思いつきSSログ保管庫
*このページに直接来られた方へ、TOPページはこちらです。

雑記掲載SS保管庫 2016年第2期
6月18日 大図書館の羊飼い SSS”三大欲求 6月15日 アマカノ SSS”看板娘” 6月12日 FORTUNE ARTERIAL SSS”遅れてきた理由” 6月12日 sincerely yours short story「当たり前の時間こそ」 5月24日 夜明け前より瑠璃色な SSS”アイドル化計画” 5月23日 夜明け前より瑠璃色な SSS”サードシーズン” 5月20日 千の刃濤、桃花染の皇姫 SSS”言葉無くとも” 5月11日 大図書館の羊飼い SSS”続・メイドの日 5月10日 FORTUNE ARTERIAL SSS”メイドの日” 5月4日 大図書館の羊飼い SSS”初夏の通り雨 5月3日 大図書館の羊飼い SSS”前世? 来世? 5月2日 千の刃濤、桃花染の皇姫 SSS”貸し借り” 4月24日 FORTUNE ARTERIAL SSS”肌色率” 4月13日 千の刃濤、桃花染の皇姫 SSS”2日遅れのプレゼント” 4月1日 sincerely yours short story「嘘が嘘の嘘」
6月18日 ・大図書館の羊飼い SSS”三大欲求” 「なんで大雨なんですか!?」  それは佳奈の誕生日の日の事だった。 「梅雨の時期なんだ、雨はどうしようもないだろう?」 「解ってますよ、それでもせっかくの誕生日なのに、図書部の依頼が……」  桜庭が謝りながらも、どうしても断り切れなかった依頼を俺たちに頼んできた。  それぞれの依頼の量事態は少ないのだが、依頼数が多く、すべて終わらせたのはもう夜遅くだった。 「これじゃぁデートも出来ませんよぉ……」  落ち込む佳奈。 「ケーキでしかお祝い出来ないな」 「え? ケーキあるんですか!?」 「あぁ、ホールで注文してある」 「やったぁ、京太郎さん愛してます!」  ケーキ1ホールで佳奈のに機嫌は簡単に直ったのであった。  翌日。 「……今度は逆に暇だな」  図書部の依頼は他のメンバーの分だけで人が足りてしまって、俺と佳奈は部室で留守番だった。 「時間あるならどこかデートに行きたい所なんだけど」 「ごめんなさい、嬉野さんには逆らえないんです」  今日はアプリオの夜シフトが入っているのでこの後どこかに出かける事は出来ない。 「明日はどうなんだ?」 「朝シフトだけです、図書部の依頼も無いですし、やっと誕生日デート出来ますね♪」 「それじゃぁ明日の為に今日を頑張るか」 「はい!」  そして今朝、佳奈は朝シフトの為にアプリオに出かけていった。  俺は佳奈が帰ってくるまでに今日の予定を立てる。  そうして出かけるはず、だったのだけど…… 「……ただいまです、暑いです〜」  玄関の扉が開いた瞬間、もの凄い熱風が部屋の中に入り込んできた。  その熱風とともに帰ってきた佳奈は暑さで溶けていた。 「ふぅ、すっきりしました」  シャワーを浴びて労働の汗を流した佳奈が部屋に戻ってくる。  そしてそのままベットにぱたっと倒れ込んだ。 「佳奈?」 「ちょっとだけ休憩です〜なんだか休みの日の朝にしてはお客様がいっぱいで大変だったんですよ〜」  お風呂上がりの下着姿なので、可愛いお尻が丸見えになっている。 「佳奈、せめてパジャマを着ろって、風邪ひくぞ?」 「……」 「佳奈?」  顔をのぞき込むと佳奈は眠っていた。 「……そうだよなぁ」  俺は図書部の依頼だけですんでいるが、佳奈はそれ以外にアプリオでも働いている。  疲れていない訳がないよな。 「起こさないでおいた方がいいな」  そっとタオルケットを掛けてから、俺は手元にある文庫本に目を落とした。 「ごめんなさーーーいっ!」  目が覚めた佳奈はいきなり俺に謝った。 「別に良いんじゃないか?」 「でも、お出かけの、デートの予定が!」 「デートなら後でも出来るさ、それよりも佳奈が休んだ方が良いと俺が判断したんだ。  だから佳奈は気にしなくて良い」 「京太郎さん……」 「それにさ、佳奈」  俺は玄関に向かう。 「今の佳奈をこの状況で連れ歩きたくは無いからな」  玄関の扉を開けると、熱風が部屋へと入ってくる。 「きゃっ! 何、この暑さ?」 「今日は夏日だそうだ」  すぐに扉を閉める、それでも部屋の中の温度が一気に上がっただろう。 「普段なら気にしないけどな、疲れてる佳奈を連れ回したら倒れちゃうだろう?」 「私はそんなに柔じゃないですよ?」 「それじゃぁ今からこの暑さの中出かけるか?」 「あ、いえ、その……遠慮してもいいですか?」 「賢明だ」  俺は部屋の中へと戻る。  そしてベットの上に座ってる佳奈の横に座ってから、佳奈を抱き寄せる。 「きょ、京太郎さん?」 「誕生日はまた来年も来るさ、だから慌てなくてもいい。それに、俺は佳奈が居れば部屋の中でも  満足だしな」 「……もぅ、京太郎さん欲がなさ過ぎですよ?」 「そうか?」 「あ、でもないか」 「どっちだよ?」 「だって、夜の方の欲はすごいじゃないですか?」 「……佳奈だってそうだろう?」 「えー? 私は京太郎さんにひっぱられてるだけですよ?」  それは確かに事実かもしれない、けど事実だけに言われ続けるのは負けたみたいで何か嫌だ。  だから俺はカードを切る。 「じゃぁ佳奈は夜の欲はそんなに無い、と?」 「んー、どうなんでしょうね?」 「そうか、それじゃぁ今日の夜ご飯の焼き肉食べ放題は延期にしよう」 「……え?」 「だって、夜飯の食欲がそんなに無いんだろう?」 「いやいやいやいや、お肉は別腹ですよ!?」 「さっきと話が違わないか?」 「あー、もぅ! 京太郎さん、私は夜の欲もたーっくさんありますよ! これでいいですか!」  やけになった佳奈が叫びだした。 「あぁ、わかったよ、いじめて悪かった」 「それじゃぁ!?」 「予定通り今日の夜飯は焼き肉食べ放題だ」 「やったー!」  俺に抱きついて、身体全部を使って喜びを表す佳奈。 「ふふっ、京太郎さん」 「なんだい?」 「ご飯終わったら、京太郎さんの夜の欲も、満たしてあげますね♪」
6月15日 ・アマカノ SSS”看板娘” 「いきなりってのは結構困る物だな」  大学の講義がいきなり休講となってしまったので時間を持て余してしまった。 「こはるの所に手伝いにでも行くか?」  今日は俺のバイトの予定は入っていない日だから、きっと会長がシフトに入ってるだろう。 「って、もう会長じゃなかったよな」  ウインスポや雪祭りのイベントを仕切った凄腕の会長っていうイメージが強いので卒業しても  会長は会長だって思ってしまう。 「でも、あれはすごかったな」  会長最後の告白、それを成し遂げた会長の恋人。 「……負けてられないな」  別にシフトに入ってないからって手伝ってはいけない訳じゃ無い。  駄目なら駄目で、客として和菓子を食べれば良いのだし、こはるびよりに行こう。 「あれ、センパイ?」  店の前での店頭販売をしてるこはるが俺を見て驚いた顔をした。 「こんにちは、こはる」 「こんにちはです! でも、あれ? 今日は大学では?」 「授業が休講になったから、早く帰ってこれたんだ」 「そうですか、なら一緒に居る時間が増えますね♪ あ、でもお仕事が」 「手伝うよ」 「でも」 「別にバイト代が欲しいわけじゃないよ、俺が欲しいのはこはるとの時間だから」 「あ……うん! それじゃぁよろしくお願いします、センパイ!」  ちゃんとこはるのお父さんに許可をもらってから、一緒にこはると店頭販売に立つ。 「どうしたんですか、センパイ?」 「あ、いや。今日は中の方が忙しそうだなぁって」  いつもなら常連さんがいるかいないかの時間帯なのに、結構お客が入ってる気がする。  それも、何故か男性ばかりなのが気になる。 「大丈夫ですよ、センパイ。中にはルイカお姉ちゃんが居ますから」 「あぁ、会長が居るなら安心……?」  もしかして、そういう事か? 「なぁ、こはる。今中にいる客ってもしかして」 「……はい、多分ルイカお姉ちゃん目当てだと思います」 「やっぱり」  大学でも噂になってたしな、温泉街の和菓子屋に綺麗なウエイトレスが居るって。  俺はてっきりこはるのことだと思ってやきもきしたけど、会長の事だったのか。 「なんだか看板娘の座をお姉ちゃんに取られちゃったみたいです」 「そうか?」 「はい、だってお姉ちゃんのシフトの日は常連さん以外のお客さんも結構きますから」 「こはるとしては、やっぱり和菓子の味で来て欲しいと思うんだよな」 「はい! お父さんの作る和菓子は最高ですから!」 「なら大丈夫だよ」 「どうして……あ」  こはるの疑問の声はすぐに解決となった。 「こんにちは、先輩にこはるちゃん」  挨拶してきたのは学園の後輩で、あの一大イベントを仕掛けた、会長の恋人。 「いらっしゃいませ、お姉ちゃんなら中ですよ」 「ありがとう、それじゃぁお邪魔するね」  そう言って店の中に入っていった。 「会長はまだ恋人が居るっていう噂は外では流れてないだろう? そのうちすぐに沈静化するよ」 「そうですね、お姉ちゃんには素敵な恋人さんがいるんですものね」  店の中で明らかに後輩の彼にだけ特別なサービスをしてる会長の姿。  それを見れば嫌でも2人の関係は解るだろう。 「でもそうなればお姉ちゃん目当てのお客さんが居なくなってしまいますね」 「構わないんじゃないか? だってこはるびよりは和菓子の味で勝負してるんだろう?」 「はいです!」  そう元気よく返事するこはるの笑顔。 「やっぱり看板娘はこはるだよ」 「センパイ?」 「あ、いや、なんでもないよ、それより俺たちも頑張ろう」 「はい!」
6月12日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”遅れてきた理由”  週末の夕方、孝平と幼い伽耶をつれての日常品の買い物を終えての帰り道。  孝平と手をつないで歩く伽耶はご機嫌が良く、こうしていつもの週末は終わりを告げる。  はず、だった。 「邪魔してるぞ」 「え、母様!?」 「あ、お祖母ちゃん!」 「おー、伽耶、久しいではないか」 「うん!」  母様の所に駆け寄っていく伽耶と、その伽耶を抱き留める母様。 「何処行ってたのよ」  奥から紅瀬さんが出てくる、母様が居るのだから紅瀬さんが居るのも当たり前か。 「とりあえず部屋に入ろう、瑛里華」 「そうね」  買い物袋も重たいし、部屋に入る事にした。 「でも、突然帰ってきてくれてびっくりしたわ」 「そうか? 珠津島には数日前から戻っておったぞ」 「え? それじゃぁなんで顔出してくれなかったの?」 「平日は忙しいのだろう? だから週末まで待っておったのだ」 「伽耶はね、貴女の誕生日には島に戻ってたのよ」 「き、桐葉!」 「母様」 「な、なんだ?」 「ありがとう、母様。ちゃんと誕生日覚えておいてくれたんですね」 「当たり前であろう、我が娘の生まれた日を忘れる訳は無い」  その当たり前がとても嬉しかった、けど。 「でもどうして当日に顔を出してくれなかったの?」  今年の誕生日は家族皆に祝ってもらったけど、母様が来てくれなかったことが寂しかった。  孝平は  「きっと何かしらの用事があっただけだよ、伽耶さんが瑛里華の大事な日を忘れる訳ないだろう?」  って、言ってくれた。それはその通りだったから良かったんだけど。 「なに、平日に来ると忙しくて大変だろう? 孝平も翌日は仕事だったのだろう?」 「はい」 「なら今日にすれば夜通し飲めるではないか」 「……はい?」  もしかして…… 「母様は、みんなと飲む為に来るのを今日にした、と?」 「そうだ、誕生日当日では皆で飲めないではないか」 「……ははっ、あはははははっ」 「え、瑛里華?」  突然笑い出した私に母様は驚きの声をあげる。 「もう、母様ったらなんだか可笑しくって、可愛い!」  思わず母様を抱きしめる。 「瑛里華、母に向かって可愛いは無いであろう?」 「何いってるのよ、伽耶。貴女の行動原理は可愛いそのものよ? 娘と存分に飲み明かしたいから  今日まで我慢してたなんて、可愛いとしか言いように無いじゃない」 「こら。桐葉! ばらすでない!」 「もぅ、母様ったら。大好き!」 「そ、そんなことよりも宴にしようぞ、桐葉が準備してくれておるぞ」 「え?」 「貴女、そこでその怯えた声を上げるのは失礼ではなくて?」 「だって、伽耶もいるのよ?」 「大丈夫よ、味見はしてないけどちゃんと貴方達の分はレシピ通りに作ってあるわ、すぐに仕上げるわ。  だから待っててね、伽耶ちゃん」 「うん、きりはおねーちゃん」 「ふふっ、素直な伽耶ちゃんは大好きよ」 「俺も手伝いますよ」 「よろしくね」 「私も」 「瑛里華は伽耶と、伽耶さんの相手を頼むよ」  そう言って孝平もキッチンへと入っていった。 「……こうなったら母様に付き合ってとことん飲むわよ!」  ・  ・  ・ 「……頭痛い」  日曜日の朝、目覚めは最悪だった。  母様と同じ勢いで飲んだせいか、見事に二日酔いになってしまった。 「うぅ……朝ご飯作らないと」  いくら休み前の大宴会とはいっても、朝は普通にやってくる、そしてみんなの朝食の準備を  しないといけない。 「……あら?」 「起きるのが遅いわよ」  キッチンには紅瀬さんが居た、そしてすでに朝食の準備がされていた。 「あ、ありがとう、紅瀬さん」 「良いわよ、伽耶が楽しそうだったし」  それは昨日の夜の話だろう。  私と一緒に飲んだり、伽耶とじゃれあって遊んでたり、孝平とも飲み比べしてたっけ。 「それでもありがとう、紅瀬さん」 「……そうね、お礼は受け取っておくわ」 「おー、みな早いな」 「伽耶が遅いだけよ?」 「それならまだ伽耶は眠っておるぞ?」 「子供は別に良いの」 「なら、孝平もまだ眠っておるぞ?」 「……貴女、旦那の躾はしっかりとしないと駄目よ?」 「いいじゃない、孝平だって昨日の夜大変だったんだし」 「それもそうね、でも起こさないと朝食の時間になってしまうわよ?」 「そうね、それじゃぁ起こしてくるわ」  今日はこの後千堂家の実家へみんなで行く事になっている。  マンションの狭いお風呂は母様は好きでは無いから、皆で実家の広い風呂に入ることになっている。  もちろん男女別なので孝平は一緒には入れないけど。 「さてっと、家族そろっての休日ですものね、ゆっくり楽しまなくっちゃ!」
6月12日 ・sincerely yours short story「当たり前の時間こそ」 「〜♪」  私はいつもの朝と同じように家族の朝食を準備する。  いつもと違うのは、すっごくご機嫌なことくたいかな? 「ふふっ♪」 「あ、お母さん?」 「あら、おはようリリアちゃん」 「おはようございます……ってお母さん早すぎない?」 「いつもと同じ時間から準備してるから早く無いわよ?」 「それは平日でしょ? 今日はみんなお休みの日だよ?」  予定の無い休日の日の朝食は、少しだけ遅めになる。その時間から考えると確かに早い時間かもしれない。 「そうね、予定の無い休日なら早いわね」 「はぁ……全く、お母さんは遠足前の子供みたいだよね」  リリアちゃんにあきられてしまったけど、それくらいで機嫌が悪くなる事は無い、だって。 「良いじゃない、だって今日は私の誕生日で、達哉が1日中ずっと付き合ってくれる日なんですもの♪」  それは昨日の夕食の時のお話。 「そういえばシンシア、明日は誕生日だね」 「達哉、覚えていてくれたの?」 「当たり前だって。それで明日の予定なんだけどさ……」 「もちろんスケジュールは空けてあるわよ」 「そうか、それじゃぁシンシアの誕生日プレゼントを買いに行くか」 「え?」 「サプライズも考えたんだけどさ、たまにはシンシアの欲しい物を買いに行くのもいいかな、って  思ったんだよ、だから明日みんなで買い物に行こうか」 「いいの?」 「あぁ、俺が変える物なら何でも良いよ」 「やったぁ、明日はみんなでデート、嬉しいね♪」 「みんな?」  私の言葉に反応したのはリリアちゃん。 「当たり前でしょう? みんなでお買い物デート行きましょうね」 「でもデートなんでしょう? わたしは留守番してるよ?」 「だーめ、一緒じゃなきゃお母さん泣いちゃうわよ?」 「……はぁ」  ・  ・  ・  みんな朝食を食べ終わってから、出かける準備をして家族そろってデートに行くことになりました。 「〜♪」 「シンシア、ご機嫌だな」 「えぇ、こうして家族みんなでおでかけって嬉しいじゃない」 「結構みんなで出かけてる気がするけど」 「そう? でもね、リリアちゃん。よそはよそ、うちはうち、なのよ?」 「それって躾に使う言葉じゃなかったっけ?」 「じゃぁね、隣の芝は青い、だっけ?」 「それだと意味が違ってくるよ?」 「いいじゃない、別に♪」  何度だって、何回だって、家族そろってのおでかけは良いものなんだからね。  駅前のショッピングモ−ルに到着、ふふっ。 「ねぇ、達哉。今日はなんでも買ってくれるんでしょ?」 「あぁ」 「それじゃぁね……」  私がみんなを連れてきたフロアは婦人服のフロア、そしてその一角にある。 「水着売り場?」  達哉は若干顔が引きつっている、その表情がおかしくて私は笑い出しそうだけどまだ我慢。 「実はね、去年の水着がきつくなって着れないかもしれないの」 「え……まさか?」  達哉が反応するよりも早くリリアちゃんが驚愕の表情を浮かべてた。 「ま、まだ……その歳で、まだ……大きくなってる、だなんて……」 「リリアちゃん、その歳ってなによぉ、でもいっか♪ それよりもリリアちゃん」 「……え、なに?」 「リリアちゃんも成長期ですものね、新しい水着を買ってもらいましょう♪」 「で、でも、今日のお買い物はお母さんが欲しい物をお父さんに買ってもらうんでしょう?」 「うん、だから私の水着とリリアちゃんの水着を買ってもらおうかなって思ってるの」 「うぅ……新しい水着は欲しいかもしれない、けど……」 「どうしたの、リリアちゃん♪」 「……わたし、去年のまだ着れるから」 「うん、知ってる」 「なんで知ってるのよ!?」 「リリアちゃんのお胸の成長は置いといて、新しいのは買ってもらいましょう。達哉、良いでしょう?」 「シンシアが欲しければ良いぞ」 「ありがと、達哉、愛してる」 「ちょっと、お母さん!2人の世界に入る前になんでわたしの胸のサイズ知ってるのよ!?」 「聞きたい?」 「……もういい!」  それからみんなで水着を選んで、試着したりして、その間の達哉の落ち着きのなさを見て笑ったりと  楽しい買い物の時間でした。  ランチをしてから家に帰ってきて、ソファに達哉と一緒に座って午後のお茶の時間。 「良いのか? 買い物と昼飯だけで」 「えぇ、だって今日1日は達哉が側にいてくれるんでしょう?」 「あぁ」  同じソファにすわって達哉に寄り添いながら、2人でお茶を飲む。  そんな穏やかな時間を過ごすのはいつものことかもしれないけど。 「こういう当たり前の時間こそ、私にとっては最高のプレゼントなの」 「……」 「達哉?」 「そう、だな、これからずっとこんな時間が続いていけるよう、俺は頑張るよ」 「……うん、達哉」 「ん?」 「格好付けすぎ、これ以上私を惚れさせてどうするの?」 「そうだな、なら少し遠慮した方が良いか?」 「それは駄目よ!」 「即答だな」 「えぇ、私に遠慮なんていらないわよ?」  私は達哉によりいっそう寄りかかる。 「そうか、なら遠慮は無しだな」 「達哉? あ……んっ」  今日という日は、まだ終わってない。 「ねぇ、達哉。この後もずっと一緒にいてね」
5月24日 ・夜明け前より瑠璃色な SSS”アイドル化計画” 「それじゃぁ着替えて来ちゃうね〜」  そう言うと菜月はバックヤードへと入っていった。  それを見計らうように、仁さんが開店準備をしている俺の所に近づいてきた。 「なぁ、達哉君。僕はちょっと考えたんだんだよ」 「いったい何をですか?」  嫌な予感がする、というか嫌な予感しかしないけど無視するわけにはいかないので返事する。 「このトラットリア左門がもっと儲かる仕組みをだ!」 「え……最近売り上げ落ちてるんですか?」 「いや、落ちてないよ」 「なら特に問題ないと思うんですけど」 「駄目だよ達哉君、向上心無くして成長は無いのだよ!」 「は、はぁ……」  まぁ、確かに向上心が無くなれば人は成長しないと思うけど。 「それと今回の儲かる仕組みって関係あるんですか?」 「あぁ、聞いてくれないか?」  そして一呼吸置いてから仁さんは語り始める。 「僕の料理の腕が上がっても親父殿に近づくだけで変化は無いだろう?」 「確かに同じ味に近づくだけならお客様から見れば変化はないかもしれないですけど、それが  一番じゃないんですか?」 「長い目で見れば一番だよ、だが短い期間ですぐに売り上げに直結は出来ない」 「まぁ、確かに」 「ならどうすればいいか、それはサービスの質をあげる事なんだよ!」  仁さんの言ってることは間違っていない、と思うんだけど……  何故か不安しか感じない。 「コストも抑えないと売り上げにはつながらない、そこでだっ!」  ババンッと、効果音が鳴ったような気になる仁さんの派手な動き。 「まずは看板娘で客を増やすっ!」 「……」 「我が妹は身体だけは育っただろう? それを利用する手は無い!」 「……」 「そこで、早速新ユニフォームを試すために、バックヤードに仕掛けをしておいたんだよ」  この間、俺は無言だった。  なぜなら、仁さんの後ろの、バックヤードの扉が開いており、そこからまだ着替えてない菜月が  現れていたからだ。 「そういうことなのね、兄さん」 「おぉっ、着替えたか我が妹よ……あれ? なんでまだ着替えてないんだ?」 「着替えるも何も、お店の制服が無ければ着替えられないでしょ!」 「その代わりの物なら置いておいただろう?」 「代わりって、これのこと?」  菜月が持っていた物は…… 「学院の体操服?」 「その通り! 育ちすぎた我が妹を活かすにはこの体操服が一番なのだよ!」 「兄さんのスケベっ!」  パコーンッ! 「きゃいーーーんっ!」  閃光の如く閃いた菜月の手から投擲されたしゃもじは仁さんの顎にヒットした。 「まったく、仁さん。ここはおやっさんの味が売りのお店なんですから、菜月の看板娘は  メインじゃなくて良いんですよ」 「ほぉ、タツ。良いこと言うな」  厨房からおやっさんが出てきた。 「仁、いつまでも寝てないで起きろ」 「うぃーっす」 「菜月も着替えて準備してくれ」 「予備の制服に着替えてくるね」 「タツも頼むぞ」 「はい!」  こうして仁さんの菜月アイドル化計画は白紙になったのだった。 「え、これって私のアイドル化計画の話だったの!?」  その翌日。 「やっぱり体操着ではなくスクール水着の方がいろんな客層をぎゃふんっ!」  話の途中に仁さんは壁へと吹き飛ばされた。 「兄さん、まだ懲りてないみたいね」  壁に叩きつけられた仁さんの足下にはしゃもじが落ちていた。
5月23日 ・夜明け前より瑠璃色な SSS”サードシーズン” 「ありがとうございました!」  最後のお客さんの会計を済ませて、私はレジの締めにかかる。 「お疲れ、菜月」 「達哉もお疲れ様」 「それじゃぁ俺は準備しちゃうな」 「よろしくね」  クローズの札はすでに出してあるのでもうお客は入ってこない。  その時間からの準備とは、まかないの夕ご飯の準備の事で、そろそろかな? 「こんばんは」 「あ、さやかさんに麻衣、いらっしゃい」 「もう準備始めてるんだね、私も手伝うよ」  麻衣は達哉の方へと小走りに走って行く。 「私も手伝おうかしら?」 「さやかさんはお疲れでしょう? 椅子に座って待っててください」 「そう? それじゃぁそうさせてもらおうかしら」  奥のテーブルをいくつかつなげて、大きな机を作る。  そして厨房ではお父さんと兄さんがまかないの料理を作り、そうしていつのもように  鷹見沢家と朝霧家合同の夕食となる・・・はずだった。 「菜月ちゃん、誕生日おめでとう!」 「え……あ、あぁっ!」 「もしかして忘れてたのかい、我が妹よ」 「そ、そんなことはナイデスヨ?」 「最近忙しかったのだから仕方が無いな、菜月」 「お父さんまで!」 「ほら、そんなことより菜月ちゃんは今日の主役なんだから、こっちに座って」 「さやかさん、押さないでって!」 「菜月、誕生日おめでとう」 「あ……うん、ありがとう、達哉」 「あれ? お兄ちゃんの時だけ菜月ちゃんの反応が違うね?」 「そりゃそうよ、麻衣ちゃん。だって達哉くんからのお祝いですものね」  麻衣もさやかさんもからかわないで! って言いたいんだけど、それが本当の事だから  何も言い返せないし 「菜月、顔が真っ赤だぞ?」 「兄さんはうるさいっ!」  私は条件反射でしゃもじをなげる。 「ぎゃおっ!」  それは兄さんの頭にクリーンヒットした。 「仁は放っておいて、食事にしようじゃないか。今日は菜月の誕生日だからな、腕によりをかけて  まかないを作ったぞ」 「あ、まかないなんだ……」 「いいのよ、麻衣ちゃん。左門さんの照れ隠しなんだから」 「さやちゃん、勘弁してくれ」 「ふふっ、さぁ食事にしましょう」  まかないとお父さんは言ったけど、明らかに残りの食材から作った訳では無い料理が並んでいた。 「お父さん、ありがとう。とっても美味しいよ」 「そうか」 「我が妹よ、この皿の料理は」 「普通」 「……厳しすぎないかい?」  いつもと同じ楽しい夕食はあっという間に時間が過ぎていった。 「お兄ちゃん、そろそろだよ?」 「そう、だな……」 「ん? 達哉、どうしたの?」 「あ、あぁ……準備してくるよ」 「それじゃぁ僕もあれを持ってくるかな」  達哉はバックヤードに、兄さんは厨房にと行ってしまった。 「?」  兄さんはきっとケーキを取りに行ったんだと思うけど、達哉はどうしたんだろう? 「え?」  突然電気が消えたと思ったら、厨房の方から明かりが近づいてきた。  それはケーキの上にのせてあるろうそくの明かりだった。 「準備はオッケーだよ、達哉君!」  兄さんの後ろに居た達哉が前に出てくる。 「達哉、それって」 「下手だけど、まぁ、聞いてくれると助かる」  そう言って達哉はギターを鳴らした。  それはギターを鳴らしただけの演奏だって素人でもわかる。  その音に合わせてみんなで歌ってくれる、ハッピーバースデー。 「……達哉、気障だよね」 「それが最初に言うことか? って、確かにそうかもしれないけど」 「ふふっ、でも格好良かったよ、達哉」  達哉は私の言葉に驚いた顔をする。そしてその表情が柔らかい笑みに変わる。 「そっか、ありがとうな、菜月」 「熱いなぁ、クーラーいれるべきでしょうか、父上」 「この時期のクーラーはまだ早いぞ?」 「でも、温暖化で熱くなってるから良いと思いますよ、左門さん」 「あはは」  四者四様でからかってくるその言葉に私の顔は真っ赤になっているだろう。  だって、目の前の達哉の顔も真っ赤だもん。  私も同じになってるに違いないよ、ね。  その後、どこでどう噂が流れたのかはわからないのだけど、何故かトラットリア左門で  誕生日に予約を入れると、格好良いウエイターさんがギターの弾き語りでお祝いしてくれると  言う話になってしまった。  冗談かな、と思ってたけど実際にそのイベント目当てで予約を入れるお客様が出てきてしまって…… 「僕もギターの練習した方がいいだろうか?」 「仁、おまえは将来歌手にでもなるつもりか?」 「歌手と料理人の二刀流、格好良いかも!」 「良いから今日の仕込みを始めろ」  そんな兄さんとお父さんの会話は、聞かなかったことにした。
5月20日 ・千の刃濤、桃花染の皇姫 SSS”言葉無くとも” 「報告は以上です」 「……」 「代行?」  進行の宗仁の声に我に返る。 「あ……ごめんなさい」 「お疲れのようですが?」 「大丈夫」  そう言ってから意識をしっかりと切り替える。  そしていつものように話をまとめ、そして金打の儀式を行う。 「誠忠!」  静寂な空気を震わす、鍔鳴の音とともに、奉刀会の定例会は終わった。 「ふぅ」  誰も居なくなった奉刀会本部で私はため息をつく。 「滸、お茶を入れたぞ」 「ありがとう、宗仁」  部屋に戻ってきた宗仁から熱いお茶を受け取る。 「……」 「滸、疲れてるのか?」 「そ、そんなことはないよ?」 「だがな、会議中心あらずという時間が何度かあっただろう?」 「う゛……」  自分でもわかるくらい、心当たりがありすぎる。  そんな姿を、奉刀会会長代行として見せられるものではない。 「宗仁……どうしようどうしよう!」 「落ち着け、滸。皆も疲れてるだけだとわかっている。誰も会長代行を責めやしない」 「そう、かな?」 「あぁ、だから今夜はもう休むといい」 「……うん、宗仁がそう言うなら、そうする」 「では、後片付けは俺がしておく」 「えぇ、お願いね」  結局、今日は何も無かった。  宗仁は以前の記憶を取り戻せていないのだから、覚えていないのも当たり前なのだけど。 「今はそういう時じゃない、一刻も早く戦力を整えないと」  そう、自分に言い聞かせた。  どんなに悩んでも、朝はやってくる。 「……」  なんだか身体が重く感じる、けど。 「休むわけにはいかないもの」  着替えて道場へと向かった。  道場にはいつものように宗仁が来ていて、稽古をしていた。  その稽古が終わるまで、私は正座して待つ。  ただ待つだけでは無く、宗仁の動きを見て、自分ならどう動くかと考える。 「……」  記憶を失っても動きは鈍っていない、それどころか日に日に強くなっているのがわかる。  奉刀会としては嬉しい事だけど…… 「どうした、滸」 「ひゃぁっ!?」  いきなり宗仁に話しかけられて、私は変な声をあげてしまった。 「な、なんでもないわよ! それよりも稽古は終わったのなら……始めましょう」 「そうだな」  お互い道場の中央に立ち、手合わせを始めた。 「やはり調子が悪いようだな」 「……」  今朝の手合わせは私の全戦全敗だった。  それはわかっていた事だ、稲生の剣術は心刀合一、昨日の件を忘れたふりをしても  しっかりと引きずっていた、だからこそ剣は乱れ、そして宗仁に負けたのだ。 「少し休むと良い」 「そう、だね……」  いつもなら気持ちの切り替えがすぐに出来るのに、今朝は出来なかった…… 「心の乱れには花が良いそうだ」 「宗仁?」  突然語り出した宗仁。 「それって花屋だから?」 「そういうわけで無いがな……滸」 「なに? ……え?」  宗仁の手にあるのは、小さな花束だった。 「済まなかったな、昨日は大事な任務があって準備出来なかった」  そう言って私に手渡してくれた「芍薬」の花束。 「誕生日の花は色々とあるそうだ、だが用意出来たのはこれだけだった、だが滸には似合うと思う」 「……どう、似合うと思うの?」 「そう、だな……後は牡丹と百合があれば良いだろう」  それって…… 「尤も、滸の場合はあの諺通りとは行かないがな」 「……宗仁の馬鹿」 「何故馬鹿にされるのかわからないのだが?」 「いいの、それよりも手合わせ、しない?」 「いいのか? 調子が悪いのだろう?」 「ふふっ、試してみる? 今は絶好調よ!」  鈍感や朴念仁って記憶喪失とは全く関係無いのね、だって前からそうだったんだから。  でも、そのおかげで今は身体が軽い。 「武人、稲生滸。参る!」  その後の手合わせは私の全戦全勝だった。
5月11日 ・大図書館の羊飼い SSS”続・メイドの日” 「あ、筧くん!」  部室に入ると白崎が寄ってきた。 「もうだいじょうぶ?」 「あ、あぁ、そんなに悪かったわけじゃないし、念のためだったしな」 「そっかぁ、玉藻ちゃん良かったね」 「そこで何故私に振るんだ?」 「なんででしょうね、ふふっ」  ご機嫌な白崎を横目に俺はいつもの椅子に座る。 「よぉ、もう身体は大丈夫なのか?」 「あぁ、とりあえずはな」  どうして体調の話をされるのか、それは昨日の部活を休ませてもらったからだ。 「朝から筧くんの顔色、悪かったから心配だったんだよ」 「そ、そうか……心配かけて申し訳ない」 「なぁ、京太郎。本当に大丈夫なんだな?」 「今日は大丈夫だよ」  そう、今日は大丈夫だろう。  事の発端は昨日の朝だった。  いつも見ないようにしてる、鏡の中の自分の目をたまたま見てしまった俺は、未来予知を  してしまったのだ。  その予知の内容の酷さに、俺はどう回避するか考えながら授業を受けていたが、そのときの  俺の顔色が悪かったのが良かったのだろうか、簡単に図書部を休むことができた。  その結果、俺はその予知を回避する事に成功したのだ! 「しっかし残念だったなぁ、昨日のチラシ配りには京子ちゃんに頑張ってもらおうと思ってたのに」 「……」  知ってる、とは言えなかった。  そう、俺の予知で見えたのは、俺がメイド服を着てチラシ配りをしてる場面だったのだ。 「そうか、それはすまなかったな、でも俺はあの格好はもうしないぞ!  というより昨日チラシ配りの予定なんてあったか?」  あの格好をする事を否定しつつ、すぐに話題を変える事で追求をかわす。 「あぁ、急な依頼があってな、手の空いてるメンバーだけで依頼を受けることにしたんだ」 「すまなかったな」 「気にするな、体調管理も私の仕事だしな」 「……」  玉藻のまっすぐな言葉に、俺はいたたまれない気持ちになる。 「本当に残念だったなぁ、昨日の依頼は間違いなく京子ちゃんの為にあったようなものなのにな」 「高峰、どういう意味だ?」 「昨日は5月10日だっただろう? 5月は英語でMay! そして10はドって読める。  つまり、昨日はメイドの日だったんだ!」 「依頼してきた部も京子ちゃんを指名してたんだよ?」  ……ほんと、休んで正解だったな。 「昨日は手伝えなかったのは申し訳ないと思ってるが、もう京子は引退したんだ。二度と会うことは  無いだろう」 「そうか? でも勿体ないよなぁ、あんな黒髪美人のメイドさんにもう会えないなんて」 「男を美人と言うな、それに黒髪美人なら玉藻がいるだろう? 玉藻だったら似合うだろうし」 「なっ!?」  俺の言葉に玉藻が驚きの声をあげる。 「きょ、京太郎!? なななな、なにを言ってるんだ!?」 「何って事実だけど」 「じ、事実!?」  玉藻は顔を真っ赤にしてあたふたしている、今の玉藻は美人というか、可愛いな。 「あー、なんだか急に暑くなってきたね」 「そうだな、窓あけるか?」 「お願い、高峰くん」  今日の部活動も終わった後の帰り道。 「な、なぁ、京太郎?」 「ん?」 「さっきの話だがな……」 「……どの話だ?」 「その、な。メイド服の話だが」 「俺は着ないぞ!」 「その話じゃない、じゃなくって、その話なのだろうか?」 「玉藻?」 「その、だな……私があのような洋風の女中の格好をして、その……似合うだろうか?」  その言葉に俺は玉藻のメイド服姿を想像してみた。 「うん、よく似合うと思うぞ」 「そ、そうか……なら、今度はその格好で料理をしてみようと思うのだが……」 「楽しみにしてるよ」 「あ、あぁ、任せておけ! あ、でも料理中は駄目だぞ?」 「何がだ?」 「京太郎、おまえはこの前、料理中に襲ってきたの、もう忘れたのか?」 「……」  体操服エプロンの時の話だな。 「あー、すまない。あのときは玉藻に我慢出来なかった」 「そ、そうか。私としては求められて悪い気分ではないのだがな、料理中は危険だから、な?  その……終わった後なら……」  その意味することを想像して、二人で顔を真っ赤にした下校だった。
5月10日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”メイドの日” 「やぁ、みんな元気にやってるかい?」 「兄さん、来るの遅い!」 「いやぁ、すまないすまない。ちょっと頼んだ物を取りに行ってたんだよ」 「頼んだ物ですか?」 「あぁ、これだ!」  そう言って会長が取り出した物は…… 「メイド……服?」  そう、それは美化委員の制服であるプリム服とはまた違ったデザインの服だった。 「良いだろう?」 「はぁ……それで、それはまたどこかの委員会の制服にするんですか?」 「支倉君、今日は何の日だか知ってるかい?」 「え? 今日は何かの日だったんですか?」 「今日はだね、メイドの日だ!」  会長のその一言に、生徒会メンバーは沈黙で答えた。 「あれ? どうしたんだい?」 「い、いえ、今日が何故メイドの日だかわからないんですけど、外国でそう言う日でもあるんですか?」 「チッチッチッ、支倉君甘いね!」  会長はメイド服を机に上に置きながら話を続けた。 「5月、英語で言うとMay!」 「そうですね」 「で、今日は10日、10はドとも読める!」 「兄さん、それって無茶ありすぎじゃないの?」  瑛里華の呆れた声には答えず、会長は話を続けた。 「Mayの10! だからメイドの日なのさ」 「……」  こじつけとしか思えないけど、何とかの日はたいていそう言う物だったなぁ、と思い出す。 「そこでだ、せっかくのメイドの日だから我が生徒会の女子はメイド服を着て作業をするべきだと  思わないかい?」 「思わないわよ!」 「そう言うなって瑛里華、せっかく特注でサイズぴったしで作ったんだぞ?」 「サイズ……」  瑛里華は慌てて机の上にあるメイド服を手にとって確認している。 「特注、だと?」  ここまで関わりたくなかったのだろう、東儀先輩はその言葉には反応した。 「あれ? ここはすぐに着替えて、わぁ、ぴったし♪ 可愛い♪っていう展開じゃないのかな?」  会長は脳天気にそう言う、俺はそれを聞き流しながら、帳簿上のとある数値を思い出していた。 「東儀先輩、もしかしてあの用途不明金は……」 「……伊織、このメイド服はどうやって作った?」 「2着とも外注だよ? 本場の有名所に頼んだだけの物にはなってるぞ?  それにだな、征。これを着てお茶をいれる白ちゃんは可愛いぞ?」 「……だろうな、だがな、伊織」  そう言うと東儀先輩は会長の右肩に手を置く。 「予算、生徒会から出したのか?」 「もちろん♪」 「……」  東儀先輩の動きが止まった。  そのとき、あいてる左の方に瑛里華が手をかける。 「兄さん、なんで私の洋服のサイズを知ってるのかしら?」 「制服の発注の記録を見たからに決まってるだろう?」 「え? そ、それじゃぁ伊織先輩は私のサイズもご存じなのですか?」  メイド服を珍しそうに見ていた白ちゃんが、会長に問いかける。 「もちろん、でないと発注できないじゃないか」 「……恥ずかしいです」 「恥ずかしがることなんてないぞ、白ちゃんは可愛いサイズって、いたたったたっ!」  突然悲鳴を上げる会長。 「伊織、おまえは白の何を知ったんだ?」 「ちょ、肩が痛いっ、って瑛里華も!?」 「えぇ、そうね。兄さんは私のプライバシーを侵害したんですものね、ふふふ」 「え、瑛里華さん? その笑いは怖いから!?」 「伊織」 「兄さん」 「ちょっと話があるから、行こうか」 「ちょっと話があるわ、行きましょう?」 「え? ちょっと、二人とも? ま、まって、支倉君、助けて! ヘルプミー!」  肩をつかまれた……いや、指が会長の肩に食い込んでいた気がするが……  その会長は二人に連れられて部屋から出て行った。 「支倉先輩……」 「……白ちゃん、気にしたら負けだと思わないか?」 「?」 「それよりも二人が帰ってくるまでに仕事を進めておこうか」 「はい、お手伝いします……あれ? 帰ってくるのは二人なのですか?」 「あぁ、多分ね……」  その直後、遠くから誰かの悲鳴が聞こえた気がしたが…… 「支倉先輩、今の声って」 「え? 何か聞こえたのかい?」 「……きっと気のせいですよね?」  白ちゃんは賢かった。
5月4日 ・大図書館の羊飼い SSS”初夏の通り雨” 「外は暑いな」  部室棟での仕事の依頼を終えた俺は外に出て上着を脱いだ。 「空は眩しいくらい青い……嫌な雲も見えるな」  すぐに一雨は来ないだろうと思い、ゆっくりと歩き始める。 「……あれ?」  少し歩くと見慣れた巫女の姿をしたつぐみを見つけた。 「つぐみ」 「あ、京太郎くん、お疲れ様」 「お疲れ、っと。それよりどうしたんだ? そのちらし配りは」  今日のスケジュールに散らし配りは無かったはずだし、あったとなれば複数のメンバーで  行うのが普通だ。  だけど今はつぐみ以外には誰も居ない。 「うん、急な依頼だったからね。私はちょうど仕事が無かったし受けちゃった」 「それ、桜庭が聞いたらなんて言うだろうな」 「あは、あはは……」  つぐみが苦笑いする。 「で、あとどれくらいなんだ?」 「え?」 「ちらし」 「もう少しで終わるよ、だから京太郎くんは先に戻ってて大丈夫だよ」 「そうか、だが断る」 「え?」 「ちらしを配るだけなら今の格好のままでも出来るしな、早く終えて一緒に帰ろう」 「……いいの?」 「俺が良いって言ってるんだから気にするな」 「ありがとう、京太郎くん」  それから程なくして散らし配りは終わった。  俺も一応手伝ったが、巫女のコスプレをしてるつぐみと、制服姿の俺ではちらし配りの効率は  つぐみの方が良い。 「結局あまり手伝えなかったな」 「そんなこと無いよ、京太郎くんが居てくれて助かっちゃったよ」 「そうか? ありがとな、つぐみ」 「お礼を言うのは私の方だよ?」 「そうだな」 「ふふっ」  そんな良い雰囲気は、一滴の雨水に邪魔された。 「あ、雨?」  降り出したと思ったら雨はすぐに本降りに、いや、土砂降りになった。 「きゃぁ」 「つぐみ!」  俺は周りを見渡す、場所が悪く雨宿り出来る建物は無い。 「つぐみ、こっちだ」  それでもなんとか見つけた緑地帯の樹の下に駆け込んだ。 「だいじょうぶか、つぐみ?」 「うん、濡れちゃったけど大丈夫だよ、それより良かったよ」 「ん、何がだ?」 「ちらし配りの途中に降られたらちらしが駄目になってたもんね」 「……ったく、つぐみは優しすぎるな」 「え? そう、かな?」 「あぁ……っ!」  そのときに俺は気づいてしまった。  つぐみの巫女装束が雨に濡れて、肌に張り付いていることに。  白い上着はうっすらと肌色が透けて見える、柔らかい胸の曲線をしっかりと浮かび上がらせて  しまっており、気のせいか先がとがって見える。 「……つぐみ、これを。濡れてて気持ち悪いかもしれないけど、着てないよりマシだから」 「だいじょうぶだよ、今日は気温が高かったからこれくらいで風邪はひかないと思うよ」 「……そのさ、透けてるからさ」 「え……きゃっ!」  その場で胸を押さえてかがみ込むつぐみ。  そして上目遣いに、涙目で俺をにらんでくる。 「見た?」 「……見えなければ、注意できないだろう?」 「……京太郎くんのえっち」  そう言うつぐみの視線を受けながら、俺は自分の上着を掛ける。 「あ、ありがとう」  濡れた上半身はなんとか隠せそうだ、したのミニスカート形の袴も身体に張り付いてるが  こちらは色合いから透けて見えないが救いだ。  雨が小降りになってきた、これなら図書部の部室までなんとか帰れそうだな。 「つぐみ、そろそろ行かないか?」 「まだ雨が降ってるよ?」 「降ってるがもう今更だろう? それに……いや、なんでもない」  その先は言うことではないだろう、けど 「それに、なに?」  つぐみはその先を聞いてきた。 「……」 「京太郎くん?」 「あー、もう、雨が完全に上がったら学生が多く歩き出すだろう? そんな他の学生に  今のつぐみを見せたくないだけだよ!」  俺は視線をそらして白状した。 「ふふっ、ありがとう京太郎くん。それじゃぁ部室に戻ろうか?」 「……」 「大丈夫だよ、京太郎くん。私をすべてを見て良いのは、京太郎くんだけだから。  他の人には絶対見せないよ? だから安心してね」 「……そうはいってもさ、つぐみって結構おっちょこちょいだからさ」 「えー、そんなことなんてないよ? 私はこれでもしっかりしてるんだからね!」 「はいはい、それじゃぁ行こうか」  そう言って俺は手を出す、けど。 「うん!」  つぐみは俺の手を取るのでは無く、腕を抱きしめてきた。 「つ、つぐみ!?」 「この方が他から見えにくいでしょ?」 「……そうだな」 「早く戻ろう? あ、でもゆっくりでもいいかな?」  早く戻らなければつぐみの濡れた姿を見られてしまう、それは嫌だ。  けど、ゆっくり戻ればこの感触が……いや、やっぱり見られる方が嫌だ。 「そうだな、早く戻ろう」 「ふふっ」
5月3日 ・大図書館の羊飼い SSS”前世? 来世?” 「京太郎さん、私夢を見たんです」  佳奈はベットの上に上半身を起こして、俺に語りかけた。 「夢?」 「えぇ、あ、この場合の夢は将来の夢とかじゃないですよ?」 「わかってるって、それで?」  俺は話を促す。 「私はですね、なんとお姫様だったんです!」  そう言って胸を張る佳奈。  ……ちょっと今語弊があったかも。 「京太郎さん、今何か失礼なこと考えませんでしたか?」 「あ、いや、お姫様ってどんなお姫様なのかなぁ、って思っただけだぞ?」 「はい、そのお姫様なんですけどね、武闘派なんです!」 「……は?」  お姫様ってたいていの物語では深窓の令嬢とか言われるタイプだよな。 「そりゃ、武闘派のお姫様がいてもおかしくないけど……」 「宰相に国を売られて他国に侵略を許されて、命からがら逃げ出した亡き国の皇姫です」 「意外に設定細かいんだな」 「設定言わないでくださいよぉ」 「あぁ、ごめんごめん」 「それでですね、亡命した国で剣の修行をして敵討ちをするんです」  佳奈の言うお姫様は本当に武闘派だった。 「そうして国に帰ってきたら、亡命するときに助けられた武人さんと再開するんです」 「ほぉ、そうして敵討ち出来たのか?」 「いえ、その武人さんは記憶喪失だったんです」 「話が深いな」  なんだか始めて手に取る小説を読んでいるような、佳奈の話にはそんな”早く次を知りたい”  という感情を呼び起こさせるものがあった。 「一度滅んだ国は、偽の姫を擁立して一応は成り立ってる状態なんですよ」 「……ふむ、だとすると単純にお姫様が敵討ちしても話は終わらないな」 「なんでそう思うんです?」 「一度は滅んだ国なんだろう? それで、偽物とはいえお姫様が居て立ち直ってるなら  そのお姫様を倒しただけなら単に国家の簒奪にしかならないだろう」 「さっすが京太郎さん、見るところが違いますね」 「それに、偽のお姫様ってことはどうせ宰相の操り人形なんだろう?」 「はい! よく解りますね」 「なんとなく、な」  いろんなシチュエーションがあるが、おおむね物語の基本だとそうなるからな。  まぁ、そこに読者を驚かせる何かしらの仕掛けがあるのもまた、基本だけどな。 「それで敵討ちはしたのか?」 「いえ、私はそれを諦めました」 「そうなのか?」 「はい、その武人さんに諭されて、敵討ちではなくちゃんと宰相を糾弾することにしたのです」 「なるほどな……」  それなら国の体制を変えても問題は無いし正当性はこちら側にあるわけだ。 「そんな建国祭の時に事件は起きたのです……」 「本当に夢なのか、それ。良くできすぎだぞ?」 「私もそう思います、けど……」  佳奈が何か言いにくそうにしているのがわかる。 「どうした?」 「実はですね……そのお祭りの日に私の知らないところで爆発事件が起きたんです、けど」 「けど?」 「そこで目が覚めちゃいました」 「……」  そりゃ夢だものな、目が覚めたらお終いだな。 「とっても残念です、すごく良く出来たお話だったし、最後まで見てみたかったです」 「それを言うなら俺もだよ、佳奈の夢だから一緒に見れないけど話はものすごく気になるしな」 「はい、それじゃぁ一緒に寝ます?」 「それは吝かじゃないが、必ず続きを見れるっていう保証はないよな」 「そうですよね〜、きっと9月23日になれば続きは見れると思いますよ」 「なんだ、その具体的な日時は?」 「なんなんでしょうね、私もよくわかりませんけど、なんとなくそれだけははっきりと覚えてるんですよ。  不思議な夢もあったもんですね」 「……まぁ、佳奈だしな」 「なんかけなされた気がする」 「俺が佳奈をけなすと思うか?」 「そうですね、京太郎さんはそんな事しませんものね。たまに不穏なこと考えるくらいで」 「……」 「遅くなったけど起きましょうか」 「そうだな、そろそろ準備しないとバイトに遅刻するぞ?」 「え、ああぁぁっ! もうこんな時間! 急がないと嬉野さんにおしおきされちゃう!」  嬉野さんのおしおき……いや、考えるのは止めておこう。 「京太郎さんだけずるいです」  佳奈に付き合う形で部屋を出たため、俺は朝食を食べていないからアプリオで食べる事にした。  同じ時間に出た佳奈はバイトのためまだ朝食にありつけていない。 「バイトなんだからがんばれ」 「うぅ……あ、いらっしゃいませ!」  新たなお客が入ってくるとすぐに接客モードに切り替わる、さすがは佳奈だ。 「あ、歌手の人」 「え?」  俺は佳奈の言葉に入ってきた生徒を見た。 「望月さん?」 「おはよう、筧君に鈴木さん。でも、その歌手の人ってどういう意味なの?」 「あ、あはは、なんでもないです、地下活動の資金の為アイドルをしてるだけですから!」 「?」  俺も望月さんも意味が解らなかった。
5月2日 ・千の刃濤、桃花染の皇姫 SSS”貸し借り” 「待たせたな」  花の配達を終えた俺は車に戻ってくる。助手席で待っているのは朱璃だった。 「大丈夫よ、仕事だもの」  朱璃が俺の隣の部屋に住むようになってから数日後、身体が復調してすぐに俺の仕事を  手伝うようになった。  朱璃曰く「お世話になってるんだから」だそうだ。  俺としても一緒に居てくれるのなら、何かあったときすぐに動けるので安心だ。 「次はどこのなの?」 「次はだな……」 「どうしたの?」 「あぁ、共和国人の屋敷だな」 「げ」 「主以前に女性としてその発言はどうかと思うぞ?」 「べ、別にいいじゃないの、ここには宗仁しかいないんだし」  その俺が問題あると思うのだが、あえて口にはしなかった。  配達先の玄関先で花を受け渡す。 「ご苦労、もう帰れ」 「代金を頂いてませんが」 「払う必要あるのか?」  そう言いながら共和国人の客は請求書を破り捨てる。 「当たり前だと思いますが」  俺はそう言いつつも、相手がそれで納得するわけが無い事を知っていた。  自意識が高すぎる共和国人の、特に軍人などは俺たち皇国人に対して見下す事が多い。  町でも代金を払わず問題になることも多く、それでも共和国人は裁かれない。  理不尽だが、戦争に負けるとはそういうことなのだ。  だからといって引き下がるわけにはいかない。 「俺たち共和国が守ってやってるんだぞ? それだけで充分だろう、皇国人?」  どう返しても揚げ足をとるだろう、この共和国人からどうやって代金を受け取るか  考え始めたそのとき、朱璃が車から降りてきた。 「朱璃?」  俺の声に朱璃は軽く微笑むと、共和国人の方へと向かう。 「このお花に対する正当な代価をお支払い頂けないということでしょうか?」 「正当? そんなもの皇国人にあるのか?」 「お支払い頂けないと私のバイト代が出なくなるのですけど」 「そうか、それは残念だったな、俺には関係無いことだがな」 「そうですか……バイト代が出ないと学院に通えなくなってしまいます」 「学園? 皇国人が学園に通う必要なんてないだろう? なんなら身体を買ってやろうか?」  そう言って下卑た笑いをする男に、俺は怒り、そして 「まって、宗仁。学院のことは生徒会長に相談してみるわ」 「朱璃?」  俺を抑えた朱璃が生徒会長の事を口に出す、その意味を瞬時に理解する。 「エルザ・ヴァレンタイン生徒会長様に、か?」  俺はわざとすべての名前を口に出した、その効果はすぐに出た。  笑い声をあげてた共和国人が急に青ざめたのだ。  当たり前だろう、学院の生徒会長でもあるエルザは、上級大佐の地位を持っているのだから。 「エルザ様は学院に通う皆に言ってくださったわ、何か困ったことがあったら相談しないさい、とね」 「そうか、通えなくなるかもしれないのだからな、相談してみると良いかも」 「えぇ、では戻りましょうか、宗仁」 「おい、ちょっと待て!」  俺たちのやりとりに共和国人の客は慌てて俺を止める。 「何でしょうか?」 「……いくらだ?」  ここで何が、と言うと話が拗れる。 「先ほど請求書をお渡しした通りですが」 「……もう一度請求書を出せ」 「ありがとうございます」  俺は車の中から予備の請求書を渡して、代金を受け取った。 「これでおまえのバイト代は出るんだろうな?」 「はい、ちゃんと売り上げがあれば大丈夫です。あ、でも花屋の売り上げ自体が減ると出ないかも  しれませんね」 「っ! わかった、次も注文してやるからありがたく思え!!」  そう言うと共和国人の客は扉の向こうに消えていった。 「ふふっ、あはははっ!」  車に戻って走り出した後、助手席の朱璃は大声で笑い出した。 「あー、面白かった〜」 「俺としては助かったのだが」 「なによ〜、文句あるの、宗仁?」 「いや、無い。というより本当に生徒会長に相談するつもりだったのか?」 「そんな訳無いわよ、あんな女に借りを作るなんて嫌だもの」 「……そうだな、でも名前を使ったことは借りになるのではないのか?」 「問題無いわ、今の共和国は皇姫の名前を勝手に借りて統治してるじゃない、だから貸し借りは無いわ」  今居る皇姫、翡翠帝は偽物だ。本物は俺の隣にいるこの少女なのだから。 「ねぇ、宗仁、こんな主じゃ失望したかしら?」 「そんなことはない、俺は良い主に出会えて幸せに思うぞ」 「……ねぇ、嫌み言ってない?」 「何故嫌みになる? 俺は本心を言っただけだが」 「あーもう、そうよね、宗仁ってそういう人だったよね!」  顔を背けた朱璃、俺は何か間違えたことを言ったのだろうか?  結局朱璃は配達が終わるまで俺と顔を合わせてはくれなかった……
4月24日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”肌色率”  授業前の朝の教室、いつものように後ろの扉から桐葉が入ってくる。 「おはよ……?」  挨拶をしかけて、俺は違和感を感じた。  それと同時に教室内の空気も一瞬固まった気がした。 「……」  桐葉は気にした様子も無く、自分の席に座る。  俺はその姿を見て、違和感の理由に気づいた。  その違和感は、肌色だった。  むやみに肌をさらすのは良くない、みたいなことを桐葉は言っていた事がある。  その考えのせいか、冬服の時の桐葉はほとんど肌を見せない格好を好む。  にもかかわらずだ。  ブレザーをしっかりと着込んでいるにもかかわらず。  ……生足だった。  俺は思わず桐葉に訪ねてしまった。 「桐葉、何か心境の変化でもあったのか?」 「何も無いわ」  返事はそっけなく、そのやりとりはフリーズドライと言われて孤立してた頃と同じ雰囲気だった。 「……」 「……」  授業中は何も問題無い、けど休み時間とか妙に桐葉に視線が集まるのがわかる。  それも、桐葉の脚に、だ。 「……」  当の桐葉は気にしてないのか、頬杖をつきながら窓の外を眺めている。  だが、俺は落ち着かなかった。  何故だろう、と考える……までもない。  俺の桐葉の脚を、男子生徒が見つめているのが気にくわないのだ。  他の女子だって、ストッキングを穿いていない生徒も多い、のに何故か桐葉に視線が集まる。 「それだけ魅力的なのはわかる、けど」  気にくわないものは、気にくわないのだ。 「どうしたの?、孝平」  昼休みになってすぐに俺は桐葉を連れ出した。 「あのさ、桐葉。今日はストッキングはどうしたんだ?」 「……」 「まさか忘れてきたとか?」 「穿き忘れるなんて馬鹿なことすると思うのかしら?」 「桐葉に限ってそんなことは無いよな……」 「そうね、穿きたくても穿けない事情があっただけよ」 「事情……聞いてもいいか?」 「どうして?」 「そりゃ協力出来ることなら協力したいからだよ、みんなにじろじろ見られるのも嫌だしな」 「……孝平、今の言葉の意味、わかってるのかしら?」 「言葉の意味……あ」  そうか、どうして気にくわないのか。  それは嫉妬だ。  桐葉の脚を皆がじろじろ見つめる事が嫌なのは、独占欲から来る嫉妬だったんだ。 「……ふふっ」  嫉妬してることを告白した俺は顔を赤くしてうつむいてしまった、その姿に桐葉が微笑む。 「でもね、これは孝平の自業自得なのよ」 「自業自得?」 「えぇ、孝平。ここ数日の夜の事、覚えてるかしら?」 「夜の、事……」  そういえばここ数日は毎晩、桐葉と愛し合ってたよな。 「孝平はせっかちなのよね、ちゃんと脱ぐ前から始めてしまうですもの」 「……」  その意味をようやく理解した。 「私のストッキング、脱がそうとして伝線させたり、脱がさず破いたり……」 「申し訳ありませんでした!」  桐葉が生足で登校した理由がわかった俺はその場で深く頭を下げるしか無かった。 「別に構わないわ、それだけ私が愛されてるって実感できるから」 「……そう言って頂けると助かります」 「でも、少しは自重してくれないと、また嫉妬してしまう羽目になるわよ?」 「……はい」 「それじゃぁ孝平、私はここで待ってるから購買に行ってきてもらえるかしら?」 「そうだね、そろそろお昼ご飯買ってこないと昼休みなくなっちゃうからね」 「えぇ、それと私のストッキングも買ってきてね」 「……え?」 「だって、私の脚を他の人に見られるの、嫌なんでしょう?」 「それはそうだけど……」 「なら代わりに買ってきてくれても良いわよね?」  それは難易度が高すぎないか? 「あの、桐葉、さん?」 「早くしないとお昼ご飯食べれなくなるわよ?」  今の俺に逃げ道は、なかった……
4月13日 ・千の刃濤、桃花染の皇姫 SSS”2日遅れのプレゼント” 「ねぇ、聞いてる?」 「聞いてますよ」 「ならいいけど……」  私は宗仁のバイトしている花屋に来ていた。  そして文句を……いえ、彼に対しての文句じゃないからこれは”愚痴”ね、をこぼしていた。 「そりゃ、私の立場だっていうのもわかってるけどね、学院のクラスメイト達の誘いを  勝手に断られたら嫌じゃない?」  2日前の誕生日、せっかく親交を深めたクラスメイト達から誕生会を開いてくれるって言われてたのに  お父様が勝手にキャンセルしてしまったのだ。 「共和国の軍人を集めてのバースディーパーティーなんて、肩がこるから嫌なのよ、それも集まった  軍人は私を祝うんじゃなくて、私を見定めてるだけだし」 「そうですね」  彼は返事をしながら店内から花を集めてきて花束を作っている。 「ねぇ、本当に聞いてるの?」 「聞いてはいますよ、でも今はバイト中なのでそれ以上はどうしようも無いですから」 「そっかぁ、バイト中だもんね」 「……」 「ねぇ、宗仁。君から仕事を奪っちゃおうか?」 「……何をなされるつもりですか?」 「んとね、花屋の花をすべて私が買うの、そうすると在庫が無くなるから仕事も無くなるわよね?」 「地味に効く嫌がらせですね……あぁ、でも売り上げにはなるからいいのか?」  私の冗談に本気になって悩む彼がなんだかおかしくて思わず笑顔になる。 「ふふっ、冗談よ。いくらなんでも私のお小遣いじゃ買い占めは出来ないわよ」 「そうですよね」 「えぇ、店の買い占めなんてとてもじゃないけど出来ないわ」 「……」  私の言葉に驚いたような顔になる、けどそれも一瞬ですぐに手元の仕事に戻っていく。 「クラスメイト達からもちゃんを祝って欲しかったなぁ」 「仕方がありませんよ、”エルザ様”であらせられる以上、当日に何か行動を起こせる学院生なんて  いませんから」 「そりゃわかってるけど!」  いくら共和国が国を治めてるからといっても、未だに皇国の反乱分子も多くいる。  そういう”気が抜けた瞬間”が一番危険なこともわかってるけど…… 「でも、”エルザ様”ではなく、”生徒会長”になら問題は無いわけですよね」 「……?」 「生徒会長、今まで俺がしていた仕事、見てましたよね?」 「え、えぇ……花束を作ってたのよね、注文をうけてたのでしょう?」 「では、この花束には何も仕込まれてないのも見てましたよね?」 「確かに……」  店内から花を選んで集めて束にする、その作業に何か特殊な物を仕込んだ形跡は無かったはず。 「では、生徒会長、2日遅れですが誕生日おめでとうございます」 「……え?」  今束ねられたばかりの花束を渡される。  その花束の美しさに思わず目が奪われる。 「……むー」 「何かお気に召しませんでしたか?」 「いーえ、何もないわよ!」 「その割には不機嫌ですけど……もしかして花は嫌いですか?」 「大好きよ!」 「……? 別に危険な物は包んでませんし何も仕込まれてませんよ?」  彼は、宗仁はわからないって顔をしている。 「はぁ」  普通、こういうときは花束に思いを込めるものなんじゃないのかしら?  そう、口には出せなかった。 「と、とにかくこの花束には罪は無いわよね、うん!」 「元から罪なんて無いですけど」 「いいの! ありがとう、もらっておくわ」  学院生がバイトしている花屋でもらった、誕生日祝いの花束。  これ以上の花束は、誕生日当日のパーティーでいくつももらったけど。 「この花束が一番綺麗ね」  私はそう思った。
4月1日 ・sincerely yours SSS「嘘が嘘の嘘」 「ねぇ、リリアちゃん。大事な話があるの」  夕食後に、お母さんが真面目な顔をしてそう言った。 「……」 「え、なに? リリアちゃん、なんでそんな顔するの?」 「だってね、お母さんが真面目な顔するときってほぼ100%でろくでもないことなんだよね」 「去年より確立上がってる!? って、そんなことないわよ。今日は真面目な話よ?」 「疑問系になってるし、汗かいてない?」 「そ、そんなこと無いわよ?」 「……で、大事な話って何?」  多分話を聞かないと先に進まないだろうから、促しておく。 「ごめんなさい、リリアちゃん。実はね、私は……」 「17歳じゃないってネタなら去年もしたよね」 「……」 「……」  朝霧家のリビングは沈黙に支配された。 「……」  そうしてる内に、お母さんの目が涙目になる。  たいしたことをしたわけじゃ無いのに、もの凄い罪悪感がのしかかってくるのがわかる。 「……はぁ、お母さん。テイク2、オッケー?」 「……うん、ありがと、リリアちゃん」 「ごめんなさい、リリアちゃん。実はね、私は……17歳教に入ってるだけで17歳じゃないの!」 「……うん」  わざわざやり直したけど、結果は去年と同じだった。 「……ぐすっ」 「あー、もう、わかったからテイク3、いい?」 「うん♪」 「ごめんなさい、リリアちゃん。実はね、私は17歳じゃなかったの」 「え、嘘!?」 「うん、嘘よ、だって今日はエイプリルフールでしょ?」 「そうだったよね……」 「ふふっ、リリアちゃん騙された♪」 「で、実際には17歳と何ヶ月なの?」 「……」 「……」 「ぐすっ、達哉ぁ、リリアちゃんがいぢめるの!」  お母さんは涙目になりながらお父さんの所にかけていった。 「わたし、お母さんをいじめてなんかいないよ?」  お母さんはソファに座ってるお父さんに抱きついて泣いていたけど……  きっと泣いてるのも嘘なんだろうなぁ。 「……いや、お母さんのことだから本当に泣いてるかも」  お父さんにあやされてるお母さんを見ながら、今日も平和だよね、と思った。
[ 元いたページへ ]