初めてのデート

 初めて女の子と2人きりでデートしたのは、高校3年生の秋だった。
相手はひとつ年下で別の高校に通う女の子であった。
知り合ったきっかけは、その子が僕の高校の体育祭を見に来たことである。
すべてのプログラムが終了し「さあ、片づけして帰ろう。」とグラウンドを歩いていたら、
「あのう、すみません。」との声に後ろを振り向いた僕の前に、一人の女の子が立っていた。
「可愛い子だなあ。」と思っていると「一緒に写真撮ってもいいですか?」と言うではないか。
「俺?」と自分を指差すと、その子はにっこり微笑んでコクリと頷いた。
「ああ。生きていてよかった。神様ありがとうございます。」と心の中で呟き、
「はい。いいですよ。」と、少し上ずった声で返事をした。
気が付くと彼女の友達もそばに立っており、その友達がカメラで僕とその女の子を写してくれることになった。
2人並んでカメラの前に立つと、カメラを構えた友達が「もっとくっついて。」と言った。
僕は胸バクバク状態だったのだが、格好つけなきゃと思い手をさっと彼女の肩にまわし
彼女を少しだけ引き寄せた。すごくいい香りがしたのを覚えている。
写真を撮ってもらったあとに電話番号を聞かれたので、内心ウハウハ状態だったが、
「本当は教えたくないんだけど」というふりをしながら教えてあげた。
そして彼女も自分の電話番号を書いたメモを僕にくれてその日は別れた。

数日後、彼女から電話があり、デートすることになった。
その夜から「あぁ、初めてのデートだ。どうしよう。」と眠れぬ夜を過すこととなったのである。
そしていよいよデートの日がやってきた。
先日の電話で音楽の話しになり、「レコードを何か貸してほしい」と言われたので
スパンダー・バレエの「トゥルー」というアルバムを持って行った。
もちろん、目いっぱいのおしゃれをして出かけたのは言うまでもない。
待ち合わせ場所にやってきた彼女は、先日会った時より数段可愛く見えた。
もう僕は一緒にいるだけで緊張してしまい、頭の中ではメリーゴーランドがまわっていた。
とにかくどこへ行って何を話したのか、まるで記憶がないのだ。
ただ緊張のあまり、ほとんどまともな会話が出来なかったことだけは覚えている。
喫茶店に入った時には「あぁ、何か話さなきゃ。ああ。」と思っている間に30分以上経過してしまった。
デートが初めてというだけでなく、高校に入って以来、女の子とはほとんど話しをしたことがなかったので
目の前に女の子がいるというだけでもうパニックだったのである。
この少し前に友達とその彼女と食事をしたことがあったのだが、
その時は「ぼ、ぼ、僕は・・・。」と、どもってしまい、友達に大笑いされたということもあったくらいだ。
結局、ほとんど話すことができずに初デートは終わってしまった。

この女の子とは長く続くことなく別れてしまった。
まあ人生ってそういうもんだろう。
TOPへ戻る