思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2016年第4期
12月21日 sincerely yours SSS「柚子湯」 12月6日 sincerely yours SSS「平常運転」 11月23日 sincerely yours SSS「夫婦の時間」 11月6日 sincerely yours SSS「永遠の……」 11月3日 sincerely yours SSS「ばかに見えない服」 10月7日 sincerely yours SSS「こんなこともあろうかと」
12月21日 ・sincerely yours short story「柚子湯」 「なんでこーなったんだろう……」 「リリアちゃん、それはね、私が一緒に柚子湯に入りたかったからよ?」 「確かにそれが理由なんだよね……」  それは夕食の時の話だった。 「ねぇ、リリアちゃん。今日は冬至なのよ」 「あ、だからカボチャの煮付けがあったんだね」 「そうそう♪、冬至の日はかぼちゃの料理と柚子湯よね、だから」 「あ、そうだ、わたしちょっと用事を思い出し……」  嫌な予感がしたので逃げようとしたわたしの目の前でお母さんが取り出した物は 「リリアちゃん、これな〜んだ?」 「……お母さんのお願いを聞く券、です」 「使っちゃってもいいかな?」 「……」 「ねぇ、リリアちゃん、私ね、リリアちゃんと一緒に柚子湯入りたいなぁ?」 「……わかった、わたしの負け」 「やった♪」 「最近のお母さんはあの券で脅迫してくるからたちが悪いよね」 「あら、脅迫なんてしてないわよ? 単に、あの券を使うときはぜーったい叶わないような  願いを叶えるために使おうかなって思ってるだけだもん」 「……ちなみに今回、もしこの券を使うとしたらどんな願いを言うつもりだったの?」 「そうね〜、家族みんなで裸のつきあいを願っちゃったかもね♪」 「……はぁ」  お風呂に一緒に入ると言う条件をのむ条件としてバスタオル着用を認めさせて正解だったのかな?  それとも裸のつきあいをして券を消費させちゃった方が正解だったのかな?  でもそうなるとお父さんの前で裸に…… 「それはだめっ!」 「突然どうしたの、リリアちゃん?」 「……なんでもない」  広い湯船の端で自己嫌悪に陥る。 「ふふっ、リリアちゃんったら恥ずかしがり屋さんなんだから」 「もうどうでもいい」  そう言いながらわたしは浮いてる柚子を指でつついた。 「気持ちいいわね〜、そう思わない、達哉?」 「お湯は気持ち良いけどな……」  そう、湯船にはお父さんも一緒に入っている。  でも黒い目元をすべて覆うサングラスをかけて、なおかつわたし達に背を向けて入っている。  わたしより先にお風呂場に来て湯船に入ってずっと背中を向けてくれている。  やっぱりお父さんは紳士だなぁ、お母さんと違って。 「リリアちゃん、今何か不穏なこと考えてなかった?」 「不穏な事って?」 「そうねぇ、たとえば達哉の背中をお胸を使って流して上げるとか?」 「そんなこと考える訳ないでしょうっ!!」 「そう? 私だったらして上げても良いと思うわよ?」 「そりゃお母さんとお父さんは夫婦なんだし……」 「別に親子でも良いと思わない?」 「お・も・い・ま・せ・んっ!!」 「もう、リリアちゃんったら恥ずかしがり屋さんなんだから♪」 「……わたし、そろそろ出るね」  返事を聞かずに立ち上がる。 「ねぇ、達哉。お湯で濡れて身体のラインを浮かび上がらせるバスタオル姿って萌えるわよね」 「お母さん、ふざけたこと言わないの、それにお父さんは何も見えないんだから」 「ねぇ、リリアちゃん。達哉がかけてるサングラスなんだけどね、車の後部座席の窓と同じ仕組みなの」 「どういう意味?」 「外からは中は見えないけど、中からは外が見えるの、ねぇ達哉♪」 「……っ!!」  それが意味することは、お父さんの視界は全く遮られてない? 「お父さんのえっち!!」  わたしは身体を手で隠しながらお風呂場から出て行くことしか出来なかった。  ・  ・  ・ 「達哉、リリアちゃん上がっちゃったわよ?」 「そうか……」  達哉はため息をつくとサングラスを外した。 「やん、達哉のえっち♪」 「嬉しそうに言われてもなぁ……」 「だって嬉しいんだもん」  そう言いながら私は浴槽に腰掛ける。 「ねぇ、お湯で濡れたバスタオル姿ってどう?」 「色っぽいな」 「萌える?」 「あんまり誘惑しないでくれよ、ブレーキがきかなくなるぞ?」 「私達の間にブレーキなんて必要あるの?」 「無いけど、せめてリリアの前ではブレーキをかけてくれ」 「はぁい♪」  今日も楽しいお風呂タイムでした♪
12月6日 ・sincerely yours short story「平常運転」 「最近お父さんの帰り遅いね」 「そうね、もう年末だし大変なんでしょうね」  家族を大事にするお父さんだけど、仕事の都合で帰ってくるのが遅い日があるのは  仕方が無いけど、ここ数日はいつも夜遅く帰ってくる。 「泊まった方が身体が楽なのにね、朝くらいは一緒に過ごしたいって言って必ず帰ってくるのよね」  研究室には宿泊施設もある、そこを使えば少なくとも行き帰りの時間の節約は出来るのに。 「お父さんったら……」 「達哉だもんね」 「……今度のお休みの日にでも、肩を揉んであげようかな」  デスクワークばかりじゃ無いけど、きっと肩こりも酷いんだろうな。 「……リリアちゃん!」 「なに、お母さん、って!?」  いきなり背後からお母さんに抱きつかれた。 「リリアちゃん、優しい娘っ!」 「えっと、お母さん?」 「こんなに優しい娘に育ってくれて、お母さん感激よ!」 「そ、そうなのかな?」  お母さんにそう言われて、なんだか恥ずかしくなってきた。 「だからね、リリアちゃん」 「ん? ひゃんっ!」  突然お母さんが抱きついてた手を動かし始めた。 「リリアちゃんが達哉の肩を揉んで上げるのなら、お母さんはリリアちゃんのお胸を揉んであげるね」 「やっ、どうしてそうなるの!?」 「だって、揉んであげれば育つっていうじゃない?」 「だからどうしてそう言う話になるの、やんっ、くすぐったいからやめて!」 「良いではないか良いではないか♪」 「だから、止めてって、言ってるでしょ!!」  お母さんを引きはがすのにデバイスの力を借りての応酬となった。 「はぁはぁ……」 「や、やるわね、リリアちゃん……きょ、今日はこれくらいにしておいて、あげるわ」 「も、もう、今日はじゃなくて……明日からもしなくていいから、ね!」 「……そうだ! リリアちゃん!」 「却下」 「えー、私何も言ってないのに」 「どうせろくな事じゃないんでしょう?」 「そんなこと無いわよ? きっと達哉も喜ぶわ」 「お父さんが?」  なんだろう、聞いてみた方がいいのかな? 「達哉の肩を揉むだけじゃなくって、お風呂で背中を流して上げたらどうかしら?」 「えっ!?」 「ほら、旅行の時みたいにね?」 「や、いやだよ、恥ずかしいもん」 「やっぱりそうよね……」  あっさり引き下がったお母さん。 「リリアちゃんくらいのお胸だと、背中を流せないもんね」 「お・か・あ・さ・ん!」 「やん、そんなに怖い顔しないで♪」  師走とか関係無く、お母さんはお母さんだった……
11月23日 ・sincerely yours short story「夫婦の時間」 「それじゃぁ、失礼しまーす」  後ろ向きにバスタブに座ってから両足ごとお湯の中に入ってから身体を沈める。  そしてそのまま達哉の胸に背中を預ける。 「んー、気持ちいい♪」 「……」 「あら、達哉は気持ちよくないのかしら?」 「……そんなわけ無いだろう?」 「ふふっ、そうよね。だって、ねぇ?」  私はそっとお尻を揺らす、それだけで固い物を感じる事ができる。 「襲っちゃっても良いのよ?」 「いくら俺でも、空気くらい読むさ」 「でも、読んでないところもあるのよね?」 「……そりゃぁ、な。でも」  そう言うと達哉はそっと私を抱きしめてくれる。 「今はこれでいいんだろう?」 「正解♪」  二人で入るお風呂、こうして抱きしめられるとすごく安心する。  独りぼっちじゃ無いんだなって、身体でも心でも実感できる。 「こんなに気持ちいいのに、リリアちゃんは恥ずかしがって一緒に入ってくれないのよね」 「年頃の娘が、父親と一緒にお風呂ってのはあり得ないだろう?」 「そうかしら? リリアちゃん、あれだけお父さんのこと大好きってオーラ出してるのにね。  隠そうとして隠せてないところが可愛いのよね」 「そうか?」 「達哉ったら鈍感なの?」 「そうでもない……とは言い切れないか。でも父親としては尊敬されてる……だろうか?」  自信なさそうに声が小さくなっていく。  達哉は父親とは幼い頃に別離してるから、父親像っていう物が欠けているって言ってた。  それを埋めるように良い父親であろうと努力してるけど、自信が持てないみたい。 「父親としては、どうなのかしらね? でも、間違いなく異性としては見ているわよ」 「そりゃ当たり前だろう、リリアは女の子で俺は男なのだから」  その答えが鈍感だって、独白してることに達哉は気づいているのかな? 「いっそのことリリアちゃんもえっちの時に混ぜちゃおうか?」 「シンシア、流石にそれは倫理的に駄目だろう」 「んー、倫理っていっても私達は倫理の外から来た存在だから、関係無いと思うわよ?」 「それでも駄目だよ、リリアだってそんなの望む訳無い」 「そうかしら?」  駄目とかなんだかんだ言っても、結局流されて受け入れちゃいそうな気がするのよね。  私の娘だし、私と趣味とか似てるし。 「それにさ、シンシア」 「ん?」 「俺が愛せる”女”はシンシアだけだから」 「っ!!」  その一言に、胸を貫かれたような衝撃を受けた。  その衝撃は一瞬で収まり、そして愛おしさが身体中を駆け巡る。 「……もぅ、達哉ったら殺し文句はベットの中でしてよね?」  身体中を駆け巡った衝撃は、胸とお腹の中に疼きを残す。 「ねぇ、このまましちゃおっか?」 「駄目」 「えー」 「お湯の中は以外に細菌多いから駄目だ」 「そうだけど……じゃぁ洗い場の方で」 「風邪をひくから駄目」 「ぶー、けちー。こんなにやる気でいるのに−」 「だったら風呂上がってからにしよう。シンシアもベットの中の方が良いって言ってたしな」 「……部屋までお姫様抱っこで連れて行ってくれる?」 「仰せのままに」
11月6日 ・sincerely yours short story「永遠の……」  なんとなく部屋に戻る気もしなかったわたしはリビングでお茶を飲みながら雑誌を  読んでいた。 「ふーん、今はこういうのが流行してるのかぁ」  その雑誌の記事は最先端のヘッドフォン、じゃなかった。イヤホンの記事が紹介  されていて、学生の二人がイヤホンをしている写真が掲載されていた。 「あら、何読んでるの?」 「机の上にあった雑誌」  お母さんがお茶を持ってやってきたので、その雑誌を見せてみた。 「あら、これは……」 「ん? どうしたの? イヤホンの事気になるの?」 「ふふっ、ねぇリリアちゃん」  お母さんは意味ありそうな笑いをしながら、その雑誌の記事を見せてくる。 「この写真の二人ってどういう関係だと思う?」 「え? 関係って……」  わたしは改めて写真を見てみる。  顔立ちが似てるかな、髪型がそっくりだからそう見えるのかな?  多分、親族だとは思う。 「そうだね、歳の離れた姉妹か従姉妹、かな?」  それがしっくりする答えだと思う。 「残念、実は親子よ」 「……え?」  おや……こ?  わたしは改めて写真を見る。  確かに写真の右側の人は左側の人から見れば年上には見える。  けど、左の人を産んだ母親には絶対に見えない。 「冗談?」 「ううん、本当の事よ」 「……」  世の中不思議なことがあるのはわかってるつもりだったけど、こうして現実に見てみると  本当に不思議だと思う。 「ちなみにね、母親さんの方はね、私と一緒で永遠の……」 「危険な発言はやめて!?」 「えー、いいじゃない。だって、本人もそう言ってるんだし」 「その本人さんは別にいいの、だからってお母さんまでそう名乗る事ないでしょう?」 「だって、私も心はいつも……」 「だから危険な発言はしないで!」 「ちなみにね、この左の娘さん、もう18才なのよね〜、なのに母親はまだ1……」 「もういいから!」  お願いだからどこからか刺客が送られてきそうな発言は止めて欲しいっていうか、なんで  休みの昼下がりにこんなに疲れないといけないんだろうか? そう思ってから。 「……お母さんだもんね」  自分で言うのも何だけど、それで納得出来ることに問題があるような気がした。
11月3日 ・sincerely yours short story「ばかに見えない服」 「なんだか暇ねぇ」  お昼ご飯を食べた後、お母さんがそうつぶやいた。 「祝日なんだし、いいんじゃない?」 「そうね、でもせっかくの祝日、それも文化の日よね、だからっ!」  そう言うとお母さんはどこからともなく何かを出す仕草をした。 「はだかの王さまにちなんで馬鹿に見えない服を作ってみました」 「……」 「あれ? リリアちゃん、反応薄いわよ?」  文化の日にはだかの王さまっていきなり言われても、ね。  それにこれ以上関わると嫌な予感しかしない。 「……わたし、馬鹿でいいから部屋に戻るね」 「ちょっとまってよ、リリアちゃん。これちゃんとした服なんだから!」  そう言うと何かを持ってくる仕草のお母さんは、わたしの肩にその何かをかける仕草をした。 「……え!?」  何も見えないのに、肩に上着を羽織ったような重みがある。  わたしはそれに触れてみる。 「触れる? ……っていうか、これは圧縮空気?」 「ご名答、さすがリリアちゃんね♪」  まさか、と思いつつも肩にかけられたそれを手に取ってみる。  確かに上着の形に圧縮された空気の塊がある、それもダウンジャケットみたいに厚みのあるものだ。 「空気をかる〜く圧縮して、それを連結させたの、だから動きも妨げないわよ?」 「……なんて才能の無駄遣いを」 「そんな、褒められちゃうと照れちゃうわ」 「褒めてないんだけど……」 「ふふ♪」 「それで、お母さんはこの服は見えるの?」  なんとなく気になったので聞いてみた。 「ううん、見えないわよ?」 「……え?」 「だって、空気の塊ですもの、色でも付けないと見えないじゃない」 「えっと、それじゃぁ、この馬鹿には見えない服は?」 「そうよ、私も馬鹿で良いの。だってね……」  お母さんはそこでもの凄く良い笑顔になった。嫌な予感がする。 「服が見えちゃったら、リリアちゃんの可愛いお胸が見えなくなっちゃうでしょ?」 「どうしてそうなるのよ!?」  嫌な予感が当たった。 「それに、これダウンみたいなものでしょ? 下着の上から着る服じゃないじゃない!」 「……しまったっ!」  わたしのつっこみにお母さんはその場で膝をついた。 「うぅ、まだ空気圧縮はあまり薄くは出来ないよ……しくしく」 「それ出来たら怖いから止めてよね」  薄い布地クラスの空気圧縮が出来たら、技術的にも問題あるし、それ以前にお母さんなら  絶対見えない下着とか作りそうで怖い。 「でも私負けないっ! もっと薄い断層を作れるように研究するわ!」 「だから、止めてっていってるでしょ?」  お母さんは今日も全力で、いつものお母さんだった……
10月7日 ・sincerely yours short story「こんなこともあろうかと」 「シンシア、珈琲いれてもらっていいか?」 「ちょっと待っててね」  お父さんはため息をつくと、そのままソファに座った。 「お父さん、どうしたの?」 「あぁ、ちょっとな。今の研究の論文が上手く書けないんだよ」 「大変ね、はい」 「ありがとう」  お母さんから珈琲を受け取ったお父さんはすぐに飲み干してしまった。 「達哉、今回の論文はそう難しくないと思ったんだけど」 「あぁ、テーマ自体は難しくないんだよ、たださ……俺も多少なりに先を知っているだろう?  その先の知識が邪魔しちゃってるんだよ」  お父さんの言葉にわたしは納得した。  先の、未来の技術を知っているわたしやお母さんと一緒に生活してると、今の技術のレベルを  勘違いしてしまう事がある。  朝霧家で普通に使用してる空間ホロウインドウなんて、この時代ではまだ限定された場所でしか  展開できない技術だし、お母さんがたまに意味も無く作るシステムも数世代以上先の物。 「論文を今の一般技術レベルで抑えて書くのがこんなに難しくなるとはな」 「ごめんなさい、達哉。私のせいで」 「それは違うよ、シンシア。俺が未熟なだけだ」 「でも、論文は書かないといけないのよね」 「まだ時間はあるさ、とりあえず書いてみて後で添削する方法で何とかするよ」  そう言って立ち上がったお父さんは部屋へと戻ろうとする。 「ねぇ、達哉。良いアイデアがあるの」 「良いアイデア?」 「うん、カンヅメになってみない?」 「……お母さん、頭大丈夫?」 「リリアちゃん、すぐにその切り返しは酷いっ!!」 「だって、ねぇ、お父さん」 「……とりあえず、説明を頼む」  慣れたものか、お父さんはあまりお母さんの発言に動揺はしてなかった。 「カンヅメってね、締め切り間際の作家さんに良くする手段なのよ。  旅館やホテルに行って雑念の無い状態になるように軟禁して執筆させる方法なの」 「お母さん、軟禁って犯罪じゃないの?」 「締め切りまでに書けない作家さんが悪いから問題ないわよ?」 「……百歩譲ってそうだとして、お父さんをカンヅメにする必要あるの?」 「多分無いと思う」 「言ってることを自分で否定してるし……」 「リリア、そういうときは必要あるのかと聞くんじゃ無いんだよ」 「お父さん?」 「なぁ、シンシア」 「な、なぁに?」 「本音は?」 「……温泉行きたいなぁ、って」 「……お母さん」 「だってぇ、最近温泉行ってないじゃない。達哉も気分転換になるし私たちは温泉に入れるし  一石二鳥じゃない?」  額に大きな汗をかきながら力説するお母さんだけど…… 「ま、いつものことだよね、お父さん」 「そうだな」 「二人とも酷いっ!」 「でも、その案も悪くないかもな」 「え、お父さん?」 「今度の連休ならスケジュールは空いてるな、でもそれだと日程が近すぎるか?」 「大丈夫、こんなこともあろうかと!! アクセス!」  お母さんは空間ホロウインドウを展開させた。 「宿の公式サイトにアクセスし、キャンセルがあったらすぐに予約を入れるプログラムを開発しておいたのよ!」 「……なんていうか、才能の無駄遣いっていうか」 「でも需要はありそうだな、そのシステム」 「そうでしょ? でも公開はしないわよ? これは私専用なんだから♪」  そう言いながらもお母さんは手元を動かし、システムを起動させた。 「よし、これでキャンセルがあったら即部屋を確保できるわ、これで私達の勝利ね!」 「そうそう都合良くキャンセルなんてあるのかな?」 「流石にそう美味いお話なんて無いわよ、だからこのシステムで複数の宿を同時に監視してるのよ」 「無駄にスペック高いね、そのプログラム」 「私の力作よ♪」 「宿のことはシンシアに任せるよ、とりあえずはもう少し論文を頑張ってみるよ」 「カンヅメになりに行けば何とかなるわよ?」 「そうかもしれないけどさ、家族旅行に仕事は持ち込みたくないしな」  そう言うとお父さんは部屋へと戻っていった。 「達哉、格好良い……さっすが私の旦那様♪」 「……」 「あら、リリアちゃんも惚れちゃった?」 「なっ!?」 「でも駄目よ、達哉は私の旦那様なんだから、ね?」 「……わたしも部屋に戻る」 「おやすみなさい、リリアちゃん」 「おやすみ、お母さん」  お父さんがお母さんの旦那様だってことくらいわかってるしそんな感情は無いけど。 「やっぱりお父さんは格好良いなぁ」  そう思った夜だった。
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