見つめていたい

 現在、僕には好きな女性がいる。
彼女は僕の気持ちを多分知らないだろうと思う。
僕が一方的に彼女を好きになったのである。
つまり「片想い」というわけだ。
僕の恋愛は「片思い」の繰り返しだったような気がする。
中学生の頃、クラスに好きな女の子がいた。
彼女はとてももてる子で僕も密かに憧れていた。
彼女のすぐ近くの席になったことがあった。
ほんとは彼女のすぐそばにいたいのだが、彼女の友達に僕の席を貸して、
僕は遠い席から彼女を見つめていた。
そしてノートにその子の名前を書いては消し、また書いては消していた。
社会人になっても好きな子のそばに積極的に近寄ることはせずに、
いつもわざと距離をおいてその子を見つめていた。
遠くから見つめながら心の中で「I LOVE YOU」と呟いていた。

ポリスの「見つめていたい」という曲がある。
ヒットチャートの第1位に輝いた曲なのでご存じの人もいるかと思う。
スティングの淡々とした中にも情感あふれるヴォーカルが切ない名曲である。
僕が初めてリアルタイムで体験したロック・アーティストがポリスであった。
デビューアルバムから「ロクサーヌ」がヒットし、続くアルバム「白いレガッタ」の
「孤独のメッセージ」がヒットした70年代の終わりが僕がロックを聞き始めた頃だった。
当時、中学生だった僕は音質の悪いテープに録音したポリスの曲をラジカセで何度も
繰り返し聴いては「ロックってすげえや」と思った。
そこでどうしてもレコードを手に入れたくなり小遣いを貯めて買いに行ったのだが、
売り切れで置いてなかった。
仕方なく当時ヒットしていたブロンディの「ドリーミン」とバグルスの「ラジオスターの悲劇」
を買って帰った。
それが僕が買った初めてのロックのレコードであった。
ちなみにはじめて買ったレコードは子門真人の「およげたいやきくん」で次が、
田中星児の「ビューティフル・サンデー」だった。
ああ恥ずかしい。

今日も彼女を遠くから見つめていた。
しかし一度も視線が交錯することはなかった。
彼氏がいるらしいし、彼女は僕のことを、これっぽっちも好きではないようだ。
ときどき、くじけそうになるがあきらめないでいようと思う。
人生に一度くらい「両想い」になれる「片想い」があってもよいのではないか。
僕の中の彼女を好きな回路の電池が切れるまでは、彼女を見つめていたいと思う。
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