思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2012年第2期 6月24日 FORTUNE ARTERIAL SSS 楽屋裏狂想曲”天罰祭再び?” 6月20日 Sincerely yours your diary Pre short story「手縫いの浴衣」 6月15日 神がかりクロスハート!sideshortstory「そして向かう先は?」 6月13日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle         「sincerely yours」SSS”まどろみの時間” 6月11日 FORTUNE ARTERIAL SSS”視察デート” 6月7日 FORTUNE ARTERIAL SSS”二人きりの夜” 5月28日 FORTUNE ARTERIAL SSS”虹のたもと” 5月26日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「伽耶が制服に着替えたら」 5月23日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”優しすぎる心” 5月18日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「かなでが魔法少女に変身したら?」 5月11日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「桐葉が着物に着替えたら」 5月3日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「白が水着に着替えたら」 4月27日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「陽菜がエプロンに着替えたら」 4月21日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「瑛里華が体操着に着替えたら」 4月19日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory「二人の時間」 4月4日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「春の嵐」 4月2日 FORTUNE ARTERIAL SSS”嘘の誕生日”
6月24日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS 楽屋裏狂想曲”天罰祭再び?” 「会長、遅くなってすみませんでし・・・」    会長に早めに監督生室に来るように言われたのだが、HRが長引いて  思ったより到着が遅くなってしまった。 「え?」  監督生室の中に居た女性は見たことのない服装をしていた。  俺が現れた事に戸惑っているその女性。 「・・・紅瀬さん?」   「・・・」  むすっとした表情の紅瀬さん、そう、間違いなく紅瀬さんだった。  髪の色が違ったから一瞬判断しかねたけど、身に纏ってる服装が違っていても  身に纏う雰囲気は紅瀬さんだった。 「紅瀬さん、いったいどうしたんだ?」 「会長に頼まれたのよ、試着して欲しいって」 「なんでだ?」 「そんなの、私が知りたいわ」  また会長の何かの発案でもあったのだろうか? 「ごめんなさい、遅くなっちゃったわ・・・って、紅瀬さん!?」 「え? 紅瀬先輩がいらっしゃってるのですか?」  遅れて入ってきた副会長と白ちゃん。 「なんて格好をしてるのよ、紅瀬さん」 「・・・貴方のお兄さんに頼まれたのよ」 「兄さん、いったい今度は何を考えてるのよ・・・」  副会長はあきれてるようだ、一方白ちゃんはというと 「紅瀬先輩、素敵です」 「そう? ありがと」   「でもなんでこんな格好を・・・」 「やぁ、紅瀬ちゃんちゃんと着替えてくれたんだね、ありがとうありがとう!」  そう言いながら部屋に入ってきたのは会長だった。 「兄さん、これはいったいどういうことなの?」 「いやぁ、面白い衣装が手に入ったからアレをやってみようかなって思ったんだよ」 「アレ?」  会長の言うアレっていったい何だ?  ・・・って考えるまでもなくロクな事じゃないだろう。 「支倉君? 今ロクな事じゃないって思っただろう?」 「・・・いえ」 「何かな? その間は。まぁ、いい」  そういうと会長席に着くと資料をバンと机の上に出した。 「修智館学院天罰祭?」 「そう! 天罰祭だよ!」 「・・・」  俺も副会長も、巻き込まれた紅瀬さんもあきれた顔をしていた。 「以前夏の有明で好評だっただろう? それを再現しようかと思ったんだよ。  こんな可愛い司祭様が天罰してくれるなら礼拝堂にも人は集まるし、その中から  ローレルリングの人材を見つければ一石二鳥、いや、三鳥以上じゃないか!」 「伊織、一つ聞きたい」 「なんだい、征」 「この紅瀬の衣装、手に入れたそうだが何処でだ?」 「ん? オークションだけど」 「予算はどうした?」 「もちろん、生徒会C会計からだした」 「・・・伊織、後で請求書を回しておくから自費で埋め合わせしろ」 「えー、なんでだよ征ちゃん、だってこれもイベントになるんだから問題ないだろう?」 「安心しろ、間違いなくこんなイベントはここでは開かれない」 「そんなことないさ、罰を受けたがってる人は思った以上にいるもんだよ?」 「・・・そうだな、伊織。罰を受けなくてはいけない人はいるからな」  そう言うと東儀先輩は部屋の窓を大きくあける。 「え? なに、征。その窓を開けるフラグは!?」 「ありがとう、征一郎さん」  そこにはいつの間にか大きいハンマーを持った副会長がいた。 「え、ちょ、瑛里華? イベントではピコピコハンマーを使うんだけど?」 「大丈夫よ、兄さん。手加減はしてあげないから」 「え、ええっ!?」 「天罰っ! ひかりになれーーーーっ!」  思いっきり振り抜かれたハンマーの直撃を受けた会長は窓から空に飛んでいった。  いつもの光景なのでもう驚きはしない。 「・・・慣れって怖いものだな」 「もう、いいかしら?」 「すまなかった、紅瀬」 「いえ」  東儀先輩が謝罪する、その言葉を受けてから紅瀬さんは頭に手を当てた。 「鬘だったんだな」   「えぇ、大変だったわ」  あれだけ長い髪を隠しつつ鬘をかぶるのは大変だっただろう。 「では、俺は一度退室しよう」  そう言うと東儀先輩は部屋から出ていった。 「?」  俺はその意味を計りかねていた。 「孝平は出ていかないの?」 「なんでだ?」 「・・・そう、貴方は私が着替えるのを見ているつもりなのね」 「・・・あ」  そりゃそうだ、ここに来るまで制服だったはずの紅瀬さん、着替える必要があった。 「ご、ごめん、すぐに出ていく」 「ふふっ、貴方が見ていたいなら・・・私は構わないわよ?」 「じょ、冗談は」 「冗談じゃないわよ?」  いったいどういう意味だ? 「でも、貴方も星になりたくなかったら出ていった方が良いかもしれないわね」  そう言われる直前から、俺は殺気を感じていた。  背後で副会長がハンマーを構えてるのだろう。 「じゃ、携帯で呼んでくれ」  俺は逃げるように監督生室から出ていった。   「ふふっ」  後ろから紅瀬さんが笑う声が聞こえた。
6月20日 ・Sincerely yours your diary Pre short story「手縫いの浴衣」   「どう、かな?」 「うんうん、似合ってるわよリリア」  お祭りが近いということでお母さんが何故か張り切ってわたしのために  浴衣を縫ってくれた。  それが完成したので、試しに着てみたんだけど・・・ 「ねぇ、お母さん。浴衣って和服だよね?」 「そうよ」 「和服の時って足袋を穿く物じゃないの?」  この浴衣と一緒に用意されたものはニーハイソックスだった。 「いいのいいの、これは私のオリジナルだもの、足袋にしなくちゃいけない  理由なんてないでしょ?」 「そういうものなのかなぁ?」   「はい、巾着も作っておいたわよ」 「ありがと、お母さん」  巾着を受け取る。 「大きさは・・・ちょっと大きかったかしらね」 「そうかも」  ちょっと大きい気がする。でもそんなに中に物を詰めなければ大丈夫だと思う。 「でも、これくらい大きくないとしまえないものね」 「何を?」 「ふふっ」  お母さんは私から巾着をとるとそっと床に置いた。   「お母さん?」 「この浴衣にはね、特別な仕掛けがあるのよ♪」  お母さんの笑顔にわたしは嫌な予感がした。 「だいじょうぶ、痛くないから」 「痛いってなんの話!?」 「ちょっとくすぐったいかもしれないけどね」 「だから、何の話!?」  わたしの言葉を無視して、お母さんは帯の所に手を入れた。  そして何かを引っ張った。  その瞬間、ぱさっという音がした。   「・・・え?」  さっきまで普通の浴衣だったはずなのに、裾の部分が腰回りから切り離された。 「えええぇっ!?」    短くなった裾を押さえる。 「うん、思ってたとおり可愛いわよ、リリア」 「ほめられてもうれしくなーい!」  このギミックの為に足袋じゃなくてニーハイソックスだったのね。  そう頭の冷静な部分が解析している、けど・・・    それよりも恥ずかしくて振り向けない。 「ほら、そんなに前屈みになると見えちゃうわよ♪」 「ちょっと、お母さん!!」    お母さんに抗議するために振り返る、というかそうするしかなかった。 「大丈夫よ、お父さんも可愛いって絶対言ってくれるわよ」   「え?」  お父さんにもこの格好見せるの? 可愛いって言ってくれるの? 「・・・ねぇ、お母さん。お父さんの事だから可愛いっていうまえにこの格好で  外に出るなって言いそうだと思うんだけど」 「そ、そうね・・・達哉ならきっとそう言うかもしれないわね」  娘がこんなミニスカートで外出するだなんてお父さんきっと許してくれないと思う。 「・・・」 「ふふっ、でもね、達哉は言うときはちゃんと言う人だから大丈夫よ」 「べ、別に私は何も思ってないもん!」 「大丈夫よ、リリア。貴方は私と達哉の娘なんだから、可愛いの当たり前なんだから」 「それってお母さん、遠回しに自分をほめてない?」 「あら、そうかしら?」   「・・・ふぅ、お母さん。お祭りの日はちゃんと裾元に戻してよね?」 「えー」 「えーじゃぁ、なーい!!」 「もし戻してくれなかったら浴衣着ていかないからね!」 「うぅ、リリアちゃんが反抗期になったー」  見た目が若いお母さんだから、こういじけられるとなんだか可愛かったりする。  その事実は客観的に見るととても恐ろしい事なんだけど・・・ 「・・・はぁ」  お母さんは何処まで行ってもお母さんだし・・・  今の内にお父さんに手を打ってもらっておこうかな、わたしはそう決意した。
6月15日 ・神がかりクロスハート! sideshortstory「そして向かう先は?」  しゃん、しゃんと鈴の鳴る音がする。  お祭り2日目の、青梅さんの神楽舞。その舞台の袖から俺は奉納の舞を見ていた。  お祭りのクライマックスの場にふさわしい舞い、青梅さんが舞っているこの刻は  太鼓の音も祭り囃子の音も聞こえてこない。  しゃん、しゃん  聞こえてくるのは神楽鈴の鳴る音だけだった。 「青梅さん、お疲れさまでした」 「ありがとうございます、天ヶ瀬さん」 「とても良かったぞ、青梅」 「ありがとうございます、沙菜様」 「きっと千夏も見てくれてたと思うよ」 「はい」  俺達は3人で社務所の控え室でもある青梅さんの私室へと戻った。 「でもいいのか? せっかく手伝いに来たのに」 「はい、後はスタッフの皆様が手筈を整えておりますので、私達がいるとかえって  邪魔になってしまいます」 「そうか」 「というか、俺がここにいていいもんなんでしょうかね?」 「何を言うんだ、翔悟?」 「そうです、天ヶ瀬さんはもう関係者ですから」 「そうだな、関係者というか、当事者だがな」 「あはは・・・」  当事者ね・・・言い得て妙だ。  確かに10年前から始まったあの事件の発端は俺がつくったわけだから  当事者であってるよな。 「ほんと、千夏には悪いことをしたよな、俺」 「でも、その千夏様をお救いになったのも天ヶ瀬さんです」 「そうだぞ、だからもっと胸を張って良いのだぞ、翔悟!」 「そう・・・ですね」  俺は連鳥居のある方をみる。部屋の中からなので見える訳ではないし、実際  その場にいっても見ることは出来ない。  ただ、今でもそこに入り口がある、そのことだけははっきりと実感できる。  それは、俺の中にある、力だからだ。  千夏を助けたいと思った、平行世界の俺の子供が受け継いだ力・・・ 「・・・なんか、俺大事な事を忘れてたかもしれない」 「大事なこと、ですか?」 「はい、青梅さん。すみませんが神使長さんに出てきてもらっても  大丈夫でしょうか?」 「多分、大丈夫かと思います・・・」  眼を閉じた青梅さんが淡く輝く。 「どうしたのだ、翔悟殿」 「お忙しいところすみません、ちょっと気になったことがあったので確認  させてください」 「うむ、それで確認したいこととは?」 「神使長さんはこの前連れてきた平行世界のわんこやこねこ、聖から  千夏の力を回収して渡したんですよね?」 「その通りだ」 「そして俺の力も千夏に返したから、千夏はすべての力を取り戻してる」 「あぁ、今のナツ様は完全にお力を取り戻しておる」 「なら、いまこの世界での、10年前に千夏がわんこたちに与えたっていう力は  どうなってるんですか?」 「そう言えばそうだな、向こうの世界の私の記憶によると、みな神使憑きになり  力を発現させていたな」 「それなら心配は無用だ、ナツ様のお力と同じ力なのだ、何れナツ様の元へと戻られる」 「それは願いを叶えなくても?」 「あぁ、元は同じ力なのだ、お互い引き合うだろう。そうなれば力が強い方へと  引き寄せられる。故にあのもの達の力は何れナツ様の元へと帰られる」 「だとすれば、千夏の力は増えて、あの世界の修復も早く終わる事が出来ると  いうことだな?」 「沙菜様の仰るとおりです」 「なら、杏子達の力も回収して千夏を助けようではないか」  確かに今のやりとりでわかったことは、千夏の助けになるということだが・・・ 「一番良い方法は神使を憑かせて回収させるのが良いでしょう」 「そうだな、紫月。早速試してみようぞ」 「沙菜様がそう仰るのであれば早速」 「ちょっと待った」 「翔悟?」 「その案には賛成なんだけどさ、そうなると願いを叶えないといけないんだよな?」 「その点は問題ない」  神使長が自信満々に答える。 「私は願いを叶えた力を回収してきておる、つまり願いを知っているのだ」 「なら問題ないな」 「はい、沙菜様」 「いや、問題ありまくりだから!」 「何故だ、翔悟?」 「人の願いを知っていて無理矢理叶えるのは、善意の押しつけに思うんだ。  それに・・・」  わんこやこねこ、聖の願いがどういう物か俺は知らない。  ただ、願いを叶えた世界にいるわんこ達は、どうやら俺と関係をもってるらしい。 「気にすることなぞ無いのだぞ、翔悟殿」 「神使長さん?」 「翔悟殿はナツ様と限りなく近いお力を持って居られる、つまり半人半神なのだ」 「そう、なるのか?」 「ですから、人ではなく神の法ですればよいのだ」  神の法って、話が一気にややこしくなった気がする。 「そうか、人ではないのだからな、この世界の法にこだわる必要は無いのだな」  沙菜さんまで乗り気だった。 「こういうのをはーれむと言うのだろう? 男なら受け入れてみるが良い、翔悟殿」 「いや、紫月。違うぞ? 受け入れるのは私たちの方だ」 「そうでしたな、でも聖ちゃんは是非私が」  何故そこで聖の名前が出てくる? 「この件は少し考えてみますから、神使長さん、ありがとうございました」 「うむ、良い答えを待って居るぞ」  そう言うと青梅さんの身体から淡い輝きが消えていった。 「天ヶ瀬さん・・・」 「青梅さん、神使長さんが言った事本気にしないでくださいね」 「はい、では私もそのはーれむにいれてくださるのですね」 「はい!?」 「そうだな、それですべての平行世界の懸念を解消できそうだな」 「どうしてそうなるんですか!? それに、そうなったら千夏が」  その時突然空間に亀裂が入った。  その音と現象に緊張が走る。  そしてその亀裂から現れたのは 「だめー!」  千夏だった。 「千夏!?」 「千夏様?」 「翔悟くんは私のだもん!」 「そうか、でも問題は無いぞ、千夏」 「沙菜?」 「正妻は千夏で、妾が私達だからな」 「いや、そう言う問題じゃないでしょ!?」 「それならいいかな」 「千夏まで?」 「じゃぁ私は安心して戻れるね、それじゃぁ翔悟くん、もう少しだけ待っててね」  そう言うと千夏は空間に扉を作って帰っていった。 「・・・」 「ふふふっ、面白くなってきたな」  いつの間にか神使長が出てきていた 「そうだな、楽しくなってきたな。翔悟と千夏と一緒に暮らせるのだからな」 「その際には是非私も・・・ぽ」 「青梅さん・・・」  なんだか収拾つかなくなってきた。  俺の将来っていったいどうなるんだろう?  そんなやりとりを。  天眼通で見られ、他心通でリンクされていて、今まさに神足通で乗り込もうと  していたことに、俺は気づいていなかった・・・というか普通は気づけないだろう?
6月13日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle          「sincerely yours」SSS”まどろみの時間” 「ん・・・」  まどろみの中から目覚めた私はぼんやりと天井を眺めた。  いつもと違う天井ね・・・  どうして部屋の天井と違うのか、なんて事を考え始める。   「・・・あ、そっか」  その思考を始めてすぐに、昨日の事を思いだした。  私の誕生日、でも平日のこの日、私も達哉も仕事があった。  達哉は申し訳なさそうな顔をしてたけど、私も休めなかったから  特に気にならなかった。  お祝いだけなら夜からでもしてくれる約束もあったし、何より今の私には  達哉もリリアもいる。それだけで充分だった。 「ただいまー」 「お帰りなさい、お母さん」 「お帰り、シンシア・・・」  玄関で正座させられてる達哉と、その横に立っているリリア。  いったい何があったの? 「リリア、何があったの?」 「なにもかにも、関係ないわ!」  リリアは興奮しつつも話を続けた。 「せっかくのお母さんの誕生日に、お父さんは何もしてないんだよ?  怒るに決まってるじゃない!」 「いや、そう言われると言い訳できないな」  娘に怒られる父親の図。 「・・・ぷっ」 「お母さん、何笑ってるのよ」 「いえね、なんだかシュールだなぁって思って」 「・・・」 「もぅ、お母さんったら・・・」  そう言ってため息をつくリリアはポケットから何かをとりだした。 「だ・か・ら、わたしがお母さんの誕生日をお祝いします!  はい、これ。誕生日プレゼント」 「わぁ、ありがとう、リリア。これって何でも言うこと聞いてくれる券?」 「ち、違うわよ! それはもう忘れてよぉ」 「やーよ、あんな便利な券の事絶対忘れないし大事に使うんだから」 「それよりもその封筒、あけてみて」  リリアに促されて封をあけてみる。 「あら・・・これは、宿泊券?」 「そう、満弦ヶ崎中央ホテルの宿泊券だよ。ちなみに予約は今夜から明日までだから」 「「え?」」  リリアの言葉に私と達哉の言葉がかぶる。 「だから、すぐに行ってね、ほら、早くっ!」 「ちょっと、リリア。私仕事から帰ってきたばかりで・・・」 「いいの、ほら、お父さんもお母さんも行ってらっしゃい!  明日まで帰って来ちゃだめだからね!」  そう言って家を追い出された。 「・・・シンシア、せっかくだから行こうか」 「そうね、今夜の寝床を確保しなくちゃいけなさそうだからね」  リリアの事だから恐ろしいほどのセキュリティを家にかけてるに違いない。  道具もなしにそのセキュリティを破るには至難の業だ。 「そういえば達哉は夕ご飯食べたの?」 「いや、俺も帰ってきたばかりでリリアに怒られてたから」 「そっか、それじゃぁホテルで戴きましょう」 「そうするか」  私たちは二人で、そのホテルに向かった。  その後遅い夕食と、バーでお酒を飲んで。  部屋に入ってからなんとなく、でもそれは当然であるように二人よりそって。 「そして今に至る、かな」  ちょっと身体がだるい。  朝起きる時間が早いせいもあるけど、それ以前に昨夜の激しい行為の影響が  残っているからだ。 「・・・もぅ、達哉ったらあんなにするんだもん」  私はお腹をさする。  この調子なら近い内にリリアに弟か妹が出来るかもしれない。 「それもいいかな、家族は多い方が楽しいから」  私以上にがんばった達哉は、私のすぐ隣でまだ眠っている。    でも、そろそろ起こさないといけないかな。  今日もお休みじゃない・・・けど。 「お仕事、さぼっちゃおうかな?」  そう言ったら達哉はなんて言うかな? 「達哉はまじめだから、怒るかな? それとも一緒にさぼってくれるかな?」  そのことを想像しながら、私は達哉に寄り添う。 「でも、もう少しだけ・・・少しだけならいいよね、達哉」  達哉の温かさに触れながら、幸せな時間をかみしめながら・・・ 「達哉、愛してる」  そっと達哉に口づけをした。
6月11日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”視察デート” 「思ってたより広くて綺麗だな」  梅雨に入ったこの時期に、俺は市営プールに来ていた。  普通の何処にでもありそうな市営プール、この春から改装工事を行っていて  全天候型のプールに生まれ変わったのだ。 「それでね、孝平。水泳部がこのプールを使いたいって言ってきてるのよ」 「水泳部が、市営プールを?」 「えぇ、季節じゃない時の練習に使いたいって」 「良いんじゃないか?」  修智館学院のプールは屋外型の普通のプールなので、夏場しか使用できない。  水泳部は夏以外は体力を付けるための練習しか出来ず、実際泳ぐとなると週末に  本島の方へと行かなくてはいけなかった。 「それでね、実際練習ができる環境かどうか調べる必要があるのよ」 「それもそうだな」  一般の人が多すぎればまともな練習は出来ない。  遊ぶだけなら部活動とは認定出来ないし、プール使用に関しての補正予算も組めない。 「だからね、孝平。週末プールに行きましょう!」 「これは視察であってデートじゃないんだよな」  そうは思いつつも、週末に彼女である瑛里華とプール、となるとどうしてもデートと  いう感じが強い。 「変に意識しなければ良いんだけどな、俺」  とりあえず仕事もしないとな、そう思った俺は屋内プールを見渡す。  元は普通の市営プールだったそうだが、俺はその頃遊びに来た記憶は無い。  だから比べることは出来ないけど・・・ 「広いな」  泳ぐための50mプール、遊べるための25mプールと二つのプールがある。  また、その横に子供用の小さなプールまである。  レジャー施設じゃない訳だが、十分に泳いで遊ぶだけの広さはある。 「50mプールの方なら泳いでの練習は出来そうだな」  週末だけはあって、人が多いものの、大きいプールは泳ぐためにあるので  みんな泳いで楽しんでいる。  家族連れなどは25mの小さいプールで遊んでいるから、水泳部が泳ぐ分には  問題なさそうだ。 「お待たせ、孝平」 「あぁ、瑛里華。先に仕事を・・・」  振り返って見た俺の視線は瑛里華に釘付けになった。  赤いビキニ姿の瑛里華、胸から上はTシャツを羽織っている。  健康的な肢体と柔らかそうな身体のライン、小さくて可愛いおへそ。 「・・・」 「こ、孝平・・・そんなにじろじろ見ないでよ」 「あ」  気がつくと俺は瑛里華に見入っていた。 「ご、ごめん」  俺は視線を逸らす。 「もぅ、孝平ったら目がえっちだったわよ?」 「否定できません・・・」 「ふふっ、聞く前に答え解っちゃった」 「何をだ?」 「孝平、私の水着、似合ってる? って、ね」  確かにその質問を受ける前に態度で答えてしまっていた。  その時小さな子供が俺達の近くでプールに思いっきり飛び込んだ。  高い水しぶきがあがり、俺達に水がかかる。 「きゃんっ!」 「瑛里華、大丈夫か?」 「えぇ、大丈夫よ。水をかぶっただけですもの」    そう言ってプールサイドに腰掛ける瑛里華。 「さっきの男の子、怒られてるわね」  普通に泳ぐのに飛び込むならまだしもコースの途中から飛び込めば危険だからだ。 「どうしたの、孝平?」  俺は瑛里華の声を聞きながら、それが聞こえていなかった。  別に瑛里華の姿は先ほどと変わっていない。  ただ、水に濡れただけだ。  それだけだが、Tシャツは肌に張り付いて大きな胸の形をあらわにしている。  赤いビキニにトップスが白いTシャツから透けて見えるのが妙に艶めかしくて  目が離せなかった。 「孝平?」 「っ、なんでもない!」  俺は頭を冷やすためにプールに飛び込んだ。  ・・・瑛里華に言われるまでもなく監視員の人に怒られた。  その後実際に泳いで試してみた後は、瑛里華と普通にデートっぽく過ごしてから  学院へと帰る。 「練習は可能ね、市営だから料金も安いし、毎日は無理だけど補正予算組めば  許可は出来そうね」 「そうだな、ただ実際練習に使ってるか遊んでるかは監視出来ないのが問題だな」 「そうね、私たちみたいに遊んじゃうかもしれないものね」 「・・・」 「くすっ、孝平」 「な、なんだ?」 「なんでもない♪」  そう言って微笑む瑛里華は凄く上機嫌だった。 「さぁ、早く帰りましょう」 「あ、あぁ」  瑛里華は一足先に歩き出す。 「ねぇ、孝平。今日は楽しかったわね」 「あぁ、視察の仕事だったんだけどな」 「そうね、だから今度は」  そう言うと瑛里華はくるっと振り返って、ウインクする。 「最初からデートで、行きましょうね!」
6月7日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”二人きりの夜”  静かな監督生室、聞こえてくるのは息づかいと、書類をめくる音。  サインをいれる為のボールペンの音。 「なんでこんなにあるんだろうな」 「もぅ、孝平!。集中力途切れてるわよ」 「ごめんごめん」  そう言いながら俺はまた書類に目を通す。  会長や東儀先輩が卒業されてからの生徒会は瑛里華と白ちゃんと俺の3人体制。  昔、とあるきっかけから白ちゃんと友達になった神谷さんがローレルリングの  傍らに生徒会の仕事も手伝ってくれている。  それでも、去年の5人体制からみればまだ役員が全然足りない。  俺達が引退するまでに何とかしないとな。 「孝平、手止まってるわよ」 「あ、ごめん」 「もぅ、どうしたの? 今日は全然集中足りてないわよ?」 「そりゃ、まぁね」 「そう、ならちょっとだけ休みましょうか。このまま続けても効率良くないわ」 「ごめん」 「私がお茶を煎れるから孝平は休んでいて」  瑛里華は給湯室へと消えていった。 「孝平、何か悩み事でもあるの?」  お茶を飲みながら瑛里華が切り出してくる。 「そうだな・・・せっかくの彼女の誕生日に何もしてあげれない自分が許せない、  そんな悩みかな」  俺の正直な悩みに瑛里華は顔を真っ赤にした。 「・・・孝平の馬鹿」 「それは認める」 「・・・ありがとう、でも今年はいいの」 「でも」 「それに、その話は前に終わったでしょう?」  瑛里華の誕生日にお祝いをする、学院レベルで行うイベントには出来ないけど  お茶会メンバーで誕生会をしようという話は当たり前のようにあった。  だけど、今年は生徒会のメンバー不足もあって平日の今日、時間を全くとることが  出来ないことが数日前からわかっていた。 「じゃぁ、千堂さんの仕事が落ち着いたら誕生会、しましょうね」  陽菜の提案で当日の誕生会の話は無くなった。 「でもさ、やっぱりなにかしてあげたいんだよ、俺の自己満足だけどな」 「その気持ちがとても嬉しいわ、孝平、ありがとう」  そう言う瑛里華の顔はとても優しい、本心からそう思ってるのがわかる。 「それにね、私は今のこの状況も楽しんでるのよ」 「今の?」  この仕事に追われてるこの状態が? 「えぇ、今は孝平とふたりっきりでしょ?」  白ちゃんはローレルリングの仕事があって今日は監督生室にきていない。  白ちゃんがいないと神谷さんも居ない。  イコール、ふたりっきり。 「そ、そうだな・・・これで仕事が無ければ文句ないんだけどな」 「役員がそう言うこと言わないの」  瑛里華が立ち上がる。 「私の為に仕事を遅らせて、学院の生徒のみんなに迷惑かけるわけには  いかないでしょ?」  確かに瑛里華一人の為に生徒全員に影響を及ぼすのは良くない。 「よりより学院生活をみんなにおくってもらう為ですもの」 「そう・・・だな、でもさ」  俺も立ち上がる。 「よりよい学院生活を送って欲しい生徒の中に、瑛里華も入るんだからな。  だから、瑛里華」  俺はそっと瑛里華を抱きしめ、優しく唇をあわせる。 「・・・孝平」 「続きは後で必ずするからな」  それだけ言うと俺は瑛里華から離れた。 「もう・・・孝平のえっち」 「あぁ、俺はエッチだからな、続きをするために仕事に集中する!」 「ふふっ、期待してるわよ、副会長」  その後驚異的な集中力を見せた俺は、消灯時間間際になんとか瑛里華と  寮に帰ることができた。  そして消灯時間の後、こっそり会った俺達は 「孝平」 「瑛里華」  ・  ・  ・  翌朝、二人で寝不足のまま登校する事となった・・・
5月28日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”虹のたもと” 「降ってきたな」  監督生室の窓は、強い雨に打たれていた。 「雷もなってるわね」 「濡れなくて良かったです」  教室棟を瑛里華と白ちゃんと一緒に出たとき、すでに空は暗かった。  天気予報では午後から急な雷雨があるかもしれないとのことだったので今日は  ちゃんと傘を用意して監督生室へと向かった。 「いつもなら間に合わずびしょぬれになるんだけどな、今日は間に合ったな」 「そうね、珍しいこともあるから雨が降るのかもね」 「それを言うなら珍しいことをした場合だろう?」 「ふふっ、そうかもね。さぁ、仕事を再開しましょう」  外で大雨が降っても生徒会の仕事が減るわけではない。  俺達は仕事を再開した。 「瑛里華先輩、そろそろお茶をお煎れしましょうか?」 「そうね、そろそろ一休みしましょうか」 「あぁ」 「それじゃぁ煎れてきます・・・あ」  席をたった白ちゃんが何かに気づいたように声をあげた。 「瑛里華先輩、支倉先輩、虹が見えます!」  窓の方へと駆け寄っていった白ちゃん。  俺と瑛里華も同じく窓の方へと向かった。  雨はいつの間にかあがっており、雲の晴れ間も見える。  そんな中、虹が架かっていた。 「綺麗です」  白ちゃんがうっとりしたような声。 「確かに綺麗ね」  同意する瑛里華。 「そういえば、私こんな話を聞いたことあります」  白ちゃんが少し興奮気味に話を始めた。 「虹のたもとには宝物があるそうです」 「そうなの、白?」 「はい、お婆さまがそう仰ってました」 「虹のたもとか・・・」  俺は空に浮かんでいる虹のたもとを見てみた。 「ここからじゃはっきりは見えないけど、あの虹のたもとは学院だな」  恐らく新敷地の辺りになるだろう。 「白の言うことはちょっとだけ違ってたようね」 「瑛里華先輩?」 「宝物は埋まってはいないわ、だってそこにあるんですもの」  虹のたもとにあるのは学院。  いつも生徒の事を、楽しい学院生活の事を考えて行動する瑛里華。  だからこそ、この修智館学院は宝物なのだろう。 「でもさ、瑛里華。白ちゃんの言うことは間違ってないと思うぞ?」 「え?」 「まだまだ掘り出してない宝物が埋まってるかもしれないじゃないか」 「支倉先輩・・・私もそう思います!」  白ちゃんが目を輝かせて俺を見つめてくる。なんだかちょっと照れて顔を背ける。 「孝平、格好つけすぎて照れてるでしょう?」 「そ、そんなことないぞ?」 「くすっ、そう言うことにしておきましょう。それじゃぁみんな、埋もれてる宝物  全部見つけだすわよ!」 「はい!」 「おぅ!」  俺と瑛里華が居る間に、いくつの宝物を見つけることができるだろうか?  多分、すべて見つけることは出来ないと思う。  でも、きっと俺達の後輩が見つけ続けてくれると思う。  だって、ここは修智館学院なのだから。
5月26日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「伽耶が制服に着替えたら」 「それじゃぁここで待ってて」  そう言うと紅瀬さんは部屋から出ていった。 「いったい何の用事なんだ?」  久しぶりに生徒会の仕事が休みの夜、寮でくつろいでいた俺は紅瀬さんに呼ばれた。  正確に言えば、紅瀬さんが伽耶さんの伝言を持ってきた、だ。  そして今、千堂邸まで来て伽耶さんを待っている。 「伽耶さんが来ればわかることだな」  急な呼び出しの理由は伽耶さんの事だから・・・ 「あれ?、なんだかおかしくないか?」  伽耶さんが俺を呼ぶとき、伝言を紅瀬さんに頼むことは多々ある。  けど、その呼び出しすべてが伽耶さんからだったっけ? 「・・・なんだか嫌な予感がする」  今日はいつも通される部屋ではない、別な部屋に通されている。  これは何かの罠・・・ 「まずいな、今すぐどこかに逃げた方が」  俺は立ちがあろうとした、だが手遅れだったようだ。 「桐葉、何処に居る、桐葉っ!」  伽耶さんの声が聞こえたと思ったら、すぐに部屋のふすまが開かれた。 「桐葉! 何故あたしの着物が・・・」  部屋に入ってきた伽耶さんは下着姿だった。  いや、正確に言えばパンツ姿だった、どうやらブラジャーはまだ必要ない・・・のか? 「は、はせ、支倉!?」  俺は瞬時に立ち上がり、後ろを向いた。 「ななななん、なぜ支倉がここに!?」 「紅瀬さんに連れてこられました、伽耶さんが用事があるって言われて」 「あたしはなにも言ってないぞ!?」  やっぱり、今回も紅瀬さんが仕掛けた罠だったようだ。 「それよりも伽耶さん」 「なんだ?」 「その格好のままだと、風邪ひきますよ?」 「なっ!? と、とにかく支倉はここで待て! あたしは着替えてくる!!」  そう言うと背後から伽耶さんの気配が消えた。 「・・・俺、生きて明日の朝日を拝めるだろうか」  事故とはいえ、伽耶さんの裸を見てしまったわけで。 「・・・」  副会長と会長のお母さんなのに、ちっちゃくて、とてもそうは見えないけど  もう何百年と生きている吸血鬼で。 「・・・」  ブラをつける必要のないサイズだったけど、なだらかな曲線を描いていた  その先に・・・ 「って、駄目、思い出すなっ!」  俺は柱に思いっきり頭をぶつけた。 「痛っ!」  そしてその場に蹲った。 「支倉・・・おまえは何をしてるのだ?」  頭を抱えて蹲ってた俺に声をかけてきたのは伽耶さん。 「いえ、ちょっと自己嫌悪をしてただけです」 「そ、そうか・・・お主も大変なのだな」  俺は痛みを我慢しつつ、顔をあげた。 「・・・」  声がでなかった。  伽耶さんがいる、さっきと違ってちゃんと洋服を着ていた。  そう、着物じゃなく、洋服を。 「伽耶さん、その服は?」 「あ、あぁ、桐葉のやつ、あたしの着物をどこかに隠してこれを脱衣所に置いて  いたのだ」  着物がないことに気づき、下着だけで紅瀬さんを探してこの部屋に来た伽耶さんと  俺が出会ったのがついさっき。  いつまでも裸で居るわけにもいかず、その洋服を着たという流れだった。 「ところで支倉」 「・・・はい」 「お主、見たな?」 「・・・見ました」 「っ!?」  俺は正直に答えた、そしてその場で頭を下げる。 「どんな事情にしろ、見てしまったのは俺の責任です。だから、すみませんでした」  頭を下げたままずっと伽耶さんの言葉を待つ。 「もう頭を上げるがよい」  俺は言われたとおりに頭をあげた。 「そこまで潔いとはな、気に入った」  何故か伽耶さんは上機嫌だった。 「今回の件、桐葉の策略によるもの、故に支倉。お主には貸しにしておくぞ」  許してくれるだけ良かったと思う、でも貸しって・・・  考えるのはやめにしておこう。 「それで支倉、お主はこれからどうするのだ?」 「俺は伽耶さんに呼ばれて来た訳ですけど、それが紅瀬さんの嘘なら用事は  無くなりました」 「なら、お主も桐葉を探す手伝いをするのだ、一言文句を言わないと気が済まぬ」 「・・・そうですね、俺も文句の一つは言いたいですから」 「よし、では参ろうか」  勢いよく立ち上がろうとした伽耶さん、その勢いのせいでスカートがふわっと  ふくらむようにめくれあがる。 「・・・うむ、このスカートは短すぎるな、今時の若い娘は恥じらいという物が  足りて居らぬ」  そう言ってスカートの裾をつまむ伽耶さん。    俺は瞬時に横を向く。 「どうしたのだ、支倉?」 「い、いえ、なんでもありません。それよりも紅瀬さんを探しましょう」 「そうだな」 「でもその前に伽耶さん」 「なんだ?」 「似合ってますよ、その制服」 「なっ!? い、いきなり何を言い出すのだ!?」 「いえ、こういう感想はちゃんと言わないと駄目ですからね」  そう以前に副会長に言われたことを思いだした。 「それじゃぁ紅瀬さんを探しに行きましょうか」 「こら、支倉! 待たぬか!」  言ってから恥ずかしくなった俺は、伽耶さんを置いて先に部屋から出た。  多分紅瀬さんはこの屋敷のどこかにいる、それも相当近くに。  この俺と伽耶さんのやりとりを見ているに違いない。 「伽耶さん、紅瀬さんが逃げる前に捕まえますよ!」 「い、いわれないでもわかって居る!」  二人で妙なテンションになりながら、俺達は屋敷の探索を始めた。
5月23日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”優しすぎる心” 「それじゃあ私は先に部屋に戻ってるね、みんなありがとう!」  菜月はそう言うと深々と頭を下げてから奥へと消えていった。  営業時間が終わってからの左門での菜月の誕生会はこうして終わった。 「・・・おやっさん、後かたづけ任せてもいいですか?」 「私も手伝いますから」 「ありがと、麻衣ちゃん。麻衣ちゃん達が手伝わなくてもタツには手伝わせないさ」  そう言うとおやっさんは煙草を取り出す。 「まったく、我が妹ながら健気だよねぇ」 「そういうな、仁。それだけ菜月が大人になった証拠だよ」  そう言うとおやっさんは少し離れてから煙草に火を付けた。 「だけど、まだまだ子供だけどな」 「そうね、でも菜月ちゃんらしいと思うわよ」  みんなのやりとりを聞いて、俺はみんなも気づいてたことを確信した。 「タツ、菜月を頼んだぞ」 「はい」  俺は返事をしてから、菜月の消えた扉へと向かった。 「まったく、タツも大人になったものだな」 「えぇ、私の自慢の弟ですもの」 「あー、お姉ちゃん、それを言うなら私の自慢のお兄ちゃんだよ!」 「そうだな、俺達の自慢の家族、だものな」 「ということは、達哉君は僕の自慢の弟になるのかな?」 「それはないと思うな」 「さやちゃん、それってどういう意味なのかな・・・」 「菜月、入って良いか?」 「え? 達哉!? ちょっと待って!」  中で何かあわただしい音がしてから、菜月の部屋の扉が開かれる。 「どうしたの、達哉。いつものように窓越しでもいいんじゃない?」  菜月は笑いながら部屋へと迎え入れてくれる。 「え、きゃんっ!」  俺は菜月の頭を自分の胸の中へと抱き寄せた。 「た、達哉?」 「今この部屋に居るのは俺と菜月だけだ。だからもう良いんだ」 「・・・駄目だよ、今日はみんながお祝いしてくれたんだから」 「それはもう終わりだ、だからいいんだよ。俺の前だけなら」 「・・・ぐすっ」 「菜月」  俺はそっと菜月の頭を撫でた。 「少しだけ・・・少しだけだから・・いい?」 「あぁ」 「・・・ありがとう」  そう言うと菜月は俺の胸の中で泣き出した。 「そうか」  落ち着いた菜月は俺に寄り添いながら、理由を話してくれた。  その話を聞くまでもなく、その理由は俺にはわかっていたが、黙って  菜月の話を最後まで聞く。  今の菜月は獣医師助手、という立場にいる。  獣医学部を卒業し、資格を得てもすぐに開業できるわけではない。  菜月は所属してた獣医学部の勧めで隣の市にある大きな動物病院に勤務している。  そこで経験と、資金をためて何れは満弦ヶ崎で開業するのが今の菜月の夢だった。  だが、夢の前に現実が何度も立ちふさがった。  それは、救えない命。  病院に連れてこられた動物たちすべてを救えるわけではない。  菜月が関わらない内に亡くなってしまう例もあるし、菜月が助手として手術に  立ち会った例もある。  そして、優しい菜月は救えなかった事に、いつも苦しめられていた。  今日も、帰宅したときの菜月の笑顔は、無理をしているのがわかる笑顔だった。  それでも誕生会を開いてくれる家族の為に、ずっと笑顔ですごしていたのだ。 「菜月」 「なに?」 「そんなに苦しい思いをするなら・・・やめるか?」 「・・・ううん、やめない、やめたくない。だって飼い主さんの笑顔、見たいから」  救えなかった動物の飼い主さんの顔を見るのは辛い、けど救えた動物の飼い主さんの  笑顔はすごく素敵、そう言う菜月。 「それにね、達哉との約束だもの。私は夢を叶える、辛くて苦しくても、夢を叶える  為に、がんばるから絶対に立ち止まらないよ」 「そうだな・・・それでこそ俺の愛した菜月だな」 「−−−っ!」  俺の一言で菜月の顔が真っ赤になる。瞬間沸騰は今でも健在だった。 「なな、なに恥ずかしい事言ってるのよ!!」 「事実だからな、それとも今のは嘘って言って欲しいか?」 「達哉のいぢわる・・・」 「ははは」  俺は菜月の頭を抱き込む。 「菜月の辛い気持ちは俺は本当の意味ではわかってやれないと思う、でもさ、俺は  ずっと菜月の側で菜月を支えていくからな」 「・・・うん、私が倒れないようにずっと支えていてね、達哉」 「あぁ」 「ねぇ、達哉・・・」  目を閉じる菜月に、俺はそっと口づけをした。
5月18日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「かなでが魔法少女に変身したら?」   「わたし、参上!」  いつものようにベランダから入ってきたかなでさん。  いつもと違うのは、変わった洋服と変わった杖みたいなものを持って  いることだった。 「わたしは最初からクライマックスだぜ!」 「かなでさん、こんばんは。ちょうどお茶をいれるところだったんですけど  飲みます? お菓子もありますよ」 「あ、うん! 飲む飲む!」  かなでさんの返事は聞くまでもないので、すぐに二人分のお茶を煎れてから  机に運ぶ。 「どうぞ」 「ありがと、こーへー」  お菓子の袋をあけながら、なにげなくかなでさんに聞いてみる。 「そういえば、今日は変わった服装ですね」 「うんうん、そーなの・・・って、つっこみ遅すぎっ!」  ばんっ! と音がするほど強く机の上に手を置く。  でも加減をしていたのかティーカップが倒れることは無かった。 「ねぇ、こーへー。普通はすぐに気づかない?」  そういってその場でくるっと一回転するかなでさん。 「変わった服だなぁって思ってましたけど、別にいいかなって」 「駄目だよ、こーへー。興味本意は猫をも殺すっていうでしょ?」 「いや、それを言うなら質問出来ないじゃないですか」 「まぁまぁ、とりあえず話を戻すね」  脱線させたのは誰、とは言うだけ無駄なんだろうな。 「実はね、この本を見つけたの」  そう言うと隠し持っていたらしい、分厚い本を取りだした。 「これは何の本ですか?」 「ふういんのしょ。っていうらしいの」 「そんな危険な本、どこにあったんですか?」 「んとね、代々寮長に伝えられる、白鳳寮の倉庫の中」  代々伝えられる寮の倉庫って・・・ 「でねでね、わたしが触れた瞬間にね、本の表紙が輝いて、そう思ったら  いつの間にかこれを持っていたの」  そう言うと杖みたいな物を俺に見せてくる。 「これは?」 「んーとね・・・あえて言うなら”名状しがたい魔法少女のステッキなようなもの”」? 「そのまんまのような気がするんですけど・・・」 「まぁまぁ、細かいことは気にしない!」  そう言うとかなでさんは本を開く。  それは本ではなかった、本の形をした入れ物で、中にカードが入っていた。  かなでさんはそのうちの1枚を取り出す。 「使い方は何となくわかってるからだいじょうぶ、やってみるね。  うん、絶対大丈夫だから」 「何の話ですか!」  よくわからないまま、その謎のカードを使おうとしているみたいだ。 「危険なら止めてください!」  俺の忠告を聞いてか聞かずか、一歩後ろに下がってからかなでさんはカードを手に  構える。  そのカードには何やら絵が描かれていた。  純白のスカート、青色の服、というかドレスを着ている女の人の絵。  その絵の上の方に大きな文字が見える。  その文字は「Feena」。 「誰かの創りしカードよ、我に力を貸せ!   カードに宿し魔力よ、この鍵に移し、我に力を!」  かなでさんはなにやら呪文のような物を唱えて、カードを宙に放り投げる。  そして、持っていた杖のような物でカードをたたき落とすように振りかぶった。 「えっ!?」  杖がカードにあたった瞬間、まぶしい光に包まれた。  そして気づいたら・・・ 「どう、孝平?」  目の前に立っていたかなでさんの着ていた洋服が変わっていた。  それは、さっきのカードに描かれたものを同じドレスだった。 「かなで・・・さん?」 「そうよ、私は悠木かなでよ、驚いた?」  なんだかしゃべり方が凄く上品になってるし、動きから優雅さを感じる。 「いったいどんな手品・・・なんだ?」 「違うわ、手品ではなくて魔法よ」 「魔法・・・」  確かに目の前で起きたことは「魔法」という言葉でなら簡単に解決できる  事象だとおもう。 「よくわからないんですけど、凄いことだけはわかりました」 「ふふっ」  優雅に笑うかなでさん。 「それで、その魔法は他に何ができるんですか?」 「・・・」  優雅に笑っていたかなでさんの顔が固まった。 「・・・このカードは月のお姫様になれるだけみたいね」 「いや、月って・・・」  月のお姫様になったからって、なんにも意味が無いような気がする。 「大丈夫よ、孝平。まだカードは他にあるわ」  そう言うとかなでさんは優雅にカードを取り出して、優雅に杖でカードに触れた。  そのカードに描かれていたアルファベットはNだった。 「ふっ、これがボクの本来の姿なのさ」  スーツっぽい、というかブレザーの制服っぽい服装をしたかなでさんが立っていた。  そして何故かマントを羽織っている。 「あ、かなでさん。目の色が」  向かって右側の目の色が変わっていた。 「だいじょうぶさ、これくらいボクの力を持ってすればなんてことはない」 「そ、そうですか・・・」  まぁ、魔法といえばこれはこれでありなんだろうな。 「・・・ふむ、今のボクは吸血鬼なのか」 「!?」  吸血鬼、という単語に俺の心臓が跳ねる。 「どうやら人間の血を吸えば、獣化能力が発揮できるようだね、試してみるかい?」 「遠慮しておきます!」  Hのカードで変身したかなでさんは、ブレザーっぽい、どこかの学院の制服姿だった。  なぜ学院のか、とわかったのは、胸にエンブレムがあったからだ。 「にゅふふ」  さっきよりまともそうなので安心した俺はかなでさんに訪ねてみる。 「それはどういう魔法なんですか?」 「んとね、ボクに任せてくれれば1ヶ月間の食費を激安にできるよ」 「凄く便利そうな能力ですよね、なんか微妙っぽいけど」 「失敬な! 食費っていうのは出費の中で凄く大きなウエイトをしめるんですよ!  それを押さえるのは大事なんだよ!」 「あ。ごめんなさい・・・」 「わかれば良いんです、先輩」  俺の方が後輩なんですけど。 「どうかな、孝平くん」  白を基調とした制服姿のかなでさん。 「今度は・・・またNのカードですか?」 「うんうん」  笑顔で頷きながら俺の手を握ってくるかなでさん。  今回はどんなカードの能力なんだろうな。 「そう思って先に説明してあげる、心が読めるんだよ♪」 「え?」  心が読める? ということは・・・ 「もう、えっち」 「ちょっ、俺そんなこと考えてないですよ?」 「本当に?」 「・・・」 「・・・」 「ごめんなさい」 「うん、よろしい」  かなでさんはいろんなカードを試していた。  着物姿になったかなでさん。 「それは?」 「このNのカードは、七つの不思議な時計を操れるんです」 「それってどんな能力なんですか?」 「いろいろあるみたいだけど、しょはんのじじょーでお見せできないのが残念です」  それじゃぁ変身した意味が無い気がするんだけど・・・  今度は赤とピンクのセーラー服っぽい制服? 「このYのカードは自転車が速く漕げるのだ!」 「それって全寮制のここで役に立つんですか?」 「・・・これで勝ったと思うなよ!」 「あれ?」  Rのカードを試してみるね、といったかなでさん。  だけど、今度は何も衣装は変わってない。 「あ、これは変身の呪文が必要のようね、えっと・・・  シンフォニックプリズムハーモニー・・・」  なんだかすべての呪文を聞くと危険なような気がしたので俺は耳をふさいだ。  その瞬間、かなでさんの着ている服がはじけて消えたように見えた。  そして気づくと、青を主体とした衣装で剣を持ったかなでさんが立っていた。 「・・・なんか一番魔法使いっぽい服装ですけど、剣もってるからそうは  見えませんね」 「でも、歌魔法が使えるから立派な魔法少女よ」  なんか、魔法少女ってなんでもありなんだなぁって納得してしまった。  そして今は最初の変わった服装に戻っている。 「ふぅ、さすがに疲れちゃった」 「いろんな意味で俺も疲れてます」  便利そうで微妙な変身が多かったのが理由か、それとも目の前でかなでさんの  ファッションショーを見たからか。  ただ一つはっきりしてるのは、この魔法? ろくな物じゃないという事だけだ。 「それでかなでさん、この本と魔法、どうするんですか?」 「これ? すぐに元物場所に戻すよ」 「え? 使うとかじゃないんですか?」 「遊ぶには面白いけど、これを実際使うのはフェアじゃないでしょ?」  かなでさんもちゃんと色々と考えてるんだな。 「それじゃぁなんで使ってみたんですか?」 「面白そうだったから」  ・・・かなでさんはかなでさんだった。 「それじゃぁ魔法の杖さん、本さん、ありがとう」  かなでさんがそう言うと、杖と本とかなでさん自身が光り出した。  その光が収まった時、足下にあるのはさっきの本。  そして・・・   「やっぱりわたしはわたしらしく、だよね♪」  一糸まとわぬかなでさんだった。  俺は瞬時に身体事横に向いた。 「どうしたの、こーへー?」 「あの、かなでさん・・・とりあえずベットの上にシーツがあるので  それを使ってください」 「なんで?」 「その格好は・・・」 「え・・・−−−−−−っ!?」  やっと状況を理解できたのか、かなでさんは声にならない悲鳴を上げた。 「こーへー、見たでしょ」 「・・・見えました」 「うぅぅ・・・こーへーのえっち」  目の前でいきなり裸になって、エッチ呼ばわりされるのは心外だけど  何か言ったら反撃が怖いので言うのをやめておいた。 「こーへーのえっち」 「・・・否定はしませんけど、なんで2度も言うんですか」 「だって・・・ほら」  シーツにくるまってかがみ込んでいるかなでさんの視線の高さは低い。  その先に見える物は・・・ 「・・・だってかなでさんですから」 「・・・あの、あのね。こーへー?」 「何ですか?」 「さっきのカードなんだけどね、どのカードにも”想い”があったの」 「想い、ですか?」 「うん・・・大好きな人への想い、どのカードにもあってね、その想いの  強さ、ずっとわたしも感じてたんだ」 「そ、そうなんですか」 「だからね、こーへー。こーへーがえっちなら・・・わたしもえっちだし  ちょうどいいかな、って、えへへ」 「・・・良いんですか?」 「だってこーへーえっちだもん、だから私もそれに釣り合うくらいえっちに  ならないとね」  どういう理論なのか納得できないけど。 「だから、ね。こーへー・・・しよ♪」  大好きな女の子からの誘いを断る、そんな選択肢は俺には存在しなかった。
5月11日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「桐葉が着物に着替えたら」 「ふぅ、わかったわ。そこまで言うなら着てみるから」  桐葉はあきらめた顔をしつつ、バスルームへと消えていった。  今年のゴールデンウィークは去年より連休が長い。間に平日が2日あるが、それさえ  越えてしまえば4連休となる。  多くの生徒が実家へと帰る事となった修智館学院の白鳳寮ではあるが、俺を含め  帰らない生徒もいる。  去年、その生徒達とのイベントを開こうと当時の寮長が企画実施したバーベキューは  好評で今年も残った生徒達と行うことが決まるのは想像するまでもなかった。  ただ・・・ 「えっと、陽菜。もう一度聞いて良い?」 「うん、今年の寮の企画はね、コスプレバーベキュー大会になったの」 「・・・」 「ごめんね、孝平くん。去年、耳だけつけてたでしょ? だったら今年はちゃんと  コスプレしようって話になっちゃって・・・私だけではそれを止められなかったの」  それに、と陽菜は付け加える。 「楽しんでもらうのも目的だし、それでもいいかな、って」  結局自主的なコスプレという事で企画はまとまった。 「でもさ、俺そういう衣装持ってないんだけどな、どうするかなぁ」 「あ、それは大丈夫だよ。演劇部や手芸部とか、文化部が手配してくれるから」  やると決めたら準備は抜け目無し、さすがは陽菜というべきか。  それともさすがはかなでさんの妹と言うべきか・・・  そうして俺に渡された衣装とともに、何故か桐葉の分も手渡された。 「・・・」  桐葉の分の衣装は、茶道部の後輩が用意した着物だった。  なんでも桐葉のファンだそうで、一度着物を着た桐葉をみてみたいから、というのが  理由らしい。 「ねぇ、孝平。これは着物っていうのかしら?」  そう言って広げる衣装は、確かに腕に通す袖の部分が大きく見た目は着物っぽい。 「それは袖付って言う名前よ」 「そうなんだ、名前までは知らなかったよ」 「それは良かったわね」  桐葉の機嫌は良くない。 「もう一度聞くわ、これは着物というものなのかしら?」  広げたものは、袖付はあるので、確かに着物っぽい。  しかし、普通の着物は足下まで生地があるはずなのだが、この着物・・・衣装と  言うべきだろうか、それは明らかに上半身の部分しかない。 「それに、これは完全にスカートね」  着物の・・・衣装の下半身の部分は完全なスカートとなっていた。  一応帯はあるものの、これでは着物というより着物ふう洋服と言うべきだろうか? 「でもさ、着てみないとわからない事もあるかもしれないだろう?  せっかく後輩が用意してくれたものだし」 「孝平はこの着物みたいなものを私に着て欲しいの?」 「あぁ、是非見てみたい、だって似合うのわかってるから」 「・・・」  桐葉の顔が真っ赤になった。 「ふぅ、わかったわ。そこまで言うなら着てみるから」  桐葉はあきらめた顔をしつつ、バスルームへと消えていった。 「孝平、おまたせ」 「あぁ・・・」  バスルームで着替えてきた桐葉の姿を見て、言葉を失った。    確かにぱっと見た目、ミニスカートの着物姿だ。  でも、エプロンが掛かっていて着物というよりどこかのウエイトレスと言えそうな  そんな格好だった。  実際にそう言う店には行ったこと無いから本当はどうなのかはわからないけど。 「どうしたの、孝平。顔が赤いわよ?」  俺の表情をみてくすりと笑う桐葉。 「そう言う桐葉の顔も赤いぞ?」 「部屋が、暑いのよ」 「そ、そうか」 「そうよ」 「・・・」 「・・・駄目だ」 「孝平? 何が駄目なの?」 「あ、いや・・・」  思わず思ったことが口に出てしまったようだ。 「私には似合わないのかしら」 「そんなことはない!」 「そ、そう、ありがとう・・・」  思わず俺は即答した、似合ってないわけがない。  というか似合いすぎている。だからこそ・・・ 「駄目なんだよな、俺が」 「孝平が駄目?」 「・・・白状するよ、桐葉があまりに魅力的すぎるから嫌なんだよ」 「どういうこと?」  そう言う桐葉の顔は優しく微笑んでいる。  だが、その微笑みは悪魔の微笑みでもある。 「わかってることを聞くなよ」 「わからないから聞いてるのよ」 「・・・」 「駄目な理由が無いなら、私はこの衣装で参加しようかしら」 「・・・スカートが短すぎるから」 「・・・」 「それじゃ見られちゃう、それに見られなくてもこの桐葉の姿は誰にも見せたくない」  俺は多分顔を真っ赤にしていることだろう。  駄目な理由、それはようするにただの嫉妬なのだから。 「そうね、孝平がそこまで言うなら遠慮しておくわ」 「いいのか?」 「えぇ、私も孝平以外に舐められるように見られるのは嫌だから」 「俺はそんなに食い入るように見ていたか?」 「えぇ・・・感じてしまうほどに」 「・・・」 「・・・ふぅ、暑いわね」 「そう、だな」 「他の人に見せる必要ないなら・・・もう着ている必要はないわね」 「・・・あぁ」  これは桐葉の合図。遠回しだけど、わからないと機嫌がわるくなる。 「孝平」  桐葉は俺に近づく。 「孝平は、暑くない?」  俺は桐葉に近づく。 「あぁ、もう熱いな」 「なら・・・んっ」  俺は桐葉を抱きしめた。  ・  ・  ・ 「ん・・・?」  あぁ、もう朝なのか? 「おはよう、孝平」 「あぁ、おはよう」  目の前に桐葉の顔があった。 「もう少し眠っていても良かったのよ?」 「そう、だな」  まだ頭がぼーっとしているし身体がだるい。明らかに昨夜の影響だろう。 「可愛い寝顔は見ていて飽きないもの」 「もう起きる」 「孝平、今更恥ずかしがっても遅いわ」 「・・・」  俺はそのまま上半身を起こす。  シーツを身体に巻き付けたまま、桐葉も一緒になって起き出す。 「なんだか腹が減ったな」 「そうね・・・孝平、冷蔵庫の中に何かある?」 「最低限の物しか入ってないと思う」  日曜でも食堂が開いてる事もあり、冷蔵庫にはあまり食材が入っていない。  桐葉はシーツを身体に巻いたまま冷蔵庫の中身を確認している。 「せっかくだから何か作りましょうか?」 「いいのか?」 「えぇ、まともな物がつくれるとは思えないけど」  それは桐葉の味覚的な問題ではなく、単に俺の部屋の冷蔵庫の中身の問題だろう。  桐葉の手料理はちゃんと味を調整してくれるからその辺の心配はない。 「その前に着替えるわ」 「そうだな、そのままだと危ないしエプロンも必要だしな」 「・・・なるほど、ね」  俺の言葉に桐葉は一度顔を真っ赤にして、それから巻いているシーツをほどいた。  そうして、昨日の着物ふう衣装から一つのパーツを纏う。   「きり・・・は?」 「こういうことをして欲しいのではなくて?」 「あ、あぁ・・・」 「ふふっ、それじゃぁ先に何か食べるものを作るわね」  そう言って振り返った桐葉を俺は背後から抱きしめる。 「こら、まだ何も作ってないわよ?」 「こんなご馳走を見せられて黙ってられない」  俺は桐葉の身体をぎゅっと抱きしめる。 「っ! 孝平・・・」  桐葉のお尻の部分に俺のモノがあたるのがわかる。 「なんでそんなに元気なの? 昨日あんなにしてくれたのに」 「桐葉が可愛いからだ」 「もぅ・・・」 「それじゃぁ桐葉をいただくな」 「ん・・あぁっ」  その日の最初の食事は昼ご飯となった。
5月3日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「白が水着に着替えたら」 「あの、支倉先輩。ちょっと相談があるのですけど、良いでしょうか?」 「あぁ、良いよ。何かな?」  監督生室からの帰り道、白ちゃんから相談を持ちかけられた。 「その、後でお部屋にお伺いしてからでも良いでしょうか?」 「構わないよ」 「それでは、後ほどお伺いしますね」  ここでは話しにくい相談なのだろうか、俺で役に立てればいいのだけど。  ドアがノックされる音が聞こえた。 「開いてるからどうぞ」 「失礼します」  白ちゃんが手にいっぱいの紙袋を持って入ってきた。 「こんばんは、支倉先輩」  白ちゃんに部屋に入ってもらってから、俺はお茶を煎れる。 「ありがとうございます」 「それで、相談事って、その袋の中身が関係してるのかな?」 「私はまだ何も言ってないのに、支倉先輩すごいです!」  まぁ、相談しに来る時に持ってきてるんだから、関係無いわけ無いとは  誰だって思うよな。  俺は白ちゃんに話を促す。 「実は先日、伊織先輩から荷物が届いたのです」 「先輩から?」 「はい、これがその荷物です」  白ちゃんが紙袋からとりだした物は・・・ 「これ、水着だよな」 「はい、学院指定用だそうです」  それはいわゆるスクール水着と呼ばれる、修智館学院で今でも採用されている  女子用水着だった。  ただ、今のと少し違うように見える物もあれば、明らかに違う物もある。  紺色ではなく、赤っぽい色の水着もある。 「手紙も同封されていて、こう書かれていました」  白ちゃんの話を要約すると、以前納入した業者が新たなデザインの水着を採用  してくれないか、という話を先輩に持ちかけたらしい。  だが、先輩はすでに卒業しているから検討できない、そこで今の生徒会にこの  新しいデザインの水着を検討して欲しい。そう言うことらしい。 「で、会長には話しをしたの?」 「はい、瑛里華先輩にはすぐに相談しました」 「それでどうなったの?」 「兄さんの言うことなんでいちいち真に受けなくて良いわ」 「だそうです」 「納得」  確かに会長ならそう言うだろうな。いくら連休中だからといっても生徒会は  多忙で余計な事に時間を割く余裕は無い。 「でも、業者さんからサンプルを戴いてしまってますし、検討せずにお断りするのは  良くないと思うのです」 「確かにそれはそうかもしれないな」 「ですから、先輩にお願いがあります。私と一緒に検討して下さい」  白ちゃんが真剣な表情で俺にお願いしてくる。  正直、先輩の持ちかけた企画だから俺的にも会長と同じ意見なのだけど。 「俺で良ければ手伝うよ」  真剣な白ちゃんを手伝いたい、俺は素直にそう思った。 「ありがとうございます!」  白ちゃんは嬉しそうに頭を下げた。 「それじゃぁまず男子用からやっちゃうか・・・あれ?」  白ちゃんが持ってきた水着の中にぱっとみ男子用の物がない。 「そういえば男子生徒用の物は送られてきてませんでした  何故なんでしょうね?」 「・・・」 「支倉先輩?」 「あ、いや、なんでもない。どうせ男子用は変えるほどデザインがあるわけじゃないし  いい、って事じゃないのかな?」 「そうなんでしょうか?」 「サンプルが無いのがその証拠だよ」 「支倉先輩がそう言われるならきっとそうなんでしょうね」  本当のところはわからないけど、先輩のことだから女性用の事しか考えて無いのでは  と思う。 「それじゃぁ女性生徒用のを検討しましょう」  そう言って白ちゃんは順番に床に並べ始めた。  その水着を目にして、今更ながらに気づいた。  水着だから下着ではない、けどそれをこうして目の前に並べられるとなんだか  恥ずかしくなってきてしまう。 「支倉先輩、これはどうでしょうか?」  白ちゃんが水着を手にとって俺に見せてくる。 「支倉先輩?」 「あ、あぁ・・・えっと、どうなんだろう?」 「ちゃんと見てください、支倉先輩」  俺の感情の事を知ってか知らずか・・・知るわけないよな。  目の前に水着を掲げてくる白ちゃん。  ・・・うん、これは仕事だ。そうだ、仕事なんだ。  学院の女子生徒が将来着るかもしれない水着なんだ、ちゃんと検討しないと。 「・・・」 「支倉先輩?」  思わず白ちゃんが水着を着てる姿を想像してしまった。 「あ、ごめん、なんでもない」 「?」  白ちゃんは不思議そうな顔をしていた。 「でもさ、これって見た目だけで選んで良い物なんだろうか?」  なんとか一通り、がんばって見てみた。  基本はワンピース形なのだけど、何故かビキニタイプのものもあったりと  確かに斬新なデザインの物もあった。  そう言うのはすべて除外しての検討だった。 「そう言われてみればそうですね、着心地とかもあるかもしれません」 「着心地か、こればっかりは俺に相談されても無理だよな」  俺が着たらただの変態だ。 「・・・あの、支倉先輩。私、この水着着てみます」 「え?」 「ちゃんと検討するのですから、着てみないと駄目だと思うんです」 「それはそうだけど・・・」 「幸いサンプルのサイズはSなので私でも着れます」 「・・・」  Sサイズって・・・先輩、絶対狙ってないか? 「支倉先輩、バスルームお借りしますね」  そう言うといくつか選んだ水着を持って白ちゃんはバスルームへと消えていった。   「どう、でしょうか?」  俺の部屋で水着姿になってる白ちゃん。  あり得ない場所でのあり得ない姿に、違和感を感じる。  それは白ちゃんもそうなのか、表情が少し硬い。  今着ているのは競泳用と言われるタイプのスクール水着だ。 「悪くないと思うよ、似合ってる」 「え? あ、ありがとうございます」  俺の感想に白ちゃんは顔を赤くする。 「それで、着心地はどう?」 「今の学院指定水着よりちょっと生地が薄く感じます、その分泳ぎやすそうです」 「なら水泳部に薦められるかもな」 「それでは次に着替えてきますね」  それから何着か白ちゃんは水着に着替えては俺の前で披露する。  まるで白ちゃんの水着ファッションショーだな。  それも、観客は俺だけ。そう思うとなんだか凄く得した気分になる。  ただ、ちょっと気になる事があった。  着替えてくるたびに白ちゃんの顔が赤くなっていることだ。  やっぱり恥ずかしいんだろうな。 「あの、支倉先輩・・・」  次が最後といってバスルームに消えていった白ちゃんが、扉から顔だけ出している。 「どうしたの、白ちゃん」 「えっと、その・・・」 「何か問題あった?」 「・・・あんまりじっくりと見ないでくださいね」  そう言ってバスルームから出てきた白ちゃんの着ている水着は、今学院で採用されて  いるスクール水着と全くデザインは変わらない物だった。  ただし、色が紺色ではなく、白色だと言うことをのぞいて。   「支倉先輩・・・」  恥ずかしそうにもじもじとしている白ちゃん。  見慣れてるはずの学院指定水着も、色が違うだけでこうも印象が変わってくる物とは  思わなかった。  あの厚ぼったい生地に覆われた白ちゃんの身体のラインをはっきりと  浮かび上がらせている。  ・・・ 「あれ?」 「っ!?」  生地が薄くないか? そう思って思わず声を出した。そんな俺の声に  白ちゃんがびくんと身体を振るわせる。  普通の水着の時は全く気にならなかったところが妙に目立っている。  それは、白ちゃんのささやかな胸の膨らみの先端。  明らかにとがってみる。それどころかうっすらと桃色に見える。  お腹のライン、可愛いおへそのくぼみまで見えるような気がする。 「−−っ!」  俺の目線に気づいたのか、慌てて隠す白ちゃんの水着のクロッチの部分、  そこだけ、生地が濃くなってるように見える。  それは、そこだけ濡れてるような・・・ 「白ちゃん?」 「・・・ごめんなさい!」  白ちゃんはその場にぺたっと座り込んで謝りだした。 「ごめんなさい、支倉先輩!」 「突然どうしたの?」 「だって、せっかく支倉先輩が私のために一生懸命水着を見て検討してくださってるのに  私ったら・・・」  白ちゃんは泣きそうな目をしている。 「私ったら・・・支倉先輩の視線で・・・その、火照ってしまいました」 「白ちゃん・・・」 「ごめんなさい、一生懸命な支倉先輩を前にして、こんなふしだらで」 「・・・白ちゃん、謝る必要なんて無いんだよ」 「ふぁっ」  俺は座り込んでる白ちゃんをそっと抱きしめた。 「それはね、俺がそう言う視線で見てたからだと思う」 「支倉先輩も・・・ですか?」 「あぁ、だって大好きな女の子が水着を披露してくれてたんだよ?」 「あぁ!」 「わかるだろう? 白ちゃん」 「・・・はい、支倉先輩の気持ちが伝わってきます」 「だから、謝る必要なんてないんだ、謝るのなら俺の方だよ」 「でも、私も」 「それじゃぁ、お互い様ということにしておこうか」  このままのパターンだと収拾つかなくなるので、お互い様にしておくことにした。 「はい」 「あの、支倉先輩・・・お互い様なら、その・・・同じ、なんですよね」 「あぁ、そうだけど」 「それでしたら、私が先輩を、ん、く・・・」
4月27日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「陽菜がエプロンに着替えたら」 「あ、孝平くん、お帰りなさい」  寮に戻ってすぐに俺は陽菜の出迎えを受けた。 「ただいま、陽菜」 「今日は早いほう・・・なのかな?」  玄関にある時計はもう遅い時間をさしている、だけど門限より早く戻って  来れたのだから早いほうになるんだろうな。 「あはは・・・」  俺の意図を察したのか、陽菜は困ったような顔をしていた。 「そういえば孝平くん、今日の夜ご飯はどうするの?」 「今日は中途半端に早かったからまだ食べてないんだよな」  監督生室には食料が置かれている、多忙な時期になると食堂が開いてる時間に  絶対に戻って来れないからだ。  今日は早めに終われる予定だったから食事をとらずにこんな時間になってしまった。 「そうだな、部屋にあるインスタントかな」  確かパンもあったかな。 「駄目だよ、孝平くん」  陽菜が怒ったような顔をする。 「ちゃんと食べないと栄養のバランスがとれないでしょう?」 「そうはいっても食堂はもう開いてないしな」 「・・・ねぇ、孝平くんが良ければ私がご飯、作ってあげようか?」 「え?」  陽菜の手料理?  それは魅力がありすぎる提案だけど 「遅い時間だし、陽菜に迷惑」 「迷惑なんかじゃないよ? 私が作ってあげたいの。・・・だめ、かな?」  上目づかいで聞いてくる陽菜。 「迷惑じゃなければ・・・お願いしようかな」 「うん! 任せて!」  ぱぁっと花開くような笑顔の陽菜はまぶしかった。 「それじゃぁ準備するけど、孝平くん、先にお風呂入ってきてね」 「そうだな、せっかくだし大浴場の方へ行くか」  消灯時間まではまだあるので、大浴場を利用できる。 「少し料理に時間かかるかもしれないから、少しゆっくりしてきてね」 「あぁ、わかった」 「それと、部屋の鍵、持っていってね」 「なんで? 陽菜が居てくれるんだろう?」 「う、うん、そうだけど・・・駄目?」 「別に構わないけど」  鍵を閉めておく理由がわからないが、まぁ鍵をかけておいた方が邪魔が入らない  だろうな。そう思うと鍵をかけておいた方が良いような気がしてきた。 「それじゃぁ行ってらっしゃい、孝平くん」 ANOTHER VIEW 陽菜  孝平くんが出ていったのを見送ってから、深呼吸する。 「やっぱり止めようかな・・・」  でも、お姉ちゃんが送ってきてくれたメール、それが本当なら孝平くんもきっと・・・ 「うん、孝平くんのためだもの、私がんばる!」  まずは部屋に戻って食材を運んでこなくっちゃ。  それと、着替えも。 ANOTHER VIEW END  少しゆっくりってどれくらいなんだろう?  俺は湯船につかりながらぼーっと考える。  何を作ってくれるのだろうか? 期待してしまうけど、寮の部屋には設備は無い。  電熱ヒーターやコンセントはあるけど、ガスコンロは危険なので設置されていない。 「電熱ヒーターだと火力がちょっと弱いんだよね」  そんな話を以前陽菜がしていたっけ。 「・・・そろそろ出るか」  ゆっくりしたいけど、湯に浸かったままではのぼせてしまう。  少し談話室で一服していけばいいか、そう思いながら俺は風呂から上がった。  自分の部屋の扉を開けようとノブを回す。 「あ・・そっか」  鍵をしめてあるんだっけ。俺はポケットから鍵を取り出す。 「こ、孝平くん?」  部屋の中から陽菜の声が聞こえてきた。 「あぁ、俺だよ」 「お、おかえりなさい、準備出来てるから・・・その、どうぞ」 「そっか、ありがとな、陽菜」  食事の準備出来てるのならすぐに食べれるな。  俺は鍵を開けて部屋の扉をあける。 「孝平くん、その・・・鍵、閉めてね」 「了解」  部屋の奥の方から陽菜の声が聞こえた。  俺は言われるがままに、鍵を閉めて部屋の中へと入った。 「お、おかえりなさい、孝平くん。食事の準備出来てるよ」 「陽菜!?」  出迎えてくれた陽菜はエプロン姿だった、見覚えのあるエプロンは美化委員会の  プリム服の物だ。ただ・・・エプロン以外のプリム服の生地が全く見えない。  それどころか、二の腕や足が肌色に見えた。  いわゆる、裸エプロンというものなのだろう。   「そ、そんなに見られると恥ずかしい、かな」 「あ、ごめん」 「そ、それよりもご飯、どうぞ」 「あ、あぁ」 「ごちそうさまでした」 「お粗末様でした、味はだいじょうぶだった?」 「あぁ、美味しかったよ」 「よかった」  陽菜は俺の感想に安堵しているようだ。  あれから何事も無く夕食は始まった。  電熱ヒーターで作った自家製やきそばと、焼きおにぎり。  野菜を刻んだサラダ。  寮の部屋の機材と短い時間の中でこれだけしっかりと作った陽菜は凄いと思う。  味も俺好みで美味しかった・・・はず。 「それじゃぁ片づけちゃうね」  そう言ってお皿を持って流しの方へと向かう陽菜。  ちょうど俺の目線の脇を、陽菜のお尻が通り過ぎていった。  そこは肌色ではなく、桃色の生地に覆われていた。 「・・ふぅ」  確かに美味しかったと思うけど、本当にそうだったかと言える自信がない。  目の前に座ってにこにこしてる陽菜の胸元や二の腕や、エプロンに覆われてない  場所に目線が行ってしまう、それを押さえるのに凄く体力を使った。 「〜♪」  陽菜は機嫌良いのか、鼻歌を歌いながら流しで洗い物をしている。  プリム服のエプロンの背中には紐だけで生地はない、けどその綺麗な背中は  陽菜の長い髪でかくれている。  髪が届かないお尻の部分は大きなリボンで隠されているし、それ以前にパンツは  さすがに穿いているので、可愛いお尻は見えない。  けど・・・おれはその場所を知っている。  たとえリボンやパンツに覆われていても、陽菜の裸を簡単に思い浮かべる事ができる。  想像じゃなくて、記憶から思い出すだけだ。 「孝平・・・くん」 「・・・なに?」 「そ、そんなに見つめないで欲しい、かな」 「なら、見ない。けど、触れてもいい?」 「え?」 「見ない代わりに触れて、陽菜を感じていたい」 「・・・触れる、だけ?」  そう問いかけてくる陽菜の目は潤んでいた。 「陽菜が良ければ、デザートを食べたいな。あ、それとも陽菜が食べちゃうのかな?」 「もぅ、孝平くんのえっち!」 「あぁ、おれは陽菜の時だけ凄くエッチになるからな、そんな俺は嫌いか?」  わかっている答えを陽菜に問う、それはいつもの儀式みたいなもの。 「ううん、私にだけえっちになってくれるなら・・・」 「陽菜、おいで」  俺はベットに腰掛けて陽菜を呼ぶ。 「電気、消していい?」 「あぁ、いいよ」  パチっというスイッチの音で部屋が暗くなる。  その中に浮かび上がる白いエプロンが、床に落ちる。 「陽菜」 「孝平くん・・・」  そっと陽菜を抱きしめて、唇を重ねた。
4月21日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「瑛里華が体操着に着替えたら」 「チェック」 「・・・降参だな」 「孝平って弱いわね」  瑛里華は勝ち続けて上機嫌だった。  事の始まりは、中途半端に余った時間だった。  先生達との会議に俺が出席するはずだったのだが、その前の会議が少し  長引きそうだとの連絡があったので、こうして監督生室で待機している。  時間がどれくらいかかるかわからないけど、何かの仕事に着手するには  少なすぎる時間。そして今は生徒会の仕事は立て込んでいない。 「ねぇ、孝平。チェス、できる?」 「ルールくらいは知ってるけど、瑛里華は出来るのか?」 「うん、最近覚えたの。せっかくだから勝負してみない?」 「いいけど、俺初心者だぞ?」 「いいの、私も初心者だから」  そう言って始めたチェスの勝負だったが・・・ 「瑛里華、初心者じゃなかったのか?」 「あら、私は初心者よ? それ以上に孝平が初心者だっただけよ」 「む」  確かに瑛里華の手は熟達したものじゃない、初心者の俺でもわかるミスを  しているにも関わらず、どうしても勝てなかった。 「瑛里華、もう一勝負」 「そろそろ先生達から電話かかってくる頃じゃないの?」 「それまででも構わないから勝負してくれ」 「ふぅ、何度やっても私が勝つような気がするんだけどね」  確かにここまでの勝負、すべて瑛里華が勝っている。  しかし、このまま負け続けて居るのは気分が良くないし、何より男が廃る。 「そうだ、瑛里華。今度の勝負、賭をしよう」 「賭?」 「あぁ、俺が負けたら瑛里華のお願いを一つ聞く、もちろんお金とかそういうんじゃ  なくて、俺が出来る範囲でだけどな」 「ふーん、良いわね、その賭乗ったわ」 「よし!」  俺は盤面にチェスの駒を並べる。 「ところで孝平、もし孝平が勝ったら私はどうすればいいの?」 「そうだな・・・瑛里華に任せる」 「・・・良いわ、同じ条件で。負けなければいいのだから」 「良いのか?」 「えぇ、それじゃぁ始めるわよ」  ・  ・  ・ 「チェックメイト」 「嘘!?」  賭ているからかどうかはわからないけど、緊迫した勝負の結果は俺の勝ちだった。 「やった・・・勝てた」 「負けた・・・」  肩をおろす瑛里華。  その時監督生室の電話が鳴った。 「はい、監督生室です・・・はい、わかりました」  先生からの連絡だった。 「瑛里華、ちょっと会議行って来る」 「え、えぇ」 「続きは後でな」 「うん・・・わかった、負けは負けだからね、どんな願いでも聞いてあげるわ!」 「まぁ、それはほどほどにな」 「孝平がそれを言う!?」  後日の監督生室。  白ちゃんがローレルリングの仕事で来れない日を確認した今日、俺は瑛里華に  賭のお願いをすることにした。 「・・・孝平の変態」 「別にいいじゃないか、体操着くらい」  そう、今日の生徒会業務を体操着でする、というお願いにした。 「だからって、やっぱり恥ずかしいわよ」    瑛里華は上着の裾をひっぱって足を隠そうとする。  その仕草に、春の嵐の日の事や、体育祭の後の事を思いだしてしまった。 「・・・」  裾を引っ張ってるから、余計に強調されてる瑛里華の胸。  あのときと違って下着はしているはずだから、見えるわけないのだけど、  先端がとがっているように見える。 「こ、孝平?」 「あぁ・・・ごめん、仕事始めようか」 「え、えぇ」  ペンを走らせる音。  書類をめくる音。  静かな監督生室。 「・・・」 「・・・」  いつもなら制服姿で居るその場所に体操着姿になった瑛里華がいる。  それだけなのに、凄く淫猥な感じがする。  それはやっぱり、ここで何度か、体操着を着た瑛里華を繋がった事が  あるからだろう。  あの体操着の上着を押し上げてる大きな胸の、その柔らかさを、その先の  堅さを、その時の瑛里華の吐息を、俺はすべて知っている。  ・・・  パシッ! 「なに?」  俺は両手で頬を挟むように叩いた。 「ごめん、なんでもない」 「そ、そう・・・」  俺は書類に目を落とした・・・けど、どうしても気になってしまう。  今更ながらこのお願いは失敗したなと後悔し始めた。  仕事に集中できないのが一番の問題だが・・・  最初からエッチの時に体操着を着て、という方が良かっただろうか?  いや、それはストレートすぎる。 「・・・ねぇ、孝平」 「・・・なに?」 「その・・・」 「・・・」 「・・・孝平、勝負よ!」 「・・・」  突然瑛里華が言い出した言葉に、俺は言葉を失った。 「えっと、何の勝負?」 「チェスよ、もちろん賭よ!」 「賭って?」 「前と同じ条件よ!」 「えっと、今日の業務は」 「そんなの明日でも大丈夫、それほど立て込んでないから」  そりゃそうだけど、会長がそれを言っていいのだろうか? 「あ、あぁ・・・そうだな、勝負するか」 「えぇ、今度は勝つわ!」  ・  ・  ・ 「チェックメイト、だな」 「・・・また負けた」  結果は・・・勝ってしまった。  いや、もちろん負ける気はない、そんな勝負をしたら瑛里華が怒るからだ。  とはいえ、賭に勝ってしまった。 「うぅ・・・」 「あのさ、瑛里華」 「何よぉ」 「俺のお願い、聞いてくれるか?」  その言葉にびくっとする瑛里華。 「・・・良いわよ、何でもするわよ」 「その前に一つ、お願いとは別に聞きたいことあるんだけど、いいか?」  瑛里華は黙って頷いた。 「なんでまた賭の勝負を持ち出したんだ?」 「・・・だって、恥ずかしかったんだもん」 「・・・ごめん、俺がやりすぎたな」 「いいのよ、孝平が悪いんじゃないから、負けた私が悪いのだから」  となると、瑛里華は今回の勝負に勝てたら俺のお願いを終わりにする  お願いをしたかったのだろうな。  なら・・・ 「それじゃぁ、俺のお願いを言う」 「・・・うん」 「瑛里華のお願いを俺が叶えるから、瑛里華の願いを言ってくれ。それが俺の願いだ」 「・・・え?」  俺の願いに瑛里華は目を丸くする。  それが何を意味するかを理解した瑛里華は小さく笑う。 「もぅ、孝平、馬鹿じゃないの?」 「馬鹿とはなんだよ」 「だって、それじゃぁ私が勝った事になっちゃうじゃない」 「いや、勝ちは俺だ、それは譲れない。だから、瑛里華の願いを聞かせて叶える」 「ほんと、孝平の馬鹿」 「あぁ、俺は馬鹿だからな」 「孝平のえっち」 「・・・否定はしない」 「・・・敗者の私は孝平にお願いを叶えなくちゃいけないのよね」 「あぁ」 「・・・やっぱり孝平のえっち」 「否定はしないけど、どうしてそうなる?」 「だって・・・私の口から言わせたいんでしょう?」  顔を真っ赤にしてる瑛里華、先ほどからもじもじとしているのは恥ずかしいから  だと思っていたけど、動かしているのは閉じた両足。 「・・・ねぇ、孝平。孝平の視線が熱くて仕事にならないの・・・だから・・・しよ」 「・・・あぁ、願ってもない事だな、瑛里華」 「孝平・・・キス・・・んっ」
4月19日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory「二人の時間」 「リース、眠くない?」 「だいじょうぶ」  リースの誕生日、この日リースが帰ってきてくれる保証はない。  でも、俺は必ず準備をして待っている事にしている。  去年も一昨年も、そして今年もリースは帰ってきてくれた。 「今日はちょっとだけ遅刻だったね」 「仕事」 「そっか、でも帰ってきてくれて嬉しいよ」 「・・・ん」  そっとリースの髪を洗う。  俺はリースと一緒にお風呂に入っている。  リースの精一杯の甘え方、それが一緒にお風呂に入る事になったらしい。  眠くなったリースをお風呂に入れてあげた事がきっかけだったとおもう。  それがいつのまにこういう甘え方をしてくるようになったのだ。  リースと一緒にお風呂に入るとき、俺は必ず先に服を脱いで入る。  その少し後に、リースが入ってくる、その時の格好で、この後が決まる。 「リース・・・」 「タツヤ、髪洗って」 「あ、あぁ」  今日のリースは水着を着ていなかった。  俺の前で椅子に座っているリース。  そっとシャワーで流してから、髪を洗う。 「痛くないか?」 「だいじょうぶ、気持ちいい」 「眠くない?」 「・・・ちょっと眠い」 「そっか、無理しなくて良いんだからな」 「・・・」  俺は丁寧に髪を洗う、リースの髪は長く多いから洗うのが大変だ。  いつも自分ではどうやって洗うんだろうか、と思わず考えてしまう。 「・・・リース、大きくなったな」  去年より髪を洗う時、手の位置が高くなった気がする。 「タツヤのエッチ」 「え?」  こちらを振り向いてリースが抗議する。  その時見えるはずのないものが見えた。  今までまっさらだったリースの胸、その場所が少し膨らんできている。  そのため、肩越しから可愛いピンクの突起が見えてしまっていた。 「ご、ごめん、そういう意味じゃなくって」  俺の慌てぶりを見たリースは、少しだけ表情をゆるめると、頭の位置を元に戻した。 「髪、続き」 「あ、あぁ」  俺は何も考えずに、リースの髪をそっと洗うのを再開した。  洗い終わったリースの髪をバスタオルで頭の上にまとめる。 「重い」  ふらついたリースを俺はそっと受け止める。 「タツヤ・・・ありがと」 「どういたしまして、湯船には入れる?」 「入る」  俺はそっと手を貸してリースと一緒に湯船につかった。 「ん・・・」  俺の腕の中にすっぽりと収まるリース、でもさっき見てしまった胸の膨らみ。  髪を結い上げた時に見えた、背中とお尻。  リースも成長してるんだな、と実感してしまう。 「・・・タツヤ」 「何?」 「タツヤもおっきくなった」 「・・・」  そりゃ密着してるんだから、すぐにばれてしまうよな。 「えっと・・その、ごめん」 「何で、謝るの?」 「いや、その、なんとなく」 「いい、気にしてない。それに・・・」 「それに?」 「ワタシでそうなったのなら・・・問題ない」 「・・・うん、リースを見てそうなった。大好きなリースだから」 「・・・タツヤ、恥ずかしくない?」 「恥ずかしいけど、それ以上に嬉しいよ」 「タツヤ、変態?」 「どうしてそうなるのかはわからないけど、リースと一緒に居られるならそれでもいい。  ・・・ってだめだな、リースが嫌がるだろうし」 「・・・ワタシは、嫌じゃない」 「そっか、ありがとう、リース」 「ん・・・」  俺の方を振り向いたリースの唇に、唇を重ねた。 「そろそろあがるか?」 「ん・・・」  湯船から出たリースの身体をそっとバスタオルで拭く。  いつもなら先に部屋に行くリースだけど、今日はまだ出ていかない。 「部屋に戻ったら髪を乾かさないとね」 「ん・・・」 「だいじょうぶ、その後に一緒に寝よう」 「・・・寝るだけ?」 「リースが望む事すべてをするよ」 「・・・うん」  明日の朝にはリースはまた旅立つだろう、だから今日望むことはすべて叶えて  あげる、それが俺が出来るリースへの贈り物だ。 「リースはどうして欲しい?」 「・・・やっぱりタツヤはエッチ」 「わかった」 「え?」 「エッチな俺が出来ることすべてをしてあげるね」 「・・・ん」
4月4日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「春の嵐」 「なぁ、瑛里華。これでも行くのか?」 「当たり前でしょ? 今日中に終えておきたい仕事あるんだから」 「そうだよな、やっぱり・・・」  教室棟の出口に立った俺と瑛里華。  外へ出て監督生棟へと向かう一歩が踏み出せないでいた。  朝、寮を出るときは快晴だった空を、雲がものすごく速い速度で流れていく。  強い風と雨を降らせながら。 「孝平、覚悟を決めなさい」 「わかったよ、瑛里華。」 「おっけー、行くわよ!」  傘を差して瑛里華は外へと出ていった。  俺も同じように傘を差したが、あまりの風の強さに煽られそうになる。 「瑛里華、大丈夫か?」 「これくらい平気、きゃっ!」  突風は瑛里華のスカートをめくった。 「孝平・・・見たでしょ」 「・・・ピンクだった」 「ふーん? 素直に答えたからって許されることじゃないの、わかってるわよね?」 「わかった、覚悟を決めるから早く監督生棟へ向かおう」  本敷地に入る頃に、急に風も雨も強くなった。  台風でも来てるのではないかと思うくらいの風雨に、もう傘は役に立たなかった。 「びしょぬれだな」 「えぇ、孝平も早く着替えておいてね」 「着替え?」  監督生室に着替えなんてあったっけ? 「そう、今日体育の授業あったでしょう? あれだけじゃ寒いかもしれないけど  濡れたままよりマシよ」  確かに、体操着なら洗濯するつもりで鞄に詰め込んである。 「私は先にあがって着替えてるから」  そう言うと濡れたまま瑛里華は歩き出す、がすぐに立ち止まる。 「いい? 呼ぶまで部屋に入って来ちゃだめだからね?」 「わかった、俺も命は惜しいからな」 「それと、さっきのことは忘れてないからね?」  瑛里華は階段を上がっていった。  制服を脱ぐ、帰るまでに乾くと良いのだけど、多分無理だろうな。  Yシャツにまで雨はしみてるが、下着はかろうじて何とかなったようだ。  体操着に着替えてから、しばらく待つ。 「もう良いわよ」  瑛里華の声が聞こえてきたのを確認してから、階段を上がっていった。  部屋はほんのりと暖かい、どうやら暖房をいれてるようだ。 「孝平、制服はその椅子にかけて干しておいて」    瑛里華も体操着に着替えていた、けどなんだか違和感を感じる。  なんだろう? 「それと、絶対給湯室に行っちゃだめだからね」 「それじゃお茶煎れられないだろう?」 「私が煎れるわ、それで良いでしょう?」 「そこまで言うなら・・・」    使ってない椅子に上着を掛けながら、俺はそう答えた。 「んっ」  瑛里華は椅子に座るとき妙に色っぽい声を出した。 「瑛里華?」 「な、なんでもないわ、それよりも始めましょう!」 「そうだな、早く仕事終わらせて風呂に入りたいしな」 「その意見には賛成よ」  机の上にある書類の整理を始めることにした。 「そう言えば、白ちゃんは?」 「今日は寮に返したわ、白だとここまでたどり着けそうにないから」  これだけ強い風が吹くと、確かに危険だろう。 「二人だけか・・・」 「え?」 「ん? 二人だけでこの仕事となると大変だろう?」 「そ、そうね」 「?」  なんだか瑛里華の様子がおかしかった。 「なぁ、瑛里華。このデータなんだけど、いいか?」  PCの前でデータを打ち込んでいた俺は、ちょっとした不備を見つけた。 「なに、後に出来ない?」 「これ、今日中に作るデータなんだよ、頼む」 「わかったわ」  瑛里華は椅子からそっと立ち上がる。 「っ!」    その瞬間、ぶるっと身体を振るわせた。 「瑛里華・・・もしかして」 「大丈夫!!」  そう言ってゆっくり歩いてくる、その速度はいつもよりかなり遅い。  少し赤らんだ顔、熱にうなされてるような表情。  そこまで見て、俺は今更ながらに気づいた。  それは当たり前のこと、雨の中濡れて来て、体操着みたいな袖の無い  洋服をきていれば、熱だって出る。  このまま放っておけば風邪をひくかもしれない。 「なぁ、瑛里華」  俺は出来るだけ優しく、瑛里華の名前を呼ぶ。 「俺には隠し事しなくても良いんだぞ?」 「そ、そんなこと言ったって・・・」 「俺じゃ頼りないかもしれないけど、俺は瑛里華の彼氏なんだからさ」 「でも・・・ここは監督生室だし」  確かにそうだ、ここじゃぁ身体を暖めるための風呂はないし、熱が出た時に  寝るベットも無い。 「でも、じゃない。このままだと辛くなるだろう?」 「我慢・・・できるわ、公私混同は良くないもの」 「そんなの関係ない、瑛里華の方が大事だ」 「孝平・・・」 「今日の仕事はもう終わりにしよう」 「でも」 「俺が明日からがんばる、だから今日は終わりだ」 「・・・うん」 「そうと決まれば寮に戻ろう、早く身体を暖めないとな」 「・・・」 「どうした?」 「・・・もしかして、私、すっごい勘違いしてる?」  瑛里華の顔が赤くなった。 「どういうことだ?」 「ねぇ、孝平・・・その、今日の仕事を終わらせる理由って、聞いても・・・いい?」 「瑛里華の体調が悪くさせないためだけど」 「・・・そーよね、そうだよね、あはは、私ったら何を考えてるのかしらね!!」  何かに納得したような、それでいて何かに怒ってる瑛里華。 「とりあえずかたづけて帰ろう」  俺はデータをセーブし、手元にあったカップを給湯室へと運ぶ。 「湯飲みは俺が洗って置くから瑛里華は着替え・・・え?」  給湯室の中に干してある、ピンク色の物体。  それは、ここに来る前に見た物と同じで、今日は見てないけどいつも瑛里華が  つけている可愛いフリルのついたものもあった。 「孝平、どうかし・・・ーーーっ!」  そういえば、給湯室に入るなって、言われてたっけ、つまり、こういうことか。 「・・・あれ?」  ここに下着がある、ということは?  俺は瑛里華の姿を見る、体操服姿だが、いつもと違う気がする。  その違和感の正体に気づいた。  胸の部分の先端が、はっきりとわかる。  ブルマはいつも以上に身体のラインを浮かび上がらせていた。  つまり、瑛里華は 「孝平、いつまでここにいるのかしら?」 「わかった、覚悟を決める。でもその前に良いか?」 「な、なによ」 「もしかして・・・あ」  閃いた、というか何故気づかなかった?  瑛里華の仕草と、あの表情と、会話の意味に・・・ 「聞きたい事ないなら出て言ってよ、着替えたいのよ」 「・・・すまん」 「謝罪は後でしっかりと受けるわ、だから・・・あ」  俺は瑛里華を抱きしめた。 「こんなに身体を冷やして・・・それに気づけなくてごめん」 「いい・・・のよ、そんなこと」 「それと、瑛里華の気持ちにも気づけなくて、ごめん」 「・・・」 「だから、という訳じゃないけどさ・・・その、わかっちゃったら我慢出来なくなった」 「・・・もぅ、理解するのが遅いわよ、孝平」 「うん」 「それと、孝平のえっち」 「お互い様だろう?」 「そうね・・・」 「まだ雨と風、強いだろう? 少し待てば収まるかもしれない」 「そんなのわからないわ」 「だったら待ってみればいい、幸いここは俺と瑛里華の、二人っきりだしな」 「っ!」  今度は正しい意味で瑛里華に伝えた。 「ソファに行こうか」   「・・・うん」  ・  ・  ・ 「よく考えたら待ってる間に仕事できたよな」 「何を今更言うのよ、孝平」  雨がやんだのは門限ぎりぎりの時間。  俺達は体操着の上に乾ききっていない制服を着て、寮への道を進む。  その時強い突風が俺達を遅った。 「きゃっ!」  濡れて重くなっているはずのスカートすら巻き上げた突風は、俺の目に赤い  ブルマを焼き付けた。 「・・・見たでしょ」 「下着は見てない・・・けど、ごめんなさい」 「もぅ、孝平ったらえっちなんだから。さっきの分も含めて、仮は今度返して  もらうからね」 「了解」 「そうね・・・明日のノルマは2倍がんばってね、孝平」 「それは勘弁して欲しいけど、がんばるか」 「えぇ、がんばってね、孝平」
4月2日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”嘘の誕生日”  わたしはこーへーに呼ばれて、こーへーの住んでいるアパートに来た。  こーへーも修智館学院を卒業し、今はアパートで一人暮らし。  通う大学は一緒だから学院時代と変わらない気もするけど、やっぱり  わたしの部屋の下にこーへーが居ないのが残念。  だから、こうしてこーへーのアパートにわたしが遊びに行くのだけど。 「ふっふっふっ、今日は4月1日、きっと何かでわたしをだまそーと  しているのだね、こーへーくん!」  わざわざ4月1日に呼び出す辺り、きっと何かを狙ってるに違いない。  わたしはそう簡単に驚かないぞ?  そう、思いながらこーへーの部屋の扉をあけた。 「やっほー、こーへー」  挨拶しながらいつも通りに部屋に入る、その瞬間、パンっと大きな音がした。 「ふにゃっ!?」  わたしの頭に降りかかってくる紙くず、これは・・・クラッカー? 「かなでさん、誕生日おめでとうございます!」 「え、ええぇぇぇぇ!? 嘘でしょ!?」  わたしの誕生日は4月2日のはず、それとも今日はもしかして2日だったとか? 「はい、嘘です」 「ちょっ!」  私はその場に倒れ込みそうになった。 「こーへー、これはどういうことなの!」  わたしはこーへーの顔を見上げる。 「今日はエイプリルフールですよ、かなでさん」 「それは知ってるけど」 「だから、今日は嘘の誕生日にします」 「それとこれとがどーつながるのよ?」 「とりあえず部屋に入りませんか?」  そーいえばまだ玄関だったっけ。  机の上には丸いケーキ、フライドチキンやポテト、シャンパンっぽい物まで  用意してあった。  まさに誕生日、っていう感じだけど。 「それで、こーへー、どういうこと?」 「今日はエイプリルフールですよね、かなでさん」 「うん」 「だから、今日はかなでさんの嘘の誕生日、なんですよ」 「だーかーらー、どうしてそーなるの?」 「明日は本当のかなでさんの誕生日ですよね、でも明日はかなでさんと一緒に  居られる時間が少ないんです」 「うん」  大学のサークル仲間の誕生会や、お父さんとひなちゃんと過ごす誕生日の夜。 「俺は、俺の都合で周りのみんなのかなでさんへの思いを無為にしたくないんです」 「つまり、こーへーはわたしを独り占めにしたいけど、できないってこと?」 「・・・」  あ、こーへー顔を背けた。  ということは・・・当たり? 「・・・こほん、だから今日は嘘の誕生日、でも俺のかなでの誕生日なんだから  嘘でも本当に祝うんです」 「っ!!」  いま、こーへー、俺のかなでって・・・ 「ね、ねぇ! もう一回言って!」 「・・・お誕生日おめでとうございます、かなでさん」 「ぶぅ、こーへーのへたれ」 「勘弁してくださいよ、かなでさん」 「やーだ、もう一度言ってくれないとすねちゃうもん」 「もうすねてませんか?」 「・・・」 「ふぅ、わかったよ、かなで」 「っ!」  こーへーに名前を呼ばれただけなのに、どきっとして、暖かくて、こんなにも  嬉しい気持ちになっちゃう。 「ふにゃぁ」 「かなでさん?」 「だ、だいじょーぶだいじょーぶ、それよりせっかくのパーティーなんだから  楽しもうよ!」 「もちろんですよ、かなで」 「ねぇ、お姉ちゃん。何か良いことあったの? あ、もしかして孝平くんから  何かプレゼントもらったの?」 「それはぁ、ひ・み・つ」  4月2日の今日は私の本当の誕生日、みんなで開く誕生会と、家族水入らずの  夕食会。  こーへーが居ないのがちょっと残念だけど・・・ 「家族水入らずの中にこーへーが入るのは、時間の問題だよね♪」  私はお腹に手を当てながら、そう思う。  もちろん、今は安全な日なのでそこには何も無いけど・・・  あんなにいっぱいいーっぱい、愛してくれたのだから。  大学を卒業したときには、きっとだよね、こーへー!
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