となってしまう。また、このお客さんはありがたくない御土産を置いて行ってくれる。それはエアコンの室外機の上に残された糞である。何度きれいに片付けても、また同じように汚れてしまうから困っている。最初は気付いた時に音を立てて追っ払っていたのだが、しばらくするとまた戻ってきて「クルックルウ」と鳴いてやがる。よっぽどエアガンで撃って食ってやろうかと思ったくらいだ。ところが夏になってあることに気付いた。それは鳩がエアコンの室外機から流れる水を飲んでいる姿であった。首を前後に動かし、くちばしでちょっとずつ水を飲む姿がじつにかわいいのだ。ずっと見ていても飽きないくらいだ。それからは空気が乾燥して水が出ない時は、水道水をペットボトルに入れてベランダにまいてあげたりしている。するとその水をおいそうに飲むんだな。これがなかなかかわいい。ベランダに来る見ず知らずの鳩(知ってる鳩なんていないか?)に水を飲ませてるやつなんてめったにいないだろうなと思いながらもまた今日も水を飲ませてあげた。きっと鳩達も感謝してるはずだから、いつかきっと僕に鶴の恩返しならぬ鳩の恩返しでもしてくれないかなあ。でもたぶんいつもの御土産を残してくだけなんだろうな。きっと。