思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2015年第2期
7月1日 大図書館の羊飼い SSS”心地よい時間” 6月30日 大図書館の羊飼い SSS”3人一緒に” 6月21日 sincerely yours short story「ちちの日」 6月16日 大図書館の羊飼い SSS”俺たちのペースで” 6月14日 sincerely yours short story「母娘の会話・温泉編」 6月12日 sincerely yours short story「お泊まりデート」 6月7日 FORTUNE ARTERIAL SSS”天国と地獄” 5月18日 FORTUNE ARTERIAL SSS”季節の今昔” 5月14日 sincerely yours short story「台風一過」 5月12日 sincerely yours short story「台風の夜」 5月11日 sincerely yours short story「静かな夜」 5月8日 sincerely yours short story「わたしはどっち?」 5月5日 sincerely yours short story「こどもの日」 5月4日 FORTUNE ARTERIAL SSS”風邪のご褒美” 4月29日 FORTUNE ARTERIAL SSS”季節外れの暑さ” 4月2日 sincerely yours short story「エイプリルフールに嘘をつかない訳」
7月1日 ・大図書館の羊飼い SSS”心地よい時間” 「朔夜、寝ちゃった?」 「そうみたいだな」  慶の向こう側で寝てる朔夜は、とても幸せそうな寝顔だった。  けど…… 「慶の腕ってそんなに抱き心地いいのかな?」 「俺が解る訳無いだろう?」  そう、朔夜は慶の腕をとって、抱くようにして眠っている。 「参ったなぁ、これじゃぁ身動き出来ないな」  女の子に抱きつかれて困るなんて、慶ってば贅沢だよね。 「それじゃぁ私がこっちの腕を使ってもいいのかな?」 「よしてくれ、本当に眠れなくなる」 「むっ」  私の誘いを断るなんて、慶のくせに生意気だぞ?  でも、今日は朔夜の誕生日だし、なによりこの並びを希望した朔夜の、その意味を  理解してるからこそ。 「今日は我慢かな」 「何がだ?」 「慶はわかんなくていいの」  そう言って私は起き上がる。 「のぞみ?」 「ほら、慶。朔夜を起こさないようにそっと移動して」  真ん中にいた慶を布団の端に移動させる、朔夜はそれについて行くように布団の真ん中に来る。 「これでよし、っと」 「何するんだ?」 「慶が寝ぼけて朔夜を抱きしめないように、朔夜を守るだけよ」  そう言いながら、朔夜の背中に抱きつくように私は横になる。  そしてそっと、朔夜を背中から抱きしめるようにする。 「俺がそんなこと……」 「絶対無いって言い切れる?」 「……」 「ほらね? これなら朔夜を抱きしめるのに私が邪魔でしょう? これで安心」 「……のぞみごと抱きしめたらどうする?」 「慶に甲斐性があるなら良いよ?」 「……普通に眠るように善処します」  慶の反応にちょっとムッとなる。  けど……私と慶の関係はあのときに…… 「それじゃぁ、寝るわよ慶」 「あぁ、おやすみ、のぞみ」 「……うん、おやすみなさい、慶」  今は3人一緒に居ることが心地よいから。  いつまでもこうじゃ居られないのも解ってる、けど。  今は……今だけは、良いよね?  朔夜と、朔夜の向こう側に居る慶の暖かさを感じながら、私は目を閉じた。
6月30日 ・大図書館の羊飼い SSS”3人一緒に” 「ごちそうさまー」 「ごちそうさま」 「お粗末様でした」  いつものように夕食をみんなで食べ終わる。 「それじゃぁ食器を運んじゃうね」 「うん、お願い」 「ふぅ、朔夜のご飯はいつ食べても美味しいな」 「ありがとう、慶ちゃん」  この後は何も無ければ解散になって、慶ちゃんも部屋に戻っちゃう。  ……やっぱり忘れられちゃってるのかなぁ。 「……仕方が無い事だよね」 「何か言った、朔夜?」 「ううん、なんでもないよ?」  4月に家出同然で汐見に来て、無理矢理慶ちゃんとのぞみちゃんの家に転がり込んで  それからもバタバタとしちゃって、やっと最近落ち着いてきたばかり。  わたしもつい先日まで忘れてたくらいだもん、慶ちゃんとのぞみちゃんも覚えて無くて  当たり前だよね、きっと。 「さてと、慶。アレお願いね」 「了解。ちょっと部屋に行ってくる」 「あ、うん。いってらっしゃい……?」  部屋に行ってくる? 「それじゃぁ朔夜はそこに座って待ってて」 「う、うん」  わたしは言われたとおりに部屋のテーブルの横に座る。  いったい何が起きるんだろう?  そう思ってるとすぐに慶ちゃんが帰ってきた。  そして部屋に入ってくると、  パンッ! パンッ! 「きゃっ!?」  大きな何かがはじける音がして何かがわたしに襲いかかってきた。 「……クラッカー?」 「「朔夜、誕生日おめでとう!」」 「あ……覚えててくれたんだ!!」 「もちろんだよ、私が朔夜の誕生日を忘れる訳なんてないでしょう? 慶じゃあるまいし」 「俺だって覚えてるぞ?」 「そう、前日まで忘れてた人が何をいうのかなぁ?」 「ちょ、のぞみ!?」  2人のやりとりに、胸が熱くなる。そしてそのままわたしは2人に抱きついた。 「朔夜っ!?」 「ありがとう、慶ちゃん、のぞみちゃん。とっても嬉しいよ!!」  のぞみちゃんが買ってきてくれたケーキは今クラスで噂になってるお店のもので  慶ちゃんの部屋の冷蔵庫に隠してあった物でした。 「せっかくだし驚かすのもいいかなぁ、って想ったんだけどさ」 「ちょっと罪悪感が、なぁ」 「罪悪感? 何か悪いことでもしてたの?」 「あはは……朔夜がね」 「わたし?」 「なんだか1日ずっと不安そうでさ、黙ってるの結構きつかったんだよね」 「そ、そんなに不安そうだった?」 「あぁ、いつもより挙動不審だったな」 「慶ちゃんまでそう思ったの?」  気づかなかったけど、そんなに不安そうだったのかな、わたし。 「でもさ、驚かせる機会なんて早々無いし、そういう誕生日もいいかなぁ、って慶が」 「のぞみが発案したんだろう?」 「慶だって乗り気だったじゃないの?」  2人の言い合いが始まった。 「でも、2人ともありがとうね。驚いちゃったけどとっても嬉しかった」 「……」 「……」 「慶ちゃん、のぞみちゃん?」 「朔夜、なんてよい子なの!!」 「の、のぞみちゃん!?」  突然のぞみちゃんに抱き寄せられた。 「ほんと、可愛い!」 「ちょっと、苦しいよぉ」  本当は苦しくないけど、恥ずかしかったからそういうことにした。  でも、本心は……のぞみちゃんのこのおっぱいに抱かれるのに抵抗があったからだ。  これで一つ違いなだけなんだもん。  わたしのおっぱいが来年こうなるなんて……思えないし。 「朔夜?」 「ううん、なんでもないよ?」  あれ? なんだか2人とも顔が引きつってるような気がするんだけど……きのせいかな? 「そろそろ時間も遅いしお開きにしようか」 「そうだな、明日も授業あるし」 「……ねぇ、慶ちゃん、のぞみちゃん。お願いがあるんだけど、いいかな?」 「なに?」 「せっかくの誕生日の夜だから、ね……」  私は思いきってお願いを言うことにした。 「一緒に寝ても、いい?」 「ちょ、朔夜? いきなり何を言うの?」  私のお願いにのぞみちゃんは慌て出す、慶ちゃんは言葉が出ないみたい。 「誕生日に大人の階段を上ろうとするなんて……」 「んっと、のぞみちゃんの言ってることはよく分からないけど、昔みたいに3人で寝るの、駄目かな?」 「あ゛……」 「のぞみちゃん?」 「あ、そ、そうね、3人で川の字になって寝る、あれね。あは、あはははは……」 「のぞみ?」 「けーいー? それ以上言うと……解ってるわよね?」 「……」 「良いわよ、せっかくの誕生日の夜ですものね、昔みたいに一緒に寝ましょう」 「そうだな、朔夜とのぞみが良いなら」 「うん! ありがとう、慶ちゃん、のぞみちゃん!」 「で、布団は俺のを持ってくるわけだな」 「あったりまえでしょう? 女の子の布団で眠りたいなんて慶はそう言う趣味の持ち主なの?」 「そういうわけじゃ無いんだけど……」  のぞみちゃんとわたしの部屋の、いつも食事をとってるフローリングの部屋。  ここで3人で寝ることになりました。  それから寝る準備をして…… 「俺が真ん中なのか?」 「そうだよ、だって慶ちゃんいつも真ん中だったじゃない」 「そうだったっけか? 今日は朔夜の誕生日だし、朔夜が真ん中でいいんだぞ?」 「いいの、いつも通りで、ね」  諦めたのか、慶ちゃんが真ん中で横になって、わたしはその横に滑り込みました。 「ふふっ」  なんだか昔を思い出すなぁ、小さい頃はいつもこうして慶ちゃんの横で眠ってた気がする。  それに、慶ちゃんが使ってるお布団だから、慶ちゃんの匂いがする気がする。 「電気消すわよ、それと慶。変なことしたら殴るからね?」 「変なことってなんだよ?」 「けーいー?」 「すみませんでした」  慶ちゃんが謝るのと同時に部屋の電気が消されました。 「おやすみ、朔夜、慶」 「おやすみなさい、慶ちゃん、のぞみちゃん」 「……おやすみ」  慶ちゃんにおやすみって言ってもらう、それがなんだか心地よくて。 「慶ちゃん……」  慶ちゃんの腕に抱きつきながら、わたしは眠りにつきました。
6月21日 ・sincerely yours short story「ちちの日」 「おはよう」 「おはよう、達哉。今お茶煎れるからね」 「ありがとう」  キッチンから良い香りのする日曜の朝、俺はソファに座って新聞を手に取る。 「はい、お茶」 「ありがと……っ!?」  シンシアの姿を見て受け取った湯飲みを落としそうになった。 「えっと、シンシアさん? その格好は?」 「似合うでしょ?」  そう言って腰に手を当て、反対側の腕は頭の後ろに回す、いわゆるグラビアのポーズを取るシンシア。  その格好は、ビキニ姿だった。 「そりゃ似合うけど……ん?」  以前海水浴に行った時にも見たことのある姿だが、なんだか違和感を感じる。 「もぅ、達哉のえっち」 「いや、その姿でそう言われてもさ……どうしても目が行っちゃうだろう? だってシンシアなんだしさ」 「……もぅ、達哉ったら正直なんだから」  そう言って顔を赤くするシンシアだった。 「で、どうして水着なんだ?」 「ほら、敵を騙すには味方からって言うでしょう? だからね、味方を騙すには自分から騙さないと、ね」 「意味が解らな……あ」  何となくこの後の展開が想像できた。 「なぁ、俺はここに居ないとだめか?」 「居てくれると可愛い娘の姿が見れるわよ?」 「やっぱり……」 「お母さんっ!」  そのとき脱衣所からリリアが出てきた。 「どうして着替えが水着になってるのよ!」  リリアも去年の夏に見たことのある、可愛いフリルのスカート付きのビキニ姿だった。 「これで役者はそろったわ♪」 「え? あ、お父さん!?」 「あぁ、おはよう、リリア」 「あ、おはようございます」  朝の挨拶をするとリリアはちゃんと返事をしてくれる。  同僚の娘さんは反抗期らしく返事をしてくれないって愚痴られたことがあるけど、その点我が家は安心だ。 「じゃ、無くって、お母さん!」 「なぁに?」 「どうして着替えが水着になってるのよ?」 「それはね、達哉の為よ」 「え?」  シンシアの言葉に俺は間抜けな声を上げてしまう。 「お父さんの、ため?」 「そうよ、今日は何の日か知ってるでしょう?」 「うん……父の日でしょう?」 「そう、だからね」  シンシアは胸を張って言葉を続けた。 「父の日だから、達哉に日頃のお礼をかねて、成長を見てもらおうと思ったの」 「……」 「……」 「あら? 2人ともどうしたの?」 「ねぇ、お母さん。もしかして父の日って……」 「ご名答♪」  シンシアの言う父の日って、そっちの事か……  と、口に出してツッコミしたくなるが、それをすると怖いことになりそうな気がした。  我が家に男は俺しか居ない、こういう話題で肩身が狭くなるのは俺だけだ。 「お母さんがこんなんでも、ものすごい科学者だなんて信じられなくなるよね」 「リリアちゃん、酷いっ!」 「……」 「ところで、達哉。私たちの姿見てどう思う? せっかくのちちの日ですから堪能しても良いのよ?」 「……」  シンシアは胸を張る、リリアは両手で胸を隠す。 「俺にどうしろと?」 「素直になれば良いのよ? 達哉(はぁと)」 「素直に、か……シンシアの水着姿はやっぱり綺麗だよな」 「えっ? あ、ありがとう……」 「リリアは可愛いな、自慢の娘だよ」 「か、かわっ……!?」  素直に感想を伝えたけど、なんだか逆に空気が重くなった気がした。 「……達哉は鈍感なのにこういうときだけ言うのよね」 「うん……お父さんって鈍感なのにね」 「なんだか2人の意見が胸に刺さるんだけど」  俺ってそんなに鈍感なんだろうか? 「ねぇ、せっかくのちちの日だから達哉にプレゼントがあるの」 「拒否権は?」 「なんで拒否権の話するのっ?」 「いや、シンシアの言う父の日の発音に嫌な予感がしたから」 「お父さんの危機察知能力だけはすごいよね」  リリア、それは褒めてるのか? 「コホン、話を戻すわよ。実はね、達哉の為に着たこの水着なんだけどね……胸が少しきついのよ」 「えっ?」  シンシアの告白に驚きの声を上げたのはリリアだった。 「これじゃぁ夏に海水浴に行っても外では水着着られないわ。だから新しいのが欲しいのよ」 「……それで?」 「安心して、達哉に買って欲しいって言ってるわけじゃないわ。ちゃんと自分のお金で買うわ。  それでね、達哉へのプレゼントはね……私に着せて脱がせたい水着を選ぶ権利よ♪」 「お母さん!? 何か色々とおかしいよ!?」 「あぁ、俺も微妙におかしいとおもった」 「微妙なの?」 「だってシンシアだぞ?」 「……そうだね、お母さんだもんね」 「ちょ、2人とも酷いっ!」  シンシアはその場にしゃがみ込んで泣き真似をした、と思ったらすぐに立ち上がった。 「ふふ、ふふふっ」 「お母さん、とうとう壊れちゃった?」 「リリアちゃん♪」 「な、なに?」  シンシアの雰囲気に一歩後ずさるリリア。 「せっかく水着を買いに行くんですもの、リリアちゃんも新しいのが良いわよね?」 「えっと、わたしは去年ので……」 「もちろん、サイズが合わなくなってるだろうし、お母さんが買ってあげるわ♪」 「……」  シンシアの一言にリリアはその場に蹲った。 「……いいもん、わたしは去年のがまだ着られるから」 「はぁ」  いつもの事ながら騒がしい朝だな。楽しくて良いんだけど、そろそろ収拾させないと朝ご飯  食べれそうに無い。 「シンシア、リリア。今日の昼は外でランチをご馳走してもらおうかな」 「達哉?」 「お父さん?」 「父の日だしな、たまにはそれくらいの贅沢言っても良いだろう?」 「あ、うん。それくらいはお安いご用だけど……」 「その後はランチのお礼に2人の水着を買いに行こう」 「え?」 「シンシア、俺が選んだ水着を着てくれるんだろう? 楽しみにしてるからな」 「達哉が強気!? でもなんだか素敵♪」 「リリアには可愛いの選んであげるな、着るかどうかはリリアに任せる」 「あ、うん……」 「なんでリリアにはそこまで甘いの!?」 「素直で可愛い娘だからな」 「それって私は素直じゃないって言ってるような物じゃ無い!」 「そこで可愛いって台詞を否定しないところがさすがお母さんだよね」 「シンシア、そろそろ朝ご飯にしないか? あんまり朝が遅くなるとランチが食べれなくなるからな」 「あ、うん、そうよね。準備しちゃうわね。リリアちゃんも手伝って」 「はぁい……って、その前にわたしの着替え返してよ」 「可愛いショーツをここで返していいの?」 「あ、だめっ!!」  こうして父の日の日曜日は始まった。  ただ、このとき俺は失念していた。  ……女性の水着売り場にこのメンバーで行く事の、その意味に。
6月16日 ・大図書館の羊飼い SSS”俺たちのペースで” 「私ですね、こんな誕生日を夢見てたんですよ。  海の見えるホテルの最上階のレストラン……って、このシチュエーションは嬉野さんの  持ちネタでしたね。  コホン、ホテルのレストランで着飾った2人。  ワイングラスで乾杯してフルコースを食べながら語り合う。  そして愛しの人から誕生日おめでとう、って花束を渡されたりして。  部屋、予約してあるんだよって言われたりもしちゃって、ワインで酔った私をちゃんと  エスコートしてくれて、そしてホテルの部屋で……」 「佳奈はその方が良かったか?」 「いえいえいえ、これは夢見てただけですから。理想と現実って言うのも理解してますよ。  私としては今の方が現実っぽくて良いと思いますよ」  こんな雰囲気がある会話でもりあがる、誕生日の夜の食事。  なんだけど…… 「京太郎さん、お肉のおかわり行ってきますね♪」 「あぁ、俺は飲み物を補充してくるよ」 「おねがいしまーす」  佳奈の誕生日の夜の食事は、焼き肉食べ放題のレストランで過ごしていた。 「いやぁ、色気ないですよね」 「佳奈は色気より食い気だろう?」 「いやいやいやいや、私だって色気ありますよ?」 「……」 「ちょ、京太郎さん? 今どこ見ました?」 「言って良いのか?」 「きー、悔しいからお肉いっぱい焼いちゃいますよ!?」  そう言いつつも、焼いてある肉を自分の小皿に取る。 「おい、それは俺が焼いてた肉だぞ?」 「だいじょうぶですよ、京太郎さん。早い者勝ちなんて言いませんから、はい♪」  肉があったところに肉を乗せる佳奈。 「生じゃ食べれないだろう?」 「すぐ焼けますよ」 「それも佳奈がとるんじゃないか?」 「ふっ、焼き肉の網の上は戦場なんですよ、京太郎さん」 「それ、早い物勝ちって言ってるような物じゃないか?」 「そうかもしれませんね、でもおかわり自由なんですから大丈夫ですよ」 「ふぅ、満足です」  佳奈はお腹をさすりながら歩く。 「食べ過ぎてないか?」 「大丈夫です、食べた分は胸につく予定ですから」 「……」 「ちょ、京太郎さん? 無言が一番傷つくんですよ!?」 「あ、いや、そういうわけじゃ無くってさ……」  こんな誕生日の食事会で良かったのだろうか、と聞きたくなったのを止めた。 「ねぇ、京太郎さん。美味しい物を美味しく食べれる、幸せですよね」 「そう、だな」 「私は、誕生日にこうして一緒に過ごしてくれるだけで幸せですよ?」 「……それじゃぁ肉はいらなくても大丈夫だったか?」 「お肉は別腹です♪」  佳奈は佳奈だった。でも。 「……そうだな、幸せだな」 「京太郎さん?」 「大好きな佳奈が、大好きなものを幸せそうに食べてる、それを見ることが出来るんだから  幸せだよな」 「ぐはっ!」 「佳奈?」 「京太郎さん……お腹いっぱいの所にジャブで攻めないでくださいよ〜」 「今のどこに攻めの要素があったんだ?」 「自然とその言葉が出るのが京太郎さんの怖いところなんですよ」 「そうか?」 「こうなったら仕返ししちゃいますよ?」  そう言うと佳奈は一度コホンと咳払いしてから姿勢を正す。 「私が作ってくれたご飯を大好きな京太郎さんが美味しいって言いながら食べてくれる。  それってとっても幸せですよね」 「……」  上目遣いに、頬を赤くしながらそう言う佳奈に、俺は…… 「ぐはっ、言ってる私の方がダメージがっ!」 「……」 「……」 「なぁ、佳奈」 「はい」 「俺たちは俺たちのペースで進んでいけば良いよな」 「そうですね、焼き肉食べ放題のお店で過ごす誕生日の夜も、私たちらしいですもんね」 「あぁ、そうだな。でもさ、佳奈」 「はい?」 「ホテルのディナーはプロポーズの時まで待ってくれ」 「……はい、楽しみにしてますね、京太郎さん」
6月14日 ・sincerely yours short story「母娘の会話・温泉編」 「ん〜、朝温泉って気持ちいいわね〜♪」 「朝早く入るのは良いけど、わたしを起こす必要無いんじゃない?」 「えー、だってリリアちゃんと一緒に入りたかったんだもん」  泊まりがけの旅の2日目の朝早く、わたしはお母さんに起こされた。 「ねぇ、リリアちゃん。一緒に朝風呂……朝温泉に行きましょう♪」 「……眠い」 「今ならきっと貸し切りよ、それに温泉に入れば目が覚めるわ。だから行きましょう♪」 「ん〜」 「それに、今の格好のまま寝てたら恥ずかしい思いするのはリリアちゃんよ? ほら、起き上がって」  そう言うとお母さんはわたしの着崩れてた浴衣を直してくれた。 「はい、じゃぁ行きましょう!」 「そりゃ、着崩れた浴衣を直してくれた事にはお礼は言うけど……」  わたしはまわりを見回す。  今居る露天風呂に他のお客は居ない。 「こんなに早く入らなくても」 「だって、貸し切りじゃない、その方が遠慮いらないじゃない」 「何の遠慮なの?」 「ふふっ」  その問いにお母さんは答えなかった。 「でも、ここの露天風呂はちょっと残念よね」 「え、何が?」 「だって、見渡しが良くないんですもの」  湖の高台に面したホテルの露天風呂なのだけど、周りに高い木々が生えているため  その木々の隙間からしか湖が見えない。 「でも、隠すにはこれくらいしないと駄目じゃない?」  湖から高性能の望遠鏡を使えばもしかすると除かれる心配があるかもしれない。  そう考えればこの木々の密度では心許ないと思う。 「その代わり見晴らしが良くないじゃないの、せっかくの湖と山々がもったいないわ」  そう言うとお母さんは湯船から立ち上がる。 「ちょ、お母さん?」  お母さんは身体をタオルで隠すこと無く、露天風呂の縁の岩に腰掛ける。 「誰かに見られちゃうよ!?」 「大丈夫よ、ものすごく残念ながら混浴じゃないし、見られても女同士よ」 「……一応聞くけど、なんで混浴じゃないのが残念なの?」 「達哉と入れないから」 「そう言うと思った……っていうか、混浴じゃ他の男の人にも見られちゃうよ?」 「ほら、そこは重力制御の応用で視線が届かないよう光を屈折させれば大丈夫よ」 「……あのさ、その応用技術ってわたしが生まれた時代でも小型実用化はされてなかったよね?」 「あら、そうだったかしら?」 「……はぁ」  お母さんに言うだけ無駄だろうなぁ、と思った。 「ん〜風が気持ちいいわ〜。リリアちゃんも座ってみたら?」 「そうね」  いくら露天風呂といってもずっと温泉につかってられる訳じゃ無い。  わたしもお湯から立ち上がって手近な岩に腰掛ける。  もちろん、タオルで前を隠して。 「もぅ、私しかいないんだし、見られても女同士なのよ?」 「……恥ずかしいんだもん」 「そう」  お母さんはそれ以上追求してこなかった。 「風、気持ちいいでしょう?」  身体に当たる湖を渡ってきただろう、その風は火照った身体にとても気持ちよい。 「せっかくだし、もう少しお湯につかろうかしら」  そう言うとお母さんはお湯に身体を鎮める。 「……」  たぷんという音がした気がする。  形の良い胸が一度お湯に浮かぶ、それから身体に引っ張られるようにお湯に沈んでいく。 「……」  わたしは何も言わずに外の湖に視線を動かした。  このままお母さんを見ていると精神的に追い詰められそうな気がしたからだ。  少しほてりが治まってしまったので、わたしもお湯につかる。  湖と、その向こう側の山々が明るくなって行く。  もうすぐ日の出なのだろう。 「リリアちゃん、そろそろ上がりましょうか」  そう言って立ち上がるお母さんは今回もタオルで身体を隠さなかった。  一児の母であって、すでに……のはずなのに。  あ、歳のことを考えると妙に勘の鋭いお母さんに何されるかわからないから、思考の段階で  そこだけ切り離しておかないと。  それはさておき、同姓から見ても大きいだけじゃ無く形が良いと思える胸。  引っ込むところは引っ込んでいて出るところは出ているプロポーション。  わたしの少しだけ歳の離れた姉で通用するレベル。 「リリアちゃん?」 「ううん、なんでもないよ?」  わたしも将来あの体型に近づけるんだろうか……特に胸が。 「そろそろ達哉が起きてるころよ、部屋に戻りましょう」 「……うん」 「ねぇ、リリアちゃん」 「なに?」 「ありがとうね」 「……どういたしまして」  部屋に戻るとお父さんはまだ眠っていた。  わたしは念のため部屋備え付けのバスルームの脱衣所で洋服に着替える。  部屋に戻ってから窓の外を見る、露天風呂より高い所の部屋なので、さっきより  湖や山々がはっきりと見える。  そのときお父さんが起きてきた。   「あ、お父さん。おはようございます」
6月12日 ・sincerely yours short story「お泊まりデート」 「〜♪」  気分良く洗濯物をたたむ。  今日は私の誕生日、この日の為に達哉はお休みを取ってくれている。  この後のデートの約束もしてくれているし、とっても楽しみな1日になりそう。  夕方にはリリアちゃんも学園から帰ってくるけど、それまでは達哉と2人っきり。 「んふふ♪」  たまには甘えちゃおうかなぁ〜  そんなことを思ってると達哉がリビングまで降りてきた。 「あ、達哉。お茶にする?」 「お茶もいいけど、シンシア。そろそろ準備をしてもらおうかと思ってるんだ」 「もうそんな時間?」  お昼からデートに出かけるって言ってたけど、まだお昼まで時間はある。 「そろそろネタばらししても良い頃だな、シンシア」 「なぁに? サプライズを仕込んであるの?」  冗談交じりに私はそう言う。 「あぁ、それじゃぁデートに行こうか、温泉宿まで」 「……えっと、温泉宿?」 「あぁ、今回のデートは泊まりがけの旅行だよ、それが俺とリリアからのプレゼント」 「……」 「シンシア?」 「あ、うん。そのプレゼントは嬉しいけど、ちょっと足りないかな」  そう、旅行好きの私に旅行をプレゼントしてくれることはとてもうれしい、けど。 「だって、リリアちゃんが居ないんですもの」  今年の誕生日は週末とはいえ、平日の金曜日。  休みを工面できる達哉や、専業主婦の私は問題ないけど、学園に通ってるリリアちゃんは  一緒に出かける事は出来ない。 「まったく、シンシアは優しいんだな。リリアの言うとおりだよ」 「?」 「この旅行のプレゼントは、俺とリリアからだって言ったよな」 「えぇ」 「でも、学園に行ってるリリアは一緒に行くことは出来ない」 「……」 「シンシアはきっと”足りない”って言うってリリアは予想してたよ」 「そう」  娘に解られてしまっていた。恥ずかしい気持ちもあるけど、嬉しい気持ちもある。 「だから、リリアも旅行には参加する」 「え? でも今日は学園で……」 「リリアからメッセージを預かってるから、今送信する」  そう言うと達哉は滅多に開かない、ホロウインドウを展開し操作する。 「お母さん、お誕生日おめでとう。プレゼントは気に入ってもらえたかな?  きっと足りないとか言い出すと思うけど、大丈夫。そこもプレゼントの内だから」 「プレゼントの内?」 「わたしとお父さんからのプレゼントは旅行、そしてわたしからのプレゼントはお父さんと  二人っきりの時間だよ」 「……リリアちゃん」 「わたしは学園から帰ってきてすぐに追いかけるから、それまでの時間、お父さんと二人っきりで  デートしてね」  動画メッセージはそこで終わった。 「シンシア、俺とリリアのプレゼント受け取ってくれるかい?」 「……もちろんよ、達哉。ありがとう。リリアちゃんにも後でちゃんとお礼言わないとね」 「それじゃぁ出かける準備しようか?」 「えぇ」  私は部屋へ戻ろうとした。そのときホロウインドウが急に開いた。 「追伸、お父さんとの時間を自由に過ごすのはいいけど、わたしが行くまでだからね?  それまでお父さんに迷惑かけちゃだめだからね?」  わざわざ時間をずらして再生させるようにしてまで、注意して来たリリアちゃん。  何を思ってそうしたのかを考える……までもないわね。 「……ふふっ、リリアちゃんもまだまだ甘いわね」 「シンシア?」 「せっかくの誕生日のデートですもの、リリアちゃんが来るまでは達哉は独り占めなんだから!」  もちろん、リリアちゃんが来ても独り占めはさせてもらうんだからね?  そのときの拗ねるリリアちゃんの顔を想像して。  誕生日の今日だけじゃなく、明日も楽しい日々が続く、そう確信した。
6月7日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”天国と地獄” 「あぅ……っ」  俺の下にいる瑛里華が声をあげる。 「ん……んっ」  俺の動きに合わせて艶やかな声が耳に響く。 「や、孝平っ、ちょっと強い」 「これくらい?」 「う、うん……気持ちいい」  瑛里華のリクエスト通りの強さにしていく。 「あ……んんっ……んぁっ!」 「強すぎたか?」 「違うの……気持ち、よすぎて」  大丈夫なら同じ強さで。 「んっ……だ、だめっ そ、そこはっ、あっ」 「はぁはぁ……気持ちよかった」  うっすらと汗ばんでいる瑛里華と、俺は別な意味で汗をかいていた。 「孝平、どんどん上手くなっていってるわね」 「その分俺はどんどん辛くなっていく気がするんだけどな」 「……やっぱり疲れてる時はしない方が良いのかしら?」 「いや、体力的には問題ないんだよ」  そう、力を使うとは言っても体力的には問題ない。 「そう? よくわからないけど、大丈夫ならまたお願いしてもいい?」 「……あぁ」 「ありがとう、孝平。んーーっ、肩も背中もすっきりした」  そう、マッサージをすること自体は全く苦にならない。  問題なのはマッサージを受けてるときの瑛里華の艶やかなうめき声だった。  瑛里華の誕生日が日曜ということもあって、デートをしようという話にはなったのだけど  日曜日を休むために俺と瑛里華は精力的に生徒会の仕事をこなした。  先取り出来る仕事にも手をつけ、なんとか日曜日1日を開けることに目処がついたのが前日の  土曜日の夜だった。 「これで明日はなんとかなるな……あ」 「どうしたの、孝平」 「……ごめん、明日の予定何も考えてなかった」 「別に予定なんていらないわよ?」 「瑛里華?」 「孝平が私と1日ずっと一緒に居てくれれば、それだけで満足よ」 「安上がりだな」 「家計に優しい彼女さんでしょう?」 「でも、それじゃぁ申し訳ないな……そうだな、明日は瑛里華のお願いを叶えるよ」 「いいの?」 「あぁ、出来る範囲でだけどな」  念のためそう注意はしておいた。 「ねぇ、孝平。今日は私のお願い聞いてくれるのよね?」  そうして最初のお願いはマッサージだった。 「さて、と。次はどんなお願いを叶えてもらおうかしら?」 「お手柔らかに頼むよ」 「そうね……孝平。ベットに来て」  ベットに座っていた瑛里華に言われたまま、俺もベットに向かう。 「えい」 「っ!」  瑛里華に抱きしめられたと思ったらそのままベットに押し倒された。 「瑛里華?」 「ねぇ、孝平……午前中はずっとこうしていても、いい?」 「いい、けど……」 「けど?」 「デートに出かけなくてもいいのか?」 「ふふっ、今もデートの最中よ? 彼氏のお部屋でのデート♪」  そう言うと瑛里華は俺を抱きしめてくる。 「孝平に包まれてると、なんだか安心するわ」 「今は俺が瑛里華に包まれてるけどな」 「もぅ……どっちでもいいの……ふぁ」  瑛里華が小さな欠伸をもらした。 「眠いのか?」 「そう、かも……昨日までハードスケジュールだったしね」 「少し眠るか?」 「ん……ハードスケジュールをこなして空けた日に寝るのはもったいない〜。  けど、悪くない……かも」  そう言うと瑛里華はそっと目を閉じた。 「ん〜、孝平〜」 「なに?」 「ごめん、少しだけ孝平の胸で眠らせて」 「いいよ、お姫様のお好きなように」 「ん、ありがとう……」 「……」  頭の上から瑛里華の寝息が聞こえる。  なんでも寝顔を見られたくないから、という理由で俺に抱きついたままの瑛里華なのだけど。 「天国と地獄ってあるんだな」  瑛里華はまるで俺を抱き枕のように抱いて眠っている。  俺の顔は瑛里華の胸の所に抱かれているし、俺の足に自分の足を絡ませている。  柔らかい感触を顔に、すべすべの感触を足に。  そして瑛里華の香りに包まれている俺は。 「……」  瑛里華を襲いたくなる欲求と戦っていた。  疲れて眠っている瑛里華を抱くわけにはいかないし、それは信頼してくれている瑛里華に対しての  裏切りだと思う。  早く目覚めて欲しいとも思うし、このままゆっくりと寝かせてあげたいとも思う。 「ん……」  頭の上から瑛里華の声が聞こえる、起きたかと思ったけどそうではないようだ。 「……」  俺は目を閉じる、けど、やっぱり眠れそうに無かった。
5月18日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”季節の今昔”  桐葉との2人だけの夜のお茶会。雨が降ってきたので窓を閉めたら蒸し暑くなってきた。 「まだ5月だってのに蒸し暑いな」 「そうね、もう夏に入ってるのだから暑くて当たり前ね」 「夏?」  5月で夏と言うには少し早すぎると思う、確かにここ数年5月のゴールデンウィークの  頃から夏日が多いので夏と言っても差し支え無いかもしれない。 「でも、夏は梅雨明けからだろう?」 「そうね、現在の季節ではそうなってるわね」 「現在って……昔は違うのか?」 「どうかしら? 私もすべてを覚えてる訳じゃ無いから」 「……そうか」 「気にすること無いわ、知識ならちゃんと覚えてるもの」  そう言うと桐葉は説明し始めた。 「ねぇ、孝平。立夏って知ってる?」 「あぁ、季節の変わり目だもんな」 「そう言う意味でもあるのだけど、二十四節季の一つなのよ」 「それは前にも聞いたな、春分の日や秋分の日も二十四節季の一つなんだよな」 「えぇ、そうよ」 「立夏は夏の始まり、夏の気配が感じられるころなの。だから暦の上でもこの立夏から  夏の季節なのよ」 「あれ、立夏って確か5月じゃなかったっけ?」 「そうね、5月6日。この日から3ヶ月は夏、ね」 「暑くなる訳だな」  正直言うと桐葉の説明する季節の話では実感出来ないけど、この暑さなら夏だって  実感出来る。 「尤も、今と昔じゃ暦にずれがあるから、必ずしも当てはまらないわ。それに今の国の  機関は、夏を6月から8月と指定してるのよ」 「え?」  それは初耳だった。 「だから、この国では今は正式に春、だけど暦の上では夏」 「なんだか難しいな」 「えぇ、考えると難しいけど、私たちには関係ない、どうでも良い事よね」 「確かに、今は桐葉と居ることの方が大事だしな」 「……」  桐葉が無言で紅茶を口に運ぶ、その頬が赤くなってるのがわかった。 「そういえば、生徒会にこんな要望あったな。夏服の切り替えを自由にさせてくださいって」 「別に上着を脱げばいいだけじゃないかしら?」 「女子用もたぶんそうだと思うけどさ、夏服と冬服じゃ生地の厚さとか違うんだよ」 「そこまで調べてる訳じゃ無いわよ?」 「そうだな、だから今夏服のシャツを着ても別に問題じゃない」 「それじゃぁ、その要望は無意味なのね」 「ぶっちゃけて言えばそうだな、でも真面目な生徒なんだろうな」  修智館学院では夏服への切り替えは6月だ、その前の夏服を着ないのは一応、校則で  決まっているからだ。  でも、桐葉の言うとおり上着を脱げば男子は夏服っぽくなるし、その辺の取り締まりは無い。 「桐葉も暑かったら着る服、変えてもいいんだぞ?」 「別に、変える必要はないわ」 「暑い日差しの下での桐葉、暑そうだよな」  普通の女子生徒より暑そうに見えるのは、やはり黒いストッキングのせいだろう。 「女はね、むやみに肌を見せない物なのよ」 「そうか? でも夏服の時は?」 「暑いから良いの」 「言ってること矛盾してない?」 「むやみにじゃなければ良いのよ」 「そう、だな。俺も他の男共に桐葉の肌を見せたくないからな」 「……なんだか暑いわね」  桐葉の顔は、赤くなっていた。  それを見て、俺自身恥ずかしい台詞を言ってしまったことに気づいた。 「もう、夏だからな」  きっと俺の顔もきっと赤くなってるだろう。  そう、熱いのは夏だから。
5月14日 ・sincerely yours short story「台風一過」 「ただいま」 「おかえりなさーい」  家に帰ってきたわたしはまっさきに自分の部屋に向かう。  2階にもある洗面所で手洗いを済ませた後、部屋で制服を脱ぐ。 「ふぅ、暑いなぁ」  先日満弦ヶ崎を襲った台風、雨風は強かったものの特に被害らしい被害は無かった。  けど、台風が通過した後、まるで夏が来たような暑さが満弦ヶ崎を襲った。 「まだ5月なのに……っと」  部屋着に着替えようとして、止める。  どうせシャワーを浴びてから着替えれば良いのだし、この時間はお母さん以外は  家には誰も居ない。  わたしは下着姿のまま着替えセットをもってリビングに降りた。 「おかえりなさい、リリアちゃん」 「お母さん、何してるの?」  リビングに入ったわたしが見たのは庭に居るお母さん。  ホースをもっていて、水をまいてる? ううん、あれは 「物置で見つけちゃったから使ってみようかなぁって思ったのよ」  それは庭などで使う、家庭用子供プールだった。 「確かに暑いからプールに入りたくなるのはわかるけど、別にシャワーでもいいんじゃない?」 「もぅ、リリアちゃんは風情が無いんだから」 「子供用プールに風情ってあるの?」 「浪漫よ!」 「……わたし、シャワー浴びてくるね」 「あ、ちょっとまって、リリアちゃん」 「なぁに?」 「せっかくだから一緒にはいらない?」  にこにこした顔でお母さんはプールに誘ってくる。 「さすがに二人ではいるには小さいんじゃないの?」 「それがそうでもないのよ、思ったより大きいのよ?」  そう言われてわたしも気になったから庭に降りてみた。 「思ったより大きいね」 「でしょでしょ? だから昔みたいに一緒に入りましょう♪」  小さい頃、お母さんが用意してくれたプールで一緒に遊んだ記憶が思い浮かぶ。 「たまには、付き合ってあげるのもいいかな?」 「ありがとう、リリアちゃん! それじゃぁ入りましょう」  そう言うとお母さんは服を脱ぎだした。 「お母さん!? 何してるのよ!」 「何ってプールに入る準備よ」 「だからって庭で脱ぐ事ないでしょう? 水着に着替えるのなら部屋で着替えないと!」 「あー、それもそうよね。いくら見られる心配無いからっていってもやっぱり恥ずかしいものね」 「見られる心配って……まさか」 「えぇ、今はセキュリティレベルはSに設定してあるわ」  朝霧家のセキュリティレベルは、お母さんが組んだシステムで、Sともなると登録された  現居住者以外は敷地に入ることが出来ないレベルだ。 「もしかして庭の周りにも?」 「そうよ、ちゃんとカモフラージュしてあるわよ」  さらに庭だけじゃなく、家全体が光学迷彩で覆われてるレベルである。  ”見えなくなる”のではなく”何も異常が無いように見える”ものだ。  夜になれば明かりがついてるように見えるし、人が住んでいる事を疑わせないレベルの、  作り物の映像を家全体にかぶせて展開しているのだ。 「わたしが生まれた時代だって、普通の一軒家に使われるシステムじゃないのにね、これ」 「まぁまぁ、だからお庭で着替えても安心なのよ?」 「それでも恥ずかしい物は恥ずかしいの!」 「それもそうよね、バスルームに行きましょうか」 「……で」 「なぁに?」 「なんでこんなもん用意してるのよ!?」    バスルームにはなぜかわたしの学校で使う水着が用意してあった。 「あら、ビキニの方が良かった?」 「ち・が・うっ! どーしてお母さんの水着がそれなのよっ!?」  わたしが学校指定水着なのは問題無い、けどお母さんまで同じデザインの学校指定水着を  着ている、それもなぜか紺ではなく白い。 「んー、需要と供給の問題かしら?」 「誰がそんな訳が分からない水着を需要するのよ?」 「世の中の男性のほとんど?」 「なんで疑問系なのよ」 「だって、正式に統計とったことないもん」 「はぁ……もう良いわよ、どうせ誰にも見られないんだし」 「そうね、プールに入りましょう♪」 「気持ちいいわね〜」 「そうだね〜」  庭に降り注ぐまるで夏のような太陽の日差し。  少しだけ吹く、風。  そして子供用プールに入る女の子2人。 「……」 「どうしたの、リリアちゃん?」 「ううん、なんでもない。ちょっと自己嫌悪しただけだから」  お母さんを見てわたしと女の子2人って……  間違っていないけど、お母さんは”女の子”というより女性って言うべき年齢なんだけど。 「ん?」  首をかしげるお母さん。それが妙に可愛くて様になってるのが、娘としてどうかと思う。  白い学校指定水着……そんなのあるわけ無いのになぜか持っているお母さん。  それはお母さんだからと言えば不思議と納得出来るので置いといて。 「……」  その白い水着はなぜだかお母さんに似合って見える。  本当にわたしを産んだんだろうか、と思えるほど若くて可愛い。  そして、胸の所だけは窮屈そうに見える。 「なんだかずるい」 「リリアちゃん?」 「なんでもないわよ」 「そう、それじゃぁ、えいっ!」 「きゃっ」  お母さんが水をかけてきた。 「お母さん?」 「油断大敵よ?」 「ならわたしも、えいっ!」 「ふっ」  お母さんは片手で水をブロックする。 「重力制御システムのちょっとした応用よ?」 「あー、ずるい! っていうか大人げないっ!」 「それもそうね、これはさすがに大人げないわね」 「あれ? お母さんが納得した?」 「たまには童心に返って水かけっこもいいかしら、っておもったのよ。だから」  そう言うとお母さんはプールの外から何かを取り出した。 「さぁ、続けましょう」 「ちょ、なんでお母さんだけ水鉄砲用意してるのよ?」 「童心に返ったからよ、それじゃぁリリアちゃん。覚悟はいい?」 「良い訳ないでしょう!?」 「よろしい、戦争だ」 「よろしくないっ!」 「はぁはぁ……」 「や、やるわねリリアちゃん」 「わたしは、まだお母さんと違って中身も若いから、ね」 「ひどい、それって私の中身は若くないって言ってるようなもんじゃないの!」  水鉄砲を使って一方的に攻撃してくるお母さんの攻撃を受けながらもわたしも反撃した結果  2人ともずぶ濡れになって、疲れ果てていた。 「そろそろあがろうか?」 「そうね、そろそろ時間だし」 「時間?」  お母さんの言う時間ってどういう意味なんだろう? 「お疲れ様、シンシア、リリア」  そう言ってバスタオルを渡してくれるお父さん。 「ありがとう、お父さん……って、お父さん!?」 「あら、思ったより早かったのね」 「あぁ」 「ちょっとお母さん、どういうこと?」 「達哉は今日は早く帰ってくるって連絡あったのよ、だからその前にお出迎えの準備をしなくちゃ  いけなかったのだけど」 「まだ時間も早いし気にすること無いよ」 「でも、妻としては大事じゃない」 「でもさ、母として娘とのコミュニケーションも大事だろう?」 「だから声かけなかったのね」 「いや、声はかけようと思ったけど、あの水かけ戦争に割り込むのは無粋かな、と」 「そそそ、それよりもお父さんいつからそこにいたの?」 「水かけっこの辺りから?」  そんな? だってセキュリティレベルは……あ。  家族にセキュリティなんてかけるはず無い、よね。当たり前の事に気づいたけど、それよりも 「ずっと見てたの?」 「ずっとじゃないけど、まぁほどほどに」 「……お父さんのえっち!」 「え?」  わたしはそのままバスルームへと逃げた。 「ふふっ」  お母さんの笑い声が後ろから聞こえてきた。 「うぅ、恥ずかしいよぉ」  お母さんと本気になって水かけっこで遊んだのをお父さんに見られてたぁ。 「……くしゅっ」  いくら夏のような暑さでも、まだまだ5月。ずっと水につかってたら身体が冷えてしまう。  当初の予定通り熱いシャワーを浴びよう。  そうすれば頭も冷える…… 「って、お湯で頭が冷える訳無いじゃない」  冷えた身体と火照った頬。  どちらを優先すれば良いんだろう? とわたしは思った。  
5月12日 ・sincerely yours short story「台風の夜」 「雨が酷くなってきたな……」  満弦ヶ崎市は夜半に台風が直撃するコースをとっているとニュースで言っていた。 「さすがに家が吹っ飛ぶと言うことは無いと思うけど、ちょっと心配だな」  朝霧家は建築してからかなりの時間が経っている。  もしかすると雨漏りくらいはするかもしれないな。 「達哉、お茶……あら? 外なんかみてどうしたの?」 「いやさ、台風が直撃するだろう?」 「心配する必要は無いわよ」 「でもさ」 「こんなこともあろうかとっ!!」  シンシアがなぜか胸を張って俺の言葉を止める。 「この家は力場に守られてるから隕石の直撃でも耐えられるわよ」 「……はい?」  隕石の直撃って? 「達哉に解るように解説してあげるわ、ふふっ」  シンシアに言われるがままにお茶を持ってソファに座る。 「なんでわたしまで……」 「良いじゃないの、家族団らんなんだから」  リリアも巻き込んでの、シンシアの解説タイムが始まった。 「その前にっと」  どこからともなく白衣を取り出して羽織る。 「やっぱり解説はこの格好じゃないと気分が出ないわよね」 「どーでもいいから、早くやっちゃってよ」 「もう、リリアちゃんは浪漫が解らないのね」 「……わたし、部屋に戻って良い?」 「リリア、俺を一人にしないでくれ」 「……お父さんがそこまで言うなら付き合ってもいいかな」 「ありがとう、リリア」 「ちょっと、そこ! らぶらぶしないの!」 「なっ、別にら……なんて、してない!」 「今良い雰囲気だったじゃないの……羨ましい、私も混ぜて!」 「……シンシア、話を進めてもらっても良いか?」 「そうだったわね、それじゃぁ解説しちゃいましょう」  そう言うと白衣のポケットからめがねを取り出して掛けた。  たぶん、これも演出なんだろうな。ツッコミを入れると脱線しそうなのでやめておいた。 「ねぇ、達哉。月の重力ってどれくらいか知ってる?」 「だいたい地球の1/6だろう?」 「正解、だから月には大気を留めておける引力が無いのよ」 「そうだな」 「そして昔、月に入植する際に問題になったのは重力だけじゃないの、月震が問題視されたのよ」  月震とは地球で言う地震の事だ。 「月は地球の1/4位の大きさで、重さがだいたい1/100程度の天体なの、だから  地球や太陽からの潮汐の影響ですぐに月震が起きるのよ。それもピークに達するまでが  長く治まるまでも長いの。震度で言えばマグニチュード4程度だけど地球じゃすぐに治まるでしょう?  例え揺れが大きくなくても揺れ続ける月で生活は成り立たないのよ」 「確かにな、だから当時の技術者達は1G環境のドームを作って都市を作ったんだよな」 「えぇ、その技術が”重力制御”。往還船やトランスポーターにも使われてるわ」 「そして、その技術は家にも使われてるんだよね」 「リリアちゃん、一番美味しいところ持っていっちゃいやん!」  シンシアがぼけてるようだけど…… 「家に使われてる……?」 「えぇ、この家のセキュリティは重力制御システムの応用で作られてるのよ」  あの重力制御システムの応用?  理解が追いつかなかった。  確かに重力制御システムは往還船などで実用化されてはいるし、シンシアが言うように月都市すべてを  支えている根幹でもある。  けど、それが我が家に? 「ようするにね、重力制御システムでベクトルをある程度制御できるのよ、だから台風の直撃だろうと  隕石の直撃だろうと受け流せるの、だから安心でしょう?」 「……」  台風の直撃が安心、という話だったはずなのになんでこんなに話が大きくなったんだろう? 「というか、今の時代で重力制御システムなんて作れるのか?」 「ちょっとコツがあるのよね♪」 「そのコツだけで複製できるのはお母さんくらいよね、わたしが生まれた時代でも小型化出来なかった  システムを持ち歩ける程度のサイズで組み上げたくらいだし」 「……解った」 「え? お父さん解ったの?」 「あぁ、シンシアと居るくらいだからな、常識で考えるのを止めた方が良いことが解ったよ」 「……お父さん、それは正解だと思う」 「ちょ、達哉もリリアちゃんも酷く無い!?」 「だってなぁ」 「お母さんだし」 「……私っていったいどう思われてるのよ、しくしく」 「聞きたい?」 「リリアちゃん止めて! 立ち直れなくなるから!!」 「なら教えてあげるね♪」 「リリアちゃんのいけずっ!」  始まった親子漫才を聞きながら、俺は窓の外を見る。  台風が大丈夫なら騒ぐ必要が無い、なら静かな夜になるのだろう。 「そ、そんな……17歳の私には厳しい現実よね、よよよ……」 「まだそれ引きずってたの……」  今夜も静かな夜にはならないだろうな。  でも、それくらいが今の俺にはちょうど良いのだろうと思った。
5月11日 ・sincerely yours short story「静かな夜」 「賑やかな時間も良いけど、こういう静かな時間も良いわね、ふふっ」  ソファで俺の横に座ってるシンシアは肩に寄りかかってくる。  その手にはワイングラス。 「さっきも飲んだんだから、あんまり飲み過ぎるなよ?」 「はぁい」  そう言いながらシンシアはワイングラスを口元に運ぶ。  ・  ・  ・  母の日のお祝いを朝霧家・鷹見沢家合同でお店で行った夜。 「達哉。今日は気分が良いの、もう少し付き合ってくれるかしら?」 「別に構わないけど、だいじょうぶか?」 「ワインくらい大丈夫よ、リリアちゃんも付き合ってくれる?」 「おい、リリアは未成年だろう?」 「あら、作品の登場人物はみんな成年なのよ?」 「登場人物って……お母さんもう酔ってる?」 「大丈夫よ、だから付き合ってね♪」  意味が解らない理由もあったが、リリアが生まれた時代は親の許可と監督責任の下なら  アルコールの摂取は問題無かったようだ。 「だからってわたしはお酒が美味しいとは思わないけどね。たまにフィアッカお姉ちゃんと  一緒に付き合わされた事はあったの」 「そ、そうか……今は俺が居るからあんまり無理する必要ないからな?」 「うん、ありがと、お父さん。わたし、軽いおつまみ作ってくるね」  こうして、冷蔵庫に入ってたおつまみになりそうな物を見繕ってくれたリリアと一緒に  母の日のお祝いの二次会が行われた。  ・  ・  ・ 「私ね、静かな時間って苦手なの」 「あぁ、知ってるよ」 「だからね、こうしてリリアちゃんと達哉と、楽しく騒がしい時間が大好きなの」  シンシアが人生の中で大半を過ごしてきた場所、ターミナル。  時間の概念が無く、ただそこに管理者として存在するだけだったあの場所。  俺も一度そこに行ったことがあるからシンシアの気持ちは解る。 「でもね、こんな静かな時間なら……好きになれそう」  シンシアはソファの向かい側に視線を向ける。  そこには結局ワインを少しだけだけど飲んで……飲まされたリリアが丸くなって  眠っていた。 「大丈夫だよ、シンシア」 「ん?」 「俺もリリアも居る朝霧家が静かなままだと思うか?」 「……そうね、リリアちゃんが騒がしくしてくれるもんね」 「それはシンシアが、からかうからだろう?」 「だって、からかわれるリリアちゃん、可愛いじゃない?」 「……リリアには悪いけど確かにそう思う」 「さっすが達哉、解ってるわ♪」 「でも、まぁ……ほどほどにな」 「はぁい♪」  この返事、解ってないな。まぁ、いいか。 「ねぇ、達哉……」 「なんだい?」 「愛してるわ」 「俺もだよ」 「えへ……」  それだけ言うとシンシアは俺に寄りかかったまま、眠ってしまった。  毎度の事ながら、シンシアはスイッチが切れたように眠ってしまう。 「シンシア……」  起こそうとは思わない、このまま部屋まで運んで寝かせてあげるのが一番だと思うのだが。 「たまには、こんな夜もいいかな……」  俺は”アクセス”というキーコマンドを口にする。  朝霧家の敷地内のみ起動可能とする、メインコンピューターへのアクセスコマンド。  シンシアやリリアは普段から使っているが、俺はあまり使わないホロウインドウを起動させる。  立場的にまだ確立されきってない技術は使わない事にしているのだが、身動きが取れない状態  では、仕方が無いだろう。  起動したコンピューターにリビングの温度設定を快適な物にする命令を送る。  それと同時に家のすべての鍵を施錠、セキュリティの起動と、眠るための準備をする。  明日のアラームのセットをしてから、最後にリビングの照明を落とす。  真っ暗にはならず、豆電球の明かりだけのリビングのソファ。  俺はシンシアの肩を抱き寄せる。 「お休み、シンシア、リリア」  そっと目を閉じる。シンシアの暖かみを感じながら、俺も眠りについた。  これでお話が終わるのなら、それは良いお話だと俺は思う。  でも、そうはいかなかった。  朝、アラームが鳴る前に目が覚めた俺は…… 「え?」  ソファに座って眠ってたはずだが、いつの間にかソファで横になっていた。  そして、シンシアにがっちり抱きしめられていた。 「起こしちゃ悪いけど……起きないとな」 「ん〜」  俺が起き上がる前に、向かいからリリアの声が聞こえた。 「おはよ〜?」 「あぁ、おはよ……」 「ん〜?」  俺は顔をそらした、そこには下着姿のリリアが立っていたからだ。  温度設定が適温にしたはずなのだが、寝苦しかったのだろう。リリアは着ていた服を  脱ぎ捨てていた。 「ん……ん、ふぁ〜」  俺の同様が伝わったのか、シンシアも起き出した。 「あら? もう、達哉ったら朝から熱いんだから」 「シンシア……起きたなら離れてくれないか?」 「え? だって抱きしめてるのは達哉じゃないの」 「よく見てから物を言ってくれ」 「んー、わたしお風呂入ってくる〜」 「はぁい、いってらっしゃい」  寝ぼけたままリリアは風呂場へと向かっていった。 「ふふっ、おはよう、達哉」 「おはよう、シンシア」 「ねぇ、たまにはおはようのキス、してくれないかしら?」 「たまには?」 「えぇ♪」  そう言うと目を閉じるシンシア。  俺は…… 「−−−−−−っ!!」  そのとき、風呂場の方から悲鳴が聞こえた。 「あら、リリアちゃんに邪魔されちゃったわね」  そう言うとシンシアは俺から離れて立ち上がった。 「せっかくの所を邪魔されちゃったしかえ……お返しはしてあげないと、ね♪」 「ふぅ」  俺は立ち上がる。 「シンシア」 「なに、たつ……んっ」 「ほどほどにな」 「ん、そうね。達哉が言うならほどほどにしてあげないとね」  そう言うとシンシアも風呂場に向かう。 「ねえ、達哉」  脱衣所に入る前に振り返るシンシア。 「静かな時間も良いかもしれないけど、私は騒がしくて、楽しい方がやっぱり好き」 「……あぁ、俺もだよ」 「ふふっ♪」  俺の返事に満足したシンシアは脱衣所の中に入っていった。 「さて、今日は俺が朝食の準備をするかな」  キッチンへと向かう、今はリリアとシンシアがいるので洗面所がある脱衣所へは入れない。  ここで顔を洗おう、そして朝食の準備をしよう。  脱衣所の方から聞こえてくるシンシアの楽しそうな声と、リリアの高い声が聞こえる。  ……シンシアにからかわれてるんだろうなぁ。  そう思いながら、俺は朝食の準備を始めた。
5月8日 ・sincerely yours short story「わたしはどっち?」 「わたしはどっちなんだろうね?」  夕食後みんなでテレビを見ていたとき、番組の中のコーナー。  大人と子供の違い、みたいなのをいろいろな例えをとって紹介していた。 「リリアはどっちが良いのかな?」 「……」  お父さんの質問に考えてしまう。  わたしはまだ子供だと思う、けどお母さんには考え方は大人そのものって言われたこともあるし。 「本当、どっち。なんだろう?」 「リリアちゃんはまだまだ子供よ」  キッチンにお茶のおかわりを煎れに行ってたお母さんが戻ってきた。 「それってわたしが子供っぽいっていうこと?」 「違うわよ、リリアちゃんはどんなにおっきくなったって私と達哉の子供なのよ」 「お母さん……」  当たり前の事だけど、はっきり言葉にされるとなんだか照れる、けどそれ以上に嬉しい。 「それに、リリアちゃんのお胸はずっと子供のままだしね♪」  ……わたしの感動はどこに行ったんだろう。 「お母さん!!」 「そうやってすぐムキになるところも子供ね」 「うっ……」 「ふふっ、私に勝てないうちはずっと子供よ」 「絶対勝つ!」 「お胸のサイズでは絶望的よね」 「お・か・あ・さ・んっ!!」 「悔しかったら勝ってみなさい♪」 「子供と子供っぽい、か」 「ちょ、達哉? 私まで子供扱いしないでよ? ほら、こんなに立派なんだし」 「くっ……」  胸を反らすお母さん、それは今のわたしにとって絶望的な差だった。 「そういう所が子供っぽいんだよな」 「違うわ、私は子供じゃ無くて17歳なだけよ?」 「お母さん、それまだ引っ張ってたのね……」
5月5日 ・sincerely yours short story「こどもの日」 「ねぇ、リリアちゃん。今日はこどもの日ね」 「そうだね」 「でも、もうリリアちゃんをお祝いする日ではないわね……」 「お母さん、それ以上言うと怒るからね?」 「あら、私は何も言ってないわよ?」 「目は口ほどに物を言うって諺、知ってるよね?」  あきらかにお母さんの視線はわたしの胸の所にあったから言いたいことは  解りたくないけど解ってしまう。 「大丈夫よ、リリアちゃん。今日の本題はそこじゃないから」 「本題?」 「そう、本題♪」  お母さんはにっこりと笑う、その笑顔は娘でも見ほれてしまうほど可愛いのだけど  本性を知っているので、純粋に見とれる訳にはいかないってわたしは身をもって知っている。 「ねぇ、リリア。こどもの日ってどういう祝日なのか、知ってる?」 「え?」  こどもの日はこどもの日だから…… 「こどもの幸せを思う日?」 「さっすがリリアちゃん、半分正解よ」 「半分なんだ。残りの半分は?」 「それはね、祝日にしてもらえなかった母の日でもあるのよ」 「なんだか嘘っぽい」 「ふふっ、なんなら調べてみると良いわ」 「アクセス」  気になったのでわたしはホロウインドウを呼び出す。 「キーワード”こどもの日”で検索……あ」  空中のホロウインドウに表示されたこどもの日に関するデータ。  祝日法という法律で定められた祝日で、こどもの人格を重んじ、こどもの  幸福をはかるとともに、母に感謝する日、とあった。 「本当だ、母に感謝する日でもあるんだ」 「そうそう♪」 「そっか、お母さん、今日もありがとう」 「え?」  わたしが素直にお礼の言葉を言うとお母さんは驚いた顔をした。 「お母さん?」 「……リ」 「り?」 「リリアちゃんがでれたっ!」 「……」  感謝する気持ちが一気に無くなっていくのがわかった。 「それなら俺もシンシアに感謝しないとな」 「え、達哉?」 「母に感謝する日なら、朝霧家の母であるシンシアに俺も感謝しないとな。  いつもありがとう、シンシア」 「た、達哉までで!? 今日はいったい何があったの? 何の日!?」 「いや、だからこどもの日でしょう?」 「そうだな、母の日とは違うけど、たまには俺が家の仕事をするかな」 「お父さんは普段から家のお仕事手伝ってると思うよ?」 「そうかな? でも結局はシンシアに頼りっきりだし、たまにはいいんじゃないかな」 「た、達哉。そこまでしないでも良いわよ、その気持ちだけで嬉しいから♪  リリアもありがとうね」 「え? あ、うん。どういたしまして?」 「よーし、それじゃぁお洗濯済ましちゃいましょう、るんる〜ん♪」  お母さんは鼻歌を歌いながら脱衣所の方へと行った。 「母に感謝する日かぁ。あの顔を見てるとお母さんの方が子供っぽいよね」  ものすごく上機嫌で幸せそうな笑顔で家事をこなしているお母さん。 「そうだな」  わたしの感想にお父さんも同意してくれた。 「でも、娘に子供っぽいっていわれて、納得しちゃうというか、似合うっていうのは  ちょっと卑怯だよね……」  本当にわたしを産んだのかわからないくらいお母さんは若く見える。  この前冗談でお母さんがカテリナ学院の制服を着た事があったんだけど、一部を除いて  学生でまだ通るくらいの外見だった。  ……その一部が胸のサイズだって言うことは今は忘れることにしておこう。 「でも、シンシアはシンシアだからな、油断してると大変なことになるぞ?」 「だいじょーぶだよお父さん、わたしだって日々成長してるんだから」  前みたいにお母さんに言いくるめられないくらいは成長してるんだからね?  そう思ってたんだけど…… 「ねぇ、リリア。昼のお礼がしたいんだけど」 「お礼?」 「私にくれた感謝のお礼、お風呂で背中流してあげる」 「ちょっと、どうしてそうなるの?」 「私がそうしたいからよ、リリアにお礼したいから」  そう言ってニコニコするお母さんの顔を見ると、断るの事に罪悪感を感じてしまう。 「本当は一緒に入りたいだけなんじゃないか?」 「もちろん!」  お父さんのツッコミに肯定するお母さん。 「って、それじゃぁお礼じゃないでしょ?」 「一緒に入りたいのは本音よ、でもそれ以上にリリアちゃんにお礼したいのがあるんだもん」  だもん、って……歳を考えて、と言いたくなるんだけど見た目だけならその仕草がものすごく  似合うから、そうは言えないんだよね。 「仕方が無いかなぁ」 「やった、リリアちゃん大好き♪」 「ちょ、お母さん!?」  抱きつかれると柔らかい膨らみが押し付けられる。 「当たってるから離れて」 「良いじゃないの、女の子同士なんだし」 「くっ!」  同じ女の子なのにサイズの違いにわたしは落ち込んでしまう。 「それじゃぁ達哉も一緒にはいりましょ♪」 「え、えええぇぇっ!?」 「リリアちゃん、夜に大きな悲鳴あげちゃ近所迷惑よ?」 「その辺は防音しっかりしてるから大丈夫。じゃ、なくて! お父さんも一緒なの!?」 「当たり前じゃない、達哉も感謝してくれたんだから、そのお礼をしなくちゃね。  なにより、家族なんですもの」  そう言われると強く拒否出来ない……お父さんの助けに期待するしか 「そうか、それじゃぁ着替えの準備するか」 「えええぇぇぇっ!?」 「リリアちゃん、夜に」 「わかってるっ!! というかお父さんまで!?」 「俺はシンシアがお礼をしたいって言うならそれを受け取るだけだよ」 「さっすが達哉、わかってる♪」 「ほら、リリアも準備しないとシンシアに脱がされちゃうぞ?」 「それも良いわね」 「よくなーーーいっ!!」  結局言いくるめられて家族でお風呂に入ることになってしまいました。 「お母さん、バスタオルだけは絶対してよね?」 「私は見られるの気にしないわよ?」 「わたしが気にするのっ!!」  こどもの日でこんな騒ぎになるのなら、母の日はいったいどんなことになるのか  考えるだけでも頭が痛くなりそうだった。
5月4日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”風邪のご褒美” 「つまり、日中が暑かったから」 「はい」 「窓を開けて寝た」 「……」 「それで風邪をひいたわけね」 「……面目ない」  ゴールデンウィーク前、珠津島でも気温が急上昇した。夏日を連続で観測したほどだ。  日中は冬服では暑く上着を脱いで過ごしても暑いと思ったほどだ。  生徒会の業務から戻った夜、あまりの暑さに風呂に入る気になれず部屋のシャワーで  汗を流して、そのままベットで眠ってしまった。  その結果、見事に風邪をひいたわけだ。 「健康管理も生徒会の一員として大事な事なのよ?」 「あぁ、解ってる。瑛里華には迷惑かけて本当に申し訳ない」 「う゛……」  俺が謝ると瑛里華が困った顔をした。 「あー、もう、私の馬鹿!」 「瑛里華?」  突然の瑛里華の発言に俺はぽかんとしてしまう。 「ごめんなさい、孝平。病人に当たるだなんてすることじゃないわよね」 「いや、いいよ。自己管理出来てないのは確かに俺の所為だし」 「だから、そうなったのは私の所為でもあるのよ!」 「どうして?」 「だって、生徒会の業務が多忙すぎたから孝平は疲れてたのでしょう?  シャワー浴びてそのまま眠っちゃうくらいに」  瑛里華は申し訳なさそうな顔をしてそう答えた。 「瑛里華の所為じゃないさ、それに瑛里華だって同じ条件だろう?」 「私は昔からなれてるから平気よ、もう生徒会ももう3年目なんだし。  でも孝平はまだ役員が少ない生徒会を経験してないじゃない。同じ条件とは言えないわ」 「はぁ、まったく」  俺はそう言うと上半身を起こす。 「孝平!?」  瑛里華の頭をそっと撫でる。 「ん……」 「瑛里華は抱え込みすぎだよ、今回の風邪は俺の自業自得だ」  そこで一息つく。 「それどころかせっかくの休みなのに、瑛里華と遊びに行けなくなった事が  申し訳ないと思ってる」 「そんなことはいいのよ、孝平と一緒に居られるだけで」  そう言いながら瑛里華は俺の身体をそっとベットに横たえる。 「そうか、でも今は一緒に居ちゃ駄目だ」 「どうして?」 「熱風邪だけど、風邪は風邪、瑛里華に移ったら困る」 「大丈夫よ、薬は先に飲んでるから」 「それって良いのか?」 「風邪はひき始めが大事なんでしょう? 孝平と一緒に居た時間が長いんですもの。  私に移ってるならとっくに移ってるわよ」 「……本当に申し訳ない」 「そう思うんだったら早く風邪を治す事」 「そう、だな。まだゴールデンウィークは終わってないしな」 「そうそう、その意気よ!」 「じゃぁさ、瑛里華。ご褒美もらって良いか?」 「え?」 「風邪を治したらさ、ご褒美にデートに誘ってもいいか?」 「……駄目なわけ無いじゃ無い」 「よし!」  元気が出てきた、これなら風邪なんて一晩で治りそうだ。 「もう、孝平。馬鹿なんだから」  瑛里華は優しく笑っていた。
4月29日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”季節外れの暑さ” 「まだ4月なのになんでこんなに暑いのかしらね」  監督生室の中で瑛里華が誰となしに文句を言う。 「異常気象としか良いように無いんじゃないか?」 「それは知ってるわよ」  瑛里華はバインダーを団扇代わりにして扇ぎながらそう答えた。 「暑いなら上着を脱げばいいんじゃないか?」  瑛里華は暑い暑いと言いながらもしっかりと冬服を着込んでいる。  上着だけでも脱げばだいぶ変わってくるとおもうのだけど。 「……駄目よ」 「どうして? 暑いんだろう?」 「そうだけど……上着は脱げないのよ」 「……理由を聞いてもいい?」  俺の疑問に、瑛里華は大きなため息をついた。 「男の子はその点良いわよね」 「?」  突然の言葉に俺は意味が解らない。 「……ふぅ、孝平だから仕方が無いか」 「どういう意味だ?」  俺は少しムッとしながら反論する。 「上着を脱ぐとシャツになるわよね?」 「当たり前だろう?」 「今日は暑いから汗を少しかいてるのよ」 「それで?」 「……まだわからないのね」 「解らないから聞いてるんだよ」  声のトーンが少し上がる。 「シャツって汗で濡れると……透けるのよ」 「……はい?」  濡れて透ける? 冬服のシャツってそんなに薄手の生地だったっけ?  それとも女の子の制服のシャツは薄手なのか? 「それにね……今日は普通のしか付けてないのよ」 「えっと……?」  瑛里華の言葉に俺の理解が追いつかなくなってきてまともな返事が出来ない。 「だ〜か〜ら〜、可愛くない下着が透けて見えるのが嫌なのっ!」 「……」  顔を真っ赤にして瑛里華が怒っている。 「わかった?」 「申し訳ございませんでした」  俺はただ謝るしか無かった。 「でも、普通のなんだろう?」 「え?」 「別に瑛里華がどんな下着だって俺は構わないよ」 「ちょっと、孝平何言ってるのよ?」 「だって、瑛里華は瑛里華だし」 「え、でも……やっぱり可愛く見て欲しいし……」  そう言って先ほどと違う意味で顔を赤くしてる瑛里華は、ものすごく可愛く見える。 「確かにその辺りは男じゃ解らないけど、そう努力してくれる事はとても嬉しいよ」 「孝平……」 「だからさ、暑さで体調おかしくなるまえに上着脱いじゃったほうが良い」 「……なんだかやり込められた気がする」 「そう? 俺は瑛里華の心配をしてるだけだけどな」 「ふぅ、意地張って身体壊すと業務に支障も出ちゃうし、ここは孝平に甘えちゃおうかしら」  そう言って上着のボタンを外す。 「……でも、あんまり見ないでね」 「了解」  ・  ・  ・ 「でもさ、夏服になると上着は着ないだろう? そういうときはどうしてるんだ?」  監督生室からの帰り道、日が暮れる時間になるとさすがに季節通りの気温になるので  上着を着ても暑いと思うことは無い。俺も瑛里華も上着を着て階段を降りている。 「肌着を一枚多く着るとかの工夫はしてるわよ、それに女子の制服にはベストがあるでしょう?  あれだけで全然違うんだから」  そういえば女の子の夏服は、チョッキみたいなベストがあったっけ。  ほとんどの女の子はベストを着ている、つまりそう言う理由だったわけだ。 「……あれ? 陽菜はベスト着てなかった気がするんだけど」 「悠木さんはちゃんと下に一枚多く着てるわよ、だから見るだけ無駄よ?」 「見ないよ、だって俺には瑛里華がいるんだから」 「っ! も、もぅ、孝平のばかっ!」  瑛里華の顔が赤いのは夕焼けの所為だけではなかったようだ。
4月2日 ・sincerely yours short story「エイプリルフールに嘘をつかない訳」 「達哉、リリアちゃん。大事な話があるの」  夕食後の家族の団らんの時、お母さんが真面目な顔をしてそう言った。 「……」 「え、なに? リリアちゃん、なんでそんな顔するの?」 「だってね、お母さんが真面目な顔するときって高確率でろくでもないことなんだよね」 「そんなことないわよ、今日は真面目な話よ」 「そうなの?」 「話してくれないか、シンシア」  お父さんも真剣な顔になってお母さんの話を促す。 「ごめんなさい、達哉、リリアちゃん」 「え?」  お母さんは突然頭を下げた。そして…… 「私、実は17歳じゃないの」 「ねぇ、お父さん。お茶のおかわりいる?」 「頼んでいいかい?」 「うん」 「ちょっと、なんでスルーなの!?」 「だって、今更じゃない?」  わたしはキッチンから返事する。 「そ、そんな……私はずっと17歳だって言ってたのに、信じてなかったのね!?」 「や、どこをどう信じろっていうか、信じてくれてたと思ってた方がおかしいよね」 「酷い、リリアちゃん。ここはちゃんと「嘘っ!?」って驚く所だったのよ?」 「それで?」 「それでね、私も嘘でした、てへ。っていうエイプリルフールジョークにする予定だったのに」 「それ、絶対無理ありすぎだから。はい、お父さん」 「ありがとう、リリア」  新しく煎れたお茶をお父さんに渡す。 「うぅ……17歳教ってまだまだ知名度低いのね、しくしく」 「お母さんは静寂の月光教では女神の扱いされてるんじゃなかったけ?」 「それはそれ、これはこれ。それに私はただの科学者よ? 今は主婦がメインだけどね」 「主婦が17歳って……」  だんだん頭が痛くなってきた。 「17歳教の教祖様なんてね、娘さんが17歳なのよ?」 「それ、絶対に、おかしいからっ!!」 「まぁ、いいんじゃないか?」 「お父さん?」  わたしのツッコミをお父さんが否定した。 「シンシアが17歳だろうが関係無いさ」 「達哉、それってどういう意味?」 「年齢なんて関係無いって事だよ、俺はシンシアがずっと一緒に居てくれればそれで良い」 「達哉……」 「ねぇ、お父さん。わたしには言ってくれないの?」 「あら、リリアちゃん焼き餅かしら?」 「お母さんは黙ってて!!」  大事な事、なんだから…… 「もちろん、リリアも居てくれる間はずっと一緒に居て欲しい、けどリリアにはリリアの  人生があるだろう。いつかは出て行く時が来るかもしれない」 「それって、わたしが誰かと結婚するときってこと?」 「そう、だな……リリアが選んだ相手なら信頼できるだろうしな」 「お父さん……」 「達哉、リリアが家を出て行くなんてあり得ないわよ?」 「お母さん、わたしが結婚出来ないって事?」 「違うわよ、お父さんのことが大好きなリリアちゃんが家を出て行く訳ないじゃない?」 「っ!? ななな、なにを言ってるのよっ!?」 「ふふっ、照れてるリリアちゃん可愛い♪」 「うぅ……わたし、部屋に戻るっ!!」  ・  ・  ・ 「わたしだってきっと将来結婚するもん!」  部屋に戻ってベットに横になってからお母さんの言葉を思い返す。 「でも……お父さんくらい格好良い人じゃないと、嫌だな」  ・  ・  ・ 「きっとリリアちゃん、今頃将来の結婚相手の理想と現実のギャップに悶えてるかしらね」 「ギャップ?」 「達哉くらいの人じゃないと結婚しないとか思ってるわよ、きっと。そしてそんな人が  見つかるかどうか、なんて思ってる頃よ」 「そ、そうか……光栄、なのかな?」 「それよりも達哉、さっきの言葉だけど」 「ん?」 「もし、達哉の所に帰ってきた私がお祖母ちゃんだったらどうする?」 「シンシアにあえて嬉しいと思っただろうな」 「はぅ!」 「シンシア?」 「さ、さすが達哉ね、今ものすごくキュンって来ちゃったわ、もう抱いてって叫んじゃうくらい」 「いいのか?」 「え、そこでそう言う反応するの?」 「そうだな、エイプリルフールの嘘って事にしてもいいけど」 「そんな嘘は嫌」 「そっか、それじゃぁ」 「え、きゃん」  シンシアに言われたとおりに抱きかかえる、お姫様抱っこで。 「それじゃぁ部屋に行こうか、シンシア」 「……うん」
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