思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2015年第1期
3月29日 大図書館の羊飼いSSS”誕生日の朝” 3月14日 sincerely yours short story「ホワイトディラプソディ」 3月13日 夜明け前より瑠璃色な MoonlightCradle SSS”半日だけのバカンス” 3月6日 夜明け前より瑠璃色な MoonlightCradle SSS”酔った勢いで” 3月1日 sincerely yours short story「パジャマ・じゃまだ?」 2月22日 大図書館の羊飼いSSS”ねこの日狂想曲” 2月14日 sincerely yours short story「バレンタインラプソディ」 2月5日 FORTUNE ARTERIAL SSS”春を迎えた寒い日に” 1月30日 sincerely yours short story「育ち盛り」 1月24日 大図書館の羊飼い SSS”女の子だから” 1月22日 sincerely yours short story「油断大敵」 1月20日 処女はお姉さまに恋してる2人のエルダーSSS ”母親” 1月8日 sincerely yours short story「朝霧家の伝統」
3月29日 ・大図書館の羊飼いSSS”誕生日の朝” 「ん……」 「おはよう、京太郎くん」 「あぁ、おはよう……」 「寝ぼけてるの? ふふっ、可愛い」  寝ぼけてる? 俺が?  目の前いっぱいに広がるつぐみの顔を見ながら、そんなことを考える。 「……つぐみ?」   「うん、そうだよ」 「……あぁ、おはよう、つぐみ」 「おはよう、京太郎くん。って挨拶はさっきしたんだけどね」 「そうだったな、なら」  俺はつぐみに軽く口づけをする。 「改めて誕生日おめでとう、つぐみ」 「ん……うん、ありがとう!」 「さて、とりあえずは起きるか」  俺は起き上がるために上半身を起こそうとする。 「え、ちょっと待っ、きゃっ!」  俺が起き上がることでかけられていた布団がまくれる。  そこには一糸まとわぬつぐみの姿があった。 「京太郎くんのえっち!」    胸を隠そうとするつぐみ、自分の胸を抱きかかえるようにすればするほど、その大きさと  柔らかさを強調することになる。 「京太郎くん、昨日の夜あんなにしてくれたのに、こんなに……」 「あ、いや、その……」 「……京太郎くんのえっち」 「ふぅ…」  小さな机の上にはトーストとジャムと紅茶が並べられている。  いつものつぐみだったら材料が無いなら無いなりに色々と工夫してくれるのだけど。 「ごめんね、ちょっと疲れちゃっててちゃんと料理出来なくて」 「いや、謝るなら俺の方……だよな」 「そう、だよね? 私悪くないよね?」  つぐみは少しだけ機嫌が悪かった。 「今回の件については俺が全面的に悪いのだけど、あえて言わせてもらう。つぐみも悪い」 「えー? どうして?」 「だって、あんな姿見せられたら、なぁ?」  俺の言葉につぐみの顔が真っ赤になる。  起きたとき何も着てなかったのは俺も一緒だった。  そしてそれを鎮めてくれると言って一緒にシャワーを浴びたわけだけどそれですむ訳は  無かった。それが俺とつぐみが朝から疲れてる理由だった。 「こういうとき温泉とかだったら疲れがとれるのかなぁ?」 「どうだろうな、今度は試してみるか?」 「……京太郎くんはえっちだから一晩中寝かせてくれそうに無いかもしれないね」 「それを言うならつぐみも、だろう?」 「あー、私だけ悪者にしようとしてない?」 「大丈夫だよ、俺も一緒に悪者になるから」 「……なら、いっか」  いいのかよ、と心の中でツッコミをいれる。  つぐみの誕生日が日曜日だった、だから土曜から泊まりがけでどこか記念に旅行でも  行こうか、と考えたけど結局実行には移せなかった。  それは金銭的な問題では無く。 「どうせ行くならみんなと行きたいから、ね?」  つぐみの誕生日を祝いたいのは俺だけじゃ無かった、図書部のメンバー全員が祝いたいのだ。  そんなみんなの思いをちゃんと受け止めるために、誕生日の日は汐見学園にいないといけない。  だから、旅行のお話は無かった事にした。  その代わり、俺は彼氏の特権として誕生日前夜につぐみを部屋に誘い、日が変わると同時に  一番にお祝いの言葉を贈ることにしたのだった。 「なんだか私、眠くなってきちゃった」 「……俺もだ」 「ちょっと、朝から張り切り過ぎちゃったね」 「そうだな」 「……」 「……」  2人の視線がベットへと向かう。 「まだ、時間はあるよね?」 「あぁ、お昼からだったよな、誕生会」 「少し、寝よっか?」 「あぁ」 「今は本当に眠るだけだからね?」 「解ってるって、さすがに俺も限界」  俺たちはそのままベットに倒れ込む。 「おやすみなさい、京太郎くん」 「おやすみ、つぐみ」  ・  ・  ・  その後約束の時間になっても起きれなかった俺たちは桜庭からお怒りの電話を受ける事となった。
3月14日 ・sincerely yours short story「ホワイトディラプソディ」 「……」  リビングでお茶を飲みながら、時計を見る。  まだあれからあんまり時間が経っていない。 「リリアちゃん、なにそわそわしてるのかしら? もしかしてお腹空いちゃった?」 「そういうわけじゃ無いよ……って、お母さん何食べてるの?」 「クッキー」  キッチンのテーブルの所でお茶を飲んでいたお母さんはクッキーを食べていた。 「美味しそう、わたしももらって良い?」 「これは、だ〜め♪」 「え?」 「このクッキーは私だけのクッキーだもん、リリアちゃんのお願いでもあげないもん」 「あげないもん、って……」  両手でクッキーをガードするお母さんのその仕草はまるで子供のようというか、大人げない。  けど、それが似合っていて可愛く見えるのが娘としてはものすごく悔しかったりする。 「それに、リリアちゃんは今食べたら後悔するわよ?」 「クッキーってそこまでのものなの?」 「えぇ、だってお父さんを待ってるんでしょ?」 「な、なんのことかな?」 「そうね、何のことかしらね〜」  お母さんにはバレバレだった。  たぶんばれてることは解っていたけど、それでも指摘されるのは恥ずかしかった。  ホワイトデーの週末、こんな時に限ってお父さんの帰宅が遅くなる話をさっき聞かされた。  別に期待してるわけじゃないんだから、なんて口には出すけど、本音は期待……ううん、  期待じゃなくて楽しみにしている。  お父さんはどんなお返しをしてくれるんだろうって。 「ただいま」 「あ、お父さん! お帰りなさい!」  お父さんが帰ってきたので玄関まで迎えに行く。 「ふふっ、まるで愛しい人を出迎えに行くみたいね」  お母さんの言葉は聞こえないふりをした。 「ただいま、リリア。遅くなってごめん」  そう言いながらお父さんは花束を渡してくれた。 「わぁ……」  いろんな可愛い花の束、その中に目立つ、白い花。  わたしの名前の元になったっていう、ヤマユリの花。 「花瓶に移し替えなくっちゃ!」  わたしはキッチンへと向かった。 「〜♪」  花束を花瓶に移し替える、その作業中に着替えたお父さんもリビングへときた。 「あれ、シンシア。まだ渡してなかったのか?」 「えぇ、だってリリアちゃんも直接の方が嬉しいでしょう?」 「何の話?」 「いや、今日遅くなるかもしれないからホワイトデーのお菓子を渡しておいてってシンシアに  頼んでおいたんだ」 「え?」 「てっきり渡してあるかと思ったんだ、だってシンシアはもう自分の分食べてるみたいだし」  キッチンのテーブルの上にあるクッキーを見るお父さん。 「え……えっと?」 「昨日の夜、焼いたんだ手作りクッキーだよ」  お父さんはキッチンの戸棚から小さな包みを取り出して、わたしに渡してくれた。 「あ、ありがとう……」  お父さんの手作りクッキー……なんだか食べるのもったいないかも。 「あ……あれ? と言うことは、お母さんはお父さんがクッキーを用意してたこと知ってたの?」 「えぇ、もちろんよ」 「だからかぁ」  さっきお母さんが食べていたクッキーはお父さんの手作りで、お母さんへ渡した物だから  わたしにはくれなかったんだ。納得。 「って、なんで黙ってたの!?」 「それはもちろん、リリアちゃんの可愛い様子を見るた……コホン、可愛いリリアちゃんへの  サプライズのためよ!」 「お母さん今本音出たでしょう!?」 「だってぇ、不安そうに、でも期待してるリリアちゃんの様子が可愛かったんだもん♪」 「悪いな、リリア。待たせちゃったみたいで」 「あ、お父さんは悪くは無い、よ? 悪いのはお母さんだし」 「えーっ!? 私だけ悪者? そんなの酷い、私はいつでも達哉とリリアちゃんの味方なのに!」 「わたしの味方なら、なんでわたしを不安にさせるようなことするの?」  そのわたしの言葉にお母さんの顔は真剣な表情になる。  ……なんとなく嫌な予感がする。 「私はね、達哉とリリアちゃんの味方よ、でも何より自分自身の味方でもあるの♪」 「……はい?} 「リリアちゃんへのホワイトデーのクッキーはやっぱり達哉が直接渡した方が良いと思ったのよ」 「それはそうかもしれないけど、俺は今日遅くなるかもしれないって連絡しただろう?」 「えぇ、それでもよ。だって、その方が可愛いリリアちゃんを見れるじゃないの♪」 「……」 「……そうか」 「え、お父さんも納得しちゃうの!?」 「そりゃ、な。だってシンシアだし」 「あー」 「なにリリアちゃん、その納得の仕方!?」  このとき、ふとフィアッカお姉ちゃんの言葉を思い出した。 「シアとリアは、まるで”漫才親子”だな」 「わたしは真面目なつもりなんだけどなぁ」 「ずるい、リリアちゃんだけ逃げようったってそうはいかないんだからねっ!」 「もぅ、お母さんっ!」 「ははっ」  最後にはお父さんに笑われてしまった、ちょっと恥ずかしかったけど、楽しい週末の夜でした。
3月13日 ・夜明け前より瑠璃色な MoonlightCradle SSS”半日だけのバカンス”   「達哉」  海でフィーナに泳ぎを教えた後、俺は荷物番の交代のためにパラソルの所に来て  そのまま休んでいた。  そんな寝転がった俺の近くにフィーナが立っていた。 「フィーナも休憩?」 「えぇ、少し疲れたわ。ご一緒してよろしいかしら?」 「良いも何も、ここは俺たちの場所だしな」  俺は起き上がってからフィーナに答えた。 「そうね、それでは失礼するわね」  パラソルの下。  隣にフィーナが座っている。 「紅茶でも飲む? ペットボトルだけど」 「ありがとう、頂くわ」  クーラーボックスから紅茶を取り出して渡す。  それから俺は自分のスポーツ飲料でのどを潤す。  フィーナの方をちらりと盗み見る。  パラソルの影にはいってるからか、麦わら帽子は取っている。  海から吹く静かな風に、銀色の髪が綺麗に揺らぐ。  こうしてみると月の王女様っていうのが納得できる綺麗さ、いや、美しさだ。  でも、今は俺たちの家族。  年相応の普通の女の子だって事を俺は知っている。 「達哉、どうしたのかしら?」  俺の視線に気づいたのか、フィーナが問いかけてくる。 「あ、いや、なんでもない」 「そう?」  フィーナはそう言うと海を眺めるのに戻った。 「素敵ね……」  そう言うフィーナの姿こそ、素敵だ、と俺は思う。もちろん口には出さないけど。  会話は無いのだけど、居心地の良い空間。  それはあっさり壊された。 「達哉君、いつの間にかフィーナちゃんを連れ込んだんだい?」 「仁さん、そういうこと言わないでください」 「でも一緒に居るのは間違いないだろう?」 「仁さん、私はただ休憩してただけですから」 「あー、うん、解ってるよ。それよりも達哉君、今度は僕が留守番してるからみんなの所に  行ってきなよ、フィーナちゃんもどう?」 「そうね、せっかく海に来たのだし、仁さん、お留守番よろしくお願いします」 「OK! ほら、達哉君。ちゃんとエスコートしないと!」  そう言うと仁さんは俺を無理矢理立ち上がらせる。 「達哉、行きましょう!」  そう言ってフィーナは俺に手を伸ばした……  ・  ・  ・ 「達哉?」   「いなくなったと思ったらここに居たのね」  パラソルの下、寝転がっている俺の近くにフィーナは立っていた。 「ごめんごめん、ちょっと休憩してた」 「お留守番じゃなくて?」 「あぁ、フィーナも覚えてたのか」 「えぇ、だって初めての海だったんですもの、忘れられないわ」 「俺もだよ、あのときは綺麗な王女様だなぁって思ったっけ」 「今は?」 「俺の可愛い奥さん」 「……もぅ、達哉ったら」  フィーナは頬を赤く染める。 「でも、満弦ヶ崎は今は冬なのに海で泳いでるなんてすごいよな」 「そうね、それだけ地球は広いってことね」  地球連邦のとある地域に視察できた際、カレンさんの計らいで半日だけだけど  休暇をもらうことが出来た。それだけではなく、孤島のプライベートビーチまで手配してくれた。  今、この島に居るのは俺とフィーナだけ。  もちろん、島の沿岸のある程度離れた場所には最新技術を装備した船が見回っていて警護は万全だ。 「そういえば、あのときは麦わら帽子とパレオを着ていたっけ」 「えぇ、日焼けするわけにはいかなかったから、気を遣ったわ」 「でも今は大丈夫だな」 「……達哉、あれはやり過ぎだと思うわよ?」  フィーナは顔を真っ赤にして抗議する。  プライベートビーチに来て着替え終わった後、フィーナに日焼け止めクリームを塗る必要があった。  その手伝いを今回は俺がしたわけだけど…… 「あんないやらしい手つきで身体をまさぐるなんて……」 「フィーナだって気持ちよさそうな声あげてたじゃないか」 「……だから駄目じゃないの、もう、達哉のえっち!」  そう言うとフィーナは砂浜を走り出した。 「フィーナ?」 「許して欲しかったらあのときみたいに捕まえて!」  俺は立ち上がってフィーナの後を追いかける。 「それじゃぁ許してもらう為に捕まえないとな、フィーナ!」 「ふふっ、そう簡単には捕まらないわよ?」 「それはどうかな? 俺に捕まったらいいことがある」  俺の言葉にフィーナの走る速度が落ちて、止まる。 「……ずるいわ」 「そうか?」  俺はそのままフィーナを抱きかかえる。 「捕まえた」 「それで、いいこととは何かしら?」 「何だと、思う?」 「そうね、あのときと同じなら……んっ」
3月6日 ・夜明け前より瑠璃色な MoonlightCradle SSS”酔った勢いで” 「達哉くん〜、うふふ♪」  ソファに一緒に座ってる姉さんは上機嫌で俺に寄り添ってくる。 「どうしてこうなった……」  姉さんの誕生日。  この日は博物館では暗黙の了解で、姉さんの有休指定日に認定されている。  名目は「下の物が有休を取りやすくするために、上の物も有休を使うべき」だ。  館長代理やその他の役職者が有休を使わないなか、非役職者が休みを使いづらいだろうと  言う話は会議で了承された。  そして館長代理である姉さんは誕生日である今日を有休の指定日とすることが暗黙の了解で  館職員全員の一致にて決まったのだ。  そして婚約者である俺も同じ日は休みをもらっている。  これも館職員の全員の一致である。 「別に私が休まなくてもみんな有休とっても良いのに」 「まぁまぁ、姉さん。これは職員みんなからの贈り物なんだから、ね?」 「……そうね、みんなの善意、ありがたく受け取っちゃおうかな」  そして家族でのささやかな誕生日パーティー。  そこまでは良かったのだけど、仁さんが誕生日プレゼントで持ってきたお店のワイン。  それがいけなかった。 「こくっ……ふぅ、美味しい♪」  姉さんのグラスに注がれた琥珀色のワインは、すぐに姉さんの中に消えていく。 「達哉くんは飲むないの?」 「飲んでるけど……」 「ん……こく」  姉さんはワイングラスに自分で注いで、すぐに飲み干していた。 「ちょっと飲み過ぎじゃない?」 「だいじょうぶよ〜、これくらい飲んだうちにはいらないわよ、それにまだ酔ってないもん」 「いや、酔っぱらいのその言葉ほどあてにならないんだけど」 「あら、もう空っぽみたい」 「え?」  もうワインの瓶1本空けたのか? 「そういえば家にもとっておきあったわよね、せっかくだから開けちゃおうかしら?」 「姉さん、それ以上は明日がきつくなるから止めておこうよ、それにケーキだってまだ残ってるし」  用意してあったケーキに俺と姉さんはまだ手を着けていない。  麻衣は自分の分を確保すると、早々に部屋へと戻っていった。  気を利かせたのでは無く、逃げただけだ。酔っぱらった姉さんを相手にするのは大変だからだ。 「えー、私まだ飲み足りないわ」 「明日大変な目に遭うのは姉さん自身なんだよ?」 「ぶぅ、せっかく気持ちよく飲んでいたのにぃ、達哉くんの意地悪」 「俺のせい?」 「うん、だから……」 「え!?」 「ん、ちゅっ……」  気づくと姉さんの唇で俺の口はふさがれていた。 「んふ、達哉くんの唇、美味しい♪」 「ね、姉さん……」  キスの味なのか、さっきまで飲んでいたワインの味なのか、それとも姉さん自身の味なのか。  とても甘いそのキスの味に、頭がくらくらした。 「気持ちよく飲んでいたのよ? そのお酒がもう駄目、なら……他の方法でお姉ちゃんを気持ちよく……」  姉さんの顔がせまってくる。 「さ・せ・て・ね?」  ・  ・  ・ 「ん……」 「あ、姉さん起きた?」 「うー、おはよー?」 「はい、特濃緑茶」 「ありがとー、達哉くん〜」  姉さんの部屋で先に目覚めた俺は、小型ポットと急須を用意しておいた。  すぐに姉さんに目覚めてもらうためにはこれが一番だからだ。 「……」 「目が覚めた、姉さん?」 「……」  なんだか様子がおかしい、姉さんの顔がどんどん赤くなっていく。 「姉さん?」 「〜〜〜〜〜ッッ!!」  姉さんは声にならない悲鳴をあげて、布団の中に潜り込んでしまった。 「ちょっと、姉さん大丈夫?」 「だ、大丈夫じゃ無いかも」 「どこか身体の調子が悪いの?」 「違うのよ、思い出しちゃっただけなの」  布団の中から姉さんの声。 「昨日の夜の事?」 「言わないで、達哉くんっ!」  お酒を飲むのを止めさせた後の事……  酔った勢いなんだろうか、姉さんはいつもより大胆に激しかった。  いつもの可愛いお姉さんじゃなくて妖艶な年上の女性って感じで…… 「達哉くんも思い出さないで!」 「……さすがに無理だと思う」 「うー、達哉くんのいぢわる」 「意地悪も何も姉さんがあんなに」 「だから言わないでっ!」  姉さんが落ち着くのを待ってからの出勤は、2人そろっての遅刻となった。  そしてその翌年から、館長代理の姉さんを俺のこの日の有休は2連休になることとなった。
3月1日 ・sincerely yours short story「パジャマ・じゃまだ?」 「ただいま」 「おかえりなさい、達哉」  シンシアに出迎えられてリビングへと向かう。 「あら、その袋はなに?」 「リリアへのプレゼントだよ」 「え、わたしの?」  リビングにはリリアがいた。 「えー、リリアだけなのー? ずるいー、私のは?」 「ごめん、今度埋め合わせはちゃんとするから、今日はリリアのだけだ」 「ちゃんと埋め合わせしてくれるなら許してあ・げ・る」  そう言ってウインクするシンシア。  そしてそれを見て複雑な顔をするリリア。 「我が母ながら、そういう仕草がまだ似合うのが恐ろしい……」 「ちょっと、リリアちゃん!」 「なに?」 「まだ、って何よ、まだって!」 「お母さん、年齢を考えて行動した方が良いって言う話よ」 「……リリアちゃん」 「な、なに……?」  急に真剣な顔をしたシンシアのその雰囲気にリリアものまれたのか、真面目な顔になる。 「この時代にはね、17歳教っていうのがあるのよ?」 「……それ以上言わないで聞きたくないから」 「最近娘さんもリアル17歳になったっていう話なのよね、それでも17歳教だからお母さんも  17歳と……ヶ月なのよ?」 「だから言わないで、聞きたくないの!」 「……」  シンシアって一応静寂の月光の信者だったよな……17歳教っていったい? 「そ、それよりもお父さん! その袋の中見てもいい?」 「あ、あぁ、リリアへのプレゼントだからいいよ」  リリアの無理矢理な話題そらしに俺も乗ることにした。 「わぁ、これってパジャマ?」  同僚の研究員のまだ幼い娘さんが誕生日を迎えるそうで、何か良いプレゼントはないだろうかと  相談を受けた俺は、一緒にショッピングモールに向かう事になった。  そこで可愛いパジャマを買うことにしたのだが、ふとリリアに似合いそうな可愛いのがあったので  つい買ってしまった、という話をした。 「ありがとう、お父さん! 早速着替えてくるね!」  リリアはスキップをしそうな足取りでリビングを出て行った。 「ねぇ、達哉。これってもしかして危険回避の処置なのかしら?」 「何のことだ? と言っても誤魔化しきれないだろうな」 「えぇ、だって達哉ですもの」 「いや、誤魔化しきれないのはシンシアだからだろう?」 「ふふっ、そうかもね」  リリアにはいくつか悪い癖がある。そのうちの一つに、寝ているときの服装がある。  もともとリリアが生まれてこの時代に来るまでの間、ずっと女世帯で育ってきたこともあるのだろう、  部屋の中では下着で居ることが多い。  家族一緒に住むようになった今では改善されてきてはいるのだけど、寝ぼけたときに下着姿で  リビングに降りてくる事がある。その都度お互いに気まずい思いをしている。 「でも、リリアだってパジャマくらいもってるわよ?」 「それは知ってるさ、だから買うつもりは無かったんだけど、つい、な」 「ほんと、達哉は娘に甘いわよね〜」 「……シンシアはどういう寝間着が欲しいか、聞いてからの方がいいかなぁ、って思ったんだけど」 「私にも買ってくれるの?」 「リリアだけってことは無いよ」 「ありがとう、達哉。あ、でも」  そう言うとシンシアはものすごく良い笑顔になってこう話し続けた。 「男の人が洋服を贈るのは着せたいだけじゃなくて脱がしたいからなのよね?」 「……どこでそう言う噂を信じたんだよ」 「あら、主婦って結構つきあい大変なのよ?」 「そうですか……」  主婦には主婦のつきあいがあるんだから、大変だよなぁ、と思わず現実逃避しそうになった。 「ねぇ、お父さん」 「ん?」  リビングに降りてきたリリアは、早速新しいパジャマに着替えてきてくれた。   「これって男物じゃないの?」 「え?」 「あら、確かにボタン配置はそうなってるわね」 「そんな馬鹿な……」  同僚と入った洋服の店のコーナーは確かに女児向けの場所だったはず。  そういえば俺が見たパジャマのあったコーナーは同僚の手に取った場所とは違っていたけど  それでも男向けのパジャマだったのか? 「今はそう言うものもある時代だからね、女の子向けでもわざとボタン配置が男物になってる  物もあるのよ」 「そうなのか?」 「そうよ、ほら。リリアを見てご覧なさい」    リリア自身もパジャマの様子を見ている。 「袖の裾が長いでしょう? 作りだけなら男物だけど、柄は女の子向けよ」 「……ふぅ、良かった」  俺はシンシアの説明を聞いて力が抜けてしまったのか、ソファの上でぐったりした。 「リリアに似合うパジャマが男物なんてどうしようかと思ったよ」 「大丈夫だよ、お父さん。確かにボタンの配置は逆だけど、着心地はすごく良いよ」 「そう言ってもらえて助かるよ」   「ありがとう、お父さん。大事にするね!」 「ふぁ〜」 「おはよう、達哉」 「おはよう、シンシア」  休日の朝、リビングに降りてきた俺にシンシアは珈琲をいれてくれた。 「ふぅ、目が覚めるな」  新聞を読みながら珈琲を飲む、休日の朝。 「おはよ〜ございます〜」 「おはよう、リリア……」    リリアの姿を見た俺はすぐに新聞に顔を埋めることにした。 「うにゅ〜」  リリアの気配はバスルームへと消えていった。 「達哉、今のリリアちゃん見た?」 「あぁ、なんていうか」 「パジャマの上だけなんて、萌えるわ!」 「いや、その姿に萌える萌えない以前にさ……」 「いいじゃないの、全部脱がれるよりちゃんと達哉のパジャマ着てくれてるんだから」 「……はぁ」  この後目が覚めたリリアとはまた気まずい雰囲気になってしまうんだろうなぁ、と思うと  少しだけ頭が痛くなる休日の朝だった。
2月22日 ・大図書館の羊飼いSSS”ねこの日狂想曲” another view ... 「おーし、みんな来たようだな」 「高峰、休日に私たちを呼び出すのだからな、くだらない用事だったらどうなるか  解ってるんだろうな?」 「おー。姫は怖いね」 「たーかーみーねー?」  桜庭がいつものように高峰に迫ってくる。 「筧を振り向かせる良い案があるんだ」  その高峰の言葉に桜庭の動きが止まる。 「高峰先輩、またいつものようなくだらないオチじゃないでしょうね?」 「佳奈すけ、まだそのツッコミは早いって。まずはこれをみよ!」  ばばーん、と効果音が鳴ったかのような気がするなか、取り出されたのは。 「猫耳……?」 「そう、今日はねこの日、だからみんなで猫耳を着ける日だ!」 「高峰先輩、解っていた事ですけど……ゴミですね」 「罵倒、ありがとうございます」  何かを悟ったような顔をしながら合掌した。 「っと、あまりの事に思わず目的を忘れるところだった」 「何をしたいのかわからんが、私はそんな物着ける気はないぞ!」 「まぁまぁ、姫。物知りな筧が今日はねこの日だって知らない訳はないだろう?」 「うん、筧くんの事だから知ってると思うな」 「そこで、アピール!」  そう言いながら猫耳のカチューシャをみんなに配る。 「人数分用意してあるんですね……」 「その辺ぬかりないよ! さぁ、みんなで猫になろう!」 「高峰先輩の前で猫になっても何の意味も無いと思います」 「それもそうだな」 「せっかくですから筧さんが来てからにしましょう」 「いや、それは甘い考えだよ? 今のうちに猫語を練習しておかないと本番で  失敗してしまうじゃないか」 「……」 「ほら、みんなで猫になって可愛さをアピールして筧のハートをゲットだぜ!」 another view 白崎つぐみ 「筧くんのハート……」  筧くんの前で猫耳を着けた自分を想像する。 「白崎、今日がねこの日だって知ってたんだ」 「う、うん……」 「その猫耳も可愛いな」 「そ、そう……にゃん?」 「こっちにおいで、かわいがってあげる」 another view 桜庭玉藻 「筧のハートを……」  筧の目の前で猫耳姿の私を想像する。 「あ、あんまりみないでくれ……はずかしいだろう?」 「そんなこと無いさ、猫になった玉藻は可愛いよ、それだけじゃない。  可愛い中にも凜とした上品な姿だな……」 「筧……」 「おいで、可愛い子猫ちゃん」 another view 御園千莉 「センパイのハート……」  センパイの目の前で猫耳を着けてみる。 「にゃーにゃー」 「み、御園?」 「にゃー」 「そ、そんなに近づかれると……我慢出来なくなる」 「良いんですよ、センパイなら」 another view 鈴木佳奈 「筧さんのハートをゲット……」  猫耳カチューシャを着けた私は…… 「どうですにゃ、筧さん。名字は平凡ですけど」 「いや、猫耳の前に平凡な名字なんて関係ないさ、可愛いよ」 「や、そう真面目な顔して褒められるとなんだか調子が狂っちゃいますよ」 「可愛すぎる佳奈すけが悪いんだからな、一緒に狂っちゃおう」 another view ... 「おふぅ」  ギザ様の鳴き声にみんな我に返る。  一様に顔を赤くしている、何かを想像してたことは誰でも解ることだろう。 「そ、それよりもだ。筧が来ないのなら意味は無いだろう?」 「そうですね、高峰先輩の前で着ける意味はないですからね」 「そうはっきり言うなよ、解っていてもへこむだろうに」 「ところで筧さんは今日は来るんですか?」 「佳奈すけ、俺がそこまで気を使ってないなんて思うか? みんなと同じように  ちゃんとメールで呼び出してあるよ」  そう言いながらスマートホンを取り出してみせる。 「あ、メール着信がある。筧からかな?」  高峰の言葉に皆に緊張が走る。 「どれどれ……」  メールを読んでいく高峰の表情が青ざめていく。 「どうした、高峰?」 「いや、さ、その……筧のやつ、今日は読書するから来れないってさ」 「……」  高峰の一言に緊張してた部室の空気は一気に冷え込んだ。 「なぁ、高峰。私たちを呼び出しておいて筧が来れないとはどういうことだ?」 「これじゃぁ猫耳を着けても筧くんに見てもらえないよね?」 「高峰先輩、やっぱりオチを用意してあったんですね、さすが芸人です」 「いや、俺だってそこまで命知らずじゃないよ……筧が来れないのは本当に想定外で」 「高峰先輩、本当にゴミ以下です」 「罵倒頂きました! ありがとうございました」 「ギザ様、お願いします」 「ほにゃぁっ!」 「うわあぁぁ!」 「なんだか疲れたね、玉藻ちゃん」 「そうだな。この疲労感どうにかしないとな」 「せっかくだから甘い物食べに行きませんか?」 「佳奈はいつも甘い物だね」 「脂肪分は必要なのです!」 「わかったわかった、予定が無いのなら皆でお茶をしに行こう」 「「「はーい!」」」 「高峰、部室の施錠と掃除、ちゃんとしておくんだぞ」  床に倒れてる高峰はぴくりともしなかった。 another view end 「金魚にとって猫は天敵なのです」 「いきなりどうしたんだ?」 「いえ、言っておいた方がいいのかなぁ、っと思ったので」  第8食堂カミツレ、俺はここでマスターの煎れてくれた珈琲を味わいながら静かに  読書していた。  家で読む本も良いけど、こういう雰囲気の店での読書もまた味わい深い物がある。 「んー、そろそろ昼を食べようかな、注文お願いしていい?」 「はぁい、今いきまーす!」  看板娘ウエイトレスの元気で可愛い返事が耳に心地よい、暖かい昼下がりだった。
2月14日 ・sincerely yours short story「バレンタインラプソディ」 another view Lilia.A.Marguerite   「〜♪」  バレンタインを控えた前日の夜、わたしは手作りのチョコレートに挑戦している。  前もって調べたレシピ通りに、市販の板チョコを細かく砕いて、お湯を張ったボウルの  中に浮かべたもう一つのボウルを使ってゆっくりと溶かしていく。  溶けきったら、用意した型に入れて冷やせば完了だ。 「あら、リリアちゃん?」  名前を呼ばれて振り返ったわたしは,お母さんの真剣な表情を見て少し驚いた。 「お母さん、どうしたの?」 「……そっか、リリアちゃんそこまで成長してたのね、お母さん嬉しいわ」 「えっと……?」  チョコを湯煎してるだけで成長って言われても……  別に初めてする作業じゃないし、いまいち意味が解らない。 「ねぇ、リリアちゃん」 「なに?」 「人の身体っていうのはね、どんなに綺麗にしたつもりでも細菌は残る物なのよ」 「はい?」  いきなり人の身体の細菌の話って、いったいどういう話のつながりなの? 「それでも頑張れば人に害を与えない程度まで落とせるから準備はしっかりね」 「あ、うん……?」  一応頷いておく。 「それとね、溶けたチョコレートの温度ってだいたい60度くらいなの、もちろんチョコの  種類によって多少の前後はあるのだけれどもね」 「うん、それは調べたから知ってる」  湯煎のボウルに入れるお湯の温度を調べたのでその辺は知っている。  沸騰したお湯で湯煎を行うと確かに溶けるのは早いんだけど、チョコの風味が飛んでいって  しまうので注意する必要がある。 「リリアちゃん、お風呂の温度って40度前後なのよ」 「お風呂のお湯温度のこと?」 「えぇ、チョコはそれより20度も高いの」 「う、うん……」 「だからね、適切な処置をしないでそのままだと火傷しちゃうのよ」 「そりゃそうだよね……」  湯煎して溶けたチョコを味見しようとすれば確かに火傷しかねない。 「だからね、リリアちゃん」  さっきよりも真剣な表情のお母さん。 「お胸の型どりは素早く行うのよ?」 「……」  型どり? 胸?  ここまで来てさっきまでのお母さんとの会話が微妙にかみ合ってなかった意味を理解した。 「って、どうしてそうなるのよっ!?」  というか、意味を理解したくなかった。 「えー? だって溶かしたチョコって型どりするんでしょ?」 「だからって、どうして……む、胸なのよ?」 「昔からあるじゃない、おっぱいの形をしたチョコって。それを好きな人にあげるものでしょ?」  好きな人、というフレーズに顔が赤くなるのがわかる、けどそれよりも今は。 「だからってどうしてそうなるの?」 「んー、ほら、今からチョコを溶かしてるからかしら?」 「普通に作るのだってあげる直前に溶かす訳ないじゃない」 「そうね、あげる直前だったらお胸の型どりじゃなくて、お胸にチョコをつけるのよね。そして、  チョコレート、わたしのお胸も食べて、いいよ……みたいな? きゃっ♪」  年甲斐も無く可愛い悲鳴を上げるお母さん、なんだけどその悲鳴や仕草が妙に可愛く見えるのが  ものすごく悔しい。 「……はぁ」  怒る、というかツッコミを入れたらなんだか疲れてしまった、これ以上お母さんの話つきあう  気力は全く無くなっていた。  会話しながらも湯煎は続けていたので、チョコはもうそろそろ大丈夫かな? 「もう、わたしは普通に作るだけだかね、そういうことはお母さんがすれば良いと思うよ」 「そうね、でも私がおっぱいで作るとものすごい量のチョコが必要になっちゃうのよ、作るのは  良いけど食べる方は大変でしょう?」 「……」  部屋着を着ているお母さん、その服の上からでも解るその膨らみに、わたしは気が落ち込んで  行くのがわかった。 「だから、プレゼントはやっぱり私を食べて、かしらね」 「……」 another view end... 「という事があったのよ」 「なんていうか、相変わらずだな、シンシアは」 「あら、真面目にレクチャーしてあげただけよ?」  母親が娘にチョコを作るのを教えるのは普通だけど、そのチョコの型どりに胸を使うとか  胸に塗るとかは教えないと思う。  ……それとも未来ではそれが常識なのか? 「そんなわけないか」 「達哉?」 「あ、いや、なんでもない」  そう答えながら、俺は綺麗にラッピングされたリリアの手作りチョコを眺める。 「嬉しそうね」 「当たり前だろう? 娘から手作りチョコをもらって嬉しくない父親は居ないぞ?」 「そうね、それは娘の方も同じかもね」  夕食後に顔を真っ赤にしながらチョコをくれたリリア。  その後リビングを飛び出して部屋へと帰ってしまった。 「恥ずかしがってるだけよ、きっと今頃ベットの上で唸ってるわよ?」  そうシンシアは丁寧に説明してくれたっけ。 「ねぇ、達哉。私からのチョコは欲しい?」 「催促はしたくないけど……俺はまだ一番欲しいチョコはもらってないからな」 「くすっ、充分催促してるわよ」 「そうか?」 「えぇ、寝室に用意してあるわ」  そう言うとシンシアは妖しい微笑みを浮かべた。
2月5日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”春を迎えた寒い日に” 「ねぇ、孝平」 「……」  桐葉の問いかけに俺はおそるおそる顔を上げる。 「昨日、2月4日は立春なの。季節の暦の上では立春から立夏までが春なのよ」 「そ、そうなんですか」 「えぇ、でも昔と今は気候にずれがあるから、立春を迎えて春になってもまだまだ寒いのよ」  俺は桐葉の後ろにある、カーテンの閉まった窓を見る。 「暦の上で春を迎えても、こうして雪が降る事もあるのよ」  俺の視線の先を見た桐葉は、俺の思考を先読みして答えを教えてくれる。 「でも、孝平の頭の中はもう立派に春になってるようね」  桐葉の言葉に俺は 「すみませんでした!」  正座させられていた俺は、頭を下げて謝ることしか出来なかった。  いつものようにあの丘で強制睡眠で眠ってしまった桐葉を迎えに行った俺は、雨の中で眠る  桐葉が起きるまで、横で傘を差して待っていた。  目が覚めた桐葉は驚いた顔をして、そしてすぐに嬉しそうな顔になり、そしてすまなそうな  顔になる。 「貴方まで濡れてしまうわ」 「構わないさ、桐葉と一緒なら」 「……馬鹿」  そうして寮に帰ってきた俺たちは冷えた身体を温めるために風呂に入ることになった訳  だったのだけど……それだけですまなかった訳だ。 「孝平」  桐葉の声に頭を上げる。   「どうして貴方はいつも春になると、こうなのかしらね?」 「面目ない、でも桐葉だって……」   「私が、何かしら?」  フリーズドライを思い起こさせる冷たい声で名前を呼ぶ桐葉の声に俺は 「……なんでもありません」 「まったく、孝平はケダモノなんだから」 「桐葉が愛おしすぎて自分を抑えられないんだから、言い返せないな」 「……そう」  桐葉は何事も無かったようにベットから立ち上がる。  その顔が赤くなってるのがわかった。 「まったく、孝平はケダモノの割に、ずるいわ」 「え?」 「言い訳だって解ってるのに……それが本心だって解るるから……  それ以上怒れなくなっちゃうのよ、それが悔しいわ」 「桐葉……」 「本当に孝平はずるいわ」  そう言うと桐葉はその場から離れる。 「桐葉、どこに?」 「もう一度お風呂に入るわ、さっきは温まるつもりが、熱くさせられただけだったんですもの」   「今度はちゃんと温まるだけだから、それで良いなら……私は構わないわ」 「お詫びに髪を洗うの手伝うよ」 「そうね、お願いしようかしら」  俺は桐葉の手を取って、もう一度バスルームへと桐葉と一緒に入った。
1月30日 ・sincerely yours short story「育ち盛り」 「ただいまー」 「お帰り〜寒かったでしょう?」 「うん、すっごく寒かったから部屋に行くね」  家の中は外と比べると幾分暖かいけど玄関はそういうわけにもいかない。 「後でお茶持っていってあげるね」 「ありがと、お母さん」  傘立てに使ってた傘を立てかけてから、わたしは部屋へと急いだ。 「ふぁ〜」  部屋に入った瞬間、心地よい暖かさに包まれたわたしは思わず声をあげてしまう。  学園から下校するとき、スマートフォンから部屋のエアコンの制御命令を送っていた  おかげで、すでに適温まで部屋が暖められていた。 「あったかい〜」  部屋の暖かさにそのままベットに倒れ込みたくなる、けどこのままじゃ制服が皺だらけに  なってしまう。  まずはコートを脱いでハンガーに掛けて。 「カテリナの制服って冬服でもスカートはそのままなんだよね」  上着のセーラーの部分は厚手の生地だし長袖になってるけど、スカートは地が厚くなって  いても、ミニのままに変わりない。さすがに今日くらい冷えるときついんだけど。 「でも、可愛いんだよね」  可愛い制服なんだし、少しくらい寒いのは我慢しなくちゃね。 「まぁ、今日は少しくらいっていうレベルじゃない寒さなんだけどね」  制服をハンガーに掛けながら、窓の外を見る。冷たい雨が降り注いでいる。  今日はこの冬一番の寒さで、朝方は雪になるという予報が出ていた。  比較的温暖な満弦ヶ崎地方でも雪が降るという事で、少し楽しみにしていたんだけど  実際には雪は降ったけど積もることは無かった。 「よいしょっと」  部屋が暖かいので部屋着に着替えずそのままベットの上で横になる。 「旅行の時はすごかったなぁ」  少し前に家族で行った温泉旅行、あのときは一面銀世界ですごく綺麗だった。  同じ銀世界がわたしの部屋の窓から見えたらどんな感じになるんだろう?って少し期待  しちゃったけど、実際はそうはならなかった。  尤も、あのときのような銀世界になったとしたら学園に行くのに一苦労することになる。  とても大変な通学になるだろう。 「やっぱり雪は、旅行の時だけでいいかな」 「リリア、入るわよ」 「はぁい」    わたしはベットの上から返事をする。 「お茶持ってきたわよ……ぐすっ」  お茶をテーブルにおいてすぐにお母さんは目元を覆う。 「え、なに?」 「お母さん、悲しくなっちゃったの。だって……」  お母さんが妙な”溜め”を入れる。こういうときはろくな事じゃないんだよね…… 「だって、仰向けになったらリリアちゃんのお胸が全然目立たないんですもの」 「なっ!?」    わたしはその言葉に思わず身体を起こす。 「お母さんはブラジャー無しで仰向けに寝ると引っ張られて結構大変なのよ?  そう言う意味では羨ましい、のかな?」 「お〜か〜あ〜さ〜ん」 「ふふっ、冷めないうちにお茶飲みなさいね、身体が中から温まるから。それと  お風呂も沸かしてあるけど、ちゃんと着替えてこないと駄目よ?」 「胸のことは余計なお世話!!」 「はいはい」  そう言うとお母さんは部屋から出て行く。 「でも、お風呂はありがとう」 「どう致しまして」  お母さんは笑顔で部屋を出て行った。  部屋で一人になったわたしは、思わず自分の身体を見下ろす。   「……まだまだ育ち盛りだもん」  それがなんだか強がりに聞こえた気がして、少し落ち込んじゃった……
1月24日 ・大図書館の羊飼いSSS”女の子だから” 「ちょっと早すぎたな」  デートの待ち合わせの駅前に着いた俺は腕時計で時刻を確認する、  時間までまだ30分以上ある。  でも、たぶん千莉の事だから早めに来るだろう、それを見越してこの時間に  到着するように家を出てきた。  念のため周りを見回す、まだ千莉は来ていないようだ。  千莉の誕生日だった昨日の夜、千莉と俺は一緒に過ごしていた。  そして今朝、デートの約束をして千莉は一度家へと帰った。 「着替えや準備が必要だもんな」  制服のまま俺の部屋へと来た千莉、さすがにデートの時まで制服という訳にも  行かないだろう。  千莉はどんな服に着替えてくるのかな、そんなことを思っているとすぐに  声をかけられた。 「京太郎さん、お待たせしました。もしかして待たせちゃいましたか?」 「いや、まだ時間前だ……」  声のする方を振り返る、もちろんそこにいるのは千莉。  だけど何かいつもと違う雰囲気をまとってる気がする。  着ている服装は、千莉が留学から帰ってきた時に着ていた洋服だ。  それ以降も何度も着ている姿を見たことがある、のだけど…… 「京太郎さん?」 「……」 「もしかして、どこかおかしいのでしょうか?」 「いや、なんて言うかさ……可愛い」 「えっ!?」 「あ、えっと、今の無し」 「……今のは無しなんですか?」 「いや、その、今の無しが無しにしてください」 「でも、突然どうしたんですか?」  駅前でずっと立っているのも寒いだけなので、ショッピングモールの中を歩くことにした。 「いつもより可愛く見えたから、不思議だなぁ、って思ったんだ」 「可愛く見えるのが不思議なんですか?」  千莉は少し不満そうに、組んでいる腕に身体を強く押し付けてきた。 「あのさ、千莉」 「当ててるんです。なんて一度言ってみたかったんです」 「……やっぱり不思議だよな」 「まだそういうことを言ってるんですか?」 「ちゃんと説明するよ」  喫茶店に入って注文を済ましてから、俺は思ったことを説明した。 「最初の千莉はさ、可愛いって素直に思ったんだ」 「あ……ありがとうございます」  千莉の顔が真っ赤になる。って、俺は何を恥ずかしい事を言ってるんだ? 「京太郎さん、顔が真っ赤ですよ?」 「千莉、鏡を貸してあげようか?」 「遠慮しておきます」 「話を戻すけど、千莉のその洋服だけどさ、留学から帰って来た時着ていただろう?」 「覚えていてくれてたんですね」 「忘れないさ、あのときの千莉は綺麗だったから」  短期とは言え海外に留学して帰ってきた千莉は、とても綺麗で眩しかった。 「……」 「同じ洋服を着ている、同じ千莉のはずなのに最初会ったときは可愛いって思ったんだ。  そしてここに来るとき腕を組んでいた千莉は、可愛いとも綺麗でもなく、小悪魔っぽかった」 「だから不思議だ、と言うわけですね?」 「……あぁ」  人は成長していく、けどこうも短時間に綺麗から可愛いになって、小悪魔になった。  同じ洋服を着ている同じ千莉のはずなのに。 「それはですね、私は女の子だからです」 「……意味が解らない、千莉が可愛い女の子なのは当たり前だろう?」 「そこでさらりと可愛いとか言ってくるあたり、京太郎さんは油断出来ません」 「ん?」 「いえ、何でもありません。私が女の子だから、が答えですよ、センパイ」  千莉はわざとだろう、俺の名前を呼ばずセンパイと呼んだ。 「……なるほど」 「このヒントだけで解ったんですか? さすがセンパイです」 「答えが合ってる保証は無いけどな」 「でも、たぶん正解ですよ、京太郎さん」  なんとなく、そういうことなんだろうなぁと、感覚的に解った気がする。 「それじゃぁ今日のデートはどんな千莉を見せてくれるんだ?」 「それはですね、京太郎さん次第ですね」 「そうか?」 「はい、京太郎さんが私の新たな一面を引き出してくれれば良いんです」 「結構無茶振りだな」 「だって、私は女の子ですから」  そう言って笑う千莉は、可愛いとも綺麗とも小悪魔でもなく。 「あぁ」  これが俺の彼女の千莉なんだな、と実感した。
1月22日 ・sincerely yours short story「油断大敵」 「酷い雨ね」  リビングの窓の外は冷たい雨が降っている。  今日はこの冬一番の寒さだと天気予報でも言っていたし、雪になるかもしれないとも言っていた。 「2人とも風邪ひかないといいんだけど」  そのとき、電話がなった。  私は慌てずその場でシステムを起動する。 「アクセス、受信音声を直接私に回して……達哉から?」  ホロウインドウに達哉からの着信が表示されている。 「もしもし、達哉。どうしたの?」  ・  ・  ・ 「ただいまー」  暫くしてリリアが学園から帰ってきた。 「おかえり、リリアちゃん。外は寒かったでしょう? お風呂にお湯張ってあるわよ」 「本当? ありがとう、お母さん」 「冷えた身体を温めてきなさい」 「はぁい」  リリアは制服姿のままバスルームへと消えていった。 「さて、と。リリアちゃんとバッティングしないと良いんだけど……この場合バッティングした方が  良いのかしらね?」  そう思いながら夕食の準備を始めることにした。 「ふぅ、気持ちよかった〜」  バスルームから出てきたリリアちゃんは…… 「なんて格好してるのよ」 「だって着替え持ってきてないんだもん」  お風呂に入ったので髪は下ろしていつもと違うロングヘアになっているのはわかる。  けど、着ているのが……穿いているのがパンティ1枚だけ。  タオルを首からかけているので、胸元は隠されている。 「お母さん、さすがにその格好は……萌えちゃうじゃない! じゃなかった、どうかと思うわよ?」 「今さらっと本音出たわね」 「えー、だってリリアちゃん可愛いんですもの」 「まぁ、お母さんの趣味は今に始まった訳じゃないから良いんだけどね……」  リリアちゃんが呆れた顔をしていたけど、すぐに真面目な顔に戻った。 「こんな格好してるのも、大きいバスタオル無かったからなんだからね?」 「あ、ごめんね、リリアちゃん」 「仕方が無いわ、この雨じゃ、ね」  リビングの窓から見える、外は雨の世界。 「それよりも部屋の方は大丈夫なの?」 「うん、さっき暖房入れておいたから」 「そう、それでもそのままだと風邪をひいてしまうわ。早く着替えてきなさいな」 「はぁい」  リリアはリビングを出た。  それと同時に玄関のドアが開いた。 「ただいま」 「え?」 「あら、達哉。お帰りなさい。思ったより早かったわね」  私は達哉を出迎えに玄関へと出てきた。 「……」  達哉はこちらに背中を向けていた。 「あらあら、リリアちゃん大胆ね、そんな格好でお出迎えだなんて」 「え、きゃぁっ!」  その場で身体を抱えて蹲る。 「リリアちゃん、部屋に戻った方が良いわよ?」  無言でリリアちゃんは階段を駆け上がっていった。 「もう大丈夫か?」 「えぇ、災難だったわね、いえ、良かったのかしら?」 「どうコメントしても角が立ちそうなんだけどな、それよりも俺が早めに帰ってくる事は  連絡しておいただろう?」 「えぇ、でも今回は何も仕組んでないわよ?」 「……そうだな、シンシアは人が嫌がることはしない……はずだし」 「何その微妙な沈黙は」 「いや、何でも無いよ」  そう言いながら達哉は靴を脱ぐ。 「ただいま」 「お帰りなさい、達哉」  達哉を出迎えながら、リリアちゃんの機嫌を直す方法を考えようとして…… 「今回は油断したリリアちゃんの問題だから、私が何かする必要はないわね」 「ん?」 「なんでもないわ、それよりも達哉」 「なんだい?」 「品乳ってどう思う?」 「……ノーコメント」 「そう、残念♪」
1月20日 ・処女はお姉さまに恋してる2人のエルダーSSS ”母親” 「ただいま帰りました……あら」  帰ってきてすぐに、寮の電話が鳴った。他にまだ誰も帰っていないようですけど、寮母さんは  どうされたのでしょう? 「っと、いけない。電話に出ないと」  私は受話器を取る。 「お待たせしました、聖應女学院女子寮です……あら、寮母さん?」  ・  ・  ・ 「というわけで、寮母さんが暫くお休みすることになりました」  その日の夕食の席で初音さんが事の成り行きを説明することとなった。  寮母さんのご家族の方が風邪を引いてしまい、その連絡を受けた寮母さんが早退しました。  インフルエンザではないものの、高熱で看病が必要なこと、そして万が一寮母さん自身が  風邪のウイルスに感染していたら寮のみんなにうつしてしまう可能性がある。  だから数日様子を見るためにお休みにすることとなった。 「毎日大変な仕事だもんね、こういう時くらい休んだ方がいいよね」 「でもそうなると、寮の中の仕事はみんなでしなくてはいけないわね」  薫子さんの言葉に香織理さんが問いかける。 「そうだね、みんなで頑張ろう」 「では、当番を決めて分担しませんか?」  初音さんの案に皆が賛成する。 「じゃぁ、食事当番ですけど」 「そりゃもちろん、千早で決まりだね」 「……はい?」  薫子さんの即答に、私は変な声をあげてしまった。 「あの、薫子さん?」 「もちろん、美味しいデザート付きだよね、千早」 「……薫子さんの中では食事当番は私に決定されてるのですね」 「あれ? 違った?」 「薫子ちゃん、当番は順番が良いと思うのですけど」  初音さんが困った顔をしながらそう言う。 「えー! 当番だったら私にも順番回ってきちゃうじゃない!」 「……薫子、なんで駄目な子かしら」  横で香織理さんが目元に手を当てながら泣いている……真似をしていた。 「まぁまぁ、せっかくですしお休み中の夕食と朝食は私が引き受けます」 「いいんですか、千早ちゃん」 「はい、私は部活動には入っていませんし、時間を作るのが簡単ですから」 「やったー! 千早のご飯美味しいから大好き!」 「もぅ、薫子さん。おだてても何も出ませんよ?」  そう反論したものの、薫子さんの食べっぷりは気持ちが良いほどのものだ。  私が作った料理をとても美味しそうに、全部食べてくれる。  それは作り手としてとても嬉しかったりする。 「なんだか千早ちゃんがとても優しい顔をしていますね」 「本当ね、まるで愛しの旦那様に手料理を作ってあげる若奥様って感じかしら?」 「か、香織理さん!?」 「香織理さん、なんで千早が若奥様で私が旦那様なの!?」 「あら、ごめんなさいね。どっちかというと手のかかる腕白坊主の母親という感じの方が  あってるかしらね」 「だから、なんで私が男役なのよ!」  薫子さんが顔を真っ赤にして香織理さんに反論している。 「……どっちにしろ、私は母親役なのですね」 「千早ちゃん?」 「い、いえ、なんでもありません……たぶん」  こうして数日の間だけ、私が寮の食事当番となることが決まりました。  そして翌日。 「ずるいじゃないか、香織理、薫子。こんな美味しいイベントに誘ってくれないなんて」 「ケイリ……イベントじゃないですよ」  なぜかケイリが寮に泊まりに来た。  その翌日。 「お姉さまの手料理が食べられるなんて、雅楽乃はなんて幸せ者なのでしょう!」 「うたちゃん……テンション上がりすぎだよ」 「そう言う雪ちゃんだって」 「あー、千早お姉さまの料理だけは素敵ですから」  なぜか雅楽乃と雪ちゃんが泊まりに来た。  こうしてなぜか、毎晩寮生の知人が必ず泊まりに来る、賑やかな日々が寮母さんが  仕事に復帰する日まで毎日続いた。 「あの、千早ちゃん」 「初音さん、どうされたんですか?」 「あの、その……ですね……」  何か言いづらそうにしてる初音さん、こういうときは良い出来事が起きた試しは無い。 「生徒から要望があったんですけどね、その、学食で1日料理長、してみたいとか思ったりしませんか?」 「……さすがにそれは無理でしょう」
1月8日 ・sincerely yours short story「朝霧家の伝統」 「今年も色々撮影したな」  シンシアとリリアが来てから我が家の正月は騒がしくなった。  もちろん、それは良い意味だけど、毎年その犠牲になる人が居るのが問題だったりもする。  そして、その犠牲はたいていリリアだ。 「それにしても今年はずいぶん用意したんだな」 「当たり前よ、衣装は毎年増えていくんですもの、使わない訳にはいかないじゃ無い」  さっきまでリリアに着替えさせては写真を撮ってたシンシアはそう応えながら目の前の  ホロウインドウを表示させ、写真を整理していく。  当のリリアは今はお風呂で疲れを癒やしている。  朝霧家の中では個別に自分のコンピューターにアクセスできる無線システムが組まれている。  それくらいの技術は今の時代にもあるが、現代の技術と違うのはシンシアとリリアには  そのためのデバイスが必要無いと言うことだ。  その場で、目の前に、ウインドウとキーボードを展開出来るのだ。  これに近い技術はすでに実用化されてるが、家1軒の中何処でも出来るのはたぶん、朝霧家だけだろう。  俺にもその権限はあるのだが、それは使わないでいる。  飽くまで俺は、今の時代の技術者で研究者なのだからだ。 「さて、そろそろ部屋に戻るか」 「あ、ちょっと待って達哉」 「ん?」 「もう少ししたらリリアが戻ってくるからそれからにしてね」  そのときのシンシアの顔、というか表情を見て俺は悟った。 「今度は何をする気だ?」 「いやね、達哉。まるで私が何かするような言い方じゃないの」 「違うのか?」 「ううん、違わない♪」  ものすごく良い笑顔で応えるシンシアだった。 「お母さん、なんで着替えがこれなの?」    いつもなら怒ってしまうような事だろうけど、すでにリリアは諦めてるようだ。  呆れた声でシンシアに文句を言っている。 「だって、今回は巫女服でまだ写真撮ってないでしょう?」 「さっきいっぱい着替えたじゃない」 「それはそれ、これはこれ」 「はぁ、仕方が無いわね。……だってお母さんだし」 「え、私だから仕方が無いの!?」 「うん」 「がーん……」  リリアの言葉にシンシアはショックを受けてその場で膝をつく。 「しくしく、最愛のリリアちゃんに呆れられちゃった」 「……」 「あ、あれ? 誰もツッコミ無し?」 「だって嘘だってわかりきってるんだもん。それに最愛はわたしじゃなくてお父さんでしょ?」 「うん、もっちろん♪ でもリリアちゃんも同じくらい愛してるわよ」 「そ、そうなんだ……」  リリアは顔をそらしている、その頬が赤くなってる。 「さて、前振りはこのくらいで良いかしらね」  立ち上がったシンシアはさっきと同じ笑顔だった。  その笑顔を見たリリアは身構える。 「お母さんが何かをするつもりだろうけど、無駄だからね?」 「どうして?」 「シンシア、何かするつもり、と言うところは否定しないんだな」 「うん、だって何かするつもりですもの♪、でどうして無駄なのかしら?」 「この巫女服には何も仕掛けが無いし、カウンタープログラムは起動させてるもの」 「ふふっ、リリアちゃん可愛いわね。でもまだ甘いわ」  そう言うとシンシアは俺に向き直る。 「ねぇ、達哉知ってる? 和服ってね、下着は着けないのよ」 「嘘言わないで、お母さん。和服専用の下着がちゃんとあるじゃない」 「そうね、まぁ家で着るときにそこまでこだわる必要は無いわよね」  そう言うとシンシアはウインドウを呼び出し、何かを操作する。 「でも、こだわりは必要よね♪」  そしてシンシアはどこからともなく、下着を取り出した。 「え?」 「ふふっ、これはね、リリアちゃんのブラジャーを取り出しました、もちろんさっきまで付けてた物♪」 「え、ええぇーっ! ど、どうして!?」 「今のリリアちゃんはどうなってるのかしらね?」 「嘘っ!?」  リリアは慌てて巫女服をはだけさせた。   「良かった、まだちゃんと付けてる」 「当たり前じゃない、着ている物を強引に転移させることなんて出来ないわよ」 「それもそうだよね、解っている事なのにお母さんならもしかしてって思っちゃった」 「ふふっ、リリアちゃんのブラジャーは可愛いわね、実物も、付けてる姿もね」 「……え? きゃぁっ!」    リリアは胸を隠すようにしてその場で蹲った。 「リリアちゃんの場合、複雑な罠より簡単な方が引っかかるのよね〜、可愛い♪」 「うぅ……やられた」   「お父さん、見た?」 「……見えた」   「お父さんのえっち!」  そう言ってリリアは走ってリビングから出て行ってしまった。 「もぅ、達哉ったら正直に言わなければ良いのに」 「嘘はいけないだろう? それに見てしまったのは事実だしな」 「ほんと、達哉は正直なんだから」  それには応えず俺はお茶を飲む。 「でもまぁ、ほどほどにしておいてくれよ?」 「うん、それは大丈夫。だって、リリアちゃん可愛いんですもの」 「それだと何が大丈夫なのか解らないぞ?」 「そう? でも、達哉だってさっきのリリアちゃんの巫女姿、可愛いと思ったでしょう?」 「あぁ、可愛かったな」  ガタッ。  俺の後ろの方で何かの音が聞こえたが、慌てて振り返る事はしない。  すぐに足音が2階へと上がっていった。  恐らくタイミングを計ってシンシアは俺にさっきの質問をしたのだろう。 「まったく、シンシアには敵わないな」 「あら、私は達哉に敵わないわよ?」 「そうか」 「ふふっ」  似たもの同士の夫婦だな、と俺は思った。
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