ふられた話し

 僕はこれまでに何度か女性にふられたことがある。
ここでいう”ふられた”というのは、交際を申し込んで断れたというのではなく、
交際していて相手に別れを告げられる意味での”ふられた”である。
はじめて”ふられた”のは高校生の頃だった。
その頃、僕には付き合い始めたばかりの女の子がいた。
初めてのデートから2週間後に僕の学校で文化祭があったので
彼女に「来ない。」と誘ったところ「行く。」ということになった。
文化祭の当日、僕は教室で友達と下らない話しをしながら約束の時間になるのを待っていた。
そろそろ約束の時間が近づいてきたので、友達に「これから彼女と待ち合わせしてるから。じゃあな。」
と言って待ち合わせ場所である校門へと向かった。
しばらくして約束した時間どおりに彼女はやってきた。
「やあ、来てくれたね。」と話しかけたのだが彼女の表情が今一つ冴えなかった。
「急に用事ができちゃったの。ごめんなさい。」と彼女は言った。
「急用かあ・・・。仕方がないよね。」と僕は答えた。
彼女は先日僕が貸してあげたレコードを返すといま来た道を引き返して行った。
僕はすっかり落胆し「あーあ」と呟きながら「でも、まあ、仕方ないか。」と考えながら教室へ戻った。
友達が「あれ?」という顔をしたので、「用事ができたんだって。」と話して自分の席に座った。
僕の席は窓側だったのでさっきまで自分がいた校門が見えていた。
僕は出入りする人達をぼんやりと眺めていた。
するとさっき帰って行ったはずの彼女が戻ってくるではないか。
「あれ?どうしたんだろう。」と思い彼女を見ていると校舎のほうから
一人の男子生徒がまっすぐ彼女のほうへと歩いて行くのが見えた。
「え!」と思っていると、その男子生徒は彼女に手を振り、彼女もそれに手を振っていた。
それから2人は何と手をつないで体育館の方へ消え去って行った。
僕はまるで狐につままれたような気持ちでぼんやりと外を見ていた。
混乱する頭の中で、ゆっくりと、しかしはっきりと、彼女が僕に嘘をついていた事、
別の男と時間をずらして待ち合わせしていた事を理解していった。
理解していくに連れて、目の前の風景が少しずつ滲んでいった。
というのが”ふられた"時の思い出である。
はっきりと「別れましょう。」とか「嫌い。」と言われたわけではないが、
それ以上に僕の心が傷ついたのはいうまでもない。
当然、その後彼女からは何の連絡もなかったし、僕も連絡しなかった。
非常に理不尽な話しであるが、これが女心というものなのだろうか。
女心と秋の空は変わりやすいものであると実感した思い出である。
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