フィーナ誕生日記念SS
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9月29日
・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory「地球での時間」

「久しぶりね、達哉の部屋」
「俺もだよ」
「ベットの上、失礼するわね」
 私は達哉のベットに腰掛ける。
 達哉も私の横に座る。
「フィーナ、ちょっと食べ過ぎたんじゃないか?」
「そうかもしれないわね」
 私はドレスの上からお腹をさする、確かに食べ過ぎたかもしれない。
「けど、左門さんの料理は久しぶりだったんですもの」

 9月28日、私の誕生日の前日である今日までぎりぎりのスケジュールで地球連邦の
 各都市を執務で回っていた。
 そして今日の夜、往還船で月に戻り明日の私の誕生日は王城での式典に臨むことになっている。
 往還船の宇宙港は地球連邦の中では、満弦ヶ崎市にしか無いから、私たちは地球に上るときと
 月に下るときは必ずここに戻ってくる事になる。

 秒単位のスケジュールだけど、「都合が悪く」満弦ヶ崎に係留されてる往還船に異常が
 発生してしまった。
 原因は調査中のようだけど、すぐには出発出来ない、と言うことが「事前」にわかったために
 私たちは朝霧の実家に帰ることになった。
 そしてそこでも「事前」にその話を聞いていた家族みんなが、私の誕生会を開いてくれたのだ。

「絶対リースの仕業よね」
「あぁ、間違いないだろうな。本人は認めないだろうけど」
 誕生会の席にはリースも出席していた、そしていつものように黙々と食事をして、左門さんに
「悪くない」の評価をしていた。

「後でリースにお礼を言った方が良いかしら?」
「うーん、王家の立場上ではお礼は言えないだろうな」
「私はフィーナとして家族のリースにお礼を言うのよ?」
「それなら問題無いな、尤もリースの仕業かどうかはわかってないんだけどな」
 往還船に仕掛けをすることが出来るのはロストテクノロジーに精通していないと出来ないから
 犯人はリースしか居ないのですけどね。

 横に座る達哉に寄りかかりながら、窓の外から夜空を見上げる。
「このまま夜明けまで一緒に過ごせたらいいのに」
 思わず本音が出てしまう。
「そうだな、時間があるのなら一緒に眠れるのにな」
「あら、眠るだけなの?」
「フィーナが許してくれるのなら、それ以上のことも考える」
「それ以上って、何かしら?」
 それは、ただの言葉遊び。
 でも、お互いそれを望むなら、その先へ進むこともある、けど。
「そうだな、頭を撫でよう」
「それは魅力的な提案ね」
 達哉も私も解っているから、往還船の異常が無く、月との航路が開かれるようになる、その時間が。
 それは夜明け前よりも早い時間、だからここで眠るわけにはいかない。

「ねぇ、達哉。頭を……撫でてくれるのではなくて?」
「そうだったな」
 達哉はそっと私を抱き寄せて、頭を撫でてくれた。
「ん」
「……」
「達哉、どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない」
「そう?」
「あぁ」
 そう言いながら達哉はそっと頭を撫でるだけでは無く、髪を手で梳いてくれる。
「ねぇ、達哉」
「ん?」
「もしかして、我慢出来なくなっちゃった?」
「……そう、だな。今すぐフィーナを抱きたい、けど、我慢できるさ」
「あら、やせ我慢は身体に悪いわよ?」
「ったく、フィーナ。俺たちはもうすぐ出発するだろう? その後部屋の掃除に来たさやか姉さんや
 麻衣に会わせる顔があると思う?」
「……」
 確かに、そういうことをした形跡のある部屋を掃除した二人に会わせる顔が無いかもしれない。
「そういうことは月に戻って式典を終わらせてからにしよう」
「……うん」
 そのとき、達哉の腕時計から小さな音がした。

「誕生日おめでとう、フィーナ」
「達哉、ありがとう」
「プレゼントは、今はこれだけな」
 そう言うと私の顔を両手で優しく挟み込んで……
「ん……」

 今年の誕生日は達哉とのキスで始まった。

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