What's New index main mail to bluesboy ALL-Music Guide 名前(アルファベット)でプレイヤーの詳細を検索できる便利なサイト。

← BBC見出しページに戻る


20世紀ポップ・ロック大全集 魂の音楽 ソウルの巨人たち 編

NHKソフト・ウェア - ポニー・キャニオン PCVE-10769 ¥3.300(税抜) 1998年7月17日発売

収録アーティスト

レイ・チャールズ、ビリー・デイヴィス、
アル・ベル、トーマス・ボウルズ、
マーサ・リーブス、ホランド兄弟、
オーティス・ウイリアムス、チョリー・アトキンス、
マキシーン・パウエル、メアリー・ウエルズ、
ルーファス・トーマス、ジェリー・ウエクスラー、
トム・ダウド、スティーヴ・クロッパー、アリサ・フランクリン、
ブッカー・T・ジョーンズ、ウィルスン・ピケット、
ドナルド・ダック・ダン、ジミー・ジョンスン、
サム・ムーア、リック・ホール、スプーナー・オールダム他

'60年代に入ってからのソウルの一大勢力として、
必ず語られるのが中規模都市、デトロイトのベリー・ゴーディのモータウン。
ここでは最初にそっちを持ってきて、対比的な位置づけで南部メンフィスの
スタックスを紹介してるのがとても印象に残りました。

貧民街育ちの若手黒人達に行儀作法を教える専門家と、ステージ上で
より都会的なセンスを身につけて貰うための振り付け師を雇っての徹底教育、
さらには都市部の白人達に受け入れられやすいような曲が書ける作曲歌陣で
基盤を固めた鉄壁の体勢で、みるみる都会の白人達を取り込んで急成長したモータウン。

一方で、譜面すら必要としない、気持ちの赴くままその場でミュージシャンとアレンジャーが
曲作りとアレンジを同時にやってしまうと言った手法を取ったスタックス。
ニューヨークから赴き、以降スタックスで重要な役割を演ずる、アトランティックの
ジェリー・ウエクスラーもその辺りを驚異的に感じたことをインタビューで述べてます。
トム・ダウドにいたっては、ただコンソールに座ってるだけで曲が作れたと、証言してる。
何らの指示もそこには必要でなかったと。

魂の根元的な部分を表現するソウルという黒人音楽を供給してきた2大勢力が、
各々正反対の手法で成功したという事実の底にあるものが、今も引きずってる
レコード産業における問題の根っこと通じてるような気がします。
一般大衆という巨大な購買層に迎合していくのか、表現者の自主性を尊ぶのか
音楽産業において、この根元的な選択肢が常に立ちはだかるのですから。

ここでの切り口は'60年代に入って、
ビートルズ等の英国勢のロック・ミュージックが
シーンの中心になってきた'60年代中期における
黒人音楽サイドの反撃というのが導入部になっています。

音楽市場での位置づけを見直す作業が必要になった彼らが、
より売れるようにはどうしたら良いのかを念頭に、
ヒット曲作りに専念するのは当然の帰結。

その目指すは同じ目標への道筋に、念入りに計算された演出をもって、
より洗練された方向を邁進した一派と、
それでも自主性を重んじた一派との対比は面白かった。

事業としてレコード会社を設立した以上、
売れなければ成り立たない訳ですから、
誰もが売れて欲しいと願いつつ曲を作る上で、
南部のスタックスやマッスルショールズでは
その場その場で、ミュージシャン自身が主導権を持って、
録音していったという事実。

これはやはり、都市部と田舎というシチュエーションの差だよ、と
納得しようと思えば出来なくはないのですが、
果たしてそうなんだろうか。
結果的に多くの人たちが、
人工的に演出されたモータウンの音楽はつまらんと、
離れていってしまったという事実に答えが含まれてる気がします。

しかし、市場で大ヒットの連発を重ね巻き返しに
成功していたていたソウル・ミュージックも
1968年4月、キング牧師の暗殺という事件を
区切りにそのムーブメントは終わった・・・
通説として語れてきたその解釈、
私はこのビデオを観てそれを初めて実感しました。
スタックスの面々も、マッスルショールズの面々も、一様に
くちを揃えて、あの日にソウルの火は消えたんだと証言する。

ソウル・ミュージックの歴史が一種、
人種差別との戦いの歴史でもあった背景を考えれば、
公民権運動の先頭に立っていたキング牧師の暗殺は
象徴的な事件であったのですね。

悲しそうな表情でそう当時を語る人々の多くがしかし、
白人のミュージシャンだということもまた感慨深かったです。
アリサやピケットの大ヒット曲のバックはマッスルショールズで
録られた物もあるわけですが、そこは全員が白人のミュージシャン。
当時は、何故白人のバンドが本物のソウルをやれるのか
不思議に思われた時代でした。
彼ら自身の口を借りれば、小さいときからカントリーも
R&Bも等しく好きだっただけ、ということになる訳ですが。

気のまわし過ぎかも知れないのですが、
ウエクスラーもダック・ダンも、マッスルショールズの面々も
白人達に共通するのは一様に表情が悲しげだったこと・・・
ソウルの歴史を振り返るとき、そこには
過去の辛い経験、悲しい出来事、
諸々が一気に記憶の中に吹き出すからなのか。
かえって黒人達が皆、明るかったのと比較して、
妙に心の片隅に引っかかりました。

-b.b. Oct.12.1998