What's New index main mail to bluesboy ALL-Music Guide 名前(アルファベット)でプレイヤーの詳細を検索できる便利なサイト。

← BBC見出しページに戻る


20世紀ポップ・ロック大全集 グラム・ロックの夜明け編

NHKソフト・ウェア - ポニー・キャニオン PCVE-10772 ¥3.300(税抜) 1998年7月17日発売

収録アーティスト

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド
ストゥージス、アリス・クーパー
Tレックス、デヴィッド・ボウイ
ルー・リード、ニューヨーク・ドールズ
ロキシー・ミュージック、スウィート
スレイド、ゲーリー・グリッター、
ミック・ロンソン、キッス
イギー・ポップ他




冒頭から '60年代後半当時、イーストとウエストで愛用された
ドラッグの違いの講釈から始まったときはどうなるのかと思った
けれど、ルー・リードのインタビューで話は核心に突入していく。

何回も職に就いたけどどれも半日ももたなかったというルー、
当時新進芸術家として脚光を浴びていたアンディ・ウォーホ
ールのアイデアを具現化すべくN.Y.C.で結成されたヴェルベ
ット・アンダーグラウンドの活動に活路を見いだしハマってい
ったと述懐している。

あまりに斬新なウォーホールのコンセプトに時代が付いていけ
ず、残念なことにバンドが活動中の評価はさほどではなかった
ものの水面下ではロック・シーンに多大な影響を残しつつあった。

当初、ブルースがやりたかったというイギー・ポップはしかし、
本能の赴くままの生活を享受していたブルースマンの大人げな
い実態をかいま見て、ここはアイデアだけを借りて自分は違う
ことをやろうと思ったという。その彼がまともに影響を受けたの
がルー・リードとドアーズだったと語る。

そのイギーポップ率いるストゥージスはミシガンからデビューを
するわけですが、誰よりもでかい音でうるさくやれば負けないと
思ったという。ハイウェイを行き交う車の騒音、プレス加工の機
械のノイズ、そういったノイズを音で表現しようと試みたのはそ
ういう理由からだと。結果、はみ出し高校生や失業者、ヴェトナ
ム帰りの兵士達には受けたと述懐している。この言葉から彼が
それに満足しているのかどうかは判断できませんでしたが。

またもう一人、ルー・リードの方向性に影響を受けて、デトロイトからは
アリス・クーパーがデビューしますが、彼はなによりも既存の概念と
価値観の破壊を目的にパフォーマンスを心がけたと語っている。
'60年代末期、ウッドストック世代が夢見た「愛と平和」幻想が完全に
崩壊しかかっていた時期に彼は、徹底してアメリカのタブーを破り、
より醜悪なものを表現するため、漫画とホラー映画の中間的なイメージ
という概念を自らの表現の軸に置いたという。

醜悪さと紙一重の毒々しいビジュアル面を強調したのも、TV世代を意識
していたとのこと。好んでステージに化け物を登場させた背景には、平均的
なアメリカの象徴とも言うべき、中産階級に向けてアリスが「世の中総て、
一皮向けば魔物の集団なんだ」と言うメッセージを叩き付けているような
気がしました。そのアリスが大ヒットした事実が当時の世情を反映してい
る気もまたします。

こういったアメリカのシーンを冷静に見ながら、イギリスにも同様のヒーロー
が必要だと感じていた男、デヴィッド・ボウイはまず自らのアイデンティティで
もある両性(バイセクシュアル)を公にさらすことでまず既存の価値体系を
崩しにかかります。彼の場合その後多くのフォロワーが女装し、厚化粧する
という表面的な部分だけを真似してシーンに登場してきたのと異なり、確信
犯として、バイセクシュアルな自己の存在そのものを叩き付けた訳で、その
点筋金入りだったといえます。

その後、ボウイは自らを異星人ジギーと名乗り、ロックを通しての自己表現に
新しい方向性を見いだすのですが、彼自身がそもそも始めに影響を受けた存
在だったルー・リードをこの時期逆にプロデュースしています。ヴェルヴェット
解散後方向性をやや見失っていたルーにはこれが格好の刺激になったと思
われます。

グラム・ロックという名称もこの時期のデヴィッド・ボウイ、つまりジギーの演じ
ていた世界を称して使われ始めたという証言がここで挟まれるのですが、この
グラム・ロックこそがロックをひとつの「ショー」として享受する時代の始まりであ
ったと、ここでは解釈しています。

しかしながらボウイのこの時期の大活躍もミック・ロンソンというギター職人が
支えた要素も大きいことが付け加えられていて、必ずしも女装、厚化粧、バイ
セクシュアル等そういったイメージ先行で人気があった訳ではなくボウイ自身
の音楽性とミックの音楽センスがあってこそだという部分がきちんと押さえて
あるのが、どこかの国の傾向とちょっと違うところだなと感じました。

結論的には、愛と平和幻想が壊れてしまったこの時代に必要だったのは、新
しいヒーローの登場であり、それこそが時代のニーズ、そしてそれに応えるべ
く彼らは自らパフォーマーとしてシーンに登場してきたのだという構図がここで
説明されている気がしました。

その後異星人であることに決別したボウイが発表した「ダイアモンドの犬」につ
いて触れながら、そんな時代の人々に生きるための道標を与えたボウイの、誰
だってヒーローになれるのさ、一日だけのヒーローに、というメッセージが印象的
でした。

- bb / Jan.18,1999