思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2012年第4期 12月31日 FORTUNE ARTERIAL SSS 楽屋裏狂想曲”最新作” 12月24日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory                       「サプライズ・クリスマス」 12月21日 大図書館の羊飼い SSS”芽生えた気持ち” 12月18日 大図書館の羊飼い SSS”出会いの前の2度目の出会い” 12月16日 ましろ色シンフォニーSSS”きょうはにちようび” 12月4日 大図書館の羊飼い SSS”出会いの前の出会い” 11月24日 FORTUNE ARTERIAL SSS”月見水” 11月21日 FORTUNE ARTERIAL SSS”月見酒” 11月16日 FORTUNE ARTERIAL SSS”貴方のすべてを私のすべてで” 11月13日 FORTUNE ARTERIAL SSS”見栄と意地” 11月1日 Canvas SSS's”ハッピーハロウイン” 10月30日 穢翼のユースティア SSS”妹キャラの定義” 10月28日 乙女が紡ぐ恋のキャンバス SSS”妹?の定義” 10月27日 ましろ色シンフォニー SSS”妹の定義” 10月26日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”妹の定義” 10月19日 sincerely yours your diary short story”夫婦の呼び方” 10月16日 穢翼のユースティア SSS”責任の所在” 10月15日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”思いやり” 10月12日 カミカゼ☆エクスプローラー! SSS”体育祭対抗騎馬戦” 10月4日 FORTUNE ARTERIAL SSS ”責任”
12月31日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS 楽屋裏狂想曲”最新作” 「というわけでこーへー!」 「それよりも何で私がここに連れてこられてるのかしら?」  何故か俺の部屋に集まってるかなでさんと紅瀬さん。  珍しいメンバーだと思う。 「んとねー、ほら、話には進行役とツッコミ役が必要でしょ?」 「貴方は自分の役割がボケだと自覚して私を連れてきたの?」 「うん!」 「・・・帰るわ」  立ち上がって部屋から出ようとする紅瀬さん。 「そーそー、今日のポテチは友達が旅行先で買ってきた本場のめんたいこを使った  限定ポテチなのです!」 「・・・」 「・・・」 「・・・孝平がそこまで言うなら少しくらいつきあってあげるわ」 「俺、何も言ってないんですけど」 「と、いうわけでこーへー!!」 「それ、さっきと同じですけど」 「細かいことは気にしないの」 「・・・で、どういう訳なんですか?」 「うん、わたし達が最新作から遠ざかって早4年!」 「もうそんなに経ってしまうのね、でも去年Windows7対応版が発売されたわね」 「それは、移植じゃなくて対応版だからノーカウント」 「赤い約束はしょはんのじじょーで発売中止、せっかく最新作の座を取り戻せると  思ったのに」 「はぁ・・・」  なんだか話がよくわからなくなってきた。 「だけどね、どうしても納得出来ない事があるの、それは!」 「それは?」 「汐見学園が優遇されすぎてる事なの!」 「・・・は?」  汐見学園って、本島の方にあるあの学園都市の事か? 「そりゃね、わたし達も優遇されてたよ? フィギュアだってメインヒロイン全員分が  制服と水着で発売されたし」 「あなただけ裸エプロンもあったわね」 「うー・・・あれはちょっと、その、若さ故の過ちっていうか・・・でもっ!」  顔を赤くしてたかなでさんがかぶりをふる。 「汐見学園の図書部の面々は、発売前からメインヒロイン全員の抱き枕が  でてるんだよ!?」  抱き枕っていえば昔会長が副会長の抱き枕を作るとか作らないかとかで  もめた事があったなぁ・・・ 「修智館学院ではえりりんとわたしのヨメだけしか抱き枕になってないでしょ?  というか、わたしの出番は?」 「あ、そういえばブルーレイの付録で布ポスターはあったわね、メインヒロイン  6人分」 「きりきり、伽耶にゃんはメインじゃないよ?」 「あら、そうだったかしら? それよりも良いのかしら?」 「へ? 何が?」 「あなたのヨメの悠木さんの抱き枕ってみんな買ったんでしょう?  ということは大晦日の夜に・・・」 「なにーーーーっ! そ、そんな使い方は風紀シール10枚!  早速取り締まりに行かねば! 悪い子はいねーかー!!」 「・・・」  よくわからないまま、かなでさんは部屋から出ていった。 「ふぅ、ごちそうさまでした」  紅瀬さんはいつの間にかかなでさんのお土産のポテチを食べきっていた。 「それじゃぁ孝平、良いお年を」 「あ、あぁ・・・紅瀬さんも良い年を」 「えぇ、ありがとう。お休みなさい」  紅瀬さんも部屋から出ていった。 「・・・なんだかいつも通りだな」  今年も終わり新たな年を迎える、そんな感傷に浸れるような場所では無いけど 「それがらしい、っていうのかな」  ずっとずっとこんな騒がしい日が続くような、気がした。
12月24日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「サプライズ・クリスマス」 「ただいま戻りました」 「お疲れ、ミア」  家に戻った私を達哉さんが出迎えてくれます。 「今日も大変だっただろう?」 「そんなこと無いです、とっても楽しいですから」  月の文化交流大使に任命されてから、私は以前より忙しくなった。  左門さんのお店でのお仕事をしながら、月人居住区入り口に新説された小さな  月のアンテナショップ、そのお店で販売されるファーストフードの新メニューを  考えたり実際に作ってみたりと、忙しいけど充実した毎日をおくっている。 「そういえば、さやかさんや麻衣さんは」 「もう会場に行ってるから、俺達も行こうか」 「はい」  今日はクリスマスイブ、左門さんのお店でクリスマスパーティーを開いて  くれるそうです。 「パーティー、楽しみです」 「楽しいだけかな?」 「達哉さん?」  達哉さんが笑いながら私の背中を押してくれます。  何か変わったことでもあるんでしょうか?  左門さんのお店のドアを開けた瞬間。  パン、パパンッ! 「きゃっ」  大きなクラッカーの音で私は出迎えられました。 「メリークリスマス!」  お店の中からみなさんの声がします。その声の中にいつもと違う声が、でも  それは私にとって聞き慣れた、大事な人の声が・・・ 「メリークリスマス、そして少し遅くなったけど誕生日おめでとう、ミア」 「フィーナさまっ!」 「本当は誕生日の日に来てお祝いしたかったのだけど」  フィーナさまは私の誕生日にあわせてスケジュールを調整して下さったそうです。  ですが、やはり無理があったみたいで、誕生日の日は顔を出すことは出来なく  なってしまったそうです。 「でも、今日のクリスマスパーティーにはなんとか間に合ったわ」 「ありがとうございます、フィーナさま」 「そうだ、ミア。ちょっといいかい?」 「達哉さん?」  私は達哉さんに連れられて厨房の方へとやってきました。 「あ、これは!」  一目見てわかりました、この下ごしらえを終えた食材は・・・ 「せっかくだからミアの成果をお披露目しようよ」 「はい! ありがとうございます、達哉さん!!」  それから私はいつもの手順を丁寧に、心を込めて料理しました。 「これが、そうなのね」 「はい、月ズッキーニと合鴨のタルタル、ムーングラス風リゾット添えです」 「ではいただくわ」  フィーナさまに料理を食べていただきました。 「美味しいわ、だからこそちょっと残念かしら」 「え?」 「フィーナ?」  フィーナさまのお言葉に私と達哉さんが驚きの声をあげます。  残念って・・・何か失敗したのでしょうか? 「この料理を一番最初に食べれなかったことが残念だわ」  そう言うとフィーナさまは笑われました。 「脅かさないでくれよ、フィーナ」 「仕方がないじゃない、カレンに自慢されたんですもの。私だってミアの  架け橋の料理を最初に食べたかったのですから」 「・・・フィーナさま、今度の新作はフィーナさまに最初に食べていただきます!」 「ありがとう、ミア。でも私の為に新作の発表を遅らせることはしないでね」 「え、でも・・・」 「大丈夫、時間なんていくらでも作ってみせるわ、私の親友の為なのだから」 「フィーナさま・・・」 「ミア、何も泣かなくっても」 「だって、嬉しいんです! フィーナさま!」 「もぅ、ミアったら」  私はフィーナさまの胸に抱かれて、頭をそっと撫でられ続けました。 「フィーナは今夜はどうするんだ?」 「もちろん、家に帰るわよ」  達哉さんの質問に答えられたフィーナさまは、私たちの家に向かいます。 「それと達哉、今夜はミアを借りても良いかしら?」 「なんで俺に聞くんだ?」 「あら、だってミアは達哉の伴侶なのでしょう? ちゃんと許可をもらわないと、ね」  フィーナさまの言葉できっと私は顔を真っ赤になったと思います。 「大丈夫よ、取ったりしないから」 「それこそ大丈夫だよ、ミアは俺から離れないって信じてるから」 「焼けるわね、ミア」 「・・・はい」 「それよりも部屋に入りましょう、ここは寒いわ」 「そうだな、フィーナ」  達哉さん私は玄関の前でフィーナさまを出迎えます。 「「お帰り、フィーナ(さま)」」 「ただいま、達哉、ミア」 「フィーナさん、私たちの存在、忘れてませんか?」 「そうですよ、フィーナ様」 「忘れるわけないわ、私の家族ですもの。ただいま、さやか、麻衣」 「お帰りなさい、フィーナさん(さま)」  こうして家族揃ってのクリスマスパーティーは終わりを告げ、  みんなで我が家へと帰ってきました。 「フィーナさま」 「何かしら、ミア」 「フィーナさまにいっぱい、いっぱいお話したいことがあるんです」 「私もミアの話し、たくさん聞きたいわ」 「はい! あ、でも明日のスケジュールに差し障り無いようにはします」 「遠慮はいらないわよ?」 「ダメです、姫様」 「ふふっ、わかったわ。それじゃぁ今夜は一緒のベットで寝ましょう、それなら  寝るまでお話を聞けるわ」 「え? そ、そんな姫様とわたしが・・・」 「今のミアは私のメイドじゃなくて、親友よ? 何か問題あるかしら?」 「・・・ありがとうございます、フィーナさま」 「そう、姫様って呼ばれるのも懐かしいけど今はちゃんと名前で呼んでね、ミア」 「はい、フィーナさま!」   フィーナさまがお休みになられるまでの間に私のたくさんの思い、  伝えきれるかどうか、ちょっと心配です。  フィーナさま、私はフィーナさまにお仕えできて、そして達哉さんと一緒に  暮らせるようになって、フィーナさまのおそばを離れるのは今でも寂しいです。  けど・・・ 「今、とっても幸せです、フィーナさま!」
12月21日 ・大図書館の羊飼い SSS”芽生えた気持ち” 「ねえ、今夜もみんなでお風呂に行かない?」 「あぁ、私は構わないぞ」 「何故ですか?」  白崎さんの鶴の一声に、即賛成する桜庭さんと異を唱える、というか  疑問に思う御園さん。 「今日はね、冬至だから」 「答えになってません」  私も答えになってないと思います。 「そうか、柚子湯か」  でも、白崎さんの答えをちゃんと桜庭さんは理解したようです。 「そうそう、玉藻ちゃん。だから一緒に柚子湯に入ろうよ」  すぐにでもお風呂に連れて行こうとする白崎さんを桜庭さんは苦笑いしながら  見ていた。 「私は遠慮します」 「そんな、千莉ちゃんも一緒にいこうよ〜」 「白崎の誘いを断るとは・・・」 「別に、私は興味がありませんから」 「でも、柚子湯は身体に良いんだよ、暖まるし風邪をひかないっていうし」  風邪、という単語に御園さんはぴくっと反応した。  やはり歌を歌うだけあって、喉に関係してくることには反応してくるみたい。 「ね、ね、千莉ちゃん、一緒にお風呂行こうよ!」 「そ、そこまで白崎先輩が言うなら」 「ありがとう! 千莉ちゃん!!」  御園さんの両手を握ってお礼を言う白崎さんだった。 「佳奈すけはどうする?」 「え? 私は誘われてなかったんですか!?」 「そんなこと無いよ、佳奈ちゃんも一緒にいこうね」 「もちろんです!」  一瞬誘われてなかったらどうしようかと思ったけど、安心した。 「・・・なぁ、筧。俺達はどうする?」 「誘われてないんだから行かないでも良いだろう、それに高峰にとっては  芸人殺しの銭湯だからな」 「そうだったな・・・」  部室の端で語ってるお二人の背中はすすけて見えました。 「大丈夫だよ筧君、もちろん高峰君と一緒に誘うつもりだったんだから」 「ありがとさん、でも筧は行くかどうか」 「構わないぞ」 「なん・・・だと!? あの筧京太郎がこんなにもあっさりと誘いに乗るのか!?」  確かに、本を読む時間を削られるのが嫌いな筧さんが!?  私もちょっと驚きです。 「あぁ、この前買った風呂用の本をちょうど読みたかったところだからな」 「・・・」 「お約束ですね・・・」  筧さんの理由は想定内で、それ以上でもそれ以下でもなかったです。  何はともあれ、こうして図書部の面々はあのときと同じ銭湯に行くことになりました。 「いつもと雰囲気が違いますね」  真っ先に浴室に入った私は、柑橘系の香りが包み込む。 「柚子の香りだね」 「そうだな、これだけ香るということは相当入ってるんだろうな。みんな、肌の  アレルギーは大丈夫か?」 「アレルギー?」 「そうだ、佳奈すけ。必ずしも良いというわけではないんだ。柚子と合わない人にとって  今のここは地獄に等しいだろう」 「そう言う人は今日ここに来ることは無いと思います」  最後に入ってきた御園さん。 「私は大丈夫だから、身体洗ってからみんなで暖まろうよ」 「そうだな、どれ、白崎の身体は私が洗ってあげよう」 「だ、大丈夫だよ、一人でできるから」 「遠慮するな、女同士じゃないか」 「うー」  いつものごとく白崎さんと桜庭さんがじゃれ合い始めました。  今はバスタオルを巻いていますが、その胸元の揺れが・・・うらやましいです。  そして私は御園さんの方を見てしまいます。 「・・・何?」 「なんでもないですよ、こんちくしょー!!」  そんな私を御園さんは優しい顔で見つめて来る。 「むきーーーっ!」 「こら、騒ぐな、他の人に迷惑となるだろう」  桜庭さんに怒られました。 「んー、暖まるね〜」  お湯の中で伸びをする白崎さん。 「そうだな」  お湯に浸かってとろけるような顔をする桜庭さん。 「柚子がたくさん浮いてます」  浮いてる柚子で遊んでる御園さん。 「・・・」  私は浮いている柚子よりも、浮いている物をおもちの白崎さんと桜庭さんに目が  言ってしまう。  そして見下ろしてみる、見事に浮いていなかった。 「・・・神よ」 「気にするな、ただの脂肪だからな」 「されど脂肪です! いくら食べていくら牛乳飲んで、たくさん寝ても何故か  胸にだけ脂肪がつかないのです!! 不公平なのです!」 「佳奈」  御園さんが優しい目をしながら私に語りかけてきます。 「貧乳は夢を与えてるから小さいって、言われてるんだって」 「そのネタは前にもやりました! でもあえて言います!  大きいのは夢が詰まってるからだって言います! 私の夢を返して!!」 「はぁ・・・その意見はどっちにしろ男どもの意見だろう、気にすることはない」 「そうだよ佳奈ちゃん、佳奈ちゃんは成長期なんだからこれからだよ」  そう言う1年先輩の白崎さんの胸は大きかった。 「・・・現実って世知辛いです」 「そういえば」  御園さんが何かを思い出すように上を向いてから話を続ける。 「好きな人に・・・触れてもらうと大きくなるって」  それは揉んでもらうとって事?  その時私の頭に浮かんだ顔は・・・ 「え、えぇぇぇっ!」 「佳奈すけ、そこまで恥ずかしがる事はないだろうに」  桜庭さんは御園さんの発言に対しての悲鳴だと思ったみたい。 「・・・うぅ」  そう、なのかなぁ・・・私って・・・ 「佳奈ちゃん、もしかして暖まりすぎてのぼせちゃった?」 「へ? あ・・・そうなのかもしれません」 「そろそろでようか?」 「そうだな、これ以上はのぼせそうだし、御園も良いか?」 「はい」  こうして図書部in柚子湯は終わった。 「佳奈ちゃん、大丈夫?」  同じ弥生寮ということで白崎さんと一緒に寮まで戻ってきた。 「は、はい、少し休んだらもう寝ますぅ」 「本当に大丈夫?」 「大丈夫です、お休みなさい白崎さん」 「うん、おやすみなさい、佳奈ちゃん」  白崎さんとわかれてから私は部屋へと戻る。 「うー」  私って・・・そう、なのかな? 「もう寝ちゃおう!」  私はベットに潜り込んだ。  今の心地よい関係を私は壊したくない、だからこの気持ちは・・・  目をぎゅっと閉じて眠ろうとする。  でも、私の中からお風呂の時に浮かんだ顔が、ずっと消えてくれなかった。
12月18日 ・大図書館の羊飼いSSS”出会いの前の2度目の出会い”  昼休みに入って俺は特別教室棟から食堂へと向かおうとしたときだった。 「あっ!」  人の流れに逆らって歩いてた女子生徒が男子生徒とぶつかってしまった。 「ったく、気をつけろよ!」 「ごめんなさい」  ぶつかった男子生徒はそのまま去っていく。  女子生徒は持っていた多くの書類らしきプリントを落としてしまっていて、  それを屈んでかき集め始める。 「・・・」  周りを見る、特別教室での授業を終えたばかりの生徒は空腹を満たすために  食堂へと向かって歩いて行く。  その女子生徒を避けるように・・・  誰かに干渉するのが好きな訳ではない、どちらかといえば誰にも干渉されずに  本を読んでいられればいい。  なのに、何故か俺はその光景に腹立たしさを覚える。 「・・・ったく」  面倒、早く食事をしてから本の続きを読みたかった。  だが、一度でも気になってしまったことを放置していくのは、それはそれで  後味の悪さを感じてしまう。 「後で気持ちよく本を読む為に、だからな」  誰に言い訳するわけでもないのだが、そうと決まれば行動は迅速に行うべき  だろう。 「手伝うよ」 「え?」  一人で一生懸命プリントを拾っていた女子生徒が見上げてくる。 「で、でも・・・」 「あ、その前に一つ質問いいかな?」 「は、はい・・・」 「このプリント、一般生徒が見ても問題無い物かな?」 「えっと・・・はい、次の会議の資料ですし問題はありません」 「そうか、なら早く集めようか」  女子生徒の返事を待たずに俺は落ちているプリントを集め始めた。  実を言うと、女子生徒に声をかける直前に、未来を視てしまった。  大した内容ではない、このプリントの書面だけだからだ。  だが視てしまった書面の先がちょっとだけ気になったのも事実。  俺は落ちて散らばったプリントを集めつつ、素早く内容にも目を通した。 Another View ... 「あ・・」  特別教室での授業の後、玉藻ちゃんとの待ち合わせの場所に向かう途中の  廊下であの人を見かけた。  声をかけるべきか迷った、この前の路電での時のお礼を言いたいと  思ってたから。でも、私の勘違いだったらどうしよう? 「・・・あれ?」  あの人は廊下の端でプリントを拾ってる女子生徒に声をかけたと思ったら  散らばってるプリントを拾うのを手伝い始めた。 「ふふっ」  あぁ、やっぱりあの人は良い人なんだ。  周りのみんなが手伝おうとしない中、あの人だけ声をかけて手伝っている。 「だとしたら、路電でのあのことも、私の勘違いじゃないよね」  だったらお礼を言おう。  そう思って改めてあの人を・・・ 「あれ?」  いつの間にか居なくなっていた。  失敗だった。 「・・・またどこかで会えるかな、同じ学園に通ってるんだからきっとまた  どこかで。その時はちゃんとお礼を言えたらいいな」 Another View End Another View ...  今日も生徒会の会議が始まる、その前に議題となっている問題の資料を  改めて目を通しておかないといけない。 「・・・あら?」 「どうかされましたか?」 「いえ、この資料にいくつか訂正した後があるわね」  この資料のいくつかは私が作成したもの。  それが訂正されている。それだけならともかく、私が作った物より  見やすくなっている。 「この資料、誰が訂正したのかわかるかしら?」 「執行部の方で訂正してくれたみたいです」 「・・・」  執行部にここまで出来る人材って居たかしら? 「会長、小耳に挟んだ話なのですが・・・」  執行部の役員が嬉しそうに話していたというその話。  その話と経緯を聞いて私は納得した。 「そう、彼が・・・」  偶然とはいえ、彼の実力を確認できたのは収穫だった。  ますます彼が欲しくなった。 「会長、そろそろ」 「えぇ、そうね。まずはこの議題を解決してしまわないとね」  今日はスケジュールが入っているからもう彼に会いにいけないけど  彼が居るところはわかりやすいから。 「明日、会いに行こうかしら」 「会長?」 「な、なんでもないわ」  そう言いながらも、心は明日の事で少しだけ浮き足立っていた。 Another View End 「ちょっとやり過ぎたかな・・・」  拾い上げたプリントを見て、面白そうだったのでその女子生徒とちょっと  話をしたら女子生徒が俺の意見を参考にプリントを訂正していった。  資料なのに良いのだろうか、と思いつつも俺も調子にのってしまった。  そのせいで本を読む時間が減ってしまったことに気づいたのは後の祭りだった。 「・・・まぁ、いっか」  眠るまでの間、本を読んでいればいい。  そしてまた明日になったら本を読めばいい。 「それだけだ」  翌日の放課後、今回の件で生徒会長が直々に図書部まで足を運んで礼を言い  俺を誘ったのもまた後の話。  そしてその話を偶然、白崎と桜庭が聞いていたことを知るのはもっと後の、  羊飼いのメールが来てからの話だった。
12月16日 ・ましろ色シンフォニーSSS”きょうはにちようび”  今日は日曜日、用事が無い日曜日は俺と桜乃の二人だけの日。  いつものように朝早く桜乃に起こされて。  いつものように桜乃との会話をして。  いつものように桜乃とデートの約束をして。  そしていつものように桜乃が布団に潜り込んで。  そんな朝の時間を過ごした後、俺は出かける準備を終える。  桜乃の部屋のドアをノックしながら先にでることを伝える。 「桜乃、先に行ってるからな」  いつも外での待ち合わせをしてのデート、桜乃に先にでることを  伝えるだけだった・・・のだけど。 「・・・え?」  ドアが完全に閉まってなかったらしく、ノックしたらドアが開いてしまった。  そして、そこにいる桜乃は・・・   「お兄ちゃん?」  着替え中だった。  その光景に俺の時間は止まってしまった。  いつものお気に入りの服のアンダーのシャツとストッキングを穿いてるだけの  桜乃。 「お兄ちゃん、寒いからドア閉めて」 「あ、あぁ」  ドアを閉める。 「・・・お兄ちゃん、えっち?」   「・・・え、あ」  桜乃に頼まれてドアを閉めたのは良いのだけど、動揺してた俺は桜乃の部屋の  中でドアをしめてしまった。  つまり、着替え中の桜乃の部屋に入ってしまったわけで・・・ 「ごめん、すぐにでていく!」 「別に、いい・・・お兄ちゃんが望むなら私は・・・いい」 「ともかくごめん!」  否定しながら部屋を出ようとする。 「お兄ちゃんは私とするの、嫌?」 「嫌なわけないよ、桜乃。でも今からデートに行くんだからまずはそっちが先でしょ?」 「・・・ん、デートしたい」 「だから、ごめん、先に行ってる」 「ん。でもその前に・・・んっ」  俺は桜乃にキスをする。 「行って来るのキス、違ってた?」 「違わない・・・でもお兄ちゃん」 「ん? 桜乃」  俺の言葉は桜乃の唇にふさがれ、最後まで言えなかった。 「行ってらっしゃいのキス」 「ちょっと濃い口じゃなかったかな?」 「濃い口、どんとこい」 「それよりもそろそろ時間だから先に出かけるね」 「残念・・・でもデートもしたいから後のお楽しみに取っておくことにする」 「ほどほどにお願いします・・・」  ・  ・  ・   「お兄ちゃん、お待たせ」 「あぁ、それじゃぁ行こうか」 「うん」 「あ、そのまえに桜乃」   「なに?」 「今日もその服似合ってるよ」 「ありがとう、お兄ちゃん。お兄ちゃんも格好良いよ」 「ありがとう」 「ふふっ」  こうして今日もふたりのにちようびが始まった。
12月4日 ・大図書館の羊飼い SSS”出会いの前の出会い”  午前8時10分。  この時間、汐見学園へ向かう生徒の数が一番多い時間帯である。  手元の本から顔をあげてみる。そこにいるのは同じ制服を着た生徒だった。  芋洗いのような混雑、と表現するのにぴったりだ。  さすが生徒数が5万人を越えるといわれてるだけのことはある。  普通に歩けば絶対誰かとぶつかる、そんな道を俺はいつものように本を読みながら  路電の停留所に向かって歩く。  停留所はいつものように混雑していた。  たまには乗らないでの通学も良いのだけど、今朝はちょっと読書に  時間をとりすぎたので授業までの余裕があまりない。  路電を使わずに行くと早歩きか、どこかで走る必要があるかもしれない。  さすがに走りながら本を読むのはあまりよろしくない。  本はゆっくりと読む物だからな。  路電が停留所に止まる、思ったより混雑はしていないようだ。  まぁ、どれだけ混雑しても、本は読めるから問題ないのだが。 「っ!!」  微かな目眩と共に、俺の脳裏にビジョンが走った。  その内容は・・・  今目の前に並んでいる女子生徒と、キスをしてしまう物だった。 「・・・」  思わず否定の言葉を言いそうになり、それを押しとどめる。  こんなところでいきなり変なことをいうと目立ってしまう。  それよりも回避する方法を考えよう。  今俺は路電に乗るための列に並んでいる、その一番前に彼女が居る。  栗色の長い髪に小さなリボンが二つ揺れている。  俺は後ろに並んでいるので顔は見えない。  視えたビジョンは目の前の女子生徒とキスをしてしまうこと。  それは路電の中、恐らくはこのまま路電にのった時、近くにいるのだろう。  そして路電は急停車する、その衝撃でこの女子生徒と・・・ 「・・・」  興味が無いわけじゃない。だが、こんな形でお互いの初めてを失うのは  もってのほかだ。  どうするか・・・  スマートフォンで時間を確認する、まだ路電を一本遅らせても問題は無い時間だ。  路電はすでにホームに到着している、俺は迅速に列から離れることにしたのだが 「ごめんなさい、乗せて!!」  後ろから駆け込んできた生徒達に押されてその女子生徒共々俺は路電の中に  押し込まれてしまった。 「くっ!」  俺は向かいの扉まで押し込まれる、その最後の瞬間に本を持っていない左手で  つっぱるように後ろからの波を抑えた。そうして路電は走り出した。  どうしてこうなった?  俺は左手で扉との間に空間を作って揺れに耐えつつ右手で本を広げている。  本を読む為ではない。  俺と扉の間の空間にはさっきの女子生徒がすっぽり収まっているからだ。  それはさっき視たシチュエーションだった。  少しでもその未来に繋がらないように、俺はその女子生徒との間に本で  距離を作ったのだ。  これなら万が一彼女とぶつかることがあっても、キスする事はないだろう。 「・・・」  形としては俺の腕の中にいると言っても過言じゃない女子生徒は何かを  言いたそうに、でもそのたびに言葉を飲み込む仕草をしている。  俺も余計な事に関わりたくないので、扉にあてている手に力を込めて  この女子生徒に触れないように注意を払う。  ・・・さすがにこの状態では本を読むのは難しいな、ページは片手で  めくれるが背中から来る乗客の圧迫を抑えるのが難しくなる。  そして、その時が来るのが解る。  ここかっ!  その瞬間に俺は身体に力を込める。  甲高い音と共に急停車し揺れる路電、押される乗客。 「っ!」  それでも踏ん張って、女子生徒に衝撃が来る事はなかった。 「・・・あ」  急停車の時に衝撃が来ると思ってた女子生徒は、その衝撃が来ないことに  驚きの声をあげていた。  俺はそれを聞こえないフリをした。 「・・・」  そして路電は停留所に着いたので、俺は流れに任せ路電から降りた。 「ふぅ、何とかなったな」  芋洗いのような混雑の中、でも人の流れは学園に、同じ方向に向かっている。  それなら本を読むのに問題は全くない。  人の流れに乗りながら、俺は路電に乗ったとき中断した読書を再開することにした。 Another View ... 「あの人」  あんなに混んでいた路電の中で、私に体重をかけないようにずっとずっと  ドアに手を突っ張っていてくれてた。 「それに・・・」   急停車したとき、あの人はそれがわかってたかのように力を込めていた。  その衝撃で彼が持っていた本が私の頭に当たったのは気づかなかったみたいだけど。 「お礼、言えなかったな」  もしかしたら私がそう思いこんでいただけなのかも、って思ったらお礼を言うことが  出来ず、そのまま停留所に着いてしまった。 「また、会えるかな」  急停車の時、私の頭に本があたったその時に見えた彼の顔を思い浮かべながら、  私は教室へと向かって歩き出した。 Another View End
11月24日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”月見水” 「ねぇ、孝平。この後予定ある?」  監督生室からの帰り道、瑛里華に週末の予定を聞かれた。 「特に無い、な」  少し考えてみて何も思い出さなかったので、俺はそう答えた。 「じゃぁ今夜から私の家に行かない?」 「了解、じゃぁ準備してから行くな」 「うん、待ってるね」  そう言うと瑛里華は一足先に寮の中へと入っていった。  伽耶さんと紅瀬さんが旅に出て、伊織先輩はふらりと消えたまま何処にいるか  わからない。そのために無人となってしまった瑛里華の実家。  その実家に瑛里華はたびたび帰っている。  それは、いつ伽耶さんが帰ってきても良いようにするために。 「だって、誰もいない家には誰も帰ってこないでしょう?」  だから私が帰って人のいる家にするの、と瑛里華は恥ずかしそうに俺に話して  くれた。  それから俺は瑛里華と千堂邸に週末を利用して泊まりに行くようになった。  だが、名目上は生徒会の仕事の為、である。  そうでもしないと外泊手続きがとれないからである。  実際に終わりきらなかった仕事を持ち込んで、客間で仕事をこなすことも  少なくはないので、間違ってはいない。 「さて、と」  今回の外泊手続きは知人の家に遊びに行く、で提出した。  それから部屋で出来る仕事を終えてから俺は出発をする。  すぐに行きたかったけど、瑛里華との約束の時間があるので時間を潰してから  出発となった。  その間に生徒会の仕事も進めておいたので今夜は無理しないでも良さそうだ。  寮を出て外に出る道ではなく、学院の裏側の道無き道を進む。  知らないと歩けない獣道、それが千堂邸、瑛里華の実家への道だった。  もちろん、外から行くことも出来るけどこの方が近道だから利用している。 「ここを歩くと、あのときのことを思い出すよな・・・」  月の出ていた夜、瑛里華と東儀先輩と出発し、瑛里華と二人だけになって  進んだこの運命の道。 「そのうち笑って思い出せる時が来るんだろうな」  もう、わだかまりは無いから、その時はすぐ近い未来であると俺は確信している。  山道を抜けると、目の前に古びた洋館が現れた。  俺はいつものように正面玄関へと向かい、扉を開けた。 「いらっしゃい、孝平」 「瑛里華?」  出迎えてくれたのはもちろん瑛里華、だけどいつもと服装が違う。  浴衣に半纏と、洋館に似つかわしくない格好だった。 「ほら、孝平、夜ご飯運ぶから手伝って」 「あ、あぁ」  なんで浴衣姿なのか聞く前に俺は調理場へと連れて行かれた。  そこに準備されてたカートを押しながら、廊下を進むその先は・・・ 「離れに行くのか?」 「それは、付いてみてのお楽しみ」  千堂邸には離れがあり、そこは外見は洋館だけど中身は和の作りになっている。  それならば瑛里華の格好の問題が解決する事になる、そう思いながら食膳の  カートを押していく。 「あれ? こんな道あったっけ?」  少し前に来たときは廊下の終点だった場所に扉ができていた。  その扉のガラスの向こう側は建物の外、そこに廊下だけが延びていた。  それは他の建物に向かうために、渡り廊下だった。 「ふふっ、さぁ行きましょう」 「ちょっと、瑛里華?」  瑛里華に促されて俺はその渡り廊下を進んでいくと、すぐに新たな建物に  到着した。 「こんな建物あったっけ?」 「とりあえず中に入りましょう、話はそれからね」 「そうだな」  渡り廊下は室外なのでこの時期は寒い。俺は食膳のカートを押して建物の  入り口の扉をあけた。 「なっ!?」  建物の中の玄関を抜けた先、そこにあるのは広めの和室。  それだけなら驚きはしないけど、その作りに驚いた。  小さな冷蔵庫や金庫、テレビ。そして部屋の中央の机と座椅子。  まるで旅館の部屋のようだった。 「驚いた? 私も最初驚いたのよ。母様ったらいつの間にかこんな建物  作らせていたんだから」  そう言う瑛里華は俺の驚いた顔をみて満足そうだった。 「さぁ、ご飯食べましょうか」  持ってきたご飯は瑛里華は先に来て作ってた物だった。  さすがに旅館で出るようなご飯は作れなかったけどいつもながら美味い  ご飯だった。 「ごちそうさま、美味しかったよ」 「ありがと、孝平。今お茶煎れるわね」 「あぁ、一服したら後かたづけしないとな」 「そうね、さすがに旅館じゃないんだし自分たちでやらないとね」  食膳のカートを使って一度本館へ戻り後かたづけをしてから、離れの離れへ  戻ってくる。 「・・・しまったな」 「どうかしたの?」 「風呂、本館まで戻らないと入れないな」 「大丈夫よ、孝平」 「・・・もしかしてここにもあるのか?」  旅館の部屋の作りをしているこの離れなら、旅館同様ユニットバスくらいは  付いているかもしれない。 「孝平、こっちに来て」  今まで居た和室の隣の部屋へと案内された。 「なっ!?」  その隣の部屋は小さな脱衣所になっていて、何より外へ行くガラス戸がある。  その先にあるのは・・・ 「なんで、露天風呂があるんだ?」 「母様、これが目的でこの離れをつくったみたいなのよ、ほら、これをみて」  脱衣所の端にある冷蔵庫、その扉をあけるとそこに一升瓶が入っていた。 「母様は旅に出てから温泉にはまったみたいなのよ」 「・・・その先の展開は何となく想像できるな」 「そう言うこと、だからお風呂の心配はいらないわ」 「了解っと。それじゃぁ瑛里華が先に入ってくれ、俺は隣の部屋で待ってる」 「・・・ねぇ、孝平。せっかくだから一緒に入らない?」 「え?」 「・・・もぅ、恥ずかしいんだから何度も言わせないでよね!」  タオルを巻いて露天風呂に浸かる。 「これ、温泉なのか?」 「そうみたい」 「そっか・・・」  俺はその場で夜空を見上げる、そこには月が浮かんでいた。  視線を湯面に向ける、そこには月が映っていた。 「母様はこの盃のお酒に月を浮かべていたのね」  瑛里華は、酒はさすがに飲めないので、盃だけ持ち出してきていた。 「なら、水でも入れてみるか?」 「そう、ね。試してみようかしら」  一度部屋に戻り、冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを杯に入れてみた。 「これがお酒なら月見酒っていうんだろうな」 「月見酒・・・いつかは母様とこうして一緒に飲めるようになるのかしら」 「瑛里華が酒を飲めるようになったら誘ってみたらどうだ?」 「うん、そうしてみるわ」 「それじゃぁ今日は月見水で乾杯するか」 「えぇ」  二人で杯に入れたミネラルウォーターを飲む。 「なんだか美味しいわ」 「・・・俺は酔いそうだな」 「水で酔うの?」 「気分と・・・瑛里華に酔いそうだ」  バスタオルだけを纏った瑛里華、髪をあげているのでいつもと違う印象と  色っぽさを醸し出している。  そしてお湯に浸かっている状態、バスタオルは身体に張り付いている。  その身体のラインに、俺はすでに興奮していた。 「もぅ、孝平のえっち」 「ごめん、少しは我慢する」  俺は水を飲み干すと、お湯で顔を洗う。 「せっかくの月見の風呂だもんな、今はそれを楽しもう」 「えぇ」  瑛里華の横に座って瑛里華を抱き寄せる。 「孝平・・・ありがとう」 「俺は何もしてないぞ?」 「うん、だけどなんだかお礼を言いたかったから」 「そっか、じゃぁどういたしまして」 「ふふっ」  こうして瑛里華との月見水を飲みながらの露天風呂を楽しんだ。  その後の事は・・・そう言うことで。
11月21日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”月見酒” 「まさか本当に作るとは思ってもみなかったわ・・・」 「あたしは有言実行だからな」  二人で世界を見て回る旅に出た私達だけど、年に数回玉津島へと戻ってくる  時がある。  最初はすぐに戻るつもりは無かったのだけど、千堂さんの泣き落としに伽耶が  おれた形となったのだ。 「母様の誕生日を毎年祝いたいの、だから絶対戻ってきて、お願い!」 「う・・・瑛里華がそこまで言うなら」 「約束だからね!!」  そしてその後は伽耶の誕生日以外に家族の誕生日の時はみんなで過ごすことが  恒例となった。  その家族の中に私も入っていた。 「当たり前じゃない、紅瀬さんは母様の友人で家族なのだから。  だから、紅瀬さんの誕生日にも戻ってこないとダメだからね!!」  今でもどこかに突撃しそうな千堂さんの勢いに、私ではなく伽耶が納得させられて  しまったのだった。  そんな誕生会も終わって、伽耶と二人で千堂邸の離れに帰ってきたのだけど・・・ 「ねぇ、伽耶。この廊下に先なんてあったかしら?」 「ついてくればわかる」  そう言って先を歩く伽耶の後ろについていく。  千堂邸の離れからさらに離れていく廊下の佇まいは、まるで高級旅館のようだった。  その廊下の終点には立派な引き戸があった。 「なんだか旅館みたいね」  伽耶は私の言葉に気をよくしたようで、少し頬が緩んでいる。 「入るぞ、桐葉」  何に気を良くしたかは解らないのだけど、その豪華な引き戸を開けて部屋の中へと  入ることにした。 「・・・」 「どうだ、桐葉」  入った部屋はまさに旅館の部屋だった。  靴を脱ぐ玄関スペースの横に洗面所やユニットバス。  その先には畳敷きの和室があった。真ん中に机があり、座椅子がある。 「どうしたの、この部屋」 「作らせた、そんなことよりこっちに来い」  和室の隣の扉を開けるともう一部屋あった、そこは外に繋がっていて。 「・・・露天風呂?」 「あぁ、はいらぬか?」  そう言いながら伽耶は着物を脱ぎ始めた。 「・・・そうね、もうどうにでもしてって感じだから、つきあうわ、伽耶」  そうして私たちは露天風呂に入ることになった。 「まさか本当に作るとは思ってもみなかったわ・・・」 「あたしは有言実行だからな」 「そういえばそんなこと言ってたわね」  いつだったかの話を思い出す。 「・・・ありがとう、伽耶」 「なんだ? 何も桐葉が礼を言うことではないだろう?」 「そう? でも私を露天風呂に誘ってくれたお礼は言っても良いと思わない?」 「そ、そうだな。でもな、べ、別に桐葉の為に作らせた訳じゃないからな?」 「くすっ、ありがとう伽耶」  私は風呂の横に用意してあった大きな盃を伽耶に手渡す。  そして伽耶が好きな銘柄の酒をそこに注ぐ。 「すまないな、桐葉」 「私も一緒に飲んでも良いかしら?」 「構わぬが、味が無いかもしれないぞ?」 「いいの、伽耶と一緒に飲みたいだけだから」 「・・・そうか、構わぬ」  私は伽耶の手にある盃に口を付け酒を喉に流し込んだ。 「き、桐葉!?」 「ん・・・なにかしら?」 「なんであたしのから飲むのだ?」 「言わなかったかしら? 伽耶のを飲みたいって」 「聞いてないぞ!」 「そう? でもなんだか美味しいお酒ね、もっと一緒に飲みたいわ」 「・・・はぁ、今度は自分のに注ぐのだぞ」 「えぇ、そうね。でもその前に伽耶にも」  一升瓶から伽耶の盃に酒を注いで、それから私のにも注ぐ。 「・・・」 「・・・」 「月が綺麗ね」 「そう、だな」  正直に言えば、伽耶お気に入りの酒の味は全くわからない。  でも、伽耶と一緒に飲んでいるお酒は・・・とても美味しいと感じる。 「伽耶」 「なんだ?」 「ありがとう」 「・・・あぁ」  静かに夜が更けていった。
11月16日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”貴方のすべてを私のすべてで” 「その、さ。桐葉」 「何かしら?」 「えっとさ、寒いからストッキング穿いてるのかな?」 「・・・それもあるわ。でも他にも理由がある」 「差し支えなければ聞いてもいい・・・でしょうか?」 「ふぅ・・・女はみだらに素肌を見せないものなのよ。制服はスカートが短いから  仕方が無くストッキングを穿いてるだけ」 「夏服の時はストッキング穿いてないよね」 「えぇ・・・その理由も聞きたそうね」 「・・・はい」 「最初は穿いていたわ。でもさすがに夏にストッキングは目立ちすぎるのよ。  周りから奇異な目で見られたわ」 「桐葉はそう言う周りの目って気にしないタイプじゃない?」 「そうね、気にしないわ。私は私だもの。でも、それが理由でその場に居られなく  なったら困るわ」 「そう・・・だったな。主を捜してこの学園に居るんだもんな」 「えぇ、ある程度の協調性は必要だと学んだ結果よ」 「・・・」 「・・・」 「それで、孝平。言いたいことはもう終わりかしら?」 「・・・ごめんなさい」  俺は正座したまま頭を下げた。 「ふぅ、もういいわ」  許しを得て頭をあげた俺の前の、ベットに桐葉がすわって足を組んでいる。  その格好は扇情的だった。  制服のシャツはボタンをはめただけで胸元が露わになっている。  スカートは腰にまとわりついてるだけのようになっており、その下にのぞく  ストッキングは、足の付け根を中心に伝線して破れている。  その下に紫色のパンツがのぞいているが、かなり濡れていてすでにその役目を  果たせないでいた。  つまり、その、まぁ・・・いい雰囲気になって桐葉を抱いたまでは良かったのだが  制服はぐちゃぐちゃに、ストッキングは破ってしまった訳で。 「まったく、孝平は獣ね」 「ごめんなさい、でも桐葉だってあんなに」 「孝平」  桐葉の視線に俺は黙らされた。 「反省は?」 「・・・ごめん、それは出来ない」 「どうして?」 「確かにちょっと激しすぎたかもしれないけど、桐葉を愛する事に反省する  必要なんてない」 「そ、そんなこと言ったって許されるわけ無いこともあるのよ?」 「それは重々承知しております、その点は・・・ごめんなさい」 「・・・もぅ、そんな顔しなくても良いわ」 「桐葉?」 「今度はちゃんと、貴方の体温を私の身体すべてで感じさせて。  それで、許してあげるわ」 「それは、今からでもいいのかな?」 「え?」  桐葉が驚きの顔になる。 「だってさっきあれだけ・・・」 「許してもらえるのならすぐに桐葉を抱きしめたいから」 「・・・いいわよ」  桐葉は顔を赤らめながら着ていた衣服をすべて脱ぐ。  俺も残っていた衣服すべてを脱ぎ捨てた。   「貴方のすべてを私のすべてで感じさせて」
11月13日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”見栄と意地” 「きゃっ!」  教室棟を出てすぐに瑛里華はスカートの裾を抑える。 「・・・見た?」 「今回は残念ながら見えなかったよ」 「何が残念よ、もぅ」  そう言いながら俺と瑛里華は監督生棟に向かって歩き出した。 「寒くなったわね」 「そうだな」 「衣替えの時の事がなんだか凄く昔に思えるわ」  今年の衣替えの時期は残暑がまだ続いていたので、男子も女子も上着を着ての  登校に汗をかいたものだった。 「あれからまだ一月なのに、もう冬だもんな」 「そうね、秋が始まる前に冬になっちゃったみたいよね」  瑛里華は周りを見渡しながら 「紅葉も始まったばかりなのにね、紅葉狩りは寒くて出来そうにないわね」 「そうだな・・・」  両手で自分の身体を抱くような仕草をする瑛里華を見て、俺は気になってることを  訪ねることにした。 「なぁ、瑛里華。寒くないか?」 「寒いわよ」  当たり前じゃない? と言わんばかりの表情だった。 「ならさ、タイツとか穿けばいいんじゃないか?」  修智館学院の冬服を着ている瑛里華の姿を見て、顔や手をのぞいて肌がむき出しに  なっている場所、それは足だった。 「白ちゃんや紅瀬さんははいてただろ? あれって温かいんじゃないのか?」 「んー・・・穿いてれば温かいかもしれないわね」 「なら?」 「色々と面倒なのよ、あれって」 「?」  どういう意味で面倒なんだろう? 「それは、乙女の秘密」 「そう言われると聞くに聞けないな」 「さっすが、孝平は紳士よね」 「そう言う訳じゃないけどさ・・・それでも寒いなら穿いた方が良いとは思うよな」 「そうね、それもありかもしれない、でも!」  瑛里華はくるっと振り返って俺の正面に立つ。 「女の見栄かな」 「見栄? それを言うなら意地とかじゃなくて?」 「あー、意地もあるかも」  そう言って笑う瑛里華。 「女の子はね、いつでも可愛い姿を見てもらいたいものなのよ」 「? 瑛里華はいつでも可愛いと思うけど」 「っ! も、もぅ、孝平ったら自然にそう言うこと言うのよね」 「え・・・あ」  自分で言った言葉の意味に今更ながらに気づいて恥ずかしくなる。 「くすっ、だからこそもっともっと可愛い姿でいたいの、わかった?」 「・・・正直よくわからないかも」 「そうね、孝平ならそれでいいのかもね、ふふっ」 「瑛里華、なんか馬鹿にしてないか?」 「誉めてるのよ」 「そうか?」 「そうよ、っと、到着!」  会話しながらだと監督生棟までの距離は短く感じる。 「中に入れば温かいから、早く入って仕事を始めましょう!」 「そうだな、今日もぼちぼちがんばるか」 「もう、ぼちぼちじゃだめよ」 「そうはいっても白ちゃんが来れないんだし人手不足だけはどうしようも  ないだろう?」 「・・・」  瑛里華は俺の愚痴に答えず、監督生棟の中に入っていった。  そして監督生室に到着する。 「・・・そうね、なら孝平」 「何?」  俺は鞄を椅子におきながら瑛里華に返事をする。 「もしも、もしもだけどね、早く仕事が片づいたらだけどね・・・  私の一番可愛い姿を見せてあげる」 「・・・」  瑛里華の一番可愛い姿って? 「ほ、ほら、仕事始めるわよ!!」  その日の仕事はいつもより早いペースで進行した。  どうやら俺は思った以上に単純だったようだ・・・
11月1日 ・Canvas SSS's”ハッピーハロウイン” ・Canvas3〜遊佐先輩の場合〜 「ハッピーハロウイン!」 「ゆ、遊佐先輩!?」  部活のない放課後、特にする事の無かった俺は一人で部室に来ていた。  なんとなくデッサンしたり絵の具を弄ったりと過ごしてた俺は突然の遊佐先輩の  登場に驚いた。 「ど、どうして!?」 「学、慌て過ぎよ。ほら、これ飲んで落ち着きなさい」  そう言って手渡された物はチョコバナナ牛乳。  ・・・あぁ、間違いなく遊佐先輩だ。 「そうそう、これもあげるわ」  手渡された物は焼き菓子だった。 「あ、ありがとうございます」 「ねぇ、食べてみて」 「あ、はい」  焼き菓子の包装をあけて食べてみる、アーモンドの風味がとても美味しい。 「ふふ、食べたわね?」 「?」 「それじゃぁ学、Trick or Treat!」 「はい?」 「お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ?」  遊佐先輩の言葉で、ハロウインの風習を思いだした。小さな子供達がお化けの  格好で言いながらお菓子をもらうんだっけ。 「でも俺お菓子なんて持って・・・あ」  さっきまで持ってた、遊佐先輩からもらったお菓子を。 「仕方がないわね、学。お菓子がないなら悪戯されちゃうのよ?」 「遊佐・・・先輩?」 「でも、学さえよければ私に・・・悪戯してもいいのよ?」 「遊佐先輩!」 「今はダメよ、せめて・・・ホテルに行ってからよ」 ・Canvas〜恋ちゃんの場合〜 「ハッピーハロウイン! お兄ちゃん!」 「・・・恋、その格好はなんだ?」  突然部屋に入ってきた恋は竹箒を持っていた、それだけならともかく、来ている  服装からしておかしかった。  編みタイツに水着の様なワンピース、これで兎の耳があればバニーだろう。  だが、頭には魔女がかぶるような帽子をかぶっていた。 「年齢を考えろ」 「なによ! 大輔ったらせっかく魔女のコスプレまでしてあげたのに!」  あぁ、やっぱり魔女の格好だったのか、あまりに奇抜すぎて解らなかったよ。 「ふふふっ、恋ちゃんはとてもかわいらしい魔女さんですわ〜、私、悪戯されたい  くらいですもの」 「あ、藍〜」  恋の後ろからカメラを構えた藍ちゃんが入ってきた。 「お兄様も恋ちゃんの可愛さに照れてちゃんと感想言えないくらいですものね」 「え、そう・・・なの?」 「そんなわけない」 「・・・大輔、顔を背けて言っても説得力無いわよ」 「そう言いつつお顔を真っ赤にしてる恋ちゃんも可愛いですわ〜」 「だから藍ってばぁ〜」 「ふふっ、ではお兄様」 「なんだい、藍ちゃん」 「Trick or Treat!ですわ」  そういえばハロウインのお祭りではそう言う風習があったっけ。 「お菓子はないんですの?」 「残念ながら用意してないんだ、ごめんな藍ちゃん」 「いいんですのよ、その方が」 「え?」 「ほら、恋ちゃんも」 「う、うん・・・その、大輔、とりっくおあとりーとょ!」  あ、噛んだな、これは・・・ 「うみゅぅ〜」 「なれない英語なんて使うからだぞ、恋」 「いいの、それよりお菓子ないんでしょ!」  逆切れしつつも藍ちゃんと同じ事を訪ねてくる。 「それはさっきも言ったとおりだけど・・・」  その時唐突に思いだした、お菓子がないとどうなるか・・・ 「それじゃぁお兄様、悪戯するので恋ちゃん共々覚悟してくださいですわ」 「え、なんで私も悪戯される方なの?」 「だって、その方が可愛いじゃないですか」 「あーいー!」 ・Cnavas2〜鳳仙エリスの場合〜 「お兄ちゃん、ハッピーハロウイン!」 「はい、お菓子」  俺は毎年のように用意してるお菓子をエリスに渡す。 「わぁ、これ何?」 「今年はクイニーアマンを焼いてみた」 「美味しそう、食べてもいい?」 「そのために作ったんだから、いいぞ」 「ありがとう、お兄ちゃん大好き!」 「はいはい」 「美味しかったぁ、ところでお兄ちゃん、ハッピーハロウインだよ?」 「それはさっき聞いた」 「だから、お兄ちゃんもハロウインに参加しようよ」 「参加って、毎年強制的に参加させられてるじゃないか」  俺のお菓子を狙ってくる主にちびっことかちびっことかちびっことかとの  戦いの日々を思い出す。 「そうじゃなくって、お兄ちゃんもTrick or Treat!って言って参加するの」 「そう言うのもたまにはいいかもな」  霧なら美味い菓子作ってくるかもしれないしな。 「ほら、早速言ってみてよ」 「今からか?」 「うん、それとも英語は苦手?」 「これくらい言えるぞ、Trick or Treat!」 「完璧だね、お兄ちゃん」  そう言うとエリスは後ろ手に隠していた何かを取りだした。 「私としては悪戯して欲しいんだけど、この日のために練習して作ったこの  手作りのお菓子を・・・」 「ごめんなさいごめんなさい、涙をのんで悪戯させていただきますのでわたくしに  お菓子を渡さないでください」  俺はその場に土下座した。 「なんでそーなるのよーっ!!」  いや、だってなぁ、エリスの料理だし・・・ 「他の2編は甘々だったりほのぼのだったりしてるのに、どうして私の時だけ  そーなるのよ!」 「・・・その他の2編ってのは知らないが、俺はまだ命が惜しい」 「ぶー、そんな危険なものじゃないもん!」  その時インターホンが鳴った。 「はぁい、あ、霧さん。ちょうど良かった、お兄ちゃんが酷いんですよ!  ・・・うん、そうなのせっかく私が作ったハロウインのお菓子なのに。  ・・・え? 急な用事を思いだした? また後で来る? はい、わかりました」 「霧、逃げたな・・・」  さて、俺は逃げ切れるのだろうか・・・今年もまたハロウインの悪夢が始まった。
10月30日 ・穢翼のユースティア SSS”妹キャラの定義” 「カイム、いる?」 「あぁ、開いてるぞ」  今日は仕事も無く家でくつろいでいるとアイリスがやってきた。 「珍しいな、アイリスが使いだなんて。ジークが呼んでるのか?」 「違う」 「じゃぁ、なんの用事だ?」 「その前にお茶」 「俺はアイリスを招いた覚えはない」 「わかった、私が煎れる」  そう言うと水場の方へと行ってしまった。いったいなんなんだ?   「お茶が入った」  カップを二つ持ってきたアイリス。 「どうぞ」 「あ、あぁ」  よくわからないが、まぁ俺の家にあった茶だから大丈夫だろう。 「じー」 「・・・アイリス、そっちのカップをよこせ」 「えー」 「ったく、こっちに何か仕込んだんじゃないのか?」  俺はカップを取り替えながらアイリスを問いつめる。 「そんなことはない、証拠見せる」  そう言うと最初俺が持っていたカップのお茶を一気に飲み干した。 「どう?」 「・・・あぁ、悪かったな疑って」  俺は自分のカップに口を付けた。 「それで、結局何の用事なんだ?」 「私が妹キャラっていう話」 「・・・は?」  妹・・・キャラ? 新しい娼婦の何かなのか? 「上の姉はおっとり系のクロ、下の姉は何をさせても駄目なリサ」 「リサ、酷い言われようだな・・・」 「そして私は妹キャラのポジション」 「・・・百歩譲ってアイリスが妹ポジションってのは解った。それが  俺にどう繋がる?」 「今日は予約がない」 「へぇ、珍しいな」  アイリスほどの娼婦になると毎日予約で埋まっている事が多い。 「予約がないと客引きしないといけない」 「あー、何となくその先の展開解ったんだけど」 「察しがいい、カイム、私を買って」 「どうして俺がアイリスを買わないといけない?」 「だって、カイムがお兄ちゃん役だから」 「・・・は?」 「妹はお兄ちゃんの物、だから買って、カイムお兄ちゃん」 「・・・」  なんだろう、アイリスにお兄ちゃんっていわれて何故かドキドキしている。  俺にそんな性癖があったとは!? 「・・・アイリス」 「何、お兄ちゃん?」 「さっきのお茶、やっぱり仕込んだんだろう?」 「うん」  あっさり白状した。 「最初から自分の方に薬が入っていたのか・・・」 「はずれ、実は両方とも入ってた、それが一番だましやすいってメルトが言ってた」 「メルト・・・余計な知識を広めやがって」 「だから私も・・・お兄ちゃんの欲しいの」 「くっ」  俺の下から上目づかいで迫ってくるアイリス、薬の効果のせいもあってかやばい  状態に追い込まれてきた。 「くすくす、カイム、大きくなってる。カイムはロリコン」 「・・・自分で言ってどうする」 「そうだった、私は妹だからカイムはシスコンだった」 「おい・・・」 「そして妹に欲情してるカイムはエッチ」 「誰がそうさせてるんだ!」 「でも、そんなカイムは・・・  嫌いじゃない」 「アイリス?」 「・・・カイムのへたれ、不能、ロリコンでシスコンでエッチ!」 「だからどーしてこーなる!?」 「もう観念して、私も我慢・・・できない。大丈夫、優しくするから」 「それは男の台詞だろう!!」 「だってカイムはへたれでロリコンでシスコンで」 「アイリス!」  俺の言葉にアイリスがびくっとする。 「良いだろう、アイリスを買おう」 「・・・いいの?」 「あぁ、だが・・・覚悟しろよ?」 「え?」  ・  ・  ・ 「・・・やっぱりカイムはロリコンでシスコンでエッチだった」 「・・・」  さすがにやりすぎた、身体中がだるい。 「でも、そんなカイムは嫌いじゃない・・・好き、かも」 「なんか言ったか?」 「なんでもない、お代は後で良いから、私寝る」 「そう、だな・・・俺も寝るか」 「ん・・・カイム、ありがと」 「アイリスを買ったこと、か?」 「・・・カイムはロリコンでシスコンでエッチで鈍感」 「どこまでその悪名は増えるんだよ」 「・・・くす、おやすみ」  そう言うとアイリスはそのまま俺にしがみついたまま眠ってしまった。  こうなると俺も動けないが・・・まぁ、動くのはだるい。  俺もこのまま眠ってしまおう、小さな妹を胸に抱いて。
10月28日 ・乙女が紡ぐ恋のキャンバスSSS”妹?の定義” 「ただいまー、瑞希、私は部屋に戻ってるから!」 「お嬢様!」  鳳后寮に戻るとすぐにお嬢様は部屋へと戻っていってしまった。 「お帰りなさい・・・あら、怜奈は?」 「あ、昭江さん。ただいま戻りました。お嬢様は部屋に戻られました」 「どうかしたんですか?」 「いえ・・・」  何があったと言えばあったと思うけど、それが原因だと僕のアイデンティティが・・・ 「察するに、怜奈と瑞希さんが買い物にいってナンパされたのですね。  瑞希さんの方ばかり」 「なんで知ってるんですかっ!?」  全くその通りだった。  何で僕ばかりナンパされるんだろう、それも男の人に。  僕なんかよりお嬢様の方が魅力的なのに。 「それで怜奈は機嫌が悪い、と」 「はい、おそらくは・・・」 「もぅ、仕方がありませんね、怜奈は。瑞希さんはどこから見ても可憐な少女なのだから  殿方から声をかけられるのは当たり前のことなのに」 「あの・・・昭江さん? 誰が可憐な少女・・・なんですか?」 「・・・はい?」 「なんでそこで首を傾げるんですかっ! 僕は」 「深山瑞希さん」 「ひゃぃっ!」  一段低い声で昭江さんは僕、いえ、私の名前を呼ぶ。  その恐ろしさに私は背筋を伸ばして返事する。 「ここは鳳后寮です、貴方は誰ですか?」 「私はお嬢様に雇われた鳳后寮のメイドの深山瑞希です!」 「よろしい、さすがですね瑞希さん。ちゃんとちょ・・・教育した甲斐がありました」 「・・・」  ものすごく不当な発現が飛び出しそうだったけど、怖くて訂正出来なかった・・・ 「お嬢様、入ります」  ドアをノックして返事を確認してからお嬢様の部屋へと入る。  お嬢様は大きなクッションを抱いて顔をうずめている、いつもの光景だった。 「お茶をお煎れしますね」 「・・・」  返事はないけど、お嬢様の視線を感じる。 「どうぞ、お嬢様」  カチャと、ティーカップとソーサーの音だけが響いた。 「ありがと、瑞希」  受け取ってくれたお嬢様は煎れたばかりの紅茶に口をつける。 「・・・」 「・・・ねぇ、瑞希。ちょっと聞いてもいい?」 「はい、私でお答えできる事なら何なりと」 「ありがと、瑞希ってあの瑞木杷虎の妹だったのよね?」 「お嬢様、わざとですか? わざとなんですか!?」 「ごめんごめん、ちょっと言い間違えただけよ。  改めて聞くわ、瑞希は杷虎の弟だったのよね?」 「過去形にしないでください、私はずっと杷虎の弟です」 「そう、よね・・・」  お嬢様は何かを考える用に、口元に手をあてる。 「ということは、瑞希はシスコンなのね?」 「・・・はい?」  シスコン?  正式名称はシスターコンプレックス、心理学者の話だと男児が最初に性愛を  求めるのが母親であるが、母親は父親を見ているから、それが敵わず、かわりに  近い女性の姉や妹に対して向けてしまう・・・ 「って違いますよ、私はノーマルですから!」 「瑞希、その格好でそう言うとますます女の子よね」 「うぅ・・・」  確かに女性がノーマルなら愛情を向ける相手は男性になるわけだからそれはそれで  間違いない気がしないでも・・・ 「おかしい、なんだか思考がおかしくなってる!」 「瑞希? 続けてもいい?」 「あ、はい、どうぞ」  おかしくなりそうな思考を中断し、お嬢様との会話に集中しよう、うん。 「それで、瑞希はシスコンだから女の子が好きなのよね」 「話題が戻ってない所か斜め上に行った!?」 「だからあのとき、えっちなこともしたのよね?」 「あ、あれはお嬢様が・・・」 「瑞希のえっち!」  お嬢様が自爆しただけなんだけど、と最後まで言うことができなかった。 「ようするに、瑞希はシスコンでえっち!」 「はぅ・・・お嬢様は私にどうしろと」 「大丈夫よ、瑞希、私は瑞希が大好きだから」 「あ・・・ありがとうございます!」 「瑞希がシスコンでえっちでも私は大好きよ」 「・・・あのぉ、私もお嬢様が大好きですけど、その、シスコンとかえっちとかは  やめてもらいたいんですけど」 「違うって言い切れるならもう言わないけど、どう?」 「・・・うぅ、ごめんなさいごめんなさい」  そう言いきれない事は私自身解っていることだった。 「ごめん、瑞希。からかったりして」 「ぐす・・・お嬢様」 「大丈夫よ、瑞希。瑞希のそんな顔は・・・そんな顔をさせていいのは私だけだから」 「・・・はい?」 「全く、その辺の男が瑞希にそんな顔させるなんて私は許さないわ」 「・・・あの、お嬢様?」 「なに?」 「先ほどからご機嫌が悪かったのって・・・」 「町で瑞希にあんな顔をさせた男のせいよ、私の可愛い瑞希に困った顔させるなんて  許せなかったのよ」 「理由が斜め上だった!?」 「なによぉ、瑞希は私のメイドなんだからいいじゃない」 「お嬢様・・・」 「瑞希のシスコン!」 「はぅ」 「瑞希のえっち!」 「あぅぅ・・・」 「でも、そんな瑞希も大好きよ」  なんだか鞭と飴で操られてるような気がしてきた、そんな日曜の夜だった・・・
10月27日 ・ましろ色シンフォニーSSS”妹の定義”  夕食後、俺が部屋でくつろいでいると、ガチャ、と扉の開く音がした。 「・・・」  桜乃がふらっと入ってきて無言のまま床にあるクッションに座り、本を  広げて読み出した。  めちゃくちゃ自然な動作は、いつもそうしに来ているからである。  俺の部屋の方が居心地が良いらしい。  特に用事が無くても、やってきてただ座っていることも多い。 「・・・」  と、ここまでなら今までと同じだ。  けど、今夜は違っていた。 「じー」  広げた本の上から俺の方をのぞいている。わざわざ自分でじーって言いながら。 「・・・」 「・・・」  いつもなら気にならない無言の時間だが、注目されてるのがわかるとなんだか  間が持たない。 「なぁ、桜乃」 「なに、お兄ちゃん」  そう言いながら本を置くと桜乃は手帳を取りだした。そして鉛筆を構える。 「・・・何してるんだ?」 「お兄ちゃんの観察」 「・・・は?」 「お兄ちゃんの観察」  俺を観察だって? 「えっと、何か意図あっての事なのか?」  俺の質問に桜乃は持ってきた本を見せた。 「この本に書いてあった」  俺はその本のタイトルを見る。 「プリズム」 「お兄ちゃん」  本のタイトルを無意識的に読み上げようとした俺の声を桜乃が遮る。 「ダメ」 「?」 「おとなのじじょーがある」 「・・・はぁ」  桜乃の事情はよくわからないけど、ダメなら言わなければいいだけのことだ。  他の本は、あえて無視・・・と一応口に出さずにタイトルを覚えておく。  春季限定とかいうまるでお菓子の様な本もあった。 「それで、その本と俺の観察と、どう関係あるんだ?」 「・・・うん、私は妹キャラでしょ?」 「いや、キャラって・・・そんなの関係なく桜乃は俺の妹だけど」 「お兄ちゃんはそんな妹に手を出した」  桜乃は無表情のまま、爆弾発言をする。  ・・・事実だけに何も言い返せない。 「お兄ちゃんのえっち」 「・・・あぁ」 「お兄ちゃんのシスコン」 「否定はしない」 「でも、お兄ちゃん大好き」 「俺も桜乃の事が大好きだぞ」 「っ・・・」  思わず出た俺の本心を聞いた桜乃の顔が赤く染まる。 「素で返されると結構恥ずかしい・・・」 「・・・そう言われると俺も結構恥ずかしいんだけど」  二人で恥ずかしがってしまった。 「そんなお兄ちゃんを観察する」 「結局そこに話が戻ったんだね、でどうして観察するの?」 「お兄ちゃんが大好きだから」  ・・・相変わらずの桜乃の定義だった。 「なら俺も桜乃が大好きだから観察しなくちゃいけないな」 「・・・お兄ちゃんのえっち」 「まった、桜乃、何を想像した?」 「お兄ちゃんのシスコン」 「俺は桜乃の事大好きだからな」 「・・・先に言われた、ぽっ」 「・・・そこでそう恥ずかしがられると俺も結構恥ずかしい」 「ん・・・」  よくわからないけど、今日もいつもと同じ桜乃と二人の夜だった。 「それじゃぁお兄ちゃん、私お風呂入るけど・・・観察する?」 「ぶっ!」  思わず吹き出す。 「お、女の子がそう言うこというんじゃありません!」 「わかった、それじゃぁお兄ちゃんお先にどうぞ、私はお兄ちゃんを観察する」 「・・・せめて、一緒に入らないか?」  俺が先に風呂に入れば本当に観察しに来かねない。  故に早めに妥協点を提示する事にした。 「・・・お兄ちゃんのえっち」 「俺は桜乃に対してだけえっちでシスコンで、桜乃が大好きだからな」 「・・・ぽっ」  なんだか自滅したっぽいけど、嘘偽りのない気持ちだから問題は無い・・・のか? 「お兄ちゃんはシスコン、シスコン♪」 「・・・」  機嫌良く嫌な鼻歌を歌う桜乃、この鼻歌を家の外で歌わない事だけを  祈っておこう・・・
10月26日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”妹の定義”  ・・・  今日はトラットリア左門が定休日なので夜ご飯は自宅で食べている。  姉さんは遅くなるので先に麻衣と一緒に食べているのもいつものことなのだが。 「・・・」  今日はいつになく麻衣の視線を感じる、というか見られている。  ふたりっきりでの食事なら会話する相手は麻衣しかいないのだから見られるのは  当たり前なのだが・・・ 「なぁ、麻衣。俺の顔に何かついてるのか?」 「え、べ、べつに変じゃないよ? いつもと同じで格好良いよ!」 「あ、あぁ・・・ありがと」  格好良いと言われた、いつもの俺なら照れる所だろうが、今日はそれよりも  麻衣の挙動不審が気になる。  その後の会話もいつもと同じ世間話だったりご飯の話だったりと、いつも通りに  時間は過ぎていった。 「ふぅ、なんだったんだ?」  ソファでお茶を飲みながらのんびりテレビを見・・・ 「・・・」  背後で洗い物をしているはずの麻衣の視線を感じる。  俺は麻衣の方に振り向いてみる。 「っ!?」  麻衣は驚いた顔をしたと思ったら俺に背中を向け、洗い物を始めた。 「麻衣、いるか?」 「お兄ちゃん!?」 「入るぞ、いいか?」 「う、うん・・・どうぞ」  寝る前に麻衣を訪ねてみた。 「どうしたの、お兄ちゃん? こんな夜遅くに」 「あぁ、とりあえず麻衣。どうした?」 「どうしたって、何が?」 「今夜の麻衣、何か変だった」 「え? そ、そんなことないよ?」  ・・・絶対何か隠してる。 「そうか、麻衣だって年頃の女の子だもんな、男の俺には言えない事も  あるもんな」 「え?」 「すまなかった、麻衣」  俺は頭を下げる。 「お兄ちゃん、頭を上げて!」  麻衣の慌てる声がする、ちょっとやりすぎだったかな・・・ 「ありがと、麻衣。それじゃぁ俺は戻るから、お休みなさい」 「・・・お兄ちゃん、ごめんなさい!」  今度は麻衣が頭を下げた。 「実は、お兄ちゃんを観察していました」 「観察? なんでだ?」 「今日部活の時に遠山さんから言われたの」 「麻衣は妹キャラでしょ?」 「キャラって・・・確かに私はお兄ちゃんの妹だけど」 「でねでね、最近の妹はね、兄を観察するのが流行なんだって!」 「流行? お兄ちゃんを観察するのが?」 「そうそう、兄を観察して兄の動向をしり、兄が望むことを瞬時に叶える、それが  妹なのだ!」 「お兄ちゃんの望むことをすぐに叶える・・・」 「そのために観察するのが妹なのだ!」 「お兄ちゃんが望むことを知るために・・・」  ・・・  遠山、お前は麻衣に何を吹き込んでるんだ!! 「麻衣、俺は今のままの麻衣で充分だぞ」 「でも、お兄ちゃん!」 「今の麻衣は充分俺の事を考えてくれて、行動してくれてる、兄名利に・・・いや、  恋人名利につきるくらいだよ」  恋人の言葉に、麻衣は顔をほころばせる、その笑顔だけで俺は幸せになれる。 「だからさ、麻衣は麻衣のままで良いんだよ」 「でもそれじゃぁお兄ちゃん、いつかは私のこと飽きちゃうんじゃない?」 「なぁ、麻衣。麻衣はいつか俺の事・・・飽きるか?」 「そんなの絶対ないよ!!」 「俺もそうだよ、麻衣」 「・・・お兄ちゃん」 「もし変わりたいなら一緒に変わっていこうと思うけど、どうかな?」 「ううん、お兄ちゃんは今のままでも充分だよ、私の方こそ追いつかないと・・・」  そう言う麻衣を抱きしめる。 「お兄ちゃん・・・」 「まったく、俺の恋人さんは謙虚過ぎるよ。麻衣、麻衣の定位置はもう俺の横なんだよ。  後ろでも前でもない、俺の横だから、大丈夫だよ、麻衣」 「うん、ありがとう、お兄ちゃん・・・大好き!」
10月19日 ・sincerely yours your diary short story”夫婦の呼び方” another view... 「ふぅ、落ち着くなぁ」  食後のお茶をシンシアに煎れてもらってソファで飲む。  そんな夕食後の一服の時間、心がとても落ち着く。 「このところ慌ただしかったものね」 「そう、だな」  この夏シンシアが帰ってきた、娘のリリアと一緒に。  それから家族3人、家には麻衣も居るから家族4人で生活していくために  いろいろと準備をした。  その間に娘のリリアから結婚式をプレゼントされたり、新婚旅行に娘を  連れていったりと、いろいろとあった。  そんな慌ただしい日常も終わり、今は普通が戻ってきている。  シンシアと、娘のリリアと一緒に過ごす、今の俺の普通が。 「達哉ったら顔が緩んでるわよ? 何を考えてるの?」 「ん・・・幸せだなって」 「・・・もぅ、達哉ったら」  俺の言葉に顔を赤くしつつも嬉しそうにするシンシア。  本当に幸せだなぁ・・・ 「ねぇ、達哉。私たち、結婚したのよね」 「今更嫌だっていっても絶対にわかれないぞ?」 「そんなこと言うわけないじゃない。そうじゃなくって」 「じゃぁ?」 「えっとね、達哉の呼び方を変えた方が良いかなぁって思ったの」 「呼び方?」 「うん、私は最初から達哉ってずっと呼んでるでしょ?」 「それが何か問題でもあるの?」 「問題ってわけじゃないけど・・・夫婦だから」  夫婦・・・その言葉にシンシアの言いたいことが解った。  けど、それ以上に夫婦という言葉に幸せを感じてしまう。 「また達哉の顔が緩んでる」 「シンシアもだろう?」 「・・・」 「・・・」 「そ、それでね、夫婦らしい呼び方をしたほうが良いかなぁって思ったの」 「夫婦らしい呼び方かぁ・・・」  俺の親父と母さんはなんて呼び合ってっただろう?  名前にさんをつけて呼んでいた、ような記憶がある・・・ 「シンシアは俺をどう呼びたいんだ?」 「えっとね・・・その・・・」  シンシアは顔を赤くして言いよどんでる。そんなに恥ずかしい呼び方なのか? 「・・・あ・な・た」 「・・・」  呼ばれる方も恥ずかしかった。 「あー、だめだめ、なんだか恥ずかしすぎるっ!」 「そ、そうだな・・・」 「えっと、他にも考えたんだけど、呼んでみていいかしら?」 「良いけど・・・」  なんだかお互いで自爆しそうな気がする。 「それじゃぁ・・・こほん」  わざとらしい咳払いの後にシンシアは俺を呼んだ。 「旦那様」 「・・・」 「・・・なんか、ちょっと違う気がする」 「そ、そうだよな」  お互い顔が真っ赤だった。 「まだ・・・続けるのか?」 「最後のはとっておきだから、覚悟してね!」  お互いに覚悟が必要の時が来たようだ。 「それじゃぁ・・・ね、ねぇ、ダーリン」 「・・・」 「はぁ、いつまでやってるのよ、わたしが居る前で」 「「え?」」  俺とシンシアの声がはもった。 another view end 「はぁ、いつまでやってるのよ、わたしが居る前で」 「「え?」」 「まったく、らぶらぶなのはわかるけど少しは遠慮してよね」 「・・・ごめんなさい」  素直に謝るお母さん。 「それにね、お父さん!」 「は、はい!」  わたしの呼びかけに緊張した返事をするお父さん。 「お父さんはお母さんのことをどう呼ぶの?」 「リリア、そっちにツッコミいれるの?」 「だってお母さんばかりだったじゃない」 「そりゃそうだったけど・・・私が達哉の事をそう呼びたかっただけだし」 「だったらお父さんも変えないとダメじゃないのかな?」 「そういうもんか?」 「そういうもん!」 「・・・じゃ、じゃぁシンシア」 「は、はいっ!」 「・・・えっと、ハニー?」 「・・・な、なぁに、ダーリン?」 「・・・」 「・・・」 「いきなり最後の返事から?・・・はぁ」  言っておきながら真っ赤になる二人。  お母さんもお母さんなら、お父さんもお父さんだった。
10月16日 ・穢翼のユースティア SSS”責任の所在”  剣と剣がぶつかり合う音と怒号が飛び交う戦場。  その光景もまた牢獄ではよくあることだった。  不蝕金鎖と風錆との縄張りの間、グレーゾーン付近で行われたとある組織の  不蝕金鎖所属の娼館への妨害行為。  それがエスカレートしたため、ジークはその組織を制裁する事にした。  表から組織を抑える部隊と裏から敵の逃亡を抑える部隊、そして俺は一人遊撃手として  物陰から物陰に移り進み、敵を倒していった。 「よぉ、カイム。首尾はどうだ?」  一度ジークの元に戻った俺は状況を説明する。 「大丈夫だろう、もともと雑魚ばかりの組織ともいえない組織だからな」 「そのようだな、俺が出てくるまでも無いくらいだな」 「あぁ・・・」  俺は背後から忍び寄る気配に臨戦態勢を取ろうとして、やめた。  ジークの居るこの場所に忍び込める賊など居るわけがない。 「どうした、オズ」  ジークは最初からオズだと解って、先に話しかける。 「まずいことになりました」 「どうした?」 「別働隊が突破されたようです」 「なに? 逃がしたのか?」 「それならまだ追撃しようにあったのですが・・・敵の一部隊が立てこもりました」 「どこにだ?」  オズは言いづらそうにしているが、言わなくてはいけないのを解っている。  だからこそ、淡々と結果を報告した。 「リリウムです」 「ジーク、俺が行こう」 「頼めるか?」 「あぁ、アレ使わせてもらうぞ」 「構わん、それと中の賊だが出来るだけ生け捕りにしてくれ」 「善処する、だが俺が生け捕りに失敗した方が幸せかもな」 「おいおい、情けをかけるのか?」 「冗談、俺がそんなことをすると思うのか?」 「そう、だな。カイム、頼んだぞ」 「あぁ」  短い会話の後、俺は闇に消えるようにその場から移動した。  リリウムの前に人だかりが出来ているのを遠目から確認する。  どうやらリリウムに詰めていた不蝕金鎖の構成員でなんとかしようとしているらしい。  しかし、騒ぎが大きくなりすぎている。 「ベルナドが後で嫌みを言いに来るだろうな、絶対に」  嫌みを言うだけのために自分の組織の末端を切り捨てる、  そう言うことを平気でするのが風錆のベルナドだ。 「その辺はジークが何とかするだろう・・・」  リリウムを大きく迂回するルートを通り、ジークが隠し持つ隠れ家の一つに潜り込む。  その隠れ家の奥にある隠し部屋、その中の隠されてる通路に身体を忍び込ませる。  明かりがないが、安全は保証されてる通路なので手探りと音だけで通路を進んでいく。  いくつかの分かれ道があるが、それはこの通路を使って外へ出る場合の為の分かれ道。  中へ行く場合には分岐は全くない。  そして大きな重い扉に辿り着く。 「・・・」  聞き耳を立てる、そこには誰もいないようだ。  それを確認してから、俺は決められた手順の通りに扉を開ける。  そこはリリウムのジークの私室だった。  誰もいないのを確認してすぐに隠し扉を閉め、施錠する。  この部屋は施錠された場合、誰も立ち入れないほどの強固な城となる。  それ故に賊は入って来れなかったのだろう。  すぐに外へと続く扉の横の壁から、廊下の気配を探る。 「・・・」  そんなに多くない人数なのがわかるが、ここはリリウム。  娼婦が人質に取られてることも考慮しないといけない。 「さて、と・・・始めるとするか」  とはいえ、ここは俺のホームでもある。そのくらいのハンデがあっても  どうってことはない。  そしてその考え通り、その後すぐに賊を鎮圧する事に成功した。 「被害は?」 「金品等の持ち出しは確認されていません、娼婦達も全員無事です」 「ということは、被害はこれだけか・・・」  リリウムのロビー、そこに集まった俺達は周りを見渡す。  綺麗に保たれてたロビーの装飾品、それどころか建物自体が破壊されている。 「最初から不蝕金鎖の象徴を破壊するための部隊だったわけだな」 「そのようだな、ったくベルナドの野郎・・・」  ジークが忌々しげに吐き捨てる。 「だが、娼婦に被害が無かっただけマシだな」 「そうだな」 「さて・・・この責任、どうするかだな」  ジークの言葉に不蝕金鎖の構成員がびくりと身体を振るわせる。 「ジーク、今回責任は俺がとる」 「カイム?」 「別働隊を抑えるのも俺の仕事だった、それを取り逃がしたのは俺の責任だ」 「・・・確かに、な」 「カイムさん、カイムさんは悪くないです! それを言うなら俺達が」 「黙れ」  若手の構成員の言葉をジークが一括する。 「まったく、カイムは男にもモテモテだな」 「ジーク」 「おおっと、すまん。ではカイムは鞭打ち5回」  鞭打ちという言葉に先代に叩かれたときの記憶が思い浮かぶ。それを無理矢理  押さえ込む。 「・・・と言いたいところだが、まだ抗争が終わった訳じゃない。  戦力を自ら潰すのは愚弄だからな」  そういってにやりと笑うジーク。 「カイムにはリリウムを一晩買ってもらおう」 「ジーク!?」  弁償するならまだ解る、だがリリウムを買うとは? 「足りない分の金貨は次の仕事の依頼金から差し引く、オズ。壊れた建物の修理の  手配を頼む」 「わかりました」 「それと娼婦達に通告、今日はカイムが買ったから客の呼び込みはいらないと、な」 「はっ」 「おい・・・ジーク、何を企んでる?」 「何も企んでないさ、どうせ今日は営業出来ないだろう?」  大きくなった騒ぎに壊されたリリウムのロビー。  不蝕金鎖の沽券に関わる出来事だ。 「だから、カイムに責任をとって、一晩買ってもらったわけさ、貸し切りだぞ?」 「・・・なるほど」  ジークの顔を見て、俺は事態をおおむね理解した。  抗争を仕掛けてきた風錆とのつながりがあるかもしれない組織を  俺が潰すのを手伝った。その依頼金を使ってリリウムを借り切って豪遊する。  そのため普通の予約はキャンセル、あの騒ぎはそれに対する抗議活動だった。  と、後ほど情報操作するのだろう。 「わかった、それじゃぁ俺は帰る、後は頼んだぞ」 「おい、カイム。なんで帰るんだ?」 「何でって、仕事は終わっただろう? 報酬はリリウムを貸し切った分で消えるから  もうここには用事が無い」 「何を言ってるんだ、カイム。お前は今日リリウムを貸し切った。  ならここで何をする?」 「何をって・・・冗談だろ?」 「冗談でもないさ、責任を取ったのだから、最後まで責任をとりきってもらおう」 「カイム様っ!」  その時になって奥からクロが飛び出してきた。 「今日はカイム様がすべての娼婦を買ってくださったのですね、嬉しいですわ」 「それは建前だろう」 「建前であっても買ってくれたのは事実なんだよね、カイム」 「カイム太っ腹、今日は客引きしないですむから楽」  リサとアイリスも会話に加わってくる。 「それに、カイムは一人」 「当たり前だろう、アイリス」 「娼婦はこれだけいる」  クロ達の後ろに集まった娼婦の数は両手の指でも足りないほどいる。 「私の出番が少ないのが残念」 「何の出番だ!」 「そうだね、カイムがどれだけ持つのかそっちが心配だよ」 「リサ、お前まで何を言ってるんだ!」 「そうですわね、いくらカイム様が絶倫でも娼婦全員をお相手にされるのは  大変ですわね」 「クロまで・・・」 「まぁまぁ、お前ら。今日はカイムの貸し切りだ。カイムを主人として充分  尽くすんだぞ!」 「おーけー、ボス!」  ジークの言葉にリサが真っ先に返事をした。 「そう言うわけだ、カイム。今夜はとことん楽しんでこい」 「ジーク!」  去るジークを止めようとした。 「何処に行かれるのですか、カイム様」 「カイム、みんなちゃーんと相手してね」 「不能じゃない証拠、見せてもらう」 「カイムさま!」 「カイムさま!」  クロ達を筆頭に娼婦すべてが襲いかかってきた。  端から見ればリリウムの高級娼婦に迫られてる俺は誰もが羨む光景だろう。  俺だって一人や二人程度なら何とか出来る自信はあるが、この人数は多すぎる。  どうすればこの場を上手く抑え逃げ切れるか、そして上手く逃げ切ったとしても  その後この話を聞いたエリスやメルトの態度を想像して・・・  俺はため息をついた。
10月15日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”思いやり” 「エステルさん、だいじょうぶですか!」  教会の私室の方の入り口より中に入り、エステルさんの部屋へと入る。 「達哉、どうしたのですか? そんなに慌てて」 「・・・あれ?」  部屋で本を読んでいたエステルさんは・・・普通だった。 「達哉?」 「あ・・・えっと、その。エステルさん、怪我は?」 「怪我? 私が、ですか?」  どこかで話が違ってるのか?  でも、エステルさんに何も無くて良かった、そう思った瞬間その場に座り込んで  しまった。 「達哉!?」 「なるほど、そう言うことでしたか」  俺の説明を聞いたエステルさんは誤解だと笑いながら答えてくれた。 「確かに、ちょっとつまずいて転んでしまいましたけど、それを倒れたっていえば  そうなりますね」 「どこでどう話が大げさになったかわかりませんけど、無事で良かったです」 「でも、どうして話が大きくなったのでしょう?」 「おや、朝霧さん」 「あ、モーリッツさん、お邪魔してます・・・あれ?」  そういえば、俺は誰から連絡を受けた? 「あの、モーリッツさん。エステルさんが倒れたっていう話ですけど」 「はい、確かにエステルは礼拝堂の掃除中に一度倒れましたが、何か?」  そう言って微笑むモーリッツさん。 「モーリッツ様!? なんでそのような事を達哉に・・・」 「私は何か間違ったことを朝霧さんに伝えたかね?」 「・・・」  確かにエステルさんがつまずいて倒れたのは事実、だから間違っていない。 「そうだ、朝霧さん。エステルを今夜一晩預かってもらえませんか?」 「はいっ!?」  モーリッツさんの言葉にエステルさんが驚きの声をあげる。 「あの・・・モーリッツさん?」 「エステルは今日礼拝堂で倒れました、だから少し休息が必要なのです」 「モーリッツ様? 私はつまずいただけで倒れてませ・・・」  実際倒れたのだろう、素直なエステルさんの反論は一度止まる。 「で、でも、私は怪我もしてませんし仕事はちゃんと出来ます!」 「そうだな、だからこそ休息も必要なのだよ、エステル。私がこうして地球に  上ってきた理由、わかるだろう?」 「そ、それは・・・」  何となくだけど読めてきた。 「解りました、モーリッツさん」 「達哉!?」 「一晩だけで良いのですね?」 「はい、実費は後ほど請求して下さって結構です」 「いえ、そんな必要はありません。だって、倒れたエステルさんを休ませる  だけですから」 「さすがは朝霧さん・・・おっと、それ以上は野暮ですね」 「そうですね、モーリッツさん」 「・・・なんで二人だけ解ったような顔をしてるんですか」  隣でエステルさんがあきれていた。  その日の夜。  倒れたエステルさんを介抱する名目なので特に大がかりなことはせず  夕食もおやっさんが作ってくれた物を部屋に運んでの食事となった。 「モーリッツさんが教会に来てエステルさんは仕事を休まれました?」 「いえ、いつも通りに行いました」 「・・・やっぱりな」  気を遣ってくれたのか、朝霧家のゲストルームでの食事は俺とエステルさん  二人だけで、となった。 「エステルさん、教会に赴任してきてから休み、取ってます?」 「休みですか?」  エステルさんは目を閉じて、思い出そうとしているようだ。 「えと、モーリッツ様がいらっしゃったときにはあったと思いますけど・・・」 「多分、それだと思います」  俺は考えてることを話した。 「エステルさん、教会組織にとって地球の礼拝堂は最前線であると同時に  左遷・・・」  左遷させられ赴任させられた事を知ってる俺は言葉選びを失敗した。 「良いんですよ、達哉。事実ですから、続けてください」 「すみません、では続けます。最前線でありながら・・・左遷先としての教会。  その教会にモーリッツさんが月の教会から支援をしようとするとどうなります?」 「・・・そうですね、昔の私だったら嫌だと思います、モーリッツ様が  いらっしゃったからこそお受けしたわけですし」 「では、今は?」 「私は今ここで働き、神の教えを説く事に生き甲斐を感じています。  達哉も・・・居てくれるのですから」 「・・・」  その言葉に俺は頬に熱を帯びるのがわかった。  同じようにエステルさんの顔も赤くなっている。 「・・・すみません、いまは話を戻します。きっとモーリッツさんはそれが心配  なんだと思います」 「何が心配なのですか?」 「エステルさんが全く休めない事と、交代要員が全くおくれない事です」 「・・・あ」  エステルさんはやっと意味に気づいたようだ。 「だからモーリッツさんはどうにかしようと、自分自身で地球に来て  エステルさんのちょっとしたつまずきを利用したんだと思います。  エステルさんを休ませるために」 「モーリッツ様・・・」 「今のエステルさんは輝いています、自分自身の目標を見つけてまっすぐに  進んでいるのですから」 「達哉・・・恥ずかしいです」 「恥ずかしがらないでください、エステルさんの生き方はすばらしいと  俺は思いますから。でも、時には立ち止まるのも必要だと思います」 「・・・そうですね、私もずっと司祭のままではダメですものね」 「えぇ、エステルさんは司祭の前に女の子ですから」 「違いますよ、達哉」 「?」 「私はただの女の子ではありません・・・達哉の彼女です」 「・・・」 「・・・」 「・・・エステルさん、顔が真っ赤ですよ」 「た、達哉こそ・・・」 「・・・はは」 「・・・ふふっ」  こうして楽しい食事と、エステルさんにとって一晩だけのお休みの日は  過ぎていった。  その後、モーリッツさんが上手く取りはからったのか、礼拝堂に定期的に  協会本部から交代要員が来るようになった。 「セフィリア様が期待して建ててくださり、フィーナ様も期待されてる地球の  静寂の月光の最前線、その司祭が過労で倒れたとお知りになられたら  どうなるのでしょうな、と報告したまでだよ」 「モーリッツ様、私は過労で倒れてなどいません!」 「そうか? そうだったか、すまないな、エステル。歳をとると勘違いしやすく  なってしまうようだ」 「もぅ、モーリッツ様!」  二人のやりとりを見ながら、俺は礼拝堂の椅子を雑巾で拭く。 「いいじゃないか、エステルさん。誰だって間違いや思いこみはある物だろう?  たとえば、ここに来たばかりの司祭様とか」 「う・・・」  心当たりがあるのか、エステルさんは顔を真っ赤にしてしまう。 「ははは、朝霧さん、ずいぶんエステルの扱い方になれてきたようですね」 「えぇ、モーリッツさんのアドバイスのおかげです」 「た、達哉! なんですか、そのアドバイスとは。それにモーリッツ様!」 「これはいけないな、朝霧さん。ちょっと外に散歩に行きませんか?」 「賛成です!」 「二人ともお待ちなさい!」
10月12日 ・カミカゼ☆エクスプローラー! SSS”体育祭対抗騎馬戦” 「秋、それはおっぱいの秋!!」 「・・・航平、思考が言葉に出てるぞ」  だが、航平がここまでハイテンションになってる訳もわからないでもない。  今日は澄之江学園の体育祭の日。  みんな体操着でグラウンドに集まって競技を行っている。 「おー、あの子すげー、たゆんたゆんだ!」  そう、男子も女子も体操着。  そして航平曰くおっぱいが目立つ体操服姿、の女子に興奮しっぱなしなのである。 「・・・そろそろ黙らせるべきだろうか」 「私もさ、その意見に賛成なんだけどね・・・あれでも戦力だから」  そう、航平は我がクラスの非メティスパサーの中で突出した戦力となっているのだ。 「つぶすなら終わってからにしなよ、慶司」 「琴羽・・・結構えぐいこというよな」  そう? 琴羽は笑う。それだけの仕草で、琴羽の大きなおっぱいが揺れる。  俺はそれを直視しないよう、グラウンドに目を向けた。  澄之江学園の体育祭は、クラス対抗で行われる。  基本的な競技はどの学園でも行われてるような物ばかりだが、ここは澄之江学園。  メティスパサーが多く在籍している。  そのメティスパサーの為の競技も用意されてはいるが、メティス能力は個人の資質に  よるものだから、実際競技として成り立っていない物が多かった。  そのため、メティス使用許可のある競技は獲得点数が低く、一般競技の方が得点が  高く設定されている。それ故に航平の戦力は侮れない物があった。  体育祭は特に大きな問題もなくプログラムが消化されていく。 「このまま無事に終わればいいんだけどな」 「慶司くん、どうしたの?」  俺の独り言を風花が聞いていたようだ。 「いや、このプログラムの最後なんだけどさ」  体育祭のプログラムの最後の項目、そこには”本日のメインイベント”と  書かれている。 「あー・・・」 「なんかさ、こー、嫌な予感するんだけど」 「私もそんな予感する」 「・・・」 「・・・」 「無事、終わるといいな」 「そうだね、慶司くん」 「澄之江の生徒の諸君! 待たせたな、早速”本日のメインイベント”の  説明に入ろう」 「ちょ、近濠先輩!?」  最後のプログラムが終わった直後にスピーカーから聞こえてきたのは近濠先輩の声。  その声に驚く琴羽を見ながら、俺は平穏無事に体育祭が終われない事を確信した。 「最後の競技、それはクラス対抗騎馬戦だ!」 「騎馬戦?」 「近濠先輩の説明をまとめるとこうなる」  ・クラス対抗で代表を1騎選出。  ・得点は生き残ることと奪ったはちまきの数で決まる。  ・失格の条件は、はちまきを奪われるか騎馬が崩れた場合。 「そして、メティスの使用が可能、か・・・」 「でもメティスパサー以外の生徒にメティスで妨害しちゃいけないってルールが  あるから安全だよ・・・ね?」 「風花、それって逆に言えばメティスパサーにはメティス使っていいって意味だよ?」 「えぇ!? 琴羽ちゃん、それって危なくないの?」 「危険だと思われたら宇佐美先輩が介入してくるって言うから大丈夫だとは  おもうけど・・・」 「慶司?」 「メティスパサー以外の生徒にメティスを使ってはいけない、がルール最大の問題、  だな」  つまり、非メティスパサーをいかに上手く使うかがこのゲームの焦点でもある。  とはいえ、すべてのメティスの攻撃性があるわけじゃない。  風紀委員の先輩の用に走る速度が上がるメティスや空を飛ぶメティスなど使われたら  それを防ぐ手だてはない。  まぁ、一人だけ早く走れても意味は無いけど、それでも驚異ではあるかもしれない。 「ねぇ、慶司くん。私のアイギスで守れば安全じゃないかな?」 「それは安全だけど、こちらから手を出せないだろう?」 「そうだよね〜、それに風花のアイギスは有名すぎるから対策されるかもよ?」 「うぅ〜」  それを言うなら有名になってはいけない俺のメティスも今回使うわけには行かない。 「アイギスは最終手段にするか」 「ねぇ慶司、なんでそんなに楽しそうな顔してるのか聞いても・・・  あ、やっぱやめとく」 「え、琴羽ちゃん、どうして聞かないの?」 「だってね、慶司がこういう顔してるときって何か企んでる証拠だから」  酷い言われようだったが、間違いはない。  こういう制約の多いルール、そして制約の多い俺のメティスをいかに有効に使うか。  それを考えるのは楽しいからだ。  クラスからは風花、琴羽、俺と航平が騎馬に参加する。 「航平は一番前な」 「俺、後ろがいいんだけどなぁ」 「蹴られたい?」 「ひぃっ、前でいいです!」 「航平、そう緊張するな。お前の判断に任せるからな」 「慶司・・・」 「今こそ航平の出番だ、がんばろうぜ!」 「慶司! 俺がんばる!!」 「乗せられやすいって楽でいいね、風花」 「えっと・・・」  前衛が航平、後ろに俺と琴羽、上に風花の陣形でグラウンドに立つ。  そして一つのチームを見つけた俺は 「まいったな、あれは・・・」  思わずそうつぶやいた。そのチームは下級生のチーム。  美汐、景浦、まなみが組んでいた。 「慶司くん、まいったっていいながら顔が笑ってるよ?」 「いいのよ風花、今の慶司はすっごく楽しんでるだけだから」  二人の声を聞き流しながら、俺はどういう手を打つか考えていた。 「アイギス!」  風花が張ったアイギスに数多くのメティスの現象が遅う。 「やはりな、先に楯を押さえつける戦法に出たか」  楯には攻撃性が無い、それ故に正面から押さえつければ足止めが出来る。  その隙に、という戦法だろう。だが甘い! 「アイギス!」  俺はそっとアイギスを側面に発動させる。それもわざと角度をつけて。 「もらった! なにっ!?」 「え」 「きゃっ!」  側面から襲いかかってきた他の騎馬は目に見えない斜めに張ったアイギスにバランスを  崩され、騎馬が崩れた。 「まさかアイギスか!?」  他の騎馬が動きを止める。  風花のアイギスは目に見えない、それを逆手に取ったアイギスでの”攻勢防御”。  相手は勝手につっこんできただけなので、攻撃はしていない。  これなら非メティスパサーを攻撃していないのでルールにも抵触しない。 「行くぞ、航平!」 「おう!」  そうしてアイギスを張ったまま、俺達はグラウンドを駆け抜けた。 「やはり最後の敵は慶司さんなのね」 「そうだな、最後はこうなると思ったよ」  グラウンドで残った騎馬は2騎、俺達と美汐達のものだった。  美汐の騎馬は前衛に美汐、後衛に景浦と俺は名前の知らない生徒。  そして上に乗るのがまなみ。 「風花さん、今日こそアイギスを破って優勝する!」 「負けないよ、まなみちゃん!」 「いっくよー! ベネトレイター!!」  まなみが手に持った鉛筆、それが硬化する。 「私も、アイギス!」  キンっ! と耳障りの音がする。  あのときと同じ、アイギスが削られる音がする。  俺はアイギスで騎馬を崩す戦法を取ろうとして・・・ 「しまった!」 「どうしたの、慶司?」 「相手の騎馬を攻撃できない」  騎馬の前衛にいる美汐にはアイギスで攻撃できるかもしれないが、まなみの  ペネトレイターと風花のアイギスの接点付近、ここで下手にメティスを使えば  何が起きるか解らない。  そして後衛の二人は恐らく、非メティスパサー。  俺の顔を見た美汐が申し訳なさそうな表情をする。 「近濠先輩の作戦だな、きっと」  この状況をどこかで楽しんで見てるな、近濠先輩。 「え、やぁん!」  その時騎馬の前衛の美汐の胸が揺れた。 「おおーーーっ!」 「な、なんで揺れるの、やんっ」 「申し訳ありません、お嬢様。菜緒さんに言われておりまして、その・・・」 「しまった!」  これも近濠先輩の作戦か?  こちらの先頭に航平が居ることを予想しての作戦か? 「あっ!」  騎馬が崩れかける。 「くっ、アイギス、ゴルゴネイオン!」  風花のアイギスと干渉しないよう、アイギスで自分たちの騎馬を抑える。  なんとかなったのに安堵しつつも、状況を変えられない事に苛立つ。  どうすればいい、どうすれば・・・ 「っ!」  しまった、思考に没頭してたせいでアイギスをコピーし損なった。  アイギスを解除したときに琴羽ではなく風花に集中して補充してたジョーカーが  ここで琴羽のマーメイドをコピーしてしまったようだ。  これでは次に何かあったときにアイギスが使えない所か、マーメイドでは俺には  何も・・・ 「!」  思いついてしまった。  最悪の、そして最善の一手を。 「・・・」  出来るのか、そしてそれをしていいものなのだろうか? 「くぅっ!」 「いけ、貫けーっ!」 「・・・やるしかないか」  俺は覚悟を決めた。 「マーメイド!」  小声でマーメイドを起動させる。  起動したメティス、マーメイドは水流操作。  身体に接触した液体も制御できる。  俺はそれを利用して、自分の汗を、気をそらす為にまなみにはじき飛ばした。 「きゃんっ!」 「え、まなみ?」  使い慣れてないメティス、さらに応用に等しい使い方。  結果、俺の汗は強く打ち出され、それはまなみの胸の先をかすめただけに終わった。  だが突然の衝撃にまなみは集中を乱された。 「アイギス、ゴルゴネイオン!」  その隙をついた風花のアイギスは崩れ始めた相手の騎馬すべてを  包み込むように展開され相手のメンバー全員怪我一つなく、無事競技は終了した。  その結果、俺達のクラスが優勝した。  までは良かったのだけど・・・ 「それで、お兄ちゃん。言い訳はある?」  その後アルゴノートの部室で俺は正座し、まなみに怒られた。 「女の子の胸の・・・というか、おっぱいを狙うなんてお兄ちゃんのえっち!」 「・・・ごめんなさい」 「慶司さん・・・見損ないました」 「美汐・・・」 「そんなにおっぱいが好きならなんで私の方を狙ってくださらなかったのですか?」 「・・・は?」 「あ、そういうことならお兄ちゃんは私のおっぱいを選んでくれたんだよね。  なら良かったぁ」 「あの・・・まなみ、さん?」 「慶司くん・・・」 「慶司〜」  敵からは何故狙わなかったのかと言われ、味方からはジト目で見られる。  試合に勝ったけど勝負に負けた、そんな言葉が頭の中に浮かんだ・・・ 「ねぇ、なんで俺途中から出番ないの? その場にいたのに、なんで空気扱い!?」  その頃寮の自室で涙してたルームメイトがいたことなど、すっかり忘れてた。
10月4日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”責任”  ちゃぷん、という水滴が湯船に落ちる音が聞こえた。 「・・・」  状況を把握しよう、今俺はこうして寮の自室の狭いユニットバスにいる。  お湯を少な目に張って先に身体を洗ってからこうして湯に浸かっている。  それだけなら何も問題無い。  そこまで思ったとき、外へ繋がるドアが開いた。 「おじゃましまーす」  入ってきたのはバスタオルで前だけ隠した陽菜だった。 「孝平くん、これなんだけどいいかな?」  手に持ってきた小瓶を俺に手渡す、その手の動きに陽菜の大きな胸が揺れる。 「・・・あ、あぁ、いいよ」  受け取った小瓶のふたを開け、湯船の中に入れる。 「お!」  湯船に入ったその液体は白く、そしてにおいがきつい。でも嫌な匂いではない。 「結構匂いするね、でもその方がらしいよね、それじゃぁ失礼しまーす」  陽菜は俺の入ってる風呂に、入ってきた。  状況はさっきと変わった。  狭い自室のユニットバスに居ることは変わらない、しかしお湯が白く濁ったいわゆる  硫黄の温泉みたいになっている。  そして、俺の胸に背中を預けた形で一緒に入ってる女の子、陽菜がいる。  お風呂に入るとき、バスタオルを脱いでから入ってきたので、今は一糸まとわぬ姿だが  お湯が濁っているのでその姿を見ることは出来ない。 「んー、気持ち良いね、孝平くん」 「あ、あぁ・・でも俺は広い風呂の方がもっと気持ち良いと思うな」 「そうだね、大浴場は気持ちいいものね。でも」  陽菜は俺の方に寄りかかってくる。 「こうして、孝平くんと一緒に入れないから」  そう言いながら陽菜は俺の身体に自分の背中を擦るようにあててくる。 「・・・」  見えないからといって、それを知らない訳ではない。  もう何度も肌を重ねてる陽菜の身体は、たとえ見えなくてもリアルに想像できる。  それは陽菜も同じはず。  こうして密着してるのなら、俺の物が固くなってる事にも気づいてるはず。  なのに普通にしている。  こういうときは女の子の方が大胆で、そして強い物なんだろうなぁ・・・  俺は終始緊張しっぱなしだった。 「ごめんね、孝平くん、無理させちゃって」 「・・・無理なんてしてないよ、陽菜の願いだもんな」  俺と恋人同士になってからの陽菜の甘え方は凄くなっている。  人前では普通の恋人同士程度だが、人の目がないと今までの寂しさを埋めるだけでは  なく、それ以上を求めてくる。  こうして一緒にお風呂に入りたがるのも、よくあることだが俺自身の自制が聞かなく  なるので、あまり一緒に入ることはしていなかった。 「うん、孝平くん優しいから、今日が私の誕生日だからお願いすれば一緒に入って  くれるんじゃないかなぁって、期待しちゃったの」 「・・・」 「でも、ごめんね、やっぱり無理させちゃってるかな」 「無理じゃない!」 「孝平くん?」 「好きな女の子と一緒の風呂なんて、夢みたいだよ」 「・・・夢じゃ、ないよ」  そう言うと陽菜は振り向いて、キスをしてきた。 「夢なんかじゃないよ、だって孝平くんの気持ちはさっきからずっと  お尻で感じてるもの」 「っ!」 「優しい孝平くんは、私の身体の事を思ってくれてるんだよね、だから我慢して  くれてるし一緒にお風呂に入ってくれる時も考えてくれてる」 「買いかぶりすぎだよ」 「でもね、私だって何も考えてない訳・・・ないよ?」  そう言うと陽菜は俺の目の前で立ち上がって振り向いた。  スタイルの良い身体が何も隠されず、俺の目の前にある。 「私はね、いつだって孝平くんに抱いて欲しいと思ってる・・・えっちな女の子だよ」  ごくり、と俺はつばを飲み込む、その音が大きく響いた気がした。 「孝平くんがしたい、って思ってくれたときはきっと私も・・・  して欲しいって思ってるから」  そう言うとそのまま陽菜はかがみ込んでお湯に浸かる。  今度は対面でお風呂に入ったことになる。 「だからね、孝平くん・・・ごめんね」 「なんで・・・謝るんだ?」 「こんなえっちな女の子になっちゃったから」  陽菜は俺に抱きついてくる。  さっきは背中の感触だった、背中なのに柔らかかった陽菜の身体。  今度は正面から抱きついてきてる、その大きなふくらみは俺との間に挟まれて形を  歪ませていた。 「・・・大丈夫だよ、陽菜。陽菜がえっちになったのは、俺の責任だから」 「孝平・・・くん」 「だからさ、俺は責任をとる、とり続けるよ」 「ありがとう、孝平くん、大好き!」  陽菜は嬉しそうに微笑んで、俺と唇を重ねた・・・ 「ねぇ、孝平くん」 「ん?」 「孝平くんもえっちな気分になっちゃってるよね」 「・・・はい」  隠しても隠しようの無い事実だから、俺は素直に返事した。 「私もね、えっちな気分なの、だからお互い責任取ってもらいたいけど、いい、かな?」  そう言うと陽菜は少しだけ腰を浮かせた。 「ね、孝平くん。一緒に責任、とろうね」  そして陽菜は腰を下ろしてきた・・・
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