ベルリンの壁 ベルリンの壁が崩れてから数年が過ぎた。新生ドイツは旧東独という荷物を背負い、不況に苦しんでいる。戦後の東西冷戦の時代に生まれ育った僕らの世代にとって、この東西両ドイツを隔てていたベルリンの壁は永遠のものと思われていた。それがある日、突然崩れ去った。世界中の誰も予想しなかったことが現実に起こったのである。 じつは先日、僕の心の中のベルリンの壁も崩壊した。僕には2年以上も付き合っていた彼女がいた。お互いに結婚するだろうと思っていた。まわりの人たちもみなそう思っていたに違いない。これといって大きな喧嘩もせず仲良く付き合っていた。彼女は僕のことを愛してくれていたし、僕もまた彼女を愛していた。ところがある日突然、僕は別の女性のことが気になってしようがなくなってしまった。それが何故なのか僕には理解できず悩んだ。心の中で「なんでなんだろう」という葛藤があった。しかし、やがてすべてを理解した。僕はずっと以前からその子の事が好きだったのだ。はじめて出会った日からずっと。けれど傷つくことを恐れて心の壁を築いていた。壁の内側だけに永遠の平和な世界を作ろうとしていた。その壁がこの前、音を立てて崩れたということを。現在、旧東独ではネオ・ナチに走る若者が急激に増えているそうである。壁の中で共産主義の理想教育を受けながらも心の中では自由に憧れていた若者達はある日突然の壁の崩壊で自由を手にすることができた。しかし夢みていた自由社会の現実の厳しさに失望したのだろう。彼らにとって壁が崩れたことは幸福なことだったのか。それとも不幸だったのか。やがて歴史がその答えを出すだろう。僕にとって壁の崩壊は果たして吉とでるか凶とでるか。