マクレディー・リングを知る

 一般的にサーマルの中でより良い上昇を得るには、できるだけ速度を落として最小沈下速度付近で飛んだ方がよいし、遠くに飛ぶためには最も滑空比の良い速度(最良滑空速度)で飛ぶのが基本です。そしてシンク帯や向かい風の条件では、最良滑空速度よりさらに速く飛んだ方がよいことも、よく言われます。
 では具体的に、どの程度の速度で飛べばよいのでしょうか? これを知るためには、まず自分の機体のポーラーカーブを知る必要があります。


 パイロット証の学科試験にも出ますし、ポーラーカーブというものはご存知の方も多いと思います。横軸に対気速度、縦軸に沈下速度(沈下率)を目盛ったグラフで、ある対気速度における機体の沈下率を表した曲線のことです。
 ただし、このポーラーカーブを公開しているメーカーはあまりないようで、自分でカーブを作るにしても、静穏な大気で何度も対気速度と沈下速度を測定する必要があり、結構大変なようです。幸い、私の乗っている機体のメーカーはHPで目安ではあるもののポーラーカーブを公開していたので、これを利用してポーラーカーブの見方とフライトへの応用について、自分の勉強のためにも簡単にまとめてみたいと思います。



 まずポーラーカーブと滑空比(=揚抗比,L/D)の関係ですが、右のポーラーカーブで、例えば対地速度 40km/h(=11.1m/s)の沈下速度はおよそ 0.9m/s なので、対地速度/沈下速度で表される滑空比は 11.1/0.9=12.3 であることがわかります。この計算をポーラーカーブ全体で行えば、下の曲線(対地速度に対する滑空比)が得られます。私はメーカのHPにあったmph, ft/min表記のポーラーカーブを読み取ってエクセルに入力し、km/h, m/s単位に直してから散布図グラフでこれらの曲線を描画しました。

 両者のカーブを見ていただくと、カーブの頂点近くでは、広い速度範囲に渡って沈下率がわずかしか変化していません。通常のフライトではここを使います。そして速度を増すにつれて沈下率と滑空比(L/D)はどんどん悪化することがわかります。
 もちろん低速側でも性能は悪くなります。(ただし低速時の沈下率はL/Dほど悪化してません。だからサーマル内では低速で飛ぶのが基本なんですね!)


 次にポーラーカーブのフライトへの応用についてです。左図を見てください。
 無風・静穏な大気での最良滑空速度は、横軸の対気速度・縦軸の沈下速度とも0の点からポーラーカーブに引いた接線(グラフの黒の線)より、およそ 44km/h あたりであることがわかります。もっとも滑空比が良く、無風・静穏な大気では一番遠くまで飛んでいける速度です。

 一方、下降気流中では見かけ上、ポーラーカーブは座標軸に対して相対的に下方へ移動すると考えることができます。
 例えば、2m/s のシンク帯での最良滑空速度は、縦軸の 2m/s のところから引いた接線(グラフの赤い線)により、54km/h あたりであることがわかります。
 一般にシンク帯では速度をつけて早く抜けろと言われていますが、ではそれは何km/hかというと、この数字が目安になるわけです。速度を出すことにより沈下は増えますが、そのぶん早くシンク帯を抜けることができるので効率がいいというわけです。


 それと、シンク帯だけでなく向かい風でグライドしてる時にも、この考えは利用できます。向かい風状態では、ポーラーカーブは座標軸に対して相対的に左方に移動します。
 例えば 20km/h(=5.6m/s)の向かい風では、最良滑空速度は横軸の 20km/h のところから引いた接線(グラフの緑の線)により、48km/h あたりになります。シンク帯と同じように向かい風でも最良滑空速度より速く飛べといわれますが、これがその具体的な数字になります。速度を出すことにより沈下は増えますが、それ以上に対地速度がUPしているため、結果的に目的地まで早く、しかも高度損失も少なく飛ぶことができます。

 ちなみにこの緑の線と縦軸との交点(約0.8m/s)から、約0.8m/s のシンクにおける最良滑空速度もこれと同じであることがわかります。このようにして任意の沈下速度・向かい風の風速における最良滑空速度を求めた表(マクレディの数値図表)を作ることができます。私はこれを右図のように切りの良い数字でまとめ、ベースバーにでも貼ってグライドするときの参考にしようと思ってますが、そもそもグライドする以前にサーマルで上げ切ることができないので全然役立ってません。(^^;;

 実際には向かい風に加えて上昇・下降の成分も加わることが多いでしょうから、正確な最良滑空速度を求めることは困難になりますが、実用上はそれほど気にする必要はないようです。だいたい、元となるポーラーカーブも近似的なものだし、スピードメーターは正確かどうかわからないしで、このページで述べた数値はあくまで大まかなものでしかありません。あくまで”目安”というわけです。


マクレディー・リング

 このようにして、下降気流帯で何km/hで飛べばよいかわかるわけですが、サーマルを乗り継いで目的地までの早さを競う場合にはもう一工夫必要です。即ち、次に遭遇するであろうサーマルがより強いことが想定できるのであれば、多少高度をロスしてそのぶん後で上げなおす時間が必要になっても、(その場の沈下速度に応じた最良滑空速度よりも)速く飛ぶことによるメリットが生じます。
 このような理論から、一部のセールプレーンには「マクレディー・リング」と呼ばれる円形の計算尺のようなものが使われています。これはセールプレーンの計器盤にある円形指針式バリオメーターの周囲に取り付けられていて、マクレディの数値図表の速度が目盛られています。このリングは自由に回転できるようになっていて、次に遭遇するであろうサーマルの平均上昇率に応じて手でリングを回転させることにより、より早く飛ぶための速度を示してくれます。
 とは言っても、ハンググライダーで利用するようなローカルなソアリングでそこまで定量的な理論が有効なのか私自身がよくわからない(例えばシンク帯を通る際の速度を云々するより、シンク帯にかからない飛行ルートを考える方が大事とか)のと、そもそもクロスカントリー飛行するような技量には全然達してないので、このページではここまでの内容とします。

参考文献(セールプレーン関連)
(1)風を聴け  エアロビジョン(株)発行  丸伊 満著 (マクレディ・リングの使い方の説明あり)
(2)滑翔技術  (財)日本航空協会発行 (マクレディ・リングの作り方の説明あり)
(3)滑空工学入門 滑翔飛行の原理  デレック・ピゴット著




ページ最終更新:2011/1

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