空撮テク(7) 番外編:一脚の靴先装着



 パラグライダーで飛行中の自分自身を撮る場合、靴や膝にカメラを装着する方法は有効な手段なのですが、これにはカメラと被写体(自分)との間隔がとれないという制約があります。
 そこで対角線で100度以上の画角を持つ超広角レンズや魚眼レンズを用いる(そうでないと自分の顔のアップ写真を量産してしまうハメになる)わけなのですが、いずれにしてもカメラを出来るだけ離れた位置に置いた方がレンズ選択や構図に自由度が出そうです。

 そこで考えたのが、靴の先にさらに一脚を取り付けるという方法です。かなり離れた位置までカメラを持っていける(はず)ですので、周囲の景色も大きく撮り込めるに違いありません。
 ただし最初に書いておきますが今回の方法は携帯性や汎用性を優先させたためか、実用的にはチョット難ありです。 まあ参考程度としてお読み下さい。



 まず製作にあたり使用する一脚ですが、カメラ屋さんに売っている普通の一脚では立派すぎるし、カメラの重さを支えなくてはならないことを考えればそれほどの長さも必要ないので、数十cm程度の棒状のものであればオーケーです。
 そこで私は、よく2000円程度で安売りしている超小型の伸縮式三脚を分解して、その脚の一本を流用することにしました。これなら長さが可変なので後々の寸法調節が容易だし、可倒式にするためのヒンジ(後述)も3本の脚の連結部分を利用すればいいので面倒がありません。

 もちろん普通の一脚でもいいし、30〜50cm程度の棒状のものでカメラの重量を支えることのできる程度の強度があるものなら何でも構わないのですが、次に述べる加工がやりやすいものを選ぶのがポイントです。

雲台部アップ  さて、一脚に相当する部分は確保しました(以下これのことを「ロッド部」と呼びます)。 次はカメラを取り付ける雲台をどうするかです。
 市販の一脚を使用する場合は最初から付いているので問題ありませんが、今回のように他のものを流用した場合は、別途に雲台を取り付けなくてはなりません。

 また通常市販されている雲台は専用のネジでないと取り付けることができないのですが、ロッド部にそんなネジ加工をするのは大変です。そこでロッド部に直接取り付けられる仕組みの雲台を探す必要があります。
 今回使用したロッド部は直径13mm程度の丸パイプ状で、これに合う雲台が必要でした。


 私が見つけたのは三脚メーカー・スリック製の超小型三脚「ミニ」に付いている雲台です。丸いパイプを締め付けるようにして固定するタイプなのでロッド部への固定にぴったりです。
 購入したこの三脚から雲台部分を無理矢理取り外し、ロッド部へ取り付けます。なお、太さが合わない場合は適当なもの(硬めのものが好ましい)を巻いて調整します。

 次の問題は、このロッド部をどうやって靴に取り付けるかです。紐やガムテープ等でぐるぐる巻きにしても良いのですが、いまひとつスマートではありません。それに別の問題もあります。
 それはこの器具を靴に取り付ける関係上、テイクオフ・ランディングのために走らなくてはならないことを考えたとき、飛行中以外はカメラを外しておく必要があるということです。 そしてテイクオフ・ランディング時はカメラを外しておくだけでなく、走るのに支障がないようにこの器具を収納しておかなければなりません。それも飛行中にカメラの脱着が可能な場所に雲台が位置するように、です。

ブーツ固定部アップ
 そこで未使用時は膝などに固定しておき、空中で撮影できる段階になったらカメラを取付け、撮影に適した位置までカメラを持っていけるようにロッド部を可倒式にしておく( = 靴への取付け部分にヒンジを設ける)必要があります。

 左の写真は、今回の空撮器具の靴への取付け部分です。ベロ状に切った厚紙に2液混合型エポキシ接着剤を塗り、強度を確保してあります。
(写真ではさらにガムテープを巻いてあります。 なおエポキシ接着剤は30分以上の硬化形を使い、塗った後にドライヤーで暖めると紙に染み込みやすくなり好都合です)

 ロッド部との接合部は、もともとの超小型三脚の連結部分をそのままヒンジとして流用し、エポキシで強化した紙製ベロにネジ止め&接着しています。
ブーツに装着状態
 で、これを靴に装着した状態が右の写真です。紙製ベロを、靴のヒモと一緒に編み込んで固定する仕組みなのです。
 なんかかなり不自然というか無理矢理な方法であるような気もしますが、他に適当な方法が思い付かなかったので仕方ありません。

 なお紙製ベロの製作にあたっては、実際に自分の靴の形状に合わせながら加工すると良いでしょう。この際注意することは、足首の動きを邪魔しないように紙製ベロに自然なカーブを持たせ、なおかつある程度の柔軟性を残しておくことです。

 それと一緒に写っている黒いヒモは、ベロを靴に編み込む際に靴のどこかに縛り付けておき、万一の落下防止用として使用するためのものです。


収納状態  で、この器具の収納状態(テイクオフ・ランディング時)が左の写真です。
 ヒンジ部を上方に曲げ、ゴムひもを利用し雲台部を膝のあたりに固定しておくのです。ゴムひもはベルクロ止めにし、容易に脱着できるようにしました。(一番上の雲台部の写真参照)

 では使用方法です。
 この状態でテイクオフし、安定したフライトに入ったころを見計らってウェストバッグ等に入れておいたカメラを取り出します。そしてそれを膝のあたりにある雲台にカメラを取り付けます。
 リモコン用のケーブルや落下防止用の長めの紐は、地上であらかじめカメラにセットしておき、空中ではカメラを雲台にセットするだけにしておくのが賢明です。

 また市販のクイックシューを利用して、カメラを雲台に素早く装着できるようにするのも良いと思います。空中で行なう操縦以外の操作は簡単な方がいいですから。

 カメラのセットが終了したら、ロッド部を前方に倒します。 このとき落下防止用のヒモを持って送り出しながら、カメラの重さで勢いよく前方に倒れていかないようにします。

 すると、下の写真のような状態になるわけです。
 カメラの向く方向は地上で大まかに調整しておけば、微調整は足首をちょっと捻るだけでオッケーです。
 撮影が終われば、落下防止用の紐をたぐり寄せてカメラを膝の位置まで持ってきて、カメラを取り外し、ロッド部を膝に固定するというわけです。

 なお広角系のレンズを使用するため、ロッド部も画面内に写り込みやすくなります。それが気になる人(私もそうです)は、地上で雲台の角度を調整するとき、ファインダーを覗きながらロッドが写り込まない位置に固定しておけば良いでしょう。

使用状態


 さて、実際に使用してみた感想ですが....
 うーん、あんまし実用的じゃないかな、という感じです。
 まず一番の問題点が、撮影に伴ない空中で行う手順が他の方法に比べて多いこと。いくら風の状態が安定しているといっても、ブレークコードから手を放す時間はごく短時間にしなくてはなりません。しかしこの方法は結構手間がかかります。
 次の問題が、カメラ固定の不確実さです。いくら軽量なカメラを選んだとしても超広角レンズがその分重いですし、さらにそれがロッドの先にあるため余計に重さを感じます。だから靴紐をギュッと結びしっかり固定したつもりでも、けっこうグラグラしてしまうのです。直線飛行ではあまり問題ないのですが、ローリング等を行うと、カメラがあっち向いたりこっち向いたりするのは見ていてあまり気持ちのいいものではありません。


 ・・・・と、試験的に作ってみたこの空撮器具ですが実用性はイマイチであり、まだまだ改良の余地がありそうです。
 しかしタンデムで使用する分には、かなり使えそうな感じです。タンデムのパセンジャーであれば両手は自由なので、いくら操作に手間取ったとしても構わないわけですから。
 (1999.10)





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