ばけ猫物語 ある夏の蒸し暑い夜のことだった。僕はなかなか寝就くことができずにベッドの上でウトウトとしていた。そうしているうちに時間だけが経過していった。そして午前2時を少し廻った頃のことである。「・・・」ベランダで何か物音がすることに僕は気付いた。ぼんやりとした意識のなかで「だれかベランダにいるのかな?」と考えた。が、すぐにここがマンションの8Fであることを思い出しハッとなった。恐る恐るベッドから上体を起こしカーテンをそっとめくって外を見た。幸い今夜は満月で外がはっきりと見えた。グルッとベランダを見渡してみたが誰もいない。「何だ風の音かな?」そう思って再びベッドで横になった。そろそろ眠りに落ちそうだと感じ始めた僕の耳に、今度は「コンコン」という窓をノックする音がはっきりと聞こえてきた。「えっ!」慌てて飛び起きた僕は部屋の灯りをつけた。そして今度は勢いよくカーテンをサッと開けた。すると窓の一番下の部分に小さな影がひとつ映し出された。「なんだ!ん?」そう、それは一匹の猫であった。たぶん同じ階の誰かが飼っている猫がベランダつたいに僕の部屋の前まできたものだろう。その猫が後ろ足だけで立ち上がり両手?で窓を叩いていたのである。猫は部屋の中に動く僕の気配を感じたのか「ミャア」と鳴いた。きっと飼い主が帰ってこないんでお腹が空いてるんだろうと思った僕は「ちょっと待ってろよ」と猫に言って、キッチンへ行き何か食べさせるものがないか探した。すると非常食として買っておいた「いわしの缶詰」を見つけた。これなら食べるだろうろ思ったが缶きりが見つからない。やっとのことで缶きりを見つけ、缶詰を空けて窓のところへ戻り窓を開けた。ところが、猫の姿がないのである。「あれぇ?」と思いながらしばらくそのままで待ってみたが一向に現われる気配がない。仕方なく諦めた僕は窓を閉め、缶詰をキッチンに置いてベッドに入った。朝になり目が覚めた僕は、夜中のことを思い出し窓を開けてみたがやっぱり猫の姿はなかった。もしかしたら夢だったのか、それとも化け猫だったのかと考えながらベランダに出てみた。阿蘇の外輪山の上に顔を出したばかりの朝日が輝いていた。朝のさわやかな空気を思いきり吸い込んだ僕の足元に「グニャリ」とした感触が伝わってきた。僕の足の下には見事に踏みつぶされた猫の糞があった。よりによって人の部屋のベランダに糞をするなんて!あの猫の正体は「ばけ猫」ならぬ「ばか猫」であった。・