人は必ず死ぬ

 僕の座右の銘は「人は必ず死ぬ」である。
これはずいぶん前に、週間スピリッツという漫画雑誌に連載されていた柳沢みきおの「妻をめとらば」という
漫画の主人公(たしか太一という名前だったような)が、いつも机の前に貼って眺めていた言葉だ。
それを読んだときに「これだ!」と思い、勝手に頂戴した次第である。

「人は必ず死ぬ」の意味は、人はいつかは必ず死ぬのだから、悔いの無いよう行動しようということである。
その日、その時を精一杯生きよう。いつ何が起きて死ぬかもしれないのだから、という意味でもある。
この言葉と出会うまでの僕は、いつも後ろばかりを見て生きてきたように思う。
「あの時こうすればよかった」「ああ、失敗しちゃった」とか、考えてはくよくよ悩んでいた。
しかし、この言葉を座右の銘に選んでからは思いきりがよくなった。
決断を下すときはスパッと下せるようになった。(と思う)
悪くいえば物事を深く考えなくなったとも言えるが・・・。

ジャニス・ジョプリンの遺作「パール」に収録されている「愛は生きているうちに」という曲がある。
内容はタイトル通りに愛を歌ったもので、ジャニスの切ないヴォーカルが印象的な名曲である。
20代前半に僕はジャニスに夢中になった時期があった。
朝から晩まで一日中、ジャニスだけを聴いていた。
発売されているCDをすべて揃え、ビデオを通信販売で手に入れ、ジャニスについて
書かれた本を買って読んだ。
「サマータイム」や「ボール・アンド・チェイン」を聴いては涙を流し、「トライ」や「ムーブ・オーバー」
を聴いては元気づけられたりしていた。
単なるファンという感情を通りこして、ジャニスに本気で恋をしていた。
「もし僕がジャニスと同じ時代の同じアメリカに生まれていたら・・・絶対にジャニスを愛したのに」
などと真剣に考えていた。
僕は生来の怠け者なので、努力とか一生懸命ということが大の苦手であるから、一生懸命に頑張る人を見ると
素直に感動するのである。
この人は、なんてすごいんだろうと思ってしまう。
そういう点で、ジャニスは歌って、歌って、歌い続けた人だから、僕にとっては超すごい尊敬の対象だった。
アメリカ南部のユダヤ系の中産階級の家に生まれた不良娘が、ブルースを歌うことでスターとなり、
もっとも輝いていた時期に突然、謎の死を遂げた。
1970年10月4日のことである。
なぜか彼女の手には4ドル50セントが握り締められていたという。享年27歳。
当時レコーディング中であったアルバム「パール」(パールは彼女の愛称)には、
彼女の作品で唯一のインスト・ナンバーが収録されている。
彼女の突然の死でヴォーカルが入らなかったその曲のタイトルは
「生きながらブルースに葬られて」である。
ジャニスそのものじゃねえか。

彼女は常に全身全霊でブルースを歌っていた。
だから彼女の歌には時間を超えた説得力があるのだと思う。

「愛は生きているうちに」の中で、ジャニスは次の言葉を何度も繰り返し歌っている。
「生きているうちに人を愛しなさい。もし愛を手に入れたら大切にしなさい。」

彼女の本心からのメッセージだと思う。
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