フィーナ誕生日記念SS
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9月29日
・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory「ご褒美の為に」

「おつかれ、フィーナ」
「達哉もお疲れ様」
 今日の公務をすべて終わらせた私たちはやっと部屋へと戻ってくることができたのだけど。
「あまり時間は無いのよね?」
「そうだな、往還船の中で寝るようになりそうだな。椅子だと疲れが取れないから嫌なんだけどな」
「そうね、でも仕方が無いわ」

 9月29日、今日は私の誕生日。私が女王に即位した後に、祝日に制定されている。
 誕生日の公務は普通の公務の日以上に、スケジュールが過密となってしまった。
 王宮バルコニーからスフィア王国の国民への挨拶は、王宮前に国民が入りきれないために何回も
 行われるし、貴族や地球連邦からわざわざお祝いの為に訪れてくれた官僚との会談と会食。
 それらすべてが終わった時間は、今日も残り少なくなっていた。

「今年は地球でのパーティーは1日遅れになるのかしらね」
「ごめん、フィーナ。今は平日だからみんな集まれないから、もう少し後になるんだ」
「そう……みんなのスケジュールもあるのだから仕方が無いわね」
 これからすぐに私たちは地球に上ることになる。
 地球連邦の各支部への訪問の予定があるからだ。

「さて、少しだけ時間があるから休もうか。お茶煎れてくるよ」
「ありがとう、達哉」
 達哉は隣接している控え室へとお茶を煎れに行ってくれた。
「ふぅ」
 誕生日の日は昔からこうだった、それは私が王女であったから。
 何れスフィア王国の王位を継ぐ事が決められていたから、誕生日のお祝いという名目で貴族達が
 取り入ってくる、そんな日だった。
 それは10年前までの話。
 達哉と婚約の約束をしてからは、二人で過ごせる事ができる、数少ない日になった。
 そして2年前に達哉と結婚してからはと言うと……
「貴族達の謁見の数が前より増えたのよね」
 まさか私たちの子に取り入る為の下準備までしてくるとは……まだ生まれてもいないのに。
 以前より疲れることが多くなった誕生日の日の公務。
 でも……
「私には貴方がいるから、大丈夫」
「何がだい?」
「た、達哉!? 聞いてたの?」
「いや、今来たところだから意味は解らないけど、それよりもフィーナ、これを」
「え?」
 お茶を煎れに行ったはずの達哉が持ってきたのは花束だった。
「今更かもしれないけどさ、誕生日おめでとう、フィーナ」
「ありがとう、嬉しいわ」
 花束を受け取る、とても良い香りがする。
「今日の疲れが癒えるような、良い香りね」
「お茶もちゃんと煎れてきてあるよ」
「ありがとう」
 サイドテーブルに置かれたカップからも良い香りがする。
「ふふっ」
「どうしたんだい?」
「いえ、私も現金な物ねと思っただけよ」
「そうなの?」
「えぇ、だって」
 すごく疲れてても、嫌なことがあっても、達哉のさりげない優しさ一つで幸せになれるのだから。

「フィーナ、花はメイドさんに頼んでおくから、そろそろ行こうか」
「えぇ」
 達哉が私の手を取る、これから連絡港まで行って、地球へと上る。
「もう少しですものね、頑張らないと」
「そうだな」
 地球での外交の訪問が終わった後、少しだけ休暇がとれることになっている。
 それが達哉が用意してくれた、私への本当の誕生日プレゼント。
 そのときは山間の旅館を貸し切っての旅行も予定している。
「ご褒美があると公務も楽しくなるな」
「そうね、なら達哉にもご褒美を用意しないとね」
「それは旅館でもらおうかな」
「……達哉のえっち」
「なんでそうなるの?」
「違うの?」
「……違くないかも」
 頭をかく達哉の姿が面白くて、笑いそうになるのをこらえるのが大変だった。

「ふふっ、旅行の日まで頑張りましょうね」

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