妻一人子一人

 情けない話だが、僕は酒がほとんど飲めない。
ビールをコップ一杯飲んだだけで真っ赤に酔っ払ってしまうのだ。
だから、酒を飲みに行くのは、仕事絡みの付き合いだけにしている。
それでも、歓迎会、送別会、忘年会、新年会など、世の中には飲み会をする
機会がたくさんあるので、僕も年に数回はそういった酒の席に出ることになる。
たいていの場合は、一次時会で退散するのだが、ちょっと機嫌がよかったり、
可愛い子がメンバーにいたりすると二次会まで行くことになる。

ある時、僕は仕事先の会社の人達と飲みに行った。
一次会のことは全く覚えていないのだが、どこかの居酒屋であった。
ごく普通の飲み会を終えて、二次会へ行こうということになった。
この時は、二次会へ行くメンバーは男ばかりだったのだが、
機嫌がよかったので参加することにした。
誰かが知ってる店があるというので、僕は後ろからついて行った。
飲み屋さんがたくさん入っているビルの中に目的の店はあった。
中に入ると、ごく普通のスナックであった。
とりあえず、席に座ってくつろいでいると、店の女の子がやってきた。
適当に水割りとつまみを注文し、一緒に行った人達と他愛のない話をしていた。
しばらくして、店の女の子が「ご結婚されてるんですか?」と質問してきた。
普通であれば「いや、花の独身です!」というところなのだが、
この時はちょいといたずら心が起きたので、
「うん。結婚してるよ。」と答えた。
ここで相手が「うそでしょ。」と言っていれば「ばれたか。」となるのだが、
「へぇ。やっぱり。」と言われてしまった。
内心「そんなにおやじしてんのかなあ?」と考えながらも、
つい調子に乗ってしまい、「家で愛しい女房が待っている。」だの
「子供の名前はねえ。ひとみって言うんだ。可愛いよお。」と、作り話が発展していった。
隣にいた人も、面白がって僕の作り話に付き合ってくれたので、
その店での僕は「妻一人子一人」のパパさんになってしまったのである。
実はこの手の作り話をしたのは初めてではなかった。
だいたい飲み屋の女の子に「結婚してるんですか?」と聞かれた時は、
「結婚してるよ。」と答えてきたのである。
なぜ、そんな事をいうのか自分でも、よくわからないが、ついそう言ってしまうのである。
だからかどうかわからないが、飲み屋の女の子といい仲になったことは一度もない。
今度、同じような場面になったら、
「子供が小学校に入学したばっかりでさ。」
と言うのであろう。
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