思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2012年第1期
3月30日 ましろ色シンフォニーSSS”バニー” 3月14日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲 sideshortstory                      「ホワイトデー狂想曲2012」 3月7日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”ノー残業デー” 2月29日 FORTUNE ARTERIAL SSS”雪の日の熱い夜” 2月25日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”嵐の前の朝” 2月23日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”嵐の後の夜” 2月20日 FORTUNE ARTERIAL SSS”嘘じゃない嘘” 2月16日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「バレンタイン・キッス」 2月14日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲 sideshortstory                      「バレンタイン狂想曲2012」 2月10日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「貸し出し権」 2月9日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「準備体操」 2月4日 FORTUNE ARTERIAL SSS 楽屋裏狂想曲”都市伝説” 2月3日 FORTUNE ARTERIAL SSS”規格外” 1月31日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”勝敗の行方” 1月24日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”いつでも、どこでも” 1月16日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”約束” 1月13日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”見せたくないもの” 1月8日 夜明け前より瑠璃色な ”今年こそ?”
3月30日 ・ましろ色シンフォニーSSS”バニー” 「お兄ちゃん、入ってもいい?」  いつもなら断りを入れずに部屋に入ってくる桜乃が、今日に限って  ドアをノックして俺に確認してきた。 「いいけど、何かあるの?」 「ふふふ、それは見てのお楽しみ」  また何か企んでるんだろうか、それとも何か吹き込まれたのだろうか? 「それじゃぁ、失礼します」  何があっても驚かないよう、心をニュートラルに保つ、そうすれば  たいていのことには驚かず対応出来る・・・ 「お兄ちゃん、バニー」   「・・・」  桜乃の格好は予想の斜め上を行っていた。  言動は、まぁ、いつも通りだけど。 「おかしい、お兄ちゃんはうさぎさんが好きなはず」 「えっと、たしかに兎は嫌いじゃないと思うけど」  この前二人で見たテレビ番組、その時子供の兎を可愛いねって桜乃と  話していたんだから、俺は兎は嫌いじゃない・・・  というか、思考が少しおかしくなってないか、俺? 「だから、うさぎさんになってみました。お兄ちゃんはうさぎさんが好き。  だから、桜乃うさぎ、バニー」 「どうしてそうなったかは、まぁ、桜乃だし」   「納得されてしまった、妹兎、バニー」 「ところで桜乃、そのバニーっていうのは何?」 「流行してるんだって」 「どこでそんなのが流行してるんだ・・・」 「バニー」 「・・・」 「む、お兄ちゃんにバニーが効かない、やっぱり私じゃいろいろと不足してる」    そう言って胸の所に手を当てる桜乃。 「いや、俺には十分だと思うんだけど」 「んしょ・・・こうすれば」   「はさめるよ、お兄ちゃん」 「何の話になってるのかな?」 「もちろん、お兄ちゃんの話、私としては実践してみたい」 「えっと、桜乃さん?」 「日曜日には1日早いけど、明日は土曜でお休みだから・・・  お兄ちゃん、実践したい、したい」 「そうしたいしたい言わないの」 「したくないの?」 「・・・」 「お兄ちゃん、やっぱり愛理やアンジェくらいのおっぱいの方がいい?」 「俺が好きなのは桜乃だから、桜乃のだから好きなの」 「・・・ぽっ」 「言わせておいて恥ずかしくなるなよ」 「だって、恥ずかしいんだもん。でも、嬉しいから、実践」 「結局そこに戻るんだね・・・」 「私とじゃ、嫌?」 「まったく、明日起きれなくなるぞ?」 「どんとこい!」  なんかそう言うムードにならないんだけど、これも俺と桜乃の距離でもある。  その距離を縮める為に、俺は桜乃に覆い被さった。
3月14日  気づいたとき、目の前に少女の寝顔があった。  金色の髪の一房が口元にかかっていて、それが寝息で揺れている。  その寝顔は安心しきっていた。  俺は、状況を理解するよりも先に、寝ている少女の邪魔をしてはいけない。  そう、直感した・・・ ANOTHER VIEW... 「こんどこそこーへーを確保するのだ!」  そう言いながらお姉ちゃんは非常梯子の扉をあける。 「お姉ちゃん、やっぱりやめようよ。孝平くんに迷惑かかちゃうよ」 「ひなちゃん、これはリベンジなんだよ?」 「リベンジ?」 「そう、こーへーはとても人気が高いでしょ? 実際バレンタインの時いっぱい  チョコをもらってたでしょう?」  確かにあの日孝平くんはたくさんの女の子からチョコをもらっていた。 「だから、こーへーは今日はお返しするのに大変なの!」 「う、うん」 「だから、こーへーの苦労を少しでも減らしてあげるのがお姉ちゃんの優しさなの」 「そ、そうかな?」 「そうそう、だから最初に本命のお返しをもらってあげるの、わかった?」 「えと・・・お姉ちゃん、孝平くんのお返しが」 「と、いうわけでいざとつげきー!」  私の疑問に聞く耳持たないお姉ちゃんは孝平くんの部屋へと降りていった。 「な、なにぃっ!?」 「お姉ちゃん、どうしたの?」 「こーへーが居ない、だと? しかし、今回は想定の範囲内だ!!」  ベランダの扉を開けて部屋に入る、そこには孝平くんは居なかった。 「先月より早めに降りてきたのにもう敵は動いていたのか・・・  わたしを出し抜くなんて、犯人はさすが!」  その時、部屋の扉がノックされた。 「孝平・・・いるわよね? 入るわよ」 「支倉先輩、失礼します」 「やや、この声はえりりんに白ちゃん」 「え? 悠木先輩の声? まさかっ!」  その声と同時に扉が勢いよく開かれる。 「犯人はおまえだー!」 「ひゃぅ」  お姉ちゃんの声に白ちゃんが驚き縮こまる。 「・・・先月と同じパターンね」 「そんなことよりもえりりん、わたしを欺くなんてさすが!」 「何いってるかわからないのだけど・・・なんとなく事情は察したわ」  先月と同じシチュエーション、居なくなった孝平くん。  そして、ここにいない人。 「わたしが来たときすでにこーへーは居なかった! そしてこーへーが寝ていたと  思われるベット!」 「それは先月もやったでしょ?」  あきれるえりちゃん。 「なにぃ!? 全く暖かくない、だと!?」 「え?」 「と、いうことはこーへーは昨夜の内にさらわれてた?」  そうなのかな? 「そういえば・・・」 「どうしたの、白?」 「昨日の夜、紅瀬先輩をお見かけしたのですけど・・・」 ANOTHER VIEW 白 「あ、紅瀬先輩、こんばんは」 「こんばんは」  寮の外で紅瀬先輩をお見かけしたので挨拶をしたのですが 「あの、そのお荷物は何なのでしょうか?」 「これ?」  紅瀬先輩は肩に大きな袋をかけていました。  まるでお布団を丸めたような、そんな大きさです。 「ちょっと屋敷に荷物を運ばないといけないのよ」 「お屋敷、ですか?」 「えぇ、伽耶ったらわがままだから」 「伽耶様の?」 「だから、ちょっと出かけてくるわね」 「はい、お気をつけて」 「ありがとう」 ANOTHER VIEW END 「もしかしてその袋の中身は孝平なの?」 「わかりません、私は袋の中を知りませんので」 「でも、伽耶にゃんが仕掛け人なら考えられる! えりりん、今すぐ屋敷にこーへーを  救出しに行こう!」 「えぇ、行きましょう!」 「あの、瑛里華先輩。いくら今が早い時間でも、今からお屋敷に行かれては授業に  遅れてしまいます」 「そうだよお姉ちゃん、遅刻しちゃうよ?」 「ひなちゃん」  お姉ちゃんは私の目をまっすぐに見つめる。 「お姉ちゃんにはね、わかってても行かねばならないときがあるの」 「・・・そうね、それについては同意見よ」 「同士えりりん、行くわよ!」 「えぇ、悠木先輩!」  そう言うと二人は寮の外へと向かっていった。 「・・・あの、私たちはどうしましょうか?」 「・・・とりあえず学院に行く支度して待ってようか」 「瑛里華先輩と悠木先輩が帰ってこられなかったらどうしたら良いのでしょうか?」 「どうすればいいんだろうね・・・」  今日は平日だし、授業に出ればいいだけだと思うんだけど・・・ 「孝平くんは授業にでれるのかな? ANOTHER VIEW END ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲 sideshortstory                     「ホワイトデー狂想曲2012」  気づいたとき、目の前に少女の寝顔があった。  金色の髪の一房が口元にかかっていて、それが寝息で揺れている。  その寝顔は安心しきっていた。  俺は、状況を理解するよりも先に、寝ている少女の邪魔をしてはいけない。  そう、直感した・・・  それは、この美しく眠る少女の眠りを妨げてはいけないこともあるが。  この状態で目を覚ましたらどうなるか、想像に難しくないからだ。  とはいえ、この状態がいつまでも続くとも思っていない。  現実は厳しい事を俺は知っているからだ。 「ん・・・もう朝、か?」  そして厳しい現実は簡単に襲いかかってくる。 「・・・」 「・・・」 「な・・・」  大声を上げる直前、目の前の少女の口がふさがれた。 「朝から大声をあげないで、伽耶」 「ふがむがっ!」 「まったく、朝くらい静かに起きれないのかしら?」 「ぷはっ、桐葉、なぜおまえがあたしの口を、じゃない、なんで孝平がここで  あたしと一緒に寝ているのだ!?」 「ねぇ、伽耶」  重大なことを言うのではないかと思わせる紅瀬さんの静かな声。 「な、なんだ?」 「ここは私の部屋よ」 「・・・」 「・・・」  大したことは言わなかった。 「いや、十分大したことだな・・・なんで俺はここで寝ているんだ?」  間違いなく俺は部屋で寝たはずだ。 「そうだ、あたしも部屋で眠ったはず、なのに何故桐葉の部屋にいるのだ?」 「そうね、まず伽耶から説明するわ。昨日の夜の事なのだけど・・・」 ANOTHER VIEW 桐葉  それは昨夜の話。 「あぁ、ここでも引用されるのね、尺稼ぎには良いわね。出だしなんて全く  先月と同じだし」  ・・・ 「一人で独り言、言うのも寂しいわね。それよりそろそろかしらね」  私の思うように彼女は寮の廊下を歩いてきた。 「あ、紅瀬先輩、こんばんは」 「こんばんは」  上手く、東儀さんに声をかけられた。  そして、わざとらしく荷物を担ぎ直す。  東儀さんは明らかに私が持っている荷物が気になっているようだ。 「あの、そのお荷物は何なのでしょうか?」 「これ?」  もう一度担ぎ直す。 「ちょっと屋敷に荷物を運ばないといけないのよ」  そう、この袋の中には布団が入っているだけの荷物。 「お屋敷、ですか?」 「えぇ、伽耶ったらわがままだから」  そう、伽耶はわがままと、確認するためにつぶやいただけ。 「伽耶様の?」 「だから、ちょっと出かけてくるわね」  確認したから私は出かける、伽耶の屋敷に・・・ 「はい、お気をつけて」 「ありがとう」  この布団を持っていって、そして・・・ ANOTHER VIEW END 「伽耶を布団に丸めて回収してきたの」 「はぁ!?」 「東儀さんに上手く見つかるようにするのに苦労したわ」 「なんだか今の言葉のやりとりを聞くと、俺が連れて行かれたように聞こえますね」 「えぇ、そう思わせるための仕掛けですもの」 「・・・で、俺はその後連れてこられたわけですね」 「駄目よ孝平」 「?」 「その一言で納得しちゃうと、回想シーンで尺が稼げないじゃないの」 「・・・よくわからないけどごめんなさい」 「とりあえず起きようかしらね」  そう言うと紅瀬さんは伽耶さんの後ろから起き出した。 「なっ!」  紅瀬さんは黒の下着に黒のストッキング姿だった。  俺は慌てて目線を反らす。 「別に見ても良いのよ、そのためのものなのだから」 「こら、桐葉。はしたないぞ!」 「何をいうのかしら、伽耶。そんなに前をはだけさせてる貴女が言える事かしら?」 「え、ひゃぁっ!」  伽耶さんの寝間着の、襦袢とでも言うのだろうか?  合わせ目が完全にはだけていた。  もちろん、俺はすぐに目線を反らす。 「今回は絵が無いの、期待してた人は残念ね」 「あの、紅瀬さん?」 「気にしないで、独り言よ、それよりも孝平が用意してきた物も運んであるわ」  紅瀬さんが指さす方向をみると、見覚えがある大きな紙袋があった。 「・・・わかりました」  俺はベットから起き出して、その袋の中から用意してある包みを取り出す。 「伽耶さん」 「な、なんだ?」 「今日はホワイトデーです、だからお返しのお菓子です。良かったら食べてください」 「あ・・・あ、あぁ。そんな日もあったのだったな・・・う、うん、その、すまないな」  そう言って受け取る伽耶さん。  その姿を見てから、俺は振り返らずに紅瀬さんにも包みを渡す。 「紅瀬さんの分もちゃんとあるから、良かったら・・・」 「孝平、人に物を渡すときはちゃんと相手の方を見ないと駄目よ?」 「下着姿のままなんでしょ? 振り返る訳にはいかない」 「もぅ、孝平ったら恥ずかしがり屋さんなのね、ふふっ」  包みを受け取ったのを確認してから、俺は一息ついた。 「せっかくだから戴こうかしらね」 「桐葉、まだ駄目だ、あたしが食べていない!」 「いいじゃないの、伽耶は一番最初に孝平からだしてもらったのだから、次は私でも」 「駄目だ駄目だ、出してもらったのは最初でもまだ食べていない!」 「あの、主語というか、言葉が足りないと非常に困るんですけど・・・」 「伝わってるんだから問題ないじゃない、それじゃぁ私は孝平からもらった  このミルク・・・」 「駄目だ、あたしが先にもらう!」  お互い自分の手元にあるチョコを食べようとしているだけなのに、なんで俺は  こんなに疲れるんだろう? 「朝だからでしょう?」 「紅瀬さん、勘弁して下さい・・・」 「朝から疲れる? 孝平は弱いのだな」 「いや・・・もう、そう言うことにしておいてください」  今日は色々と気疲れするとは思ってたが、朝からこんなんでは今日1日  とても持ちそうにないな・・・  そんなホワイトデーの1日は始まったばかりだった・・・ ANOTHER VIEW... 「あ、孝平くん。おはよう」 「あぁ、おはよう、陽菜」 「あの、なんだか疲れてるみたいだけど、どうしたの?」 「聞かないでくれ」 「あ、うん・・・」  やっぱり朝、何かあったのかな?  その時、予鈴がなった。 「陽菜、あわただしくて悪いけど、受け取ってもらえるか?」  そう言って取り出したのは小さな包み。 「いいの?」 「あぁ、お返しだからな」 「ありがとう、孝平くん」  朝、登校してすぐに孝平くんからお返しのお菓子をもらっちゃった。  今日1日は、きっと素敵な1日になりそう、そんな予感がした。  そういえば、クラスが違うから気づかなかったけど・・・  ・  ・  ・ 「屋敷に誰もいない? どうして?」 「もしかして迷宮入り!?」  お姉ちゃんとえりちゃんは揃って授業に遅刻したみたいです。  シスターに揃ってお説教されてるのをお昼休みに見かけました。 ANOTHER VIEW END
3月7日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”ノー残業デー” 「んー」  両手をあげて身体を伸ばし、凝った身体をほぐす。 「ふぅ、これじゃぁ今日もすぐには帰れそうにないわね」  館長室でのデスクワーク、一人での仕事は集中できるけど、誰もいないのは  ちょっと寂しいかな。  でも、今は同じ職場に達哉くんがいる。そう思うだけでがんばれる。 「だって、達哉くんもがんばってるんだもんね」  博物館の若きエースと言われるほどがんばってる達哉くん。 「だから、私も負けられないわね」  中断していた仕事を再開しよう、せめて今日中には帰れるようにしたいから。 「なんだかあわただしいわね、何かあったのかしら?」  いつもは静かな時間なのだけど、今日に限ってあわただしい感じがする。  私は館長室から出て確認する事にした。 「あ、館長、まだ仕事をされてたのですか?」  部屋から出た私はすぐにあった職員にそう言われた。 「えぇ、今日も残業よ」 「駄目ですよ、館長。今日は年に一度のノー残業デーです」 「ノー残業デー?」  そんな日あったかしら? 「館長、こちらにいらしたのですか」  私の後ろから着たのは、副館長。 「ほら、君も早く帰りたまえ、今日は何の日か知っているだろう?」 「はい、ではお先に失礼致します!」 「お疲れさまです、それで今日がどうしてノー残業デーなのかしら?」  私は副館長に詰め寄る。 「館長に連絡していなかったことは謝罪致します、ですがこれは博物館職員の  全員で決めた事です、承認していただけないでしょうか?」 「私は聞いてないわよ?」 「はい、館長が月にいってる間に決まった事ですので」  のほほんと受け流す副館長。 「はぁ、わかったわ。皆早く帰るように指示して」 「館長もですよ」 「私は構わないわ、やっておいた方が良い仕事があるから」 「困りましたな・・・館長が率先していただかないと職員に示しがつきません」  そう言って困る副館長。 「仕方がありませんね」 「えぇ、仕方がないから私は仕事に戻るわね」 「本当に仕方がありませんね、では」  そう言うと副館長は片手をあげる。  すると、女性職員が集まってきた。 「館長をお部屋にご案内し、帰宅の用意を手伝ってくれたまえ」 「はい、では参りましょう、館長」 「え、ええ!?」  私は両腕を捕まれて部屋へと連れて行かれそうになる。 「それでは館長、お疲れさまでした」 「な、なんでー!?」  館長室で説得をしようとしたのだけど、結局着替えさせられてしまった。  あのままだと制服を脱がされそうになりそうだったので、そこだけは死守  する事にしたのだけど・・・ 「戸締まりはちゃんと私どもで確認しておきますので、館長、お疲れさまでした」 「え、えぇ・・・お疲れさま」  私は仕方がなく博物館を後にすることにした。 「・・・そうね、一度家に戻って着替えをもって戻ってくるのもありよね」  そう思った時、後ろから私を呼ぶ声がした。 「達哉くん?」 「姉さん、一緒に帰ろう、というか一緒に帰らせてください」 「どうしたの?」 「・・・これ」  達哉くんはコートの内ポケットから封筒を取り出した。  これは辞令や業務命令等の時に使う封書だった。 「あけてみていい?」  達哉くんは頷く、それを確認した私は封の中身を見る。 「穂積館長を自宅までエスコートし、引き返えさせないようにすること」 「なんて業務命令だしてるのかしら・・・」  あきれて物が言えない。 「でもさ、俺の上司からの命令だから、仕方がないさ」 「達哉くんの上司さんの上司が誰だかわかる?」 「フィーナだろう?」 「それはそうだけど・・・」  現場での最高責任者は館長代理である私、だからこの業務命令を私は  覆すことが出来る、と思ったのだけど・・・ 「ほら、ね?」  この業務命令書のサインは副館長のものではなく、館長のフィーナ様の物だった。 「いつのまに・・・」 「これなら姉さんもどうしようもないよね?」 「まったく・・・私を早く帰らせるためだけにここまでするなんて・・・いえ、  ここまでしていただけるなんて・・・」  幸せ、でいいのかしら?  仕事が残ってるのは事実、今日、今帰ってしまえば明日、そのしわ寄せがくるのも  事実。 だけど・・・ 「フィーナ様やみんなの心遣いを無駄には出来ないわね」 「そういうこと、せっかく出来た時間なんだからさ、ゆっくりしようよ」 「そうね・・・ここまでお膳立てしてくれたのだからね」 「なんのこと、かな?」 「くすっ、そう言うことにしておくわね」  ここまでくればどういう意図でのノー残業デーなのか私だってわかる。 「それよりもさ、姉さん。帰ってから何かしたいこと、ない?」 「んー」  思ったより早く帰れるとはいえ、もう夜だから遊びに行くような時間は無い。 「そうね、いつも通りにしましょう」 「それでいいの?」 「えぇ、いつも通り一緒にご飯食べて」 「うん」 「いつも通り一緒にお風呂入って」 「あぁ・・・え?」 「いつも通り一緒に寝ましょ、達哉くん」  声を出せず、顔を真っ赤にしてる達哉くんを見ながらの帰り道。  今夜は久しぶりに達哉くんに甘えてみようかな、と思う。  だって、せっかくの誕生日、なのだからね。
2月29日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”雪の日の熱い夜” 「やっぱり、雪になってるわね」  暗い部屋の中、ベットから立ち上がった桐葉は、カーテンを開けて外を見る。 「玉津島でも雪は降るんだ」 「そうね、温暖って言ったって今は冬ですもの」 「そっか・・・」 「どうかしたの、孝平?」  俺の返事が上の空だったからか、桐葉は訪ねてくる。 「いや・・・その、寒くないか?」    今の桐葉の姿はどう見ても寒そうな姿だ。  つい先ほどまで熱を持っていた身体も、その時間が過ぎれば落ち着いてくる。 「・・・そうね、少し寒いわ」  そう言って俺の方に振り返る桐葉。  長くてさらさらした綺麗な髪がさぁっと揺れる。  桐葉が俺を見る、その瞳。  求める意味を正確に読みとった俺は、立ち上がり桐葉の元へと向かう。 「これならどうだ?」  俺はそのまま背後から桐葉をそっと抱きしめる。 「暖かいわ、ありが・・・」  桐葉の言葉が途中で止まる。 「ねぇ、孝平」  桐葉の声のトーンが一段階下がった。フリーズドライと言われる桐葉の声。 「私は暖めてくれるだけでいいの」 「だから、こうしているだろう?」  わかっていながら、俺はそう返事する。 「・・・熱くさせる必要はないのよ?」  密着してるのだから、お互いの状態は手に取るようにわかる。  背後から抱きしめている俺の手は、桐葉の大きな胸に添えられている。  その胸の先が再び固くなってきているのがわかる。  その桐葉の変化は、桐葉のお尻の所にあたっている俺のモノを敏感に  感じ取った結果。 「・・・もういいわ」  桐葉は俺の腕を強引にほどくと、俺から離れる。 「身体を暖めるだけなら、お風呂で十分だわ」  そう言うと桐葉はバスルームへと向かっていく  桐葉はまた振り返って俺の方を見る。俺を見る桐葉の瞳。 「・・・」  桐葉は自然な動作で、身につけていたショーツを脱ぎ捨てると、そのまま  バスルームへと消えていった。  桐葉の求める答えに辿り着いた俺は、桐葉を暖める、いや、桐葉と熱く過ごす  為に、バスルームへと向かった。
2月25日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”嵐の前の朝” 「・・・ん」 「おはよう、お兄ちゃん」  まどろみの中目覚めかけた意識は、麻衣の声ではっきりと覚醒する。  目を開けて、真っ先に見えたのは麻衣の顔だった。   「・・・おはよう、麻衣」 「ごめんね、起こしちゃったかな」 「いや、それはかまわないけど、今何時だ?」  枕元においてある携帯で確認する。  確かに起きるにはまだ早い時間だ。 「お兄ちゃんはもう少し寝ててね」 「麻衣は起きるのか?」 「うん、そろそろ起きないと朝ご飯の準備ができないから。  昨日の夜に下ごしらえしてないから簡単な物しか出来ないけどね」  そう言うと麻衣は起きあがる。    少しだけ布団がひっぱられ、冷たい空気に身体が震える。 「あ・・・」  布団がめくられたことにより、麻衣の視界の中に俺の身体が映る。  もちろん、朝の自然現象であるものも、しっかりと。 「お兄ちゃんのえっち」 「そりゃそうさ、麻衣のそんな姿見たらそうなるに決まってるだろう?」 「え・・・きゃっ」    麻衣は布団の中に身体を潜り込ませた。 「もぅ、早く教えてくれたっていいじゃない、お兄ちゃんのえっち!」  朝から2度もえっちと言われてしまった。  いつもなら笑ってごまかす所だが、どうやら俺自身のスイッチが入って  しまったようだ。 「そうだな、えっちなお兄ちゃんはえっちな妹にえっちしたくなっちゃった」 「え? 朝から?」 「うん」 「で、でも朝ご飯作らないと」 「俺は麻衣を食べたい」 「もぅ・・・本当のお兄ちゃんえっちなんだから」 「そんな兄は嫌いか?」 「でも、私もお兄ちゃんにまけないくらいえっちな妹だから・・・いいよ」  週末の朝は、こうして嵐のように過ぎていった。
2月23日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”嵐の後の夜” 「麻衣、だいじょうぶか?」 「うん、なんとかだいじょうぶだよー」  そう言いながらも足下はおぼつかない。  俺はそっと麻衣を支えながら階段をあがる。 「寒くないか?」 「だいじょうぶ、まだ熱いくらいだよ」  お風呂上がりの麻衣は、下着姿だった。  廊下は暖房が入ってないため風呂上がりであっても肌寒い。  風邪をひかない内に麻衣を部屋まで運ばないといけなかった。 「ありがとう、お兄ちゃん」 「いや、悪いのは俺だし」 「お兄ちゃんは悪くない・・・と思う」  麻衣が言葉を濁す。  今の麻衣の体調の悪さ、というか疲れて切っているのは間違いなく俺のせい。 「ねぇ、お兄ちゃん。お願いがあるの」 「なんだい?」 「今日の夜ね・・・一緒に寝てもいい?」  麻衣はたまに凄く甘えてくる、どうやら今日はその日らしい。 「あぁ、構わないけど・・・」 「お兄ちゃん?」 「寝るだけですまなくなるかもしれないぞ?」  俺は実際そうなることをわかっていて、それでいて麻衣に聞く。  その言葉の意味をすぐに理解したのか、麻衣は顔を真っ赤にする。 「明日は平日だし・・・」 「なら、お兄ちゃん。私に良いアイデアがあるんだけど」 「アイデア?」 「うん。寝る前に・・・しちゃえば良いと思うんだ」 「麻衣・・・いいのか?」 「いいよ、お兄ちゃんがしたいときは私もしたいときだもん」  それから俺の部屋で、その後汗を流すために一緒にはいった風呂でも麻衣を  愛した。その結果、麻衣はかなり疲れてしまったのだ。 「でも、これで二人でゆっくり眠れるね」 「なんだか手段と目的を間違えてる気もするけど・・・まぁ、そうだな」  麻衣を寝かせつけたベットに、俺も潜り込む。 「私はいいと思うよ。でも、ちょっと失敗したかな」 「何を?」 「疲れ過ぎちゃって、お兄ちゃんとお話できないなって」  そう言う麻衣はすでに眠そうな顔をしている。 「話ならいつでも出来るだろう?」 「そうだけど・・・せっかく同じお布団で眠れるのになんだかもったいないな」 「別に今日が最後じゃないんだし、また今度一緒に寝ればいいじゃないか」 「また一緒に寝てくれるの?」 「あぁ、麻衣が希望するならな」 「なら毎晩一緒でもいい?」 「いいけど・・・俺は多分我慢できなくなるぞ?」 「あ・・・そっか、私も我慢出来なくなっちゃうかも、ううん、我慢なんて  できやしない・・・ふぁ」  そろそろ麻衣は限界らしい。 「麻衣、もう寝ようか」 「うん、ごめんねお兄ちゃん、お願いしておいて先に寝ちゃって」 「構わないさ。可愛い麻衣の寝顔みれるんだから」 「・・・恥ずかしいからあんまり見ないで」 「善処する」 「うん・・・お兄ちゃん、お休みの、んっ」  麻衣が言い終わる前に、そっと麻衣に口づけする。 「お休み、麻衣」 「お休みなさい、お兄ちゃん・・・」  そう言うと麻衣はすぐに寝息を立て始めた。 「・・・さすがに俺も疲れたかな」  麻衣の寝顔を眺めながら、俺も眠気に逆らわないことにした。 「おやすみ、麻衣」
2月20日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”嘘じゃない嘘” 「おかえり、白ちゃん」 「あ、支倉先輩! ただいま戻りました!」  そう言って俺の胸に飛び込んでくる白ちゃんを優しく受け止める。 「あの、もしかしてずっとここで待ってたのでしょうか?」 「いや、2階の談話室で待ってたよ。白ちゃんが遠くに見えたから  出迎えに来たんだよ」 「支倉先輩は目が良いのですね」 「そうかな? でも白ちゃんならどんなに遠くても見つけられるかもしれないな」  背が低いから人混みに紛れると見つけづらいかもしれないけど、と心の中で  思ってみる。 「私も、きっとどんなに遠くても支倉先輩なら見つけられると思います!」 「嬉しいな、白ちゃん。中に入ろうか」 「はい」  白ちゃんの今年の誕生日は日曜日、まだ東儀家に籍を置く白ちゃんの誕生日とも  なると分家やら町のお偉いさん等が集まるそうだ。  そのため白ちゃんは今朝から夜の今までずっと実家へと帰っていた。 「本当は夜も泊まっていくように言われました、でも帰って来ちゃいました。  明日の準備がある、と・・・嘘をついてしまいました」  そう言うと沈み込む白ちゃん。  ちょっとした嘘にもならない程度の嘘でさえ、白ちゃんには心苦しいのだろう。 「別にそれは嘘じゃないと思うよ、白ちゃん」 「え?」 「だって、明日の学園にいくための準備は実際に必要じゃないか」 「でも、それだけなら明日の朝でも間に合います」 「そうだね、学園の準備だけなら、朝でも間に合う。でも、今帰ってこないと  間に合わない、明日の為の準備もあるだろう?」 「支倉先輩?」 「それはね、明日白ちゃんが何の後悔もしないで過ごせるよう、白ちゃんの誕生日で  ある今夜、俺と過ごす、っていう準備。それじゃぁ、駄目かな?」 「だ、駄目じゃないです!」 「ありがとう、白ちゃん」 「あふ」  頭を撫で出あげると、気持ちよさそうな顔をする。  その顔が可愛くてずっと撫でていたくなる。 「だから、その前に風呂はいって、歯磨きして、明日の登校の準備をして。  それから一緒に過ごそうか、白ちゃん」 「はい! すぐに準備してきます」 「ばれないように、ね?」  門限ぎりぎりに帰ってきた白ちゃん、これからいろんな身支度をすると  消灯時間になってしまうだろう。 「そう・・・ですね・・・あの、支倉先輩」 「なに?」 「その・・・お泊まりなら消灯時間前に間に合います・・・駄目、ですか?」 「・・・生徒会役員として言うなら駄目、だな」 「・・・はい」 「でも、今の俺は白ちゃんの彼氏だからね、大歓迎だよ」 「は、はい!」 「それじゃぁ、ばれないように部屋においで、待ってるから」 「はい!」  ぱたぱた、と階段を上がっていく白ちゃんを見送った。  消灯時間が近いので、白ちゃんが部屋に来るためにはすぐに俺の部屋に来ないと  いけない。  だから、お泊まりの時は着替えと洗面用具と、お風呂セットを持参してくる。 「・・・明日の朝、寝坊しないように注意しないとな」  さすがに男子フロアから朝登校するわけにはいかない、朝の早起きは大変だけど  白ちゃんと一緒に居られる時間を作るためなら苦労ではなかった。 「さて、と」  部屋に戻ったらまずはお湯を張らないとな。  短くも長い、白ちゃんの誕生日の夜は、まだこれからだった。
2月16日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「バレンタイン・キッス」 「ねぇ、今から部屋に行ってもいい?」 「も、もちろん良いに決まってる!」 「ありがと、ちょっとだけ待っててね」  そう言うと瑛里華は携帯を切った。 「・・・ふぅ、緊張するな」  消灯時間が近いこの時間に瑛里華からの誘いの電話。  それだけならいつものことだけど、今日は2月14日。バレンタインデーだ。  だけど休みじゃなければ授業もあるし生徒会だってある。  今日に限って生徒会の業務は多忙で、寮の門限ぎりぎりに帰ってこれた。  それだけ忙しくて、瑛里華とずっと一緒に居たのだけど。 「チョコ、もらえなかったもんな」  チョコ自体は全くもらえなかった訳じゃない。  下駄箱に入ってた物や監督生室に届けられた物もあるし、友達からもらった物も  あった。  だけど、一番欲しい、彼女からの物が未だに無かった。 「多分そのことだと思うけど・・・」  なんだかどんどん緊張してきた。 「っ!」  その時ドアがノックされた。 「孝平、入ってもいい?」 「あ、あぁ、開いてるからどうぞ」 「おじゃましまーす」  部屋着姿の瑛里華が部屋に入ってきた。 「と、とりあえずお茶でも煎れるか」 「そうね、今日はお茶会も出来なかったし、お願いするわ」 「あぁ」  平常心を保ちつつ、俺は紅茶を煎れた。 「・・・」 「・・・」  出された紅茶を飲んでから俺達は無言だった。  無言の時間は以前にも何度もある。それは心地よい時間だったが  今は心地よいなんてとんでもない。  部屋の空気さえぴりぴりするほどの、緊張した時間だった。 「あの」 「なぁ」  俺と瑛里華の口が同時に開く。 「こ、孝平、どうしたの?」 「瑛里華こそ・・・先にどうぞ」 「私は後で良いわ、孝平から先にどうぞ」 「俺も後でいい」 「・・・」 「・・・」  またも無言の時間が過ぎていく。 「・・・もうすぐ消灯の時間だな」 「そう・・・ね」 「・・・」 「・・・」 「・・・ふぅ、もうこうなったら自棄よ!」 「瑛里華?」  突然立ち上がった瑛里華は持ってきていた小さな鞄から、包みを取り出した。 「孝平、バレンタインのチョコよ!」 「・・・ぷっ」 「な、なんでそこで笑うのよ!?」 「いや、久しぶりに見た気がするからさ」 「何をよ」 「突撃副会長をさ」 「・・・今は会長よ」  そう言ってすねる瑛里華。 「でもさ、その方が瑛里華らしくていいかもな。ありがとう、瑛里華」 「・・・どういたしまして」  瑛里華は顔を背けて、そう返事をしてくれた。 「開けてもいいか?」 「うん・・・」 「瑛里華?」 「ごめんね、孝平。時間が無くて手作りじゃないの」  時間がとれなかったことは俺が一番よく知っている。だって同じ生徒会の  役員なのだから、どれだけ忙しかったかを身を以て知っているから。 「なぁ、瑛里華。このチョコには瑛里華の気持ちはこもってないのか?」 「そんなわけ無いわ!」 「なら俺は嬉しいよ、時間が無い中、俺のために勝ってきてくれたんだろう?  とっても嬉しいよ」 「ありがとう、孝平・・・私、孝平を好きになって良かった」 「・・・」  瑛里華の言葉に俺は顔は真っ赤になってると思う。 「と、とりあえず食べるぞ」 「あは、孝平照れ隠ししてる」  そう言う瑛里華の言葉を流しながら、包みを開ける。 「お!」 「あら」  あけた瞬間広がる濃厚なチョコの香りに思わず声が出る。 「なんだか高そうだな」 「そうでもないわよ」 「まぁ、値段なんて関係ないけどな。瑛里華の想いがあるかどうかの方が  重要だしな」 「ありがと、孝平、でも値段も大事よ? 思いを込めるチョコ、いい物の方が  良いに決まってるじゃない」 「そう、だな。戴きます」  俺は小さな丸い固まりのチョコを食べる。 「・・・どう?」 「すごいな、口の中でさらさらに溶けていくのがわかる」 「そんなにすごいの?」 「瑛里華は味見してないのか?」 「あげる物なんだから、味見なんて出来る訳ないじゃないの」 「そうだよな、なら一緒に食べよう」 「いいの?」 「あぁ、こんなに美味しいなら瑛里華にも食べてもらいたいしな」 「ありがとう、戴くわ、はむ」  俺と同じように小さな丸い固まりを口に含む。 「わぁ・・・孝平の言ったことは本当ね。とても美味しいわ」 「だよな」  そう言いながら、俺は次のチョコを食べる。 「もっともらっていい?」 「あぁ、一緒に食べよう」  ・  ・  ・ 「熱いわね・・・脱いじゃおう」  そう言うと瑛里華はワンピースを脱ぎ捨てた。  桃色の可愛い下着姿になって、俺に寄り添ってくる。  その姿を見ながら、俺は頭がぼーっとしていた。  俺も身体が熱くなってる気がする。  ぼーっとする頭の中で冷静な部分が、思考を始める。  暖房は効きすぎてないはず、ただ瑛里華とチョコを食べていただけ。  しばらくして瑛里華は洋服を脱ぎだした。  注意しなくては・・・でも何で注意をする必要がある?  ・・・だめだ、考えがまとまらない。 「ねぇ、孝平。ちょっとあっちむいてて」 「あ、あぁ」  言われるがままに部屋の壁の方を向く。  ますます頭がぼーっとしてきている。  背後でごそごそという音が聞こえるような気がする。  それは一瞬か、それとも永遠か。 「孝平」  瑛里華に呼ばれて振り返る。 「・・・え?」 「孝平、私も食べて」    そこにいた瑛里華は、何も纏っていない。  でも、大事なところはすべて隠されている、大きなリボンで。  その姿に衝撃を受けた俺は、頭がすっきりした気分になった。 「え、瑛里華?」 「私は・・・不安なの」 「不安?」 「今日だって何度もチョコを渡そうとしたの、でも朝の玄関でも教室でもいつも  孝平は女の子に囲まれていた」  確かに今日はそうだった。 「監督生棟についても、チョコを持ってくる女の子がいっぱい来たの」  それが理由で今日の業務が進まなかったっけ。 「だから、チョコをあげるだけじゃ私は他の女の子と同じ、それは嫌なの。  ねぇ、孝平。私ももらって」 「瑛里華・・・ごめん、そんなに不安だったなんて気づかなかった。俺は瑛里華の  彼氏失格かもな」 「孝平・・・」 「でも、俺は瑛里華が一番だから、だから瑛里華のバレンタイン。最後まで戴くよ」 「うん、うんっ!」  俺は瑛里華を抱き寄せて、そっと口づけを交わした。  キスの味は、チョコレートと同じ味がした。
2月14日  そこには少女が居た。  修智館学院の制服に身を包んだ、少し背の低めの少女。  長い髪は見事な金色で、ウエーブがかかってる。  そわそわしながら誰かが来るのを待っているようだ。  その誰かは、言うまでもない、俺だろう。  俺はそっと近づいた。 ANOTHER VIEW... 「こういうときに部屋が真上ってのは便利だよね♪」  そう言いながらお姉ちゃんは非常梯子の扉をあける。 「お姉ちゃん、やっぱりやめようよ。孝平くんに迷惑かかちゃうよ」 「ひなちゃん、これはチャンスなんだよ?」 「チャンス?」 「そう、こーへーはとても人気が高いでしょ? 今日1日できっといっぱいの  チョコをもらっちゃうと思うんだ。その中にわたしたちのチョコが混ざったら  ありがたみがなくなっちゃうじゃない」 「別に、それでも良いと思うんだけど」 「甘い、このチョコよりも甘い!!」 「ひゃっ!」  突然のお姉ちゃんの大声に驚いてしまう。 「こーへーの周りには綺麗な女の子が多いんだから、こういうところでちゃんと  自分をアピールしないと駄目なの、孝平がとられちゃってもいいの?」 「それは・・・でも、孝平くんの意志が重要だし」 「だから、こーへーに選んでもらえるようアピールが必要なのだ!」 「そう・・・かな?」 「そうそう、だからこうして朝一番にチョコを渡すの、わかった?」 「・・・うん」  孝平くんが誰を選ぶのかは孝平くん次第だけど、その中に私がいないのは  やっぱり寂しいかな。そう言う意味でならアピールも良いかな。 「さ、いざとつげきー!」  梯子を下ろし、お姉ちゃんが降りていく。私もそれに続いて降りる。 「な、なにぃっ!?」 「お姉ちゃん、どうしたの?」 「こーへーが居ない、だと? これは想定外すぎる!!」  ベランダの扉を開けて部屋に入る、そこには孝平くんは居なかった。 「おかしい、この時間はまだ寝ているはずなのに・・・はっ、もしかして事件?」  その時、部屋の扉がノックされた。 「孝平、もう起きてる?」 「支倉先輩、失礼してよろしいでしょうか?」 「やや、この声はえりりんに白ちゃん」 「え? 悠木先輩の声? まさかっ!」  その声と同時に扉が勢いよく開かれる。 「犯人はおまえだー!」 「ひゃぅ」  お姉ちゃんの声に白ちゃんが驚き縮こまる。 「何を言うのよ、それよりも孝平はどこ?」 「こーへーを連れ去った犯人が何を言う!」 「な、何よそれ・・・」 「わたしが来たときすでにこーへーは居なかった! そしてこーへーが寝ていたと  思われるベット!」  お姉ちゃんはそこに手を入れる。 「微かに暖かい・・・こーへーの温もりだぁ」  ぽふっと言う音と共にお姉ちゃんはベットに飛び込んだ。 「悠木先輩だけずるい! 私も」 「えりちゃんまで・・・」 「はっ、しまった、あまりの気持ちよさに我を忘れてしまった、悠木かなで一生の不覚」  お姉ちゃんの一生って何回あるんだろう? 「それよりも、今はこーへーの居所をつかまねばならない、さぁ、えりりん。  正直に白状するのだ!」 「だから、私だって知らないわよ、今来たばかりなんだし」 「なんだか騒がしいなぁ、どうしたんだい?」  その時扉の外に現れたのは千堂先輩だった。 「・・・」 「・・・」  お姉ちゃんとえりちゃんが目配せをするのがわかった。 「下手人逮捕っ!」 「容疑者を確保っ!」 「なにっ!?」  そう言うとお姉ちゃんとえりちゃんはあっという間に千堂先輩を捕まえてしまった。 「知らないって、俺だって今来たところなんだよ?」 「嘘言わないの、こういうイベントを楽しむのは兄さんの悪い癖よ」 「そーだそーだ、こーへーを確保して楽しむなんてずるいぞ!」 「いや、それも考えたんだけどね」 「真実だったっ!?」 「でもさ、俺だって来たばかりで何もわからないんだ。今回ばかりは誤認逮捕だな」 「だって、兄さんなんだし」 「だって、いおりんなんだし」 「何それ!? 酷いっ! そんなに俺って信用ないの!?」 「だって兄さん前科ありすぎるし」 「だっていおりん悪戯っ子だし」 「・・・・しくしく」 「そんな事よりも、今はこーへーの行方を捜さねばならないのだ!」 「そうね、今は一時休戦して孝平を探す方が重要よね」 「はい、支倉先輩を捜しましょう。みんなで探せばすぐに見つかると思います」  白ちゃんの言うとおり、みんなで探せばきっと見つかると思う。 「・・・あれ?」 「どうしたの、ひなちゃん?」 「みんなって・・・ここにみんないる?」  今ここにいるみんなが、周りを見渡す。  部屋の真ん中ですまきになってる千堂先輩。  私の横にお姉ちゃん、千堂先輩を挟んで向かいに居るのがえりちゃんと白ちゃん。 「・・・あああっ!」  そこで気づいた。紅瀬さんが居ないことに。 「まさか真犯人はきりきりだったのかっ、これは盲点だった!」 「参ったわね、紅瀬さんが全力で孝平を確保したのだとしたら、探すのは大変よね」 「紅瀬先輩がいきそうな所に支倉先輩はいらっしゃるのでしょうか?」 「だとすると、屋敷が一番怪しいわね」 「よし、えりりん。きりきりを捕まえにその屋敷に行こう!」 「えぇ、いくわよ、白!」 「は、はいっ!」 「ほら、ひなちゃんも来る!」 「う、うん!」 「あのー、俺はこのままなのかなぁ?」  部屋の中で簀巻きにされてる千堂先輩の声が後ろから聞こえた・・・ ANOTHER VIEW END ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏狂想曲 sideshortstory                     「バレンタイン狂想曲2012」 「前フリが長すぎるわね」 「紅瀬さん?」  突然紅瀬さんが明後日の方を向き、ぼそっと喋った。 「気にしないで、独り言よ」 「そ、そう・・・」 「そう、独り言。長い前フリで本編が短くなったらどうするのかしらと  思っただけよ」 「・・・」  いまいち意味がわからない。まぁ、それはおいておくとしよう。 「ところで、俺は何処へ行けばいいの?」 「ついてくればわかるわ」  ・・・それは早朝と呼ばれる時間から物語は始まった。 「孝平、朝よ」 「・・・」 「もう、孝平ったら寝顔で私を誘惑するなんて、罪深いんだから」 「・・・ん?」  なんだか身体が重い気がする、それに女の人の声・・・?」 「孝平、起きた?」 「・・・」  気のせいか、俺の上に紅瀬さんが居るような・・・ 「って紅瀬さん!?」 「おはよう、孝平。起きるのが遅いわよ。こっちはもう起きてるのに」 「なななな、なんで紅瀬さんが?」 「・・・ふぅ、孝平を呼びに来たのよ」  そう言いながら紅瀬さんは俺の上から降りる。 「大事な用事があるから、制服に着替えて。出かけるわよ」  俺は枕元の目覚ましを見る、まだ相当早い時間だ。 「ほら、早くする。そうしないといろいろと面倒なことになってしまうわ」 「面倒な・・・こと?」 「いいから着替える、それとも手伝ってあげた方がいいかしら?」  そう言うと紅瀬さんは腕を組む、その腕の間で大きな胸が揺れる。 「だ、だいじょうぶだからちょっと外で待ってて」 「えぇ、残念だけどそうするわ」  危ういところだったけど、なんとかごまかせたな。  ・・・あれ? でも紅瀬さんの最初の言葉って。 「・・・っーー!」  ごまかせていなかったようだ。 「回想シーンでボリュームをごまかす、いつもの手法ね」 「あの・・・紅瀬さん?」 「気にしないで、独り言だから」 「・・・」  気にしたら負けなんだろうなぁ、きっと。 「・・・っ!」  突然紅瀬さんが俺の背後から抱きついた、というか俺は口元を押さえられ  拘束されてしまった。 「そのまま静かに」 「・・・」 「・・・」  誰かが少し遠くを走っている音が微かに聞こえた。  知ってる声が聞こえた気がした。 「・・・」 「・・・もう良いわ」 「いったい、いきなりなんなんだよ?」 「気にしないで、邪魔が入りそうなだけだから」 「邪魔・・・わかった、もう気にしない」 「賢明よ」  考えるだけ無駄な気がするので、考えるのを止めた。 「ついたわ」  連れてこられた場所は本敷地だった。 「ついたって・・・ここに何かあるの って、紅瀬さん?」  いつの間にか紅瀬さんが居なくなってる。 「ったく、どうすればいいんだよ・・・ん?」  俺の制服のポケットに何か入ってる事に気づいた。  多分、さっき紅瀬さんに抱きつかれ・・・ 「・・・おほん」  拘束されたときに入れられたのだろう。  それは、小さな封筒だった。 「あけて見ろってことだよな」  封を開けて見ると、中に手紙が入っていた。 「校舎の裏で待ってます」  そう、書かれていた。 「・・・俺達の校舎って新敷地なんだけどなぁ」  そう言いながら、俺は教職員棟の裏側へとまわってみた。  そこには少女が居た。  修智館学院の制服に身を包んだ、少し背の低めの少女。  長い髪は見事な金色で、ウエーブがかかってる。  そわそわしながら誰かが来るのを待っているようだ。  その誰かは、言うまでもない、俺だろう。  俺はそっと近づいた・・・ 「お、遅いではないか支倉」 「すみません、色々とあった物で」  いきなり怒られたけど、別に俺のせいではないとは思う、 「ま、まぁ、良い。来てくれたのだからな」  そう言いながら俺の顔を見た瞬間、真っ赤にして顔を背けた。 「伽耶さん?」 「そ、その・・・だな、なんていうか・・・」 「伽耶さん、大丈夫ですか?」  俺は伽耶さんに近づく。 「ちょ、だ、だいじょうぶだからまだ近づくなっ! 心の準備がまだなのだ!」 「は、はぁ・・・」 「な、なんでこんなにも緊張せねばならないのだ・・・」  俺は伽耶さんが落ち着くのを待つ事にした。 「そういえば伽耶さん、今日は制服姿なんですね」 「あ、あぁ、そうだ。この姿の方が良いらしいからな」 「えぇ、すごく似合ってますよ」 「なっ、何をいきなり言うのだ!!」 「いきなりって・・・ただ似合ってると言っただけですけど」 「そ、そうか、似合ってるか・・・たまには洋服というのも良い物だな」  なんだかとても嬉しそうな顔をしてる伽耶さんだが、すぐに難しい顔になる。 「くっ、せっかく緊張がほどけたと思ったのに・・・支倉のやつ、わざとか?」 「何がですか?」 「なななな、なんでもないぞ!」  そう言って持っていた物で顔を隠す。 「伽耶さん、それって」 「・・・あ゛」  それは小さな包みだった。   「しまった、あたしとしたことが・・・」  どうやら出すタイミングをはかっていたようだ。 「きょ、今日はバレンタインだそうだな」 「え、えぇ・・・」 「だからだな、そのな・・・全くもらえないと可哀想だからだな、その、な・・・  支倉」 「は、はい!」 「あたしから感謝の気持ちだ、ありがたく受け取れ!」 「あ、ありがとうございます!」  伽耶さんから包みを受け取った。  俺はその包みをそっとはがす。 「な、なぜ封を開ける?」 「そりゃ食べる為ですよ」 「なんで今食べるんだ!?」 「せっかく伽耶さんからもらったのだから、すぐに食べてみたくなったんです」  ついでに言えば、朝早くから起こされて腹が減っていたのもある。 「せ、せめてあたしの居ないところで食せ!」  そう慌てる伽耶さんだけど、もう手遅れだった。  小さな包みの中には、小さな丸いチョコが入っていた。 「これ、手作りじゃないですか?」 「−−−っ!」 「ありがとうございます、なんだか凄く嬉しいです」 「う、うれしいのか?」 「えぇ、それじゃぁ戴きます」 「・・・」  俺の口元に運ばれる手作りチョコ、その行方を伽耶さんはずっと追っている。  そしてチョコは俺の口の中に収まる。 「・・・」 「・・・ど、どうだ?」 「・・・」 「口に合わぬか・・・」 「あ、ごめん。あまりに美味しいから味わってました」 「そ、そうか? なら早くそう言わぬか!」  そう言って顔を真っ赤にする伽耶さんだった。 「ふぅ、最初に渡せて良かった」 「それはどうかしら?」 「き、桐葉! 今まで何処に居たのだ!」 「近くで様子を見学させていただいてたわ」 「なにっ!?」 「初々しい伽耶、可愛かったわよ」 「くぅ、なんという屈辱!」 「それはそうと、孝平。さっきの手紙の入ってたポケットの反対側を確認したかしら?」 「反対側?」  手を入れてみる、そこには俺の知らない包みが入っていた。 「これは?」 「私からの気持ちよ、受け取って」 「き、桐葉っ!? 桐葉はあたしに協力してくれるのではなかったのか?」 「協力したじゃない、孝平を捕獲して連れてきて、ちゃんと伽耶の手作りチョコを最初に  食べてもらったじゃないの」 「だが、何故桐葉のチョコを孝平が持ってるのだ?」 「私がこっそり渡したからよ。最初に食べてもらうのは伽耶のだけど、  最初に渡す権利まで手伝うとはいっていないわ」 「では、あたしのが最初じゃないのか」 「そうね、でも食べてもらったのは最初よ。それで我慢しなさい」 「桐葉っ!」  いったい今日のこの仕掛けは誰がしかけて、誰が一番得をしたのだろうか?  言い合う伽耶さんと紅瀬さんを見ながら、俺は伽耶さんの手作りチョコを口に含む。  それは、とても甘くて美味しいチョコレートだった。 ANOTHER VIEW... 「いないわ、いったい孝平は何処にいるの!」 「きりきり、今出てきてくれたら風紀シールは大まけにして5枚にしてあげるから  でてきなさーい!」 「支倉先輩、どこですかー!」 「・・・」  お姉ちゃんに連れられてここまで来たけど、孝平くんに電話すればいいんじゃ  ないのかな?  部屋の充電器に無かったから、かければつながると思うんだけど・・・ 「ねぇ、お姉ちゃん」 「ひなちゃん、今はこーへーを探すことが第一なの、だからひなちゃんも  こーへーを呼んで!」 「あ、うん・・・」  お姉ちゃんは話を聞いてくれません・・・孝平くん、私どうすればいいの、かな? ANOTHER VIEW END
2月10日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「貸し出し権」 「今あけるから、入ってきてね」  ドアチャイムを鳴らした後、インターフォンから聞こえてきた翠の声。  オートロックがはずれる音がしたのを確認してから門の扉をあける。 「いつ来ても凄いよな、翠の家は」  翠の家は高級住宅地と呼ばれる所にある。  広い敷地の翠の家を訪れるたびに、この庭ならイタリアンズを放し飼い  出来るんだろうな、と思ってしまう。  玄関の前で改めてインターフォンをならす。 「開いてるからどうぞ」 「こんばんは、翠。誕生日おめで・・・」 「いらっしゃい、達哉。ご飯にする、お風呂にする、それともわ・た・し?」  玄関で出迎えてくれた翠の格好はエプロン姿。  ただ、そのエプロンで隠されていない手足は素肌。  いわゆる、裸エプロンというやつだった・・・ 「あれ? 達哉? どうしたの?」 「い、いや、えっと・・・」 「寒いから早く入って扉しめてよー」 「あ、悪い」  俺は玄関の扉を閉める。 「いらっしゃい、待ってたよ」 「あぁ・・・その、誕生日おめでとう」  なんかもうタイミングがぐだぐだになっているけど、俺は翠に後ろ手に隠してた  花束を贈る。 「わぁ、綺麗・・・ありがと、達哉。早速花瓶に飾らないとね」  そう言って後ろを向く翠。 「っ!」  エプロンだけしかしていない翠の可愛いお尻は・・・パンツを穿いて隠されていた。 「うふふ、期待してた?」 「・・・」 「ごめんね、達哉。玄関だともしかすると誰かに見られちゃうかもしれないでしょ?  だから下着はつけたままにしたの」 「いや、そういう問題じゃないような・・・」 「でも、玄関しめたから、もう大丈夫、だよね」 「え?」 「達哉が望むなら・・・脱いでもいいよ」 「お願いだから普通に洋服着てください」  俺は頭を下げた。  翠の誕生日、だけど今日は平日。  1日中つきあってあげられず、バイトもどうしても休みが入れられなかった為  こうして翠の家に来た時はもう夜更けになっていた。  日付が変わる頃には帰らないといけないので、あまり長い時間は居られない。  それでも、こうして俺は翠の誕生日を祝うためにここに来た。 「ごめんな、翠。せっかくの誕生日なのに」 「いいのいいの、私は気にしてないよ。それに達哉はちゃんとこうして来て  くれたじゃない。それだけで私はとっても嬉しいよ」 「翠・・・」 「それよりもお腹すいてない?」 「え、あ、あぁ」 「達哉の事だからバイト終わった後ご飯食べないですぐに来たでしょう」  その通りだった。 「だから、私の手作りのご飯をご馳走してあげる、じゃんじゃかにゃーん!」  リビングに通された俺の前にあるのは、翠特製のカレーだった。 「・・・あれ? いつもと香りが違う」 「わかった? さっすが達哉だね。このカレーはね、今日の為に一昨日から作って  寝かせておいたの。今が一番美味しい時だよ♪」  その翠の説明と、カレーの香りに俺の腹が鳴る。 「ふふっ、カレーは逃げないから大丈夫だよ、さぁ食べよう、達哉」  そのカレーは翠が言うだけのことはある、とても美味しいカレーだった。 「もうこんな時間か・・・」  部屋の時計を見るともうすぐ日付が変わる時間になっていた。  さすがにこんな遅くに女の子の家に居るわけにもいかない。 「翠、そろそろ」 「うん、そうだね」  俺の言葉に何故かにこにこしてる翠。 「そろそろお風呂の時間だよね♪」 「・・・え?」 「あ、そーそー、さっきね、麻衣からメール来たの。読んでみる?」  そう言って差し出された翠の携帯。  メールには「お兄ちゃんを一晩貸し出し権」というタイトルが書かれている。 「・・・」  なんか、読むまでもなく言いたいことがわかった気がした。 「だから、達哉は今日家に帰れないの、私が麻衣から一晩借りてるから♪」 「俺は物かなにかかよ」 「いいじゃん、それとも私と一緒は・・・いや?」 「嫌なわけないだろう?」 「わ、即答!?」  そう言っておどける翠、だけど。 「顔、真っ赤だぞ?」 「達哉こそ真っ赤だよ?」 「そ、そうか?」 「う、うん・・・」 「・・・」 「・・・」 「と、いうわけで!!」  いきなり翠が大声を上げる。 「今日一晩は達哉は私の物なの、だから私の言うことを聞きなさいっ!」  照れ隠しなのがばればれなくらい、顔を真っ赤にしたままの翠。  その翠の期待に応えようと俺は思った。 「わかった」 「え、いいの? とんでもない事頼んじゃうよ?」 「とんでもないことって、たとえばどんなこと?」 「え、えーっとね・・・そうだ、一緒のベットで寝て、とか」 「一緒に寝るだけで良いの?」 「駄目、その前にお風呂入って綺麗にならなくちゃ、それから!」 「それから?」 「・・・もぅ、私に言わせたいだんて、達哉のえっち」 「だって俺は翠のものだからな、いってくれたら何でもするよ」 「じゃ、じゃぁ・・・一緒にお風呂入って、それから一緒に・・・」  俺は無言で立ち上がる、そして翠の手をとった・・・  翠の誕生日の夜は、まだ始まったばかりだった。
2月9日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「準備体操」 「寒っ」  びゅうと吹いた強い北風に俺は身体を固くする。 「もぅ、孝平。手を出してちゃんと歩かないと危ないわよ?」 「寒いんだからいいじゃないか」  監督生室に向かう階段、確かに手をコートのポケットに入れたまま歩くのは  危険といえば危険だ。 「転んだら危ないわよ?」 「そんなどじはしないさ」 「んー・・・、あ、そうだ。良い案思いついちゃった」  そう言うと瑛里華は俺の横に並ぶと、俺の右手を取り出した。  そして手をつなぐ。 「これで暖かいでしょ?」 「瑛里華に触れられてる所は暖かいけど、他が寒い」 「もぅ・・・なら、これでどう?」  瑛里華は俺と手をつないだまま、自分のコートのポケットに手を入れた。 「これなら暖かいでしょ?」 「確かに暖かいけど・・・結局コートのポケットに手を入れてるのは危険だって  言う話しじゃなかったっけ?」 「・・・」 「・・・」 「・・・てへ」 「ごまかしたな」 「良いじゃない、二人ならどっちかが転んでもフォローできるし」 「そりゃそうだけどさ、この方がバランス悪いと思うんだけど・・・」  手をつなぐだけなら問題ないけど、そのつないだ手が瑛里華のコートの  ポケットの中だと、俺は片手を常に引っ張られている状態で不安定だ。 「・・・そうだ、俺も良い案思いついた」 「なに?」 「こうするのさ」 「え、きゃっ!」  俺は瑛里華と一度手を離してから、瑛里華の身体を抱き寄せた。 「こ、孝平?」 「そしてこうする」 「きゃっ! 何処に手を入れてるのよ!」  腰の辺りに手を回し、瑛里華の俺と面してない方のコートのポケットに  手を入れた。 「コートのポケットだよ?、こうすればさっきより安定してるし、俺は  とても暖かいからさ。瑛里華は寒い?」 「暖かい・・・けど・・・ん」 「どうした?」 「孝平、わざとでしょう?」 「何のことかな?」 「ひゃん!」  俺はポケットに入れた手をそっと動かしている。  それは瑛里華の腰の前、太股の付け根当たりをさするような感じになっている。  コートのポケットの中からで、その下にはスカートがあるから直接触るほどの  感覚は無い。 「ん・・・」 「もしかして嫌だった?」 「・・・孝平のいぢわる、変な気持ちになっちゃうじゃない」 「どんな気持ち?」 「駄目、今日だって仕事がたくさんあるんだから・・・あんっ」  感度が良い瑛里華は、そっと撫でられてる感触に、震えていた。 「瑛里華、ついたよ。鍵を出してくれないか? 俺のズボンのポケットに入ってる」 「う・・・うん・・・あ」  俺に抱かれながらそっとズボンのポケットに手を入れた瑛里華は、俺の変化に  すぐに気づいた。 「そういえば・・・今日は白ちゃん来れない日だったよな」 「・・・うん」 「なぁ、瑛里華。監督生室は寒いからさ・・・仕事を始める前に準備体操、  必要だと思わないか?」 「そ、そうね。身体を暖める必要はある・・・わね」  瑛里華は震える手で鍵を開け、そして扉を開ける。 「それじゃぁ、仕事を始める前に・・・」  俺は扉を閉めると内側から鍵をかける。 「まずは、準備体操の準備から、だな」 「うん・・・」  瑛里華はそっと目を閉じた。  ・  ・  ・ 「どうするのよ、孝平」 「いや、その・・・」  気づくともう陽が暮れていた。  今日の仕事は全く手つかずの状態、俺も瑛里華も精魂尽き果てていてとてもじゃ  ないけど仕事を出来る状態じゃない。 「それに、私はどうやって帰ればいいのよ」  制服を着たままだったせいで、瑛里華のショーツとスカートがぐちゃぐちゃになって  しまい、着て帰れる状態ではなくなっていた。  今はコートを着てごまかしている状態だった。 「暗くなったらコートを着て帰るしかないな、幸い裾が長いから問題は無いと思う」 「孝平、貴方は寮まで裸のまま帰れっていうの?」 「他に手は無い・・・と思う」 「孝平が私の部屋まで行って着替えをとってくれば問題ないわよ?」 「俺は女子フロアに入れないだろう?」 「私のマスターキーを貸してあげる、これで問題ないわね」 「・・・ごめん、瑛里華。勘弁して」 「ふふっ、それじゃぁ勘弁してあげるわ」  そう言うと瑛里華は着ていたコートを脱ぐ。 「瑛里華!?」 「今日は体育があったのよ、だから体操着があったのよ」  コートの下の姿は、体操着だった。 「それは寒そうだな」 「裸のまま帰るよりマシよ」 「そっか・・・ごめん」  俺は頭を下げる。 「今度からちゃんと気をつける」 「あ、うん・・・私も気をつけるわね」 「それじゃぁ今日はもう帰るか、陽も暮れてるしなんとかなるだろう」 「そうね、ちょっと疲れたから今日は業務はお休みにして身体を休めましょう」  そうして帰る準備をする。 「明日から大変だから覚悟してね、孝平」 「瑛里華もな」  監督生室を出る、外はさっきより冷え込んでいた。 「瑛里華、手をつなごうか」 「・・・手、だけだからね?」 「あぁ、もう今日はさすがに無理だから」 「・・・」  瑛里華は顔を赤くしながらも、俺と手をつないだ。
2月4日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS 楽屋裏狂想曲”都市伝説” 「あら、紅瀬さんじゃない。大浴場であうなんて珍しいわね」   「そうかしら?」 「えぇ、今までほとんどあったことないじゃない」 「そうね・・・それじゃぁお先に」 「・・・ちょっと待って」 「何かしら?」 「・・・少し大きくなってない?」 「何が?」 「胸よ、胸」   「そう?」 「くっ、ここでも差を付けられるだなんて・・・」 「別に良いじゃない、大きい方が疲れるし良いこと無いのよ」 「それはそうかもしれないけど、なんだか納得いかないわ」 「・・・そういえば」   「何?」 「良いこと、あるわ。彼が喜ぶから」 「なっ!」 「ふふっ、湯冷めしちゃうからあがらせてもらうわ」 「ちょ、ちょっとまって、彼って!」 「あ、そうそう。良いこと教えてあげるわ」 「いきなり何よ?」 「胸はね、好きな異性に揉んでもらうと大きくなるそうよ」   「好きな異性・・・って、紅瀬さん、まさか!?」 「さぁ、どうかしら?」 「−−−っ、お風呂なんて入ってられないわ! 先に孝平を問いつめなくっちゃ!!」 「ふふっ」  脱ぎかけていた洋服を着直して千堂さんは大浴場から駆けだしていった。  紅瀬さんはゆっくりと服を着ると、「お先に」と行って出ていった。 「孝平くんは、胸が大きい女の子の方が好きなのかなぁ・・・」    私の胸はどうなんだろう?  孝平くん好みなのかな? それとも、これから孝平くん好みにしてくれるのかな?
2月3日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”規格外” 「寒い夜は鍋に限るな」  伽耶さんに招待されての夕食、こたつを囲んでの鍋料理だった。 「そうね、この辛さは良いわね」 「紅瀬さん・・・相変わらずよね」  鍋を囲んでるのは俺と瑛里華と紅瀬さんと伽耶さん。  みんながそれぞれ鍋から具を取り出しては食べている、そんな中紅瀬さんだけ  取り出した具を小さな土鍋に移し替えてから食べている。  その土鍋の中は・・赤い、いや、紅いというか、赫い。  ただ、これでも抑えめなのだろう、俺の目や鼻がしみて痛むことはなかった。 「そういえば、伊織先輩は?」 「兄さんならどこにいるかわからないでしょ? それに、呼ぶだけ無駄よ」 「無駄?」 「そう、無駄。呼べば来ないけど、呼ばないと来る、兄さんはそう言う人よ」 「さすがはマイシスター瑛里華! わかってるじゃないか!」  そう言って突然部屋に入ってきたのは言うまでもない、伊織先輩だった。 「桐葉、その酒をとってくれぬか」 「はい、伽耶」 「うむ」 「無視しないでっ! 寂しくて泣いちゃうぞ!」 「鬱陶しいな、それで何用だ?」  伊織先輩が本当に泣き出す前に伽耶さんの方がおれた。 「今日は節分だろう? そう言うイベントは楽しまないといけない!」 「・・・どういう理屈よ、それ」  あきれる瑛里華。 「というわけで、お土産を買ってきた」 「土産、だと?」 「あぁ、せっかくなのだからこれを頭につけてくれ」  そう言いながら素早い動きで伽耶さんに近づくと、伊織先輩は伽耶さんの頭に  何かを乗せた。 「何だ?」  伽耶さんは自分の頭の上に手を載せる、そこにあるのは・・・ 「角、か?」 「そう、鬼の角のカチューシャだ!」 「兄さん、いったい何処でそう言う物を手に入れてくるのよ・・・」 「それは重要じゃない、重要なのは、今ここに鬼が居ると言うことだ!」 「いや、確かに二人ほど居ますけど・・・」  このメンバーで吸血鬼という鬼は伽耶さんと伊織先輩になる。 「だからだ、俺は豆をまく、これは正当防衛だから問題は無い」 「どういう理屈だ、伊織! それを言うならおまえも鬼だろうが!」 「ふっ、鬼が鬼は外をしては行けないと言う理屈は無いっ!! 鬼は外っ!!」  伊織先輩は思いっきり伽耶さんを狙って豆をまいた。 「こ、こら、何をするっ!」 「鬼は外だからだ、正当な理由に問題はないっ!、鬼は外っ!!」  二度目の豆まき、だがその豆は伽耶さんには届かなかった。 「なっ、紅瀬ちゃん!?」  目にも止まらぬ早さですべての豆を回収したようだ。 「すげぇ・・・」 「伊織君、君はセンスがないのね」 「なに?」 「伽耶にこんな角は似合わないわ」  そう言うと紅瀬さんはそっと伽耶さんの頭からカチューシャをはずした。 「桐葉・・・」  目を潤ませる伽耶さん。 「くすっ、伽耶。伽耶にはこっちの方が似合うわよ」 「・・・は?」  どこからともなく取り出した新しいカチューシャ、それには猫耳がついていた。 「伽耶、これで貴方は伽耶にゃんよ」 「はい!?」 「母様可愛い!」 「こ、こら、瑛里華、抱きつくな!」 「ねぇねぇ、紅瀬さん。母様お持ち帰りしていい?」 「おい、瑛里華もあたしのことをなんだと思ってるのだ!!」  猫耳をつけた伽耶さんに抱きつく瑛里華。  あまりの展開の早さに俺はついていけなくなってきた。 「ふっ、これで伽耶は伽耶にゃんに、ネコになったわ」 「そ、それがどうした?」 「ちなみに私がタチよ」 「いや、そんなこと聞いてないから」 「まだわからないの、伊織君?」 「何がだい?」 「今、この場に居る鬼は、貴方だけになったのよ?」 「・・・なに!?」 「伽耶にゃん、豆まきしましょうか」  そう言うと紅瀬さんは升に入った豆を伽耶さん、もとい伽耶にゃんに手渡す。 「そう言うことか・・・フフフッ、この場の鬼を退治しないとな」 「駄目よ、伽耶にゃんはネコなんだから、にゃっていわないと、一緒に鬼退治  されちゃうわよ?」 「何故あたしがそんな言葉使いをしないといけないのだ?」 「だって、伽耶にゃんだから」 「・・・」  その言葉に声を失った伽耶さんだったが・・・ 「フフ、フフフフフフッ、もうこうなったらやけにゃっ!」  そう言ってゆらりと立ち上がる。 「伊織、覚悟するにゃっ、鬼は外っ!!」  伽耶さん、もとい伽耶にゃんが豆をまく。 「ふっ、甘いっ!」  それをかわし、たたき落とし、すべての豆の直撃を防ぐ伊織先輩。 「伊織のくせに生意気だぞ、素直に退治されろ! 鬼は外!!」 「出来る物ならやってみなー、伽耶にゃん♪」 「おまえが伽耶にゃんいうなーーー!」  こうして二人は部屋から出ていった・・・ 「不器用な親子愛ね」  何事もなかったように鍋から具を取り出し、自分用の鍋に移す紅瀬さん。 「紅瀬さんがそれを言うか・・・」 「何か?」 「・・・いえ。瑛里華、せっかくだから鍋の続きしようか」 「そうね、お持ち帰りは後にしましょう」 「・・・」 「やぁね、孝平ったら。冗談に決まってるでしょう?」  瑛里華の顔に大きな汗が流れている事にはつっこまない方がいいだろうな。 「そういえばさ、豆まきって鬼は外の後に福は内って言うんだよな」 「そうね」 「鬼は外っ!!」 「鬼は外! いい加減退治されろっ!」 「そっちこそ!!」  屋敷の奥から聞こえてくるかけ声、一度たりとも福の声が聞こえてきていない。 「本当に不器用な親子よね」 「・・・瑛里華、鍋美味しいな」 「えぇ・・・」 「お代わりもっとあるわよ、たくさん食べていってね、伽耶の分も」 「紅瀬さん、貴方逞しいわね」 「そう? 伽耶の友人していればこれくらい普通よ」 「・・・」  今更ながらに俺の周りにいる人が規格外ばかりだと言うことを  改めて思い知らされた日だった。
1月31日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”勝敗の行方” 「寒いですけど、大丈夫ですか?」 「はい、達哉が手をつないでいてくれてますから」 「・・・」  まっすぐ見上げてくるエステルさんから思わず顔をそらす。 「くすっ」  エステルさんの笑う声を聞きながら、礼拝堂への道を二人で歩く。  今日はエステルさんの誕生日、みんなで祝おうと左門を貸し切りにしての  誕生会が開かれた。 「そんな、私の為にお店を早く閉めるなんて」 「しめるんじゃないさ、貸し切りだから大丈夫」  最初は驚き断ってたエステルさんだったが、みんなで少しずつお金を出し合って  エステルさんの為に貸し切った事を説明して、なんとか納得してもらった。 「当たり前よ、エステルさん。だって私たちはもう家族なんだから」 「家族・・・」 「そうですよ、エステルお義姉さん」 「穂積さん・・・麻衣さん・・・ありがとうございます!」  そんなやりとりの後開かれた左門での誕生会。  楽しい時間はあっという間に過ぎ、今こうして俺はエステルさんを送っていた。   「達哉、私とても嬉しかったです」 「それだけ喜んでくれたのなら俺も嬉しいよ」 「はい、誕生会も嬉しかったですけど、それよりももっと嬉しい事がありました」 「それよりも?」 「達哉の家族が私の事を家族として見てくれた事です」 「あ、あぁ・・・」  姉さんも麻衣も、すでに俺達が結婚する事を前提にエステルさんに接している。  俺と結婚すれば、エステルさんと俺は家族になるし、俺の家族もエステルさんに  とっての家族となる。 「私、今とても幸せです」 「俺も幸せですよ、エステルさん。でも」 「でも?」 「将来はもっともっと俺は幸せになるつもりですから」 「これ以上幸せに?」 「はい、そのためにはエステルさんがいなくちゃ駄目です」 「達哉・・・はい、よろしくお願いします」 「こちらこそ、よろしくお願いします」 「お願いされました」 「ははっ」 「ふふっ」  誕生会の時と同じく楽しい時間はあっという間。  もう礼拝堂の前まで来てしまった。 「・・・」 「・・・」 「えっと」 「は、はいっ!?」 「エステルさん、その・・・何か言いたいことあるんですか?」   「え? いえ、そんなことはありません」  エステルさんの仕草を見ればそれが嘘だって事はすぐにわかる。 「わかりました、それじゃぁエステルさんが言ってくれるまで俺は帰りません」 「言いたいことは無いっていってるのに、どうして達哉は・・・  いつもわかってしまうのでしょうか・・・」 「でも、言わないでくれた方が良いかもしれませんね」 「どうしてですか?」 「だって、こうしてエステルさんと手をずっとつないでいられるのですから」 「・・・駄目です」 「エステルさん?」 「このままここにいたら二人とも風邪をひいてしまいます、ですから・・・」 「・・・」 「その・・・冷えた身体を暖めるお茶を煎れますから、寄っていってください!」 「はい」 「・・・また達哉にやられてしまった気がします」 「大丈夫ですよ、エステルさん」   「?」 「だって、俺は最初からエステルさんの魅力にやられてますから」 「−−−っ!? た、達哉、ななな、なんてことを言い出すんですか!!」 「だって本当の事ですから」  顔を真っ赤にしたエステルさんの手を再び取る。 「それじゃぁお茶をご馳走になりに行きますね」 「・・・ご馳走になるのはお茶だけですか?」    そのエステルさんの上目づかいにドキッとする。 「ふふっ、私の方がお姉さんなんですからね、やられてばかりはいられないです」  そう言って笑うエステルさんを見て。  あぁ、俺は絶対に敵わないんだろうなと思った。
1月24日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”いつでも、どこでも” 「・・・あれ?」  問題集を解き終えた時、外の雨の音が聞こえなくなってることに気づいた。  なんとなく、予感がしたのでカーテンを開けてみる。 「やっぱりな」  雨は雪になっていた。すでに家の前はうっすらと白くなっている。 「明日の朝は大変だな」  雪が積もるかどうかはわからないが、凍って危険な状態になることは  目に見えている。朝、お湯を撒いて溶かすか?  そう思ったとき、身体がぶるっと震えた。  いくら暖房をかけていても、雪が降るほど寒い夜の窓際は冷え込む。 「今日はこの辺にして風呂にはいるか」  時計を見れば23時過ぎ、もうみんなはいった後だろう。  カーテンを閉め、俺は着替えを持って部屋からでた。 「あれ、お兄ちゃん?」 「ん、麻衣?」  俺が部屋から出たのと同時に、麻衣も部屋から出てきた。 「もしかして麻衣、風呂か?」 「お兄ちゃんも?」  どうやらまだ麻衣は風呂にはいってなかったようだ。 「じゃぁ出たら教えてくれ」 「ううん、私は後でいいからお兄ちゃんお先にどうぞ」 「いや、俺も急ぎじゃないし」 「でもお兄ちゃんお風呂に入ろうとしてたんでしょう?」 「それを言うなら麻衣もだろう? 俺は後で・・・くしゅっ!」  その時鼻がむずむずしたと思った瞬間、くしゃみをしていた。 「くしゅっ!」 「麻衣、風邪引くから先に入って早く暖まって」 「それを言うならお兄ちゃんこそ」 「・・・」 「・・・」  お互いがお互いを譲っての平行線。 「・・・ねぇ、お兄ちゃん。良い妥協案があるんだけど」  そう言った麻衣の表情を見た俺は、その妥協案を悟った。 「そう・・・だな。その妥協案で行くか」 「・・・うん」  俺達はそろって階段を下りた。  俺は先に浴室に入ってかけ湯をする。  それからすぐに浴槽に入る、出入り口に背を向けお湯につかる。 「しつれーしまーす」  麻衣も浴室に入ってきた、けど背中を向けてる俺には麻衣の姿は見えない。 「・・・」 「・・・えと、シャワー浴びるね」 「あ、あぁ」  麻衣がシャワーを浴びる音を背中にし、俺は浴槽の中でじっとしていた。  しばらくしてシャワーの音が止まる。 「私も入るね、お兄ちゃん、ちょっと端っこによってもらってもいいかな?」 「わかった」  俺はなるべく麻衣の方を見ないように、端による。 「ん・・・あたたかい」  声のする方に目がいってしまう。   「っ」  俺は慌てて麻衣に背中を向けた。 「くすっ」  麻衣は小さく笑うと、俺と同じように背中を向けた。  ちょうど背中同士でお互いに寄りかかったような形になる。 「こういうのもたまにはいいよね、お兄ちゃん」 「そ、そうか?」  背中から伝わってくる麻衣の温かさに、のぼせそうになる。 「うん、なんかお互いで寄りかかって、お互いで支えてる」  麻衣の言いたいことはすぐにわかった。 「そうだな」 「でも」  そう言うと麻衣は俺の後ろで立ち上がり。   「私はお兄ちゃんを包んでいたいな」  そう言いながら俺の背中に抱きついてきた。 「いつも優しくしてくれるお兄ちゃんを優しく包んでいたい」 「ありがとう、麻衣」  俺の胸に手を回してくる麻衣の手をそっと包む。 「でも、俺だって麻衣を優しく抱きしめてあげたい」 「うん、私もお兄ちゃんに抱きしめてもらいたい、いつでもどこでも」    ・  ・  ・   「お風呂気持ちよかったね、お兄ちゃん」 「そうだな・・・で、なんで俺のシャツを着てるんだ?」  それも、ついさっき脱いで洗濯かごに入れておいた物だ。   「大丈夫だよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんに匂いしかしないから」  麻衣は袖のにおいを嗅いでからそう答える。 「それじゃ駄目だろ」 「ううん、これでいいの。でね、お兄ちゃん」 「ん?」   「一緒に寝ても、いい?」 「え?」  俺の戸惑いの声に麻衣はぶすっと頬を膨らませる。 「さっきお兄ちゃんは抱きしめてくれるって約束したでしょ?」    麻衣が俺の下からのぞき込むような目線で見上げてくる。 「それは・・・」  麻衣がそう言っただけじゃないか? と思ったが訂正はしなかった。  だってそれは間違っていないから。 「わかった、今夜は一緒に寝るか。俺の部屋でいいか?」 「うん、お兄ちゃんと一緒ならどこでもいいよ」  雪が降るほど寒い夜、俺の部屋と身体と心はぽかぽかだった。
1月16日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”約束”   「変わった船ね」 「そうだね、昔の帆船はあんな感じだったんだろうな」  私の問いに達哉が答えてくれる。 「ふぅ」    私はフードをはずしながら、帆船が接岸するのを眺めていた。  去年と同じく、年が明けてすぐのレセプションは海の近くのホールだった。  その話を聞いたとき、またあの綺麗な空と雲と海がみれると思い楽しみに  していたのだけど、そうはいかなかった。  天候が調整されている月とは違い、地球では自然に天気が変わっていく。  朝方は晴れていたはずなのに、こうして抜け出してきた時間の今は、空は  雲に覆われていた。    私は空を見上げる。  うっすらと日差しが雲の隙間からのぞいているけど、一面の白い雲。 「・・・」  達哉と一緒の思いでの場所で、もう一度みれると思ったあの景色が、天気一つで  こうも変わってしまう物なのだと、実感させられただけの、休憩時間になりそう  だった。 「フィーナ」  達哉は私の隣に立つと、そっと私の肩を抱き寄せてくれた。 「やっぱり、残念かい?」 「えぇ」  私は正直に答える。 「なら、またここに来ようよ」 「え?」 「今日が駄目ならまた今度、あの綺麗な景色を一緒に見に来よう、約束」  そう言って達哉は微笑んだ。   「達哉・・・私との約束、破ったら大変よ?」 「そのためには月と地球の交流を活発にして、俺達が簡単に来れるように  しないとな」  月の王女である私と月にある地球連邦大使館員である達哉、二人とも今の  仕事のベースは月。  今日は仕事の一環で地球に上ってきているけど、普段はそう簡単には来れない。 「だから、フィーナとの約束は俺よりもフィーナのがんばり次第になっちゃうな」 「もぅ、他力本願ね」 「そうでもないさ、俺だって手伝うよ。だって、フィーナと交わした約束だからな」 「えぇ、お願いするわ、達哉」  またここに来る約束を達哉と交わす、それが出来るのなら今日の曇り空も  なんだか良い空に見えてきた。 「そろそろ時間だな、フィーナ」  そう言うと私にフードをかぶせてくれる。  こうすると私の髪はすべて隠れるので遠目から見て私とはわからなくなる。  抜け出すためのちょっとした変装だった。   「行こうか、フィーナ」 「えぇ」  達哉と約束を果たす日は、きっと晴れますように。  私は空を見上げながら、そう願った。
1月13日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”見せたくないもの” 「達哉、似合うかしら?」  ドレスルームから出てきたフィーナは、スカートを軽くつまみ上げての  挨拶をする。いや、スカートというか正確には短い袴、なのだろう。   「達哉?」 「あ、ごめん。ちょっと想定外過ぎたから」 「うふふっ、驚かすことには成功したわね」 「あぁ、驚きすぎて声が出なかったよ」  改めてフィーナの姿を見る。  神社などにいる、神に仕える女性が着る緋色の袴。いわゆる巫女装束。  本物と違うのはその袴が短いということだ。  何故フィーナがこんな格好をしているか、というと、数日後スフィア王国で  仮面仮装舞踏会が開かれる事となったからだ。  仮面をかぶるのは、国家間の壁を取り払う事が出来る。相手が誰であれ一人の仮面を  かぶった人である、という事だけになるからだ。  要するに無礼講というわけだ。  仮装に関しては「その方が面白いでしょ?」という、偉い姫様の  一言で決まったそうだ。  俺は偉い姫様が誰かということは考えないで置く事にした。 「それで、フィーナはその格好で出るのか?」 「これは何着かある内の一着だけど・・・」  そう言うとその場でくるっとターンする。  短い緋袴が舞い、その下からフィーナの肌と、白い物が見える。 「達哉が似合ってるって言ってくれたからこれにしようかしら?」 「・・・駄目だ」 「あら、どうして? 似合ってるっていうのは嘘なのかしら?」 「似合ってるのは本当さ、でも駄目な物は駄目だ」 「理由を聞かせてくれるかしら?」 「・・・」  駄目な理由、それは俺の嫉妬。  スカートが短すぎて見えてしまうのが嫌なだけだ。  だけど、それを正直に言うのは恥ずかしい。 「達哉、私たちの間に隠し事は無しでしょう?」  フィーナの澄んだ眼で見つめられる、その瞳に俺は抵抗する事が出来ない。 「・・・」 「達哉?」 「スカートが短すぎる、見えちゃうだろう?」 「大丈夫よ、達哉」  フィーナはその場でまた袴をつまみ上げる。  ちらっと見える白い布地に思わず目が行ってしまう。 「これは見られるのが前提で作られてるアンダースコートよ」  アンダースコート、短いスカートの下に穿く、見られても良い下着のことで  テニスの女子が着用しているという事は知識としては知っていた。 「・・・それでも嫌だ、見られても良いだなんて俺は嫌だ。  見て良いのは俺だけじゃなくちゃ嫌だ」 「達哉・・・」  俺の言葉に顔を赤くするフィーナ。 「・・・」 「・・・わかったわ、この装束は達哉の前でだけにするわね」 「いい、のか?」 「えぇ、私も見られては良い下着だからといって、見られたい訳じゃないもの」  その言葉に俺は安堵する、と同時に嫉妬してたことが恥ずかしくなった。 「それにね」  フィーナは少し前屈みになって、俺の方を見上げてくる。 「私のすべては達哉のものだから、見て良いのも達哉だけよ」  そう言ってウインクをするフィーナだった。
1月8日 ・夜明け前より瑠璃色な SSS”今年こそ?” 「あっさぎっりくーん、あっそびっましょー!」 「なんだ!?」  正月、部屋で勉強してた俺の耳に届いたのは遠山の声だった。  窓から外を望むと、遠山と菜月の二人がいた。 「翠、そんな呼び方ないんじゃない?」 「いいじゃない、お正月なんだから」 「正月もなにも関係ないだろ・・・」  そう言いながら俺は玄関に出て二人を出迎える。 「朝霧君、新年あけましておめでとうございます!」 「わたしはもう挨拶したから良いわよね」  そう言う二人は艶やかな振り袖姿だった。 「あ、あぁ・・・あけましておめでとう、遠山」 「そーゆーわけで初詣行こう、朝霧君!」 「構わないけど、俺はもう初詣行ったぞ?」 「え、嘘っ! 朝霧君酷いっ!」 「なんでそうなる」 「それはおいといて、初詣いこ、朝霧君!」  遠山は妙にテンションが高いようだ、何かあったんだろうか?  俺はそっと菜月の方を見る。 「・・・」  すまなさそうな顔の菜月、どうやら菜月も巻き込まれた口のようだ。  巻き込まれただけなのに振り袖姿でつきあう辺りは菜月らしい。 「わかったからちょっとだけ待っててくれ、コート持ってくる」 「紋付き袴姿じゃないの?」 「無い無い」  近くの神社で初詣、いや、俺はもう初詣しているのでお参りになるのだろうか?  その後誘われて菜月と一緒に遠山の家に行くことになった。 「と、いうわけでこれで勝負しましょ♪」 「だからどういうわけで・・・」  俺の抗議?の声を無視しながら遠山は羽子板を渡してきた。 「菜月にはこれね」 「ありがと・・・」  菜月に渡された羽子板は・・・どうみてもあれはしゃもじにしか見えない。  賀正、と書いてあるので如何にもめでたそうだけど、やっぱりしゃもじだ。 「それじゃぁ行くよ、えいっ!」  遠山が羽根を打つ。  俺はその羽根を菜月に打ち返す。 「えいっ!」  菜月が打った羽根は俺の方に飛んでくる、それを今度は遠山に打ち返す。 「はいっ!」  遠山の打ち返しは俺に来る。 「なんだか俺一人で打ってないか?」 「気のせい気のせい、行くわよ達哉!」 「行ってるそばから俺に打ち返すな!」 「だって、朝霧君は男の子でしょ、ふぁいとっ! えいっ!」  遠山の絶妙な打ち返しに反応できず羽根を落としてしまった。 「はい、罰ゲーム。顔だして♪」 「そこまでしなくてもいいんじゃないか?」 「だーめ、ほら、頬だして♪」  頬に×印を書かれてしまった。 「朝霧君、格好良いよ? どこかの幕末の剣士みたいで」 「なんで疑問系なんだよ・・・」 「あっ!?」  遠山が羽根を落とす。 「うー」 「それじゃぁ罰ゲームだな」 「朝霧君はか弱い女の子の顔に墨を塗るの?」 「いや、だってゲームだし・・・」 「朝霧君?」  上目づかいでのぞき込んでくる遠山。  なんだか俺が悪人のような気がしてきた。 「・・・はぁ、勝負続けるか」 「ありがとー、朝霧君。私が勝ったときは遠慮しないからね♪」 「遠慮してくれ」  はねつきで顔を真っ黒にされた俺は、お湯で顔を徹底的に洗う羽目になった。 「ふぅ」 「ごくろうさん、お雑煮食べよ、朝霧君」  リビングのテーブルの上にはお雑煮が用意されていた。 「ご馳走になっていいのか?」 「うん、一人じゃ余らせちゃうから食べて、菜月も遠慮はいらないよ」 「わかったわ、翠。達哉、戴きましょう」 「あぁ、じゃぁご馳走になるか」 「そういえば翠、さっき何お願いしてたの?」  お雑煮を食べながら菜月が遠山に質問を始めた。  確かに、遠山は真剣にお願いしてたっけ。 「菜月、私ね、素朴な疑問があるの」 「素朴な疑問?」  何かに悩んでるのだろうか? もし出来ることなら力になってあげたいが、いったい  何の悩みなんだろうか? 「なんでキャラソンのオファー来ないんだろうね?」 「・・・は?」  きゃら・・・そん? 「菜月は覚えてる? この前みんなで一緒に歌ったの」 「うん、覚えてる。すっごく楽しかったよね」  みんなで歌った? 「・・・あ、あれか。女性陣のみでの合唱ソングか」  いつだったか覚えてないけど、フィーナを筆頭に歌った話があった。 「でね、あの後の作品ではみんなキャラソン歌ってるじゃない」 「そういえばそうよね、修智館学院のみんななんて2曲以上歌ってるわよね」 「さすがに異世界の方ではまだ展開始まったばかりだけど、でもそれだからこそ!」  そこで遠山はバン、と机を叩いた。 「私達もキャラソンが無いのがおかしいわけなのよ! どう思う? 朝霧君」 「・・・そう言われると無いのがおかしい気がするよな」 「Windows7版も私達からなんだし、いまこそ私のキャラソンを!  そう、神頼みしてみました」 「・・・えと、叶うといいな」 「そのためのお参りだもん、今年こそ私のキャラソンを!!」  テンション高いまま燃えてる遠山を見ながら、俺は残りの雑煮を食べる。  神頼みで・・・叶う願いなんだろうか?  そんな疑問を思いながら。
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