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12月31日 穢翼のユースティア 楽屋裏狂想曲SSS”泡沫の夢なら・・・” 12月23日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”えっちな女の子” 12月20日 FORTUNE ARTERIAL SSS”新たな舞台へ” 11月24日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「姫様の祝日」 11月21日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「騒がしく、静かに流れゆく」 11月18日 FORTUNE ARTERIAL SSS”騒がしく流れ行く” 11月17日 FORTUNE ARTERIAL SSS”深夜の秘め事” 11月8日 FORTUNE ARTERIAL SSS”静かに流れ行く” 10月29日 ましろ色シンフォニーSSS”ずるい妹は、嫌い?” 10月28日 冬のないカレンダーSSS”木枯らし吹いてるのに熱いね” 10月25日 穢翼のユースティア SSS”風邪の夜” 10月4日 FORTUNE ARTERIAL SSS”欲張りなお願い”
12月31日 ・穢翼のユースティア 楽屋裏狂想曲SSS”泡沫の夢なら・・・”  これが夢だということは、実はわかっていた。  しかも、恐らくは幸せな類の、夢だ。  だから、迷う。  夢が幸せであればあるほど、目を覚ましたときの喪失感が大きくなるから・・・ 「何暗い顔をしてるんだ、カイム」 「・・・一人にしておいてくれないか?」 「一人にして、だなんてねぇ、カイム。それは無理な質問よ」  カウンター席の端に座って考え事を・・・いや、現実逃避をしていた俺を現実に  引き戻したのはジークとメルトだった。  そして、現実に戻った俺の耳には後ろから聞こえる声をとらえる。 「「「「「カイムさん!!」」」」」  複数の女の声すべてが俺を呼んでいた、いや、俺の答えを待っていた。 「どうしてこうなった・・・」  俺は手元のジョッキの火酒を煽った。 「そういえばもう今年も終わりですね」  ヴィノレタでの何気ない会話だった、その言葉に飛びついたのはジーク。 「そうか、なら今年1年のねぎらいをしなくてはいけないな」 「それはいいわね、ジーク。忘年会、やりましょう。もちろん、ヴィノレタでね♪」 「面倒だ」 「駄目よ、カイム。大事なか・・・お客様なんだから逃がさないからね」 「メルト、今何を言いかけた?」 「さぁ、何かしらね?」  それからほんの数分後、何故か皆がヴィノレタに集まった。 「さぁ、今年1年を労って、乾杯!」 「乾杯!!」  ジョッキ同士が触れ合う音が響く。  俺は店内を何気ないふりで見回す。何処に誰がいるかを把握しておくことは  癖のような物ではあるが、今日に限っては把握しておかないと酷い目に遭いそうな  脅迫概念があったからだ。 「カイム、お疲れさま」  カウンターの奥、厨房側からワイングラスを掲げてきたのはメルト。 「あぁ、この後のことを考えると今から疲れてくるよ」 「もう、若いんだからこれくらい大丈夫でしょう?」 「何の話しだ?」 「聞きたい?」 「遠慮しておく」 「何の話しなのでしょうか、カイムさん」 「ティアには関係ない」 「そうよ、小動物には早い話よ、これは私とカイムの問題」  隣にいるのはティアとエリス。ティアは飲むより食べる方で、エリスはいつもの  怪しいお茶を飲んでいる。  そしてエリスの隣には何故かコレットとラヴィリアが一緒になって座っている。 「ほほぉ、ジーク殿はそう思っているのか」 「もちろんです、国王陛下」  店内のテーブル席に何故か同席しているリシアとジーク、それぞれの背後には  オズとフィオネが控えている。  いったい何の会話をしているか、聞き耳を立てようかとも思ったが、やめておいた。  どうせろくな事じゃないんだろう。 「ねぇ、カイム。乾杯しよ?」 「あぁ、構わないぞ」 「それじゃぁ、私との将来に」 「すまない、俺は急用を思い出した」 「駄目」 「そうですよ、エリスさん、カイムさんとの将来は私と共にあるのです」 「なんでそうなるの?」 「そうなることが決まっているからです」 「勝手に決めないで、カイムは私の物なのだから」 「いつから俺はエリスの物になったんだ・・・」  俺のつぶやきはエリスに届かなかったようだ。 「ふむ、カイム。この状況を打破する方法を思いついた」  いきなりジークが提案し出した。 「却下だ、おまえの案は当てにならない」 「なぁに、聞くだけでも良いから聞いて見ろよ」 「・・・」  聞くだけなら問題ないだろう、と俺はそう思い無言で返事を返した。 「なぁ、カイム。そろそろ身を固めたらどうだ?」 「俺は不蝕金鎖に再就職はしないぞ」 「違うって、カイム。そろそろ嫁さんもらえってことさ」  その一言に、店内が一瞬にして沈黙した。  しまった、と思ったときはすでに遅かった。  ジークはこういう場でのノリがいい、というか良すぎる。  面白くなればいい、という考えなのだ。その考えに俺の被害は全く持って  含まれていない。  俺は酔った頭の、さめた部分でこの状況を乗り切る方法を考える。 「・・・そうだな、ジークが嫁さんもらったら考えても良い」 「そうきたか・・・なぁ、メルト」 「なに?」 「嫁に来ないか?」 「なっ!」  ジークの予想外の返しに、俺は驚きの声を上げる。 「不蝕金鎖の頭からのプロポーズなんて断れないわよね、でも私には一つ  心配事があるのよ」 「なんだ?」 「私の可愛い弟分が未だに独身なのよね、その子が結婚したら考えてあげるわ」 「なるほど、なら話は簡単だな、カイム」 「おまえら共犯だろう?」 「そんなことより、どうだい、お嬢さん方々、お買い得の物件があるよ」 「買った!」 「リシア陛下!?」  今までやりとりを見ていただけのリシアが真っ先に反応した。 「ジーク殿、相場はいくらなのだ?」 「おい・・・」 「なに、良い人材は確保する、当たり前のことだろう? そう思うだろう、フィオネ」 「はっ!」 「フィオネもリシアにあわせなくて良いんだぞ」 「正確はともかく、良い人材であることは事実だぞ、カイム」  ほめられるとは思わなかったので、俺はすぐに返事が出来なかった。  その俺の腕をつかむのはエリス。 「駄目よ、カイムは私のご主人様なのだから」 「いつからそうなった!?」 「私はカイムに身請けされてるの、だからカイムはご主人様」 「でしたら私もカイムさんの事をご主人様と呼ばないといけないのでしょうか?」 「小動物はペットだから」 「天使にまでなった私はペットですか・・・」 「御子はペットではありません、神の使いです。ですが、カイムさんの伴侶は私です。  聖なる託宣でもそう言うことにしてあります」 「駄目よ、コレット。本音は隠しておかないと」 「・・・」  つい最近まで崇められてたはずの聖女様のはずなのに、ジョッキをもって力説する  姿は、ただの酔っぱらいにしか見えなかった。  酔ってるように見えないラヴィリアも、あれは相当酔っている。  危険な発言をしなければいいのだが・・・ 「さぁ、どうするカイム?」  俺は無言でジョッキの火酒を飲む。 「カイム、新婚性活ってのはな、相性も大事なんだぞ?」 「ジーク、微妙に発言が違わないか?」 「そうか? 間違ってると思うか、お嬢さん方?」  その問いに否定の言葉は出なかった。 「カイム、おっぱい大きいのと小さいのと、甲斐甲斐しいのと聖女とお付きと  王様と剣士。選り取りみどりじゃないか、うらやましいなぁこんちくしょう!」 「ジーク、おまえはもう黙れ」 「小さいのって私の事ですか・・・」 「大きいのは間違いなく私ね」 「いえ、エリス先生。私も十分大きいですわよ」 「小さいの専売特許は私」  いきなり会話に加わってきたのはクロとアイリスだった。というか、いたのか。 「うぅ、カイム。あたしって特徴ないよね、大きくもないし小さくもないし」  そう言って泣きついてきたのは言うまでもなくリサだった。 「鬱陶しい、リサはリサにしかない物があるだろう?」 「ほんとに?」 「あぁ、脳天気なところとか」 「そっかぁ、そうだよね。一つでもあたしにあるなら・・・あれ?」 「リサはおいておいて、カイム」 「あー、ボスにも放置されたー!」 「・・・」 「なぁ、カイム。結局本命は誰なんだ?」  ・  ・  ・  これが夢だということは、実はわかっていた。というか、そう思いたい。  しかも、恐らくは幸せな類の、夢だ。訂正、恐らくではなく、怖い夢だ。  だから、迷う。いや、迷う必要など無い。  夢が幸せであればあるほど、目を覚ましたときの喪失感が大きくなるから・・・  幸せと辛いは字が似てるなと、ふと思う。 「・・・カイムさんってえっちです」 「そうね、裸エプロンが好みだし。でもエッチなのは大歓迎よ」 「あのような羞恥を私にさせたのは確かにカイムだし・・・うむ・・・」 「そうです、コレット。良いアイデアが浮かびました。  相性は実査に試してみれば・・・」 「ラヴィ、良いアイデアです」 「カイム・・・部屋の真ん中であのような・・・」  酒が入って危険な発言が飛び出し始めたヴィノレタから逃げることが出来ない  俺は、もう酒を飲むしか道は残されていなかった。 「もういっそのことハーレムでも作っちゃえば?」  メルトのその一言が致命的になった。  そしてその後の女達の言い合いは・・・もう二度と思い出したくなかった。
12月23日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”えっちな女の子” 「失礼します、達哉さん」  ミアはそう言うと俺に背中を向けるようにして、湯船へと入ってくる。 「ふぅ、暖かいです〜」 「今日も大変だったもんな」 「はい、大変でした」  月との文化交流大使となったミアは多忙なスケジュールをこなしている。  近々月のアンテナショップも開店することとなり、その準備にも追われてる。  そんな中、アンテナショップ開店祝いをかねての、ミアの誕生会が行われたのが  今夜だった。 「俺も何か手伝えればいいんだけどな」 「達哉さんは十分私を支えてくださってくれてます」 「そう、かな?」 「はい、こうしてぎゅっとしてくれます」  ミアは俺の両手を身体の前に回す、俺はその手に思いを込めてミアを抱きしめる。 「はふぅ・・・しあわせです〜」 「こんなんで幸せになるのなら、いつでもどこでもしてあげる」 「本当ですか!?」 「あ、あぁ・・・」 「ありがとうございます!」  なんか予想外に食いついてきたけど、抱きしめるだけで良いのなら、いくらでも  抱きしめてあげようと思う。 「あ、そうそう。入れ忘れるところだった」 「達哉さん?」  俺は湯船の脇に置かれていた物を手に取る。それをそのまま湯船に入れた。 「これは、柚子ですか?」 「あぁ、冬至の日に柚子をお風呂に入れる風習があるんだよ」 「そうなんですか、柚子ってこういう使い方もあるんですね」  ミアはお湯に浮かんでいる柚子を指でつついている。  柚子はつつかれると沈み、すぐに浮き上がってくる。 「なんだか面白いです」 「そうだな」  俺は柚子と遊んでいるミアを見ている方が面白いけど、それは言わないでおいた。 「さぁ、のぼせる前にお風呂から出ようか」 「あ、はい・・・出ちゃって良いのでしょうか?」 「そりゃ言いに決まってるだろう?」 「でも・・・達哉さんのが先ほどから・・・」  確かにミアに指摘される前から、俺のモノは固くなっていた。 「構わないさ、ミアだって疲れてるんだろう?」 「いえ、達哉さんに抱きしめてもらえたので元気いっぱいです」 「そ、そうか・・・」 「だから、その・・・今度は達哉さんのを」 「今夜は我慢する」 「達哉さん?」  ミアの驚いた顔を見ながら、俺は話を続ける。 「そりゃ確かにミアとつながりたい、けどそれは俺の一方的なわがままだし  ちゃんとミアの事も考えてあげたいから、だから今日はもうあがろう」 「・・・」  言い訳っぽかったな・・・ミアは俯いて何かを考えてるようだし、ちょっと失敗  だったかもしれない。 「なら、達哉さん。私が、達哉さんと・・・その・・・」 「ミア?」 「私は、達哉さんとえっちがしたいです!」 「ミ、ミア?」 「わ、わわわ、わたしったらなんて事を」  そのままお湯の中に顔を埋めていくミア。 「ミア」  俺はミアを抱き上げる。 「た、達哉さん。今のことは忘れてください!」 「どうして?」 「どうしてもなにも恥ずかしいんです! それにはしたいです」 「別に良いと思うよ、だってお互いの気持ちが同じなんだから」 「・・・いいんですか? 女の子からえっちしたいだなんて言うなんて」 「ミアなら大歓迎だよ」 「達哉さん・・・ん」  触れるだけのキス。 「それじゃぁ、その・・・」  ミアは立ち上がる、ちょうど俺の目の前にミアの可愛いお尻がある。  触れようかと思った瞬間に、ミアは反転する。 「達哉さん、いっぱいいーっぱい、えっちなことして下さい」  そのまま俺にまたぐように、腰を下ろしてくる。 「でも、その前にもう一度キス、してください」 「一度で良いのか?」 「何回でもして下さい、達哉さん」
12月20日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”新たな舞台へ” 「なぁ、最近暇だと思わないか、征?」 「俺は暇じゃない」 「そうかそうか、征も暇なんだよな」 「・・・」  監督生室でのいつもの光景だった。 「ちょっと兄さん、邪魔だから出ていって」 「瑛里華、せっかく後輩達の激励にきてやったのにそれはないだろう?」 「ならせめて黙ってて、手伝ってくれてる征一郎さんの邪魔よ」 「瑛里華、気にするな。伊織は無視すればいい」 「ちょ、征。それはないだろう?」  この前引退した元会長や東儀先輩。いなくなった穴は大きく、新役員が未だに  決まらない今の生徒会、こうして手伝いに来てくれる東儀先輩の戦力は大きかった。 「ん? どうしたんだい、支倉君」 「いえ、なんでもありません」  手伝いに来てくれる東儀先輩にくっついてくる元会長、伊織先輩は特に何もしない。  それも含めていつもの生徒会だなぁ、と思ってしまう。 「しっかし、最近出番少ないよなぁ」 「当たり前でしょ? 引退したんだから」 「それはそうだけどさぁ、企画してたゲームはまさか本編ごと企画倒れに  っちゃったしさ。さすがにアレは俺も驚いたよ」 「兄さんが何かしたんじゃないの?」 「神に誓ってそんなことはしない。だって企画倒れになったら面白くないじゃん」  吸血鬼が神に誓うってのもどうかと思うけど、伊織先輩の理由だけは納得だった。 「それにさ、悠木姉じゃないけど、後輩もできすぎた感じだし」 「そりゃそれだけ生きてれば後輩たくさんできますよね」 「そうそう、月明かりのゆりかごとか、なんちゃらのユースティアとかいっぱい  でたしね」  なんだか聞き慣れない単語があった気がする。 「そこで俺は思ったわけだよ。このまま後輩の活躍を見てるだけでは先輩として  申し訳ない!」 「兄さんは何もしない方が良いと思うんだけどね」  瑛里華はため息をつきながら一応伊織先輩に釘をさす。 「と、いうわけで、俺はまた学園生活をする事にした!」  そう言って机の上に冊子をおいた。 「汐見学園入学案内書、ですか?」  お茶を持ってきた白ちゃんがその冊子のタイトルを読んでくれた。 「何処の学園ですか?」 「さぁ?」 「さぁ・・・って、兄さん何を考えてるのよ!」 「いやさ、この学園に入学すれば間違いなく最新作で出番あるじゃないか。  それにたまには修智館学院以外での学園生活もいいかなぁって思ったわけさ」 「却下だ」 「征!?」 「珠津島内ならいくらでも情報統制はできるが、潮見市中心部まで出られると  いろいろと面倒なことになる」 「いいじゃん、それに俺が行くのは本島の潮見市じゃない、汐見市だ。  というか、ここが潮見市だって事、どうせみんな覚えてないだろうに。  よく覚えてるな、さすがは征だな」 「そんなことはどうでもいい、おまえがその学園に行ったら絶対何かしでかす  だろう、いろいろと面倒だからおとなしくしていろ」 「何かって? 別に何もしないさ。せいぜい生徒会に立候補するくらいさ」 「それが余計なことなのよ!!」  瑛里華のつっこみが入った。 「えー、いいじゃん。俺が一般生徒のままだなんて才能の無駄遣いだし」  その答えに、瑛里華の方から何かが切れたような音が聞こえた。 「・・・兄さん、仕事が進まないのよ」 「瑛里華・・さん?」 「選択肢をあげるわ。仕事を手伝う、星になる。どれがいいかしら?」 「あのぉ・・・瑛里華さん? この場から立ち去るという選択肢はないのかな?」 「わかったわ。この場から消える、ということね」 「白」 「はい、兄様」 「ちょっと征、白ちゃんに何させてるの? 白ちゃんもなんで窓をあけるのかな?」 「兄さん・・・とっととその学園まで飛んでけーっ!」  その瞬間、伊織先輩は窓から飛ばされて行った。 「それでは続けるか」  何事もなかったような東儀先輩の一言で仕事が再開された。  それも含めて、いつもの生徒会の風景だった。
11月24日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「姫様の祝日」  祝日の前の夜、俺は姉さんに奇妙な頼まれ事をしていた。 「俺が旅行に?」 「そうなの、達哉くん。明日暇だって言ってたし、駄目かな?」  姉さんの話をまとめるとこうだった。  明日の祝日、休みになりそうだったのでカレンさんと日帰りの旅行を計画  していたそうだ。  だけど、今日になって姉さんもカレンさんも急に仕事が入り、旅行は中止。  前日のキャンセルは、キャンセル代が全額のためにもったいない。  それで、予定の開いてる俺に、という事だ。 「それで、俺と麻衣で行くってことなの?」  カレンさんと二人で、ということはチケットは二人分あることになる。 「ごめん、お兄ちゃん。私は明日約束があるから駄目なの」 「だから達哉くん、申し訳ないけど一人で行って来てくれる?」 「一人旅か・・・」  最近忙しかったし、一人でちょっとした旅に出るのも悪くないかな。 「でもいいの? 旅行代とか」 「気にしなくて良いわ、このままだと捨てるようになっちゃうんだから、達哉くんが  代わりに楽しんできて。でも、その代わりにね」  そう言うと姉さんはウインクしながら 「お土産は買ってきてね」  翌朝、凄く早い時間に家を出た俺は列車を乗り継いでターミナル駅まで来ていた。  ここから直通の特急で行くことになる。 「なんだか人が少ないな」  行く先は温泉地で知らない人が誰もいないと言えるくらい有名な所。  それなのに人が少ない気がする。 「まぁいいか、えっと車両は・・・11号車、ずいぶん後ろ、いや、前なのか?」  先頭が14号車らしいので、だいぶ前のようだ。  こんなに長い編成で運転しても、ホームにいる人が少ない。  赤字にならないんだろうか? と素人ながらに考えながら、俺は列車に乗り込んだ。 「えっと・・・」  誰もいない11号車・・・と思ったら一人ほど乗っているようだ。  いくら一人旅とはいえ、車内まで一人だと寂しく感じられるから、たとえ一人でも  同じ車両に乗ってる事に安堵しながら、自分の席を探す。 「・・・あれ?」  もしかして、人が座ってる席の隣?  これだけ空っぽの電車の指定席なのに、俺はあの人の隣に座るのか?  なんだか他の座席がもったい無い気がするが、指定されてるのだから仕方がない。 「おはようございます、隣の席ですので失礼しま・・・」  俺の挨拶は途中で止まった。 「遅いわよ、達哉」 「フィーナ!?」  窓側に座ってた人は間違いなくフィーナだった。  髪は方の後ろでまとめられていて、めがねをかけているけど、間違いなくフィーナだ。 「達哉、今日はよろしくお願いしますね」 「あ、あぁ・・・」  俺は無意識的に自分の席に座りながら頷く。 「でも、その前に。達哉、再会の挨拶をまだしてないわ」  そう言うとフィーナはそっと俺に乗りかかってくる。  そしてそのまま触れるだけのキス。 「達哉、久しぶりね、元気にしてた?」 「・・・」 「もぅ、達哉ったらまだ寝ぼけてるのかしら?」  呆気にとられてた俺は、フィーナの機嫌を損ねることとなった。 「そう言うことか・・・」  列車は走り出し、俺はフィーナに事情を聞かされていた。  フィーナのスケジュールが昨日の夜、急に開いたそうだ、地球連邦側の事情だそうだ。  そこで1日オフとなるフィーナに、旅行を勧めたのは姉さんとカレンさん。  自分達で行く旅を俺達に譲ってくれた訳だ。 「家でゆっくり過ごすのも良いのだけれども、せっかくだからカレンの誘いに乗る  事にしたの、だって達哉が一緒に行くって行ったのですもの」 「・・・」 「達哉、もしかして怒ってる?」  フィーナが心配した顔で俺の顔をのぞき込む。 「怒ってなんてないよ、それよりもふがいない、とでも言うのかな」 「不甲斐ない?」 「あぁ、結局俺達はまだ姉さんやカレンさんに助けてもらってばかりだなって思ってさ」 「仕方がないわ・・・と言いたいけど、確かにその通りね」  本来スケジュールが空いたら、きっと他の予定をそこに入れるだろう。  それを空いたままに調整し、旅の手配までする。  この列車の人が少ないのは、たまたまだろうがこの車両には検札の車掌と車内販売の  人以外誰も入ってこないのは、間違いなくSPが警護してるからだろう。 「いつかはちゃんと恩返ししないといけないわね」 「そうだな、でも今日出来ることはちゃんとしよう」 「出来ること?」 「あぁ、姉さんやカレンさんの厚意に報いる為にもちゃんと旅を楽しむ事」 「えぇ」 「そして、お土産をちゃんと買って返る事」 「・・・ふふっ、そうね。さやかやカレンが驚くようなお土産を探しましょう」  バスを乗り継いで突いた温泉街。  その中心にある有名な湯畑から散歩を始める。 「凄い匂いね」  フィーナはハンカチを口元に当てている。 「硫黄の匂いは臭いからね、なれないときついと思うよ」  その時風が吹いて、その煙が俺達を襲う。 「ごほっ」  これだけ濃い硫黄の匂いにせき込む。 「達哉、大丈夫?」 「油断した」  上流で温泉が沸きだしている温泉の湯が流れて河になっている、西の河原公園を  ゆっくりと散策する。 「本当に暖かいわね」  フィーナは河の水、この場合は河の湯に触れていた。 「あら、あの建物は?」 「えっと、西の河原の共同露天風呂みたいだね」  俺は観光マップを見ながら答える。 「そう言うお風呂もあるのね」 「そうだね、入りたい?」 「興味はあるけど、恥ずかしいわ」  そして散歩も終わり、指定されたホテルでフレンチのコースを戴き、その後  フロントから案内された所は・・・ 「・・・」 「・・・」  このホテルにある、家族風呂の部屋だった。  入ってすぐに小さな間取りがあり、その次の部屋は狭いけど如何にもホテルの  客室と言うような作りだった。  真ん中に机があり、座椅子があり、机の上にはお茶セットがおかれており、  テレビもある。  ただ、違うところは正面の壁だった、普通は窓がある壁は一面ガラス張り。  その先に小さな風呂がある。  外に通じている風呂だけど、見える場所は壁に囲まれた中庭のみ。  外から覗かれる心配は無いだろうけど、部屋からは丸見えだった。 「達哉、せっかくだから温泉に入りましょう」 「そ、そうだよな」 「達哉、もっと堂々としてちょうだい、そうでないと私の方も恥ずかしく  なってしまうわ」 「あ、あぁ、ごめん」 「それじゃぁ先に入っていて」  そう言うとフィーナは小さな間取りの方へと戻っていった。  俺は素早く服を脱いで、先に浴室、というか外へと出る。  軽くかけ湯をしてから、湯船につかる。 「ふぅ〜」  思わずため息が出るほど、気持ちの良い風呂だ。 「達哉、お待たせ」 「先に入らせてもらってるよ、フィーナ・・・」  部屋との境に立っているフィーナは伊達眼鏡を外し髪をおろしている。  つまりいつものフィーナだった。  そのフィーナがバスタオルで身体を隠しながら立っていた。   「寒いわね」 「そ、そうだな・・・かけ湯だけして入ると良いよ」 「そうするわね」  前を隠していたバスタオルをとり、小さな桶で肩からお湯をかぶると  フィーナは湯船に入ってきた。 「失礼します」 「どうぞ」 「・・・ふぅ、気持ちいいわ、ぬるめのお湯と外の空気ってこんなにも  合うものなのね」 「そうだね」 「これだと、先ほどの露天風呂もとても気持ちが良いかもしれないわね」 「あぁ・・・」 「達哉?」 「・・・あぁ」  フィーナの話に相づちを打ちながらも、俺は自分を押さえるのに精一杯だった。  目の前で一糸まとわぬフィーナと一緒にお風呂に入っている。  その衝撃は凄いものがある。今すぐフィーナとつながりたい、その欲求が  身体中を支配しようとしている。  だが、今日はフィーナの休日なのだ、無茶はしてはいけない。 「・・・もぅ、達哉ったら優しいのか優しくないのか解らないわ」 「フィーナ?」 「前にも言ったと思うけど、達哉がしたいときは私もしたいときなのよ」  そう言って頬を赤らめるフィーナ。 「ということはフィーナも?」  俺の問いにこくんと、小さく頷くフィーナ。  それを見た俺はフィーナをそっと抱き寄せる。 「フィーナ」 「達哉、私だって・・・寂しかったんだからね?」  ・  ・  ・ 「はい、お茶が入ったわよ」 「あ、あぁ・・・」  小さな部屋で俺は座椅子にもたれかかったまま、フィーナにお茶を煎れて  もらっていた。 「お疲れさま、達哉」 「あぁ・・・というか、フィーナは大丈夫なのか?」 「ちょっと疲れてるけど大丈夫よ」  そう言って微笑むフィーナ。女はやっぱり強いんだなぁって実感した。  貸し切りの家族風呂の時間が終われば、もう帰りの時間。  バスの出発時間までの間にお土産を選んで買う。  残念ながら姉さんやカレンさんを驚かすお土産は無かった。  帰りの列車にのる、行きと同じく車内に俺達以外に人は乗っていない。 「楽しかったわね」 「あぁ、あとで姉さん達にちゃんとお礼言わないとな」 「えぇ、私もカレンに言っておくわ」 「それでフィーナは今夜はどうするんだ?」 「この列車の終点駅に迎えが来てるの、そのまま大使館まで戻るわ。それと  ごめんなさい、達哉を一緒に乗せてはいけないの」 「あぁ、気にしないで。事情はわかるから」 「本当は最後まで一緒に居たいのだけど」 「フィーナ、まだ列車が着くまで時間はある、それまでがこの旅行なのだから  まだ楽しもう」 「・・・そうね、まだ時間はあるのだから、話はまだまだたくさん出来るわね」 「そう言うこと」  それからたわいのない話に華を咲かせる俺達だが、列車は刻一刻と終着駅に  向かって走る。 「・・・もうすぐね」 「そうだな、楽しかったよ、フィーナ」 「私もよ」  列車は減速を始める。 「フィーナ、最後に・・・良いかい?」 「達哉・・・」  フィーナはそっと目を閉じる。 「お疲れさま、そしておやすみ、フィーナ」  そっと触れるだけのキス。 「達哉こそお疲れさま、おやすみなさい」  そして列車は駅に着いた。  ホームでフィーナを見送ってから、俺は肩に掛けた荷物を背負い直す。 「また明日からがんばろう!」  今度フィーナに会えるとき、少しでも成長した俺を見てもらうために。  俺は満弦ヶ崎へ向かう列車のホームへと歩き出した。
11月21日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「騒がしく、静かに流れゆく」 「おまたせ、伽耶。コレクライナンデモナイワ」 「・・・」  今日投宿した宿の露天風呂に私は地酒を持って入ってきた。  先に入ってる伽耶に頼まれて持ってきたのだ。  伽耶は自分で運ぼうとしたこともあったのだが、その容姿のせいで断られ  機嫌が悪くなって以来、私の仕事となった。 「まぁ良い、桐葉、飲むとしよう」 「えぇ」  お互いの杯に酒を注ぐ。 「乾杯」  そして口に運び喉に流し込む。 「・・・及第点ね」  香りは良かったのだが、辛みが足りない。つまり、味がしない。 「そうか」  伽耶は私の言葉にただそう返すだけ。  眷属である私は、極端な味の濃さ以外味覚が反応しない。  極端な味は甘いか辛いか、それが主だ。  日本酒は甘みがある物もあるが、甘ったるいといわれる酒は滅多にない。  必然的に私は、辛みのある酒を選ぶけど、辛みが足りないと味を感じられない。 「それでも、まぁまぁね」  味覚が無くても私には嗅覚はある。  確かに味が無い酒は喉に流し込んでも、ただ通り過ぎていくだけ、けど香りは  私を十分に楽しませてくれている。 「ふぅ・・・良い風呂だな」 「そうね」  伽耶が空を見上げる、すでに陽は暮れており星が見える。 「・・・」 「恋しいのかしら?」 「誰がだ?」 「伽耶が」 「誰に?」 「そうね・・・支倉君かしら?」 「ぶっ、なんであたしがあやつを恋しがらないといけないのだ!」 「そう? だって結構気に入ってるんじゃないの?」 「それは、気にいってるかと言えば気にいってはいる。瑛里華が選んだ男だからな」 「そうね、千堂さんが選んだ男ですものね」  二人の出会いは偶然、いくつかの暗躍があったものの、二人は結ばれている。  以前思ったことがあった。  私が変わることが出来て、今の伽耶とこうして暮らせているきっかけをつくって  くれたのも彼だと言うことに。  そして私も彼を憎からず思っていない事に気づいた事に。  どこかで私と彼の運命の道が交差していれば、今こうして伽耶と一緒に  いられなかったかもしれない。  一緒にいるのは彼、だったのかもしれない。 「・・・あり得ないわね」 「どうした?」 「なんでもないわ、伽耶が千堂さんに会いたがってるんじゃないかなって思ったのよ」 「そうだな・・・まだいい、とは思うのだが・・・なぁ、桐葉」 「なに?」 「一度島に戻らないか?」 「え?」  伽耶から島に戻ろうと言い出したのはこの旅に出て初めてだった。  その時私の中に浮かんだ光景の真ん中に立っていたのは・・・ 「・・・ふふっ」 「桐葉?」 「伽耶、そんなに寂しいのならそう言えば良いじゃないの」  頭の中の光景を奥に押し込めながら、私は伽耶をからかう。 「な、あたしが寂しい?」 「だから千堂さんに会いたいんじゃないのかしら、違うの?」 「あたしは島に戻ろうと言っただけだ! 寂しいとは一言も言っておらぬ!」 「でも戻れば千堂さんと会うんでしょう?」 「当たり前だ、あたしが寂しくなくとも瑛里華は寂しがっておるからな」  どうやら私の動揺はごまかすことが出来たようだ。 「はいはい、ツンデレなのはわかったから、それでいつから向かうの?」 「言葉の意味がよくわからぬが、あたしはツンデレなどではない!!」 「解らないのに否定するのね」 「桐葉の顔を見てたら否定すべきと思ったからだ!」  鋭いわね、伽耶。 「・・・ふぅ、島に向かうのは明日にしようと思う」 「早いわね」 「少し気になることがあるのでな、それを先に確認しておきたいのだ」 「千堂さんの様子?」 「だから違うと言っている! ・・・まぁ、あたしも親だからな、気にならぬ訳では  無いがな」 「・・・ほんとにツンデレね」 「違う!!」  伽耶との会話を楽しみながら、私も故郷となっているあの島に思いをはせる。 「・・・いいわ、明日から島に向かいましょう。伽耶が寂しがらない内にね」 「だから、あたしは、寂しい訳じゃ、ない!」 「無理しないでいいのよ?」 「無理もしてない、あたしには桐葉がいるのだから寂しいわけじゃない!!」  伽耶のその言葉に、私は・・・ 「桐葉?」 「なんでもないわ」  伽耶に背を向けて首元までお湯につかる。 「どうしたのだ? もしかしてあれか?」 「・・・大丈夫よ」  私はそっとお湯を両手ですくい、顔を洗う。 「島に戻るの、楽しみね」 「ん? そ、そうか、桐葉もそう思うのだな、戻ることにして正解だったな」  伽耶に対してごまかすのは簡単だけど・・・ 「よし、桐葉。そろそろあがるか。明日に備えて休もうぞ」 「えぇ」  私が私自身をごまかすのは、難しかった。 「伽耶」 「なんだ?」 「ありがとう」 「・・・気にするな、島に帰ると決めたのはあたしの意志だからな」 「ふふっ」  勘違いしてるようだけど、それでも良かった。 「本当にツンデレね」 「だから、違う!!」  そう言う私の方がもしかするとツンデレという部類に入るのかもしれない。  伽耶の一言があんなにも嬉しく、そして愛おしくなってしまう。  それを素直に表に出せないのだから。 「わかったから、そろそろあがりましょうか。そろそろ夕食の時間ですものね」 「桐葉、おまえは本当に解ってるのか?」 「何を、かしら?」 「・・・まぁ、いい」  こうして私たちは一度島に帰ることになった。  そして島に帰って私を出迎えたのは・・・ 「誕生日おめでとう、紅瀬さん!」  千堂さんと支倉さんと東儀さん達が開いてくれた、私の誕生会だった。  呆気にとられてる私の顔を見て伽耶は笑っていた。 「あははははっ、やっぱり解っていなかったんだな、桐葉」 「あのときのそれって、このことなの?」 「そうだぞ? だから聞いたではないか、本当に解っているのか? とな」 「・・・私の負けね」  そう、私はいろんな意味で、伽耶にも千堂さんにも東儀さんにも。  そして、支倉君にも勝てそうにないのだから。 「紅瀬先輩、さぁ、早く入ってください。とっておきの紅茶をおいれしますね」 「えぇ、よろしくね」  彼女の煎れるお茶は香りがよく楽しめる物だった。  そのことを思い出しながら、私は会場となっている部屋へと入る。  誕生日なんてもう関係ないと思ってたけど・・・ 「こういうのも、良い物ね」 「そうだろう、桐葉、だから今日は楽しむぞ!」 「なんで伽耶が楽しむのよ」 「良いではないか、あたしの大事な友の誕生日なのだからな」 「・・・もぅ、伽耶ったらツンデレなんだから」 「え、母様ってツンデレだったの?」 「だから、あたしはツンデレじゃないっ!!」 「やーい、ツンデレ幼女〜!」 「伊織、突然現れて変なあだ名を付けるな!!」 「俺は最初から部屋にいたじゃないか」 「そうだったかしら?」 「紅瀬ちゃん、それは無いよ」 「伊織のことは放っておいて、紅瀬の誕生会を始めるぞ」 「おい、征! 俺様をスルーとか?」 「はいはい、兄さんはそっち行って!」 「瑛里華まで!?」 「相変わらず騒がしい家族よね」 「そう言う割に良い顔してますね、紅瀬さん」 「支倉君、私はいつもと同じ顔よ、成長してないのだから」 「いや、そういう意味じゃないんですけどね・・・」  騒がしい私の誕生会はこうして始まり、過ぎていった。 「ここにいたのか、桐葉」  千堂邸の別館の縁側で私は夜空を見上げていた。 「星が綺麗ね」 「そうだな」  伽耶は私の横に並んで座る。 「今日はもう良いの?」 「あぁ、少しはここにいるつもりだからな」  戻ってきた伽耶はすぐに旅立つつもりだったのだが、千堂さんの説得の末  数日滞在する事になったのだ。 「でも、ここには露天のお風呂はないわよ?」 「構わぬ、すぐに造らせるからな」  相変わらずのわがままな主だ。 「出来たら一番に一緒に入るぞ、桐葉」 「・・・ありがとう」 「れ、礼を言われる事じゃないだろう?」  慌てる伽耶を私はそっと抱きしめる。 「き、桐葉?」 「ありがとう、伽耶」 「・・・そうか」  伽耶も私の背中に手を回してくれる。  騒がしい誕生日の夜は、静かに流れていった。
11月18日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”騒がしく流れ行く” 「なぁ支倉君、面白い噂を聞いたんだけどさ」  監督生室に現れたのは言うまでもなく元会長。  引退してからもこうしてよく現れては、引っかき回していく。 「実はね、最近とある温泉街に妖怪の女が現れたそうだ。」 「妖怪?」 「そうだ、妖怪の女、略して妖怪女」 「省略になってないわよ、兄さん。というか仕事の邪魔しないでよ」 「まったく、瑛里華は話をちゃんと最後まで聞く癖をつけた方が良いぞ?」 「役に立つ話ならちゃんと聞くわよ」 「なら話を続けよう、その妖怪女、略して妖女なんだけどね、未成年の女を連れて  歩いてるそうなんだよ」 「なんだ、それなら伽耶さんと紅瀬さんの事じゃないですか」  俺のその言葉に元会長は驚く。 「な、なぜに解ったんだ!?」 「母様からこの前連絡あったのよ、兄さんの所には連絡来なかったの?」 「あーそういえば携帯に着信あった気がするけど、それのことか?」 「相変わらずですね・・・」  伽耶さんと伊織元会長、仲が良いのか悪いのかよくわからない。  でも、決して悪いわけじゃない、それだけは俺でも解る。 「それよりも兄さん、母様の事を悪く言うのは止めてよね」 「え? 俺何か悪いこと言ったっけ? 幼女が未成年の女を連れてるってことしか  言ってないし、何か間違ってる?」  俺は思わずその様子を想像してみる。  和服姿の伽耶さんと一緒に歩く、和服姿の紅瀬さん。 「絵になるよな」 「そうね、良いと思うわ」 「え? 俺につっこみ無し?」  落ち込む伊織元会長を見ながら瑛里華がつぶやく。 「母様、帰ってきてくれるかしらね」 「大丈夫だよ、今回のサプライズの為だって説明したんだからさ」  そう、伽耶さんと紅瀬さんには一度帰ってきてもらわないといけない、その説得を  先日伽耶さんにしたのだ。 「面白そうではないか、支倉と瑛里華の策略に乗ってやるぞ」  凄く乗り気になってた伽耶さんの言葉を思い出す。 「そうね、母様と紅瀬さんに会えるのも久しぶりね・・・今は何処にいるのかしら?」 「ふぇっくしょん!」 「あら、伽耶。風邪・・・はひくわけ無いものね」 「どういう意味だ、桐葉?」 「ほら、よく言うじゃない? なんとかは風邪引かないって」 「それはあたしのことか!?」 「そうよ、吸血鬼ですものね」 「・・・」 「どうしたの、伽耶?」 「くっ・・・でも今は耐えねばならぬ」 「伽耶?」 「い、いや、なんでもないぞ? それよりもそろそろ宿に戻ろうぞ。  温泉にて一杯飲むのも悪くはないな」 「そうね、冷え込んできたしそうしましょうか。それで伽耶、ここでの  お土産は決めた?」 「そうだな・・・まだ時間はあるのだから急ぐことも無かろう」 「そうね」  本当は時間が迫ってはいるのだが、今の時間を終わらせるのはもったいない。  まずは温泉で一杯、それから後のことは考えよう。 「そうそう、兄さん、今度の月曜日は暇よね? はい、決定!」 「ちょ、俺まだ何も言ってないよ?」 「でも暇なんでしょう?」 「そんなことはないさ、俺は多忙で一分一秒無駄には出来ないのさ!」 「なら伊織、この書類を頼む」 「ちょ、征。今まで会話にいなかったからいない物だと思ってたのに!?」 「すみません、東儀先輩。結局手伝ってもらって」 「気にするな、可愛い後輩の為だ」 「それってもちろん白ちゃん・・・いえ、なんでもありません」  元会長は東儀先輩の視線で黙らせれた。 「征一郎さんはどうかしら?」 「今のところ予定はないのだが、何かあるのか?」 「えぇ、実は・・・」  瑛里華と東儀先輩の話が始まる。  その会話を耳にしながら、俺は窓から外を見上げ・・・ 「なぁ、支倉君。悪巧みはキミの提案かな?」 「さて、どうでしょう?」 「なら俺も一つ悪巧みに参加させてもらってもいいかな?」 「わかった、俺が責任持って伊織を監視しよう」 「ちょ、征!? まだ俺は何もしてないよ?」 「だが、する気なのだろう?」 「もちろん!」 「・・・征一郎さん、兄さんをお願いします」 「わかった、首輪でもつけておこう」 「征!?」  会長や東儀先輩が生徒会を引退し、伽耶さんと紅瀬さんは旅だった今の修智館学院。  静かに時が流れていくかと思いきや、何も変わらずにぎやかに時は流れていく。  その流れの中に、二人が帰ってくる時のことを思いながら、俺は目の前の書類を  片付けることにした。

11月17日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”深夜の秘め事” 「ありがとう、悠木さん」 「いえ、また何かあったら手伝いますから遠慮なく言ってくださいね」 「えぇ、その時はお願いするわ」 「それでは失礼いたします」  寮の中にある天池先生の部屋でのお手伝いを終えた私は自室へと戻る。 「もう消灯時間が近いから、今日は部屋のお風呂ですましちゃおうかな」  バスルームへ入ってお湯をためる・・・ 「あれ?」  ユニットバスのスイッチが入らない? 「おかしいな」  スイッチを入れたり切ったりしても全く反応しない。 「壊れちゃったのかな」  壊れてるかもしれないのなら天池先生に報告しなくちゃ。  私は天池先生の部屋へと向かった。 「わかったわ、業者の方への連絡は私がしておきます、立ち会いが必要になるかも  しれないからそのつもりでお願いします」 「はい、お願いします」 「でも、そうなると悠木さん、今夜はお風呂に入れなくなってしまいますわね」 「えぇ・・・」  消灯時間が近いので大浴場は使えないし、友達の部屋のお風呂を借りることも  出来ない。 「冷え込んできてるし、なにより女の子がお風呂に入れないのは可哀想ね・・・」  天池先生は腕を組んで何かを考える仕草をしたかと思ったらすぐに腕をほどいた。 「ねぇ、悠木さん。もう一つ仕事をお願いしてもいいかしら?」  そう言いながら天池先生は部屋の中から鍵の束を持ってきた。 「これは?」 「大浴場の入り口の鍵もあるわよ、これを悠木さんに預けるわ」  天池先生から手渡された鍵を見る。 「それじゃぁ一緒にいきましょうか」 「は、はい」  寮の地下にある大浴場、その入り口のところで天池先生はまず男湯の扉をくぐる。 「先生!?」 「大丈夫よ、入り口で確認するだけですから」  先生の言うとおり、入り口で立ち止まった。 「靴もないし・・・男湯には誰もいないわね」  そう言うと先生は奥の方へと入っていき、すぐに戻ってきた。  そして入り口の扉を施錠する。 「それじゃぁ悠木さん、女湯の方はお願いするわね」 「え、は、はい」  私は天池先生と同じように女湯の中に入ろうとする。 「あ、悠木さん」 「はい、何でしょうか?」 「私はちょっと教員棟の方へ行って来る用事があるの、それが無ければ部屋のお風呂を  貸せたのだけどね。だから、鍵は明日の朝に返してくればいいわ」  そこで天池先生はこっそり私に耳打ちしてきた。 「だから、ゆっくり暖まってから、施錠しなさいね」 「・・・は、はい! ありがとうございます!」 「今日は私の手伝いのせいもあるからね、でも、今日だけよ」  頭を下げた私に天池先生は背を向け、階段を上がっていった。  私は女湯に人が残ってないのを確認してから、施錠して、そうしてから一度  部屋へと戻る。 「大きなお風呂、独り占めなんて贅沢、かな」  着替えとお風呂の用意を小さな鞄にしまって、ふと思いついた。 「やっぱり独り占めはもったいないよね」  ・  ・  ・ 「というわけなの」 「だからってなんで男湯の方なんだよ」  陽菜からメールで呼び出された俺は、何故か大浴場の男湯の方に陽菜と一緒に  入っていた。 「だって女湯だったら天池先生が様子を見に来るかもしれないでしょう?」 「鍵をかけておけば大丈夫だと思うんだけど」  大浴場の入り口の扉は、外からも内もからも、鍵が無いと閉められない仕組みに  なっている。  今の男湯は内側からの鍵により密室になっている、その扉を開ける鍵は陽菜の  手にあるので安心ではあるけど・・・ 「だって、男湯の方にも入ってみたかったんだもん」 「中身は変わってないはずだぞ?」 「うん、左右が反転してる以外は一緒だね」  そう言って薄暗い浴場内を見渡す陽菜。薄暗いのは一応時間外なので電気を  半分ほど切っているからだ。 「くすっ」 「どうした?」 「なんか、不思議な気分だなって思ったの」 「そりゃそうだよな、俺だって未だに信じられないよ」  たまに入りに来る寮の大浴場、その男湯の浴槽にバスタオル姿の陽菜と一緒に  入っている。  部屋のユニットバスならまだしも、普段他の生徒がいる大浴場で、なんて  今でも信じられないくらい、不思議な光景だった。 「そうだ、孝平くん。背中流してあげようか?」 「いや、いいって」  たとえバスタオルを巻いていても、お湯で濡れてしまえば身体に張り付いて  その艶めかしいボディラインが浮かび上がってくる。  そんな状況で俺は湯船から出るわけには行かない、というか出れない。 「それとも、背中以外を洗って欲しいのかな?」 「は、陽菜?」  陽菜の目はすでにとろんとしている。 「最近忙しくて一緒に居られなかったから、その分いっぱい、しよ?」  陽菜の誘いを断れるほど、俺は聖人じゃなかった。
11月8日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”静かに流れ行く” 「おまたせ、伽耶」  露天の温泉に浸かってるあたしの所に桐葉がやってくる。 「すまないな、桐葉」 「えぇ、そうね」 「むっ、そういうときはこれくらいたいしたことないとか言う物じゃないのか?」 「コレクライタイシタコトナイワ」 「・・・まぁいい」  桐葉に頼んで持ってきてもらったのはこの土地の酒だった。  盆の上にある少し大きめな杯を手に取る。 「はい、伽耶」  桐葉が提子より酒を注ぐ。 「桐葉、おまえのはあたしが入れよう」 「あら、どんな風の吹き回しかしら?」 「茶化すな」  桐葉の杯に、あたしのとは別の提子より酒を注ぐ。 「では戴くとするか」 「えぇ」  二人で露天の温泉に浸かりながら、杯から酒を飲む。 「ふぅ、良い酒だな」 「そうね」 「桐葉の口に合う酒も合って良かったな」  眷属である桐葉の味覚に合う酒はなかなか無い。  普段はあたしにつきあって飲む、その場合は味ではなく香りを楽しむだけだ。  だが、この土地では辛口の酒があった、それが上手い具合に桐葉の口にあったのだ。 「えぇ、良い味よ。伽耶も飲んでみる?」 「解ってて勧めるのか?」 「そうね、お子さまの伽耶には理解できない味よね」 「あ、あたしは子供じゃない、これでも母だ!」 「えぇ・・・そういえば千堂さんはどうしてるかしらね?」 「そうだな・・・」  旅に出てそれなりに時間が過ぎたと思う。どれくらい過ぎたかは覚えていないが  桐葉と一緒にいる時間は長くもあり、短くもあった。 「そういえば、伽耶。今日は冬至よ」 「もうそんな時期なのか、早い物だな」  杯の酒を飲みながら夜空を仰ぐ。  中庭にある、囲まれた露天風呂の空間は外からのぞき見が出来ないようになっている。  逆に、外を見ることもできない。  それでも工夫はされており、木々を始め自然らしく作られている。  その木々は紅葉しており、水面に赤い葉が落ちてくる。 「この前送ってもらった赤いちゃんちゃんこ、そろそろ着る頃かしら?」 「あれはまだ早い」  伊織があたしをからかうために送ってきた赤いちゃんちゃんこ。 「・・・だが、もう少し冷え込んだら着てやらないこともないな」 「まったく、やっぱり伽耶はお子さまね」 「桐葉、何度も言わせるな。あたしはこれでも母親だぞ!」 「これでも・・・ね」 「ひゃぅっ!」  突然桐葉はあたしの胸を揉んできた。 「なななな、なにをするのだ!?」 「お子さま体型を確認しただけよ」 「うぬぬ・・・」 「なんなら、少し成長してみてはどうかしら? 胸も大きくなるかもしれないわよ?」 「そ、それは・・・今はまだ早い、止めておこう」  身体の成長だけは出来ないことではない。  だが、桐葉に言ったとおり、今はまだ早い。  あのとき、瑛里華や支倉が言ってくれた言葉を思い出す。 「伽耶さん、焦って先に進む事なんて無いんです、ゆっくり自分のペースで、瑛里華と  会長と、家族を作っていってください。俺はそんな伽耶さんを応援しています」 「そうね、その方が良いわね」  あたしの表情を見てか、桐葉は成長の件をあっさりあきらめた。 「そうだ、あたしはまだ」 「成長しても胸が大きくなる保証なんて無いんだものね」 「桐葉・・・」  どうやら違う意味でとらえられたようだ。 「あたしだってな、成長すれば桐葉くらいには・・・」  あたしの言葉を聞きながら桐葉は立ち上がる。 「桐葉くらい・・・には・・・」  見事なプロポーションだった。  以前瑛里華と一緒に風呂に入ったこともあったが、その瑛里華を  上回るプロポーション。  大きな胸の膨らみと、そこから締まっていく腹に、程良いふくらみの腰。  非の打ち所が無いとはこのことだろう。 「ふぅ、ちょっとお湯につかりすぎたかしら」  露天風呂の端に腰掛ける桐葉、足を組む姿は同姓から見ても色っぽい。 「・・・」  あたしは下を向く、そこに見えるのはなだらかな胸と、くびれのない腹に・・・  その先は考えるのを止めた。 「・・・かまわんさ、あたしはあたしのペースで、あたしらしく生きて  いくことにしたのだからな」 「私はそんな伽耶と一緒に生きていくわ」 「そうか」 「えぇ」  あたしは自分で提子より酒を杯に注ぐ、そしてそれを飲む。 「・・・なぁ、桐葉、そろそろ珠津島も紅葉の時期だろうな」 「そうね、温暖な球津島でもそろそろ紅葉も始まってるでしょうね」 「・・・」 「伽耶、貴方は貴方らしく生きるのでしょう? なら、どうしたいのかしら?」 「そうだな・・・とりあえず今は温泉を楽しむとしよう」 「そうね」  静かに流れていく時間。  ただ流れ去って行くだけだったあのときとは違う。  桐葉と一緒に過ごしていく時間が、心地よかった。
10月29日 ・ましろ色シンフォニーSSS”ずるい妹は、嫌い?” 「ん?」  部屋でくつろいでるとき、携帯が鳴る。 「もうそんな時間か」  携帯を開けて着信したメールを読む。予想通り桜乃からの呼び出しのメールだった。 「よし」  携帯をとじて俺は部屋をでた。 「ごちそうさまでした」 「おそまつさまでした」 「洗い物は俺がするね」 「ううん、その前にお兄ちゃん、クッキー焼いたの。デザートにしよ?」  桜乃は戸棚からクッキーを取り出す。 「美味しそうだな」 「ふふふ、自信作、いろんな意味で」 「どういう意味かは・・・聞かない方がいい?」 「うん」  別に桜乃が作ったクッキーに不安がある訳じゃない。  どちらかというと、桜乃自身に不安があるというか・・・何かたくらんでるか? 「はい、お兄ちゃん。紅茶もどうぞ」 「あ、あぁ、ありがと」  ・・・ 「美味い」 「うん、自信作」 「それはさっき聞いた、どういう意味でかは聞いてないけどね」 「ふふふ」  なんか、その棒読みっぽい笑いに不安になるんですけど・・・  だが、結局何事も無くクッキーは食べ終えた。 「お兄ちゃん、私が洗い物するから先にお風呂に入っててね」 「いいの?」 「うん、いいの」 「わかった、それじゃぁよろしく頼むね」 「どんと任せておいて」 「ふぅ」  身体を洗ってから湯船につかる。 「でもなんだったんだろうな?」  いつもと微妙に違う桜乃の行動・・・だった気がする。 「いや、いつもと同じのような気もする・・・」  桜乃とつきあうようになって、兄と妹という関係では知り得なかった  いろいろな桜乃を知ったけど、それでも桜乃はわからない所もあった。 「・・・俺が男で桜乃が女の子、だもんな」  当たり前のことだけどな、と心の中でつぶやく。  その時、扉が開く音がした。 「え?」 「お兄ちゃん、私もお風呂」   「ちょ、ちょっとまった、俺が入ってるだろう!?」 「なんで?」    首を傾げる桜乃、その仕草は妙に子供っぽかった。 「じゃ、なくて!」  自分の考えにつっこみを入れる、今はそれどころじゃないだろう! 「お兄ちゃん、私は平気。だって、兄妹だから」 「こういうときだけ兄妹なんだよな・・・」 「お兄ちゃんはずるい妹は、嫌い?」 「何があっても桜乃を嫌いになんてなれないよ」 「・・・ありがと、お兄ちゃん。私も、好き」  桜乃が頬を赤らめながら、俺の目をまっすぐに見てそう答える。  その真摯さに、俺は答えようと・・・ 「でも、今はとりあえず、横に置いておく」 「へ?」  両手で何かを横に置く仕草をする桜乃。   「お兄ちゃん、とりっくおあ、とりーと?」 「えっと?」 「お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ、がおー」 「あ、ハロウウインか。でもなんで吠えるのかな?」 「お菓子をくれない悪い人を食べちゃう準備、がおー」 「お菓子ね・・・っていうか、風呂場じゃなにもできないんだけど」 「なら、私はお兄ちゃんにいたずら、する」  そう言うと浴槽に近づいてくる。 「桜乃?」   「がおがお」  ポーズと吠え声? がかみ合ってない桜乃は、そのまま湯船に入ってくる。 「お兄ちゃん、かぷ」 「うぉっ!」  桜乃は俺に抱きついてきていきなり耳をあまがみしてくる。 「はむはむ」 「さ、桜乃、くすぐったいって」 「お菓子をくれない悪いお兄ちゃんは、妹にいたずらされてください」 「う、なら桜乃、トリックオアトリート!」 「ふふふ、お兄ちゃんはもうお菓子を食べています」 「あ・・・」  そういえば食後に桜乃からクッキーをもらっていたっけ。 「しまった、はめられた」 「はめられるのは私の方」 「桜乃?」 「お兄ちゃん、お兄ちゃんをはめた悪い妹にはいたずらじゃなくて  おしおきをしてください」 「・・・ったく、桜乃。まずはお風呂に入って暖まる。続きはそれからで  いいよな?」   「うん、私はお兄ちゃんをはめたのに優しいね」 「・・・桜乃だからな」 「だけど、この後は私がお兄ちゃんにはめられる妹?」 「・・・桜乃、もう少しおしとやかな言葉を使えないかな?」 「えっちな妹でごめんなさい」 「・・・嫌いじゃないからいいけどね」 「えっちなお兄ちゃんにえっちな妹、最高の相性」 「いつの間にか俺までエッチになってるな」 「・・・違うの?」 「・・・違いません、だから」 「ゃんっ! お風呂あがってから・・・じゃないの?」 「えっちな妹にお仕置き開始」 「うん・・・えっちな妹にえっちなおしおき、いっぱい・・・して、お兄ちゃん」
10月28日 ・冬のないカレンダーSSS”木枯らし吹いてるのに熱いね” 「おふくろ、おはよう」  冷え込み始めた朝、なんとかベットから出た俺はリビングへと入る。 「おはよー、祐介、すぐに朝ご飯だから顔を洗ってきなさいな」 「おう」  俺は一度洗面所へと向かい顔を洗う。 「はい、祐介くん」 「さんきゅー」  手渡されたタオルで顔を拭き、改めてリビングに戻る。 「それじゃぁ朝ご飯戴きましょうか」 「いただきます!」  3人の声がはもる。 「・・・って、なんで雪奈が一緒に飯食ってるんだ?」 「え、いま気づいたの? 洗面所でタオル渡したときに気づかなかった?」 「それ以前に最初からリビングにいたんだけどね・・・祐介、まだ寝てる?」 「いや・・・当たり前すぎて気づくの遅れただけだ」  そう、我が家に雪奈がいることはなんだかこー、当たり前っぽい。 「そうそう、もう当たり前なのよ〜、祐介君、おかわりいる?」  そう言って手を出してくるのは雪奈のお母さんである春乃おばさん。 「いやん、だからおばさんじゃなくてお義母さんって呼んで」 「俺、何も言ってませんけど」 「そう思ってるかなぁって思ったから、間違ってたかしら?」 「・・・おかわりお願いします、おばさん」 「もぅ、照れ屋さんなんだから♪」 「祐介くん、お醤油いる?」 「あぁ」  もうつっこむ気力も無く、あるがままを受け入れる事にする。  ふと思う、日常と非日常って何処に境界があるのかな、と。 「気をつけてね〜」 「いってらっしゃい」  おふくろとおばさんに見送られて雪奈と一緒に家を出る。 「今日は寒いね、祐介くん」 「そうだな」 「だからね、祐介くん・・・その・・・して、ほしいな」  いきなり場違いな発現をしてくる雪奈の頭をつかむ。 「えぅ、いきなり何するのぉ?」 「発言には注意するようにいつも言ってるだろうに」 「えー?」  雪奈は腕を組んで考え込むようなポーズをとる、その時胸がぐにゃりと  ゆがんだように見えたのは気のせいということにしておこう。 「んー・・・祐介くんとしたいからして欲しいな、って」 「・・・」 「えぅ」  俺は無言で雪奈の頭をつかむ。 「俺に何をして欲しいのか、ちゃんと言え」 「んとね、一緒にマフラーして欲しいな」 「最初からそう言えよ」  朝から疲れる・・・ 「はい、祐介くん」 「用意周到だな」  雪奈が手に持ってるのは冬が来るたびに編み直してプレゼントしてくれるマフラー。  それも長い。  いわゆるバカップル用マフラーだ。俺の部屋にあるはずのマフラーなのだが、  いつの間にか雪奈が持ち出していた。  以前雪奈が持ってて良いよ、と言おうとおもった事もあったが、それはプレゼントを  返すことになると思い、やめておいた。  それ以来俺の部屋で眠ってるはずなのだが、こうして雪奈が持ち出してくるのだ。 「雪奈、いいか? 絶対走るなよ?」 「うん♪」  笑顔で答える雪奈、この笑顔に過去何回だまされたことか・・・ 「はい、祐介くん♪」  笑顔120%でマフラーの端を渡してくる雪奈、その反対側はすでに雪奈の首を  覆っている。 「・・・」  俺は無言でそれを受け取り、首に巻く。 「えぃ!」  雪奈は俺の腕をとると、その腕に抱きついてくる。 「これで安心でしょ?」  確かにこれなら雪奈が転ぶこともないし、いきなり走り出して首を  絞められることもない。のだが・・・ 「・・・」  俺の腕に押しつけられる、洋服越しでもわかる柔らかさに、意識が  持っていかれそうになる。 「よぉ、旦那。木枯らし吹いてるのに熱いね」  一番見つかって欲しくない相手に見つかった。 「あ、和葉ちゃんおはよー」 「おはよ、雪奈。朝から熱いよね〜」 「え、寒いからこうしてるんだよ?」 「・・・はぁ」  教室が遠く感じた朝の通学路だった。

10月25日 ・穢翼のユースティア SSS”風邪の夜” 「うー」  朝、じゃなかった、昼に起きたときから頭が痛かった。 「リサは風邪ひかないはず」 「うぅ・・・アイリス酷い」  アイリスが言わんとしてることはさすがの私でもわかるけど、いつものように  つっこみがいれられなかった。 「今日はお仕事にはなりませんわね」 「でも、働かないと・・・」  牢獄で最高級の娼館であっても、娼婦の待遇はそうは変わらない。 「働かざる者食うべからず、なんだよね・・・」  1日休むと売り上げに響くし、そうなるとあたしもいずれ・・・ 「でも、その言葉は”働きたいが働けない人は食べてもよい”という意味でも  あるのですよ?」 「え、そうなの、クロ姉?」 「えぇ」 「でも結局は同じ事」 「そーだよねぇ」  結局は月の売り上げを落とすことになる。あたしの売り上げは平均よりやや悪い程度  だけど、1日休むと”やや悪い”ではなくなってしまう。 「でも、風邪をひいた状態では、お客様に申し訳ありませんわ。今日はしっかりお休み  なさいな」 「うぅ・・・」  今日は仕事になりそうにない、幸い予約は入ってない日だし寝てるしかないかな。  夕方になって仕事が始まる時間、あたしは自分の部屋に残っていた。  クロやアイリスは予約で一杯みたいで、ずっと部屋を空けている。 「ん・・・んー」  こうして一人で部屋にいるのって久しぶり。 「・・・いいのかなぁ」  休んだツケは結局自分に回ってくるのは解ってるけど、それでも客引きをする時間に  こうしてベットで眠っているのなんて良いのかなぁ。と、ぼーっとした頭で考える。 「・・・あ」  気がつくと外から雨の降る音が聞こえてきた。 「雨が強くなるなら、みんな今日の売り上げあがらないだろうなぁ・・・」  それでも予約が入ってるクロやアイリスには関係ないかな。 「・・・静か」  思ったことを声に出してみると、それが余計に感じられる。 「・・・なんだかやだな」  何がやだのかわからない、けど、いやなものは嫌だった。 「・・・」  その時頭の中に浮かんだ顔があった。 「・・・カイム」 「起きてたか?」 「・・・ふえ? カイム!?」 「寝ぼけてるようだな、起きれるか?」 「え、あ、うん・・・」  起きあがろうと体を起こす、その瞬間からだが揺れる。 「おっと」 「あ・・・ありがと」  倒れそうになったあたしをカイムが抱き留めてくれた。 「えっと・・・それで、なんだっけ?」 「俺はまだ用件を言ってない」 「あ、そうだっけ?」  そういえばカイムは何しに来たんだろう? 「出かけるぞ、これを羽織れ」  渡されたのはコート、そしてレインコート。 「ちゃん重ねて着ろよ」 「え、うん」  言われるがままにコートを羽織りその上からレインコートを着た。 「よし、出かけるぞ」 「・・・うん」  カイムに雨の中つれてこられたのは、カイムの家だった。 「えっと、カイム?」 「とりあえずそこに座れ」  勧められるがままに、ベットに座る。 「それじゃぁ、脱げ」 「え?」  脱げって、服を? 「あ、もしかしてカイム、あたしを買ってくれたの?」 「そうだ、だから今夜一晩は俺の言うことを聞け」 「うん♪」 「・・・なんで嬉しそうなんだ?」 「だって、カイムが私を買ってくれたんだもの、嬉しいに決まってるじゃない」 「・・・そうか、それじゃぁ後ろを向いてくれ」  言われたとおりに後ろを向く。  何をされるのか解らないけど、凄くどきどきする。 「ひゃんっ!」  突然触れた暖かい感触に悲鳴をあげてしまう。 「なに?」 「タオルだ、そのままにしてろ」 「うん・・・んっ」  カイムは私の背中を優しく拭いてくれている。時折腕を挙げさせる。  結局あたしは口では言えないところまですべてタオルで拭かれてしまった。  これは結構、というかかなり恥ずかしいよぉ・・・ 「よし、それじゃぁ着替えろ」 「・・・え?」 「そしたらそのベットで一晩休め、以上だ」 「・・・えっと、私を抱くのは?」 「俺は病人を抱く趣味は無い」 「えー」 「そこでなんでおまえが残念そうに言うんだよ?」 「だって、抱いてくれるって思ったのに」 「・・・そうだな、朝までに風邪を治したら考えてやる」  あたしはベットから立ち上がる。 「リサ?」 「あたし、エリス先生の所にいって風邪薬もらってくる」 「おまえな・・風邪薬飲むの渋ってなかったのか?」 「だって苦いのやだもん、でも今はそんな些細なことは気にしない!」 「・・・はぁ、用意してあるのを飲めばいい」  そう言ってカイムが差し出したカップには・・・ 「うぐ・・・」  嫌なにおいの緑色の液体が入っていた。 「あのぉ・・・カイムさん? これ全部飲まないと駄目・・・かなぁ?」 「嫌なら別に構わないさ」 「飲む!」  あたしは覚悟を決めてその液体を飲み干した。 「・・・ぐはっ」  あたしはベットに倒れ込む。 「ぼける余裕があるならだいじょうぶだな」 「うぅ・・・カイムぅ、みずぅ・・・」 「ほら」  カイムから渡されたジョッキ一杯の水を一気の飲み干す。 「ふぅ、生き返ったぁ」 「それは良かったな、それじゃぁ寝ろ」 「・・・ありがと、カイム」 「気にするな、俺はおまえを買っただけだ。だから自由にさせてもらうだけだ」 「うん、ありがとう、カイム」  あたしは言われたようにベットに横になる。 「ねぇ、カイム。朝までいてくれるよね?」 「ここは俺の家だぞ、俺は何処で寝ればいいんだ?」 「よし、朝までに絶対風邪なおしてカイムに抱いてもらうぞ、おー!」 「・・・はぁ」  もしかするとあたしをここにつれてきたのはボスからの依頼かもしれない。  娼館に風邪をひいた娼婦がいればうつるかもしれない、その予防処置。  それでも・・・カイムと一晩過ごせることが嬉しかった。 「カイム、おっはよー!」 「・・・おまえ朝から元気だなぁ」 「当たり前じゃん、ゆっくり眠って元気百倍、風邪も治ったんだからカイム!」 「なんだ?」 「約束だから・・・あたしを抱いて」 「残念だが、俺が買った時間はもう終わってる、時間切れだ」 「ちょ、ちょっとーーー、その台詞は普通娼婦の台詞じゃないの!」 「事実だから仕方がない」 「でもでも!」 「・・・わかったわかった、そこまで言うなら覚悟は良いな、リサ?」  そう言うとカイムがあたしに迫ってくる。 「え、えっと、その・・・うん・・・え、きゃっ!?」  あたしの背後に回り込んだカイムは、文字通りあたしを抱き上げた。 「カイム?」 「約束通り、抱いたぞ、サービスでこのままリリウムまでお届けしてやる」 「ちょ、ちょっと、このまま外歩くの? さすがに恥ずかしいなぁ・・・って  思うんだけど?」 「望んだのはリサじゃなかったか?」 「そうだけど、これはちょっと違う・・・ううん、いっか。さぁ、カイム。リリウムに  帰るから送っていってね!」  違う意味で抱かれてる、けど、これはこれでとても気持ちがいい。  こんな経験できるなら、恥ずかしいのもいいかな。 「ったく、暴れたら落とすからな」 「うん、わかった」  あたしはカイムの胸に顔を埋める。  今だけはあたしのカイムなんだなって思うととてもどきどきしてきた。 「それじゃぁいくぞ」 「うん、ありがとう、カイム」  家の外に出ると、雨は上がっていた。  牢獄にしては珍しく、空まで見える快晴だった。
10月4日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”欲張りなお願い” 「さすがに冷えるな、陽菜寒くないか?」  監督生室を出た孝平くんが真っ先に心配してくれる。 「大丈夫だよ、孝平くん・・・でも、ちょっとだけ寒いかな」  10月に入ってから冬服に着替えてるから、前よりはましだけど監督生棟は寮より  山の上の方にある。  その分少しだけ風通しがよく、少しだけ冷える。 「悪いな、こんなに遅くまでかかって」 「いいの、だってみんなのためだもの」 「・・・そっか、それじゃぁ帰ろうか」 「うん・・あ」   「寒いだろうからさ」  孝平くんはそっと私の手を取りつないでくれた。 「うん・・・暖かいよ、孝平くん」 「帰ろうか」 「うん、でもこうするともっと暖かいよ」  私は手をつないだまま腕を組む。 「は、陽菜?」 「駄目、かな?」 「・・・陽菜がいいならいいよ」 「ありがとう、孝平くん」  寮までの道のりがもうちょっとだけ長かったら良いな。そう思いながら孝平くんと  腕を組んで歩いた。 「着いちゃったね」  願っても寮までの道のりの長さが変わることなく私と孝平くんは寮に着いてしまった。 「もう少し早く帰れるかと思ったんだけどな、悪い」  今日監督生室に行ってたのは寮でのイベントの打ち合わせの為。 「孝平くんが謝ることは何も無いんだよ?」 「そうだけどさ・・・今日は誕生日だろ? 誕生会開きたかったんだけどさ」 「ありがとう、その気持ちだけでうれしいよ」  それは偽りのない私の気持ち。 「・・・そうだ、陽菜。もうみんなを集めるには遅い時間だけど俺達だけでパーティー  開かないか?」 「え? ・・・いいの?」 「俺が開きたいだけだからさ、陽菜さえよければだけど・・・」 「嬉しい、ありがとう!」   「そんなに喜ばれるとちょっと心苦しいな」 「どうして?」 「大したこと出来ないからさ」 「そんなこと無いよ、孝平くんが私のためにパーティー開いてくれるだけで私は  とっても満足だよ」 「相変わらず欲が無いよな、陽菜はもっと欲張ってもいいんだぞ」  私はとっても嬉しいし満足してるのだけど  ・・・もっともっと嬉しくなっても良いのかな? 「俺が出来ることならなんでもしてあげるからさ」 「なんでも・・・いいの?」 「あ、あぁ・・・お手柔らかにな」 「それじゃぁ・・・」  私は孝平くんにお願い事を頼んだ。 「俺としては嬉しいから良いんだけどさ・・・」 「孝平くんも嬉しくて私も嬉しいなら何も問題ないと思うよ?」 「そう、なのかなぁ」  部屋に戻った私を孝平くんが暖めてくれて、その後汗を流すために一緒にお風呂に  入ってもらってる。 「こうして一緒にお風呂に入れる事がとても嬉しいの」 「そ、そうか・・・俺で良ければいつでもつきあうぞ。って何言ってるんだよな、俺」 「またお願いしてもいいの?」 「あ、あぁ・・・陽菜さえ良ければ」 「それじゃぁまたお願いするね、孝平くん」   「ありがとう、大好き」
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