隣は何をする人ぞ

 僕が借りている部屋の隣は、長い間空き部屋だったのだが、最近誰か引越してきたようだ。
まだ一度も姿を見ていないのだが、どうやら若い女性のようである。
その事に気がついてからというもの、僕は音を立てちゃいけないとか、
一人ごとを言わないようにとか、やたらと気を遣ってしまうようになっってしまった。
そんなに音が聞こえるような作りではないんで、自分で何を気にしてんだろうなと思ってしまう。
根が気が小さい人間だから仕方ないんだろうか。

そんなある朝のことである。
午前7時に目覚まし時計の音で目が覚めた僕は、布団の中でぼおっとしていた。
すると何やら何やら怪しげな声が聞こえてきた。
最初は鳩が鳴いてるのかなと思ったが、どうやら違うようである。
ということは人間の声・・・。
それは女性の悩ましい喘ぎ声であった。
なんと日曜日の午前7時から彼氏(と思われる)と二人で・・・である。
僕は思わず「おいおい。朝っぱらから何やってんだよお。」と一人ごとをつぶやいてしまった。

そしてその翌週の土曜日の午後の事である。
僕は部屋でTVを見ながらサッカー雑誌を読んでいた。
すると廊下から騒がしい男女の声が聞こえてきたかと思うと、「バタン」とドアが閉まる音が聞こえた。
「隣の人が帰ってきたんだ」くらいに思っていると、それからわずか5分後くらいで怪しげな声が聞こえてきた。
別にじっと聞き耳を立てているわけじゃないのに、それでも聞こえてくるのである。
どうやらベランダ側の窓を開けてるらしく、そこからベランダ伝いに声が聞こえてきてるのだった。
僕は「おいおい。昼間っから何やってんだよお。」とつぶやいた。
この日は1時間後にも、そして翌日の同じ時間にも同様の声が聞こえてきたことを付け加えておこう。
それから念のために断っておくが、僕は決して隣の声を盗み聞きしようと聞き耳を立てているわけじゃなく、
普通に生活してても聞こえてくるのである。
ほんとうに困ったもんだ。こればっかりは文句を言うわけにもいかないし。

そういえば僕が最初に住んだアパートは壁がやたら薄くて夜中に隣のおやじの
いびきがよく聞こえてきたものだ。
いびきだけじゃなくておならの音やゲップまで聞こえてきてたから最悪だった。
それにこの部屋では窓を開けると、すぐそばにおやじのブリーフが干してあったんだよな。
(うぇっ、余計な事を思い出してしまった。)

僕がこれまで引越した時はちゃんと隣に挨拶したものだが、最近の人はそういう事はしないようだ。
おかげで隣に住む人がどんな人だかまるでわからない。
果たしてそんな世の中でいいんだろうかと思ってしまうのは、僕がおじさんになった証拠だろうか?

みなさんはちゃんと隣の人の顔って知ってますか?

顔も名前も知らないのに、あの時の声だけは知ってるというのも何だかなあ。
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