女子大生・綾波レイ シリーズ(PART7)
 『ラスト・グッドバイ』

○プロローグ
 11月に入ったというのに、第3新東京市では連日暑い日が続いていた。
 4年前に『四季』というものが復活して以来、初めて経験する異常気象であ
る。そんなワケがあって、18歳になった綾波レイ達が通う女子短期大学のそ
ばにある喫茶店『ろまねすく』では、秋だというのにアイスコーヒーやアイス
ティーの注文が相次いでいた。とはいっても、名物であるジャンボパフェの人
気は、暑かろうが寒かろうが健在だったのだけれど。
 そのお昼すぎの『ろまねすく』店内の古めかしいカウンターの中で、蒼銀の
髪をした紅い瞳の少女が、同居人で15歳年上の金髪の彼女からプレゼントさ
れたブルーのエプロンに出来た皺を気にしながら、少し離れた場所にあるテー
ブルの方を微笑みを浮かべて見つめていた。いつもなら同じカウンターの中に
いるはずの先輩ウェイトレス・優美の姿はなぜかこの場に見られない。
「ねっ? 今度ドライブにでも行かないかい? 最近車買い替えたばっかりな
んだ」
 ジーンズに薄手のパーカーといったラフな格好の青年が、レイと同じ女子短
大に通っている親友の七瀬ミオの顔を覗き込みながら言った。やわらかなピン
ク色のワンピースに身を包んだミオが恥ずかしそうに頬を赤く染めてうつむい
てしまった隣で、端正な顔だちの髪を短く切り揃えた快活そうな少女が愉快そ
うに笑う。彼女もまた、レイの親友であり、名を天城アヤといった。
「ミオどうする? 結構、本気みたいだぜ」
 相変わらず純情なんだなと思いながら、アヤは隣ではにかんでいるかわいら
しい少女の顔をちらりと見て、悪戯っぽい口調で言った。
「で、でも……そんな事言われても私……私……」
 ミオはかなり戸惑っているようで、どうしていいかわからない、といった風
であった。が、そこへちょうど救いの手が差し伸べられる。
「ちょっとアンタっ! 仕事サボって何やってんのよっ!」
 その声に、ミオを口説いていた青年・おしぼり屋を若い手ひとつで切り盛り
している彼がこわごわ振り返ると、店の入り口の扉の脇に、買い出しから帰っ
てきたらしい優美が、大きな紙袋を抱えたまま、青年の方をにらんでいた。
「ゆ、ゆ、ゆ、優美っ?! ……は、早かったな……」
 青年はさっと体勢を立て直すと、優美の方へまっすぐに向き直る。
「早かったな、じゃないわよっ! あんたちょっとこっちに来なさいっ! あ
れほどミオちゃんには手を出すなって言っておいたのに! その聞き分けのな
い頭にもう一度きつーく叩き込んであげるわ」
 優美は紙袋をカウンターに置くと、つかつかと青年の方へ近づいて、ぐいと
襟元を掴んだ。そして呆気に取られた様子のミオの方を見て微笑む。
「ごめんね〜ミオちゃん。また、このバカが迷惑かけちゃって……よ〜く言い
聞かせておくから、気を悪くしないでね〜」
「め、迷惑だなんてそんな……」
 ミオはそう言うと、頬を赤く染めて、またうつむいてしまった。
「大変ですね、いつもいつも」
 アヤがそう言ったのを聞いて、優美は少し苦笑いすると狐につままれたよう
な青年の横顔をちらりと見て、そして微笑った。
「……まあ、これが私の仕事みたいなもんだから」
 それをカウンターの中で聞いていたレイは、くすっと楽しそうに笑った。け
れども優美がパッとレイの方を見たので、申し訳なさそうに首をすくめる。し
かし、優美はその微笑みを絶やさぬまま、レイに向かって優しい口調で言った。
「もうじきレイちゃんが嬉しくなっちゃうようなお客さんが来るみたいよ。今
さっきかなり向こうの方から歩いてくるのが見えたから、あと1分くらいで着
くと思うんだけど……。ついでに休憩にするといいわ。私はこいつと奥でハナ
シがあるから」
 優美はそう言うと、不思議そうに首を傾げたレイを見て微笑んでから、青年
の首根っこを掴んで、店の奥の方へと足を向けた。
「じゃ、ミオちゃん、また……ね」
 青年がミオに向かって弱々しく手を振る。
「アンタまだ懲りてないわけ?!」
 ごんっと、青年の後ろ頭に優美の鉄拳がお見舞いされた。
 相変わらず恥ずかしそうに顔を伏せたままのミオの隣で、それを見ていたア
ヤが愉快そうに笑った。ふと思い立ってカウンターの方を見ると、レイもおか
しそうにくすくすと笑っていた。
「ま、ミオをオトすのは大変だよなぁ……。なんせもう心に決めたヤツがいる
みたいだから」
「や、ヤダ……アヤさんったら……」
 ミオは赤くなった頬を一層真っ赤にすると、照れ隠しにグラスの水を一口飲
んだ。
『カラ〜ン』
 ちょうど店の入り口の扉のベルが心地良い音を立てて、誰かが入ってきた事
を告げる。
「いらっしゃませ……あっ……?!」
 いつものように澄んだ声でそう声を掛けたレイは入ってきたふたりの客の顔
を見て驚いた。
「やあ、綾波……。ちょっとそこまで来たから寄って行こうと思って……。今
日はもう一人連れてきたんだ」
 テーブルから入り口の方を見ていたアヤはその『もう一人』の顔を見て、ニ
ヤッと笑うと、隣でうつむいているミオの脇をちょんっとつついた。
「ひゃあああっ! アヤさんっ! 私、そこは弱いからやめてくださいってお
願いしたじゃないですかっ……」
 くすぐったさのあまり、ガタンと椅子から立ち上がったミオの背中の方から
意外な男の声が聞こえる。
「おっ、あんたらもおったんかいな。……でもひとりうるさいんが足らんよう
やけど」
 自分の方を見てニヤニヤとしているアヤの顔を見て彼女の意図を察したミオ
はそのアヤの顔をじっと見つめてから、何かを決心したかのようにくるりと振
り返った。すると案の定、ブラックジーンズに黒いジャケットと黒づくめに身
を固めた鈴原トウジが笑いを噛み殺しながらそこに立っていた。
「……あっ……?!」
 ミオは恥ずかしそうにうつむくと、顔を真っ赤に染めてしまった。
「いらっしゃい、鈴原くん」
 背中からやさしくそう声を掛けられて、トウジはくるりと振りかえる。
「よう、久しぶりやな、綾波。それにしても……」
 トウジはそう言って、レイのエプロン姿をまじまじと見た。
「よう似合っとるわ。シンジの奴が通い詰めるのも仕方ないかもしれへんな。
ここへ来る最中もな、綾波が最近綺麗になったっちゅうて、ず〜っと言いっぱ
なしやったんやで」 
「……えっ……?」
 レイは顔を真っ赤に染めると、驚いた顔でシンジの方を見た。シンジも顔を
赤く染めたが、パッとトウジの方へ見ると慌てたように反論する。
「ちょ、ちょっとトウジっ!」
「ほんまのこっちゃないか。ほんまならここも、ワシにも教えたなかったんや
ろ? おっ? 言うてみいやシンジ?」
 トウジはぐりぐりと肘でシンジの腕をつついた。
「……えっ……そ、それは……」
 言いよどむシンジの顔と、レイの真っ赤な顔を交互に見て楽しそうに笑って
いたアヤが、そろそろ助けてやるかとばかりにふたりに声を掛けた。
「それくらいにしといたらどうだい? 外は暑かっただろ? 良かったらこっ
ちに座ったら?」
「そやな……イジめる機会はいくらでもあるさかい。ほら、シンジ行くで」
 シンジは安心したように顔を上げると、レイの方をちらりと見てから、アヤ
とミオの待つテーブルに足を向けた。
「レイ、お水とおしぼりが出てないよ。仕事、仕事」
 そう声を掛けられて、レイはようやく我に返ったのか、ぶんぶんと首を大き
く横に数回振って、支度を始めたのだった……。

「ふうん、学園祭でライブをねぇ……」
 向かいに座るシンジの顔をちらりと見てから、アヤはアイスティーを一口飲
んだ。
「取りあえずメンバーを学内で集めたんやけど、肝心のベースとドラムだけ見
つからんかってな〜、仕方なく昔のメンバーのシンジに頼んだっちゅうわけや」
 恥ずかしそうにうつむきっぱなしのミオの向かいに座るトウジが豪快に笑い
ながら言った。けれどもその隣のシンジは少し不機嫌そうに
「……結局、自分以外はメンバーが見つからなかったから僕らに泣きついてき
たくせによく言うよ……」
 と呆れた口調で言った。
 確かにそうの通りで、結局メンバーが集まらなかったため、トウジは昔一緒
にバンドをやっていたシンジとケンスケに助けを求めたのだった。
「なんか言うたか、シンジ?」
 トウジがぎろりとシンジを横目でにらむ。それを見て、アイスコーヒーをふ
たつプレートにのせて持ってこようとしていたレイがくすっと笑った。
「……が、学園祭っていつなんですか?」
「来週の日曜や」
 恥ずかしいのか伏し目がちに尋ねたミオに対して、トウジはあくまで普通に
答えた。
「そういえば、綾波たちの学校はいつなの?」
「さ来週、だったかしら……?」
 確認するようにアヤの顔を見ながらレイが言うと、アヤがこくりとうなずい
て言った。
「あぁ……。でもウチの学校は生徒が配る招待券を持っていないと入れないん
だ。まだ出来てないんだけど、出来たらレイに渡しておくから、またみんなで
遊びに来てくれよな。レイとミオが喜ぶから」
 そのアヤの言葉を聞いてワケが分からないといったように顔を見合わせる鈍
感なシンジとトウジ。なんてことを言うんだとばかりに、レイとミオが声を併
せる。
『アヤさんっ!』
 アヤは真っ赤な顔で迫ってくるふたりの顔を見ておかしそうに笑うと、言葉
を続けた。
「今回は春みたいに何もする予定はないから、十分相手が出来ると思うぜ」
 そう春はレイ達のクラスで喫茶店を出したため、一日中てんてこまいでシン
ジ達の相手をする暇など、全くといっていいほどなかったのだった。
 レイとミオはもうそれ以上、何を言っても無駄と思ったのか、それとも恥ず
かしくなったのか、顔を赤く染めてうつむいてしまう。
 そんな中、風を巻き起こして彼女がやってきた。
『カラ〜ン』
 乾いたベルの音とは対称的なばたばたという騒々しい靴音を立てて、その少
女はやってくる。少し赤みがかった髪を両サイドでおだんご状にまとめ、幼げ
な風貌を醸し出している少女。アヤの高校時代からの知り合いで、レイの友人
でもある彼女の名は草薙うららといった。
「ねえねえねえねえ、アヤちゃ〜ん! やっぱりここにいたんだ〜っ。探した
んだよ〜っ」
 その少し甲高い声に、アヤはまたとんでもないヤツがやってきたとばかりに
こめかみに指を当てた。
「あっ、シンジ君にトウジ君じゃな〜い。ひっさいぶりぃ〜っ! 元気してた
? 私は元気よ〜っ! とっても!」
 ぽんぽんと話を進めるうららに、シンジもトウジもすっかり飲まれてしまっ
ていたのか、ただこくこくとうなづくしかなかった。
「んっと、ここに座るね。あっ、レイちゃ〜ん! ワタシ、ジャンボパフェの
大盛りねっ」
 トウジの隣に腰を下ろしながらそう言ったうららに、ようやく迎撃の準備が
整ったらしいアヤが頬杖をついて言った。
「まったく相変わらずだな……。で、今日は何なんだ?」
 レイが持ってきたグラスの水をごきゅごきゅっと一気に飲み干してうららは
ニコ〜っと笑った。
「やっぱり思いっきり走った後のお水はおいし〜ねっ! そう思わない? レ
イちゃん」
 空っぽのグラスを握り締めたまま、うららは子供のように無邪気に笑った。
「人のハナシを聞け〜っ!」
 アヤが頬を膨らませて怒鳴る。けれども、うららはグラスを持ったまま
「アヤちゃん、あんまり怒りっぽいと男の人に嫌われちゃうよ」
 とにっこりと笑って見せた。
 そんなふたりのやりとりに、シンジもトウジもミオも思わずくすっとふき出
してしまう。
 レイが真似しようと思っても絶対に出来ないうららの天性の笑み。その場の
雰囲気を一気に和ませてしまう彼女をレイは時々うらやましく思うことがある。
「うららに言われたくないね」
 アヤは顔を窓の方へ背けると、少しふてくされたような仕草を見せた。
「まあまあアヤちゃんスネないでスネないで。今日はね〜、いいおハナシ持っ
てきたんだ〜」
 うららはにこにことしながら、アヤの方を見て言った。
「なんだよ、いい話って?」
 少し機嫌を直したアヤがこちらを向いたのを見て、うららはまた無邪気な笑
みを見せた。
「あのね〜……学園祭でみんなでバンドやらないかな〜って思って」
「バンド?」
 話のあまりのタイミングの良さに驚いて、シンジとトウジは顔を見合わせた。
「うんっ。昨日ねぇ〜テレビでチョー格好いい女の子バンドが出ててね〜思い
ついたんだ〜っ。わたし、カラオケ得意だし〜」
 アヤはまたうららの病気が始まったとばかりに、額に指を当てた。
「わたしは当然ボーカルでしょ〜。アヤちゃんは高校の時に文化祭でドラム叩
いたことがあったよね〜。で、レイちゃんもシンジ君たちと一緒にやってたっ
て聞いたし〜」
 うららはそう言って、カウンターの中でパフェの準備をしているレイを見た。
「お前、そんな事急に言ったって、いろいろ手続きしなくちゃいけないだろう
が! それに大体、学園祭へのイベント参加申込の締め切りは今日……」
 そこまで言ってアヤは何かを勘づいたのか、パッとうららの顔を見た。する
と、うららは勝ち誇ったようににこにことしている。
「……って、お前まさか……」
「もっちろ〜ん、しっかり登録してきちゃったもんね〜っ」
「お前、また勝手に……」
 アヤは呆れて物も言えないというように天を仰いだ。
「でねでね、ミオちゃんとレイちゃんにお願いがあって……」
 うららは向かいでアップルティーに口をつけていたミオの顔を覗き込んだ。
「な、なんでしょうか?」
 こわごわとミオが尋ねた隣で、アヤが察したかのように冷めた口調で言った。
「どうせまた、『手伝ってくれ』って言うんだろ? ……って、事はオレに頼
みがないって事は、オレはやらなくてもいいって事だな」
 それを聞いたうららはにっこりと笑ってこう言った。
「まった〜、アヤちゃんは私のお願いを断われる人じゃないって分かってるも
んっ。だからあえて、入れなかったの」
 そこまで言われてしまうともう何も言い返せないアヤであった。
「ギターかベースやってくれないかな〜。大丈夫、下手でもいいから」
「えっ? ギター……ですか?」
 ミオはちらりとトウジの方を見た。ギターと聞いて、彼の事を真っ先に思い
出したからだった。
「お前ね〜、あと2週間しかないんだぞ。それに大体、誰に教わるんだよ……」
 そう言い掛けて、アヤはうららの視線の先にトウジの姿があるのに気付いた。
「……そういう事か……」
 アヤはフフッと微笑むと、隣で戸惑っているミオを見た。
「やってみないか、ミオ。結構楽しいかもしれないぞ。なあ?」
 同意を求められたシンジはこくりとうなずくと、少し考えてから言った。
「良かったら僕たちと一緒に練習しようか? 一応、バンドの先輩だし……。
ねえ、トウジ?」
「あ、あぁ……大歓迎や。教えるのも嫌いやないしな……」
 そう言ったトウジの顔を見て、ミオはまた恥ずかしそうにうつむいてしまっ
た。それを見て、大盛りパフェを持ってきたレイとアヤが顔を見合わせて微笑
む。
「どうする、ミオ? やってみるか?」
 アヤがやさしく尋ねると、ミオはこくりと小さくうなずいた。
「じゃ、ギターはミオで決まりだな。レイはどうする? せっかくだから、碇
君にベースでも教えてもらうかい?」
 アヤが悪戯っぽい口調でそう言うと、レイは一瞬頬を赤く染めてからちらり
とシンジの方を見て、ゆっくりと縦に首を振った。
「……そうね……せっかくだから……。お願いできるかしら、碇くん?」
「あ、う、うん……」
 シンジの顔が真っ赤になっているのを見て、アヤは思わず微笑んでしまった。
「またしばらく忙しくなりそうだな」
「そうですね」
 アヤの言葉にシンジが少し嬉しそうに答えた。彼自身、お祭り騒ぎは嫌いで
ないせいかもしれない。
「ほな、最初の練習は明日の夜っちゅう事でどないや?」
「え、さっそく明日からやるのか?」
 アヤが少し意外そうに言ったので、トウジは真面目な顔でレイたちを見回し
て言った。
「あったり前やないか〜。ワシらはともかく、そっちは2週間しかないんやろ
? 善は急げっちゅうしな?」
「……トウジ……それはちょっと例えが違うと思うんだけど……」
「そうか? そやそや、楽器の心配はせんでええで、ワシらの貸してやるさか
いに」
「サンキュ、助かるよ」
 そんな会話を繰り返した後、やけに静かだと思ったのか、アヤがうららの方
に目をやってみると、うららはジャンボパフェを前に、口の回りをクリームだ
らけにしていた。
「……うらら……お前……」
 信じられない、といった様にアヤが言うと、うららはスプーンをしっかりと
握り締めたまま
「んっ? なに?」
 と、みんなの顔をきょろきょろと見回した。
「ほんと、うららが静かなのは食ってる時と寝てる時だけだな」
 アヤがしみじみと感慨深げに言ったので、みんなどっと噴き出してしまった。
「アヤちゃん、ひっど〜い」
 ただひとり、うららだけがジト〜っとアヤをにらんでいるのだが、その表情
がまたなんともかわいらしい。
『みんな楽しそう……』
 思い思いに言葉を交すみんなの顔を順に見回しながら、レイは思った。そん
な拍子にふとシンジと視線が合ってしまってレイは驚いたが、シンジも少しび
っくりしたようだった。
 レイはその紅い瞳で、知り合って4年が経とうとしている少年の瞳を見つめ
返すと、これまでの想いを込めて、そしてこれからの想いを込めて、やさしく
そしてやわらかに微笑みかけた……。当然、シンジも想いの全てを込めて、や
さしく微笑みかける……。
 そんななんでもない、平穏で素敵な日々……。
 こんな毎日を過ごすためにあんな激しい戦いに明け暮れていたんだと、お互
いの胸の中は同じような想いだったのだろう。
 いつの間にか店の入り口の扉の外には『本日貸切』のプレート。
 恥ずかしがり屋のマスターと優美が気をきかせて出してくれたらしい……。
 この日、『ろまねすく』には陽が落ちて暗くなるまで、賑やかな声が響いて
いたという……。

○SCENE1
 その翌日の日曜日の事である。
 第3新東京市の中心部にあるレイの通う女子短期大学とトウジの通っている
体育大学が有名な街にたった一軒しかない貸しスタジオの前の路上に、それぞ
れの私服に身を包んだシンジ、トウジ、レイ、ミオ、アヤの姿があった。
「あのバカ……また遅刻しやがって……」
 洗いざらしのスリムジーンズにレモンイエローのパーカーというラフな格好
のアヤが半ば呆れたような口調で少し不機嫌そうに言ったのを聞いて、彼女に
しては珍しい真っ白のパンツに薄手のホワイトのセーターを着こんだミオがい
つものしっとりとした調子で言った。
「まあまあ、アヤさん。うららさんの事ですから、あと5分もすればきっと来
ますよ、ねえ綾波さん?」
「ええ……」
 いつも通り言葉少なではあるけれど、4年前と明らかに違うような気がした
のは、言葉とほぼ同時に見せたそのやわらかな微笑みのせいだろうか。
 そんな春の木もれ日のようなふたりの雰囲気のせいかもしれない……アヤは
落ち着いたようにスッと息を吐くと、仕方ないかとでもいったように笑みを浮
かべた。
「ところでそっちも一人来てないようだけど、何かあったのか?」
 アヤはふたりでひそひそ話をしているシンジとトウジの方を見て言った。
「んっ? い、いや……実はな……来れんなってしもたんや」
「は?」
「仕事の方が忙しらしくて、断られてしもたわ……」
 そう言ってトウジは乾いた笑いを見せた。
「『断られてしもたわ』って……じゃあ、私のドラムの練習はどうなるんだよ
っ!」
 アヤが今にもトウジに飛びかからんとした瞬間、彼女の背後から地球をひっ
くり返したようなハイトーンの声が聞こえる。
「ま、そんなのどうだってなるんじゃない? ほら早く行こっ。スタジオ代っ
てバカにならないんでしょ」
 バッとアヤが振り返ると、上から下まで真っ黒の衣装でキメたうららがニコ
〜っと笑みを浮かべながら立っていた。どうやら彼女はなんでも形から入るタ
イプらしい。 
「うららっ! お前また遅れてきやがって……!」
 突進してきたアヤをひょいと軽いステップでかわすと、うららはスタジオへ
向かう階段を登り始めた。
「そんな事気にしなくてもいいわよ〜。ほら、早く練習しよ」
 階段の真ん中あたりで無邪気に微笑むうらら。そんな彼女を見るとアヤはい
つも本気で怒る気が失せてしまうのだった。
「お前はいつもいつも……。……ったく! ほら、行くぞ! ミオっ!」
 怒る気が失せたとはいっても少し残っていたやり場のない怒りを、声を出す
事で発散させるかのようにいつも以上に大きな声でミオに言うと、アヤは彼女
の手を引いて階段を登っていってしまった。
「いつもあんな調子なの?」
 彼女らのペースにすっかり飲まれてしまったらしいシンジが微笑みながらア
ヤ達の背中を見送っていたレイに尋ねると、彼女はシンジの方を向いてこくり
と縦に頷いた。
「そうね……いつもと全く同じ……」
 レイはやさしい口調でそう言うともう一度階段の方を見て、やわらかに微笑
んだ。
「ほな、わしらも行きますか。ドラムのセンセの件はなんとかなるやろ」
「そうだね」
 シンジの返事にトウジは満足したように一度頷くと階段を登っていったけれ
ども、シンジはじっと隣のレイの横顔に見とれていた。
‥ 綺麗になったよな……綾波 ‥
 いつも隣にいる同じ大学に通う栗色の髪の彼女もさいきんめっきり綺麗にな
ったと思っているシンジだったが、レイはたまにしか見る機会がないせいだろ
うか、余計にそう思えた。
「碇くん、どうかしたの?」
 その声に我に返って、シンジが声の方を見ると、階段を3段ほど登ったあた
りの所で、レイが不思議そうな、心配そうな顔でじっとシンジの方を見ていた。
「えっ? いや、なんでもないよ」
 そう答えたシンジの笑顔で安心したのだろう、レイはふっとやわらかな笑み
を浮かべるとその真紅の瞳でシンジを見つめながら言った。
「早く行かないと、また鈴原くんに怒られるわよ」
 少し悪戯っぽい、それでいてあたたかみに満ちた言葉。
 こんなレイを、シンジはずっと待っていたのかもしれない。
「そうだね、急がなきゃ」
 シンジはそう言うと、照れくさくなった胸のうちを隠すかのように、一段飛
ばしで階段を駆け上がっていった。
 そんな少年の後ろ姿を、レイはじっと見つめていたが、やがてニッコリと微
笑みを浮かべると、ゆっくりと足の感触を確かめるかのように階段を登ってい
った……。
 シンジが受け付けでナイスミドルといった風の店主に挨拶をして、スタジオ
の方へ向かうと、そのスタジオの扉の前で先に行ったはずのトウジやアヤ達が
扉の窓から中を覗いている姿が目に入った。
「どうしたの? トウジ」
「シーッ。まだ前の人らが練習しとるんや。ちょっと静かにしいやシンジ」
「な、なんだよ……」
 少しムカッとしたシンジだったが、少し静かすぎるアヤやミオやうららの様
子を不思議に思って彼女らの顔を交互に見回すと、彼女達も中の様子にじっと
見入っていた……というよりは何かに聞き入っているようだった。
「んっ? この声……」
 ようやくその聞き覚えのある女性ボーカルに耳を止めたシンジは、一緒に上
がってきたレイの方を見た。すると彼女もその声の主に心当たりがあったよう
で、じっとその歌声に聞き入った。
「……いつ聴いても、綺麗な歌声ね……」
 レイが独り言のように言ったのを聞いて、シンジはようやくどうしてこの声
に聞き覚えがあるのか分かった。
 やがて、派手なギターソロが終わり、それを見計らってトウジがそのスタジ
オの中に入ってゆくとさっそく彼らに声をかけられた。
「よう、トウジ君じゃないか。君らもここに練習に来たのかい? そういえば
また学園祭でバンドをやるって葛城さんに聞いたけど、相変わらず君も好きだ
ねえ」
 さっきまで派手なギターを聴かせていた彼は、愛用のストラトの弦を緩めな
がら少しからかうような口調で言った。
「青葉さんも人の事言えんやないですか」
「まあね。ところでどうしたんだい? 結構外にギャラリーがいたようだった
けど、まさかファンクラブでも出来たとか」
「そんなんやないですわ。実は綾波らも学園祭でバンドやるらしいんやけど、
自信ないっちゅうんで、その練習をしに来たんですわ。ほら、みんな入ってき
いや」
 トウジに言われて、シンジを先頭にぞろぞろとみんなが入ってくる。
「あら? 知った顔ばかりね。みんなでバンドやるんだ?」
 スポーツタオルで額からあふれ出る汗を拭いながら、マヤがレイに聞いた。
どうやらさっきの歌声はマヤのものだったらしい。
「はい……。伊吹さんたちはどうして?」
 マヤの後ろでベースの弦を張り替えていた日向と目が合ってしまったので軽
く会釈をしてからレイが尋ねると、とマヤはいつもの笑顔を見せて答えた。
「今度ネルフで感謝祭があるじゃない。そのイベントでやらされることになっ
ちゃってね、まあ私と青葉君以外はほとんど無理やりなんだけど、ね?」
 そう言ってマヤは背後でドラムセットを片付けていたジーンズに黒ランニン
グ姿の男の方を見た。リツコの元でマヤ達と一緒に仕事をしている大和である。
「無理やりってワケじゃないですけど、かなり久しぶりだったからあんまり自
信がなかったので……」
 そう言って大和が照れくさそうに笑うと、それまで静かに猫を被ったかのよ
うに黙って事を静観していたアヤが顔を背けた。頬は真っ赤に染まっている。
「ねえアヤちゃん、どうして顔が赤くなるの? どうして静かなの? ねえね
えどうして? どうしてぇ〜?」
 しらじらしく悪戯っぽい口調で聞いてくるうららに、アヤは顔をさらに赤く
すると、恥ずかしさを振り払うかのようにうららに飛びかかった。
「てめ〜っ! 言わせておけばいい気になりやがって!」
「きゃ〜っ! アヤちゃんが怒ったぁ〜。やっぱりアヤちゃんはこうでなくち
ゃっ」
 うららはひょいと身軽にアヤの手をかわすと、きゃいのきゃいのと言いなが
ら楽しそうにスタジオの外へ逃げていった。当然、アヤもその後を追う。
「……あらあら、あのふたりは相変わらず仲がいいわね。それにしても、大和
くんのドラム、なかなかのものだったわよ。ねえ、青葉くん?」
「んっ? あぁ……。日向との息もバッチリだし問題ないな。なあ?」
 日向の方を見て青葉が聞くと、慎重にベースをケースに片付けていた日向は
満足げな笑みを見せてそれに答えた。
「うん……やっぱりやって良かったかな。そういえば、ケンスケくんの姿が見
えないようだけど、どうかしたのかい?」
「えっ? んっ、ちょっと忙しいらしゅうてフラれてしもたんですわ」
「そっか……大変だな」
「ま、ええですわ。なんとかなりますさかいに」
 そう言ってわざと元気に笑って見せたトウジの顔を、大和がちらっと心配そ
うに見ている。
「それはそうと、彼女達に楽器を教えるんなら、俺達が教えてあげてもいいぜ。
鈴原君達も練習時間が惜しいだろう? なあ、日向?」
 青葉はレイやミオの顔を見てから、日向の方を向いて言った。
「別に構わないけど……」
「なっ、どうだい?」
 青葉はそう言ってレイの方を見たが、レイはとっさにうつむいてしまう。
「……で、でも……」
 レイはちらりとシンジの方を見た。シンジも少し戸惑ったような顔を見せて
いる。
 そんな中、日向の隣で帰る支度をしていたマヤは、少し表情の曇ったレイと
ミオの表情を見て彼女らの気持ちを察したのか、さっと立ち上がると青葉の側
に近寄って、ぽんっと彼の肩を叩いた。
「……さてと……そろそろ撤退しないと、シンジ君達の練習時間がなくなっち
ゃうわよ。ほら、食事に行くんでしょ」
「はいはい、分かってるよ。ほら、行くぞ、日向、大和っ!」
 マヤに押されるようにして渋々スタジオを後にする青葉。その後を苦笑いを
浮かべながらついて歩く日向。恥ずかしそうに少しうつむきがちにふたりを見
送るレイとミオの耳元に、マヤが擦れ違い際に囁いた。
「頑張ってね……。バンドの方はもちろんだけど、あっちの方もね」
 そう言ってちらりとトウジとシンジの方を見てから、マヤは悪戯っぽく笑っ
た。もちろん、レイとミオの顔は真っ赤っかで、顔を上げることなど出来るは
ずもない。
 そんな彼女らを見てくすっと微笑んだ大和は、スティックを鞄にしまうと、
スタジオを後にすべく立ち上がった。けれどふと何かを思いついて、楽器の用
意をしていたシンジ達のそばに近寄る。
「学園祭っていつなんだい?」
 シンジとは仕事仲間でもある大和は、その少年の顔を見ながらやさしい口調
で言った。シンジは少し緊張しながらそれに答える。
「来週ですけど……」
「そうか……。もし、良かったら手伝おうか。テクニックの方は保証しないけ
れど、時間も大丈夫だし」
 大和はシンジとトウジの顔を見比べながら、笑顔を浮かべて言った。ふたり
の顔がみるみるうちに明るくなる。
『本当ですか〜っ!?』
 見事にシンクロするトウジとシンジを見て、大和はくすっと笑う。
「あ、ああ……。でも、練習は出来れば夜にしてくれないかな? 昼間は仕事
があるからさ」
「それはもう。助かりますわ〜、大和はんっ!」
 がしっとトウジに手を掴まれて、大和は少し照れくさそうに笑った。
 その時スタジオの外からふたりの少女の声が聞こえてきた。
「きゃい〜ん、いったいよぉ〜アヤちゃ〜ん。なにも本気で殴らなくってもい
いじゃな〜い。ちょっとからかいたかっただけなんだから」
「うるさいっ!」
「あ〜ん、またゲンコでなぐったぁ〜っ」
 かなり機嫌が悪そうなアヤと、そのアヤに首根っこを引っ掴まれた今にも泣
き出しそうな表情のうららが追跡劇を終えて、戻ってきたのだった。
「おうおう、戻ってきた戻ってきた。天城っ、お前のドラムのセンセ、今決ま
ったさかいな、紹介するで」
「決まったって、また急だな。一体誰……」
 そう言ってトウジの方を見たアヤは、自分の方を見てくすくすと笑っている
大和を見て、呆然としてしまった。ミオとレイもアヤの反応を見て、くすくす
と楽しそうに笑っている。
「ああ〜っ、また赤くなったぁ〜」
 うららが懲りずにまたアヤをひやかす。けれどもアヤは何も言わず、うらら
を掴んでいた手を離すと顔を背けて言った。
「赤くなんかなってねえっての!」
 レイはその背中を見ながら、なんだかとても嬉しくなってしまった。

「遅っいわね〜。何やってるのかしら?」
 大和がいつまで待っても約束のファミリーレストランに来ないので心配した
マヤがスタジオに戻ってきたが、その答えは彼女が覗いたスタジオの中の風景
にあった。
 中を覗いたマヤが見たものは、頬を少し赤く染めたアヤが、大和の手ほどき
を受けながら、スティックをこわごわと握っている姿だった。
 そしてその傍らではトウジとシンジにそれぞれ楽器の持ち方から教えてもら
っているらしいレイとミオの姿。マヤはフフッと楽しそうに微笑むと、さっき
までとは違った弾むような足取りで階段を降りていった……。
「だから、これをこう叩いて、こいつをこうやって、そうそう、そうやってコ
ンビネーションを作ってゆくんだ。もちろん、リズムキープしながらね」
 一生懸命になるとつい無口になってしまうのがアヤの癖なのだが、大和もそ
れが分かったらしく、嫌な顔ひとつせずに彼女にドラムの基礎を叩き込んでい
った。そんなふたりをスタジオの床に座り込んでじーっと見ていたうららが少
しふてくされたように、頬を膨らませて言う。
「うららつまんな〜い。だって、だ〜れもうららに教えてくれないんだも〜ん」
 その声を聞いたアヤはようやくドラムの方から神経を逸らせて、うららの方
を見たが、隣にいる大和を気にしてか、少しやわらかなトーンで言った。
「仕方ないだろ……ボーカルのコツなんて誰もわかんね〜んだから」
 アヤがそう言ったとほぼ同時に、スタジオの厚い扉がゆっくりと開かれて、
その隙間から銀色のやわらかそうな髪を短く切りそろえた色白の少年が顔を出
した。 
「シンジ君と練習をしているって聞いてねえ、鈴原くん。ちょっと来てみたん
だけど、ちょっとお邪魔しても……」
 そこまで言って、その少年・渚カヲルの顔はさーっと青ざめた。
「きゃ〜っ! カヲル君だ〜っ! ひっさしぶり〜っ!」
 素早くうららがカヲルの方に駆け寄る。
「ど、どうして彼女がこんな所に……」
 青ざめながらそう尋ねた彼の疑問に答えることもなく、トウジが悪戯っぽく
笑ってうららに言った。
「そういや、渚は歌が得意やったよな〜。高校の時も音楽の授業だけは真面目
に出とったし」
「へえ〜、そうなんだ? だったら、カヲル君に教えてもらおっかな〜」
 かなりカヲルを気に入っている、とはいってもからかい半分というのもある
かもしれないが、うららは嬉しそうに笑った。
「ちょ、ちょっと待ちたまえ。ぼ、僕はそんな……」
「渚ぁ〜、冷たいこと言わんと、相手してやれや。いつも『歌はいいねえ……
』とかなんとか言うとったやないか」
 意地悪なトウジのその言葉を聞いて、レイの隣でコードをひとつひとつ丁寧
に教えていたシンジがくすっと笑った。カヲルの女性恐怖症は仲間内では既知
ぼ事実なのだ。
「それとこれとは……」
「じゃあねぇ、じゃあねぇ……隣のカラオケボックスで練習しよ。まだ、アヤ
ちゃん達が音を出せるまで時間がかかりそうだから」
 そう言ってうららがカヲルの手を引くと、カヲルの顔色は一層青くなった。
「ち、ちょっと……」
「じゃあねアヤちゃん。戻ってこなかったら先に帰ってていいよ」
 うららはそう言い残すとカヲルを連れて階段を降りて行った。
「あいつ、大丈夫なのか?」
 次第に遠ざかってゆくカヲルの悲鳴のような叫びのような声を聞きながら、
アヤが少し心配そうにトウジに尋ねた。
「心配せんでええ。恐怖症を治すええ機会や」
 とトウジはからからと元気に笑う。
 そんなトウジの隣で、学年一ないと噂されている握力で一生懸命ギターの弦
を抑えていたミオも、じっーっとうらめしそうにシンジの左手の指捌きを見つ
めていたレイも、そしてそのシンジもお互いに楽しそうに笑った……。

○SCENE2
 その頃、相田ケンスケは第3新東京市から西へ500キロほど離れた、第3
新東京市と並ぶ巨大都市にいた。学生生活をエンジョイしているレイ達とは違
って一足早くオトナの世界・写真の世界に飛び込んだ彼を今回待ち受けていた
のは、まずは子供モデルのお守であった。
 それもひとまず解放され、今は春のカタログに使う写真の撮影中だ。
「ったく、最近のガキは……。それにしてもトウジには悪い事したな……」
 師匠の奥田がシャッターを切る音を聞きながらケンスケはつぶやいた。まだ
写真らしい写真は取らせてはもらえないが、今までは知ることの出来なかった
細かなノウハウを奥田は少しずつケンスケに押しえてくれるようになった。
 子供モデルのお守だって、『モデルと接することが基本』という奥田の意図
に乗っ取ったものなのだ。
「ま、仕方ないか……。これも勉強の内と思えばどんな仕事だって……」
「じゃあ、私の荷物取ってきてくれるかしら?」
 突然後ろから声をかけられたケンスケがドキッとして振り返ると、日本人離
れした顔立ちに、長い髪を金髪に染めた女が薄く微笑みを浮かべて立っていた。
「わっ! いつの間にっ……!」
 かなり驚いたようにケンスケが言うと、彼女はふふふと楽しそうに微笑った。
「で、荷物ってどこにあるんですか?」
「部屋よ」
「控室ですか?」
「違うわ……」
 そう答えて、彼女は悪戯っぽく笑った。スタジオが一室しかないここには、
そこ以外には控室が一室しか用意されていない。ケンスケは首を傾げた。
「宿泊しているホテルの部屋よ。鍵はこれ……」
 『また始まった』とケンスケは思った。この彼女は日本屈指のモデルではあ
るがこうしてケンスケをからかって遊ぶ悪い癖があるのだ。ちなみにここから
ホテルまでは歩いて30分程の距離がある。
「……いいですよ、行きましょう。で、何を取ってくればいいんです?」
「ブラよ……。私のお気に入りのやつなの……。ちゃんとベッドの脇に置いて
あるから分かると思うわ」
 『じゃ、なんで忘れるんだよ』とまあ、そんな言葉は飲み込んでケンスケは
彼女の手から鍵を受け取ると踵を返して駆け出した。
「おわびに今度あなたの練習用のモデルになってあげるわ」
‥ ふん、またどうせあとでけなすくせに……。でも結構いい勉強になるんだ
よな ‥
 ふふっと楽しそうに笑って言った彼女の言葉を聞きながら、ケンスケはなぜ
か楽しくなっている自分に気付いた。
『ま、いつか見てろよ……』
 ステージを歩くとびきり極上の被写体にフラッシュを浴びせる瞬間をふと頭
に思い描いて、スタジオを元気に飛び出すケンスケ。
 その背中を金髪のモデルの彼女はたのもしげに見つめていた……。

○SCENE4
 5日後。トウジの通う体育大学の学園祭の前日のことである。ジャンボパフ
ェで有名な喫茶『ろまねすく』の店内には薄い桃色のワンピースにエプロン姿
の蒼銀の髪の少女と、その向かいのカウンターの席に並べて腰を下ろしたふた
りの少女の姿があった。そのふたりのうちのひとりは栗色の髪によく映える黄
色のワンピースをさっと着こなし、もうひとりは彼女らしい、おとなしめの白
のシャツにブラウンのロングスカート、そして肩に薄いグリーンのカーディガ
ンを羽織っていた。
 既に3杯目になってしまったアップルティーのカップに口をつけながら、栗
色の髪の少女が言う。
「ほんっと最近あのバカ、何やってるのかしらね。私に隠れてこそこそと」
 そんな彼女の台詞に、黒い髪の少女はくすっと微笑んでダージリンのカップ
を静かにソーサーに置いた。
「またその話……? いいじゃない、碇くんがアスカに隠れて何をしようと、
アスカには関係のない話でしょ」
 悪戯っぽい口調でわざとそう言って、黒髪の少女・洞木ヒカリは微笑った。
「そ、それはそうなんだけどさ……とにかくシャクにさわるのよねっ。隠れて
こそこそされるのって!」
 カウンターの中で彼女らの話を聞きながら背を向ける格好で洗い物をしてい
たレイはその手を止めてくすっと微笑った。『ほんと、嘘のつけないコね……
』とかなんとか思っているのだろうか。
「レイっ! アンタ何か知らない?」
 突然アスカに言われて、レイは驚いてしまった。一緒に練習している事はシ
ンジとトウジに口止めされているため、思わず戸惑ってしまう。
「……知らないわ……」
 一生懸命に微笑みを浮かべてからゆっくりとした動作で振り返って答える。
「そう……。ま、いいわ……。今度あいつらがこの店にきたら、それとなく探
っておいてね。約束よ」
 最近のアスカはレイに対して非常に屈託なく言葉を投げかけてくる。当然、
レイはそれがありがたかったし、とてつもなく嬉しかった。
「え、ええ……分かったわ……」
 心の中でアスカに向かって両手を併せて謝りながら、レイは微笑みを浮かべ
て言った。それを見たアスカは満足そうにうなずくと、カップのアップルティ
ーに口をつけた。
「ところでさ、レイは明日の鈴原の学園祭には行くの?」
「……え、ええ……学校の友達と一緒に行くわ。紅茶のおかわりは?」
 陶器製の真っ白なティーポットを掲げてレイが聞くと、アスカはカップを差
し出した。
「もちろんもらうわ。……うん、ほんとここのアップルティーはおいしいわね。
……そうそう、で、話の続きなんだけど、またあいつら懲りずにバンドをやる
らしいのよ。そのブザマな姿見逃したらマズいと思って声掛けてみたんだけど、
知ってた?」
 レイは微笑んでこくりとうなずくと、背を向けて再び洗い物の続きを始めた。
「うららちゃんからでしょ。彼女、耳が早そうだから」
 レイとアスカの横顔をじっと見ていたヒカリが言うと、アスカは納得したよ
うに笑った。
「あっそうか。レイにはあのコがいたのよね。すっかり忘れてたわ」
「そうそう、アスカが気を利かせてわざわざ教えてあげなくっても大丈夫って
コトよ」
「えっ……?!」
 レイが少し驚いたように振り返ると、アスカは顔を真っ赤にしてヒカリの方
を見た。
「だ、だ、誰もレイなんかに気なんて利かせてないわよっ! 何言ってんのよ
っ! ヒカリっ!」
「あ、そう……? でも、わざわざここに来ようって言ったのも、確かアスカ
じゃなかったかしら。それもひとりじゃ照れくさいから、私を道連れにしてさ
……」
「……ヒカリっ……! ……それ以上言ったら友達の縁切るわよ……」
「分かったわよ。やめるわよ。だからそのこわ〜い顔なんとかしなさい」
 噴き出しそうになるのをやっとの思いでこらえながらヒカリが言うと、よう
やくアスカも落ち着いたのか、椅子にしっかり座り直して、アップルティーを
一口飲んだ。と、カップから顔を上げたと同時に、じっとこっちを見ていたレ
イと目が合ってしまい、思わず赤面してしまう。
「な、何よ……何か用っ?」
 照れかくしに強がった調子でアスカが言うと、レイはふっとあたたかな微笑
みを見せて、やわらかな口調でこう言った。
「ありがとう、アスカ……」
 と。途端にアスカの顔はまた真っ赤になってしまい、その隣のヒカリはくす
くすと楽しそうに笑い始める。
「こ、こらっ! ヒカリっ! 笑うんじゃないわよっ! 笑うなってば!」
 それでもヒカリはくすくすと笑い続けている。
 レイはそんなふたりのやりとりを目のあたりにしながら、満ち足りた笑みを
顔一面に浮かべると、ゆっくりと背を向けて洗い物の続きを始めた。
 4年来の友人たちが楽しそうにはしゃぐ声を聞きながら……。

○SCENE5
 その日の夜。レイ達が青葉たちと偶然出会ったあの貸しスタジオで、シンジ
達の最終練習と、レイらの特訓が行われていた。
 スタジオの中にはスタンドマイクを前に愛用のレスポールの弦を弾くトウジ
の姿と、その右斜め後方で静かに堅実にビートを刻んでゆくシンジの姿がある。
 曲はやがてクライマックスを終え、ドラムの大和がダンッと景気よくバスド
ラムを力任せに叩いたのをきっかけにスタジオには静寂が舞い戻った。
 一瞬の間をおいて、それまでヘヴィなメロディーに制覇されていたスタジオ
をパチパチというかわいらしい拍手が包みこむ。その拍手は部屋の隅の壁にも
たれて演奏を聴いていたレイ、ミオ、アヤのものであった。
「おっしゃ、わしらの練習はこれでしまいや。なかなかの出来やろ」
 満足そうな笑みを見せながら、トウジがギターのストラップを肩から外して
言った。そのトウジの言葉に答える代わりに、大和は少し肩で息をする仕草を
見せながら満足そうな笑顔を見せている。
「ま、少しベースに不安が残るけどな」
 レイの方を見てお互いに微笑みあっているシンジを見て、トウジが悪戯っぽ
い口調で言った。
「そりゃないだろ、トウジっ!」
「冗談やがな、ジョーダン。本気にすなや、シンジ」
 そんなふたりのやりとりにレイとミオは顔を見合わせて笑ったが、ふと隣を
見るとアヤがいない。くるりとレイが彼女を探して辺りを見回すと、アヤがス
ティックを持って大和の側に駆けてゆくのが見えた。
 今一番練習に真面目に取り組んでいるのはレイでもミオでもなく、彼女なの
だ。『一度やり始めたらとことん……』という性格のせいか、それとも別の理
由があるせいなのかはレイには分からなかったけれど、アヤの熱心さは群を抜
いていた。そんなアヤの意外な一面を見て、レイは改めて惚れ直したものだ。
「そういや、あのやかましい女はどこ行ったんかいな?」
 そのアヤに向かって、ギターの片付けをしていたトウジが聞いた。
「学校の木に住みついてる男を呼びに行くってさ。今頃、どこかのカラオケボ
ックスに連れ込んでるんじゃないのか」
 少し呆れたようにアヤが言ったのを聞いて、シンジが驚いたように反応する。
「『学校の木』って、僕達の高校の? カヲル君、まだあそこに住んでるの?」
「そやで……。なんやシンジ、お前知らんかったんかいな。お前もいっぺんく
らい遊びに行ったれや。あんがい、友達がいのないやっちゃな」
「そ、そんな事言ったって……」
 困った様子のシンジを見て、トウジは楽しそうにからからと笑った。
「ほな、練習に入ろか」
 トウジがパッとこっちを見たのでミオは恥ずかしそうに顔を赤くしてうつ
むいてしまった。そんなミオの背中を見て、レイは悪戯ゴコロを芽生えさせた
のか、ちょんとその小さな背中を後押しした。
「キャッ……」
 かわいらしい声を出して一歩前に飛び出す体勢になってしまったミオは覚悟
を決めたのか、うつむきがちにトウジの方に近づくと、彼に貸してもらったワ
インレッドのストラトを取りあげて、ストラップを肩に掛けた。
「おっ、やる気充分やな」
 トウジがからかい気味に言ったので、ミオは照れくさそうに顔を背ける。そ
の姿が段々様になってきているので、レイも少し驚いているらしい。
「あっ……?!」
 遠くからシンジが手招きしているのを見つけたレイは、すっと微笑みを浮か
べてこくりと縦に頷くと、ゆっくりと歩き出した。
 その少年に借りたベースギターを大事そうに両手に抱えたまま……。

 その日の夜。レイはいつものように、帰る方向が同じアヤと大和と一緒に電
車に乗っていた。混雑しているわけではないのだが、3人はいつも同じ車両の
真ん中のドアの前で立つようになっていた。
「……そうですね」
 大和と話をしていたレイは楽しそうに微笑うと、ちらりと横を見た。アヤが
いつもと同じようにレイと大和に背を向けるようにして、窓の外を眺めている。
 それが彼女流の照れ隠しなのだと気付いたのはつい3日前の事だった。そん
なアヤを、レイはとってもかわいいと思っている。
「そういえば、綾波さんはライブに誰か招待してるの?」
 突然大和が尋ねてきたので、レイは少し驚いて彼の方を見た。
「は、はい……赤木博士を……」
 普段マンション以外で話すときにはレイはいつもリツコの事をこう呼ぶ。こ
れもまた、彼女流の照れ隠しなのだろうか。
「……い、いや、そういう誰かじゃなくってさ……」
 真面目に答えたはずなのに、大和はおかしそうにくすくすと笑っている。
「えっ……? じゃ、どういう事なんですか?」
 少し不機嫌そうにレイが聞くと、大和は申し訳なさそうに右手で謝る仕草を
見せて、
「ごめんごめん……。いや、誰か男の子を誘ってるのかな、って思って聞いた
んだ。ほら、男が楽器を始めるワケもやっぱり女の子にモテたいから、格好い
いとこ見せたいからってのがあるじゃないか。だから、女の子はどうかな、っ
て思ってさ……」
 と言うと、照れくさそうにぽりぽりと頬を掻いた。それを見てレイはくすっ
と微笑むと
「……そうですね……見て欲しい人はいます……」
 と小さな声で言った。
 おそらく彼女の脳裏にはあの少年の顔が浮かんでいるのだろう。
「そっか……やっぱりやるからには誰かに見てもらわないとね」
 大和は微笑んでレイの顔を見た。レイが照れくさそうに顔を逸らすと、視界
にパッと耳をそばだてているアヤの姿が目に入ってきた。それを見て、レイは
ふと何か思いついたのか、一度楽しげな、というよりは少し意地悪な微笑みを
見せると、大和の方を見て彼に聞いた。
「大和さんはそういう人いるんですか……?」
「えっ?! ぼ、僕?」
 突然の質問に驚いて、大和がレイを見ると、彼女はこくりと頷いた。
「……そうだな……今はいないな……」
 背を向けているアヤの肩がぴくんと震えたのがレイにも分かった。
「まあ、そもそも僕がバンドを始めた理由も女の子にモテたいからだったんだ
けどね……」
 大和が少し苦笑いを浮かべて恥ずかしそうに言ったのとほぼ同時に電車は減
速を始めて、大和が降りる駅に滑り込んだ。
 この駅ではレイ達が立っている側とは反対側の扉が開く。それはレイ達も知
っていたし、知っているからアヤもこうして窓側を向いているのだった。
「それじゃ、おやすみ」
 大和が足元に置いていたバッグを取り上げて、レイ達に右手を軽く上げて言
った。
「おやすみなさい……」
 レイはかわいらしい声で言ったが、アヤは真っ暗な窓の外を見つめたまま、
振り向きもしない。いつものことだったが、レイは思わず心配してしまう。
 そんなレイの心の内を察したのか、今日の大和はすっとアヤのそばに近づく
と、彼女の肩をポンッと叩いて微笑った。
「じゃ、また明日な……」
 瞬間、アヤの肩がぴくんと震える。
「扉閉まりますよ!」
 機械音声のアナウンスを聞いて、レイが急かすように大和に言う。
「それじゃっ!」
 大和は閉まりかけた扉から間一髪飛び出すと、走り出した電車の中のレイに
向かって手を振った。レイも小さく手を上げて、微笑みながらそれに答える。
 駅から電車が離れてから、レイは相変わらず固まったままのアヤの顔を覗き
こんだ。
「うわ〜っ!」
 アヤはかなりびっくりしたリアクションで、レイを見た。
「な、何すんだよっ! レイっ!」
「んっ……? アヤさん、ずっと静かだから大丈夫かなって思って……」
 微笑みながらレイが言うと、アヤは少しバツが悪そうに
「心配しなくてもオレは生きてるよ……」
 と顔を逸らしながら答えた。
「……それにしても……」
 そう言ってレイはくすっと含み笑いをする。
「な、な、なんだよ……気持ち悪いな……。はっきり言えよ……!」
「アヤさんって、かわいい……」
「な、な、な、何言ってやがんでいっ! オ、オレはだな……全然嬉しくもな
んともねえんだからなっ! 何笑ってるんだよ、レイっ! 本当だぞ! 本当
に嬉しくもなんともねえんだからなっ……!」
 嘘をつけないというのは彼女のような人間の事を言うのだろう。
 電車がふたりの降りる駅に到着するまでの間、くすくすと楽しそうに微笑む
蒼銀の髪の少女の傍らで、顔を真っ赤にしたショートカットの少女が必死に弁
明する姿が見られた。
 今宵の月は今日も丸くぽっかりと、第三新東京市の空に浮かんでいる……。

○SCENE6
「……ただいま……」
「あら、おかえりなさい……今日は少し遅かったのね」
 レイが自宅のマンションに帰ってくると、やわらかな女性の声とおいしそう
なクリームシチューの香りが彼女をやさしく迎えてくれた。
「練習が少し長引いて……」
 キッチンに立つ金髪の彼女の背を見ながら、レイは来ていたオフホワイトの
コートを脱いだ。
「あと一週間だったかしら……楽しみにしてるわね」
 シチューの味見をしてから振り返ったリツコは、ニコッと笑った。ここ最近
リツコの帰りは早い。遅くても9時にはマンションに帰ってくる。普段、8時
まで『ろまねすく』のアルバイトをしているレイよりも早く帰ってくる事が多
かった。それもリツコのレイに対する気遣いだろうか。
「さあ、荷物とコートを置いて着替えてらっしゃい。すぐに出来るから」
 微笑みながら自分を見つめる彼女にこくりとうなづいて応えてから、レイは
自分の部屋へと向かった。

 1時間後。赤木家のリビングのソファーに、向かい合わせに座ってティータ
イムを楽しんでいるレイとリツコの姿があった。ふたりが揃って早く帰ってき
た日はこうするのが日課になっていた。
「……そう……」
 電車で帰る際の一部始終を話し終えた後、リツコは嬉しそうに微笑んでみせ
たが、その垣間に一瞬寂しげな表情を見せた。
 そんなリツコの横顔を見て、レイは幾度となく彼女が見せた大和を見る時の
熱いまなざしを思い出した。そして、自分がいけない事を言ってしまったとい
う気分に陥ったのか、急に黙りこんでしまう。
「どうしたの……レイ……?」
 リツコが心配そうに彼女の顔を覗き込む。けれどもレイは表情を曇らせたま
まうつむいたきりだった。
「……まさかとは思うけれど……」
 彼女のただならぬ表情にリツコもそれとなく察したのか、立ち上がってレイ
の隣に腰を下ろすと、うつむいたたままのレイの肩をそっと抱いた。
「……私と大和君の事……心配してるの……?」
 その質問にはレイは答えてはくれなかったけれど、びくんと震えた肩で、そ
の答えはリツコにも知ることが出来た。
「……レイも随分鋭くなったわね……。大人っぽくなった証拠かしら……」
 リツコはそう言うとくすっと嬉しそうに笑ってレイの肩からそっと手を離す
と、カップのコーヒーに口をつけた。ようやく顔を上げたレイが、その仕草を
じっと見ている。
「ま、気にしていないと言えば嘘になるけれど、レイが気にする必要はないわ
よ……」
 そう言ってリツコはレイの顔を見た。
「あら、何か不満そうな顔ね……かわいい」
 リツコはポッと照れくさそうに頬を染めて顔を背けたレイを見ると、フフッ
と微笑った。
「あなたには関係ないって言っているワケじゃないのよ……。私の事なんて気
にしないで、一生懸命天城さんを応援してあげなさいって事。……今の天城さ
んを見ていると、レイはとっても幸せなんでしょ?」
 やわらかに、そしてあたたかな笑みを浮かべてそう尋ねてきたリツコに、レ
イはこくりと縦にうなづいて答えた。
「なら、そうすべきよ。私もその方が嬉しいわ……。だって、今の私の幸せは
あなたが幸せだな、って思ってくれることだもの……」
 カーテンを開け放した窓の外の夜景に目をやりながら、リツコは言った。
 以前とは違った守るべき者を持った者だけが持つ、たくましさとやさしさが
その瞳には見て取れる。
 その言葉には少し反論もあったけれど、レイはあえて何も言わず、彼女と同
じように窓の外に目をやった。
 南の空には、もう冬の星座がはっきりと認識出来るようになっている。
「だから、何も心配しなくていいのよ……」
 リツコはもう一度レイの肩を抱いた。
 その手のあたたかなぬくもりを首筋に感じながら、レイは思う。
『この人にもいつか自分だけの幸せを掴んでもらいたい……』
 と。
 お互いがお互いを想っているからこそ創りだせる、あたたかでおだやかな空
間。このふたりがこのままの想いを抱き続ける限り、次第に寒さが厳しくなっ
ているこの第3新東京市のこの部屋にも、そんなあたたかな時間がいつまでも
流れ続けることだろう……。

○SCENE7
 その翌日。レイはアヤとミオと一緒にトウジの体育大学の構内にいた。体育
大の独特のノリにすっかり圧倒されてしまっているレイとミオを、アヤがぐい
ぐいと引っぱっている。アヤがやけに生き生きしているように見えるのは、彼
女もまた体育系だからかもしれない。
「ほらほら、すぐに立ち止まってるとどこかに連れていかれちまうぞ」
「えっ!? 待ってくださ〜い。アヤさ〜ん」
 声を上げてぎゅーっとアヤのパーカーの袖を握り締めるミオと、そのミオの
ワンピースの腰あたりを同じようにぎゅっと握り締めたレイ。そんなふたりを
見ていると、当初は体育大の学園祭なんて興味がないと言っていたアヤもなん
となく楽しくなってしまう。
「……ちょ、ちょっと待て! うららの奴はどこへ行ったんだ? まさか迷子
にでもなったか?!」
「うららさんなら、『あっちが楽しそうっ!』って、さっき行ってしまいまし
たけど……」
 申し訳なさそうにレイが言うと、アヤは呆れたように天を仰いだ。
「またあのバカ、別行動とりやがったな……。あれだけ離れんなって言ってお
いたのにあいつは……!」
 わなわなと拳を震わせるアヤを見ながらミオがくすっと笑う。
「それにしてもさっきのアヤさんの顔……くすっ……やっぱりアヤさんって、
うららさんが心配なんですね」
「あのなぁ、俺はただ……。ああっ、もうやめやめ。ほら、ウダウダとつまん
ねえ事ばっか言ってると、講堂に連れて行かねえぜ」
『ちょっと待ってくださ〜い。アヤさ〜んっ!』
 すたすたと行ってしまうアヤを、レイとミオは一緒に追いかける。
 そのアヤの顔は、とても満足そうで、楽しそうな笑顔だった……。

 アヤ達が講堂に着くと、既にコンサートは始まっていて、一つ目のバンドの
アンコールが終わった所であった。入り口のプログラムで見たところによると
トウジ達の出番は次の2番目のようだった。
「良かった……開演予定時間を過ぎているからどうかと思いましたけれど、間
に合ったみたいですね」
「間に合ったのはいいけどさ、最悪だぜ、あれ……。多分、遅れている原因は
あれだな」
 アヤがすっと指を指した先にレイとミオが目をやると、ステージの前の方で、
さっきまで演奏していたバンドの親衛隊らしい女の子の集団がきゃーのきゃー
のとステージに向かって叫んでいる姿があった。
 こんな状況で演奏しなくてはならないほど、辛いものはない。現に舞台袖で
はシンジが困ったような顔でその様子を見ていた。
「どうしよう、こんなんじゃ演奏できないよ。どうしよう、トウジ」
「やかまし。ワシも今、どないしようか考えとるとこや」
 トウジが腕を組んでう〜んと考えこんでいる隣で、大和もさすがに困ったよ
うな顔で客席の惨状を見つめている。そんな3人の脇に、台本を抱えた実行委
員らしい男が申し訳なさそうな顔で近づいた。
『すみません。時間がおしてるんで、出てもらえますか』
 他のバンドのコールが上がっているのに出て行くというのは、まざまざ罵声
を浴びせられに行くようなものだ。当然、他の客も自然とシラけてしまうのは
分かっている。けれども、時間だけはどうしようもない。
「分かった。シンジ、大和はん、行きましょか。これ以上待っててもラチが開
かんさかいに。パワーで負かしてやりましょ」
 トウジがぐいっと右腕で力こぶを作って言うと、大和は笑ってその腕に自分
の腕を併せた。
「そうだね。行きますか! ほら、シンジ君。行くぞ」
 大和はそう言って右手の手のひらをシンジの方へ向けた。
「そうですね。行きましょう!」
 シンジはそう言うと足元に立てかけてあったベースを持って早足で大和の方
へ駆けよると、その手をパンッと拳で叩いた。その様子を見ていたトウジがた
のもしそうに微笑んだ瞬間の出来事である。客席で異変が起こった。
 ひとりの栗色の髪の少女が、黒髪の少女の制止を振り切って、ステージの上
に上がったのだった。
「アンタたちっ! いつまでもキャーキャーとうるさいのよっ! 自分達が応
援してないバンドの演奏のときぐらい静かにしたらどうなのっ! あんまりう
るさいとエヴァで踏むわよっ!」
 マイクを通してないのにかなりの音量で響いたその声にさっきまであんなに
大声を上げていた少女達も飲まれてしまったのか、客席には一気に静寂が訪れ
た。
「あれ、惣流だろ?」
 アヤがさすがに驚きを隠せない表情で尋ねると、レイも驚いた表情のまま、
こくりとうなずいた。
「ア、アスカ……」
 ステージの袖でその様子を見ていたシンジは呆然と立ち尽くしていたが、そ
の袖をトウジが引いた。
「ほらシンジ、今がチャンスや。行くで!」
「う、うんっ!」
 シンジとトウジがギターを持って、ステージの中央に駆け寄ると、ステージ
から降りようとしていたアスカがふたりを見てニヤリと笑った。
「大きな貸しが出来たわね。感謝しなさいよ」
 アスカはステージの縁に両手をつくと、スカートの裾を気にもしないで、ひ
ょいと軽快に飛び降りた。
「ただいま、ヒカリっ」
「もう、アスカってホントにワケわかんないんだから……」
 ステージの下で心配そうにずっと見守っていたヒカリは、あっけらかんとし
たアスカを見て、かなり呆れたように苦笑いを浮かべて言った。
「なかなか出来る事じゃねえよな……」
 ぽつりと言ったアヤの言葉に、レイはこくりとうなずく。
 そして、ライブは幕を開けた……。
 ハードでエッジの効いたギターを轟かせながら、マイクに向かって歌う、と
いうよりも叫んでいるといった風のトウジ。
 その隣で控えめながらもその存在感をじわっと醸しだしているシンジのベー
ス。
 そして、一番後方でどっしりと構え、幾分もリズムを崩すこともなく、機械
的に、けれどもワイルドで人間味に満ちた激しい音を打ち鳴らしていた大和の
ドラムワーク。
 どれもが客席を魅きつけるだけのパワーにあふれていて、ついさっきまで別
のバンドに歓声を上げていた少女達でさえも、いつしかその音の世界へ引きず
り込まれ、彼らに歓声を浴びせていた。
 その後方、ステージから10メートルほど離れた位置に仲良く並んで演奏に
耳を傾けているレイ、ミオ、アヤの3人がいる。けれども、それぞれの視線の
先は各々違うようであった……。

 その頃、講堂の青い屋根の上に、銀色の髪を少し長めに伸ばした少年が、悲
しげな表情を浮かべて立ちすくんでいた。
「……シンジくんの演奏を見に行きたいけど、行きたいけど……(号泣)」
 結局、昨夜うららにつかまってしまい、半分気を失ったままカラオケボック
ス巡りに付き合ってしまった渚カヲルである。
 シンジのライブ目当てで来てみたものの、途中でうらら達の姿を見かけてし
まい入るに入れなくなってしまったのだった。
『あっ! カヲルくん、見〜〜っけ!』
 背後から脳天気な少女の声。
 それを聞いたカヲルの表情はみるみるうちに強張った。
「……まさか……」
 こんな所にいるわけなないと思いながらくるりと振り返ると、彼の希望も空
しく、うららが無邪気な笑みを満面に浮かべて立っていた。
「見つけるの結構大変だったんだよ〜。でもね、電波っていうのかな? こう
ピピピッとひらめいて、この場所かもしれないって思ったの。大当りだったみ
たい」
 そう言ってうららはカヲルの方へ駆けよると、だんっと飛び跳ねて抱きつい
た。途端にカヲルは気を失ってしまう。
「……んっ? カヲルくんっ? カヲルくんってばっ!?」
 白目をむいてしまったカヲルをゆさゆさと揺するうららだが、起きる気配は
見られない。
「仕方ないなぁ……また今度にしよっと……」
 うららは残念そうにそうつぶやくと、カヲルをその場に置き去りにして、地
上へ降りる梯子をすたすたと降りてしまった。
 気を失ったままのカヲルの周りでは、数羽の小鳥達が心配そうに飛び回って
いた……。
 
「ふんっ、ミオだって鈴原の方ばっかり見てたくせにさ」
 いい加減ミオやレイに冷やかされて少しうんざりしていたアヤは悪戯っぽい
調子でミオに言った。途端に彼女の頬は真っ赤に染まる。
「アヤさん、それくらいにして……」
 そう言いかけたレイに向かって、アヤはニヤッと笑うと
「そういえばレイも碇の方ばっかり見てたっけなぁ」
 と言ってからからと笑った。
「もうっ、アヤさんなんか知らないっ!」
 純情なふたりの少女は同じ様な膨れっ面を浮かべて一斉にアヤに言った。そ
のあまりの同じ様な反応に、アヤはハハハッと陽気に笑う。
 ライブを見終えた3人は昨夜トウジに誘われた事もあって、みんなで楽屋へ
向かっている最中なのだった。
「これが楽しみで今日来たようなもんだもんな、ミオ」
 からかうような口調で言ったアヤの視線の先のミオの手には、少し大きめの
バスケット。今朝5時起きで制作した自信作のお弁当らしい。
「……っもう……」
 ミオは照れくさそうに頬を赤くしてうつむくと、手元のバスケットを見た。
 トウジの喜ぶ顔が見たくて一生懸命作った力作揃いである。
「あっ……!?」
 あとひとつ角を曲がれば楽屋に着くといった所で、先頭を歩いていたレイが
少し驚いたような声を上げた。
「どうしたんだ? レイ?」
 アヤが少し心配そうにレイの肩越しにその視線の先に目をやる。しかし、そ
のアヤもその目の前の光景に少し戸惑ったようだった。
「どうかしたんですか?」
 アヤとレイを追い越して行こうとしたミオをアヤは手で制止しようとしたけ
れどもそれも間に合わず、彼女はその光景を目にしてしまった。
 ミオが持ってきたものとほとんど同じバスケットをヒカリがかなり照れくさ
そうに手渡ししている姿……。そして、それを嬉しそうに受け取るトウジの姿。
 その傍らには少しつまらなさそうなアスカの姿もあった。
‥ あんな鈴原くんの嬉しそうな顔……私は一度も見たことがない…… ‥
 ミオはふたりの間に自分の入る隙間など微塵もない事に気付いてしまった。
薄々気付いてはいたのだが忘れようとしていたといった方が正しいかもしれな
い。とにかく、ミオの頭に焼き付いたのは、トウジの笑顔だけであった……。
「お、おいっ! ミオっ! ちょっと待てよっ!」
 いつの間にかミオは駆け出していた。もう、その場所には居合わせたくなか
った……。
 駆けだしてゆくミオの背中を見ながら、アヤはトウジ達がこっちに気が付い
たのを悟った。すぐに戸惑い気味のレイの肩を叩いて、強い口調で言う。
「ここはオレに任せて、ミオを頼む。レイならなんとかなると思うんだ」
 アヤがどういう根拠でそう言ったのかレイは聞いてみたかったけれど、そん
な事を聞く余裕などあるはずもなく、レイは急いでミオを追いかけた。

 人の波に逆らって走り続けたミオと彼女を追ったレイが辿り着いたのは、学
祭でにぎわっている界隈からは少し外れた中庭の芝生の上だった。
 ミオはゆっくりと呼吸を整えると、目の前の楠を見上げながら、ひとりごと
のように言った。
「やっぱり私じゃ駄目なのよね……。薄々それは分かってたわ。……だって、
私なんて、ただ真面目なだけしか取り柄がないし、アヤさんみたいに強くもな
いし、綾波さんみたいに賢くもないわ。それに、洞木さんみたいに料理が上手
でもないし……!」
 そう言ってミオは目の前の楠の幹にもたれかかるようにうなだれた。 
 レイは黙ったままその背中をじっと見つめていたが、やがてフッと薄く笑み
を浮かべると、静かな口調で
「私だって……悔しかった……」
 とぽつりとつぶやいた。その声にミオが驚いたようにレイの方を見る。
「あのコが舞台の上で叫んだ瞬間……このコにはかなわない、ってそう思った
わ……。でも、今の私じゃあの場はどうにもならないし、それに……」
 レイは言葉をつまらせると、何かを振り切るかのようにミオの顔を見た。
「私には私の良さがあるって思うの……」
 レイはリツコがいつも自分に言い聞かせてくれる言葉を思い出しながら、微
笑みを浮かべて言った。
『あなたにはあなたにしかない良さがあるわ。それが何かは私にも分からない
けれど、それを愛してくれる、そんなあなたが心から愛せる人を探しなさい』
 レイにはようやく少しずつそれが何なのか分かるようになっていた。
『とりあえず、私が微笑んでいればみんな幸せでいられる。どんな辛いときも
悲しいときも微笑んでいれば、きっといいことがある』
 それがレイなりに導いた答えだった。
「だから私は絶対に負けない……。……七瀬さんもそんなに自分の事を悪く言
わないで……。そんなに言われたら、あなたの事を好きな私まで悲しくなって
しまう……」
 そう言ってレイは寂しそうに笑った。
「綾波さん……」
 ミオは心配そうな表情を浮かべて、ゆっくりとレイに近寄る。
「だから……微笑って……」
 微笑んで顔を上げたレイを見て、ミオはようやくいつもの彼女を取り戻した
のか、おだやかな表情を見せて微笑った。
「……そうね……。……今度は彼女のいない人を探そうかな……」
 彼女にしては珍しく冗談めいた口調のその言葉を聞いてレイは微笑む。
「出来ることなら……もうさよならはしたくないから……」
「……そうね……」
 レイはしみじみと答えると、吹っ切れた感じのミオの顔を見て微笑んだ。
「綾波さんは頑張ってね……応援してるから」
 それを聞くと、レイは照れくさそうにうつむいてしまった。
「お〜い、レイっ、ミオっ!」
「きゃっほ〜っ! レイちゃ〜ん! ミオちゃ〜ん! 元気ぃ〜?」
 声の方を見ると、アヤがなぜかうららと一緒に駆けてくるところだった。
「もう大丈夫みたいだな」
 アヤがミオの顔を見て安心したように言うと、ミオは申し訳なさそうに頭を
下げた。
「ごめんなさい……心配かけて……」
「気にすんなって……。それよりこれ、みんなで一緒に食わないか?」
 アヤはそう言って、ミオが落としていったバスケットを差し出した。ミオは
一瞬考えたようだったが、すぐににこやかな笑顔を見せるとこくりと縦にうな
ずいた。
「やった〜、ミオちゃんの手料理だ〜っ! それにね〜、い〜っぱい食べ物も
らってきたから一緒に食べよ〜よ。ちなみに飲み物はアヤちゃんのオゴリだか
らご心配なく」
 うららは両手に抱えたスーパーの袋を目の前にかざすと、嬉しそうに笑って
言った。
「な、なんでオレが……!」
「あら? 例の人とうまくいっちゃったんでしょ? なんならここで再現して
見せよっか?」
「見せなくていいっ!」
「また赤くなっちゃって」
「赤くなんかなってないっつ〜の!」
 ふたりのやり取りを聞いていたレイとミオは顔を見合わせると、楽しそうに
微笑んだ。
 天高く澄み渡った空には一点の曇りもなく、少し傾きかけたおひさまが燦々
と輝いている。まるで彼女らの心をやさしく照らすかのように……。

○エピローグ
 翌日の月曜日の夜の事である。
 いつものようにバンドの練習から帰ってきて、夕食を済ませたレイは、リビ
ングとキッチンの間にある電話機の前でずっと右往左往していた。
 そんなレイを、リビングで眼鏡をかけて本を読んでいるリツコが不思議そう
に見ている。
‥ どうしようかしら…… ‥
 レイは電話の前ではたと考えこむ。
 誘おうと思ってはいても、いざとなるとその勇気が出ない。
『学園祭に来てくれる?』
 たったその一言でいいのに、その言葉を言える自信がなかった。
 レイはまた電話から離れると、ふらっとどこかへ行ってしまった。
 コーヒーのおかわりをしようとソファーから立ち上がったリツコは、ふと電
話機の横に置かれたレイの短大の学園祭のチケットに気が付いた。それを見て
全てを察したリツコは、くすっと嬉しそうに微笑む。
『ぷるるるるるるる』
 突然、電話が鳴った。リツコはあまりのタイミングの良さに少し戸惑いなが
ら受話器を取る。
「はい……赤木ですが……」
 相手の声を聞いたリツコはフフッと愉快そうに微笑った。
「あら? レイに用事? そう……? 心配しなくても、レイの方から電話が
行くと思うわよ……そうねえ、あと1時間くらいかかるかしら……。……えっ
? どうしてって? それはね……レイだからよ」
 リツコは楽しそうにそう言うと、電話の受話器を静かに置いた。
 数分後、リツコがリビングで本を読んでいると、またまたレイがうろうろと
やって来た。
「あら……意外と早かったわね……」
 リツコはくすっと微笑ってひとりごとのように言うと、再び本に視線を戻す。
やがて、ゆっくりと電話のボタンを押す音がリツコの耳にも聞こえてきた。
「……あ、あの……綾波ですけど……」
 かわいらしい、少し小さめの言葉。
「あらあら、ドモっちゃって、初々しいったらありゃしないわね……」
 リツコは楽しそうに笑うと、立ち上がってベランダに出た。 
 肌寒いけれど、身を貫いてくれるような夜風が疲れたカラダに清涼感を与え
てくれる。その風を体いっぱいに受けながら、もうじき三十四回目の誕生日を
迎える金髪の才媛はぽつりとつぶやいた……。
「……こんな時間がいつまでも続く……はずなんてあるわけないわね……」
 リツコはふふっと微笑むと、目の前にぶら下がっている照る照る坊主の頭を
ちょんっとつついた。
 後ろのリビングの向こうから、レイの楽しそうな話し声が聞こえてくるのを
聞きながら、リツコは楽しそうに夜空を見上げた。
 今日も丸い月がぽっかりと浮かんでいる……。
                     『ラスト・グッドバイ』(了)



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Copyright Toshiya 1997