幽霊とバッドフィンガー
いままでに幽霊を見たことが一度だけある。
もう5年ほど前のことである。
僕は自分の部屋で寝ていた。
夜中に何だか人の気配らしきものを感じて目が覚めた。
暗い部屋を見回すとベッドのすぐ横に一人の女性が立っているのが見えた。
「何だ。女か。」
少し寝ぼけていた僕はそう思ってもう一度目を閉じた。
しかし、よく考えてみると僕は一人で寝ていたはずだし、合鍵を渡している女性もいなかった。
「え?」と思い、恐る恐るもう一度目を開けた。
まだ女はそこにいた。
赤いニットを着た髪の長い若い女だった。
彼女は僕のほうを向いていたが顔は伏せていた。
1、2秒が経過した後、後ろを向いたかと思うとクローゼットの中へすーっと入っていった。
僕はすぐに部屋の明かりをつけて、クローゼットを開いたが、そこには誰もいなかった。
念のために壁を叩いてみたが秘密の抜け穴などありそうもなかった。
とすると・・・「彼女はこの世のものではないぞ」と思い、急に寒気がして恐くなった。
結局そのまま部屋の灯りをつけたままに朝を迎えた。
そこに住んで随分たった頃だったし、幽霊が出るなどという話は聞いたことはなかったので
僕の知っている女性が亡くなったのかと考えたが該当者はなかった。
いまだに何だったのかよくわからない。二度と彼女にお目にかかることはなかった。
地縛霊や漂衣霊ではなく浮遊霊だったのだろうか?
僕は小さいころから金縛りにはよくあっていた。
耳元や胸の上にだれかいるような感じがして人の声が聞えるのだが身動きがとれない。
目を開けるととんでもない光景が見えそうなので、必死に目を閉じて手足を動かそうとじたばたする。
そんなことを何度も経験した。
しかし、最近ほとんど金縛りにあわなくなったのは何故だろうか。
誰もいないはずなのに足音や物音が聞えるといったことはいまだによくあるのだが。
ところでバッド・フィンガーというグループをご存じだろうか。
バッド・フィンガーは知らなくても「ウィズ・アウト・ユー」という曲はきっと耳にしたことがあると思う。
ニルソンやマライア・キャリーがカバーしヒットした名曲である。
彼等はビートルズの弟分といった感じで、ヒット曲も結構あったのだがあまり評価されていない。
小さなCDショップではほとんど置いてないようだ。
このグループのヴォーカルはピート・ハムという人だったが、彼はもうこの世の人ではない。
首つり自殺したのだ。
先日ニルヴァーナのメンバーが自殺したと新聞に出ていたが外国のミュージシャン、
しかも結構売れてる人が自殺したのはピート・ハム以来のものだろう。
バッド・フィンガーの曲の中で一番好きなのは「ウィズ・アウト・ユー」だ。
とても美しい曲で、夕陽が沈む海沿いの道を彼女とドライブしながら聴くにはもってこいの曲だと思う。
ただピート・ハムが自殺した話しはしないほうがいいと思う。
特にトンネルにさしかかった頃にそういう話題になると、決まって幽霊の話しになったりするからだ。
そしてふと、後を見ると誰かが座っていたりして。
まあ、ピート・ハムの幽霊ならば喜んで握手するのだけど。