ザ・リバー

 今年の夏は雨らしい雨も降らず各地で水不足となった。
街中を流れる川も水が少なく川底のほうを細々と流れていた。
そういえば小学生の頃はよく川へ遊びに行ったのを覚えている。
魚を捕ったり、石を投げたりして陽が沈んで真っ暗になるまで夢中で遊んだものだった。

ブルース・スプリングスティーンの曲に「ザ・リバー」という素晴らしい作品がある。
この作品を初めて聴いたのは20歳前後に工場で働いていたころである。
確か深夜の音楽番組(たぶんMTV)でビデオ・クリップが流れていたのを寮の14インチのテレビで
見たのが最初である。
当時の僕は人生の希望を失いかけ自殺することばかりを考えていた。
そんなある日、この曲がテレビから流れてきた。
叙情豊かなハーモニカの音色で始まるこの曲でスプリングスティーンは掠れた声で、
”Down to the river 川へ行こう”と歌っていた。
ぼんやりと画面を眺めていた僕の両目から涙が止めどなく流れ落ちていた。
はじめて聴く曲のはずなのに非常に懐かしい気持ちになったのが不思議だった。
それから月日は流れてこの曲と再会したのは去年のことであった。
以前からこの曲が収録されているアルバムを買いたいと思っていたが2枚組で少し高かったのと、
他に買いたいアルバムがあったために買わずにいた「ザ・リバー」をようやく手に入れたのである。
さっそく車の中でCDをセットしボリュームをあげた。
はじめて聴いたときと同じ感動でこの曲を聴いた。
それからしばらくはドライブの時は必ずこの曲をかけながら走っていた。
熊本市から郊外へと車を走らせ、国道に沿って流れる川を右手に見ながらこの曲を
聴いては一緒に口ずさんでいた。
となりでは彼女が「また同じ曲を聴いて」と笑っていた。

しかし彼女と別れてからはドライブすることもほとんどなくなり、この曲も聴かなくなっていた。
ところが仕事の都合で車で通勤するようになったため久しぶりにこの曲を聴くことになった。
仕事に向かう車の中で、”Down to the river”と口ずさんでいたら信号がにじんで見えた。
このままでは危ないと思い、テープを交換した。
ミック・ジャガーが「ブラウン・シュガー」をシャウトしていた。
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