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○8月9日(日)
 
 5時過ぎに起きる。今日は今までで一番あたたかい夜だった。ゆっくり準備し、旅の仲間に分れを告げ出発する。 
 旅の思い出を振り返りながら走る釧路までの2時間は、あっという間だった。フェリー出港まではまだ時間があるので、釧路駅前にバイクを止め和商市場へ行く。新鮮そうな魚介類が所狭しと並べられていて、活気あふれる雰囲気の中、呼びかけの威勢のいい声が響く。 
 あちこちでその誘いに捕まっている観光客の姿が見える。ご他聞に漏れず俺も売り場のおばさんに捕まって、自宅にシャケを送る展開になってしまった。送料込みで5000円くらいだった。
 
 さあ、そろそろフェリーターミナルへ行くとするか。港へと向かうこの移動は、帰るための移動である。どうしても気分が重くなってしまう。できるなら、帰りたくない。このまま、この北の大陸を旅していたい。 
 そういえば、このまま帰らずに北海道での旅を続けてしまった旅人に何人も出会った。北海道から辞表を会社に送った、なんていう猛者もいた。学生はともかく、俺のように10日程度の短い夏休みで旅をしている人よりも、会社を辞めたプータロー的生活を送っている人の方が多いように感じたほどだ。何故、務めを辞してまで旅を続けるのだろう。何が彼らをそうさせるのだろう。 
 港へと向かいながら、俺はその答えが少し分かったような気がしていた。
 
 14時、曇空の下、フェリーが出港する。汽笛が鳴るとき、いつも哀しい気分になる。俺の旅も終わった。ありがとう北海道。空は明るいながらも、曇っている。 
 台風7号が近づいているらしく、今もフォワードデッキは上下にローリングしている。さっそくビールを飲む。まだ港を出たばかりだが、すでに大きなうねり。先が思いやられる。
 
 年1回の夢を見る時は終わった。今こうしてフェリーに乗っていると感じる。北海道の素晴らしさを。 
 心から笑うことも、孤独な寂しさを味わうことも、そして外からは分からない人の温かさを感じることもできる。 
 さっき初めて会った人と腹を割った話ができる。 
 同じライダー同士なら、目が合うだけで挨拶する。 
 みんなが思い思いの方法で楽しんでいる。 
 会うライダーはみんな目が輝いていた。そして地元の人も大きな心を持っていた。もっと北海道にいたい。憧れの北海道。いつまでも自由な心を持っていたい。
 
 フェリーに乗る前に買っておいたウィスキー(180ml)をチビリとやりながら、窓越しに見える海面をぼんやりと見つめていた。 
 今フェリーはゆっくりと進んでいる。揺れているせいか、走りまわっている子供を除いてはみんな寝ているのか、比較的静かだ。ライダーとの楽しい出会いは今のところない。 
 ウィスキーでフラフラになっている俺に、フェリーの揺れなど関係ない。心地よいだけだ。眠いので一眠りするか... 
 今回は8泊すべてキャンプだったので疲れがたまっているだろう。良く寝れそうだ。
 
  [本日走行:106km, 消費ビール:1L]
 
 
 
  
○8月10日(火)
 
 7時ごろ起きる。どうやら昨日は16時頃には寝てしまったらしい。よく寝たなあ。外は曇りだが相変わらずうねりが高い。腕時計に内蔵されている気圧計は、釧路出港時から一直線に気圧降下のグラフを描いている。 
 とりあえず洗面して、釧路で仕入れておいたパンとコーヒー牛乳を食べた後、つい缶ビールを買ってしまった。朝からビールなんて、なんというダラクであろうか。(でも少々控えめに350mlにしといた。)
 
 とうとう明日からは仕事だ。自由な旅に慣れてしまった俺には、サラリーマンへの復帰は厳しそう。行きのフェリーでの自分の姿とオーバーラップさせてしまう。
 
 夕方18時、俺を乗せたフェリー「サブリナ」は東京湾に入った。この先、金を使う予定はないので、余った金で船内のレストラン「ラヴィアンローズ」にてリッチなディナーにする。
 
 19時には横浜沖に達しているという船内放送があった。 
 外には霧が。北海道よりだいぶ湿度が高い。いよいよ俺の旅も終りだ。 
 楽しかった。また来年も行こう。北海道へ!! 
 愛車セローも良く走ってくれた。林道、そして美幌峠での全開走行…。今回も無事故 無違反 無転倒で旅をすることができた。 
 東京からは高速使わずに一般道で帰ろう。ゆっくりと。
  
  [本日走行:47km, 消費ビール:0.35L]
 
  
 
1993 8/10北海道旅行終了! 
 全走行2634km!!!
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