思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2013年第4期 12月31日 大図書館の羊飼い sideshortstory 約束の証〜小太刀凪〜 12月24日 sincerely yours your diary short story「可愛いサンタさん」 12月23日 大図書館の羊飼い SSS”誠意” 12月12日 大図書館の羊飼い SSS”バニー♪” 12月2日 大図書館の羊飼い SSS”風邪” 11月27日 大図書館の羊飼い SSS”お風呂” 11月25日 大図書館の羊飼い SSS”ばっかじゃないの” 11月20日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”荒れた唇と腫れたもの” 11月12日 大図書館の羊飼い SSS”寒くても熱い関係” 11月1日 大図書館の羊飼い sideshortstory 約束の証〜桜庭玉藻〜 10月31日 大図書館の羊飼い sideshortstory「幻の議事録」 10月4日 FORTUNE ARTERIAL SSS ”肌寒い、熱い夜”
12月31日 ・大図書館の羊飼いsideshortstory 約束の証〜小太刀凪〜 「はいっ!」 「ふっ」 「はいっ!」 「やっ!」  リズム良く杵を振るう。  そしてそのリズムに合わせて凪が臼の中の餅を返す。 「そろそろか?」 「そうね、こんなもんじゃない?」  俺は杵をおいて一息ついた。  白崎の生徒会が発足したあとも図書部には依頼が舞い込んでくる、それを  できる限り受けたいという白崎部長の意向もあり、生徒会が忙しくない時や  参与の役職を持つ俺や高峰が受け持つ事が多い。  そんな図書部に年末最後の依頼は、餅同好会からだった。  なんでもつきたてのお餅の良さを知って欲しいという依頼で、同好会のメンバーが  所有している臼と杵を使ってつきたての餅を振る舞うイベントがアプリオで開催  されることとなり、その餅のつき手を手伝うこととなったのだが…… 「高峰、後は頼んだ」 「もう交代か?」 「ガチンコ図書部員がこんな力仕事出来るわけ無いだろう?」 「その割には結構頑張ってたじゃないか」 「そうでもないさ、もう限界だ」 「あれ、交代するの? なら私も休憩しよーっと」 「ちょ、凪ちゃんが餅を返してくれないと俺できないよ?」 「アンタはやらしい目でみるから嫌よ、鈴木にやってもらいないさいな」 「姐さん、呼びました?」 「ちょうど良かった、ちょっと休憩するからお願いね」  そう言うと凪は逃げるようにアプリオの中に入っていった。 「姐さんどうかしたんですか?」 「逃げただけだろう、それよりも俺も休んでくる」  佳奈すけの返事を聞きながら俺もアプリオの中に入ろうとした、そのとき携帯が  鳴った。 「ん?」  スマートフォンの画面を見る、見慣れた着信画面ではなく知らない番号からの  着信だった。  普通ならそのまま着信拒否するところだが、何故かわからないけど、この電話を  受けた方が良い気がした。  まぁ、何かあったらすぐに電話を切れば良いだけのことだ、そう思って画面をタップした。 「っ!」  電話越しに聞こえてきた声は俺の想像を超えた相手だった。 「やぁ、久しぶりだね」  呼び出された場所はメインストリートのあの時と同じベンチだった。  その人は間違いなくそこにいる、なのに世界に溶け込んでいるかのように希薄だ。 「ナナイさん……」 「元気そうで何よりだよ」 「ナナイさんもお元気そう……でいいのかな?」 「そうだね、羊飼いが不老不死であっても精神的にはそういう感情も状態もあるのだから」 「そう、ですか。ならお元気そうでなによりです」 「ありがとう」 「……」  あの日の記憶がよみがえる、夕焼けに消える親父の後ろ姿。 「さて、キミも忙しいだろうし用件だけを伝えよう」  俺が感傷に浸るよりも前にナナイさんは話を切り出してきた。 「用件、というのは羊飼いとしてですか?」 「そうとも言えるし違うとも言えるかな」 「?」  羊飼いは基本的に人に干渉するときは,その人を導くためのはず。  それなのにそうではないとはどういうことだ? 「今私がここにいるのはとある子羊を導いた帰りだよ、そのついでと言っては気分を  悪くするかもしれないけど、聞いてくれるかい?」 「……えぇ」 「小太刀凪君の事なのだが」 「凪の事?」 「あぁ、実はだね……」  ナナイさんの口から出た言葉はナナイさんに会った事以上に俺に驚きを与えた。 「あれ、京太郎。何処行ってたの?」 「……いや、ちょっとな」  ナナイさんに会った事は言わない方が良いだろう。 「もしかして女がらみとか?」 「……違わないな」 「え?」  俺の言葉に凪が驚きの声をあげる。 「京太郎?」  凪が俺の目をまっすぐに見つめてくる、俺はその凪を見て…… 「っ!」 「京太郎? 大丈夫?」  俺は立ちくらみをしてしまった。 「大丈夫だ……」 「本当?」 「あぁ、それよりもちょっと急用が出来たから出かけてくる。餅つきは高峰に  すべて任せたからよろしく言っておいてくれ」 「うん、わかった……でも、女の子がらみの事が後でちゃんと聞くからね?」  凪のちょっと怖い声を背中に受けながら,俺はとある店へと向かった。 「なぁ、凪」 「ん? なぁに?」  夜、部屋に戻ってから俺は凪に話しかける。 「ちょっと、どうしたのよ? 大丈夫?」 「え?」 「そんなに汗かいて……やっぱりどこか身体の調子悪いんじゃ無いの?」 「あ、それは無いと思う……それよりも凪。昼間の話なんだけど」 「あぁ、別に話さなくて良いわよ」 「……どうして?」 「よく考えたら生徒会役員に会ってるのなら女がらみになっちゃうもんね」  言われてみれば確かにそうだ、今の生徒会執行部の役員は全員女性だ。 「それに、私は京太郎を信じてるもん」 「……ありがとう」  俺を信じてくれる、その言葉がとても嬉しい。  だからこそ、俺はこれを渡さなくてはならない、約束の証を。 「凪、プレゼントがあるんだけど……もらってくれないか?」 「え……」  俺が取り出したのは小さな小箱。 「京太郎……これって、もしかして……」  凪は震える手でその小箱を受け取り、蓋を開ける。 「っ!」 「本物は将来ちゃんとプレゼントする、今は約束だけしか出来ないけど」 「……」 「凪?」 「もぅ、京太郎の馬鹿!」  馬鹿!? え、どうしてそうなる? 「こんなのプレゼントされたら……もっともっと好きになっちゃうじゃない!」 「そういうことか……」  さっきの馬鹿は凪の照れ隠しだったのか。 「もう絶対京太郎のそばを離れてあげないんだからね!」 「望むところだよ、凪。それと……」  俺は凪の手に小箱の中から取り出した銀の指輪をはめてあげる。 「誕生日おめでとう、凪」 「うん、ありがとう、京太郎!」  今まで見た中で一番綺麗な凪の笑顔だった。
12月24日 ・sincerely yours your diary short story「可愛いサンタさん」 「ちょっと遅くなっちゃったな」  仕事を早めに切り上げて帰ろうとしたけど、きりの良いところまで進めたら  予定より少し遅くなってしまった。 「メールで連絡してあるし、まだ許容範囲かな」  今年のクリスマスイブの夜、家族で過ごす約束をしていた俺は少し小走りで  家へと向かった。  買ってきた花束を背中に隠しながら、俺は家の扉を開けた。 「ただいま、遅くなってゴメン」 「おかえり、達哉。早くリビングに来てね」 「あぁ」  いったん花束を廊下に置いて俺はリビングの扉を開けた。  その瞬間  パーンっ、というクラッカーの音で俺は出迎えられた。   「おかえりなさい、お父さん。メリークリスマス!」  そして出迎えてくれたのは可愛いサンタさんだった。 「達哉、なーに見とれてるのよ」 「え、いや、えーっと……」  確かに可愛くて見とれてたけど、それを肯定するのはちょっと恥ずかしい。 「……お父さん?」 「いや、なんでもない。ただリリアが可愛すぎただけだから」 「っ!」 「あーあ、達哉ったら相変わらず正直よね、ほんと、親馬鹿なんだから」  シンシアの言葉に俺はきっと顔を真っ赤にしてるだろう。  同じようにリリアの顔も真っ赤だった。 「もぅ、お父さんの馬鹿……ありがとう」   「でも、ほんとリリア可愛いわね♪」  シンシアがにこにこしている。 「お母さん、何か企んでるでしょう?」 「どうして?」 「お母さんの手作りのお洋服は可愛いけど、いつも仕掛けがあるじゃない」  そういえばそうだった。  シンシアの洋服を作る技術はものすごく高い、けどいつも変な仕掛けが  あった。それはたいていリリアを恥ずかしがせるためにあった。 「今回もその仕掛けがあるっていうの?」   「……無いはずなんだけどなぁ、だって着る前にスキャンして異常は無かったし  いつものちょっとした応用に対応するシステムを組んであるし」  ……我が娘ながら恐ろしいことをさらっと言う。  シンシアのちょっとした応用は今の技術じゃまねできないレベルのものだ。  それに対応出来るプログラムを組むというのだから、凄すぎると思う。 「そうね、今回は洋服自体にそういう仕掛けはないわ」 「そうだよね、わたしちゃんと隅々まで調べ……洋服自体?」 「くすっ」  シンシアが笑う、それは悪戯が成功したときの笑顔だった。 「ねぇ、達哉。このサンタ服は私が作ったの」 「うん、流れからわかってた」 「本当はね、ビキニにミニスカートにしたかったんだけど、それじゃぁリリアが  着てくれないだろうなぁ、って思ってチューブトップにズボンにしたの」 「当たり前でしょう! ビキニなんて恥ずかしくて着れないわよ」 「そこが罠だとしたら?」 「え?」 「実はね、今のリリアはね……ブラ付けてないのよ」 「な……おおお、お母さんっ!?」  シンシアのぶっちゃけた発言に動揺しまくるリリア。  ……というか、俺はどう反応すればいいんだよ。  俺の目の前にいたリリアは恥ずかしそうに胸を手で隠している。   「ふふっ、リリアの身体のサイズぴったしに縫ったんですもの、ブラを付ける余裕は  無いわよね〜リリアはこういう単純な仕掛けほど簡単に引っかかってくれるのよね。  もぅ、可愛いんだから♪」 「うぅ……恥ずかしい」 「……そういうもんじゃないのか?」 「お父さん?」 「俺は女の子の服の仕組みはよくわからないけど、そういうモノならそれで  いいんじゃないか? それに、どういう状態であったって、リリアが可愛い事には  変わりないんだし」 「お父さん……ありがとう」 「……」 「シンシア?」  さっきから急に黙ってしまったシンシアは心なしか震えてるように見える。 「リリア!」 「何?」 「今すぐそれ脱ぎなさい!」 「ええぇ!?」 「達哉が可愛いっていうなら私も着る!」  そう言ってリリアの服を脱がそうとするシンシア。 「ちょ、まって、お父さんが見てるから!」 「私は気にしないわ」 「わたしは恥ずかしいの! それにこれはお母さん着れないでしょう! わたしのサイズ  ぴったしにつくってあるんだから!」 「……しまった」  その場でがくっと膝をつくシンシア。 「試合に勝って勝負に負けたってこういうことを言うのね」 「何の試合で何の勝負よ……」  リリアが呆れてた。  まったく、いつもながら騒がしい我が家だけど、それがとても嬉しいんだよな。  俺は今の騒ぎのうちに廊下に隠しておいた花束を持ってきていた。 「メリークリスマス、シンシア」 「え?」 「メリークリスマス、リリア」 「わぁ♪」  二人に花束を渡す。 「そろそろお腹がすきすぎて我慢出来ないんだけど、食事にしないか?」 「……うん、ありがとう、達哉」 「お父さん、ありがとう」 「……」 「あ、達哉照れてるでしょう?」 「照れてるお父さん可愛い♪」 「いいから、食事にしよう!」  俺は先にテーブルに向かって歩き出した。 「はいはい、サービスしてあげるから機嫌なおしてよ、達哉」 「お父さん、ケーキはわたしの手作りだから、それで機嫌なおしてね」  もとから機嫌を悪くしたわけじゃないけど……そういうことにしておこう。  こうしてクリスマスイブの夜は更けていった。 「来年は私もミニスカサンタするわ!」 「……お母さんは年を考えてね」 「がーん……リリアちゃんがいぢめる、しくしくしく」 「……はぁ」  用意してあったシャンパンで酔ったシンシアの決意はリリアの手によって  あっさり打ち砕かれた。  個人的にはシンシアのミニスカサンタを見てみたかったけど……  そんなことを言うとリリアに白い目で見られるので俺は黙っていた。  そのことについて夜。 「達哉の裏切り者〜」  酔ったシンシアに絡まれることになった……
12月23日 ・大図書館の羊飼いSSS”誠意” 「おす」 「先輩、こんにちは」  図書部の部室には千莉だけがいた。 「他のみんなはまだか?」 「……そのようです」  間を置いた千莉の返事に違和感を感じつつも、俺はいつもの席に座ろうとして。 「……」  千莉がいつものようにパイプ椅子に体育座りをしていることに気づいた。 「……」  千莉が笑ったような気配を感じたが、俺は千莉からすぐに目をそらしたので確認は  出来ないけど……うん、誰もいないし見なかったことにしよう。  俺は一度立ち上がってポットからお茶を煎れることにした。 「千莉も飲むか?」 「はい。ありがとうございます」  椅子から降りてカップを持ってきた千莉。 「熱いから気をつけろよ」 「はい」  そう言うと千莉は自分の定位置の椅子に戻り 「……くす」  また体育座りをした。 「先輩、何処を見てるんですか?」 「本」  俺は千莉に気を取られないよう、文庫本を読むことにしていたのだが、千莉が  ちょくちょく話しかけてくる。 「そういえば先輩、以前”周辺視野”のお話をしていましたね」 「そんなこともあったな」  文庫本の文字を目で追いながら、その周辺視野に意識を向けると体育座りしている  千莉が目に入ってくる。  そういえば、前もこんな事あったっけなぁ、あの時は夏服の時期だったから太股が  まぶしかったっけ。  今は冬服の時期、千莉は黒のストッキングを穿いているんだよなぁ。  そう思ったとき俺の周辺視野は千莉の黒に包まれた足を認識していた。 「先輩、何処を見てるんですか?」 「文庫本、だけど千莉の姿も見えている。だからさ、千莉」  俺は本を一度閉じる。 「おとーさんはそんな子に育てた覚えは無いぞ」 「先輩は私のお父さんだったんですか?」  ぼけ殺しってこんなにきついんだな、高峰の気持ちが少しだけわかった気がする 「……ゴメン、でもさ、他の部員いるときはそんな格好しないでくれよ」  そう言うと俺は文庫本を読むのを再開した。 「むぅ」  千莉がうなった声がした、どうしたモノかと文庫本を読みながら周辺視野に意識を  向ける。  そして一瞬息が詰まった。    俺の見間違えじゃなければ千莉は足を開いている。  そして明らかに見せつけている。  さすがの俺もこんな姿を見て無視出来るほど出来てはいない。  それどころか襲ってしまいたくなる衝動がわき上がってくる。 「その、さ。千莉」 「なんですか?」 「えっと……俺が悪かった」  俺は頭を下げた。 「先輩は何が悪いかわかってるんですか?」  千莉と二人っきりになるといちゃいちゃしそうで、部室ということもあって自重するために  文庫本に集中しようとした結果、千莉の機嫌を損ねたということだろう。 「あぁ、俺の大事な彼女と二人っきりなのに無視して本を読み始めた事だよな」 「っ!」  俺の言葉に千莉は顔を真っ赤にした。 「そ、そんなにストレートに言ったからって許してあげるとは言ってませんからね!」  そう言いながら千莉は満更じゃなさそうな顔をしている。 「じゃぁどうすれば許してくれる?」  この展開はいつもの言葉遊び。そしてそれは千莉の精一杯のアプローチ。 「誠意を見せてください」  千莉の言う誠意を見せる、それは…… 「でも、ここは部室で誰が来るともわからない場所だぞ?」 「白崎先輩と桜庭先輩は授業が終わって依頼に直行しています、佳奈はアプリオの  ヘルプです」 「高峰は?」 「死んじゃえば良いのに」 「おい」 「嘘です、でも高峰先輩はわかりませんから……」  そう言うと千莉は部屋の鍵をかける。 「いや、合い鍵みんな持ってるから意味ないぞ?」 「いくら駄目な高峰先輩でも空気くらい読むと思います」  酷い言われようだな、高峰。でもそれを面と向かって言われるとあいつ喜ぶんだよな。 「さぁ、誠意を見せてください」 「いや、でもさ、ここは部室ですし」 「池の畔なら良いんですか?」 「そ、それは……」  そういうときもあったっけ。 「ふぅ、千莉の覚悟はいいんだな?」 「え?」 「声を上げると小太刀が来るかもしれないんだぞ? 大丈夫なんだろうな?」 「えっと、筧先輩?」 「今から精一杯の、誠意をする」  そう言って千莉に近づいた俺はその場にひざまずく。 「え? いきなりですか?」  そういう千莉の手を取り、手の甲に口づけをした。 「んっ」 「俺の姫様、続きはベットのある部屋でしたいと思うのですけど、いかがでしょうか?」 「……」  千莉は黙って頷いた。
12月12日 ・大図書館の羊飼い SSS”バニー♪” 「ふぅ、今日も疲れたな」  そんな独り言を言いながらの帰り道、ふと夜空を見上げた。 「月が綺麗だな」  綺麗な月が浮かんでいる、ただそれだけのことなのになんだか新鮮だった。  今までの帰り道、俺が空を見上げることなどほとんど無かった。  いつも手元の本ばかり見ていたからだ。 「世の中も満更じゃないな」  それに気づかせてくれた彼女は俺の部屋で帰りを待っていてくれてるはずだ。 「すみません、どーしてもって嬉野さんに脅……もとい、頼まれてヘルプに  行かないといけないんです!」 「あ、あぁ……嬉野さん絡みなら……もとい、お願いなら聞かないわけには  いかないからな」  佳奈と図書部の活動をする予定だったのだが、こういう理由で佳奈はアプリオへ  徴兵されることになってしまった。  もともと一人でも出来る以来だったので問題は無かったのだが、おもったより  長引いてしまった。 「早く帰るか」  心持ち急ぎ足になってる事に気づき、苦笑いをしながら、それでも帰り道を急いだ。 「ただいま」 「筧さん、おかえりなさい!」 「……」 「どうしました? 筧さん」 「すみません、部屋を間違えました」  そう言って扉を閉める。 「ちょっ、お約束のぼけはいいですから!!」  部屋の中から佳奈の声が聞こえる。少なくとも佳奈がいるのだから部屋は間違って  いない。部屋の番号を確認してから改めて扉を開ける。 「おかえりなさい、筧さん」 「……」  部屋の扉を開けたらそこに佳奈がいた。  それは問題無い。  だが、格好が問題だった、というか問題だらけだった。  何故か佳奈はバニーの格好をしていた。   「ご飯用意できてますよ、それとも先にお風呂にします? それとも」 「家に帰ったら手洗いとうがいを先にする」 「正当過ぎてぼけも突っ込みも出来ないですよ、筧さ〜ん」 「いや、その、ごめん」  しゅんと落ち込む佳奈だった。 「ごちそうさまでした」  佳奈が用意してくれた夕食を食べて、二人で仲良く洗い物をする。 「今お茶いれますね」 「あぁ」  食器を棚に戻して俺は部屋へと戻る。  そこにお茶を煎れた佳奈がやってきた。 「はい、どうぞ」 「ありがとう」  二人でずずーっとお茶を飲む。 「でだ、佳奈。その格好の意味は?」 「やっときましたねその質問、スルーされっぱなしでいつツッコミされるのか  ちょっと不安になってた所なんです」  そう、佳奈は俺が部屋に帰ってきたときから夕食の配膳、一緒の夕食と後片付けまで  ずっとバニーな格好だった。 「いや、すまない。ちょっと現実逃避してたっぽい」 「筧さん、だいじょうぶですか?」 「同じ台詞を佳奈にも言いたいんだけど、話が進まないから止めておく」 「賢明です、筧さん」 「で、そのバニーも嬉野さんの策略か何かか?」 「なんでわかるんですか!?」 「いや、それしかないだろう?」 「それもそうですね」  あっさり納得した。 「実はですね、この制服はアプリオの新制服の候補の一つだったんです」 「新制服?」 「はい、たくさんある学生食堂は生存競争が激しいんです、いつまでも同じメニューや  同じ制服では飽きられてしまいます」  確かに同じメニューでは飽きられてしまうだろう、普通の学生食堂なら。 「でも、アプリオのメニューの数ってものすごく多いから飽きる事ないだろう?」 「はい、だから料理長は制服に目をつけたそうです」 「その候補のうちの一つがこれ、か?」  こんなの採用したらいかがわしい店扱いで学園側から止められるのではないだろうか? 「ですが、どこから情報が漏れたのかわかりませんが、生徒会から警告がきました」 「生徒会、手が早いな」  望月さん……いや、今は多岐川さんが会長だったな。さすがに判断が速い。 「ですが、試作品ができあがった後なので使わないともったいないから……」 「それで?」 「嬉野さん曰く、ちゃんとクリーニングしてくださいね、だそうです」 「……話のわかる上司というべきなのか?」 「……ですね」  あははーと笑う佳奈。 「あ、そうそう、ストッキングは弁償でも構わないって言ってました」 「完全にそそのかされてるな」 「そうですね、でもどうせ踊らせるなら自分から踊ってみるのも良いと思いませんか、筧さん?」  そう言いながらウインクする佳奈。 「そう、だな、せっかくだから自分から踊ってみるか」  ・  ・  ・ 「ところでさ、佳奈」 「なんですか?」 「バニーの制服って普通のクリーニングに出していろいろと問題ないのか?」 「……あ」
12月2日 ・大図書館の羊飼いSSS”風邪” 「もう……話は終わりだ」 「そんなっ! 筧さん、考え直してください!!」 「佳奈、答えはもう出てるんだよ」 「でもっ!!」  悲しそうにする佳奈を見て胸が痛むが、俺が決めたことだ。 「だから、実家のマンションに帰るんだ」 「嫌です! 私はずっと一緒にいるって……」 「駄目だっ!」 「筧さんっ!!」  泣き出しそうな佳奈の顔を見て、俺は……我慢しきれなくなり。 「ゴホッ!」  思いきり咳き込んだ。 「筧さんっ!? だいじょうぶですか!!」 「離れるんだっ!」  佳奈が近づいてこないことに安心し、呼吸を整えようとして…… 「ゴホゴホッ!」  咳が止まらない、なんだか目の前が暗くなってきた。 「筧さんっ!」  ・  ・  ・ 「すまない、助かった」 「いえ、私はこうすることしかできませんから」  佳奈は背中を優しくさすってくれていた。  一人で生活するようになってから風邪の時はただ薬を飲んで寝て治るのを待つだけ  だったが、今は一人じゃ無い事が嬉しく、そして心配だった。 「なぁ、佳奈。さっきの話なんだけどさ」 「嫌です」  俺が熱を出し風邪とわかったときに、佳奈に自分の部屋へ帰るように離したのだが  佳奈は断固として反対し続けていた。 「筧さん、さっきみたいなのを見せられて、一人にしておけると思いますか?」 「さっきのって小芝居か?」 「筧さん、病気の時くらいふざけないでください」 「……ごめん」  場を和ませようとしたのだが、逆効果だった。 「でもさ、佳奈。俺は大事な彼女に風邪をうつしたくないんだよ」  そう、一人で生活してるならともかく、同居人がいる場合、風邪が感染していく  心配もある。 「っ、だからさ」  咳き込みそうになるのを無理矢理飲み込みつつ話を続ける。 「ねぇ、筧さん」  俺の言葉を遮る佳奈。 「もし、私が風邪を引いて寝込んでしまったとき、筧さんは部屋に帰ってくれますか?」 「……帰る」 「嘘です」  あっさりばれた。 「私だって風邪なんてひきたくないですけど、大事な彼氏が苦しんでるのを見て見ぬ  ふりなんて出来ないです、筧さんならわかりますよね?」 「……降参する代わりに、一つだけ条件をつけてもいいか?」 「何ですか?」 「今更かもしれないけどマスクをすること、そして俺と一緒に風邪薬を飲むこと」 「じゃぁ、一緒にいていいんですね?」 「あぁ、正直言えば心強い」 「お任せください筧さん、ちゃんとマスクもしますし消毒もうがいもします、ナース服も  来ますから私にどんと任せてください!!」  今何かとんでもない単語が出てきた気がするが、頭がぼーっとしてきているせいだろうか  きにならなかった。 「あぁ、頼む」 「はい、筧さん! 風邪が治るまでつきっきりで看病しますね」  ・  ・  ・ 「筧さん、もう、終わりです」 「佳奈……」 「もう答えは出ているはずです、だから帰ってください。一緒には……暮らせません」 「……」 「あのぉ、筧さん。乗ってきてくれないと寂しいんですけど」 「いや、つい最近同じ小芝居したばかりだし」 「うぅ……筧さんが冷たい」 「俺が冷たいんじゃなくて佳奈が高熱だしてるだけだろう、だからあれほど言ったのに」 「いえ、これもお約束かなぁって、ごほっ!」  結局佳奈は予防の甲斐無く、俺の風邪がうつってしまった。 「ところで筧さん、白衣は着ないんですか?」 「看病するのに白衣の必要は無い」 「でもお医者さんごっこには必要ですよ?」 「……今は寝てなさい」 「一瞬間があったのはなんですか?」  そりゃ、と言いかけて止める。俺の風邪が治りかけた頃にナース服の佳奈としてしまった  事をおもいだしてしまったからだ。  そしてそれが佳奈が風邪に感染した原因だろうとも思っている。 「白衣を着た筧さん、格好良いとおもうんだけどなぁ」 「わかったわかった、佳奈の風邪が完全に治ったら考える」 「本当ですか!? 不肖鈴木佳奈、全力で風邪を治します!!」  それで治れば苦労はしないんだけどなぁ、と思いながら俺は佳奈の額に乗せていた  ぬれタオルを交換した。  後日談だが、佳奈の風邪は俺より早く完治した。  これが若さ、というものなんだろうか。 「私と筧さんの年は一つしか違わないじゃないですか」
11月27日 ・大図書館の羊飼いSSS”お風呂” 「んー、いいお湯だね〜ごくらくごくらく」 「……」 「どーしたの、京太郎?」 「いや、どーしてこうなったんだけな、って思ってさ」  部屋の狭いお風呂、その湯船に俺が入っている。  その俺の胸に背中を預けるように寄りかかってくるのは凪。 「そりゃ汗かいたからでしょ?」 「……」  ぼーっとする頭で凪をみる。 「京太郎?」 「……おっぱいって本当にお湯に浮くんだな」 「ちょ、どこ見てるのよ京太郎のエッチ!」 「いや、この体制だとどうしても見えるだろう?」  お風呂に入る、それはお互い一糸まとわぬ姿になってるわけで。  そして俺の腕の中にいる凪を見るとどうしてもその大きな膨らみが目に入る。 「水着を着るとかタオルを巻くとかは……」  お互いそうすれば自制が効く…… 「駄目だったじゃ無い」  一緒に風呂に入る時に凪が水着を着て入ってきたことがあった。  学園じゃないところで見る凪の水着姿を見る、見られる事でお互い興奮して……  バスタオルの時は自然に見えたのだけどお湯をかぶったとき浮かび上がった身体の  ラインに興奮して…… 「あれ、京太郎どうしたの?」 「いやさ、なんか自分が駄目な人に思えてきた」 「元からじゃないの?」  ……そう言われるとなんだか言い返せない。 「でも、私はその京太郎に救われたんだから、駄目ってことは無いと思うわよ?」 「……そうだな、一番大切な人を救えたんだから、駄目じゃないよな」  羊飼いになれば人類に取って大切な人を永遠と救い続ける事が出来ただろう。  ただ、それは人の意思ではなく、羊飼いの総意によってだろうと思う。  もしかすると羊飼いになった俺はどこかで凪を救う事があったのかもしれないし  一緒に羊飼いとして生きていたかもしれない。 「……それはないか、って凪?」  さっきから凪がうつむいて動いていない。 「どうした? のぼせたのか?」 「……どうして」 「ん?」 「どうして京太郎は私をどきっとさせる台詞を不意打ちで言うの?」  凪をどきっとさせる言葉? 「俺、そういう言葉を何かいったっけ?」 「天然って怖いわ、図書部のメンバーが落ちた理由がよくわかるわ」 「?」  俺は凪が言っていることがよくわからなかった。 「京太郎、そろそろ上がる?」 「そうだな、のぼせないうちに出ようか」  俺の返事を聞いて凪が立ち上がる。  目の前を着ず一つ無い綺麗な背中が通り過ぎ、そして大きいお尻が目に入る。 「ちょっと、お風呂から出るときを見ないでよ」 「別にいつも見てるから恥ずかしがることないだろう?」 「そういうもんじゃないの、まったく京太郎の鈍感」  そういうもんだろうか? 「……訂正、京太郎は敏感」  振り返った凪の目線は下の方を向いていた。 「あっきれたー、お風呂入る前にあんなにえっちしたのに、もうそんなに元気なのね」 「そりゃ、大好きな女の子が裸でいるんだからな。反応しないわけ無いだろう?」 「っ!」  俺の言葉に凪がびくっと身体を震わせる。 「……京太郎は、そんなになっちゃったら大変、だよね?」  凪のまとう雰囲気が変わった。 「ま、まぁな」 「まったく、京太郎はどうしようもないわね、私が居ないと駄目みたいだし」 「確かに凪がいないと俺は生きていけないかもしれないな」 「っ……もう、京太郎ったら、ふふっ」  凪は俺の方に向いたまま、また座る。 「京太郎、そこに座って。私が手伝ってあげる」
11月25日 ・大図書館の羊飼いSSS”ばっかじゃないの” 「本当にあいつ、ばっかじゃないの」  自宅に戻ってきた凪はかなりご機嫌斜めだった。 「俺がいない間に何があったんだ?」  凪はそのときの様子を怒りながら教えてくれた。 Another View 小太刀凪 「なぁ、生徒会グッズとか作ればもう少し運営資金増えると思わない?」  生徒会室での作業中、高峰が脈略の無い話を切り出した。 「突然何よ」 「いやさ、姫の手伝いをしてるんだけどさ、なんか結構厳しいんだよね、これが」 「まぁ、厳しいのは確かだが……」 「だからさ、生徒会グッズとか作って売れればいろいろと楽になるだろう?」 「ねぇ、玉藻ちゃん。そんなに厳しいの?」 「いや、そこまで厳しくは無いが、あって困ることでも無い」 「そっか……高峰くん、なにかアイデアとかあるの?」 「ある!」  目を光らせる高峰、絶対まともな案ではないわね。 「ずばり、時代は抱き枕だ!」 「……」  その一言に誰もが言葉を失う、衝撃ではなく、間違いなく呆れて、で。 「生徒の安眠を促せば楽しい学園生活を送れること間違いない!」 「楽しい学園生活……」 「白崎、だまされるな!」  桜庭が白崎の方を揺する、けど流れがなんだかやばくなってる気がする。 「そーゆーわけで、白崎会長の抱き枕カバーを作ろうかと思うんだけど、どうかな?」 「え、えぇぇぇぇぇぇ!? わ、わたしの!?」 「飛ぶ鳥を落とす勢いの白崎生徒会長の抱き枕で眠りの闇に落とされるなんていいと  思わないかい?」 「高峰、それ安眠じゃなくて永眠じゃないの?」 「そうとも言う!」  あ、だめだ。開き直ってる。 「わ、わたしは駄目だよ、わたしのなんかじゃみんな見向きもしてくれないし」 「私は間違いなく買うぞ!」 「玉藻ちゃん……」  白崎が微妙な顔をしていた。 「それじゃぁ、汐美学園の歌姫こと御園っち」 「高峰先輩、死んでください」 「ふぅ! ごちそうさまです」  ……変態がここにいた。 「それじゃぁ姫……」  その瞬間、桜庭の鋭い視線が高峰に刺さった。 「……次の案に移行します」 「いよいよ私の出番ですね!」  鈴木が立ち上がる。 「私の品乳は今や需要が高いですからね」 「……次行って見よう」 「スルーですか!? 品乳ではだめなんですか!?」 「いや、まぁ今の時代の最先端だから悪くは無いんだけどね……  メーカー的に1回前と次が控えてるから」 「それじゃぁ仕方がありませんね」  よくわからないけどまな板は納得したみたいだった。 「というわけで抱き枕の絵柄は凪ちゃんに決まりました」 「どうしてそーなるのよ!!」 「だってさぁ、消去法だともう凪ちゃんしか残ってないじゃない」 「高峰、ばっかじゃないの?」 「ふぅぅ、別な意味でゾクゾクくる、ごちそうさまです」 「……」  真性変態がここにいた。 Another View End 「高峰……」  あいつはいったい何を考えてるんだ? 「そういう訳、京太郎ももう少し友達選んだ方が良いわよ?」 「あぁ、今はそう思えるかもしれない」 「でさ、結局話はまとまらなかったけど、あいつは絶対やる気よ?  本当にばっかじゃないの!?」 「……」 「……ねぇ、京太郎」 「ん?」  ちょっと考え事をしてたら凪に呼び戻された。 「京太郎だったら、私の抱き枕、欲しい?」 「いらない」 「即答!?」  俺の返事に何故かショックを受けてる凪。 「わ、私のじゃいらないの?」 「当たり前だろう? 本物がいるのになんで抱き枕がいるんだ?」 「あ……うん、ありがとう」 「別に礼を言われることじゃないと思うんだけど」 「いいの、嬉しかったから。でも、それじゃぁさっきは何を考えてたの?」 「さっき?」 「うん」  考えてたことは恥ずかしい事だからあまり言いたくないけど…… 「いかにしてこの案をつぶすか、かな」 「え?」 「なんでそこで不思議そうな顔をするんだよ」 「だって、京太郎がそこまで考えてくれてたなんて思ってなかったんだもん」 「話を振ってきたのは凪だろう? それに俺だって……」  凪がまっすぐ俺の目を見ている、恥ずかしくなって俺は目をそらす。 「京太郎、俺だって、なに?」 「……言わないと駄目か?」 「うん、聞きたい」 「……俺の彼女の絵が使われた抱き枕だとしても他の誰かに抱かれるなんて嫌なんだよ。  ただの嫉妬だよ」  きゅん、という音が目の前から聞こえた気がした。 「もぅ、京太郎ったらえっち」 「どうしてそうなる?」 「それって遠回しに私を抱きたいって言ってるようなものじゃない」  あれ? そう……なるのか? 「いいよ、私は京太郎だけのものだから、京太郎の抱き枕になってあげる」 「凪……」 「それに、私は抱かれるだけじゃないわよ? 逆に包み込んであげられるんだから」  何に、とは聞き返せない。 「だからね、私をそういう気分にさせた責任、とってよね。京太郎」  ・  ・  ・  その後の生徒会、先日の高峰が出した抱き枕の案は俺と多岐川副会長の正当な  意見による攻撃の結果、却下破棄された。 「筧君が一般常識のある方で助かりました」とは、多岐川副会長談。  俺には一般常識が無いと思われて他のだろうか?  そしてこの案の背後にアプリオの青い悪魔が関わっていたらしいという事に  今は誰も気づけなかった。
11月20日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”荒れた唇と腫れたもの” 「ただいま」 「お兄ちゃん、お帰りなさい。お姉ちゃんはやっぱり?」 「あぁ、今夜は帰れそうに無いって」  夜に姉さんからかかってきた電話は、もしかすると今夜帰れないかもしれないという  内容だった。  そこで麻衣が念のために着替えと夜ご飯を用意、俺はイタリアンズの散歩もかねて  博物館まで行き様子を見てくることになった。 「姉さんが麻衣にお礼言っておいてくれって」 「……」 「麻衣?」 「お兄ちゃん、唇カサカサだよ?」  麻衣に促されて自分の唇に触れてみる。確かに少し水気が無くなってるような気がする。 「ちょっと良く見せて」  麻衣が背伸びをするので、俺が逆に少しかがんだ。 「……」  麻衣の視線が俺の唇に注がれるのがわかる。 「そんなに酷いか?」 「……ちゅっ」  突然麻衣の頭が少し上がったと思ったら突然キスされた。 「え?」 「あ……」  俺の驚きの声に麻衣も驚きの声をあげた。 「あの、ね、お兄ちゃん。そのね、お兄ちゃんの唇を見てたら、キス……したく、  じゃなくって!」  麻衣が焦って弁明し続ける。 「そのね、私いま、リップクリームを塗ってあったの、だからそのリップでお兄ちゃんの  唇を保護したらいいかなぁ、なんて……」 「……」 「あはは……その、ごめんなさい」  俺が何かを言う前に麻衣の方が折れた。 「別に謝る必要なんてないよ、麻衣」 「お兄ちゃん……」 「俺のためを思ってしてくれた事なんだろう? だったら俺がお礼を言わないとな。  麻衣、ありがとう」 「……うん、私もありがとう、お兄ちゃん」 「ねぇ、お兄ちゃん。その……荒れた唇はなめちゃいけないんだよ。だけど、腫れたモノなら  なめた方が早い……よね?」 「そう、だな……、堅くなったモノはなめるとほぐせるんだよな?」 「え? あ……うん」 「麻衣、外は寒かったらから風呂に入ろうと思うんだけどさ」 「……」 「一緒に、治療する……か?」  麻衣は顔を真っ赤にしたまま、黙って頷いた。
11月12日 ・大図書館の羊飼いSSS”寒くても熱い関係” 「一気に寒くなりましたね〜」 「そうだな」  佳奈と一緒に図書部の依頼を終えて事務棟を出る、もう日が暮れる時間だった。 「コート、部室に置いたままでしたね。ちょっと寒いかも」 「確かに寒いな」  風も出てきているし、このまま外を出歩くにはちょっと辛いかもしれない。  かといってここにずっといるわけにもいかないし、鞄も部室に置いてきている。 「行くしかないな」 「そうですね、このまま時間が過ぎていけばもっと寒くなりそうですものね」  二人で事務棟から外へでる、その瞬間強い風が吹いた。 「寒っ!」  その風が短い佳奈のスカートをはためかせて、少しだけ見えた。 「……筧さん、今見ませんでしたか?」 「……」  あっさりばれた。  路電に乗って大図書館の最寄りの停留所で降りる。 「くしゅっ」  佳奈が可愛いくしゃみをする。 「寒いか……って聞くまでも無いよな」 「えぇ、こうなったら最後の手段です」  そう言うと佳奈は周りを見回した、そして 「えいっ!」  勢いつけて俺の腕に抱きついてきた。 「こうすれば温かいですよ、筧さん。それに……どうですか?」 「ど、どうって……」  温かいというより、恥ずかしくて熱くなってきそうな…… 「って、もしかしてこの程度じゃわからないと仰るのですか!?」  いきなり佳奈のテンションがあがった。 「私だって無いわけじゃないんですよ、こうして”当てて”いればわかるでしょう?」 「えっと?」 「それとも品乳では当てていることさえわからないと!?」 「佳奈、落ち着けって」 「落ち着いてなんていられません、私に取って大問題なのです!」  別に俺は佳奈の胸のサイズで佳奈を好きになった訳じゃ無いけど、佳奈は時折  胸の話題でテンションが上がることがある。  そしてその後落ち込むようにテンションが下がりまくる。 「ふぅ……佳奈、一度しか言わないからな」 「何を、え?」  俺は佳奈を抱きしめる、そして耳元でそっとささやく。 「俺は佳奈の小さくて感じやすい、可愛い胸が好きだ」 「っ!?」  その言葉にびくっとする佳奈。 「……」 「……」  佳奈を抱きしめたまま俺たちは硬直してたが、俺の方からそっと抱いていた腕をほどく。 「あ、まだ駄目」  そう言いながら佳奈は両手で顔を覆う。 「佳奈?」 「私、きっとだらしない顔してるし、きっと顔が真っ赤だし、とてもお見せできません!」 「そんな照れてる佳奈も大好きだよ」 「−−−−っ!」  佳奈が俺に背を向けてしゃがみ込んだ。 「か、筧さん! こんな往来で私を萌え殺すつもりですか!?」 「それは困るな、佳奈が死んだら俺は生きていけないし」 「っっっっ!」  声にならない悲鳴?をあげる佳奈。 「ほら、寒いから部室に行くぞ」  そんな佳奈の手を取って無理矢理部室へと連れて行った。 「そういえば筧さん」  家への帰り道、佳奈が神妙な顔で俺に話しかけてきた。 「ん?」 「さっき言ってくれたことなんですけど……」  さっき言ったこと? 「どさくさに紛れて私の胸、小さいって言いましたよね?」 「……言ったっけ?」 「言いました! さっきの言葉は一字一句覚えてますから!  あの筧さんのささやきは鈴木的世界遺産に認定してるくらいですから!」 「そ、そうか……」 「じゃなくて、小さいって酷いです」 「ゴメン、俺正直だし」 「はぅ」  俺の言葉に胸を押さえる佳奈。 「うぅ……どうせ私の胸は天保山ですよ……」 「佳奈」 「なんですか?」 「天保山は立派な山として認定されてるから大丈夫だ」 「慰めになってませーん!」  俺の胸の所をぽかぽかと叩く佳奈。 「でも、今日は許してあげます」 「え?」 「だって、私の胸が大好きなんですものね、筧さん」  俺は顔を背ける。 「……俺は一度しか言わないって言ったからな」 「えぇ、一字一句、鈴木的世界遺産に認定しておきましたから大丈夫です、  ふふっ、照れてる筧さん可愛いですよ?」  俺は背けた顔を戻せなかった。
11月1日 ・大図書館の羊飼い sideshortstory 約束の証〜桜庭玉藻〜 「今日は玉藻ちゃんの誕生日でーす♪」 「な?」  部室に入った瞬間、白崎が皆にそう宣言する。 「白崎、なんで今それを言うんだ?」 「だって、今言わないといつ言えばいいのかわからないから」 「言わなくても良いだろうに」 「でも、言わないとわからないことだってあるじゃない」 「いや、でも」  私が何か言おうとしたとき、御園や鈴木が私の方に近寄ってくる。 「桜庭先輩、お誕生日おめでとうございます」 「桜庭さんっ、お誕生日おめでとーございますっ!!」 「うっ」  面と向かってそう言われるとものすごく恥ずかしくなってくる。 「姫、誕生日おめでとうござりまする」 「高峰まで調子にのるな!」 「ぐはっ!?」  八つ当たり気味に放った拳はクリーンヒットし高峰を壁まで吹き飛ばした。 「まぁ、その辺にしておけって」 「京太郎……」 「玉藻の反応が可愛いからってこれ以上騒ぐと、佳奈すけの天敵がくるぞ?」 「私の天敵ですか? 嬉野さん以外にいましたっけ?」  嬉野は鈴木の天敵だったのか? そう思った瞬間、部室の扉が大きな音を立てて開かれた。 「図書部うるさいっ!」  部室に入ってきたのは図書委員の小太刀だった。 「姐さん、部室ではお静かにお願いします」 「あんたの声が一番響いてたわよ、天保山」 「ぐはっ!」  鈴木が胸を押さえてうずくまる、いつものやりとりだった。 「すまないな、小太刀。迷惑をかけたわびに、今日は図書部は解散する事にするから許してくれ」 「え? 図書部が永久解散?」 「どこをどう聞き違えればそうなるんですか?」  少し声のトーンが落ちている御園、こういうときの御園は危険だ。 「ギザ様」 「ぉぅぃぇぃ!」 「ひゃっ!! ちょっと、こっちに持ってこないでよ!」 「小太刀先輩、部室ではお静かに」 「あ、あんたが事を荒げてるんでしょうに!」 「ふぉっふぉっふぉっ」 「止めて、そんな渋い声で鳴かないで」  あのギザの声は鳴き声なんだろうか…… 「ふぅ」  とりあえず話題が逸れたことに安堵しつつ、図書部のパソコンの前に座る。 「今日は解散するっていっただろう?」 「そうはいっても仕事がある」 「今日は無いぞ」 「なに?」  私はキーボードを操作し確認する。 「……本当だ、スケジュールが入っていない」 「玉藻にばれないように調整するの大変だったんだ」 「それでは今日は本当に解散なのか?」 「あぁ、これから白崎の部屋へ行く。御園、佳奈すけ、頼む」 「はい、筧さん」 「了解です、筧先輩」  いつの間にか背後に近づいてた二人が私の両腕を取る。 「な、なにをするんだ?」 「桜庭さんが逃げないように弥生寮まで連行します」 「覚悟してくださいね、桜庭先輩」 「ちょ、ちょっとまて、これはかなり恥ずかしいぞ」 「でも腕を放したら逃げますよね」 「当たり前だ!」 「だったら連行するまでです」 「京太郎、どうにかしてくれ!」 「すまない、今だけは玉藻の味方にはなれない」 「薄情者ー!」 「でも、敵というわけでもないからな」  その後逃げないことを条件に二人から解放してもらい、白崎の部屋へと行く事となった。  前もって用意してあったのだろう、部屋には白崎手作りの料理やジュースが机の上に所狭しと  並べられていて、真ん中には大きなケーキが用意されていた。 「ハッピーバースデートゥーユー! ハッピーバースデートゥーユー!   ハッピーバースデーディア玉藻ちゃん、ハッピーバースデートゥーユー!」  こうして誕生会を開いてもらい、歌を歌ってもらうのはなんだかものすごく恥ずかしい、けど 「ふふっ」 「……笑ってないでろうそくの火を消せって」 「照れるな、京太郎」 「照れてない!」  顔を赤くしながら歌を歌ってる京太郎を見てると自分の恥ずかしさがなくなり、逆に京太郎の  可愛さが見えてきて楽しくなってきた。 「ほら、玉藻ちゃん」 「あ、あぁ……フーッ」  私の一息でろうそくの火が消える。 「おめでとう、玉藻ちゃん!」 「おめでとうございます!」  拍手の中、私は…… 「ありがとう、みんな。こんな私のために」 「こんな私じゃないよ、玉藻ちゃんは私の親友だよ」 「白崎……」 「湿っぽくなるのは駄目だぞ、玉藻。ほら、白崎も」 「うん、そうだね。それじゃぁジュースで乾杯しよ! かんぱーい!」  ・  ・  ・  ちゃぽん、と水滴が落ちる音がした。  誕生会が終わった後、京太郎とともに私の部屋へと帰ってきた。  そして、二人で狭い風呂に入っている。 「ふぅ、私は幸せ者だな」 「そうか?」 「あぁ、生き急いで、壊れてた私を見捨てず、こうして今も親友と言ってくれる友がいる」  私の言葉を京太郎は黙って聞いてくれる。 「私のままでいいといってくれる仲間もいる、それに……」  後ろから抱き留めてくれている京太郎の手を抱く。 「こんな私にはできすぎの彼氏も、こうしていてくれる」 「そう言ってもらえると光栄だな」 「ただ、私の彼氏はちょっとエッチすぎるのが玉に瑕だがな」 「……玉藻がそれを言うか? 一緒に入ろうって言ってきたのは玉藻だっただろう?」 「そうだったか?」 「まぁ、どっちでもいいか」  私を後ろから抱きしめる力が増す。 「どこだって構わないさ、こうして玉藻を感じられるなら」 「私もだ、京太郎、だがな……やはり京太郎の方がエッチだと思うぞ。さっきから私の  お尻に当たってるモノはなんだ?」 「それは当たり前だろう、大好きな彼女を抱いてるんだぞ?」 「っ!」  不意打ち気味にストレートに大好きと言われて、キュンときてしまった。 「それに、玉藻もエッチだろう? 触らなくてもわかるくらいに堅くなってるし、それに」 「やんっ!」  京太郎の手が触れた瞬間、甘い悲鳴を上げてしまった。 「お湯の中でもわかるくらい、濡れてるしな」 「そ、それはだな……私だって、大好きな京太郎に抱かれてるのだから……」 「……玉藻、ゴメン」 「な、なんだ?」 「今の一言で止まれなくなった」 「ふふふっ、やっぱり京太郎もエッチではないか」 「俺、も?」 「あぁ、エッチなのは私もだよ、京太郎」 「似たもの同士ってことだな」 「そうだな……」  ・  ・  ・  ベットの上、隣で京太郎が眠っている。  あれだけ激しく愛し合ったのだ、京太郎は疲れ切っていた。  もちろん、私も身体はものすごく疲れている、だが精神的に高揚したままなので  眠気が襲ってこない。  精神が高ぶってる、その理由を、私は左手を天にかざす。  その薬指に飾りっ気のないシルバーの指輪がはめられていた。  京太郎からの誕生日プレゼントに送られた指輪、京太郎は約束の証と言った。 「ふふっ」  指輪を取り出すときの京太郎の緊張した顔を思い出すとおかしくなる。  あの自信満々な京太郎があそこまで緊張してるのを見るのは初めてだったが  それが私にだけに向けられていることを知ったとき、そんな京太郎がとても愛おしく  感じた。 「京太郎、ありがとう。愛してる」  眠ったままの京太郎の頬に口づけをする。  そしてそのまま寄り添う。 「ふぁ……」  どんなに心が高揚していても、身体が眠りを欲しているようだ。 「おやすみ、京太郎」  明日はきっと今日より良い1日になるだろうな、そんな確信を持ちながら。  私は愛する人の傍らで眠りについた。
10月31日 ・大図書館の羊飼い sideshortstory「幻の議事録」 「次の投書だが……」  桜庭が読み上げてるのは生徒会への要望が書かれた投書だ。  先代の生徒会より親しみやすいせいもあるのか、多岐川さん曰く「以前より増えてる」  そうだ。だが、その内容が以前とは違うことも多岐川さんは言っていた。 「要望が砕けすぎてます」と。 「それでも生徒のみんながよりよい学園生活を送るためだもの、がんばらなくっちゃ」  とは、白崎会長談だ。  だが多忙な生徒会の業務の合間に生徒の要望すべてを議題に挙げ対応していく余裕は  さすがに無い。  妥協案として、いくつかの要望は「図書部名義」で受けるかどうかを検討し、図書部で  取り扱えないレベルの要望を生徒会で議題にすることにした。  その振り分けは参与やサポーターの面々で行うことになってたのだが…… 「この議題はなんだ、高峰」 「姫、なにか問題でもあるのでしょうか?」 「問題も何も、問題しかないだろう!」 「それはそうだよ、玉藻ちゃん。問題があるから投書してくれたんだから」 「そ、それは違う……いや、あってるのか?」  白崎はフォローしてるつもりだろうが、桜庭にとっては思わぬ所から攻撃を受けた  ようなものだろう。 「桜庭、否や予感がするのだけど、議題読んでくれないか?」 「……わかった。生徒からの要望だが……汐美学園指定制服の自由化だ」 「桜庭先輩、その要望の何処に問題があるのですか?」 「要望だけなら特に問題無いように思えますね」  1年生コンビが思ったことを口にする、俺もこれが要望だけなら問題が無いと思う。  それが叶うかどうか、実行できるかどうかは別問題だが。 「問題はだな、制服の自由化と言っておきながら、要望は制服では無いんだ」 「と、いうと?」 「体操着と水着だ」 「わぁ……」 「……高峰先輩、不潔です」  呆れた声の佳奈すけと、毒舌の御園。 「ちょ、たしかに要望を議題に選んだのは俺だけど、要望自体は俺じゃないぞ?」 「選んだ時点で同罪です」 「もう罪になってるの!?」 「はぁ、お前らちょっと落ち着け」  いつものノリになりそうな二人を止める。 「要望として議題に上がったのなら、それを検討すればいい、それだけのことだろう?」 「確かにそうだが……要望の内容がブルマとスクール水着の復活希望だぞ?」 「……」  その希望内容に、生徒会の面々の冷たい視線が高峰に集中する。 「ふぅ、ゾクゾクするぅ」 「変態は放っておいて、筧の言うとおりこの議題をかたづけてしまおう、却下だ」 「ちょ、姫、誰とも話し合っていないのに却下なの?」 「あぁ」 「でもどうしてブルマの復活希望なんだろうね? それに今でも学園の指定水着は  スクール水着だし」 「……高峰、白崎会長に説明できるか?」 「……ごめん、自分が穢れてるのがよくわかった」 「?」 「次の議題に入る」  桜庭の進行で会議は進んでいった。 「ねぇ、筧くん。今日の昼間の議題の話なんだけどね」  夜、白崎の部屋で夕食をご馳走になった俺はキッチンに並んで立ち洗い物をしていた。 「議題って」 「体操着と水着の話」 「……そういえば、そんな話あったな」 「どうして復活させる必要あるのかなぁって私考えてみたんだけど、やっぱり  わからなかったの」 「そうだろうな」  汐美学園指定の体操着はシャツに短パンという一般的なものだし、指定水着は男子は  オーソドックスの短パンタイプ、女子はワンピースタイプの競泳用に近いデザインのものだ。  今更変える理由も無いし、それを実行する理由もない。  逆に変えてしまうと生徒が新たに体操着や水着を買う負担が増えてしまう。 「そう思ってたら嬉野さんが貸してくれたの」 「……」  今一番聞いちゃいけない人の名前が聞こえた気がした。 「一応聞くけど、蒼いあ……嬉野さんは何を貸してくれたんだ?」 「ブルマとスクール水着だよ」  あ、やっぱり。 「復活させたいってことは、きっと優れてるからだと思うの、だから一度着て見て実際に  試してみようかなぁって思ってたの。そうしたら嬉野さんが貸してくれたんだけど……」 「白崎、どうした?」 「なんで、嬉野さが持ってたんだろうなぁって思ったんだけど」 「あー、そこは考えない方がいい。だって嬉野さんだし」 「うー……ま、いっか。もし借りれなかったら自分で作ってみてもいいかなって思ってた  所だし」 「作る……ってもしかして」 「うん、体操着一式と水着だよ」  体操着はともかく水着は個人で作れるのか? 「それでね、着て見たら筧くんの感想を聞きたいんだけど……いい、かな?」 「桜庭じゃなくて俺で良いの?」 「玉藻ちゃんならきっと何を着ても似合うって言うと思うから」  苦笑いする白崎、確かにそうだろうな。 「わかった」 「ありがとう、それじゃぁ着替えてくるね」  白崎は着替えが入った紙袋をもってバスルームへと入っていった。   「おまたせ、筧くん」  バスルームから出てきた白崎は学園指定と違う体操着を着ていた。 「ブルマ初めて穿いたけど、短パンより身体にフィットしてるんだね」    上着の裾に隠れてるけど、白崎はブルマを穿いているのだけど、上着が大きめの  せいか、下は何も穿いてないように見えてしまう。   「うーん、確かに短パンより動きやすいかもしれないけど……おしりのラインが  くっきり見えちゃうのは恥ずかしいかな」 「……」 「筧くん、どうしたの?」 「いや……なんでもない」 「そう? それで筧くんはどう思う?」 「あ、うん、そうだな……現実的に授業では使えないな」  前もって考えてあった答えを言う。 「生徒が自由に選べるようにしたとしても、汐美学園の生徒のうちどれくらいが利用するか  わからないし、購買に新たに入荷を頼むのも難しいだろうな」  俺の答えに白崎の表情が曇る。  その白崎が口を開く前に俺は話を続ける。 「生徒会がすべての要望を聞くのは難しいし、中にはふざけた要望もある。今回の要望が  ふざけたものかは別として、授業で使う体操着の変更は無理だ」  そう、きっぱりと言う。  もしも、万が一この要望が採用されたのなら、体育の授業はこの姿で受けることになる。  そしてれに、そんな格好されたら男子生徒がどんな目で白崎をみるのか想像に難くない。  だからこの案は断固阻止すべき、と俺は心の中で誓った。 「まぁ、部活動で使う分にはその部活の裁量で使えば良いと思う」 「……うん、わかった。確かに筧くんの言うとおりだものね」  落としどころも用意しておいて良かった。 「じゃぁ、次は水着だね」 「まだやるのか?」 「うん、せっかくだから着て見ないとわからないでしょう? それに水着の説明を読んだ時  気になることがあったから」 「気になること?」 「うん、ちょっと待っててね」  そう言うと白崎は再びバスルームへと着替えに行った。 「ん?」  バスルームの方から視線を感じた。 「着替え終わったのか?」   「うん……」  扉から顔だけ出す白崎。 「ならこっちに来ればいいだろう?」 「でも……なんだか恥ずかしくなってきちゃった。だって水着なんだよ?」 「そりゃ、水着だよな。でもこの前の水着より……派手じゃないだろう?」  露出度という言葉はなんとか避けた。 「そ、そうだよね! 私の水着より布の面積多いし、大丈夫だよね?」 「そこで疑問系になられても俺は困るんだけどな」 「うん、わかった、そっちに、行くね!」   「どう……かな?」 「水着だな」 「筧くん?」 「あ、ごめん。ふざけてるわけじゃ無くってさ、水着だなぁって感想しか出てこなかった」  見慣れてる訳では無いけど、今の学園指定水着もワンピースタイプで露出度的には変わらない。 「ん、でもなんだか変な感じなんだよね、スクール水着よりおしりがぴちぴちな感じするの」    そう言ってお尻の水着のずれを直す白崎。 「……そ、そういえば気になることがあったんだよな?」 「あ、そうだった」  白崎は苦笑いしながら説明を始めた。 「なんでもこの水着は競泳の時、胸元から入り込む水を逃がす仕組みがあるんだって。  普通の水着には無い画期的な作りなんだよ」  そう言って白崎はその水を逃がす仕組みと見せた。   「ぶっ!」  思わず変な声をあげてしまうほどインパクトが強い光景が目の前に広がっていた。  ワンピース型の水着なのに、その裾をまくり上げてる白崎。  そこから見えるのは紺色に囲まれた、白崎の白いおへそ。  そしてまくり上げたせいか、水着が引っ張られていて肌に密着した下腹部。  今まで見えなかったものが一気に俺の目の前にさらされた、その衝撃は今まで受けた事が  無いほど強烈なものだ。 「え、なに?……あっ!」  自分で何をしてたのか気づいた白崎は慌てて服を、いや、水着を直した。   「……筧くんのえっち」 「……まくったのは白崎だろう?」 「そ、そうだけどじろじろみたのは筧くんじゃない」 「……その、ごめんなさい」 「あ、えっと……私もごめんなさい、見苦しいもの見せちゃって」  白崎は俺が謝ったことを勘違いして受け止めたようだ。 「違うよ、そんなに良いものみせられちゃったらさ……止まれないだろう?」 「え?」 「だから、そういう意味でのごめん、だ」  俺は白崎に近づいて行く。 「……しちゃうの?」 「あぁ、したい」 「でも、水着は借り物だし」 「洗えば大丈夫だろう? なんてったって水着なんだしさ」 「……そう、だね。筧くん……んっ」  俺はそれ以上白崎に何も言わせなかった。 「なぁ、白崎。この前の要望はこれで良いのか?」 「え、あ、うん、筧くんに導入にかかる費用を計算してもらっらたとてもじゃないけど  無理だってわかったから」  ブルマスク水復活の要望は正式には却下されたが、部活の裁量にて採用される場合は許可  するという形になった。 「でも、たぶん誰も申請してこないと思う……」 「だろうな、今更ユニフォームを変えようと思う部があるわけ無いだろうな」 「……だって、恥ずかしいしえっちな気分になっちゃうから」 「ん? 何か言ったか?」 「なななな、なんでもないよ、玉藻ちゃん!」 「?」 「ねぇねぇ、新しい要望持ってきたよ、今度は体操着をスパッツに」 「却下に決まってるだろう!!」 「ぐはっ」  部屋に入ってきた高峰を一撃で伏せる桜庭。  ……ある意味今日も生徒会は平常運行だった。 「ねぇ、筧くん」 「ん?」 「その、スパッツで運動しやすいの、かな?」 「……試さないとわからないだろうな」 「そう、だよね……こんど試して……みる?」
10月4日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”肌寒い、熱い夜” 「寒いか?」  俺の腕の中で動く陽菜に声をかける。 「ううん、だいじょうぶだよ」  そう言いながら陽菜は俺の胸に顔を埋める。 「私、少し眠っちゃってたのかな?」 「あぁ、ほんの少しだけな」  俺はそっと背中に手を回し優しく抱きしめる。 「……温かい」  陽菜も俺の背中に手を回してつく良く抱きついてきた。  カーテンが閉まってるから外の様子はわからないけど、雨が降る音がする。  10月になって制服の夏服が冬服に変わるのと同時に、秋が深まった。  最高気温が20度を下回る日もあり、本格的に秋になった。  夏の時のように、寝るときベットの上で下着だけ、という訳にはいかない  季節になったのだが、俺たちは一糸まとわぬまま、二人でシーツにくるまっていた。 「ん……孝平くん、お風呂入ろうか」 「そう、だな」  さっきまで火照っていた身体も落ち着いてきて、そうなると部屋の中とはいえ、  何も着ていないと肌寒い。  このまま寝るにしても、身体を温めてから眠った方が良いだろう。  いや、身体を温める前に身体を洗うのが先だろうな。 「孝平くん、目をつぶっててもらっても、いい?」 「俺は気にしないぞ?」 「もぅ、私がきにするの。孝平くんのえっち!」 「冗談だって」  俺は陽菜から手を離すと、寝返りをうつように反対側を向く。 「ありがとう、すぐに準備しちゃうね」    シーツの布ずれの音がする、陽菜がベットから降りていったようだ。  俺は思いっきり振り向きたい衝動を抑える、信用してくれた陽菜を裏切る事は出来ない。  カチャ、とドアが閉まる音がした。 「……ふぅ」  身体から力が抜ける。 「まったく、俺も節操がないな」  あれだけ陽菜を抱いたのに……いや、抱いたからこそ陽菜が愛おしくて、見ていたい。  触れていたい、そして抱きしめたい。  いつも、いつまでも、ずっと……、どこでも。 「って、どこでもはまずいだろう!」  思わず出た本音に自分でツッコミをいれる。  俺は起き上がって頭を振ると、まずはシーツを交換することから始めた。 「孝平くん、お風呂の準備できたよ」  少しあいた扉の中から陽菜の声が聞こえてきた。 「陽菜から先に入って温まって」 「それだと孝平くんが風邪をひいちゃうから……一緒に入ろう?」   「……」  ついさっきどこでもは駄目だとセルフツッコミを入れたばかりなのに、ついつい今の  陽菜の姿を想像してしまって、その先まで考えてしまった。 「一緒じゃ駄目、かな?」 「駄目なわけない、でもさ、その……」 「いいよ、孝平くんがしたいなら……私はいつでもいいんだよ」 「いや、駄目だ」 「どうして?」 「勘違いしないで、陽菜とするのが嫌って訳じゃ無いんだ。ただあんまり陽菜の身体に  負担をかけたくないから」  俺の言葉に陽菜は笑う。 「陽菜?」 「大丈夫だよ、孝平くん、女の子の身体はね、好きな男の子を受け入れる事が出来るように  強くつくられているんだよ?」 「そういうもんなのか?」 「そういうものです」  陽菜がそう言うとなんだか納得してしまう。 「でも今は無し、風呂は陽菜と一緒にゆっくり入る」 「うん、それじゃぁ一緒に入ろう」 「上がったら一緒に寝よう、明日のデートのために」 「うん!」
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