毎月 5人の仲間がそれぞれのお気に入りを持ち寄って構成する合同企画ページです。
これこそ次世代の名盤!と感じた盤を各自が自由にレビューします。

Vol.1 / 2002年4月 / 見出しに戻る

「熱砂のオアシス 〜 乾いた風が心地よし」

Jose Reinoso & Repique / South American Jazz
(Fresh Sound/World Jazz FSWJ-019 2002年3月輸入盤新譜)

Jose Reinoso(p),Gorka Benitez(sax)
Aldo Caviglia(ds) Ray Ferrer(b)
Special Guest-Marcelo Mercadante(bandoneon on #4&#9)

Recorded at Barcelona /Sep. 2001



同じ南米のジャズでもいわゆるストレートアヘッドなニュアンスが濃い
純正ジャズ。とはいえ中にはバンドネオンも飛び出す、かなりソフィスティ
ケイトされた#4.Pedacito De Cieloのようなくせ者丸出しの作品もあります
が、これがまた素晴らしいです。要所で顔を出すホセのラテン・ピアノが
実に甘美で私はぞっこん惚れ込んでしまいました。さらにはテナーのゴ
ルカ・ベニテスがこの作品の価値を決定づける働きをしていて、随所で
ショーターばりの剛快(あえて当て字で)なパフォーマンスで迫ります。
オリジナルの#8.Maria Noelの美しさはホセのアカデミックな才能を窺わせ、
この小気味よさは名曲「サテンドール」を彷彿とします。個人的には、そそ
る導入部からバンドネオン、テナー、ピアノの三者が躍動的に交錯する#9
Baile De Los Morenosがこのアルバムのハイライト。絶対聴くべし。

appleJam / Jazz PEOPLE 白岩輝茂


「妖気漂うピアノ・トリオ」

Voices In The Night/石井彰トリオ

  2001年9月21日発売
  EWCD 0036(イーストワークスエンターテインメント)
  ¥2,200(税抜)

 石井 彰  (p)
 俵山 昌之 (b)
 江藤 良人 (ds)

1.Angel Eyes
2.Snakin’ Around
3.Setembro
4.Greco
5.I Concentrate On You
6.Sometime In The Snow
7.A.P.
8.Ladies In Mercedes
9.Voices In The Night

昨年9月の発売で新譜というには苦しいのですが、なぜかSJ誌に紹介さ
れなかったこともあり、新企画の第一弾として取り上げさせてもらいます。
個人的には、ここ半年間でトレイに乗る回数が一番多かったアルバムです。
日本のジャズに興味をお持ちの方は石井彰の活躍ぶりをご存じでしょうが、
日野皓正や川島哲郎、多田誠司、小林桂ら人気ミュージシャンから引く手
数多のピアニストとして注目を集めています。
帯に「月光を想像させる妖しいピアノの響き」とあるように、まず深々とした
ピアノの音が耳をとらえます。一曲目のバラード「Angel Eyes」の甘美な
メロディーがより魅力的に体に染みこんできます。もちろんベースとドラムも
このピアノを活かす好サポートぶりを発揮しています。またメンバー自作の
曲も佳曲揃いで、アルバムの完成度を高めています。
日本のジャズを食わず嫌いの方、ブラッド・メルドーやキース・ジャレットの
好きな方、だまされたと思って是非聴いてみてください。

Sound Space STEP 片桐俊英


「休日の朝に心地よい盤」

Rainy Films/Zsolt Kaltenecker Trio
(Gats Production)-Recoded 9.24,25 2001.

Zsolt Kaltenecker (p) , Barcza Horvath Josef (b), Andras Mohay (ds)

1.Train 2.Summer Night 3.Autumn Leaves 4.Raindrops keep fallin' on my head
5.Full moon 6.Blues Connotation 7.Cuba 8.Closing Hour

まずはガッツプロを褒めておきましょう。今まではポーランド・ジャズのイメージが
強かったのだけれど、今はポーランドに限らず東欧、そしてロシアを視野にいれて
企画しているとのことでした。カルトネッカーはハンガリー出身のピアニストです。
東欧圏は昔クラシック界の本場だったわけですが、そういう土壌の上に咲いた
ジャズの花がいかなるものなのか、今後期待が膨らみます。こういうマイナーの
日本レーベルが意欲的に頑張っている状況は特筆されるべきです。
この盤を聴いて「ああ、休日の朝に聴くのにいいな」と思いました。1曲目「Train」
を聴いてそう思ったのですが、少なくとも夜の闇のなかで沈静するような盤では
ないと感じます。軽く流してBGMとして聴いてもいいように思います。だからと
いって内容が薄っぺらだということではありません。ハード過ぎることなく嫌み
がなくて身体にすっと入ってくる感じが心地よいのです。2曲目「Summer Night」
は長いソロからトリオに入りホッとする瞬間です。ホルヴァースのベース・ソロ
でモハイ・アンドラーズのドラムとの絶妙な重なり具合が良いです。3曲目
「Autumn Leaves」はお馴染みのテーマですが、アドリブ・ソロに入ってガッツ
にインプロバイズするカルトネッカーのピアノに唸ります。4曲目「雨にぬれても」は
暫く何の曲だかわからないのですが、バカラックのテーマに入りおやおやという感じです。
ライナー・ノーツでは5曲目の「Full moon」を強調して紹介しています。確かに聴き
応えのあるトラックです。テーマをシンプルに弾き、徐々に高揚感を持たせてくる
あたり唸らせます。6曲目「Blues Connotation」はホルヴァースのベース・ソロが
聴きどころでしょうか。7曲目「Cuba」の流麗なテーマに聞き惚れます。最後の曲
「Closing Hour」で休日の朝が締めくくられます。出来れば晴れた朝に聴けたら良い
ですね。

Baker's Holiday 菅野 寛


「疾走感と一体感のラテンジャズ」

Triangulo/Michel Camilo(P)
(Telarc Jazz) - Recorded August 1-6, 2001. 国内盤は3月21日発売

Michel Camilo(P), Anthony Jackson(B), Horacio "El Negro" Hernandez(Ds)

1. Piece Of Cake 2. La Comparsa 3. Mr. C.I. 4. Afterthought
5. Anthony's Blues 6. Con Alma 7. Las Dos Lorettas 8. Just Like You
9. Descarga For Tito (Puente) 10. Doctom-Bustion

 テラーク移籍第一弾。相変わらずゴキゲンなラテンジャズ・ピアノを聴かせて
くれます。10曲中6曲が彼のオリジナルまたは共作。サウンドカラーは明るい
のですが、伝統的なラテンではなくて、メカニカルな部分やキメも多い現代的な
音です。これでもか的なラテンのピアニストが、6弦エレクトリック・ベースでは
超人的な技を持つベーシスト、ひとりパーカッション&ドラムスの手数王のドラ
マーとのトリオと組んで、メンバーの個性が絶妙なバランスで、しかもはっきり
としたサウンドに仕上がっています。1−2曲目を聴いて、昔に比べて少し丸く
なったかな、と思っていたら、3曲目でかなりハードな世界に突入していきます。
細かいリズムのキメが心地良い5曲目、しっとりした響きをもって伝わってくる
「コン・アルマ」の6曲目、マイク・マイニエリ作のこれまたキマリまくる7曲目。
こういう時には4、8曲目のような、オリジナルである静かなバラードの曲も、
彼ながらのメロディで美しいし、ホッとします。9、10曲目など曲によっては
変拍子もありますが、その9曲目がティト・プエンテに捧げられているようで、
不思議なグルーヴ感です。
 彼のアルバムはいわゆる4ビートのジャズではないので、今までもミシェル・
カミロが話題にのぼることはあまりなかったのですが、一部では熱狂的なファン
もいたのも事実。トリオの疾走感と一体感はタダモノではないので、一度聴いた
ら病みつきになってしまう可能性はあります。今回は少々おとなしめかな、とも
思いますが、マイ・ペースで演奏しているんだろうなあ、という感じはします。

ジャズCDの個人ページ 工藤一幸


「漆黒の闇に無数のナパームが炸裂」

Jean-Paul Bourelly / Boom Bop 99.7 US-Jazz Magnet

 Jean-Paul Bourellyの作品は、その風貌に怯んでこれまで手が出ないでいたが、
本作で強烈無比な個性にノックアウトされ、風貌までチャーミングに思えてきた。
リーダー作はそう多くはない。これを機会に旧作も追っかけてみようと思う。本作は
Jazz Magnet第1作。Bourelly(g,vo,effects)、Abdourahmane Diop(vo,ds)、
Big Royal Talamacus(filtered boom bass)、Samba Sock(per)、Slaka(jimbe)を
主軸に、曲によりベースとドラムスを補強する。3曲は2〜3人、7曲は5〜7人編成。
Archie Shepp(ts)とHenry Threadgill(as)の参加が目をひく。自作と共作が半々。
フリー系のファンク・ロックというか、Jimi HendrixとM-Baseを融合したような
楽想が基調でエスニック風味が加わる。とはいうものの、類似品は思いつかない。
File Under Bourellyの称号を捧げたい。Shepp(3曲)とThreadgill(2曲)に無二の
存在感を発揮させつつ、Bourellyも強烈な体臭をまき散らし、漆黒の闇に無数の
ナパームが炸裂するような、ダークでソリッドでパルシヴな空間を創出する。

JAZZ DISC SELECTION 林 建紀