思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2011年第3期 9月29日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory   フィーナ誕生日記念 「包まれて、受け止めて」 9月16日・18日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”夏の終わりの約束” 9月12日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”名月の夜” 9月3日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle SSS”詐欺” 8月29日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「幻の議事録II」 8月26日 穢翼のユースティアSSS”雨のリリウム” 8月24日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「解放日」 8月20日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「流す汗」 8月3日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory 「責任問題」 7月16日 FORTUNE ARTERIAL SSS”夏の軽装” 7月12日 FORTUNE ARTERIAL SSS”水浴び” 7月9日 ましろ色シンフォニーSSS”シトラス系?” 7月5日 FORTUNE ARTERIAL SSS”第二次早朝決戦”
9月16日・18日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”夏の終わりの約束” 「気持ちいいですね、達哉」  礼拝堂の居住スペースの裏の狭い庭、そこに去年同様小型の  ビニールプールを設置した。  俺が膨らませてる間にエステルさんは水着に着替えてきて、早速プールに入った。 「どうしたのですか、達哉?」 「え? あ、すみません」 「何を謝るのですか?」 「えっと・・その、見とれてたもので・・・」 「なっ!」  俺の言葉に顔を真っ赤にするエステルさん。 「わ、私をからかわないでください」 「からかっていません、本気です!」 「あ・・・ありがとう、達哉」  そう言ってエステルさんはおとなしくなった。  確かに見とれていたのだから嘘は言っていない。  ただ・・・初めて海に行ったあのときの水着と同じはずなのに、どうしても  学院指定水着に見えてしまう・・・なぜだろう?   「達哉は入らないのですか?」 「あ、あぁ、そうですね。俺も入りたいんですけど、もし誰かが来たら  大変ですから」  今日は平日の午後、いくら休憩時間中だとはいえ信者の方が来るかもしれない。  そのときエステルさんが着替える時間を稼ぐために、今日は俺は水着には着替えて  いなかった。 「・・・」   「エステルさん?」 「私だけ気持ちがよい思いをするわけにはいきません」 「俺はエステルさんが気持ちよくなってくれれば満足です」 「でも、達哉も気持ちよくなってくれないと嫌です・・・あっ」  突然エステルさんが慌てる。 「そ、そういう意味じゃありませんからっ!」    どういう意味か、聞くまでもなかった。  エステルさんのその言葉の意味に、俺は反応してしまった。 「と、とにかく私はプールからでます」    そう言うとエステルさんはプールから出ようと立ち上がる。  その後ろ姿に目がはなせない。  輝く髪の隙間から見える、白い水着と肌、そして水着に包まれた丸いお尻。  その水着に包まれた身体を知っているからこそ、余計に艶めかしく見える。   「た、達哉! 何処を見てるんですか! 達哉のえっち!」 「え、わっ!」  エステルさんに頭を押さえつけられた俺は、そのままプールの中に引きずり込まれた。 「ぷはっ・・・エステルさん酷いです」   「天罰です」 「そんな天罰あるんですか?」 「くすっ、きっとありますよ」  そう言って笑うエステルさん。 「これで一緒ですね、達哉」 「・・・そうですね、ここまで来たら一緒にプールで遊びましょう」  きっとエステルさんがの望んでくれたことだから。   「はい、達哉と一緒です」  エステルさんが手をさしのべてくれる、俺はその手に掴まる。 「去年の約束、かなえてくれてありがとう、達哉」 「なら、来年も再来年もずっとずっと夏はこうして過ごしましょう。  約束です、エステルさん」   「はい」  エステルさんの笑顔はまぶしくて、綺麗だった。 --- ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”夏の終わりの約束のおまけ” 「そろそろ休憩時間は終わりですね」 「そうですね、プールから上がりましょうか」    座っていたせいで水着が少しずれてしまいました、そのずれをなおしながら  達哉と話を続けます。 「達哉、シャワーを浴びてきて下さい」  先ほど事故ではあるのですが、達哉は私服のままプールに入ってしまいました。  ですので達哉の洋服はびしょぬれです。  先にシャワーを浴びていただいて、その間に洋服を乾かすしかありません。  そのとき目の前で達哉がシャツを脱ぎだしました。 「た、達哉? なんでここで脱ぐのですか?」 「干して乾かさないと着て帰る服がないんですから」  確かにそうですが・・・って、なんでズボンまで脱ぐのですか!?  私は目を反らそうとして・・・どうしても目がそらせません。 「・・・」 「エステルさん、バスタオル借りて良いでしょうか?」 「・・・」 「エステルさん?」 「は、はい!」  ぼーっとしてしまってた私は達哉の声で我に返りました。 「先にシャワー浴びてください、俺は洋服を干してからにします」 「・・・はい」  本当なら達哉が先にシャワーを浴びなくてはいけないのですが、今の私はそれに  気づくことが出来ずそのまま達哉に言われるがままシャワールームへと向かいました。   「ふぅ・・・」  暖かいシャワーは冷えた身体を優しく包んでくれる。 「・・・」  身体を暖めるシャワー、だけど、この頬の火照り具合ならもう一度プールに  入った方が良いような気がする。 「達哉の身体・・・逞しかった」  もう何度も身体を重ねたけど、こうして達哉の身体をはっきりと見たのは  初めてかもしれなかった。   「達哉は男性で、私は女・・・」  男の人は女性の身体を見て興奮する事は知っている、それをいやらしいと  思ってた時期もあった。  達哉と結ばれて達哉となら、その感覚が無くなったのがわかる。 「けど・・・その逆もあるだなんて」  女が男性の身体を見て、そういう気分になることもあるだなんて・・・   「私ったら何を考えてるの!」  思わず壁に頭を当てる、まるで頭の熱を冷やすように。 「エステルさん」 「はいっ!」    外から聞こえる達哉の声にドキッとする。 「エステルさんのバスタオルはここにおいておきますね」 「あ、ありがとうございます・・・」   「それじゃぁ外で待ってますからシャワー出たら教えてくださいね」 「あ、あの・・・達哉、待ってください」  私は思わず達哉を呼び止める。 「何でしょうか、エステルさん」 「達哉も・・・そのままでは寒いでしょう?」 「えぇ、まぁ・・・でもエステルさんが着替え終わるくらいまで大丈夫です」  いつも私の事を考えてくれる達哉。だから、私も達哉の事を考えてあげないと。   「達哉、そのままでは風邪をひいてしまいます。だから、こちらに来てください」 「・・・え?」 「一緒にシャワーを浴びましょう」 「で、でも」 「達哉が風邪をひいてしまいます」 「だけど、俺が入ったらエステルさん・・・その」 「かまいません、それとも達哉は私の話が聞けないのですか?」 「・・・もうどうなっても知りませんよ?」  そう言って扉をあけて入ってくる達哉を私は出迎える。 「大丈夫です、達哉はいつも優しいですから」  私は微笑みながら達哉を出迎えた、その笑顔はきっと慈愛の微笑みではなく  達哉を受け入れるときの微笑みだと思う。・・・達哉がそうさせたのですから。 「だから、今日も優しくしてくださいね」
9月12日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”名月の夜”  カレンと飲むいつもと同じ夜。  でも今日はいつもと違った夜。  喧噪に包まれたお店ではなく、住み慣れた我が家のリビングの、庭に通じる  扉を開けての席だった。 「こういうときは縁側があると良いのにって思っちゃうわね」 「これで十分だと思いますよ、さやか」 「そうよね」  手には小さな升。その中を満たす、琥珀色の液体は口当たりの良い甘口の日本酒。  見上げると、そこに浮かぶは中秋の名月。  私はそっと升を動かす。  そうすると、升の中に月が写り込む。 「縁側が無くてもカレンとこうして飲めるんだから、十分すぎるわよね」  親友と、最高のお酒と、最高の酒の肴が空に浮かぶ。 「そうですね、ここならさやかが酔いつぶれても何も問題ありませんから」 「もう、カレンったら」  私の反論に、カレンはそっと笑うだけだった。 「綺麗ね」 「えぇ・・・初めてみたときは信じられませんでした」  初めて、それはカレンが地球に来たときのことだろう。 「居住区の外は永遠に続く荒野しかないというのに、外から見た月はこんなにも  綺麗だなんて思っても見ませんでした」  私は月の居住区に居たときのことを思い出す。  ドームの中の世界は確かに人の住む街だった。だけど、そのドームの端に行けば  未だに人の住めない砂と岩の荒野。  その風景は寂しさと怖さを感じたと同時に、そのとき空に浮かんでいた蒼い星が  とても印象に残っている。 「こうして月の外に来て、初めて月の美しさに気づきました。でも」  カレンは升を口に運ぶ。 「でも、今の月にはさやかがいません」 「今の地球にはカレンがいるわ」  お互い見つめ合ってしまう。 「ふふっ」 「くすっ」  お互い微笑んで、そして升の中の液体を喉に流し込んだ。  神秘的で綺麗な月は今でも魅力的だ。  でも、今の月にカレンは居ない。そして・・・ 「姉さん、あまり飲み過ぎると明日が大変だよ」 「大丈夫よ、達哉くんが居るんだもの」 「さやか、それは理由になってないわ」 「そうだよ姉さん」  そう言いながらリビングからおつまみを持ってきてくれた。 「ありがとうございます、達哉さん」 「ありがとー、達哉くん。愛してるわ」 「・・・飲み過ぎないでね」  そう言うと達哉くんは奥に戻ってしまった。 「もぅ、達哉くんったら照れちゃって・・・可愛い」 「酒の肴、増えちゃいましたね」 「そうね」  私は達哉くんが持ってきてくれたお皿に目を落とす。 「ふぅ・・・さやか、ごちそうさまです」 「私じゃなくて達哉くんに言ってあげてね」 「さやかは言葉の意味、わかってないですね?」 「ん? どういうこと?」  言葉の意味ってどういう事かしら? 「いえ、それよりももう少し飲みましょう。今日はさやかを送る心配がないので  安心して飲めますから」 「もぅ、カレンったら酷いんだから」  カレンと飲むいつもと同じ夜。  でも今日はいつもと違った夜。  喧噪に包まれたお店ではなく、住み慣れた我が家のリビングの、庭に通じる  扉を開けての席。  名月を肴に親友と、そして愛する人と過ごす夜の時間はゆっくりと流れていった。
9月3日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”詐欺” 「ただいま」 「あ、おかえりなさい、お兄ちゃん」  学園から帰ってくると先に帰ってた麻衣が出迎えてくれた。 「・・・麻衣、何かあったのか?」 「え、どうして?」 「いや、そんな顔してるからさ」 「うそ、私変な顔してた?」  慌てて自分の頬に手を当てる麻衣。 「いや、麻衣の顔は変じゃなくて可愛いから大丈夫」 「えぇ!?」 「どうしてそこで驚くんだよ・・・」 「だって、お兄ちゃんが急に変なこと言うからだよ! もう・・・」  怒ってるような言い方だったけど、麻衣の顔はにやけているから迫力は無かった。 「それで、何かあったのか?」 「あ、うん・・・別にたいしたことないんだけどね」  そう注釈してから麻衣は話し始めた。 「なんだか、私詐欺にあった気がするの」 「え!?」 「詐欺!?何があったんだ!?」 「お、お兄ちゃん落ち着いて」  思わず麻衣の両肩をつかんでいた手を離す。 「詐欺にあった気がしただけだから」 「だから詐欺って何だ!」 「んとね、天気予報」 「・・・は?」  今天気予報って聞こえた気がするのだけど、天気予報で詐欺? 「今、台風近づいてるでしょ?」 「あぁ、確かに近づいてるな」  台風が発生し、週末には直撃するって予報だったっけ。 「・・・そう言えば、今日は週末だよな」  直撃するはずの今日の天気は、雲が多く風が強いけど、雨は降っていない。 「昨日も一昨日もそうだったでしょう?」  確かに天気予報では昨日も一昨日も一日中雨という予報だった。 「でも、雨はほとんど降らなかったでしょう?」 「そういえば、そうだったな」 「洗濯も出来なかったし、なんだか雨雨詐欺にあった気がするの」  いや、雨雨詐欺って・・・ 「でも家には乾燥機あるから洗濯は出来るだろう?」 「そうだけど、やっぱり洗濯物はお日様で乾かしたいの、それに家で干すと家の中が  湿気だらけになっちゃうよ」  乾燥機で乾燥してるからそうそう湿気だらけにはならないとは思うけど、梅雨時の  ように家中洗濯物が干してあるのは確かにあまり良い気分ではない。 「でもさ、今日なら洗濯物は外に干せそうじゃないか?」 「うん、そう思うんだけどね・・・突然降ってくると洗濯物が駄目になっちゃうから」 「降りそうなのか?」 「どうだろう?」  麻衣は庭に通じるドアを開ける。その瞬間強い風が吹き込んでくる。 「きゃっ!」    その強風は麻衣の制服のスカートをまくり上げる。  その中に隠された可愛いお尻を覆う、ストライプの下着が丸見えになった。 「・・・お兄ちゃん」 「ごめん、見えた」  麻衣が問いただす前に謝る。   「もう、そう言うときは見ないの! お兄ちゃんのえっち」  覗いたわけじゃないのだけど、これはそう言う物だから素直に謝っておく。 「それで、洗濯はどうするんだ?」 「風が強いから天気が良くても外で干せそうにないかな。でもたまっちゃうから  洗濯はした方がいいかも」 「そうか、今日は俺の番だったっけ?」 「ううん、私の番だから私が洗濯機をまわしておくね。お兄ちゃん、洗濯ものある?」 「出しておいた物だけかな」 「わかった、それじゃぁ私は洗濯してるね」    麻衣は脱衣所へと向かっていった、すぐに洗濯を始めるのだろう。  俺は注意して庭へと通じるドアをあけて、空を見上げる。  台風が直撃するはずの空なのに、雲の切れ目から綺麗な青空が見える。 「雨雨詐欺の次は台風直撃詐欺になるんだろうか?」  そんなことをぼんやりと考えてしまう、台風が接近してるはずなのに穏やかな  日常だった。
8月29日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「幻の議事録II」  明け放れた窓からは蝉の鳴き声が聞こえる。  監督生室の冷房が調子が悪いため、せめて風通しをよくしようと  窓を開けているのだ。 「それじゃぁ、今日の会議を始めましょうか」 「要望目安箱ですね」  白ちゃんが机の上にある箱を見ながら、少し緊張している。  この会議によって、生徒の意見が採用されるかどうか決まる。  白ちゃんは、毎回この会議で緊張していた。 「白、そろそろなれなさい」 「ははは、はいっ!」 「はぁ・・・」 「仕方ないさ、瑛里華。今は3人なんだしさ」 「それでもよ。それじゃぁ始めるわ」  瑛里華が木箱に手を入れる、そして一枚の紙を取り出した。 「・・・」  その紙に書かれてる要望を見た会長が、黙ったまま何も言わない。 「瑛里華、どうした?」 「どうしてこの要望が入ってるのよっ!!」  瑛里華はその紙を机にたたきつける。 「ひゃっ!」  バンっという大きな音に白ちゃんが驚く。 「どれどれ」  俺はたたきつけられた要望を読む。 「暑い日には全員水着で過ごすのが良いと思います。これってクールビズになるし  節電にもなると思います」 「兄さんね、絶対兄さんの仕業ね!!」 「確かにやりそうだよな・・・」  学院を卒業してもこういうところで仕掛けてくるのがあの人らしい。 「でも、以前の時と要望の内容が違います」 「白ちゃん?」 「あのときは暑い日に水着を着るぴょん、だったと思います」 「・・・」  瑛里華のうめき声は、あのときの議事録のことを思い出したからだろう。 「今回は節電の事もありますから・・・」 「あー、わかったわ、試しましょう!」  何かが吹っ切れたのか、瑛里華は一度解散宣言をし、30分後に再集合することを  宣言した。   「さぁ、始めるわよ。それじゃぁ次の議題は・・・」  30分後、水着に着替えた俺達は監督生室で会議を続けることとなった。  最初の1枚の要望以外は一般生徒からの普通の要望だったので、何事もなく会議が  進行していく。・・・水着姿であることを除けば、普通の会議だと思う。 「こんな所かしらね、白。お茶を煎れてくれる?」 「はい、わかりました」 「それと、お茶を煎れてくれたら白はあがって良いわ」 「瑛里華先輩、ありがとうございます」  白ちゃんは給湯室へと消えていった。 「白ちゃん、もう上がりなのか?」 「えぇ、この後ローレルリングの仕事があるのよ」 「そっか、それじゃぁ二人だけで仕事しないとな」 「え、えぇ・・・」 「瑛里華?」 「な、なんでもないわ!」  何かに慌ててるような感じの瑛里華だけど、この後急ぎの用事でもあるのだろうか? 「お待たせしました」  制服に着替えた白ちゃんが冷たいお茶を持ってきてくれた。 「それではお先に失礼いたします」 「お疲れ、白ちゃん」 「またね、白」  白ちゃんが去っていった監督生室に妙な沈黙が降りた。 「・・・なぁ、瑛里華」 「何?」 「・・・仕事するか」 「えぇ」  なんだか会話が続かず、とりあえず目の前の仕事をかたづけることにした。 「んー、休憩にしましょうか」 「あ、もうそんな時間か?」  上手く会話が続かない為にいつも以上に仕事に集中してしまったようだ。   「孝平、お茶のおかわり煎れてきてあげるわ」 「俺が煎れてくるよ」 「いいわよ、私が煎れてきたいから、そこで待ってて」  そう言うと立ち上がった瑛里華は、ごく自然に水着の裾を直す。   「はい、お茶」 「ありがとう」  瑛里華から受け取った冷たいお茶を飲み干す。 「ふぅ・・・」  俺はそのまま椅子に深く腰掛ける。 「もう少しだから、続けちゃいましょう」 「そうだな」  妙に集中してたせいか、仕事の進み具合が速い。これなら今日は早めに帰れそうだ。 「あ」  俺は持っていたペンを落としてしまう。 「ったく」  自分に毒づきながら、かがみ込んで机の下に落ちたであろうペンを探す。 「あったあった・・・っ!」  ペンを取り顔を上げた先にあったもの、それは瑛里華の足だった。    普段隠されてるはずの部分までが水着の為丸見えだった。  ・・・あれは水着だ、水着だから大丈夫、大丈夫っ!  心の中でそう念じながら俺は机の下から抜け出す。 「孝平?」 「なんでもない!」 「・・・そう」  瑛里華の問いに、俺は返事をするのが精一杯だった。 「お茶のおかわり煎れてくるわ」 「あ、あぁ」  瑛里華がお茶を煎れるために立ち上がる。 「はい、どうぞ」 「ありがとう」 「・・・あ」    俺にお茶を渡した瑛里華が急に顔を背ける。  一瞬だが瑛里華が何処を見たかは目線でわかった。  それは、水着のせいで隠せなかった物だ。 「・・・」  瑛里華のちょっとした仕草が水着のせいで妙に色っぽい。  その上での先ほどのアングルだ、もはや我慢の限界も近い。 「・・・なぁ、瑛里華。今日の仕事はもう終わりにしても大丈夫だよな」 「そ、そうね・・・思ったより進んでるから」 「なら、よし」  俺は手近な紙に要望を書く、それを空になってる目安箱にいれる。 「瑛里華、会議の続きをしようか」 「え?」 「要望は、まだ残ってるよ」 「そ、そう・・・それじゃぁ」  瑛里華は要望目安箱に手を入れる。そして取り出した紙を広げて読む。 「恋人同士の語らいの時間に水着は邪魔だと思います・・・」  それは今さっき書いた俺の要望、いや、欲望だった。 「・・・もぅ、孝平のえっち」 「要望は実践して試す物だろう?」 「・・・そうね」  そう言うと瑛里華は横を向きながら水着を脱ぎだした。    俺の位置からは影になってしまい、瑛里華の身体のすべてを見ることが出来ない。 「孝平も、水着を・・・」 「あ、あぁ・・・」  ずっと見ていたいけど、俺も要望を試さないと行けない。  すでに脱ぎにくくなってしまった水着をどうにかして脱ぐ。  いつもいる監督生室、そこで一糸まとわぬ姿の瑛里華。  それはあるべき場所での姿ではない、その背徳感ともいうのだろうか。  自分でもものすごく興奮してるのがわかる。  俺は一歩足を進める。 「駄目よ、孝平」 「え?」 「恋人同士の語らいの時間に、水着は必要無いんでしょう?」 「あ、あぁ」 「だから、恋人同士の語らいよ」 「・・・」  確かにそう書いたのは俺だ、少し格好良く書きすぎたことを後悔する。 「もう、そんなに情けない顔をしないの」  瑛里華は素早く、手近な紙に何かを書いて俺と同じように目安箱に入れる。   「孝平も要望、読んで」  俺は目安箱に手を入れ、紙を取り出す。 「恋人達のふれあいに、言葉は不要・・・」  その後の俺達に、言葉は不要となった。  聞こえてくるのは瑛里華の喘ぎ声と、俺の押さえた声と、蝉の鳴き声だけだった。
8月26日 ・穢翼のユースティアSSS”雨の夜のリリウム” 「邪魔するぞ」  リリウムに向かう途中、急に雨が降ってきた。  戻るにも行くにも同じ距離だったので濡れながら来たのだが、おもったより  濡れてしまった。 「あら、カイム様ではありませんか。いらっしゃいませ」  リリウムの扉を開けてすぐに出迎えてくれたのはクローディアだった。 「あらあら、そんなに濡れてしまわれて。タオルをどうぞ」 「すまない」  クロからタオルを受け取って顔と髪を拭く。 「あー、カイム。いらっしゃーい、私を買いに来てくれたの?」 「それはない」 「即答!? えうー」  落ち込むリサ、まぁ放っておいて良いだろう。 「カイム、私を買わない?」 「遠慮しておく」 「やっぱりカイムは不能野郎」 「どうしてそうなる」  毎度毎度お約束のやりとりだった。 「それよりジークはいるか?」 「ボス? そういえば今日は見て無いなぁ・・・」 「そうか、それじゃぁ待たせてもらうぞ」  俺はジークの部屋へと向かう。 「ねぇねぇカイム、暇なら私とチェス、しない?」 「なんで俺がリサとチェスをしなくちゃならないんだ」 「私が暇だから」 「客引きはどうした?」 「この雨じゃお客様もいらしてくださりませんわ」  クロの言葉通り、雨はやむどころか酷くなってきている。 「確かにそうだな」  このままだと俺も家に帰るのが面倒になるかもしれない。 「ですから、私と一緒に一勝負、いかがですか?」 「勝負か?」 「えぇ」  クロが妖艶に微笑む。 「賭けるのは」 「えぇ、お互いの身体、でよろしいでしょうか?」 「いいだろう、クロの暇つぶしにつきあおう」 「はいはーい、それじゃぁ最初は私ね」 「却下だ」 「なぜ!?」 「おまえとじゃ勝負にならない」 「それじゃぁ私の身体はカイムのモノになっちゃうのね」 「いらん」 「えー!」 「では、始めましょうか」  リサが騒いでる横でクロはチェスの用意を終えていた。 「・・・」 「・・・」  お互い無言で考え、打つ。そのペースは普段より遅い。  暇つぶしなのだから時間はいくらでもあるので良いのだが・・・ 「良い勝負になりそうだな」 「えぇ」  クロは常にほほえみを浮かべながら勝負している。  その表情を見ると、俺は遊ばれてるのではないのかと思ってしまう。 「それで、どうなってるんだ?」 「良い勝負」 「・・・ジーク、帰ってたのか」 「おっとすまない、カイムの邪魔をする気はないから続けてくれ」 「いや、いい。ジークに頼まれた仕事の報告をしなくちゃいけないからな」 「かまわないさ、この勝負の後でいいから続けてくれ」  ジークの顔を見ればわかる、明らかにこの状況を楽しんでいる。 「・・・というか、なんでこんなに人が集まってるんだ」  気がつけば俺の周りに娼婦達が集まっていた。 「みんなこの雨のせいで客がとれない」  俺の考えを読んだように、アイリスが答える。 「そうだな、今日は開店休業だな・・・よし」  ジークがにやりと笑う、この笑いは嫌な予感しかしない。 「よし、カイムとクローディア、どっちが勝か賭をしようじゃないか。  賭けに勝った者は俺からボーナスをやろう」  その言葉に娼婦達からの歓声が上がる。 「ボス、負けた場合は?」 「そうだな、ノルマを一人増やそう」 「なら何も問題ありませんわ、ジーク様」 「どうしてだ、クロ」 「負けた娼婦のノルマは、カイム様にお相手していただければ良いのですから」 「お、名案だな」 「勝手に決めるな」  だが、クロの名案に娼婦達は考え始めた。 「私、クローディア姉様に賭けてボーナス欲しい」 「カイム様に賭けて、負けて欲しいかも。そうすればカイム様が・・・」 「おい、ジーク。これじゃ俺が勝っても負けても損するんじゃないか?」 「そうでもないさ、カイムが勝てば賭けに負けた娼婦達はノルマが増えて儲かる。  カイムが負ければクロの客になるから儲かる。一石二鳥じゃないか」 「だから、俺はどうなる!」 「そうだ、カイム、今日の仕事の依頼料だ。少し色をつけておいた」  渡してきた袋の重さは、思った以上だった。 「・・・そう言うことか」 「さて、どういうことなんだろうな」  色が付いた分はここで落としていけってことか・・・ 「カイム様の番ですわよ」 「あ、あぁ・・・」  均衡してた勝負はまだ中盤にさしかかったばかり。  せめて、この勝負には勝たないと・・・ 「クローディア姉様、勝ってボーナスを!」 「クローディアさん、負けてカイム様を!」 「俺に賭けてるやつは居ないのか・・・」 「それじゃぁ私がカイムに賭けてあげるね」  リサだけが俺に賭けてくれたようだ。 「・・・俺に勝利の女神は居ないんだろうな」 「ねぇねぇ、だから、私」 「・・・はぁ」 「酷っ!」 「カイム、私がついてあげる」 「アイリスか・・・」  アイリスが俺の側につくなんて珍しい。 「カイムが勝てばボーナス、負ければカイムが買ってくれる。客引きしないで  儲かるから」 「・・・」  アイリスの語った現実に俺は打ちのめされながら、クロとのチェスの勝負を  続けるしかなかった。  せめて、クロにだけは勝とう、そう思いながら、リリウムでの雨の夜は更けていった。
8月24日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「解放日」 「ごめんね、孝平くん。手伝ってもらっちゃって」 「良いんだって、これだって生徒会の仕事でもあるし、それに・・・」   「それに?」 「・・・なんでもない」  陽菜の視線に思わず俺は目をそらす。 「孝平くん?」 「それよりも、陽菜も遊んできて良いんだぞ?」 「ありがとう、でも私は寮長だし、孝平くんだけに仕事をさせるわけにはいかないよ」  そう、俺と陽菜は学園内にあるプールの監視の仕事をしていた。 「ねぇ、孝平くん。プールって使えないかな?」  ある日の夜、陽菜に訪ねられたのはプールを解放できないかという事だった。 「確かに寮に居ればクーラー効いてるけど、それじゃぁ身体に良くないと思うの」 「それでプールで運動か」 「うん、運動も出来て涼めていいかなって思ったの」 「よし、掛け合ってみるよ」 「ありがとう、孝平くん」  話は思ったより早くまとまり、こうしてプールを開放する事が出来た。  だが、監視員に先生方を使うわけには行かないので、生徒会として俺が  こうして監視員の役割をこなしていた。 「監視の仕事は俺だけでも出来るから」 「孝平くん、それさっきも言ったよ?」 「あ、そうだっけ?」 「もぅ・・・そんなに私がここに一緒にいるのいやなの?」 「そんな訳無い」 「あ、ありがとう・・・」  俺の即答に陽菜は面食らったようだ。  顔を真っ赤にしてうつむいてる、周りの目が無ければ抱きしめたくなる可愛さだった。  プールは中央にブイをおき、半分はコース、半分はフリーにわけている。  男子生徒がコースを泳いだり、女子生徒が水を掛け合って遊んでいる。 「しかし、結構寮に生徒残ってたんだな」  一クラス以上の人数がこのプール解放日に集まっていた。 「男子生徒が多いような気がする・・・それだけ暇だったのか。  それとも陽菜目当てか・・・」 「え?」   「・・・あ」  しまった、独り言が言葉になってたようだ。 「孝平くん、そんなことあるわけないよ」 「そ、そうか?」 「それこそ、女の子が多いのがわたしは気になるかな」  ざっとプールを見回す。そのとき下級生と思われる女子生徒と目があった。 「きゃ♪」  その生徒は可愛い悲鳴を上げると水に潜ってしまった。 「やっぱり・・・孝平くんが目当てで来てる女の子だね」 「そうか? それこそありえないんじゃないのか?」 「もぅ、孝平くんってもてるんだよ?」 「そうなのか?」 「そうなの!」  陽菜が不機嫌そうな顔になっていた。 「俺は陽菜にだけもてればそれでいいんだけどな」 「・・・ごめんなさい、孝平くん」  陽菜は突然謝りだした。 「いきなり謝ってどうしたの?」 「私・・・嫉妬してたの。そんなのっていやだよね」 「そんなこと無いよ、それだけ俺のこと思っててくれてるんだろう? うれしいよ」 「ありがとう、孝平くん」    そう言って見せてくれた陽菜の笑顔はまぶしかった。 「そろそろ終わりにしないとな」 「うん、そうだね」  陽菜は座ってた椅子から立ち上がった。  そして水着のずれを直す、その仕草から俺は慌てて目をそらす。   「みんな、そろそろ終わりの時間だよー!」  陽菜の言葉に不満の声を言う生徒も居るが、陽菜の人徳故かすぐに収まった。  こうしてプール解放日は終わった。  その日の夜、俺は陽菜にメールで呼び出された。 「えっと・・・鍵、開いてるな」  呼ばれた場所はプール、男子更衣室を通ってプールサイドに出る。 「陽菜?」 「孝平くん、来てくれたんだね」  プールサイドに座っている陽菜は、水着姿だった。 「そりゃ、陽菜に呼ばれて断るなんて選択肢は無いさ」 「ありがとう、孝平くん」   「昼間は一緒にプール入れなかったから・・・少しでいいから一緒に泳がない?」  そう言うことだったか・・・ 「ごめん、陽菜。俺水着持ってきてない」  昼間使った水着は今は洗って干してあるので、持ってきていなかった。 「・・・」  陽菜はプールサイドに立ち、俺に背中を向けた。 「陽菜?」 「・・・えいっ!」   「は、陽菜?」  陽菜は勢いよく水着を脱いだ。  長い髪に隠された背中、そして何も身につけていない可愛いお尻が丸見えだ。 「っ!」  陽菜はそのままプールに飛び込んだ。  そして顔だけを水面に出した。灯りの少ない夜のせいで水面の下は見えない。 「これなら孝平くんも水着、いらないよね?」 「・・・そうだな、俺も陽菜と遊びたかったから、つきあうよ」  そう言いながら来ていた上着を脱ぎ捨てる。 「くすっ」  陽菜は水の中を泳いで俺から距離をあける。 「孝平くん、こっちだよ」 「鬼ごっこか? 捕まったら大変だぞ?」 「いいよ、捕まえられるのならね」
8月20日 ・夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle sideshortstory「流す汗」  バタン、と玄関が開く音が聞こえた。 「ん?」  姉さんも麻衣も夜まで帰ってこないはず。それとも何かあったんだろうか?  俺はリビングから玄関へと様子を見に行く。 「ただいま、達哉」 「おかえり、フィーナ・・・え?」  思わず普通に出迎えてから、フィーナが居ることに驚いた。 「ふふっ、達哉ったらおもしろい顔をしてるわよ」  フィーナは靴を脱いで驚いてる俺の横を通り抜ける。 「達哉、いつまでそこにいるつもりなの?」 「あ、あぁ・・・」 「お忍び?」 「えぇ、だから私は今大使館に居ることになってるの」  地球側の急なスケジュールのキャンセルであいた時間に来てくれたという事だ。 「キャンセルってよくあるのか?」 「えぇ、よくあるわ」  そんなにあって良いのか? 「本来の予定をキャンセルさせて、他の高官がそのスケジュールに  ねじ込ませる、そう言う事らしいのよ」 「・・・それっていいのか?」 「地球側の問題だから、私が文句を言うわけにもいかないし、先方もちゃんと  謝罪してるから」 「でもさ、スケジュールを勝手に変えられたらフィーナも困るだろう?」 「えぇ、でも私もそれを利用させてもらうことにしたの」 「利用?」 「そう、キャンセルしたのは先方の事情、ならその時間は月側のスケジュールを優先  させてもらっても、先方は文句を言えない訳」 「それで、お忍びか」 「迷惑だったかしら?」 「フィーナ、わざとそう聞いてるだろう?」 「わかっちゃったかしら?」 「あぁ、何年俺はフィーナの婚約者をしてると思ってるんだ?」 「ふふっ、そうだったわね」 「おかえり、フィーナ」 「ただいま、達哉」  どちらともなくよりそい、そっと唇を重ねた。 「いつまで居られるんだ?」 「一応夕方までスケジュールは空けてるんだけど、突発的なことがあるかもしれないの」 「そっか、それじゃぁデートには行けないな」 「えぇ、ごめんなさい」 「フィーナが謝ることは無いさ、俺はフィーナと一緒に過ごせるだけでも幸せだからな」 「達哉、私もよ」  二人寄り添ってソファに座る。  たったそれだけだけど、幸せな時間はゆったりと流れていった。 「・・・あ」  気がつくと、かなりの時間が過ぎていた。 「俺も眠ってたか」  フィーナは俺に寄り添ったまま、静かな寝息を立てている。  二人でおしゃべりをしている内に、普段の疲れがでたのか、フィーナは眠そうだった。 「少し休んだ方がいいんじゃないか?」 「大丈夫よ、これくらい何でもないわ。それよりも達哉とお話をしている方がいいわ」  そう言うフィーナの頭を俺は抱き寄せた。 「きゃっ」 「俺の前で無理しなくて良いから、少しだけ休もうか」 「もぅ、強引なんだから・・・」  それからすぐにフィーナは可愛い寝息を立て始めた。  俺は髪を撫でながらフィーナの寝顔を見ていたのだが、一緒に眠ってしまったようだ。 「時間は大丈夫かな?」  俺は時計を見ようと顔を動かした。 「ん・・・達哉?」 「あ、ごめん。起こしちゃったか?」 「・・・」 「フィーナ?」  なんだかフィーナの顔が真っ赤になってる。 「・・・達哉、私の寝顔を見てた?」 「あぁ、可愛かった」  俺の言葉にフィーナは顔中真っ赤にした。 「あれほど寝顔は見ちゃ駄目って言ってるのに」 「それは無理だって言ってるだろ? こんなに可愛いのに」 「私は恥ずかしいの」 「可愛いから」 「恥ずかしいの!」 「可愛い!!」 「・・・」 「・・・」 「ぷっ」 「ふふっ」  いつものように言い合って、いつものように笑った。 「フィーナ、時間はまだあるのか?」 「えっと・・・」  フィーナは携帯電話を確認した。 「何もなければあと1時間くらいは大丈夫ね」 「そっか、あと1時間か・・・何しよう?」  1時間じゃ何をするにも中途半端だな。でも・・・ 「・・・達哉、えっちなこと考えてない?」 「そ、そんなことは・・・」 「そんなことは?」 「・・・考えてました」 「素直でよろしい、でも時間が無いから駄目よ」 「わかってる」 「・・・でも、私は汗をかいてしまったわ」 「?」 「昼寝したせいね、せっかくだから汗を流したいの、達哉」 「・・・そうだな、せっかくだからな」 「そう、せっかくだからよ」 「それじゃぁ俺は風呂の準備してくる」 「私もしてくるわ」  そう言ってフィーナは自室に、俺は風呂場へと別れた。 「フィーナ、すぐに入れるぞ」  普段から掃除してある風呂はお湯を張るだけですぐに入れる。 「達哉、お待たせ」 「フィーナ?」  部屋から現れたフィーナは、なぜかカテリナ学院指定の水着姿だった。   「似合うかしら?」 「あ、あぁ・・・でも、それどうしたの?」 「この前の留学の時のものよ、あのときは着ることは出来なかったけど」    そう言いながら、フィーナは水着の裾を直していた、俺は思わず視線を逸らす。 「でも、どうして水着を?」 「・・・何も着ないのは恥ずかしいわ。それに、二人とも裸になったら・・・」  きっと我慢できなくなる、俺もフィーナも。 「そうだな、時間もあまりないし、汗を流そうか」 「えぇ」   「そろそろ迎えが来る時間ね」 「・・・今度はいつ来れる?」 「わからないわ、先方の都合のキャンセル次第ね」 「それを望むわけには行かないな」 「そうね」  フィーナは玄関でハイヒールを履く。 「達哉、さっきはつきあってくれてありがとう。とても気持ちよかったわ」 「俺も気持ちよかったよ」 「でも、ちょっと強すぎたわ」 「ごめん、手加減出来なくて」 「今度はもっと・・・優しくしてね」 「あぁ」  そのとき外に車が止まる音がした。 「達哉、それでは」 「あぁ、フィーナ。行ってらっしゃい」  俺の言葉にフィーナは満面な笑みを浮かべて、挨拶をする。 「行って来ます、達哉」
8月3日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory 「責任問題」 「麻衣、今大丈夫か?」  日付が変わるのを待ってから麻衣の部屋のドアをノックして訪ねる。 「お兄ちゃん? ちょっと待ってね」  中で何かが動く音がする、しばらくしてドアが開かれた。 「どうぞ、お兄ちゃん」 「あぁ、夜遅くすまないな」  俺は後ろに手を回しながら部屋に入る。 「くすっ、お兄ちゃん見えちゃってるよ」  背中の後ろに隠したつもりだったけど、それは大きいから隠しきれず  簡単にばれてしまった。 「せっかく驚かそうと思ったのに」 「こんな時間に来てくれた事に驚いてるけどね」  麻衣が苦笑いを浮かべる。  まぁ、ばれてるなら今更取り繕ってもしょうがないな。 「麻衣、誕生日おめでとう」  隠そうとして隠しきれなかった花束を麻衣に手渡す。 「わぁ・・・お兄ちゃん、ありがとう」  麻衣が笑顔で花束を受け取ってくれる。 「ちゃんと花瓶にさしておかないとね、お兄ちゃんちょっと待っててもらっていい?」 「あぁ、俺も手伝うよ」 「ありがとう、お兄ちゃん」  リビングで花瓶に水を入れて、花束を移す。 「麻衣、今日はごめん」  始まったばかりの今日の事を謝る。 「ううん、いいの。お兄ちゃんにとっても大事な用事だもの」  今日は麻衣の誕生日、1日あけておいたはずだったのだが、大学の教授の手伝いを  どうしてもと言われて、断れなかった。 「だけど、やっぱりごめん」 「もぅ、私は平気だよ、それにこれくらいの事は乗り越えなくっちゃいけないもんね」  二人でつきあいだしたときに、二人で新しい約束事をした。  それは、二人だけの世界にしないこと。  義理とはいえ兄と妹、世間から受け入れられなければ・・・一歩間違えれば二人だけの  世界に没頭してしまうだろう。それでは駄目だ、ちゃんとみんなに認められたい。  だから、俺達の周りの関係も大事にしていく事、それが約束だった。 「なるべく早く終わらせて帰ってくるつもりだから、その後デートしような」 「うん、約束だよ」 「それとさ、麻衣。あのさ・・・一緒に居てもいいか?」 「お兄ちゃん?」 「せっかくの日だからさ、家に居るときくらいずっと一緒にいてもいいかなって思った。  いや、それがそうしたいと思ったんだけど・・・」 「いいの? ずっと一緒で?」 「あぁ、俺がそう望んでるからいいんだ。後は麻衣次第だけどな」 「私の答えは決まってるよ、お兄ちゃん。居られる間はずっと一緒に、居てほし・・・」  答えを聞き終える前に、俺は麻衣を抱きしめ、口づけをした。 「ん・・・お兄ちゃん、大好き」 「俺も大好きだよ、麻衣」 「ん・・・」 「お兄ちゃん、おはよう」 「あ、あぁ・・・おはよう、麻衣」  麻衣と同じベットの上で目を覚ました。  カーテンから漏れる朝日が、麻衣を照らしている。 「綺麗だな」 「お兄ちゃん、朝から恥ずかしいこと言わないでよ」 「ごめん、つい思ったことが口に出ちゃったよ」 「もぅ」  麻衣は顔を真っ赤にして照れていた、その仕草は綺麗だけではなく、  可愛くて愛おしかった。 「それよりもお兄ちゃん、急ぎじゃなくてもそろそろ起きないといけない時間だよ」 「そうか、それじゃぁ起きるか」  俺は上半身を起こした。 「きゃっ」  麻衣はシーツを身体に巻き付ける。 「お兄ちゃん、いきなり起きないでよ」  麻衣は何一つ身に纏ってない・・・そういえばそうだったっけ。 「ごめん、忘れてた」 「・・・」 「麻衣? ・・・あ」  麻衣が何も着ていないように、俺も何も着ていない、それはつまりそう言うわけで。  俺も慌ててシーツで隠そうと思ったが、そのシーツは麻衣が身体に巻いてしまってる。 「・・・ねぇ、お兄ちゃん。シャワー浴びよっか」 「そうだな、先に浴びてきていいよ」 「もぅ、今日は家に居る間はずっと一緒だって約束してくれたよね?」 「確かにそうだけど・・・」 「だから、一緒に浴びよ、お兄ちゃん。私がすっきりさせてあげるね」 「ふぅ、思ったより早く片づいたな」  朝食をとった後すぐに大学に向かって教授の手伝いを精力的にこなし、思ったより早い  時間に家へと帰ってこれた。 「達哉君、忙しいのはわかってるんだけど、ちょっといいかな?」 「仁さん?」  左門の前で仁さんに引き留められた。 「タツ、すまないが頼みがある」  おやっさんがすまなそうな顔で話しかけてきた、その段階で何を  頼まれるか想像がついた。 「良いですよ」 「頼んでおいてこういうのも何なのだが・・・良いのか?」 「はい、困ってるときはお互い様ですから」 「そうか、この埋め合わせはするから、今夜は頼んだぞ」 「はい」  こうして夕方からのスケジュールは埋まってしまった。 「そう言うわけで麻衣、本当にごめん」  家に帰ってから俺は麻衣に頭を下げた。デートに行くつもりだったが、おやっさんの  頼みを断ることは出来なかった。 「謝らなくていいよ、左門さんも仁さんも大変なんでしょ?」 「あぁ」 「そっか、それじゃぁ私も手伝おうかな」 「麻衣?」 「そうすればずっとお兄ちゃんと一緒だもん」 「麻衣」  感動のあまり麻衣を抱きしめる。そして唇をふさぐ。 「麻衣、ありがとう。今日はずっと一緒だ」 「うん」 「ありがとな、タツ、それに麻衣ちゃん。もう良いぞ」 「でも後かたづけが」 「それは仁に任せる、それとこれを持っていってくれ」  おやっさんが冷蔵庫から取り出したのは大きなケーキだった。 「おやっさん?」 「本当なら誕生会を開きたかったのだがな、予約が入って出来なかったお詫びだ」 「ありがとうございます」 「それと、今日のまかないだ、家に戻ってから食べてくれ」  おやっさんが用意したまかないは、まかないと言えないほど豪華だった。 「良いんですか?」 「俺にもこれくらいはさせてくれ、なぁ麻衣ちゃん」 「ありがとうございます! 左門さん」 「さ、あとの事は仁に任せるから、家でゆっくりと過ごしてくれ」 「はい!」 「それと、達哉君。麻衣ちゃんの誕生会はさやかちゃんが居るときに改めて  するからそのつもりでね」 「お願いします」 「今日はいろいろとあったな」 「そうだね、でもとても楽しかったよ」  あの後夕食をとり、まかないのお裾分けを姉さんがいる博物館に届けがてら  イタリアンズの散歩をしてきた。  今日はずっと一緒の約束通り、今は一緒にお風呂に入っている。 「まさかまた水着とは思ってもなかったけどな」 「いいの、恥ずかしいものは恥ずかしいの!」  そう言う麻衣も、今は水着を着ていない。  俺の足の間にちょこんと座って一緒に湯船で暖まっている。 「あ・・・お兄ちゃん、まだ元気だね」 「麻衣が可愛いからだよ」 「もぅ・・・お兄ちゃんのえっち」 「麻衣はえっちじゃないのかな?」 「・・・私をこんなにえっちにしたのお兄ちゃんだからね?」 「あぁ、知ってる。だから責任とるよ、一生ね」 「うん、私をえっちにした責任、一生かけてとってね、達哉」
7月16日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”夏の軽装” 「暑い?」 「うん、ちょっと夏は暑いかな」  陽菜の部屋に招かれてお茶を飲んでいた時、陽菜は悩みがあると相談してきた。 「言われてみれば確かに暑そうだよな」 「うん、でも委員会の制服だからね」  以前生徒会の会長の独断と偏見で導入された美化委員会の制服、プリム服。  その効果は絶大で、地味な美化委員への参加者が増え学園内の清掃活動は以前と比べて  活発になった。  しかし、今年の猛暑でプリム服を着ている委員の女子が熱中症を起こす直前まで  体調を悪化させてしまったそうだ。 「確かに問題だな」 「孝平くん、どうしたらいいと思う?」 「そうだな・・・」  陽菜が入れてくれたお茶を飲みながら考える。 「夏用のプリム服を新たに導入・・・は、予算的に難しいか」  当時と今の美化委員の女生徒の数は全然違う。委員の参加者が増えた際に  追加発注されたプリム服の予算は当時の生徒会で相当問題となった。 「こうなったら兄さんに予算だしてもらいましょう♪」  副会長の一言で満場一致し、このときの問題は解決はした。  その予算を出した・・・出させられた会長は卒業していないから同じ手は使えない。 「いっそのこと普段着で美化活動するのはどうかな?」  あのプリム服が採用されるまえの美化委員は制服で活動してたはず。  だから問題無いはずだが。 「でもこの制服を着るために美化委員に入ってきてくれた人には申し訳ないかも」 「でもそれで暑さで倒れてしまうと問題になっちゃうからさ」 「それに、制服で活動すると汚れがすごいから、制服が着れなくなっちゃうかも」  確かに清掃活動では服も汚れる、だから汚れても良いプリム服があるわけだ。 「なぁ、陽菜。以前は制服で活動してたんだろう?」 「うん」 「そのときの汚れはどうしたんだ?」 「別に制服のまま活動してたわけじゃないよ、孝平くん。ちゃんとエプロンしてたもの」  エプロンか・・・そうだ! 「なら、制服の上にプリム服のエプロンだけしてみるのはどうかな?  これならプリム服より暑くはないとおもうし、汚れは防げるし、一応制服を  着てることになる」 「他の子が納得してくれるかな?」 「それはわからないけど、陽菜はどう思う?」 「どうなんだろうね、着てみないとわからないかな」 「それじゃぁ着てみてよ」 「え? あ、うん、そうだね。ちょっと試してみようかな」    そう言うと陽菜はバスルームへと消えていった。 「どう・・・かな?」    バスルームから出てきた陽菜は、制服の上からエプロンをしていた。  思ったより違和感ないな。 「孝平くん?」 「あ、ごめん。悪くは無いと思うよ。陽菜はどう思う?」 「普通のエプロンより面積広いから制服は汚れないと思う」    陽菜は頭の上にあるカチューシャを直しながらそう答えた。  大きいエプロンは制服のほとんどを覆い隠している、袖が出てしまうのは  プリム服の時もそうだし、そのシャツが汚れても洗濯は制服より簡単だ。 「暑さはどう?」 「大丈夫そう、かな」 「ならこれで委員会の方で話をしてみようか」 「うん、ありがとう孝平くん」  後日、委員会で提案された際、対抗意見として体操服の上にエプロンという  案もでたそうだが、結果、美化委員の夏の軽装ということでの制服の上に  プリム服のエプロンという服装が採用されることとなった。
7月12日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”水浴び”  ポケットに入ってる携帯がなる、それをどうにかして取り出す。  電話をかけてきてる相手は予想するまでもない、待ち合わせの約束を  している瑛里華だ。 「もぅ、孝平! どこにいるのよ!」 「どこって・・・たぶん山の中?」 「山の中って、なんでそんなところにいるのよ!」 「なんでって、紅瀬さんにさらわれたからだと思う」  そう、俺は紅瀬さんにさらわれていた。 「たぶん向かう先は伽耶さんのところだと思うから先行ってる。後は頼んだ」 「え、ちょっと孝平!?」  俺は電話を切る。 「いいのかしら?」 「いいも何も、俺にはどうしようもないだろう」 「そうね、観念してくれると私も助かるわ」  何に観念、とは聞かないでおいた方がいいんだろうな・・・  それから数十分後。 「んー、気持ちいいな。暑い日は水浴びに限る!」 「そうね」 「確かに気持ちいいわね〜」  千堂邸の裏庭に特設された特大ビニールプール、その中で伽耶さんと紅瀬さんと  瑛里華がなぜか学院指定の水着で涼んでいた。 「ん? なんだ支倉、その程度でばてるとはなっとらんぞ?」 「はぁ・・・」  俺は未だに整ってない呼吸のまま、返事する。  今展開されてるこの特大ビニールプール、子供が自宅の庭などで遊ぶあのプールを  大きくしたものだ。  ただ、そのサイズが大きすぎる。  子供数人で一杯になる子供用と比べて、いや、比べるまでもない。  伽耶さんや紅瀬さん、瑛里華が入ってもまだ余裕があるのだ。  寮の部屋より大きいんじゃないか?  それを膨らませるためだけに、俺は紅瀬さんにさらわれたのだった。 「というか、なんで瑛里華まで水着なんだよ」 「私は母様から連絡あったから、用意したのよ」 「・・・」  俺は水着なんてあるわけないのでプールに入ることはできない。  なぜかプールの中に浮かんでいる西瓜をつついて遊ぶくらいしかできなかった。 「気持ちいいのだが、どうもこの水着がなぁ・・・」  そういって自分の胸の裾のところをつまむ伽耶さん。  伽耶さんだけじゃなく紅瀬さんも瑛里華も学院指定の水着を着ている。 「これならすぐに用意できるから、それに千堂さんとお揃いで良かったじゃない」 「お揃い・・・」  伽耶さんは瑛里華の方をみる、母と娘、同じ服装をしているのは確かにお揃いだ。  学院指定水着という所に少し問題があるような気がしないでもない。 「確かに瑛里華とお揃いの水着だ」  そういうとうれしそうな顔をする伽耶さん、それはまさに母と娘の関係だった。  ・・・どっちが母でどっちが娘かは考えないでおこう。 「私も母様とお揃いでうれしいわ、紅瀬さんとお揃いといのはちょっと、だけどね」 「あら、あなたの娘はずいぶんひねくれてるわね」 「仕方がなかろう。あたしがこうなのだし、クラスメイトも桐葉なのだからな」 「ぷっ、紅瀬さん。あなたの負けよ」 「そうね、今日の所は伽耶に譲ってあげるわ」 「あたしだってそうそうやられっぱなしではないぞ?」  そういってえへんと胸を反らす伽耶さんだった。 「まったく、伽耶ったら可愛いんだから」 「そうですね」  俺はプールに腕を入れながら、紅瀬さんの相づちを打つ。 「な、支倉!?」 「なんですか?」 「今、なんて言った?」  伽耶さんはなんだか顔を真っ赤にしてあわてふためいてる。  俺、何か困らせるようなこといったっけ? 「伽耶の可愛さはここにいる皆が、理解してるってことよ」 「き、桐葉っ!?」  あー、そういうことか。 「そうですね、そうしてる伽耶さんは可愛いですよ」 「なっ!」  俺の言葉に顔をさらに真っ赤にする、確かに可愛いと思う。 「そうそう、母様は可愛いんだから・・・でも、孝平がそう言うのは私としては」 「嫉妬する瑛里華も可愛いよ」 「えっ!?」  親子そろって顔を真っ赤にして照れてるのがなんだかおもしろい。 「まったく、貴方達っておもしろいわね」 「だいじょうぶですよ、紅瀬さんも可愛いです」 「っ!」  予想通り、紅瀬さんも顔を真っ赤にした。  俺はプールに入れないささやかな仕返しに成功したのだ。 「なぁ、桐葉。今あたしは悟ったのだがな・・・誰が一番悪いと思う?」 「そうね、私は伽耶と同じ意見よ。千堂さんは?」 「答えを言うまでもないわね」  さっきまで真っ赤になって照れていた3人が、なぜか笑っている。  そのほほえみに俺はなぜか生命の危機を感じた。 「支倉、覚悟するがよい」 「私をからかおうなんて百年以上早いわよ」 「孝平・・・言い残すことはあるかしら?」 「ちょ、ちょっと待て! 何をする気だ?」 「何、支倉も暑くて参っているのだろう?」 「なら、すべきことは簡単よ」 「孝平も、プールに入りなさいっ!」  3人に腕を引っ張られた俺は、制服のままプールに引き込まれた。 「ぷっ、おまえおもしろい顔だな」  プールに座り込んでびしょぬれになった俺の目の前で腹を抱えて伽耶さんが  笑っている。 「頭は冷えたかしら?」  紅瀬さんは微笑んでいる。 「さぁ、孝平。ここからはあなたも一緒よ!」  瑛里華の顔は輝いている。 「・・・3人とも覚悟しろよ!」  こうなったらとことん遊ぶしかないな。俺はまず目の前で笑ってる伽耶さんに  水をかける。 「な、何?」 「油断大敵ですよ、伽耶さん」 「支倉のくせに生意気だぞひゃわっ!」 「伽耶、背中ががら空きよ」 「き、桐葉っ!」 「なら、私は母様の味方よ、孝平、紅瀬さん、覚悟なさいっ!」
7月9日 ・ましろ色シンフォニーSSS”シトラス系?” 「お兄ちゃん、入ってもいい?」 「あぁ、いいけどっ!?」  俺の言葉は途中で驚きの声になる。   「さ、桜乃! なんて格好してるんだ!」 「お風呂上がりだから」 「いや、だからってね、その格好はまずいでしょう?」  あわてる俺と 「だいじょうぶ、ぱんつは穿いてるから・・・確認する?」 「いやいやいや」  マイペースな桜乃だった。 「それで、そんな格好で何の用事なんだ?」 「・・・あ、そうだった」  桜乃は俺の部屋にきた理由を忘れてたらしい。 「お風呂上がりの一杯を飲もうとしたら、冷蔵庫に見慣れないものが」  そういって取り出すのは俺が昼間に隼太からもらったジュースだった。   「これ」 「あぁ、昼間にもらったんだ。冷やして飲もうかと思って忘れてた」  一昔流行ったジュースだそうで、復刻されたジュースだそうだ。 「・・・どんな味?」 「さぁ、俺も飲んでないからな。なんでもシトラス系炭酸飲料だそうだ。」 「飲んでみてもいい?」 「いいよ」  桜乃のことだから1本すべてを飲める訳じゃないだろうし、俺は少し飲んでおけば  いいだろう、そう思って安易に返事をした。 「ん・・・」  桜乃はキャップをはずし、そのまま口につけて飲んだ。   「・・・シトラス系の味がする」 「桜乃、わかってて言ってる?」 「ごめん、よくわからないからお兄ちゃんも飲んでみて」  そういってペットボトルを手渡された。 「・・・」  このペットボトルは桜乃が先ほど直接口にして飲んだものだ。 「お兄ちゃん、さ、ぐっと・・・」  ま、まぁ・・・俺達は恋人同士だし、これくらいはいい・・・よな?  俺はジュースを飲むことにした。 「お兄ちゃん」  一口飲んだところで桜乃が話しかけてくる。 「間接キス・・・」 「ぶっ!」  その言葉に吹き出しそうになった。 「さ、桜乃!?」 「ん?」  桜乃は不思議そうな顔で俺を見る。 「そっか、わかった」  俺の言いたいことにやっと気づいたようだった。 「からかうのもいい加減に・・・」 「お兄ちゃんは間接キスより口移しの方がいい」 「・・・」  たまに桜乃の思考が俺の予想の斜め上をいくことがある。まさに今がそうだった。 「私は大丈夫、だからどんとこい」    そういって口元に手を当てる仕草が妙に色っぽい。  風呂上がりということもあって肌が上気してるし、髪をおろしてるのでいつもとは  また違う雰囲気を醸し出している。 「お兄ちゃん?」  首を傾げる桜乃、その仕草に俺の理性は無くなった・・・ 「桜乃、誘ったのは桜乃の方だからな。覚悟しろよ?」 「うん、お兄ちゃんを誘惑した悪い妹だから」  そういって微笑む桜乃は悪い妹という顔ではなく。 「ったく、桜乃にはかなわないな」 「?」  世界で一番愛おしい笑顔だった。
7月5日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”第二次早朝決戦”  微かな携帯のアラームの音に目が覚める。  空調が効いていて快適な寮の自室での目覚め・・・ 「・・・そうだったっけ」  俺が眠っていたのは自室のベットではなく。  そのベットの中で、静かに寝息を立てているのは瑛里華だった。  寄り添うように眠る瑛里華は綺麗だ。 「・・・」  静かに呼吸するたびに動く大きな胸に意識を奪われそうになるが、それを  なんとかとどめる。  俺はそっとベットからでる。 「ん・・・孝平」 「悪い、起こしちゃったか?」 「ううん、いいの」  ベットのシーツを纏った瑛里華が眠そうな顔をしながらそう答える。 「瑛里華、動けるか?」 「・・・ん、ちょっとだけ待って」  もそもそとベットから這い出てきた瑛里華は裸のままバスルームへと消えていく。  それをできるだけ見ないようにしつつ、おれは散らばってる私服に着替えた。 「・・・どうだ?」 「まだ早い時間だから誰もいないわ」  瑛里華が部屋の外の様子を見てくれる、  ここは女子フロアの4階、俺がこの時間にここにいることは非常に問題がある。  どうにかして瑛里華の部屋から脱出し、自分の部屋へと戻らないといけない。 「孝平、鍵は・・・無いのよね」 「あぁ、まだ準備できていない」  俺の部屋は2階の一番奥、非常口が目の前にあるのだが、ここは普段施錠されて  いて使えない。  瑛里華は4階の非常口の合い鍵を用意してあるが、2階の合い鍵はまだない。  だから、非常口から自室に戻るのはできなかった。 「かといって表から堂々と、は難しいわよね」  瑛里華の部屋は一番手前にあり、白鳳寮の各棟への通路が近い。  それ故に、ほかの棟から女子が出てきてしまうとごまかしようにない。  それに、男子フロアへ出たその目の前に談話室がある。  その談話室に誰もいない保証も無いが・・・ 「瑛里華、すまないけど談話室までのルート確保を頼む」 「えぇ、ちょっと見てくるわ」  瑛里華は音を立てないよう、部屋から出ていき、すぐに戻ってくる。 「今のところ大丈夫よ、行く?」 「あぁ、それじゃぁ瑛里華、頼む」 「・・・行きましょう」  瑛里華に先導されるように部屋を出て、すぐに階段にさしかかる。  周りに誰もいないことを確認しつつ、女子フロアとの境界でもあるオートロックの  扉を無事抜けた。 「孝平、また後でね」 「あぁ、瑛里華」  戻ろうとする瑛里華を抱き寄せる、そして触れるだけのキス。 「おはようのキス、してなかった」 「ん・・・状況を考えてよね?」 「いやだったか?」 「もぅ、いやなわけ無いじゃない」  そういうと瑛里華は階段を上っていった。 「さて」  俺は無人の談話室へと入る、そして珈琲を買って一息入れる。  ・・・これでアリバイはできたな。  飲み終えた缶を捨ててから、俺は自室へと戻った。 「ふぅ・・・いつでも一緒にいられるからこそ、考えないとな」  朝、瑛里華の部屋から安全に帰れる方法を考えなくてはいけないな。  その考えの中、瑛里華の部屋に泊まっていかなければいいという一番確実に安全な  答え、それはすぐに除外した・・・
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