内嶋揚一

15期・東京支部

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京都円山公園にて

(平成8年4月)


山岳俳句

 

榾 火

 

(回想の山三十句)

 

花菜風白馬三山指呼のうち

 

澤風や眼にさやさやと山毛欅若葉

 

山毛欅林の高きに鳴れり春北風

 

四囲の山木の芽晴れして光充つ

 

遥かまで白樺縫ひて春スキー

 

鋲靴の夏草踏むや匂ひ立つ

  

浮き石のゆらぎ青嶺の傾けり

 

草いきれ大き荷肩に食ひ込みて

 

宙空を攀づる足もと岩つばめ

 

雲の峰打つハーケンの谺して

 

手掛りに握る這松汗とやに

 

雪渓を風吹きあげて鳶の笛

 

大き荷に雷鳥小さくまばたけり

 

雷鳥の登攀者に向き首傾げ

 

駒草や垂壁越えて憩ふとき

 

雪渓の雫を溜めて夕支度

        

岩峰のテラスに坐せり大夕焼

 

ハーケンの音無機質に秋岩場

 

針峰に絡むザイルや霧深し

 

花崗岩攀づる手触り澤もみぢ

 

荷の重し尾根道長し秋の暮

 

山降りて秩父の甘き柿二つ

 

水澄むや源流の淵魚光る

 

山巓の見えかくれして落葉道

 

風雪のつのる幕舎や燭細く

 

かんじきを軋ませ零下十八度

 

山頂を目睫に笑む雪眼鏡

 

岳ふかく友つれ去りし雪女郎

 

面影や榾火に浮かぶ山の友

 

友ら亡し榾火囲みて黙すとき

 

 

(俳句結社「嵯峨野会」同人)


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