思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2016年第1期
3月15日 大図書館の羊飼い sideshortstory「化かし合い」 2月29日 千の刃濤、桃花染の皇姫 SSS”1日遅れの誕生会” 2月23日 sincerely yours short story「乾杯」 2月12日 sincerely yours short story「ちょうど良いサイズ」 2月10日 夜明け前より瑠璃色な SSS”二人の私” 2月6日 穢翼のユースティア SSS”意地悪” 2月4日 大図書館の羊飼い sideshortstory「節分アフターディ」 1月31日 夜明け前より瑠璃色な MoonlightCradle sideshortstory「ずるい人」 1月29日 sincerely yours short story「肩こり」 1月23日 大図書館の羊飼い SSS”得点” 1月22日 sincerely yours short story「副題」
3月15日 ・大図書館の羊飼い sideshortstory「化かし合い」  放課後の図書部の部室。  部員はそれぞれ受けた依頼の為に出払っている。  残ってる俺と千莉は今日は依頼の予定が無いが、何かあったときの為の留守番になっている。 「……」  俺はいつもの通り読書。  千莉はというと…… 「んー」  クロスワードパズルに熱中していた。  静かな部室、時折俺がページをめくる音、千莉がパズルに時を書き込む音がするだけだった。 「あの、京太郎さん?」 「なんだ? 何かわからない問題でもあったか?」 「いえ、それは大丈夫です……それよりも暇ですね」 「そうか? 留守番も大事な仕事だぞ?」  俺は本のページをめくりながらそう答えた。 「それはそうですけど……暇なのは私と京太郎さんですよね?」 「そうだな」 「……二人だけですね、暇なの」 「その通りだな」 「……はぁ」  千莉がため息をついたようだ。 「二人っきりなんですよ?」 「あぁ」 「密室ですよ?」 「殺人事件でも起きそうだな」 「その場合は殺されるのは京太郎さんですよね?」 「まぁ、起きたのならな……」  なんだかきな臭い話しになってきたな。  俺は本から顔を上げた。 「っ!」  すぐに本に視線を戻した。  一瞬だったが、千莉の姿が俺の目に焼き付いていた。  千莉は、椅子の上に膝を抱えて座っていたのだ。  持ち上げられた、黒いストッキングに包まれた脚、見え隠れする太ももの裏側。  脚の付け根に見えたような気がする、白い色。  そして、千莉は小悪魔なような笑顔を浮かべていた。 「何か見えましたか?」 「……見せつけられてると思わせる箇所がな」 「別に見せつけてなんていませんよ?」 「ならどうしてそう言う座り方をするんだ?」 「楽ですから」 「そうなのか?」 「嘘です」 「おい!」  思わず顔を上げてツッコミを入れる、その瞬間同じ光景が目に飛び込んでくる。 「と、とりあえず普通に座った方が良いぞ?」 「大丈夫です、チラ見とか凝視さえされなければ」 「そ、そうか……」  お互いけん制するようなやりとりが一段落する。 「そういえば、こんな事前にもあったな」 「そうですね」 「あのときは桜庭が来て酷い目にあったな」 「そうですか? 私は特に何もありませんでしたが」 「千莉は確信犯だったしな」 「事実しか言ってないと思いますけど」  本に視線を落としたまま、あのときと同じ周辺視野で千莉の顔を見てみる。  はっきりとは視認できないが、良い笑顔を浮かべてるような気がする。 「ふぅ」 「あ……」  俺は千莉の方を見ないように立ち上がって出口への扉に向かう。 「あ、あの、京太郎さん」  慌てた声を出す千莉、俺は何も言わずに扉の前に立つ、そして。  ガチャ、という音がする。 「え?」  俺が扉を開ける音ではなく、鍵をかける音だ。 「すまない、千莉」 「京太郎さん?」 「そんなに誘ってくれてたのに、気づかなかっただなんて、本当に悪かった」 「……え?」  俺の言葉の意味が解らなかい顔をしてたが、すぐにその意味がわかったようだ。  顔が赤くなる。 「別に誘ってなんていないです!」 「そうか? だって千莉はそういうの好きだろう?」 「違います! そりゃ嫌いじゃないですけど……」  千莉はさらに顔を赤くする。 「そうだよな、以前は奥の林だったり、砂浜だったり、結構アウトドアな所もあるよな」 「そ、それは京太郎さんが求めて来たから……」 「でも、図書部の部室じゃまだ、だったよな」 「あ、あの……京太郎さん? 本気、ですか?」 「そりゃあれだけアピールされたらするしかないよな」  そう言って千莉に近づく。  千莉が立ち上がる、慌てたせいか椅子が倒れた。 「あの、誰か来ちゃいますよ?」 「鍵はかけた」 「で、でも……」 「なに、見られても大丈夫だろう」 「私、そんな趣味はありません!!」 「そうか? ただのマッサージだろう? 見られると恥ずかしいのか?」  ここで誤解させてた答えの正解を伝える。 「……はい?」  鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする千莉。 「脚が凝ってるんだろう? だから体育座りをしてたんだろう?」 「……」 「まぁ、誤解されるのも嫌だから鍵はかけたわけだが……」  うつむいてる千莉の肩が震えてる。少しやり過ぎただろうか? 「ふふ、ふふふっ」 「せ、千莉?」  突然笑い出した千莉だが、もの凄く不気味な笑いだった。 「ねぇ、京太郎さん。密室で起きることの話し、さっきしましたよね?」 「あ、あぁ……殺人とか?」 「はい」  千莉が笑顔で答える、その笑顔がとてつもなく怖い。 「京太郎さん、知ってます? 人を殺す方法は殺人だけじゃないんですよ?」 「それって……」 「そうですね、社会的に抹殺なんて、どうですか? たとえば私が悲鳴を上げるとか」 「それはシャレになってないぞ?」 「さっきまでの京太郎さんもシャレになってなかったです……私、本気にしちゃったじゃないですか」 「悪い、からかいすぎた、本当にごめん」 「……」  千莉の機嫌を損ねてしまった。 「どうすれば許してくれる?」 「そう、ですね……その気にさせた私を満足させてくれますか?」
2月29日 ・千の刃濤、桃花染の皇姫 SSS”1日遅れの誕生会” 「宮国、行くのか?」 「えぇ、宗仁くん。付き合ってくれるんでしょう?」  これはいつものポーズ。  こうしないといけない理由があるから。 「はぁ……稲生も付き合ってくれないか?」 「すまないな、今日はバイトがあるんだ」 「そうか……それじゃぁ仕方が無いな」 「なによ、私と付き合うのってそんなに仕方が無い事なのかしら?」  そう、これはそうしなくちゃいけないからなんだけど……なんだか納得がいかない。 「いえいえ、お供しますよ」 「それじゃぁよろしくね、私のストレス発散の為に、ね」  こうして学院が終わった後、私と宗仁は一緒に出かける事になる。  行き先はいきつけのカラオケボックス、個人で歌を歌えるスタジオみたいな場所だ。  狭い部屋に二人きりで入る、店員に飲み物を注文してから世間話を始めて時間をつぶす。  すぐに店員が用意した飲み物を持ってきた。  それをテーブルにおいてから、今日の本来の会話を始める。 「それで宗仁、何か進展があったのかしら?」  さっきまでとは違う彼の呼び方、今この場での私はクラスメイトの宮国朱璃ではなく。 「はっ、定例報告以降で変わった事はございません、姫」  私は滅ぼされた皇国の姫となる。 「そう……」  あれから3年、彼のおかげで生きて逃げおおせた私だったが、その代償は大きかった。  私は、家族である皇族を全員殺されてしまって天涯孤独の身。  彼は、私を逃がす撤退戦での傷が元で彼は過去の記憶を失ってしまっていた。 「仕方が無いわね、こうして今を生きていられるだけでも奇跡なような物ですしね」 「はっ」  姫と武人の立場は外では絶対に見せられない。  学院にはオルブライト共和国の総統の娘もいる。  本当なら情報があつまりやすい睦美さんのお店「美よし」で話しが出来れば一番良いのだけど  あそこは小料理屋、学院生の私達が簡単に入れる敷居ではない。 「姫?」 「え? なに、宗仁くん」  言葉に出して、しまったと思う。彼をそう呼ぶときの私は姫では無く同級生の朱璃の時だけなのだが  最近そちらの関係でいることが多いから、思わずそう呼んでしまった。 「……もう今日はいいかな、宮国」 「そうね、特に進退がないのであればいいかしらね」 「では宮国、一つ別口で入った情報がある」 「え?」  私の驚きは二つ、定例報告でない情報と、私の呼び方。  つまりこれは……関係無い話し、ということかしら? 「これを宮国の為に準備したんだ」  ここに来るときまで何も持ってなかったはずなのに、少し大きな箱を取り出した。 「開けても良いのかしら?」 「はい」  私はそっとその箱をあける。 「あ……」  そこにはケーキが入っていた。 「誕生日おめでとう、宮国」 「……」 「宮国?」 「……ぷっ、あははっ」  私は思いっきり笑ってしまった。 「あの、宮国さん?」  その様子を少し慌てた表情で見る宗仁くん。 「宗仁くん、私の誕生日は昨日よ?」 「……え?」 「どこから得た情報かわからないけど……あははっ!」  気がつくと私の周りを桃の花びらが舞っていた。  普段ならそれは私の呪いを自覚させられる光景だけど、今日ばかりは違って見えた。 「その、申し訳ありま……いや、すまないな、宮国」  武人としての謝罪ではなく、クラスメイトとしての謝罪。  それがなんだかおかしくて、嬉しくて。 「良いのよ、どうせ昨日は何もしてなかったんだし、1日遅れでの嬉しいわ。ありがとう、宗仁くん」 「……」  私の言葉に彼は困ったような、照れたような、そんな顔をしていたのがおかしくて。 「ふふっ、あははっ!」  おもいっきり笑ってしまった、その笑いが彼を困らせる事になるのはわかってたけど。  こんなに笑ったのは久しぶりだった。  それだけでも、1日遅れの誕生日は、とても嬉しかった。
2月23日 ・sincerely yours short story「乾杯」 「ただいまー」  家族みんなで左門さんのお店から帰ってきた。 「美味しかったね〜」 「悪くない」  上機嫌のリリアちゃんと、一緒に帰ってきたリースちゃん。 「リースは今日は泊まっていくんだろう?」 「うん」  達哉に素直に返事するリースちゃん、きっとお姉ちゃんの為なんだろうな。 「じゃぁリースお姉ちゃん、一緒にお風呂入ろう?」 「ん」 「こんなこともあろうかと!  お風呂は遠隔操作で沸かしてあるからすぐに入っちゃっても大丈夫よ」 「ありがと、お母さん。リースお姉ちゃん、行こう!」 「……スルーされちゃった、しくしく」 「たまに思うんだが、シアよ。おまえはどこでどうしたらこうなったんだ?」  突然横から声がした、誰も居なかったはずのその場所にお姉ちゃんが立っていた。 「んー、専業主婦って結構時間あるものなのよね、リリアちゃんが学園に通うようになると  ほんと、暇な時間も増えたから、その頃じゃないかしらね」 「……そうか、今更だったな」  そう言ってため息をつくお姉ちゃん。 「なんか酷い言い方されてるような気がするんだけど?」 「ただの被害妄想だ」 「そう? なら良いわ」 「……はぁ」  ため息をつくお姉ちゃんのその姿は、本当にそこに居るかのようだった。  今現在では朝霧家の中でしか出来ない技術で、この家の敷地内に限ってお姉ちゃんは  リースちゃんと別に行動出来るようになっている。  今のこの身体は完全な立体映像で、触れることも出来る。  ただ、まだこの技術は不完全で、同基地内に宿主であるリースちゃんが居ないといけない。  多分リースちゃんは、お姉ちゃんの為に今日は泊まっていってくれてると思う。 「それよりも、少しみんなで飲まない?」 「構わないけどほどほどにな?」  達哉に釘をさされる。 「だいじょーぶ、私は明日予定入ってないから♪」 「シア、おまえの旦那様は仕事じゃないのか?」 「それもだいじょーぶ、私よりしっかりしてるから寝坊とか心配いらないわよ」 「……タツヤよ、駄目な妹ですまないな」 「大丈夫ですよ、フィアッカさん。もう慣れましたから」 「ちょっ!? 二人とも酷く無い?」 「ここにリアやリースが居たら同じ意見だろうな」 「俺もそう思うな」 「……むー」  言いぐさは酷いと思うけど事実なので言い返せなかった。  リビングのソファにみんなで座る。  机の上にあるのはブランデーにアイスペールとグラスは二つ。  そう思った瞬間、3つめのグラスが浮かび上がる。 「達哉はストレートにする?」 「俺は明日休みじゃないんだぞ?」  苦笑いしながら達哉は水割りを作っていく。  そしてそのグラスを私に渡してくれた。 「お姉ちゃんも水割りにするの?」 「そうだな」  浮かび上がったグラスを右手で持ち、あいてる左手で指を鳴らす。  そうすると空のグラスにブランデーの水割りが入っていた。 「簡単に準備は出来るが、情緒は無いな」 「その辺も課題かしらね、何れ完全な立体投影が出来れば人と同じ機能も  組み込めると思うんだけど……」 「構わないさ、こうして味わえるようになっただけでも進歩したのだからな」 「それじゃぁ乾杯しようか」 「何に、乾杯するのだ?」  達哉の言葉にお姉ちゃんが笑いながら問いかける。 「もちろん、リリアの誕生日を祝って」 「えぇ、それじゃぁ」 「乾杯!」  3つのグラスが触れあう乾いた音が響いた。 「ふぅ〜美味しい」 「シア、あまり飲み過ぎるなよ?」 「お姉ちゃんもだよ?」 「私は大丈夫だよ、多少は酔いを感じる事も出来るが、それだけだからな」 「そう、なら私は安心して飲めるわね♪」 「……タツヤよ、重ね重ねこんな妹で申し訳ない」 「大丈夫ですよ……多分」 「なんだかさっきより私の扱い、酷くなってない?」 「……気のせいだ」 「そう? なら別にいいかな?」 「はぁ……親が親でも子は立派に育つものなんだな」 「そうですね、俺なんか大事な時期にいられなかったから、リリアには感謝してますよ」 「感謝?」 「あぁ、ちゃんと育ってくれて、シンシアの支えになってくれたことに」 「……」  確かにリリアちゃんの存在は私にとっての支えだった。生きがいだった。  もしあのとき、私が妊娠してなかったら……  妊娠していても、ちゃんと産めなかったら……  今は無かっただろう。 「本当に立派に育ってくれて、自慢の娘よ」  そのとき脱衣所からリリアちゃんとリースちゃんが出てきた、二人ともパジャマ姿だ。  二人の姿を見て、本当にここまで育ってくれて……私の所に来てくれた事に感謝する。 「ん? お母さんどうしたの?」 「リリアちゃんも立派に育ってくれたなぁって感動してたの……」  そう言いながら、私はリリアちゃんのとある場所に視線を動かす。 「……お胸以外だけど、ね」 「ちょ、お母さん!」 「私の娘ならもっと大きくなっても良いはずなんだけどなぁ……父親の達哉の遺伝なのかしら?」 「いや、その……ごめん?」 「お父さんまで! もう、お父さんのえっち!!」  リリアちゃんの理不尽?な怒りを受けておろおろする達哉、いつの間にか冷蔵庫から牛乳を  取り出して飲んでいるリースちゃん。それを穏やかな笑顔で見ているお姉ちゃん。 「ふふっ」 「お母さん、何がおかしいの!」 「そうね……すべてが愛おしいだけ、かな」 「お母さん?」 「……なんでもないわ、ちょっと酔ってるだけよ」 「そう? あんまり飲み過ぎてお父さんやフィアッカお姉ちゃんに迷惑かけちゃだめだからね?」 「ちょ、なんで迷惑かけるのが前提になってるの!?」 「シンシア、自覚無い?」 「……ゴメンナサイ」  リースちゃんにまでツッコミをいれられた私は素直に謝ることにした。 「……ふふっ」 「お母さん、反省してる?」 「反省だけはしてるわよ?」 「だけってなによ、だけって!」 「だってぇ、リリアちゃんとみんなと居ると楽しいんですもの、少しくらい羽目を外してもいいじゃない?」 「シアよ、羽目を外すのが少しだけだってこと、あったか?」 「……細かいことは気にしちゃだめよ!」 「そうだな」 「お父さん?」  意外な場所からのフォローにリリアちゃんが驚く。 「今日はリリアの誕生日なんだし、みんなが楽しければ何も問題無いじゃないか」 「さすが達哉、良いこと言うわね、愛してる♪」 「俺もだよ、シンシア」 「……部屋が熱くなってきた」 「わたしの誕生日祝いならわたしが主賓のはずなんだけどなぁ、なんだかお母さんが主賓みたい」  呆れるリリアちゃんとリーズちゃんを見ながら、私はグラスを掲げる。 「それじゃぁ改めて、乾杯しよ?」 「え、ちょっとまって、わたしなにも持ってないよ?」 「ほら、早く」  慌ててグラスを取りに行くリリアちゃんの後ろ姿を見て思う。  産まれてきてくれてありがとう、と。 「それじゃぁ、リリアちゃんの誕生日を祝って 乾杯!」
2月12日 ・sincerely yours short story「ちょうど良いサイズ」 「ただいまー」  玄関に入って靴を脱ぐ。 「って、あれ? お母さん留守なのかな?」  いつもなら奥から返事があるのだけど、今日は返事が無い。 「まぁ、ちょうど良いかな」  わたしは買ってきた紙袋を持って2階の自分の部屋へと向かった。 「これで良しっと」  買ってきたのはチョコレートの材料、あとで溶かして使う予定なんだけど。 「お母さんの邪魔が入らないといいんだけどなぁ……」  こういうイベントが好きなお母さんは何かしらちょっかいを出してくる。 「何か作戦練った方がいいかな」  チョコを作るのは自宅では無く友達の家の方が良いかな。  そのときホロウインドウに着信があった。 「ん?」 「あら、リリアちゃん帰ってたのね、お帰りなさい」 「お母さん、家に居たの?」 「うん、ちょっとお風呂入ってたのよ、それよりも下に降りてきてもらっていい?」 「はぁい」 「お帰りなさい、リリアちゃん」 「ただいま、ってお母さん!? なんて格好のままなのよ?」  リビングにいたお母さんは、お風呂上がりのバスタオルを巻いただけの姿だった。 「だいじょうぶよ、この時間は達哉は帰ってこないし、外からは家の中が見えないのは  リリアちゃんも知ってるでしょ?」 「確かにそうだけど……」  我が家のセキュリティはこの時代からみれば最高レベルのさらに上を行っている。  盗撮や盗聴のたぐいは100%防げる所か、逆探知も簡単に可能だったりする。 「はぁ……それで、何の用?」 「お母さんね、新しいシステム開発しちゃった♪」 「……で、どういうシステム?」 「あんまり驚かないのね」 「だっていつものことじゃない」 「それもそうね、ふふ。まずはこれを見て頂戴」  そう言うと腕を水平にあげる、そして反対の手ではホロウインドウを操作している。 「さてと、これはさっき入れたお茶なんだけどね」  カップから湯気が出ているからいれたばかりなんだろう。 「これを腕にこぼしちゃいます」 「え? ちょっと待って?」 「だいじょうぶよ、ほら」  カップからこぼれた熱いお茶は間違いなくお母さんの腕の上に流れ落ちた。  そして腕を伝って床にこぼれ落ちていった。 「お母さん、大丈夫なの?」 「だいじょうぶよ」 「いや、腕じゃなくて床の方」 「あ……」  床にはこぼれたお茶が飛び散っていた。 「わたし、ぞうきん持ってくるね」 「……うん、よろしくお願いします」 「それで、腕の方はだいじょうぶなの?」  ぞうきんで床の汚れを拭き取った後にお母さんに訪ねる。 「だいじょうぶよ、触ってみて」  わたしはお茶がこぼれた腕をまず観察する、湯気が出るほど熱いお茶がこぼれた場所には  傷もシミも火傷の後も無い。 「……」  お母さんが触って良いというなら、安全なはず。  そっと触れてみる。 「……違和感がある」  肌に触れてるはずなのに、肌の暖かみを全く感じない、けど押せば肌を押す弾力はある。 「実はね、今この腕の肌の上に、1枚断層を展開してるのよ」 「……お母さん、いまさらっととんでもないこと言わなかった?」 「ちょっとした重力制御技術の応用よ♪」 「なんでも応用で作り出されると今の科学者達が混乱するから駄目って言ってるじゃない」 「まぁまぁ、別に外に出す技術じゃないし、問題ないでしょう?」 「……はぁ、本当に才能の無駄遣いなんだから。で、その断層を作ってどうするの?」 「この断層は肌に密着して展開出来るのよ、動きにも柔軟に対応できるし、実験の通り熱にも強いのよ」 「そうみたいだね」 「だからね……」  このとき、お母さんがもの凄く良い笑顔になる。  これって嫌な予感しかしないよ、ね? 「この断層をお胸で展開すれば、簡単にチョコの型どりができるのよ!」 「……」 「もうすぐバレンタインでしょう? これでリリアちゃんのお胸の形のチョコが作れるわ!」 「もうどこからツッコミを入れて良いのかわかんないけど、一つだけ言って良い?」 「良いわよ」  私は思いっきり息を吸い込んでから、お母さんに言った。 「なんでわたしの胸でチョコを作らないといけないの!」 「それにはね、ちゃんとした理由があるのよ」 「一応聞くけど」 「もちろん、最初は自分の胸で型どりするつもりだったのよ? その為にお風呂でいろいろと実験もしてみたわ」  それで今お風呂に入ってたのか。 「でもね、問題が起きたのよ」 「問題って?」 「それはね……型が大きすぎてチョコの量が増大しちゃうのよ」 「……」 「いくらなんでも食べきれない量で作るわけにはいかないでしょ? そう思ったらちょうど良いサイズが  あったなぁ、って思ったの」 「……お母さん、わたし、ここは怒ってもいい所だよね?」 「大丈夫よ、達哉ならリリアちゃんのお胸の形のチョコ、ちゃんとなめてくれるから」 「なっ! お母さんっ!? もう、知らない!!」  顔が赤くなるのがわかる、それでからかわれるのが嫌だからわたしは部屋に逃げる事にした。 「はぁ……」  全く、本当にお母さんはもう…… 「でも」  万が一、万が一だけど、お父さんがわたしのお胸の形のチョコをもらって。  それで喜んでなめてくれるのだろうか? 「って! なんでチョコをなめるのが前提になってるのよ、わたし!!」  チョコは食べるもので、まぁ、なめる場合もあるけど…… 「……とりあえずわたしのチョコをどうしようかな」  家に帰ってきたとき、どういうチョコを作ろうか考えてたはずなのだけど、さっきの  お母さんとのやりとりで全部頭の中から吹っ飛んでしまっていた。  そして何を作ろうかと考えると、すぐにお胸チョコの事を思い出してしまう。 「ほんと、お母さんの馬鹿……」 「断層があれば熱くないから、チョコをかけてから直接なめてもらうのもありかも」  夕食の後片付けの時、キッチンでのお母さんの独り言は、聞こえなかった事にした……
2月10日 ・夜明け前より瑠璃色な SSS”二人の私” 「おっまたせー」  そう言って彼女が持ってきた皿に盛られているのはマウンテンカレーだった。  それも、エビフライが添えられてる豪華版だった。  私はスプーンを持って待っていた。 「ささ、どうぞどうぞ」 「あの、”私”は食べないの?」 「もちろん食べるよ」  そう言うと彼女、もう一人の私もスプーンを手に持った。 「「いただきまーす!」」  机の上にある大きなお皿に盛られたマウンテンカレーを食べる私達。  どう考えてもおかしい光景だった。  どこかの大統領の陰謀か? とか思ったけど、どうしてそう思ったんだろう? 「ん? どしたの?」 「ううん、なんでもない。カレー美味しいと思って」 「あったりまえじゃない、この遠山さんが作ったんだから」 「私も遠山なんだけどね」 「奇遇だね」 「奇遇、なの?」  なんとなく自分一人でボケとツッコミをしてる気がした。  改めて自分を見る、私は制服姿。  そしてもう一人の私は私服姿、それ以上に髪型の違いがある。 「ね、ちょっと聞いていい?」 「いいよー」 「髪型、どうして結わえてるの?」 「それはね、ヒロインになりたかったからかな」 「ヒロインに?」 「そう、色々と思い詰めてた時期もあったけどね、心機一転したの」 「それが、ヒロインに?」 「そうだよ、私が主役の物語のヒロインに、ね」 「私が主役……」 「そうだよ、だって私の人生は私が主役じゃない」  そう言われればそうだ、自分の人生の主役は、自分自身だ。 「……あれ? なら自分の物語の場合、それって主人公じゃないの?」  その問いかけにもう一人の私はびくっと肩をふるわせた。 「あの、遠山さん?」  思わず人ごとのように問いかけてしまった。 「あはは、だってヒロインの方が可愛いじゃない?」  そう言うもう一人の私の額に大きな汗が流れてるのを私は見逃さなかった。 「それで、ヒロインになってどうしたの? 彼氏でも出来たの?」 「……」 「もしもーし?」 「……まだです」 「……大変だね」 「そうだねー、って人ごとじゃなーい!」  そう言って両手を挙げる、その仕草をみて、あぁ、やっぱり私なんだなぁって思う。 「でもでもでもでも、私は心機一転したんだから頑張ってみる!」 「そっかぁ、がんばってね、私」 「何言ってるの、私も頑張らないとだめなんだよ?」 「私は別に……」 「あのね、さっきも言ったけどさ……なんだよ?」 「そりゃそうだけど……」 「それとも私は、人の人生っていう物語の中の悲劇のヒロイン役の方が良いの?  告白した結果、相手に本当に大事な人を認識させるだけの、踏み台役でいいの?」 「それは……確かに悲劇よね」 「だったら、私も私の物語のヒロインにならなくっちゃ!」 「……そうだね、私にもヒロインになれるかな?」 「なれるよ、だって私だもの」 「そうだね、私、だもんね」 「そうそう。私はそうじゃなくっちゃ!」 「うん、そうだね」 「それじゃぁそろそろ時間かな、私も頑張るから、私も頑張りなさい!」 「うん、私もがんばってね!」  ・  ・  ・ 「……ん」  朝、ベットの上で目を覚ました私は、なんか変な夢を見たことだけは覚えてた。 「なんだろう……私が2人居たような気がする」  いや、もっといっぱい居たかもしれないけど、良く覚えてない。 「ま、夢なんてそんなもんだよね」  部屋のエアコンのスイッチを入れてから、ベットから出る。  お手伝いさんが作り置きしてくれた朝食をいつものように1人で食べてから  身だしなみを整えて、制服に着替える。 「……」  ふと、どうしてか髪を結わえて見たくなった。  試しに後ろでポニーテールにしてみる。 「……ちょっと足りないかな?」  結わえることは出来るけど、ポニーテールみたいに結わえるまでは、もうちょっと足りない。 「あと二月くらいで形にはなるかなぁ」  どうせなら進級した時に髪型を変えてみようかな、その頃には上手く結わえるだろう。 「よしっと、今日も張り切って学園に行くとしますか!」  それは、私が2年生の時の冬のお話。  そして、進級したときに私がヒロインの物語が始まる。  今ならわかる、あのとき私にくれたあの言葉。 「あのね、さっきも言ったけどさ……  自分の人生のヒロインになれるのは自分だけなんだよ?」 「そうだよね、私!」
2月6日 ・穢翼のユースティア SSS”意地悪” 「ただいま」 「カイム、お帰りなさい」  部屋に戻るとエリスは本を読んでいた。  それも仕事の時にしかしない眼鏡をかけている。 「……」 「どうしたの、カイム?」 「あ、いや、なんでもない」  眼鏡が珍しく見ていたら、なんだかエリスの瞳に吸い込まれそうになった。  なんて言えるわけがない。 「さっきから私の顔ずっと見てる」 「そ、そうか?」 「もしかして」  そう言うとエリスは目線だけこちらに向けた。 「私の眼、好き? 欲しいならあげよっか?」 「その言い方懐かしいな」 「私もそう思う」 「でも、駄目だ」 「何が駄目なの?」 「眼をやる、だなんて俺が許さない」 「カイムにあげるのに?」 「あぁ、エリスの眼は、いや、エリスのすべては俺のもの……それも違うな。  エリスは俺の女だ。だから誰にも渡さない」 「渡す相手がカイムでも?」 「あぁ、駄目だ」 「……カイムは欲張り」 「そうだな、自分でも驚いてるさ」  この俺にここまで執着心が合ったことに驚いている。  その執着した相手を、エリスを俺は抱き寄せる。 「そんな俺は嫌いか?」 「私の答えは決まってるのにその言い方はずるい」 「ずるい俺は嫌いか?」 「……カイムの馬鹿」 「そうだな、俺は馬鹿だから言葉にしてくれないとわからないな」 「カイムの意地悪」 「好きな女には意地悪したくなるものさ」 「意地悪はベットの上だけにして欲しい」 「それはすぐに意地悪して欲しいっていう事なのか?」 「……もう、本当にカイムの馬鹿」  そう言って顔を背けるエリスだった。
2月4日 ・大図書館の羊飼い sideshortstory「節分アフターディ」 「ん……おはようございます、京太郎さん」 「あ、あぁ、おはよう」 「そろそろ起きないといけない時間ですね」 「そうだな、起きるか」 「わわ、ちょっと待っててください!」 「?」 「先にシャワー浴びてきますから」  そう言うと佳奈はシーツを身にまといベットから降りる。  それと同時にパキッと乾いた音がした。 「ひゃぁっ!」 「ぐはっ!」  佳奈はそのままベットに倒れ込んできて、俺の腹の辺りに重い一撃をいれてきた。 「え、あ、京太郎さん大丈夫ですか?」 「な、なんとか……それより佳奈はだいじょぶなのか?」 「あ、はい。豆を踏んだだけですから」  順番にシャワーを浴びてから朝食の準備をするわけだが。 「……」 「あはは……見事に豆だらけですね〜」  部屋のあらゆる場所に豆が落ちていた。 「これ、どうすればいいんだよ?」 「とりあえず朝食にしませんか? 早くしないと授業に遅れちゃいますよ?」 「……そうだな」 「だから、俺は反対だったんだよ」 「何いってるんですか京太郎さん。あんなにノリノリになって豆をまいてたくせに」 「そりゃ、やられたらやり返さないとな」  そう言いながら先日の夜の事を思い出す。  ・  ・  ・ 「京太郎さん、今日は節分の日ですよ?」 「そうだな、季節の分け目だな。明日からは暦の上では春になる」 「そんなことよりも、節分っていったら豆まきですよ、豆まき」 「それは止めておく」 「どうしてですか? もう豆買っちゃいましたよ?」 「周りを見て見ろって」  俺の言葉に佳奈は周りを見回す。 「掃除はちゃんとしてますから巻いた豆は食べれますよ?」 「いや、そこじゃなくってさ。この部屋は細かい隙間多いだろう?」  自分で言うのも何だけど、棚に入りきらない本が部屋の端に積まれている。  これでも佳奈が整理してくれたおかげで居住スペースはかなり広がっているのだが、  どうしても積んである本と本の間には隙間が出来てしまう。 「そういう所に豆が入り込んだら掃除が大変だ」 「それじゃぁ買った豆はどうすれば良いんですか?」 「普通に食べればいいだろう? それよりもそろそろ夕飯の支度をしないとな」 「それは大丈夫です、恵方巻きを買ってきてありますから」 「準備いいな」 「はい、それでは夕食にしましょう」 「今年の恵方は南南東だそうです」 「ということは……こっちの方角か?」 「はい、では食べましょうか」 「そうだな」 「……」 「どうした、佳奈?」 「あ、いえ、これって結構おっきいなぁって思ったんです。私の小さな口で咥えられるかなぁって」 「……」 「あ、京太郎さん。今何を想像したんですか?」 「小さな口っていう所で佳奈の胸」 「ちょっ、どーしてそうなるんですかっ!?」 「小さなって所かな」 「確かに小さいですけど、品格ある乳ですから、何も問題ないですよ? ちゃんと挟めたじゃないですか!!」 「おい、佳奈。声が大きいって」 「はっ、これは京太郎さんの罠なんですね?」 「違うだろう? 最初に罠を仕掛けたのは佳奈だろう?」 「むむっ、こうなったら実力行使あるのみです」  そう言うと佳奈は用意してあった豆を取り出した。 「佳奈?」 「煩悩退散!!」 「わぷっ!」  佳奈は思いっきり豆を俺にぶつけてきた。 「豆まきなら鬼は外だろう?」 「いいんです、巨乳は外っ!」 「……」 「……」 「……」 「あ、あのぉ? 何か言ってくれませんか?」 「いや、俺はそんな佳奈が好きだぞ」 「うぅ……なんだか辱められた気分です」 「どうしてそうなる?」 「あー、もう、どーにでもなれっ! 鬼は外! 福は内!」 「こら、佳奈! 俺にぶつけるなって!」 「鬼は外! 福は内!」 「……かーなーすーけーっ!」  俺も豆を佳奈にまいた。 「やったな、京太郎さん!」 「佳奈こそっ!」  そうして豆まきというか、豆のぶつけあいをした節分の夜だったのだが。  夜遅くにこれ以上騒ぐわけもにいかず、掃除機もかけれない時間だったのでそのまま  ベットの上だけ豆をはたいて寝てしまったのだ。  ・  ・  ・ 「ところで京太郎さん、今日の図書部の依頼の件なんですけどね」 「俺は特に無かったはずだけど」 「はい、私は千莉と行かなくちゃいけないので、部屋のお掃除お願いしますね」 「え?」 「それじゃぁ夜ご飯の買い物は私がして帰りますので、それまでにお願いしますね♪」 「ちょっと待て!」 「まっちませーん!」  そう言って佳奈は走って逃げていってしまっった。 「……はぁ」  部屋の現状を思い出す、流石にあのままにしておく訳にはいかないな。  掃除出来る範囲で、豆の回収をしておくか。 「ただいま帰りました!」 「お帰り、佳奈」 「あ、お部屋綺麗になってますね♪」 「そりゃそうだ、なんてったって昨日の夜、鬼を祓ったんだからな。と言うわけで佳奈、出かけるぞ」 「え? 今からですか?」 「あぁ、1日遅れたけどまだ鬼を祓って無い部屋があるんだよ……弥生寮に」 「ま、まさかっ!?」 「安心しろ、豆はちゃんと回収してある、これを再利用しよう」 「ちょ、京太郎さん?」 「ちなみに明日は俺は図書部の依頼の仕事で帰りが遅くなる、確か佳奈は何も用事が無かったはずだから  掃除は大丈夫だよな、なんてったって自分の部屋なんだし」 「マジですか?」 「あぁ、マジだ」 「……」 「ほら、弥生寮に行くぞ」 「わー、ごめんなさい!!」  これだけ騒がしくしてる部屋なら、鬼はよってこないだろうなぁ、そう思った。
1月31日 ・夜明け前より瑠璃色な MoonlightCradle sideshortstory「ずるい人」 「ん……」  目が覚めて、最初に目に入るのが達哉の顔…… 「え?」  そう思い込んでた私は自室で一人で目を覚ましました。  そのまま上半身を起こした瞬間、部屋の空気が私の上半身を襲います。 「きゃっ」  何も着ていないので慌てて毛布をまといます。 「……達哉?」  昨日の夜から今日の為にって来てくれた達哉は客室で眠るはずだったのですけど、  夜遅くまで二人で楽しく話をしていて、そして日付が変わった瞬間にお祝いの言葉をくれました。 「そしてその後は……」  思い出すと自分でも顔が真っ赤になるのがわかります。  でも、同じベットで眠ったはずの達哉が居ません。 「夢、だったのかしら」  そう思ってしまいますけど、そうではない証拠が自分の身体に残っています。 「こんなに朝早くから達哉はどこに行ったのでしょう?」  まずは身支度をしないと。  達哉の居場所はすぐにわかりました。  私が身体を拭いて部屋から出た瞬間、台所の方から甘いにおいがしてきたからです。 「達哉?」 「あ、おはようございますエステルさん。先にシャワー浴びさせてもらいました」 「おはようございます、それよりも?」  台所に立つ達哉。 「はい、せっかくなので朝ご飯をプレゼントしようと思って用意してます」 「そんな」 「今日はエステルさんの誕生日なんですから、プレゼントを一つ多くしただけですから」  誕生日プレゼントは日付が変わってからすぐに頂きました。  そしてその後、一杯愛していただきました。  それだけで私は満足なのに、達哉はまだプレゼントをくれると言ってくれます。 「それよりもエステルさん」 「はい」 「シャワー、浴びてきました?」 「え? も、もしかして匂います?」 「あ、そういう意味じゃないですけど……」 「し、失礼します!」  私は台所から出てバスルームへと向かいました…… 「はい、エステルさん」  シャワーを浴びて戻ってくると、テーブルの上に朝ご飯の用意が出来ていました。 「こ、これは……」 「大丈夫ですよ、全部家から持ってきた食材ですから礼拝堂のものは使っていません」 「そう言う意味じゃなくってですね、逆にこれだけ用意するのに色々と大変だったのでは?」 「エステルさんへの誕生日プレゼントですから、受け取ってもらえませんか?」  そう言って私の目の前に出されたプレートには、ホットケーキが乗っていました。 「ホットケーキじゃなくてパンケーキですけどね」  そう言ってそのパンケーキにホイップをのせて、さらにその上からメイプルシロップを  かけてくれました、シロップがキラキラしていてとても綺麗で……美味しそうです。 「それじゃぁエステルさん、お祈りしてから食べましょうか」 「あ……はい」  主よ、一瞬ではありますが祈りを忘れた事を懺悔致します。  用意されたパンケーキを一口食べる。 「どうですか?」 「……達哉はずるいです」 「え?」 「甘くてとても美味しいです、だからずるいんです」 「えっと……?」  私の言葉に困惑する達哉の表情がおかしくて。 「ふふっ」 「え、エステルさん?」 「大丈夫ですよ、とても美味しいです。朝からこんな贅沢をして良いのか考えてしまうくらいです」 「誕生日の朝くらい良いじゃないですか、それにこれは贅沢じゃないですよ、俺からのプレゼント  なのですから受け取って、じゃない。食べてくれないと困ります」 「はい、だから達哉はずるいんですよ?」 「そうですか?」  そう、私に何度も貴方を好きにさせてしまう、本当に達哉はずるいです。  それに…… 「私が焼くホットケーキより美味しいなんて、本当にずるいです」 「エステルさん?」 「なんでもありません!」 「後片付けは俺がやっておきます」 「え、でもそれくらいは私も」 「エステルさんはそろそろ準備しないといけない時間ですから」 「あ」  壁の時計を見る、まだ余裕はあるけどそろそろ礼拝堂の準備を始めておいたほうが  良い時間かもしれない。  今日は日曜日、あと数時間もすれば居住区の皆様が礼拝にやってくる時間。  そしてその後、居住区外の皆様も、礼拝と見学にやってくる日。 「せっかくのエステルさんの誕生日なのにデート出来ないのは残念です、けど」  そう言いながら達哉は洗い物をいったん止めて私の方に向きます。 「だから今日は1日ずっと一緒に居たいんですけど、良いですか?」 「……嫌、と言うわけないじゃないですか」 「今日はずっと一緒にいましょうね、エステルさん」 「はい、よろしくお願いしま……」  私の言葉は途中でふさがれました……  こうして私の誕生日の朝は過ぎていきました。  この後、学院の皆様が集まっての誕生会というサプライズまで達哉は用意してくれていて、 「ほーーーんとうに、達哉はずるいですっ!」  ずるいけど……大好きです、達哉。
1月29日 ・sincerely yours short story「肩こり」 「ふぅ、今日も1日終わったわね〜」  夕食の後片付けを終えたお母さんがソファにぐてっと座った。 「んー、なんだか肩が重いかな、ちら」  そう言ってお母さんはわたしの方を見る。 「……」  わたしは気にせずお茶を飲む。 「んー」  お母さんは背伸びをして、首を回す。 「ちょっとだるいかなー、ちら」 「……お母さん」 「なになに、リリアちゃん」 「わたし、部屋に戻ってるね」 「えー」 「えー、じゃないの!」 「だって、私肩こってるのよ?」 「そうだよねー、無駄に重いものついてるもんね」 「無駄って言った!?」 「わたしから見ればそう見える」 「無駄じゃないもん、リリアちゃんだってお世話になったでしょ?」 「いつの話?」 「赤ちゃんの頃」 「……今はもう必要ないじゃない」 「そうでもないわよ? 旦那様にはいつまでたっても必要よ?」  旦那様って、お父さんに必要?  その意味を考えて…… 「あらあら、リリアちゃんお顔真っ赤よ?」 「なんでもないっ!」  わたしはお母さんの背後の回りこみ、肩に手を置く。 「ふふっ、ありがとう。なんだかんだいってもリリアちゃんって優しいから私は大好きよ」 「……」  赤くなった顔を見られたくないから、お母さんが振り向く前に肩を揉み始める。 「んー、気持ちいいわぁ」  こうして揉むと、思ったより固くなってるのがわかる。 「いくら私が17歳でも、重たい物つけてると若さだけじゃフォロー出来ないのよね」 「……アクセス」 「リリアちゃん?」 「……なるほど」 「何して、っ! いたたたたたたたたた!」  わたしはデータベースから引き出した肩のツボを、思いっきり押し込んだ。 「ちょ、痛いっ! リリアちゃん、ちょっと待って!!」 「大丈夫だよ、お母さん、これって後からすーっと効くツボだから。  で、も、押されたときはもの凄く痛いみたいだけどね♪」 「リリアちゃん、絶対に、思いっきり良い笑顔してるでしょ?」 「なんのことかな♪」  わたしはマッサージを再開する。 「いたっいたたたたっ!! リリアちゃん、降参!!」 「んふふ♪」 「だから、降参だってっ!!」 「ん?」  部屋に戻ってたお父さんがリビングに降りてきた。 「なぁ、リリア。シンシアはどうしたんだ?」 「どうしたんだろうね?」 「?」  ソファにうつぶせになってぴくぴくしてるお母さん、ちょっとやり過ぎたかな?  そう思ったら突然お母さんが起き出した。 「ねぇ、リリアちゃん?」 「わたし、部屋に戻るね、お父さん後をよろしく」 「だーめ♪」  お母さんは歳を感じさせないステップでわたしを捕まえた。 「え、何? 今の動き!?」 「重力制御装置の応用よ♪」 「そこで才能の無駄使いをしないでよ!」 「んふふ、リリアちゃんも勉強で肩こってるわよね?」 「わ、わたしは若いから大丈夫だって」 「遠慮はいらないわよ? さっきのお礼もしてあげるから、ね♪」 「ちょ、お母さん!?」 「さぁ、ソファにうつぶせになってね」 「別にいいから、遠慮するからっ!」 「んふふ♪」 「仲良いな」 「ちょ、お父さん、助けて!」 「肩こりをほぐしてくれるんだろう? 気持ちいいからやってもらえばいいじゃないか」 「お父さん!?」 「達哉もお勧めしてくれたんだし、リリアちゃん……天国に連れて行ってあげる♪」 「や、いや……いやーーーっ!」 「んー、すっきりした♪」 「なんでマッサージをしたシンシアの方がすっきりしてるんだよ」 「だってぇ、悶えるリリアちゃんが可愛いすぎるんですもの♪」 「……」  ソファの上で息を整えるのに必死のわたしにはツッコミを入れる事が出来なかった…… 「ねぇ、達哉も肩こり酷く無い?」 「俺は大丈夫だよ」 「そう言わずに♪」 「……そこまで言うなら、また近いうちに温泉にでも行くか」 「え、いいの?」 「あぁ、俺はともかくシンシアもリリアも温泉でリフレッシュした方が良さそうだしな」 「やった! ありがとう、達哉。愛してる♪」  そう言いながらお父さんの頬に口づけするお母さん。  わたしはその甘い光景を見せつけられながら、思ったことを口にする。 「お父さん、逃げた」 「……」
1月23日 ・大図書館の羊飼い SSS”得点” 「寒いです」  部屋に戻ってきた千莉の最初の一言は、寒いだった。 「すぐエアコン入れるからちょっとだけ我慢しててくれ」 「寒いです」 「……紅茶もすぐに煎れる」 「……」  千莉の機嫌が悪い、それはわかっている、その理由もだ。  週末の土曜日が千莉の誕生日だった、その日1日千莉とずっと一緒に過ごす約束だった。  だが、図書部の緊急の依頼の為、俺は一緒に居ることが出来なくなったのだ。 「仕方がありません、私も仕事を手伝います」  そう言って一緒に仕事をしてくれた千莉だったが、こうして俺の部屋に一緒に戻ってきてから  ずっと拗ねていた。 「紅茶は熱いですけど、寒いです」 「火傷するなよ?」 「え? あ、はい……ありがとうございます、じゃなくて寒いです」 「……」 「……」  無言の時間、エアコンから吹き出す温風の音がやけに大きく聞こえる。 「その……」 「あの……」  二人で同時にしゃべり出す。 「センパイからお先にどうぞ?」 「いや、ここはレディファーストで千莉からでいいぞ」 「……」 「……」 「ごめんな」 「ごめんなさい」  そして同時に出てきた言葉は謝罪だった。 「京太郎さん?」 「千莉?」 「……」 「……」 「俺からでいいか?」 「……はい」 「その、な……約束破ってごめん」 「いえ、いいんです。私こそごめんなさい。京太郎さんは悪くないのに、意地張ってしまって」 「……これってさ、どうしたら収拾つくんだろうな?」 「どうなんでしょう?」 「でも、一つだけ収拾付ける方法はある」 「なんですか?」 「こうする」 「え、きゃっ!」  俺は素早く千莉の後ろに回って、小さな身体を抱きしめる」 「これで寒さは無くなるだろう?」 「……まだ寒いです」 「もっとぎゅっとすればいいのか?」 「それだけじゃ50点です」 「なら、こうすればいいか?」 「え、あっ……」  抱きしめた千莉を一度離し、そして千莉の身体の向きを変える。  その上で強く抱きしめた。 「……プラス20点です」 「まだ100点には届かないか」 「はい、温かいですけど、まだ寒いです。だってこれじゃぁ、京太郎さんの顔が見えません」 「……」  俺は抱きしめる力を緩め、顔の高さを千莉に合わせる。  おでこが軽く触れる距離で、今度はそっと千莉を抱きしめる。 「プラス20点です」 「まだ足りないな」 「はい、まだ足りません」 「……千莉、明日の予定は無かったよな?」 「はい……そうじゃなければ京太郎さんの部屋に来ないです」 「なら……残りの誕生日の時間は絶対千莉から離れない事にする」 「合格です、プラス100点です」 「100点超えすぎてるぞ?」  そう言いながら、俺は千莉を抱き上げる。 「きゃっ」 「寝る前に風呂入らないとな」 「……はい、でも京太郎さん」 「なんだ?」 「今日という日に、寝ちゃうんですか?」 「……起きていられなくなるかもしれないぞ?」 「望むところです」  翌朝、カウントしてないけど俺に対しての点数はストップ高だった。
1月22日 ・sincerely yours short story”副題” 「と、いうわけで会議をしたいと思います」 「……ねぇ、お母さん。なんでお風呂の中で会議するの?」 「んー……サービス?」 「誰に対してのサービスよ!」 「もちろん、私♪」 「……はぁ、それで会議っていうか相談なんでしょう?」 「うん、ちょっとタイトルを考えるの頼まれちゃったのよ」 「タイトル?」 「そう、タイトル、正確に言えば副題かな?」 「……おもったよりまともな仕事だ」 「ねぇ、リリアちゃん。お母さんのことどう思ってるのか聞いても良い?」 「言って良いの?」 「もの凄く聞きたいけど、後にしておくわ。今はタイトルの方が先だから」 「賢明」 「何か言った?」 「ううん、なんでもない」 「で、何のタイトルなの?」 「えっとね、過去に発表された作品をリニューアルして発表するんだって」 「そうなんだ」 「だからね、過去作品のメインタイトルに副題を付けたいんだって、その候補を考えて欲しいって  頼まれちゃったのよ」 「で、そのメインタイトルは」 「諸般の事情により公開出来ません」 「……え? 公開出来ないって、それなのに副題を考えろって、無茶じゃない?」 「まぁね、でも私は知ってるから大丈夫よ」 「なら教えてくれたっていいじゃない」 「んー、それもそうね。メインタイトルは……」 「それでね、副題だけど例を聞いてきたのよ」 「お手本あるんだ」 「えぇ、まずはね、オリジナルはメインタイトルだけでしょ? そのリニューアルの副題は  ”Brighter than dawning blue”」 「えっと……夜明け前の青色より明るい?」 「なんだかメインタイトルとかぶってるわね〜、でその作品の続編がMoonlightCradle」 「月明かりにゆりかご、だね」 「他には、メインタイトルに”赤い約束”って付けた例もあるわね」 「赤? さっきは青だったけど、正反対だね」 「その他にはメインタイトルに”Dreaming Sheep”」 「夢見る羊……羊が夢を見る?」 「とまぁ、そういう過去に例があるのよ」 「色々考えてるんだね〜」 「でねでね、私も考えたの」 「どんなの?」 「たとえば……劇場版!」 「お母さん、それって劇場でするものなの?」 「違うわよ」 「じゃぁ駄目じゃない」 「そうよね〜、それじゃぁ……R!」 「R……リターンの頭文字?」 「じゃなくって、RX!」 「RX、1990年頃に開発されたPCで、CPUが80286、12Mhz、HDDは40M  って、わたしの知らないCPUが使われてる。でも数値からしてかなり低スペックのPCだって  わかるわ」 「……リリアちゃん、当時はこれでも高スペックだったのよ、多分。  っていうか、ボケ方がマニアっく過ぎる!」 「でも、アクセスしたデータベースってお母さんのだよ?」 「……コホン」 「他にはね、逆襲の……」 「逆襲の要素はあるの?」 「……えっとぉ、それじゃぁハートキャ……」 「危険なネタは禁止」 「第2期とか」 「実際に続編なら2期でもいいけど、そうなの?」 「……だっしゅとかおめがとか」 「そういう勢いある内容なの?」 「えーん、リリアちゃんがいぢめる!!」 「人聞きの悪いこと言わないでよ、相談してきたのお母さんでしょ?」 「じゃぁ、最後の思いつきよ!」 「今思いつきって言った!?」 「その名も!」 「わたしの話聞いてない?」 「リリアの恋の物語」 「そこでなんでわたしが出てくるの!! ……あ」 「あ、リリアちゃん?」  私は慌ててリリアちゃんを抱きかかえる、急に立ち上がって突っ込みをいれたから  立ちくらみと、お風呂だったからのぼせてしまったのだろう。 「結局タイトルは決まらなかったけど……面白かったからいっか♪」  それよりも、っと。 「流石に私だけじゃリリアちゃんを運ぶの大変よね……アクセス」  ウインドウを呼び出し、達哉につなげる。 「あ、達哉、リリアちゃんが湯あたりしたから運ぶの手伝って欲しいの、お願い」  これで脱衣所まで達哉が来てくれるので安心、と。 「ん……」  リリアちゃんの様子を見る、立ちくらみで朦朧としてるだけだからそんなに心配はいらないと  思う、ちゃんと可愛いお胸も上下してるから呼吸も安定してる。 「このまま達哉に手伝ってもらうと面白いんだけど……武士の情け、かな」  私はリリアちゃんの身体にそっとタオルをかけた。 「お父さんのえっち!」 「何言ってるのよ、リリアちゃん、達哉は悪くないわよ?」 「でも……わたし、みられちゃった」 「残念ながらそれもないわよ?」 「え?」 「だって、達哉は脱衣所で大きなバスタオルを広げて待っててくれたのよ、それもちゃんと目を閉じて」  達哉ったら紳士すぎるわよ、本当に。でもそのツッコミを入れる前にリリアちゃんを受け取って  すぐにリビングのソファまで運んでくれたのよ。  そう、リリアちゃんに説明した。 「そう、なんだ……その、えっちっていってごめんなさい」 「そうそう、リリアちゃんの早とちりなんだから」 「それもこれもお母さんが悪いんでしょ?」 「えー、私のせいなの?」 「他に誰が居るの?」 「んー……リリアちゃん?」 「なんでわたしなの?」 「ほら、自分に厳しくって言うじゃない?」 「一人だったらのぼせないもん!!」 「それで、副題って決まったの?」 「全然決まらなかった、てへ」 「……似合うのがもの凄く複雑な気分になる」 「大丈夫よ、私は永遠の1……」 「だから、危険なネタは禁止だってば!!」
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