Q モーターパラと普通のパラとの違いを教えて

A  普通のパラグライダーは動力を持たない滑空機として山の上から離陸しますが、エンジンユニットを背負うことによって自らの力で上昇できる能力を持つのが、モーターパラグライダーです。
 以下、普通のパラグライダーをPG、モーターパラグライダーをMPGと略すことにします。


 まずMPGの利点に着目しながら、その違いを書いてみます。 ただしこれは、あくまで「私が感じた違い」ですので、人により意見の差はあると思います。予めご承知下さい。

 大きな違いのひとつとして、MPGは平地から離陸することができるという点がまず挙げられます。従って、PGのように山に登る必要はありません。
 PGでは離陸する場所と着陸する場所は別々なのですが、MPGは離陸した同じ場所へ帰ってくることができ、広い平地がひとつあれば飛行可能です。
 (あくまで飛行可能というだけであって、広い場所からならどこでも飛んでいいというわけではありませんが。)

 だから、エリアに車で乗り付けて道具を下ろし準備 → フライトを楽しむ → 同じ場所に着陸、という楽チンなフライトができるわけです。

 それだけではありません。エンジンがついているわけですから、フライトの形態も少々異なります。

MPGの離陸  最初に離陸時。
 PGの場合、山の上にある斜面(テイクオフと呼びます)から離陸する関係上、風が正面から吹いてなければなりません。
 すべての航空機には向かい風で離着陸するという原則があり、パラグライダーもこの原則を守らなくてはならないのです。
 だからPGではたとえ天気が良く適度な風が吹いていたとしても、テイクオフ斜面の下っている方向と風の吹いてくる方向が概ね一致しなければ離陸することができないことになります。

 しかしMPGは平地から離陸するわけですから、風の吹いてくる方向へ走ればいいだけです。もちろん強風時など風が荒れている時はダメですが、風向きを選ばないため、フライトできる確率がPGよりも高くなります。


 次にフライト中における違いです。
 MPGには当然エンジンが付いていますから、そのエンジンをふかせば強い下降気流帯にいない限り上昇できます。だからサーマルなどの上昇気流が無く、PGではすぐに終わってしまうようなフライト条件の日でも、長時間のフライトが可能です。
 長時間というとどのくらいかという話ですが、エンジンユニットの種類や状況により異なるものの、燃料が尽きるまでの1時間くらいは飛んでいられるのです。

 空中での基本的な操縦については、PGとMPGは同じと考えていいと思います。 ただし重いエンジンユニットを背負い、大きななプロペラを回しながらフライトするMPGは、例えば体の自由が効かないとか、プロペラの反動トルクの影響を受けるといった違いはあります。
 その一方で、エンジンの付いているMPGはある程度パイロットの思い通りの飛行コースが取れます。例えば仲間と編隊飛行をしたり、エンジン出力を調整しながら地上スレスレを飛ぶローパス飛行、安定した条件での空撮、イベントでのデモフライトなど、MPGならではのフライトを楽しむことができます。


 そして着陸時における違いです。
 動力を持たないPGでは、着陸のチャンスは1回しかありません。
 山麓の平地にある着陸場所へ高度処理しながら進入していったとき、思ったよりも高度が下がりすぎてしまったとか、同時に進入してくる他の機体に気づいたりした場合であっても、やり直しはききません。
 一方、MPGではエンジンをブアーッと吹かして上昇すればOK。何度でもやり直しがききます。これは安全な着陸進入という点で、MPGの大きなアドバンテージです。
 ただしMPGは重いエンジンユニットを背負っていますので、自分の体重だけ支えれば良いPGと比べて着地した瞬間のショックは大きめです。フワリとした着地ができるように練習を積む必要がありますが、全体的に見ればMPGの方が着陸のプレッシャーは少ないです。




 ...ウム、利点を見る限りMPGは申しぶんないですね。
 ではMPGの欠点に着目したPGとの違いを考えてみましょう。

 最初に使用する機材についてです。
 MPGに使うエンジンユニットの重量は、15〜25kg程度。これがけっこう重いのです。肩にズッシリくるこの重さを我慢しながら、離陸時には体が浮くまで平地を走る必要があります。(ただし重いのは地上にいる時だけ。チョットの我慢です。 空中に出てしまえば、パラグライダーの機体がエンジンユニットを吊り上げてくれて、パイロットはそれに座る形になるので重さを感じることはありません。)

 次にエンジンを全開にしたときの振動と騒音があります。 体のすぐ後ろにエンジンがあってプロペラをブンブン回しているわけですから、これはかなりの音量です。鉄道のガード下の騒音にも負けていません。
 この騒音の原因はエンジンの排気音と思われがちですが、実際はそのほとんどが高速回転するプロペラの風切り音によるものです。現在出回っているエンジンユニットはこのプロペラから発生する音を出来るだけ小さくするために色々な工夫(ベルトや歯車でエンジン回転を減速し、大きなプロペラをゆっくり回すことである程度騒音を小さくできる)が施されていますが、まだ完全ではありません。
 だからPGのように、「身を切る風の音を聞きながら、街の喧騒を下に静かに空を滑空...」というイメージとはほど遠くなります。人によっては耳栓が必要です。(笑)

 そしてこのエンジンユニットの価格です。メーカーや種類によって、また新品か中古かによって差はあるものの、30万〜100万円もします。ハーネスはエンジンユニットと一体なのでハーネスを別に買う必要はないものの、機体をはじめ揃えなければならない道具は基本的にPGと同じです。
 (とは言ってもPGとMPGでは機体に求められる性能が違いますので、どの機体もPGとMPG両方に使えるというわけではありません。また、ヘルメットもMPGでは防音性に優れたモノを用意した方が無難です。 しかし選択の仕方と工夫次第で共通で使うことも可能です。このへんはスクールで相談されると良いかと思います。)
 つまりMPGはこのエンジンユニット分、お金が余分にかかることになります。ちなみに私はスクールのを格安で貸してもらってますが、すべてのスクールでそれが可能というわけではありません。MPGを続けてゆくには、やはりエンジンユニットを購入することを考慮した方がいいかなと思います。
 こういう背景から、MPGのみを楽しんでいる人はPGの人より、経済的に余裕のある層、早い話が「おじさん」が多い感じがします。


 次にフライト中の違いについて。
 手軽に上昇することと、長時間フライトすることが目的であれば、MPGは最高です。しかし、パラグライダーの楽しみはそれだけではありません。 好みの問題ですが、私はパラグライダーの醍醐味は 「上昇気流を捕まえ、動力を持たない滑空機を操って上昇すること」 にあると考えています。 風の動きを感じながら、バリオメーターの奏でる上昇音をBGMに懸命に操縦して上昇気流に乗る、これがパラグライダーの最大かつ唯一の楽しみだと考えている人にとっては、PGの方が適しているといえます。

 もちろん、MPGでは上昇気流に乗ることができないというわけではありません。空中でエンジンをカットすれば騒音も消え、PGと同じようなフライトができます。ただ、金属のフレームで出来た重いエンジンユニットを背負っている関係上、自由な体重移動が制限されるなどの微妙な違いがあります。さすがにPGと同じ感覚でフライトすることはできませんね。



 ...以上、思い付くままに違いを書いてみました。
 二輪車に喩えて言うなら、PGは自転車でMPGはバイクです。どちらが楽しいとか優れているという問題ではなく、何に楽しみを見出すかの違いですね。それぞれ他方にはない魅力があります。
 欲張りな私としては、PGとMPG両方とも楽しんでしまおうというのがお勧めです。 でも両方同時に始めるのは無理な話ですから、やっぱり最初は自分の好きな方から入るといいと思います。





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