思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2015年第4期
12月31日 大図書館の羊飼い SSS”年始めの?” 12月24日 sincerely yours SSS「サンタさんの順番」 12月20日 sincerely yours SSS「続々・寒い朝の日には」 12月12日 sincerely yours SSS「続・寒い朝の日には」 11月23日 sincerely yours SSS「寒い朝の日には」 11月18日 sincerely yours SSS「騒音?」 11月15日 FORTUNE ARTERIAL SSS「若さ」 11月12日 sincerely yours SSS「伝統の格好」 10月29日 sincerely yours SSS「ハロウイン・イブ」 10月26日 sincerely yours SSS「危険」 10月19日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory「幸せな失言」
12月31日 ・大図書館の羊飼いSSS”年始めの?” 「ごちそうさまでした」 「お粗末様でした」  大晦日の夜、凪が作ってくれた年越し蕎麦を食べた。 「去年はカップ蕎麦だったのに、今年は進歩したよな」 「あったりまえじゃない、私が去年のままの訳ないでしょ?」  そう、凪は常に進歩している。  人に戻ってからし始めた勉強も、今では人並み以上の実力を持つほどだ。 「さぁて、ケーキ食べましょう」 「今蕎麦食べたばかりだろう?」 「いいじゃないの、京太郎が用意してくれたケーキだもん、今食べるの。  それとも、私のお祝いを一緒にしてくれるの……嫌なの?」 「嫌なわけ無いだろう?」 「やったー、それじゃぁ一緒に食べよ♪」  大晦日の今日は凪の誕生日でもある、夜ご飯の年越し蕎麦は凪に任せて俺はケーキを買ってきていたのだ。 「ごちそうさま、おいしかったね」 「そうだな」 「ふぅ、これで今年も終わりかぁ……あんまし実感ないけど」  そう言って凪はベットの上に倒れ込む。 「凪、下着見えるぞ?」 「京太郎のえっちー」 「良いからちゃんとする」 「はぁい……そういえばさ、京太郎」 「何だ?」 「初夢ってさ、新年最初に見る夢のことだよね?」 「正確に言えば、新年のある夜に見る夢の事だから、新年最初のっていうのではないぞ」 「え、そうなの?」 「あぁ、今は新年の最初に迎えた夜に見る夢っていう形に落ち着いてるから、元日の夜から2日の朝に  かけてみる夢の事をさしているけどな」 「へぇ、詳しいわね」 「別に、本で読んだだけだよ」 「ねぇ、それじゃぁさ……姫始めは?」 「新年最初に食べる、姫飯の事で、これは1月2日だな」 「1日じゃないの?」 「元旦は餅を食べるだろう? だから姫飯、柔らかい飯を最初に食べるのが2日になるんだ」 「へぇ……って、そうじゃなくってさ」 「……凪のえっち」 「誰の所為よ!」 「俺か?」 「他に誰が居るのよ? 私は京太郎のしか知らないし……って何言わせるのよ!」 「いや、ただの自爆だろう?」 「だから、そうじゃなくって!」  凪は顔を赤くして怒ってると思ったら、照れてるような表情になった。 「誕生日の夜にね、その……一緒になったままその日を終えて新年を迎えたら、どんな気持ちかなぁって」 「……凪、やっぱりえっちだな」 「だーかーら!!」 「でもさ、そんなにしたのは俺だもんな、今日は凪の誕生日だし、凪のお願いを叶えるよ」 「え?」 「まだ新年を迎えるまで時間あるし……風呂にでもはいるか?」 「もぅ、京太郎のえっち」 「俺がエッチになるのは凪だけにだけどな」 「……もぅ、早くお風呂入っちゃおう! そうじゃないと新年来ちゃうよ?」  ・  ・  ・ 「二年参りっていうのは大晦日の零時を境に前後でお参りする事だよね?  じゃぁ、今回のは二年姫始めっていうのかな?」 「……」 「お風呂に入ってからずっとだもんね、やっぱり京太郎の方がえっちだよねー」  俺は何も言い返せなかった。
12月24日 ・sincerely yours short story「サンタさんの順番」 「今年は達哉の順番だから、可愛いサンタさんの写真はありません、残念でした?」 「シンシア、突然何言ってるんだ?」 「え? あー、なんとなくお約束?」 「……そうか」  突然お母さんの変な発言……別にいつものことかもしれないかな。 「リリアちゃん、今不穏なこと考えなかった?」 「別に?」 「そう? なら良いけど」  当たり前の事だから不穏じゃないよね、うん。 「それよりもお父さんのサンタさん、可愛いね」 「勘弁してくれよ、リリア」  そう、今年のクリスマスパーティーでのサンタさんの格好はお父さんがしている。  お母さん曰く「順番の方が楽しいじゃない♪」だそうで、少し前から準備していた。  わたしたちが着たような衣装じゃなく、普通に大きな赤いコートにズボンと、それこそ普通の  サンタさんの格好なんだけど、いつもと違う洋服だからか、落ち着かないお父さんの仕草や  表情がなんだかおかしくって、可愛かったりする。 「まさか俺の順番とは思ってなかったよ」 「期待してたのなら悪かったかしらね、でもコス……伝統だから順番でちゃんとやらないとね♪」 「なぁ、シンシア。今コスとか言わなかったか?」 「気のせいよ」 「……そうか」 「お父さん、それでいいの?」 「いいんじゃないか? みんな楽しいなら良いことじゃないか」 「お父さんはお母さんには甘いよね」 「なによ〜、リリアちゃんにだって甘いじゃない」 「そうか?」 「そうだよ」「そうよ」  わたしとお母さんの声がハモった。 「自覚は無いんだけどな……ま、いっか」 「良くないわよ、達哉。あんまりリリアちゃんを甘やかしちゃ駄目よ?」 「それを言うならお母さんを甘やかすのを止めた方がいいと思うよ?」 「リリアちゃん?」 「なに、お母さん?」  そのときどこからか電話の音が鳴った。 「あ、悪い、俺のだ」  サンタ服のポケットから電話を取り出すお父さん、というかちゃんと持ち歩いてたんだ。 「はい、朝霧です……そう、ですか……わかりました、では」 「どうしたの?」 「ちょっとだけ席を外させてもらう」  そう言うとお父さんはリビングから出て行った。 「どうしたんだろう? お仕事かな?」 「それは無いわ」 「なんで断言できるのよ」 「だって、達哉のスケジュールは把握してるもの、今日は特に急ぎの仕事は無いはずよ?」  スケジュールを把握してる所に突っ込んではいけないんだろうなぁ…… 「それなら何の用事だろう?」  そう思ってるとお父さんが戻ってきた。 「達哉、何の用事だったの?」 「たいしたことじゃないよ、それよりもさ」  そう言うとお父さんは部屋の外から大きな花束を取り出した。 「メリークリスマス、シンシア、リリア」 「わぁ!」  大きな花束を一つずつ、渡してくれた。 「ありがとう、お父さん」 「……もう、達哉ったら気障なんだから」 「シンシアは花束はいらない、と」  お父さんはお母さんの手から花束を取り上げた。 「あ、だめ! それは私のだから!」  慌てて取り戻そうとするお母さん。 「もう、意地悪しないで、じらさないで私にちょうだい!」 「お母さん、自業自得だよ」 「うー、ならリリアちゃんの花束を私がもらっちゃうもん!」 「駄目っ! これはわたしのだもん!」  襲いかかってこようとするお母さんから花束を守るために背中に隠す。  そのお母さんとの間に、お父さんは取り上げた花束を差し出す。 「もぅ、達哉ったらいぢわるなんだから……それにやっぱりリリアちゃんには甘いんだから」  そう言いながらも嬉しそうににこにこするお母さんだった。 「それじゃぁクリスマスパーティー始めましょう!」  お母さんはシャンパングラスを用意した。 「用意はいい? せーの!」 「「「メリークリスマス!」」」
12月20日 ・sincerely yours SSS「続々・寒い日の朝には」 「ん〜、朝の冷え込みが全然違うわね〜」  お母さんは両手を伸ばしながらそうつぶやく。 「もう冬本番だしね」 「そうよね〜、でもこの冷え込みが逆に気持ちいいのよね、温泉だと♪」  そう言って腕を上に伸ばしてのびをする。  そのせいで湯面からお母さんの胸が出てくるのが見える。 「……」  わかっては居ることだし、考えるのも無駄なのも理解してるけど……  やっぱり納得いかない事だった。 「あー、やっぱり本物は良いわよね〜」 「そりゃそうだよ、お母さん。どんなに再現させたって、それは再現なんだから」 「わかってるわよ、リリアちゃん。だからこうして温泉宿まで来て堪能してるんじゃない」  そう、お母さんのわがまま?で、この年末の忙しい時期に家族で温泉旅行に来ていた。  宿泊した朝、温泉にお母さんと一緒に入っている。 「美味しいご飯を用意しないでも食べれる、露天風呂からの景色はちょっと……だけど  良い温泉に入り放題、そして家族一緒に過ごす時間。ほんと、幸せ♪」 「露天風呂からの景色が良い場合って、逆に覗かれる心配もあるんじゃないの?」 「そう? 私の周囲だけフィールド張っておけば見えなく出来るから問題ないんじゃない?」 「や、だからそれは今の人が使える技術じゃないから!」 「わかってるわよ、私だって温泉に来てまでそんな事したくないもの」 「そう? なら良いんだけど……」 「さてっと、明るい内にサンプリングしておこうかしらね〜」 「結局使ってるじゃないの」 「いいのいいの、この景色だけは家でも再現出来るようにしておくんだから」 「はぁ……ま、いっか」  お母さんに言うだけ無駄なのはわかってるし、別に景色を記憶させるだけなら今の技術でも  出来ることだから、問題さえ起こさなければいいかな。  尤も、記録した景色を自宅の風呂であそこまで完璧に再現できる技術はまだ無いんだけど…… 「あ、リリアちゃん。そこに居ると写るわよ?」 「え? やだ!」  思わずわたしは口元までお湯に潜る。 「大丈夫よ、ちゃんと映像から外しておくから」 「当たり前でしょ? この映像を再現する度にわたしが写ってたら大変じゃない」 「そうよね〜、控えめなお胸まで写っちゃうものね」 「お母さん!」 「ふふっ」 「もう、そこで笑わないの!!」  わたしは露天風呂から出て内風呂へ行く事にした。 「はぁ、もう帰る時間かぁ」  朝の温泉を楽しんで、朝ご飯のバイキングを堪能したあとはチェックアウトするだけとなる。 「このまままっすぐ帰るのも寂しいわよね」 「悪いな、シンシア。夕方からでもやっておきたい仕事があるんだ」 「達哉は悪くないわよ、悪いのは仕事だから」 「そう言ってもらえると助かる」 「……何かがおかしい気がするんだけど、おかしくない気もする」 「まぁまぁ、リリアちゃん。あ、でも残念な事もあったわね」 「何かあったの?」 「えぇ、混浴じゃなかったことかしらね」 「お母さん!?」 「混浴なら達哉と一緒に入れたじゃない、ねぇ、リリアちゃん?」 「なんでわたしにふるのよ!?」 「せめて家族風呂でもあれば良かったんだけど」 「ふるだけふっておいてスルーするの!?」 「シンシア、リリア。そろそろフロントに行くぞ」 「はぁい、リリアちゃん。忘れ物はない?」 「……はぁ、無いよ」 「それじゃぁ我が家に帰りましょう!」 「ねぇ、達哉。今度は混浴の温泉がある宿にしない?」 「お母さん、それは駄目!」 「どうして?」 「だって恥ずかしいじゃないの」 「だいじょうぶよ、視線は重力制御でそらせるから、誰からも見えないようにできるから」 「誰からもって、お父さんからも?」 「……」 「お母さん?」 「えー、だって家族からも見えなくなっちゃたら一緒に入る意味ないじゃない」 「それじゃぁ見えちゃうじゃない!」 「もう、リリアちゃんったら恥ずかしがり屋さんなんだから」 「当たり前でしょう!」 「大丈夫よ、達哉はリリアちゃんの小さなお胸でも可愛いって言ってくれるわよ、ね?」 「お父さんのえっち!」 「今のは俺が悪いのか?」  家に帰るまでお母さんのテンションは高いままだったせいで、早めに旅行から帰ってきた  はずなのにもの凄く疲れました……
12月12日 ・sincerely yours SSS「続・寒い日の朝には」 「だんだん朝の冷え込みが厳しくなってきたわね〜」  朝食後のお茶を煎れながら、お母さんはそうつぶやく。 「そうだな、もう冬本番だしな」 「そうよね〜」 「お母さん、ちょっと待った」 「なに? リリアちゃん、今良いところなのに〜」 「この展開、もの凄く記憶にあるんだけど?」 「そう? そんなことよりも達哉、こういうときこそ温泉で温まるのって良いわよね?」 「……」 「リリアちゃん、何かしら? なんだか、うわ、ツッコミいれたのに強引に展開した、っていう目は」 「そこまで解ってても、そうするお母さんに呆れてただけ」 「リリアちゃん、酷いっ!」  目元に手を当てて泣き真似をするお母さん。 「で、達哉はどう思う?」  と思ったらもう立ち直った、そもそも落ち込んでいないと思うけど。  そう思いながらお母さんが煎れてくれたお茶を飲む。 「いいんじゃないか?」 「っ、ごほっ!」 「あら、リリアちゃん大丈夫?」 「だいじょうぶじゃないよぉ、ってそれよりもお父さん!?」 「?」 「なんでそう簡単に良いとか言っちゃうの? 確か前はスケジュールの余裕無いって言ってなかった?」 「あぁ、余裕は確かに無いけどな」 「じゃぁなんで?」 「そうだな、理由はいくつかある、まず一つはシンシアがそう望んでるからかな」  そう言ってお父さんは話を続ける。 「いつも家の事を任せっきりだろう? たまにはそう言う仕事から解放される日があっても良いと  思うからかな」 「うぅ……愛する旦那様の優しさが心にしみるわ」  また泣き真似をするお母さんをとりあえずスルーする。 「それにさ、リリア」  さっきより小声でお父さんの話は続いた。 「以前はスケジュールに都合つかなかったけど、なんとかなったんだよ」 「お父さん、調整したの?」  わたしの言葉にお父さんは頷いた。 「ここ最近旅行に行ってないだろう? そろそろシンシアの限界が近いんじゃないかなって思ってったんだ」 「あー」 「限界突破したときのシンシアは……だろう?」  あえて語らないお父さん。  確かに、お母さんは我慢の限界を突破したら怖いところがある。  今回なら無理矢理スケジュールをお母さんの都合で修正しかねない。 「そうならないためにも、な」 「……お父さんもご苦労さまです」 「なに、これくらいはなんでもないさ、シンシアとリリアの為にもなるしな」 「え?」  今、わたしの為って言った? 「そうと決まれば達哉、スケジュールを教えて! 今から行ける良い宿探すから!」 「ちょっと、シンシア、危ないから引っ張るなって」  お母さんはお父さんの腕を取って、っていうか組んで2階へと二人で行ってしまった。 「旅行か……」  お母さんの思惑通りになってしまったかもしれないけど、それでも家族での旅行は楽しい。  「ふふっ、今度はどこに行くことになるんだろうなぁ」  いつ行くかはわからないけど、楽しい旅が待ち遠しかった。
11月23日 ・sincerely yours SSS「寒い日の朝には」 「だんだん冷え込んできたわね」  朝食後のお茶を煎れながら、シンシアはそうつぶやく。 「そうだな、もうすぐ冬だしな」 「そうよね〜、こういうときこそ温泉で温まるのって良いわよね〜」 「お母さん、温泉行きたいだけじゃないの?」 「もちろん♪」 「……はぁ」  リリアはため息をついてからお茶を飲む。 「でも、年内はもう無理だぞ?」 「えー」 「そういわれてもな……」  確か年内のスケジュールでは、もう連休は無かったはず。年末になれば休めるようになるが  その時期の旅行はどこに行っても人だらけで宿の予約すら取れないから無理だろう。 「達哉、どうにかならないの?」 「どうにかっていってもなぁ……」 「うぅ…」  俺の言葉に落ち込んでいくシンシア。 「お母さん、温泉なら家のお風呂でも充分じゃないの?」  我が家の風呂はリフォームで湯船を広くしてある、その上で空間にモニターを表示出来る  システムを全面に展開する事により擬似的に露天温泉を景色ごと再現出来るようになっている。  最近は立体映像のシステムも組み込まれ、湯船も岩風呂のように見せることも出来るように  改造されている。  これだけ改造されると、ほんと魔改造ってレベルよね、とはリリア談だった。 「そうかもしれないんだけど、脱衣所に出た瞬間夢から覚めるんだもん」  ここまでリフォーム、いや魔改造しても風呂場の広さが変わるわけでも無く、脱衣所に出れば  そこは我が家だ。 「でも夢から覚めるは、良い表現だよな」 「そうでしょ? だから温泉旅行に行きたいなぁ」 「休みが無ければ無理だな」 「えー」 「お母さん、そのまま続けると会話がループするよ?」 「なら俺のことは構わないからリリアと二人で出かけてくれば良いんじゃないか?」 「えー」 「ちょっ、リリアちゃん!? なんでそこでリリアちゃんが嫌そうな顔するの!?} 「お父さん、わたしだけでお母さんを抑えきれないよ?」 「そうか、それじゃぁ駄目だな」 「達哉までっ!?」  その場でがくっと落ち込むシンシア。  確かにリリアだけじゃ抑えきれないかもしれないな。 「うぅ、旦那様と娘がいぢめるよぉ」 「別にいじめてなんかないじゃないの」 「しくしく」 「はぁ、全く。シンシア、今朝は冷え込むから朝風呂に入る、準備を頼んで良いか?」 「……達哉、私も一緒に入っていい?」 「あぁ」 「アクセス!」  その場でシンシアはホロウインドウを呼び出す。 「お風呂にお湯を入れて、入浴剤は……そうね、硫黄泉のタイプで」  音声命令でお風呂を制御し、入れるようにする。 「ささ、達哉、朝の温泉堪能しましょう♪」 「シンシア、まだお湯入れ始めたばかりだろ?」 「大丈夫、すぐに入れるようになるから、ね」 「いってらっしゃーい」 「リリアちゃん、お見送りありがと♪、今度は一緒にはいりましょうね」 「遠慮しておく」 「そう? 恥ずかしがっちゃって、可愛い♪ それじゃぁ達哉、二人っきりでしっぽりしましょう♪」 「いや、なんか擬音がおかしくないか?」 「だいじょうぶだいじょうぶ♪」  こうして俺は朝から風呂場に連れ込まれた。
11月18日 ・sincerely yours SSS「騒音?」 「ふむふむ、そっかぁ」  ソファで雑誌を読んでたシンシアが何かを納得したような感想を口にしていた。 「ねぇ、達哉。普通のマンションって防音性ってあまり良くないみたいね」 「そうなのか?」  親が残してくれた一戸建ての家にずっと住んでいるのでマンションの事はよく解らない。  それでも隣の部屋で大きな音がすれば聞こえてくる事はあったと思う。 「マンションに住む子供の居る夫婦って大変よね〜」 「……」  何が大変なのか、聞かない方がいい気がする。 「尤も、我が家は防音はしっかりしてるから大丈夫♪ ね、リリアちゃん」 「そこでわたしにふられても困るんだけど。迷惑かけるような音はだしてないし」 「別にリリアちゃんが騒音だしてるって訳じゃ無いわ、他の部屋の騒音って気になるでしょう?」 「そう?」 「そうそう、たとえば真夜中にベットのきしむ音とかすると気になっちゃうでしょう?」 「え?」 「他に、声なんて聞こえてきたら目が覚めちゃうかもしれないじゃない」 「なな、なんの話してるのよ!?」 「ん? ベットの上でのお話よ」 「お母さん!?」 「寝返りを打てばベットがきしむでしょう?」 「……はい?」 「いびきって結構、響くものなのよねぇ」 「……」  シンシアの顔がこれでもかっていうくらいの、良い笑顔になっている。  明らかにミスリードを狙ってたな。 「ふふっ、リリアちゃんは何を想像したのかしらね?」 「べ、別に?」 「そう? ふふふ」 「……わたし、そろそろ部屋に戻るわね」 「あ、そうそう。リリアちゃん」 「なぁに?」 「一人でしても外に音は聞こえないから安心してね」 「な、な……もう、知らない!」  リリアは逃げるように、というか本当に逃げ出したな。 「もぅ、リリアちゃんって可愛い♪」 「あんまりからかうなって、年頃なんだし」 「あら、達哉は何を想像したのかしら?」 「さぁな? でも防音はしっかりしてるなら声を上げても助けは来ないよな」  そう言って俺はシンシアに近づく。 「え、あれ? なんで私に近づいてくるのかしら?」 「リリアをからかった罰をしようかな、と思ったから」 「ここはリビングよ!?」 「音は聞こえないんだろう?」 「ちょ、達哉、本気?」 「シンシア、覚悟はいいか?」 「ま、待って……って、そこは駄目、くすぐったいから、きゃーはははははっ!」  俺はシンシアの弱点を……くすぐった。 「や、やめてって、息が出来なっ!」  ・  ・  ・ 「あれ? お母さんどうしたの?」 「な、なんでもないわ……」  部屋から降りてきたリリアは、ソファの上でぐったりしてるシンシアを見て不思議そうな顔をしていた。 「音が漏れないってのは本当だったな」 「? まぁいっか。お風呂先にいただきまーす」  風呂場の方へ向かっていくリリアを見送ってからソファの上のシンシアの様子を見る。 「少しやり過ぎたか?」 「少し、じゃないわよ! もぅ、後で覚えておきなさい!」 「お手柔らかにな」
11月15日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”若さ” ANOTHER VIEW 伽耶 「良いお湯ねぇ」 「……」 「あら、伽耶は気持ちよくないのかしら?」 「お祖母ちゃんの家のお風呂は気持ちいいよ」 「そうよねぇ」  そういってお母さんはうんとのびをする。  そのときにお湯に浮かんでいた大きな胸が強調されるように動く。 「……」  下を向く、そこにある自分の胸はお母さんほど大きくない。  歳相応のサイズだと思ってるけど、あれを見ると自信がなくなってくる。 「ん〜ごくらくごくらく♪」  お祖母ちゃんの実家は珠津島のほぼ中央、東儀家が管理してる山の中腹にある。  外から見ると洋風のお屋敷なんだけど、中は以外にも和室が多い。  そして、お風呂は何故か露天の温泉になっている。  そのお屋敷の主のお祖母ちゃんは年のほとんどを旅して過ごしている。 「せっかくの温泉ですもの、利用しないと勿体ないじゃない?」  そう言うお母さんはこうしてわたしをつれて実家に帰ることが多い。  もちろんお父さんも一緒だけど、今は夕食の後片付けを1人でしている。 「夕食は瑛里華と伽耶に作ってもらったんだから片付けくらいは俺がするよ」  そう言って台所に向かうお父さん。 「お父さんだけに片付けさせちゃっていいのかなぁ」 「いいのいいの、ご飯作ったのは私と伽耶なんだし、それに温泉は一緒に入れないでしょう?」  そう、露天の温泉だけど、宿泊施設みたいに男女別になってるわけじゃない。  だから交代で入るしか無い。 「それとも、伽耶はお父さんと一緒の方が良かったのかな?」 「そ、そんなわけないでしょ!」  この歳になってお父さんと一緒だなんて、恥ずかしすぎる。 「別に良いじゃ無い、家族なんだし。なんならバスタオル巻けばいいじゃない?」 「温泉の中でバスタオルって駄目だって」 「ここは宿のお風呂じゃないんだし、バスタオル巻いて入っても大丈夫よ、それとも水着の方がいい?」 「それはそれで恥ずかしいし」 「難しい年頃よね〜、さてっと。私は先に上がるわね」 「え、もう?」  温泉というか、お風呂に入るのが好きなお母さんがこんなに早く上がるなんて…… 「孝平の様子も見ておかないと行けないし、布団も敷かないといけないしね。それに……」  そう言って立ち上がるお母さん。最後に小声で何か言ったと思うけど聞き取れなかった。  それよりも立ち上がったお母さんのプロポーションの方が問題だった。  これでわたしを産んだ1児の母なんだから……信じられない。 「それじゃぁお先にね」  そう言って脱衣所の方へと去って行った。  1人になったわたしも温泉から上がることにした。  立ち上がって、下を向く。 「わたしも、お母さんくらいになれるかなぁ……」 ANOTHER VIEW END 「と言う訳なのよ」  後片付けが終わり客間に布団も敷いた後、皆が寝静まる夜も更けてから俺は温泉に入っていた。 「そっか、伽耶は優しいな」 「そうね、流石私の娘よね」 「……そうだな、こうして温泉に付き合ってくれる良い妻だもんな」 「もう、褒めたって何も出ないわよ?」  そう言いながらも瑛里華は俺の持つ杯に酒を注いでくれる。 「瑛里華も飲むだろう?」 「えぇ、そうね。せっかくだから頂こうかしら」  杯を渡して酒を注ぐと、瑛里華はそれを飲み干した。 「良い温泉に良いお酒、母様の実家はいつ帰ってきても良いわね〜」  その言葉に俺はほっとする。  学生時代の瑛里華ならそうそう実家に帰ろうとは思わないし、帰ってきても良い等という感想は  抱かなかっただろう。 「伽耶さんや紅瀬さんも居ればもっと楽しいんだろうな」 「……そうね」  あの2人は旅にでたまま滅多に珠津島に帰ってこない。 「便りの無いのは元気な証拠と言うけどね、母様も紅瀬さんも歳なんだから少しは考えて欲しいわね」 「歳……か?」 「えぇ、もう200歳超えてるんだし、落ち着いて欲しいわ。そうでないと……親孝行も出来ないしね」 「瑛里華……」 「寂しくないっていう訳じゃ無いけど、やっぱり私の母様だから」 「また後で伽耶にメール送って頼んでおけば良いさ」 「……そうね、母様は伽耶のお願いには弱いものね」 「いいお祖母ちゃんじゃないか……」  見た目からはとてもお祖母ちゃんとは呼べないけどな、と心の中で付け加えておく。 「んー、そろそろ上がらないとのぼせちゃうわね」 「そうだな……」  のびをする瑛里華、手を上に上げると言うことはそれだけ胸が持ち上がるわけで。 「ふふっ、なんだかんだ言っても孝平もまだ若いのよね」 「……」 「どうしようかしらね、孝平?」  千堂家の客間の数は多い、伽耶が寝てる部屋から数部屋離れれば音は全く聞こえなくなる。  普段過ごす市内のマンションは、流石に音が漏れてしまう場合もあるし伽耶も年頃なので控えてはいるが。 「瑛里華もその気があるんだろう? 離れた客室も掃除してあったからな」 「……もぅ、解ってるならそういうことは言わないの」  ・  ・  ・ 「おはよう、お父さん」 「あぁ、おはよう。伽耶」 「なんだかお父さん、疲れてる?」 「そんなわけ無いさ、ただ、な……」 「?」  不思議そうな伽耶に正直に言うわけにはいかない。 「ほら、さ。嫁さんの実家っていうのは男にとって緊張するもんなんだよ」 「そうなの? だってお祖母ちゃんはお留守だよ?」 「それでもそう言うものなんだよ」 「そうなんだ……それじゃぁあんまり来ない方がいいのかな?」  伽耶が心配そうな顔になった。もの凄く良心痛む。 「瑛里華にとっては生まれた家だしただで温泉に入れるし、伽耶が来たいのなら何度でも付き合うよ」 「いいの? でもお父さんは緊張しちゃうんでしょう?」 「あぁ、でもそのうち慣れるさ。いや、慣れるように何度も来れば良いのか」 「そっかぁ、これからも来ていいんだね、ありがとうお父さん」  伽耶の曇った顔が笑顔になる、その純粋な笑顔を俺は直視出来なかった…… 「そろそろ朝ご飯にしましょう」  はかったようなタイミングで瑛里華は俺たちをテーブルに呼ぶ。 「……」 「な、なにかしら、孝平?」 「原因、だものな」 「ぎくっ!」 「お母さん?」 「な、なんでもないわ。それよりもご飯にしましょう」
11月12日 ・sincerely yours SSS「伝統の格好」  食後のリビング、いつもの家族の時間。  シンシアが煎れてくれたお茶をみんなで飲みながらテレビを見たりするのんびりと過ごす時間。 「ねぇ、達哉」 「なんだい?」 「ちょっと質問、というか達哉の好みを聞きたいんだけど、良い?」  真面目なシンシアの顔を見て俺は、湯飲みをテーブルの上に置いた。  そしてリリアの方を見る、リリアは特に気にした様子も無く、テレビを見ながらお茶を飲もうとしている。  その瞬間を見計らったかのように、シンシアは話を切り出した。 「上半身何も着てない女の子と、逆に下半身何も穿いてない女の子どっちが良い?」 「っ! ごほっ!」  案の定、リリアはお茶を吹き出しそうになっていた。 「ちょ、お母さん、突然何を聞いてるのよ!」 「んーとね、達哉の好み」 「そうじゃなくって、どんな質問してるのよ!?」 「えっとね、ほら、伝統ってあるじゃない?」 「伝統?」  俺は思わずシンシアに聞き返した。 「ほら、スカートとか穿いてるけど上半身裸って、シチュエーションは伝統でしょう?」 「そんな伝統なんてあるわけ無い!」 「そうかしら?」  自信たっぷりに言うシンシアを見て、なんだかそう言う伝統もありそうな気がしてきた。 「でも、その逆ってあまりないじゃない? ちゃんと洋服をしっかり着込んでいるのに、下だけ穿いてないって  いうシチュエーション」 「どんなシチュエーションなのよ……」  顔を真っ赤にしてたリリアは、力尽きたようにソファの背もたれに寄りかかっていた。 「で、達哉はどっちが好み?」 「……拒否権は?」 「えー」 「……」  はぁ……どう答えてもおもしろおかしく受け取る気がする。  ……ん、まてよ? 「さぁ、達哉。好みはどっちかしら?」 「そうだな……」 「え、お父さん?」  そんな質問に馬鹿正直に答えるの? っていう目をリリアはしていた。   それを見なかった事にして答えを出す。 「シンシアならどっちでもいいぞ」 「え?」 「今更シンシアがどんな格好をしてもしなくても、関係無く好きだってことだよ」 「あ、えーっと、その……ありがと、う?」 「今日は冷え込んでるのに、なんだか暑いね、お母さん?」 「うぅ……リリアちゃん、あとで覚えておきなさい」 「なにをかな、お母さん?」 「むー!」  親娘がじゃれあってるのを見ながら、テーブルの上に置いたお茶を手に取り、飲む。  今夜もいつも通り平和だなぁ。
10月29日 ・sincerely yours SSS「ハロウイン・イブ」 「あれ?」  キッチンに何か飲み物を取りに来た俺はリビングのソファに座ってるシンシアを見つけた。  手をあごに当てている、と言うことは何か考え事しているのだろう。 「こういうときは何を言っても無駄なんだよな」  テーブルにあるシンシアのマグカップのお茶は冷めていた。  いったいどれくらい考え込んでるんだか……  とりあえずはお茶を入れ替えておくか。 「……あれ? 達哉?」 「お帰り、シンシア」 「もしかしてまたやっちゃった?」 「別に構わないさ、誰も迷惑してないし」 「あー、うん……ありがと」  そう言うとシンシアはマグカップを手に取る。 「あれ? 温かい」 「入れ替えたんだよ、冷たいままだと美味しくないだろう?」 「……ありがとう、達哉」  両手で包み込むようにマグカップを持ち、お茶を飲むシンシア。  その仕草や姿は、初めて会ったあの時より大人になっているのだけど、あのときの俺の記憶の中の  シンシアと変わらないようにも見える。  リリアと一緒に出かけると仲の良い姉妹に見えるって言う話もよく解るんだよな。 「……あ」 「どうしたの、達哉?」 「……」  今でも他の部署から聞こえてくる噂話、俺が年下の女房をもらったという話。  実際は同い年だったし、こっちに来る時間軸の関係でシンシアの方が年上のはずなんだけど。  リリアと姉妹に見える女性を妻にした、って。  対外的に問題あるんじゃないだろうか? 「なんで今まで気にしてなかったんだろう?」 「?」  可愛く首をかしげるシンシア。これで肉体年齢が俺より年上だなんて信じられないくらい可愛い。 「まぁ、今更だよな」 「何が?」 「シンシアが可愛いって事がさ」 「え、た、達哉? 急に何言ってるの!?」 「だから、今更だけど、改めて思ったっていうだけだよ」 「も、もぅ……おだてたって何も出ないわよ?」 「本当に?」 「あー、もしかしてからかってる?」 「からかってはいないけどさ、そう言う可愛いシンシアを見るのは好きだよ」 「も、もぅ!」  顔を真っ赤にするシンシアを見て。  年下女房とか、年上とか他がどう言おうが関係無いよな。こうしてシンシアと一緒にいられて  娘も出来て、それで充分だ。 「ところでさ、シンシアは何を考え込んでたんだ?」 「あ、うん。そのね……」  シンシアが一呼吸いれる。よほど大事な事だったんだろうな。 「もうすぐハロウインでしょ?」 「そういえばそんな時期だったな」 「えぇ、ハロウインのお祭りの時にね、どうやってリリアちゃんで遊ぼうかなって考えてたの」 「……」  ある意味もの凄く真面目に、もの凄くリリアにとって迷惑になるだろう、そんな話だった。 「リリアで、か……あんまりいじるとまた怒られるぞ?」 「えー!」 「えー、じゃない」 「でもでも、照れてるリリアちゃんって可愛いじゃない!」 「それは解る」 「ほら、達哉も納得してるんだから一緒にリリアちゃんで遊びましょう?」 「いやさ、本人の意思もあるだろう?」 「だいじょうぶよ、達哉が可愛いって褒めれば機嫌なおるから」 「機嫌損ねるのが前提なのか?」  それよりも、俺が褒めるだけで機嫌直るんだろうか? 「達哉だって可愛いリリアちゃん見たいでしょ?」 「もちろん」 「ほら、即答するくらいなら一緒に考えましょう♪」 「そうだな」  あまりリリアに迷惑をかけないイベントになるように、一緒に考えた方がいいかもな。 「やっぱり定番は魔女服かしらね?」 「定番だな」 「大きな三角帽子にマントに、後はショーツだけでいいかしらね」 「それは違うと思うぞ?」 「そう?」 「あぁ、魔女服の定番は大きな三角帽子にOLが着るスーツっぽい服装だろう?」 「達哉、それどこの魔女の話なの?」 「あれ?」  どうしてそんな服装になったんだろう? 「でも、それもありかしらね、伝統も大事だし」 「伝統、だったっけか?」 「細かいことは気にしない気にしない♪ ふふっ、ハロウインの日が楽しみ」  なんだか俺も楽しみになってきた。  リリアにとってはどんなイベントになるかは解らないけど、家族みんなで楽しもう、そう思った。
10月26日 ・sincerely yours SSS「危険」 「『10年後の夢のお話』かぁ」  今活躍しているアスリートの女性が10年前、アマチュア時代にインタビューを受けている  映像がテレビ局に残っていて、その映像とともに振り返る。  そんな番組の企画だった。 「10年前に10年後の事なんて聞かれても解らないよね」  一緒にテレビを見ていたお母さんはそんな感想を口にする。  わたしは、どうだったんだろう?  10年前のわたしはまだお父さんの本当の事を知らなかったし、お母さんみたいに技術者になろうと  思い始めた頃だろうか? 「10年なんてあっという間よね〜、瞬き一つで過ぎるくらいですもの」 「……お母さん、それいつの話?」 「ターミナルに居たときのお話かな?」 「いや、あそこは時間流れてないし」 「でも外は流れてるでしょう? だから10年なんて言われてもピンとこないのよね〜」  そういって笑うお母さん。  ……それは笑うところじゃないと思うんだけど。 「それに、今から10年前なんて、私は寝ていただけだろうし、10年後も寝てたんじゃないかな?」 「……」  実際、生活している時間で考えればお母さんの10年前は存在してるし、10年後もあると思うけど。  10年前のお母さんの姿の記憶はわたしのなかにおぼろげに残ってる。  のだけど…… 「リリアちゃん、どうしたの?」 「今とほとんど変わってない気がする」 「え、何のお話?」 「ううん、なんでもない」  なんだか10年後も同じ姿形で居そうな気がする。 「10年って振り返って見てみると短い物よ、生き残りの激しい世界で10年前に最初の作品を出した  メーカーが、いくつ残ってるか見れば解るでしょう?」 「言ってる意味はよく分からないけど、危険な発言だって事は解るんだけど」 「もっとも、デビュー作が10年……」 「お母さん、それいじょうは危険」 「そう? それじゃぁこのくらいにしておこうかしら」  そう言うとお母さんはキッチンへ向かって行く。 「あ、でも10年経っても変わらないことはあるわよ、それはね……」  お母さんはとびきりの笑顔でこういった。 「家族の絆よ」  それでお話が終われば綺麗なお話だったんだろうけど。  真面目なお話が長続きしないのが、お母さんの欠点だった。 「それともう一つありそうね、10年たっても変わらない物」 「え?」 「それはね、リリアちゃんのお胸のサイズ♪」 「お、お母さん!!」 「ふふっ、こればかりは私から遺伝しなかったのよね、残念♪」 「全然残念そうに言ってないじゃない!」 「それじゃぁ、大きくなるためにお父さんにでも揉んでもらう?」 「なな、なんでお父さんになのよ!?」 「あー、やっぱりだめ、達哉が揉んでいい胸は私だけだもん」 「だもん、じゃなーい!」
10月19日 ・夜明け前夜瑠璃色な sideshortstory 「幸せな失言」 「10年後か」  夜、一人になってから公務をこなしているのだけど、どうしても手が止まってしまう。  夕食の後にみんなで見たテレビ番組の企画の話が、頭の中に残ってしまってるからだ。  今から10年前に、10年後の自分への手紙を書いた少女のお話。  幼い頃の少女の『10年後の夢のお話』という番組だった。  テレビ番組を見たときの感想は特になかったのだけど、気になったのはその期間。 「10年……」  達哉との話の中にも出てきた期間と同じ長さだ。 「達哉が認められて、私と一緒になれるまで10年くらいはかかるって言ってたわね」  その長さは妥当だと思う。  月の王国の姫である私の伴侶になるのに必要な地位と実績を得るのに10年は短すぎる  くらいだとも思う。 「でも……やっぱり長いわね」  10年後に本当に達哉と添い遂げているかどうかは解らない、もしかするとまだ別々に  暮らしているかもしれない。 「……ううん、そんなことは無いわ。達哉は約束は守る人だもの」  だから10年後にはスフィア王国で私と達哉は一緒に暮らしてるはず。 「今は出来ることをしないと、私の方が達哉において行かれてしまうわね」  カレンからもらった公務の書類に目を通す作業を再開する事にした。  だけど、集中出来なかった。 「ふぅ、ちょっと気分転換した方がいいかもしれないわね」  学院の図書室で借りてきた本を手に取ってみる。 「地球連邦の成立と変遷」と書かれた地球連邦の歴史の本、今日の授業で先生が進めて  くれた本だった。  興味深い本だと思う、これは地球で書かれた地球連邦の本だからだ。  月で記録されてる地球連邦の本とは書かれている立場が違う。  この本を読めば月と地球との立ち位置の違いが解ると思う。 「……」  私はページをめくって、読み始めた……                    ◇ 「その夜に私は達哉に襲われたのよね」 「もう勘弁してくれ」  そう言って困った顔をする達哉。 「あのときはケダモノだったわね」 「……若かった、と言う理由は言い訳にはならないよな、本当にごめん!」 「いいのよ、あの事があったから私たちにルールが出来たのだから」  それは、したくなたっらちゃんと言うこと。 「ふふっ、あれから10年経ったのよね」 「そうだな」 「達哉は約束を守ってくれるって思ったけど、その約束だけは守ってくれなかったわね」 「そういうことになるのか?」 「えぇ、結婚まで10年かかるって言ってたのに、8年で成し遂げてしまったんですもの」  そう、達哉は約束を守る所か期間を2年も短縮して私と結婚してくれたのだ。 「フィーナのために頑張って、それが約束を破ったって言われるとは心外だな」 「あら? 私は約束を守ってくれなかったって言っただけで破ったなんて言ってないわよ?」 「……参った」 「ふふっ」  あのときの泣きそうな顔の達哉も可愛かったけど、困った顔の達哉も可愛いのよね。  いつもは私が泣かされてばかりで…… 「……」 「フィーナ、どうしたんだ?」 「別に。なんだか腹が立ってきただけよ」 「ごめん、あのときは本当にごめん!」  勘違いした達哉がまた謝ってきた。  それがなんだかおかしくて、笑い出しそうになるのを必死に押さえる。 「ねぇ、達哉。さっき若かったからって言い訳してたわよね?」 「えっと、それは言い訳にはならないって言う話であって……」  私の問い詰めにあたふたする達哉はやっぱり可愛いと思う、けど。 「でも、今の達哉も充分ケダモノよね?」 「……」 「若かったあのときと何も変わってない、いえ、もっとケダモノになってると思うんだけど?」 「……もう勘弁してくれ」 「なら、私のお願いを聞いてくれたら勘弁してあげるわ」 「善処するけど、お願いって?」  あれから10年経った今、私が願う事。  それは…… 「家族が欲しいわ」 「……そう、だな。頑張らなくっちゃな」 「え?」  頑張るって? 「世継ぎの話も出てるし、もっともっと頑張らないといけないな」 「達哉?」 「フィーナ、家族をたくさん作ろうな」 「え、えぇ……」  えっと、なんだか話がそれてる? いえ、それてはいないと思うんだけど……? 「それに、俺はケダモノみたいだしな」 「た、達哉?」 「なぁ、フィーナ。明日の公務はそんなにきつくは無かったよな?」 「え? えぇ。達哉が受け持ってくれる分もあるから公務は詰まってはいないけど」 「フィーナ」 「達哉? さっきまであんなにしてくれたじゃない。だから今夜はもう……」 「俺も早く家族が欲しいからさ、フィーナ」 「え、えぇ!?」  達哉がケダモノだったのは若かったからという理由だけじゃないことを、  この夜思い知ることになりました……
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