思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2010年第2期 6月29日 FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜 6月27日 FORTUNE ARTERIAL SSS”プロジェクトB” 6月24日 あまつみそらに! SSS”外? 中?” 6月12日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle             sincerely yours After Short Story「いつか、きっと」 6月8日 FORTUNE ARTERIAL SSS”赤いウサギさん” 6月7日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「暖かい居場所」 6月1日 FORTUNE ARTERIAL SSS”ストライプ” 5月30日 穢翼のユースティアSSS”beginning -Irene-” 5月27日 FORTUNE ARTERIAL SSS”赤いリボン” 5月25日 FORTUNE ARTERIAL SSS”桃” 5月23日 夜明け前より瑠璃色な Moonlight Cradle SSS”最高のプレゼント” 5月23日 FORTUNE ARTERIAL SSS”紫” 5月21日 FORTUNE ARTERIAL SSS”純白” 5月19日 FORTUNE ARTERIAL SSS”白” 5月17日 FORTUNE ARTERIAL ASS-Re,-「禁句」 5月16日 月は東に日は西に SSS”青い薔薇” 5月12日 FORTUNE ARTERIAL SSS”春のうららの” 5月9日 FORTUNE ARTERIAL SSS”あなたに愛される幸せ” 4月30日 FORTUNE ARTERIAL SSS”マッサージ” 4月28日 穢翼のユースティア SSS”beginning -Yurii-” 4月23日 穢翼のユースティア SSS”beginning -Mireille-” 4月19日 夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory「同じ気持ち」 4月15日 天神乱漫 SSS”えすでーえむ” 4月12日 FORTUNE ARTERIAL SSS”手当て” 4月6日 eden* SSS”再び悩んで遊んで” 4月4日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「楽屋裏狂想曲〜速報!〜」 4月3日 穢翼のユースティア SSS”beginning -Vinoreta- 4月2日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「楽屋裏狂想曲〜みんなの思い〜」
6月29日 ・FORTUNE ARTERIAL 楽屋裏小劇場〜プール掃除編〜 「あ、支倉君。ちょっと良いかしら?」  土曜、授業が終わった後に俺はシスターに呼ばれた。 「はい、なんでしょう」 「申し訳ないのですけど、プールの掃除をお願いできるかしら?」 「はい?」  いきなりプール掃除? 「実は・・・」  シスターの説明では、なんでも急に明日の朝から設備点検が入ることに  なったそうだ。  その為一度水を抜くのだが、その後水を入れる前に掃除をしておきたいとの事。  点検時間は短いので、今日中に掃除をして欲しいという話だった。 「でも、なんで急に明日なんですか?」 「私もわからないのです、急に決まったことらしいので」 「・・・」  なんだかどこかで糸を引いてる人がいる気がする。  脳裏に浮かんだのは金髪のいやにさわやかに笑う先輩の顔。  ・・・まさかな。  会長なら直接俺に頼んでくるだろう。 「急で悪いんですけど、お願いしますね」 「はぁ・・・とりあえず生徒会に戻ってから検討・・・といっても時間は無いか」  どうするか・・・といっても掃除するしかないんだろうな。  まずは監督生室に行くか。 「・・・なんで誰もいないんだよ」  監督生室に着いたとき扉に鍵がかかっていた。  その段階で誰もいないことはわかってはいたが・・・  生徒会のスケジュールを見てみる。  伊織会長と東儀先輩は町会長との会合らしい。  実際何をしてるかはわからないが、瑛里華曰く年上に受けが良いらしい。  白ちゃんはローレルリングの活動。  瑛里華は・・・ 「手伝える人は誰もいないのか・・・」  どうしたものか、とはいってもプールの水はもう抜かれてるはずだ。 「俺一人でするしかないか」  思わずため息をつく。 「仕方がないか、学院生の為だもんな」  俺は一度涼に戻って体操服に着替え、それからプールに向かうことにした。
6月27日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”プロジェクトB” 「ふぅ、どう?」 「相変わらず何をさせても上手いよな、瑛里華って」 「ふふっ、ありがとう」  休日の午後のカラオケボックス、俺は瑛里華に誘われて来ることになった。 「ねぇ、孝平は何を歌うの?」 「俺か・・・うーん」  電話帳みたいに厚いカラオケの番号表を開けてみる。  最近は珠津島に着て落ち着いたとはいえ、ずっと転校続きの俺はあまりこういう  ジャンルに興味を持つ事は無かった。  落ち着いたと思ったら生徒会が忙しく芸能には同世代の友人達より疎い。 「歌える曲が無いな」 「ちゃんと探した?」 「あぁ、探す以前に俺に持ち歌は無いからな」 「・・・」  しまった、瑛里華の気にしてることを言ってしまったか。 「・・・瑛里華が気にする事じゃないんだぞ?」 「だけど・・・私は孝平と歌いたかったの」  事の始まりは、去年会長が企画したCD。それがあまりに好評でプロデューサーが  第2弾を提示してきたのだ。  ただ、今回は完全に女性が歌う事を前提に曲が上がってきていて俺はもちろん、  伊織先輩も東儀先輩も歌うことは無くなっていた。 「別に俺は何とも思ってないよ、何より人前で歌うのは苦手だし」 「でも、孝平は2回続けて」 「瑛里華」  俺は瑛里華の言葉を遮る。 「俺達生徒会って、裏方の主役だよな。でも、たまには学院生としての  主役になっても良いと思うんだ」 「なら孝平だって!」 「でも、裏方の主役も居ないと駄目だろ? だから、俺はそれを譲らない」 「・・・もぅ、そんな格好良い事言われたらこれ以上何も言えないじゃないの」 「そうか? なら瑛里華は全力で主役をやってこい!」 「えぇ、わかったわ。でも今度の機会は絶対に孝平にも主役になってもらうわよ」 「いや、それは遠慮したい」 「ちょっと、そこは気持ちよく返事する所よ」 「そうは言ってもなぁ」  人前で歌うのは苦手だし。 「俺は・・・そうだな、瑛里華の為にだけ歌えればいいさ」 「え!?」 「それでいいだろ、瑛里華」 「・・・本当に孝平はずるいわ」 「かもな」 「それじゃぁ、今私の為に歌ってくれる?」 「あぁ、俺が歌える歌ならな」 「ねぇ、孝平。私もっと練習したいからまたカラオケつきあってくれる?」 「・・・出来れば遠慮したい」 「なによ、私に主役になれっていったんだから、責任取りなさいよ」 「瑛里華の歌につきあうのだけならいつでもいいさ、だけどな・・・」  瑛里華が俺の歌をリクエストしたカラオケ、それは全て愛をささやく歌だった。 「あれはもう勘弁してくれ・・・」 「だーめ、私の為にもっともっと歌ってね、孝平」
6月24日 ・あまつみそらに! SSS”外? 中?” 「ん?」  昼休み、中庭で千紗と一緒にお弁当を食べてから教室に戻るとなんだか  俺の席のところが騒がしかった。 「神奈と満弘か?」  何かを熱く言い合ってるようだ。 「・・・なんだか関わりたくない雰囲気だよな」  とはいえ、そこに俺の席がある以上戻るしか無い。 「あ、タカ!」 「お、高久!」  二人が同時に俺に呼びかける。 「ねぇ、タカ! やっぱり外出しだよね? ってタカ、だいじょうぶ!」  神奈の言葉の衝撃で転びそうになった。  外出しって・・・ 「違うぞ、高久は中派に決まってる、そうだろ、高久?」 「・・・」  思わずあのことを思い出してしまう。 「ねぇ、タカはやっぱり外に出す方が可愛いと思うよね、ね!」 「一体何の話だよ」 「あれ、いってなかったか? ブルマの話だよ」  満弘の説明に思わず脱力する。 「・・・あまり大声でそう言うことを言うなよ」 「あれ、タカは何の話だと思ったのかな?」  しまった、墓穴を掘ったか・・・ 「ま、いっか。それよりもタカは中は駄目だと思うよね?」 「違うぞ、神奈。裾はブルマの中にいれるのが礼儀なのだよ!」 「礼儀?」 「あぁ、そうだ。せっかくすばらしい物を穿いているんだ、隠すなんて  勿体ないじゃないか!!」 「隠れてるから萌えるんだよ、わかってないな、満弘は」  ふふんと笑う神奈。 「外に出してると、ちょっとした運動でおへそがちらっと見えたりして  そこが良いんじゃない」 「確かにそれは萌える! だがそれでは動いてるときしかお尻から太股の  柔らかいラインが見えないじゃないか!」 「動いてないときだって、ちらっと見えるじゃない?」 「美しい物は常に見ていたいと思うじゃないか、そもそも外に出す風潮  自体が間違ってる!  中にいれておけば胸も強調されて良いことずくめ!」  熱くなっていく二人。  まわりの温度が下がってる事に気づいているだろうか?  特に満弘の方が・・・  もうすぐ昼休みも終わるし、そろそろ止めておくか。  そう思ったとき、神奈と満弘が同時に俺に向く。 「タカは中より外だしだよね?」 「高久、外より中だしだよな?」  なんかすでに論点が変わってるような気がするんだが・・・ 「なっ!」 「うぉっ!」  その時背後から感じた冷たいプレッシャーに神奈と満弘が悲鳴をあげる。  俺は怖くて振り向けない。 「神奈も根津も大声ではしたないわよ」 「・・・はい」 「でもよ、やっぱり中のぐぉっ」 「うるさい、黙れ」  俺の視界の端で、そっと沈んでいく満弘。 「・・・」  神奈みたいに素直に謝っておけばいいのに・・・ 「うぅ・・・神をも震えさせるプレッシャー・・・千紗たんただ者じゃないわ」  俺もそう思った。 「高久、部活行くわよ」 「おぅ」  放課後、いつものように弓道場へと向かう。 「ねぇ・・・高久はどっちが良い?」 「何の話だ?」 「・・・体操着の話」 「別に俺はどっちでも構わないと思うぞ。別に興味はないし」 「本当に?」 「あぁ」 「そう、残念ね。高久の好みの着方、してあげようと思ったのに」 「え?」 「ふふっ」  そう言って笑う千紗。からかわれたのか? 「ほら、部活に行くわよ!」  千紗は俺の手を引いて、というより手をつないで歩き出した。  
6月12日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle             sincerely yours After Short Story「いつか、きっと」 「お母さん、誕生日おめでとう!」 「シア、誕生日おめでとう」 「ありがとう、リリア、お姉ちゃん。ふーっ!」  机の上にあるバースデーケーキのろうそくを吹き消すお母さん。  ケーキの上にあるさん・・・ 「リア? そこは考えちゃ駄目な所よ」 「・・・お母さん、わたし何も言ってないよ?」 「リアの考えることはわかってるんだからね」 「良いじゃないか、シア。家族に歳を隠しても意味が無かろう?」 「それでも、だーめ」  そう言ってウインクをするお母さん。  娘のわたしが言うのも何だけど、本当にいくつなんだろう?  そりゃ、実年齢は知ってるし娘のわたしより若い訳はない、けど見た目や仕草を  見ていると本当にお母さんかどうか疑ってしまう。  今でも外を一緒に歩くと、姉妹と間違われるくらい。 「まぁ、いいか。シア、プレゼントだ」 「お姉ちゃん、ありがとう!」  フィアッカお姉ちゃんが持ってきたのはお母さんの大好物のドライフルーツ。  何処で買ったかわからないけど、相当な代物みたいでお母さんはいつも大事に  食べている。 「お母さん、わたしはこれ」 「あ・・・ありがとう、リリア」  わたしがプレゼントしたのは、山百合。  お母さんの花であり、わたしの名前の由来にもなった、我が家の花。 「ん・・・」  お母さんは山百合の花束をそっと抱きしめて、そっと目を閉じる。 「感じるよ、あの星空を・・・ありがとう、リリア」  そう言って微笑むお母さんの顔は、恋する乙女の顔だった。  わたしはこの表情を浮かべるお母さんが大好きで。  そして・・・悲しかった。 「フィアッカお姉ちゃん、帰っちゃうの?」 「あぁ、今日ははずせない仕事があるんだよ」  お母さんのお姉さん、フィアッカお姉ちゃん。  わたしにとってのもう一人の母のような存在である、姉でもある。  本当はお母さんの姉なので、叔母にあたるのだが、おばさんと呼ぶと  凄く悲しそうな顔をするので、お姉ちゃんと呼ぶことにしている。  実際、三人でいると見た目だけなら本当に姉に見えるからだ。  ・・・わたしの親族って一体何者なのかしらね。 「以前のシアならともかく、いまはリアも居てくれるのだ。  私が居なくても良かろう」 「・・・出来れば居て欲しいんですけど」 「事情はわかってる、だが親孝行する良い日だ。がんばるのだな」 「もしかしてフィアッカお姉ちゃん、それをわかってるからお仕事いれたんじゃ  ないんですか?」 「・・・お、もう時間だ。それじゃぁまたな、リア」 「・・・」  図星のようだった。 「それじゃぁフィアッカお姉ちゃん、お休みなさい。今日はありがとうございました」  わたしのお礼にふっと笑顔で返すフィアッカお姉ちゃんを見送った後、わたしは  部屋に戻る。 「ねぇ、リア。これ使ってもいいかしら?」 「え・・・あ゛」  お母さんが持ってるのは昔わたしが誕生日にプレゼントした  「何でも言うことを聞く券」だった。 「わたしの馬鹿、なんで有効期限をつけなかったのよ!」 「渡した事じゃなくてそこにツッコミをいれるのね・・・」  あきれ顔のお母さん。  渡したことは後悔なんてしてないもん。  ただ、お母さんが大事にとっておいて、大きくなった今になって使い始めたことに  わたしは後悔してるだけだもん。 「・・・はぁ、それで今回は何をすればいいの?」 「そうね・・・一緒にお風呂にはいりましょ」  先に浴室に入ってお母さんを待つ。  「何でも言うことを聞く券」  ここぞと言うときにお母さんは使ってくるけど、無茶なお願いをしたことは  一度もない。  それどころか、券を使わないでいいような事に使ってくる。 「まぁ、わたしは楽でいいんだけど・・・」  その時脱衣所の扉が開いた。 「お待たせ、リア」 「・・・」  お風呂場に入ってきたお母さんは当たり前だけど、何一つ身に纏ってなかった。  綺麗な顔、首筋から肩にかけての美しいライン。  大きな胸、そしてくびれた腰から、ふとももにかけてのなめらかなライン。  とても一児の母とは思えないプロポーションだった。 「んしょっと」  いつもは腰の辺りで一つに纏めてる髪を、タオルで頭の上に結わえてる。 「ん? そういえばリアはなんでタオルなんて捲いてるのかしら?」 「え・・・いいじゃない」 「だーめ、お風呂にはいるときはタオルなんて邪魔よ?」 「やん、恥ずかしいんだもん!」 「いいじゃない、女同士だし、親子なんだから・・・えいっ!」  わたしの抵抗はむなしく、タオルをとられてしまった。  自分の母親と見比べるのはどうかといつも思う、けどこんなに若々しい母を持つと  どうしても比べてしまう。  顔はお母さん譲りだから、それなりに可愛いと思う。髪だって手入れしてるんだから  問題無い。  だけど・・・胸のサイズだけは比べように無かった。  ここだけは遺伝して欲しかったのに、今のわたしはまだAカップだ。  腰のくびれは無いし、お尻だけは大きいと思う。 「・・・はぁ」 「何ため息ついてるのよ、ほら、身体洗いましょう」  そう言ってわたしの前に座るお母さんの背中は染み一つなく綺麗だった。 「暖かいわね」 「うん」  お母さんに背中から抱かれるようにお湯に浸かる。  回りの暖かいお湯と、背中に感じる大きなふくらみ・・・の事は忘れよう。  お母さんに包まれる暖かさに頭がぼーっとしてくる。 「・・・ねぇ、お母さん」 「なぁに?」 「お願い事の券、もっとちゃんとしたことに使っていいんだよ?」 「これだって立派なお願いよ、私はそれで良いと思ってるんだからいいじゃない」 「そうだけど」 「そんなこと言うと、もっとスゴイお願いしちゃうわよ?」 「えっと・・・お手柔らかにお願いします」 「そうね、考えておかなくっちゃね、ふふっ」 「良いの? リア」 「うん、お願い券のアフターサービス」 「ほんと、リアは良い子に育ってお母さん嬉しいわ」  そう言って泣き真似をするお母さん、それが妙に似合ってるのが娘として  怖いと思う、いろんな意味で・・・  アフターサービスと言うことで今日は一つのお布団で一緒に眠ることしました。  お母さんのベットの一緒に入る。  目の前にお母さんのおっきな胸が・・・これはいつ見ても衝撃が大きいと  思うけど、こうしていると懐かしい感じがする。 「リア、おっぱい飲みたいの?」 「わたしはそんな子供じゃないよ」 「そうね、リアは自慢の娘よ」 「・・・うん、ありがとう。お休みなさい、お母さん」 「お休み、リア」  ・  ・  ・  夜中にふと目が覚める。  お母さんは安らかな寝息を立てている。 「・・・お母さん、お父さんに会いたい?」  そっとつぶやく、眠っているお母さんには声は届かない。 「わたしは会ってみたい、お母さんが自慢するお父さんに」 「私はね、科学者の使命と恋と天秤にかけて、使命を選んだの、それは  正しい道だって今でも言えるわ。だけどね、後悔は悔やむほどしたわ」  いつか話してくれたお母さんのお話。 「でもね、タツヤ・・・お父さんは笑って見送ってくれたわ。  私の馬鹿な生き方を認めてくれたの。こんな馬鹿な女に惚れてくれたのよ。  私の自慢の夫よ」  お父さんの話をするときのお母さんはいつも幸せそうで、寂しそうだった。 「後悔はしたけど、やっぱり道は間違ってなかったわ、だってリア。貴方を  授かって、産むことが出来たんですもの」  使命を終えて生きる意味を無くしたお母さんが生き返った理由がわたし。 「だからね、リアとの楽しい生活をたくさんお土産話にするの、それが私の  生き甲斐よ」  そう言って話を締めくくったお母さん。 「・・・わたし、頑張ってみる。お母さんとお父さんが一緒に暮らせるように」  それがわたしができるお母さんへの最高のプレゼント。  実現できるかはわからないけど、やれるだけやってみようと思う。  でも、今はお母さんの暖かさの中でまどろんでいたい。 「お母さん・・・おやすみなさい」  いつか、きっと・・・
6月8日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”赤いウサギさん” 「・・・で、どうして私がこんな格好をしてるのかしら?」  瑛里華は不機嫌そうにそう言う。  その瑛里華はいわゆる、バニー姿になっていた。  赤い色のレオタードに黒いストッキング。  レオタードを同じ色のウサギの耳を模したカチューシャもちゃんとつけている。 「瑛里華が昨日のお礼をしたいからっていうから」 「確かにそうはいったけど、これは無いでしょう?」  先日瑛里華の誕生日で、俺は瑛里華のお願いを聞いてあげた。  ずっと一緒に居て欲しい、という瑛里華らしいお願いを叶えるために1日中ずっと  一緒に行動した。  そのお礼をしたいと言って来たのが今朝の話。  お礼なんて良いと思ったのだけど、狙ったかのように届けられてたこの衣装を  着てもらったわけだ。 「瑛里華、実はそれ、伊織先輩からのプレゼントなんだよ」 「え? 兄さんからの?」 「あぁ、今日俺の部屋に届いたんだ」  元会長こと伊織先輩は卒業後、旅に出るといって出かけたっきり  行方がわかっていない。  こうして荷物を送ってくるのだから、元気にやっているのだろう。 「そっかぁ、兄さんからの誕生日プレゼントなんだ」  ベットに座る瑛里華。  頭の上にあるウサギの耳が倒れてきている、それをそっと撫でている。 「兄さん、元気にしてるかしらね・・・」  空を見上げる仕草をする瑛里華、やっぱり瑛里華も伊織さんの事を心配し・・・ 「って言う展開になると思ってるの!!」 「瑛里華?」 「なんで妹の誕生日プレゼントにバニーなのよっ! それも私に送らず孝平に  送るなんてどういうことよっ!」 「・・・」  俺に宛てられた伊織先輩の手紙の内容は教えない方が良いだろうな・・・ 「でも」  そう言って瑛里華は片足を立てる。  赤いレオタードからすらりと延びる、黒いストッキングに包まれた太股が  強調される。 「孝平が嬉しそうだから」  たれてきた耳をそっと撫でる瑛里華。  さっきと違うのは何かを懐かしむような目ではなく、俺を見ている。 「ふふっ、孝平。どうしたのかしら?」  俺の変化に敏感に気づく瑛里華。 「・・・わかってて言ってるんだろう?」 「わからないわよ、ちゃんと言って、くれないと」 「昨日の仕返しか」 「何の事かしらね、ふふっ」  言わされることは確かに恥ずかしい。 「孝平、昨日のお礼、何をして欲しい?」 「俺は・・・」  そして、二日続けて瑛里華は朝帰りとなった。
6月7日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory「暖かい居場所」 「孝平、もうちょっとよってもらえる?」 「これ以上は無理だって」 「がんばって」 「何をがんばればいいんだよ・・・」  あきれ顔の孝平、だけどもっと端に寄ろうとしてくれる。  私は孝平に背中を向けてから、孝平の前に座るようにお湯に入る。 「やっぱり二人だと狭いな」 「もともと二人で入ることは想定されてないもの」  寮に備え付けのバスユニット、一人用なのは当たり前。  みんなで入るなら地下の大浴場を使えば良いだけの話。  でも、大浴場だと孝平と一緒に入ることは出来ないから、こうして狭いお風呂に  二人で入る事にした。 「でも、狭いから暖かいわ」 「・・・そうだな」  孝平がそっと手を回してくる、体育座りをしてる私の膝の上で両手を組む。  私も孝平の手の上に自分の手を重ねる。 「ん」  そして身体を孝平の胸に預ける。  背中に感じるのはたくましい孝平の胸板。 「・・・孝平」  お尻に感じる感触に私は形だけの非難の声をあげる。 「無茶言うな、好きな女の子がこうして居るんだぞ?」 「そ、それは嬉しいけど・・・雰囲気ってのもあるでしょう?」  そうなることは覚悟している。  いえ、覚悟なんかじゃない、待ちわびてるくらい。  でも、この暖かさに包まれた時間を簡単には終わらせたくない。 「あぁ、わかってる、だから我慢するさ。俺は瑛里華が嫌がる事はしたくないから」 「孝平・・・」  いつも私のことを考えてくれる孝平、でも今の状況はつらいと思う。  それに・・・私も感じてきちゃっている。 「ねぇ、孝平」 「なに?」  私は振り向きながら孝平に訪ねる。 「私の嫌がることはしないのよね?」 「あぁ」 「じゃぁ・・・私がして欲しいと思ってることは?」 「望みのままに」  孝平の顔が私に迫ってくる、それは今の私が望む行為だった。 「ん・・・」  ふと、目が覚める。  身体中が気怠い・・・当たり前よね。  お風呂の後のことを思い出す、孝平は今日は徹底的に「嫌」な事は  してくれなかった。  私を恥ずかしい格好にさせて、嫌というと止めてしまう。 「孝平?」 「嫌なんだろう?」 「・・・」 「・・・」 「・・・嫌じゃないの、お願い!」 「・・・」  思い出すだけで顔が真っ赤になる。  今日の孝平はとても意地悪で、とても激しくて、そしていつも以上に優しかった。  高みに昇った私を、ずっと抱きしめてくれたし、髪を撫でてくれた。  あれだけ一生懸命だった孝平は眠そうだったけど、それでもちゃんと私を気遣って  くれていた。  いつか聞いたことがある。  男の人は終わるとすぐに疲労感に襲われるという事を。  でも女は違う。高みに昇って、すぐにはおりては来ない。  その間もずっと愛して欲しいと思う。  男の人は与えるから疲れる、女は受け止めるからずっと続く。  くすっ」  私が高みにいる間、ずっと気遣ってくれる孝平。  今、私の隣で安らかに眠っている、世界で一番愛しい人。  その寝顔は。 「可愛い」  そっと指でほっぺを押す、弾力が思った以上にある。 「ちゅっ」  その頬にキスをする。 「今日のお礼よ。私のわがままを聞いてくれてありがとう、孝平」  誕生日にずっと一緒に過ごしてくれる、そう約束してくれた孝平。  もうすぐ日付が変わる、私の誕生日は終わってしまうけど・・・ 「朝まで一緒に居てもいいわよね?」  もちろん寝ている孝平は返事をしてはくれない。 「否定しないってことは良いって事よね? ふふっ」  私は孝平の腕に抱きついて横になる。 「お休みなさい、孝平」 「瑛里華起きろっ! 時間が無いぞ!」 「んー・・・もうちょっと・・・」 「やばいって、早くしないとみんな起き出すぞ」 「・・・」  上半身を起こす、まだ頭がぼーっとしている。 「え、瑛里華・・・」 「なぁに・・・あ、孝平おはよー」 「そーじゃなくって」  孝平は視線を逸らす。どうして逸らすんだろう?  それは、身体に当たる風ですぐにわかった。 「っ!」  強い精神力で悲鳴を飲み込む、今ここで騒ぎを起こしたら致命的になる。 「孝平、今何時?」  シーツを身体に巻きながら訪ねる。孝平は時間を確認する。 「まだ間に合うけど、もうみんな起き出してるわね・・・」  明日の用意をしていない私は一度部屋に戻る必要がある。  しかし、ここは孝平の部屋、男子フロア。  こんなに朝早くから、私が孝平の部屋から出るわけには行かない。 「と、とにかく着替えよう」 「そうね」  孝平が向こう側を向いてるのを確認してから私は立ち上がる。  昨日お風呂に入る前に用意しておいた着替えを手に取り、身に纏う。  孝平の部屋は寮の一番端、すぐ側に外に出る非常階段がある。  誰もいない時間を見計らって部屋から出て非常階段を下りる。  見つからないよう遠回りしてから寮の外から中に入り部屋へと戻る。 「ふぅ・・・今回もなんとかなったわね」  いつもこう上手くいくとは限らない、けど孝平の腕の中はとても気持ちが  良くてこうなっちゃう。 「対策、考えないといけないわね」  孝平の部屋に泊まらなければ良いという考えは全く思いつかなかった・・・
6月1日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”ストライプ” 「疲れた〜」  ベットに倒れ込む。  ここの所生徒会の業務は大量にあり、こなしてもこなしても  終わらないほど、毎日が激務だった。 「自由な学生生活をしている気がしないよな」  忙しくなるといつも思う、だけど別に後悔している訳じゃない。  俺達の働きが、学院生のすばらしい学院生活をおくるためになるのだ。 「でもちょっと疲れた・・・ん?」  ベランダの方から音がする。  またかなでさんが来るのだろう、でも今日は出迎える気力が無い。  鍵は開いてるから、勝手に入ってくるだろう。  その予想通り、かなでさんはベランダの窓を開けて部屋に入ってくる。  そして・・・ 「かなですぺしゃるっ!」 「っ!」  一瞬の攻防は、ベットから転げ落ちるように回避した俺の勝ちだ。  ベットの上には制服姿のかなでさん。 「避けられたっ!?」 「ってか、いきなり危ない真似はしないでください!」  疲れてはいるが、一瞬感じた予感の通りにベットから転げ落ちて正解だった。 「それで、今日は何の用事なんですか?」  いつものやりとりなので、ツッコミはしない。  したらしたで話が進まなくなるからだ。 「こーへーが帰ってくるのが遅いからいけないんだよ!」 「俺だって生徒会の仕事が忙しいんですよ」 「だからまた順番最後で伽耶にゃんにさえ抜かれちゃうんだよ!」 「・・・」  あ、なんだかこの展開、凄く久しぶりな気がする。懐かしいな・・・ 「懐かしい訳あるかっ!」 「こーへー? よくわからないけど落ち着いた方がいいよ?」 「さっきまで興奮してた人に言われたくないですから」 「やだ、わたしを見て興奮してたの?」 「してません!」 「ふっふっふっ、いつまでそんな余裕を持っていられるかな?」  そう言ってにやりと笑う。  その笑いにとてつもなく嫌な予感がする。 「ね、こーへー。ぱんつ好き?」 「いきなり何を聞くんですかっ!」 「白がいい? 純白がいい? 紫? ピンク? 赤いワンポイントの  アクセントがあるのがいい?」  なんかどこかで聞いた事あるような色を言うかなでさん。 「それとも、穿いてない方が・・・いい?」 「だからっ、何の話ですかっ!」 「ぱんつの話」 「だからっ!! どういう展開でっ!! そう言う風になるんですかっ!!」 「こーへー? カルシウム足りてる?」 「・・・はぁ」  全力でツッコミをいれるのが馬鹿らしくなってきた。 「落ち着いた?」 「・・・まぁ、それなりに」  かなでさんはベットに腰掛けるようにすわる。  俺は床に座ったままだ。 「こーへー・・・もしかして溜まってる?」 「何の話ですかっ!」 「え、言って良いの?」 「ごめんなさい言わないでください」 「ふふっ」  なんだか凄く疲れた。 「それで、何の用事ですか?」 「実はね、いつも一生懸命なこーへーにご褒美をあげようと思ってきたの」 「はぁ・・・」 「だからね、こーへーが好きな・・・そのね、あの・・・」  急にかなでさんがもじもじし始めた。 「あのね、とっても恥ずかしいんだよ? だけどこーへーが好きだから、  だからなんだからね?」  そう言うと制服のスカートをそろりそろりとまくり上げる。 「・・・」 「こーへーの為なんだからね?」  目はかなでさんのスカートに釘付けになる、止めさせないといけないのに  制止させることが出来ない。  そして、スカートが捲れ上がる。 「・・・」 「こ、こーへー・・・」 「かなでさん、今日の授業に体育ありましたね」 「え? なんでわかったの?」  スカートの中は緑の体操服、ブルマだった。 「はぁ・・・」  一気に力が抜けた、見れなかった事が残念なのかほっとしたのか。 「こーへー・・・そんなに残念だったの?」 「いや、そういう訳じゃないですよ」 「・・・」  かなでさんの顔が沈む。 「でも、元気づけようとしてくれたことは嬉しかったですよ」  やり方に問題があると言うことは、もう言わないでもいいだろう。 「ねぇ、こーへー・・・やっぱり見たい?」 「え?」 「わたし、恥ずかしいけど見せるって言ったんだからちゃんと見せるね」 「そんなこと言ってないですって」 「わたし、がんばる!」  そう言うとかなでさんはスカートの中に手を入れる。 「止めてください!」  俺はかなでさんを止めようと立ち上がる。 「え?」 「きゃっ!」  急に立ち上がった俺は足をすべらせてかなでさんの上に覆い被さるように  倒れ込んだ。 「・・・」 「・・・」 「孝平、いる? 入るわよ」  その時扉の外から瑛里華の声がした。  俺は瞬時にかなでさんから飛び退く。 「孝平、さっきの書類なんだけど・・・」  入ってきた瑛里華の視線がベットの上で止まる。  ベットの上ではかなでさんが仰向けに倒れている。  スカートは捲れたまま、そして体操着は腿の所までおろされていて、青と白の  ストライプ模様がよく見える。 「・・・」 「・・・」 「・・・」  誰も何も言わない、無言の時間。 「孝平、お取り込み中だったみたいね」  そう言って微笑む瑛里華。  その笑顔は凄く冷たく恐ろしい。さっきのかなでさんの襲撃以上に危険を  感じさせる笑顔だった。 「え、瑛里華。話を聞いて欲しい!」 「えぇ、いいわ。何時間でも話を聞きましょう」 「それじゃぁわたしはこれで。こーへー、頑張ってね」 「あ、かなでさん逃げるんですか!」 「というわけで、えりりん。後はよろしく!」  逃げようとするかなでさんを止めるべく立ち上がろうとした。 「孝平はそこに座りなさい」 「・・・」 「さぁ、ゆっくり話を聞いてあげる」  今日はいつ眠れるのだろうか・・・  そんなことを考えて・・・止めた。
5月30日 ・穢翼のユースティアSSS”beginning -Irene-” 「感謝と祈りを忘れぬ限り、神は我々をお救い下さいます」  いつもの一言で、説法は終わりを告げる。 「それでは、わたくしは祈りの間に参ります」  わたくしの説法を聞くだけで信仰心の無い貴族達とこれ以上  顔を合わせるのはごめんです。  目が見えないので嫌な顔を見なくてすむことが幸いだった。 「イレーヌ様、こちらへ」 「ありがとう、でもわたくしだけで大丈夫です」  盲目のわたくしには常に誰かが付きそう。  外出するときには先導してもらわねば歩くこともできないだろう。  だが、ここは礼拝堂。  わたくしがずっと生きてきた場所、目が見えなくても歩くのに支障は無い。 「お気をつけて」 「ありがとう」  侍女に声をかけ、わたくしは祈りの間へと入る。 「・・・また、ですか?」  祈りの間へ入り、祈りを捧げる祭壇の所まで来たとき、違和感を感じる。 「さすがね、聖女イレーヌ様」  声が聞こえる、一度聞いたら忘れようにも忘れられない、少女の声。 「リシア王女、ここは祈りの間です」 「えぇ、わかってるわ」  悪びれずに返事をする。  祈りの間は神聖なる場所、聖女の称号を持つ者以外はそう簡単に入れない。  そう言う風になっている場所。 「いいじゃない、私だってお祈りに来ることはあるんだから」 「まるでたまに来た、そのような言い方ですわね」 「そうね、忙しくて抜け出せないから」  そう、王女は病床の王に変わって政治の中心に居る。  政治自体は優秀な執政公が取り仕切るだろうが、王女のお伺いを立てないと  最終的には決まらない事になっている。 「それで、聖女様は最近どうですか?」 「どう、と問われても何もございません、わたくしには祈りしかありませんから」 「そう・・・ね」  王女の声色が変わる。 「あはは、どうしてそのような顔をなされるのですか?」 「イレーヌ・・・私は」  見えては居ない、けどきっとそういう顔をしている、それだけはわかる。 「王女様が何を思われるかはわたくしにはわかりません」  そこで間を空ける。 「だけど」 「ですが」  王女の声をわたくしは遮る。 「何があろうとも、わたくしは、わたくしの中の信仰を偽ることは出来ません」 「・・・そうね」  リシア王女が去っていく気配がする。 「邪魔したわね、また来るわ」 「いつでも来てください、私は与えましょう。  貴方が欲し、後悔なされないのであれば」  彼女の気配が完全に消えてから、わたくしは祭壇で跪く。  そして祈りを捧げる。  いつまでこうして祈りを捧げられるのでしょうか?  いつかは先代のように、処刑されてしまうのでしょうか? 「それでも・・・わたくしの信仰は偽れませんから」
5月27日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”赤いリボン” 「何の用事だろう?」  休みの日の朝、携帯に来たメールは凄くシンプルだった。 「見せたい物があるから千堂の家まで来て」  発信者は紅瀬さんだった。  時間も書かれてなかったけど、何となくすぐに行った方が良いような気が  したので、こうして山道を歩いているわけだ。 「ふぅ、ここは相変わらずだな」  建物がそう変わるわけではないけど、ここに来るとそう思う。  昔ながらの洋風建築でありながら、どことなく和も感じる千堂邸。  瑛里華の実家であり、今は伽耶さんと紅瀬さんが住む家でもある。 「失礼します」  一応挨拶をして、門より中に入る。  そして足が止まる。 「そういえば、紅瀬さんは何処に居るんだろうか」  紅瀬さんは今でも寮に住んでいる、休みの日に伽耶さんの所に戻っていると  言う話を聞いている。  その紅瀬さんが、この千堂邸の何処にいるかは知らなかった。 「何処へ行けば良いんだろう?」 「いらっしゃい、支倉君」 「うおっ!」 「・・・何、そのうめき声」 「いきなり現れるからだよ」  ついさっきまで誰もいなかったはずの中庭なのに、いつの間にか俺の目の前に  紅瀬さんが立っていた。 「って、制服?」  千堂邸に居るときの紅瀬さんは和服で居ることが多い。  だから、制服姿は新鮮だった。 「さぁ、行きましょう」  俺の問いは無視し、案内するように歩いていく。  仕方がなく俺はその後に続く。 「それで、何の用事なんだ?」 「見てのお楽しみよ」  何となく声が弾んでるように聞こえた。  紅瀬さんにしては珍しいな、良いことでもあったのだろうか? 「桐葉、何処だ!」  遠くから伽耶さんの声が聞こえた。  どうやら紅瀬さんを探しているようだ。 「行くわよ」 「何があるんだ?」 「ふふっ」  紅瀬さんは伽耶さんの声のする方に進んでいく。  伽耶さんがらみで何かあるんだろうか?  いつもの離れの和室の中に通される。  そして襖を開ける。 「桐葉、あたしに着替えだけをさせておいて何処にぃぃぃ!?」  いつもの和室、そこにいつものように伽耶さんがいる。  その伽耶さんが俺を見て奇妙な声をあげた。 「なななな、なぜ支倉がここにいるのだっ!」  そう言って慌てる伽耶さんも、修智館学院の制服を着ていた。 「私が呼んだからよ」 「なんで支倉を呼ぶのだ!!」 「だって・・・」  そこで紅瀬さんは伽耶の後ろに瞬時に回り込む。  そして抱きつく。 「だって、可愛いんですもの」 「は?」  伽耶さんがぽかんとした表情になる。 「伽耶ったらこんなに可愛いんですもの、せっかくだから支倉くんにも  見てもらおうと思ったのよ」 「な、なんだとっ!?」 「ねぇ、支倉君も伽耶、可愛いと思うでしょう?」  紅瀬さんに後ろから抱きしめられ、手足をばたつかせる、制服姿の伽耶さん。 「そりゃぁ・・・そう思いますけど」 「は、支倉! 世辞は良いから桐葉をどうにかしろ!」 「伽耶、支倉君はお世辞なんて言える器用さは持ってないわよ」  なんかけなされた気がする。 「ちゃんと支倉くんも可愛いって言ってじゃない」 「それとこれとは関係ないから離せっ!」 「それに・・・ほら」  そう言うと紅瀬さんは伽耶さんのスカートを捲った。 「桐葉!」  そこには赤いリボンがワンポイントの可愛い下着があった。 「せっかく一生懸命に選んだんですもの、見てもらわないとね」 「−−−−−−−−−−−−−−−−−−−っ!」  顔を真っ赤にする伽耶さん、そんな伽耶さんは本当に可愛いと思う。 「支倉、いつまで見てるんだ! 桐葉もいい加減にしろっ!」 「え、きゃっ!」  力一杯手足をばたつかせる伽耶さんを押さえつけられなくなった紅瀬さんが  足を滑らせるように倒れた。  倒れた拍子か、伽耶さんが暴れたせいか、紅瀬さんのスカートも捲くれている。  片足だけ立てているせいで、その中身も丸見えだった。  更に、その上にうつぶせになって重なってる伽耶さんもスカートは捲れたままだ。  黒いストッキングに包まれたデルタゾーン、そして白い布に包まれた可愛い臀部。 「いい加減にしろーーーーっ!」  伽耶さんが放った何かが俺の顔に当たる、そして意識は暗闇に落ちていった。  その後紅瀬さんと一緒に正座して、伽耶さんに怒られた。  伽耶さんはいつもの着物に着替えてしまっていた。 「まったく、なんであたしがあんな格好など・・・」 「もちろん、可愛いからよ、ねぇ支倉くん」  俺は伽耶さんの制服姿を思い出す、それと一緒に浮かんでくるのは赤いリボン。 「ね、支倉くんの顔を見ればわかるわ。良かったわね、伽耶」 「よくなーーーーいっ!」  翌日。 「ねぇ、孝平は母様の制服姿を見たんでしょう?」 「あ、あぁ・・・」 「いいなぁ、なんで私を呼んでくれなかったのかしら。きっと母様に似合って  とっても可愛かったんだろうなぁ」 「・・・」  思い浮かべるのは赤いリボン、それは瑛里華の髪飾りと同じ。  なら、きっと瑛里華の下着にも赤いリボンが・・・ 「って、何を考えてるんだ俺はっ!」 「孝平?」  不思議そうな顔をする瑛里華に説明は出来なかった・・・
5月25日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”桃” 「思ったより時間かかっちゃったな」  瑛里華しか出来ない仕事がたまってしまっていたため、今日の職員会議には  俺が出席した。  会長の代理で何度も出席したことがあるので別に問題は無いのだが、今日に  限って思った以上に会議が延びてしまった。  小走りで監督生棟に向かおうとしたけど、歩く速度を普通に戻す。 「まぁ、急ぐことも無いか」  会議で遅れたのだし、さぼってるわけじゃない。 「それに、なんだか気持ちが良いしな」  ここ数日蒸し暑かったが、今日は風があるからとても気持ちがよい。  このまま芝生で寝ころんで昼寝をしたくなる、そんな陽気だった。 「そうだ、飲み物の差し入れを買っていくか」 「ただいま、瑛里華・・・あれ?」  執務机には誰も座っていなかった。  周りを見回すと、瑛里華はソファの方にいるようだった。 「瑛里華?」  ソファに回り込むと瑛里華が丸くなって眠っていた。 「最近忙しかったものな」  人手が足りなくなり、俺や瑛里華の仕事は以前より増えている。  白ちゃんも頑張ってくれてるし紅瀬さんも手伝ってくれているけど、それでも  どうしようもないこともある。  執務机の方を見てみると、やりかけの仕事は無い。  どうやら一段落はしているようだ。 「このまま少し寝かせておくか」  後で何で起こさなかったのよ、と言われそうだけどな。  俺は毛布をとりに行くことにした。 「・・・え?」  隣の部屋から仮眠用毛布をとって戻ってきた俺は思わず固まった。  瑛里華はまだソファで寝ている、たださっきより丸くなっている。  両足をそろえて抱えるような体制の瑛里華、その短いスカートが  まくれ上がり下着が丸見えだったのだ。 「・・・」  見ちゃいけないのはわかってるけど、目が離せない。  淡い桃色の下着。 「・・・ん」  瑛里華が身じろぐ、その動きにあわせて下着に皺が出来る。 「・・・って、何見てるんだ!」  俺は目線を強引に逸らして、下着が隠れるように毛布を掛ける。 「・・・はぁ」  なんだか凄く疲れた。 「何で起こしてくれなかったのよ」  目が覚めた瑛里華は予想通りの文句を言ってきた。 「疲れてただろうし、少し休むのも良いかなって思ったからさ」 「それはそうかもしれないけど、今は仕事が遅れてるのよ?」 「何とかなるだろう、俺と瑛里華ならさ」 「え、えぇ・・・それはそうだけど」  顔を赤らめる瑛里華。  俺と瑛里華のコンビは今の修智館学院で知らぬ人が居ないほど有名だ。  そのことに照れているのだろう、それと同時に喜んでもいる。 「そ、それじゃぁ再開しましょう」 「あぁ」  仕事を再開する、けど俺の仕事ははかどらない。  集中しようとしても、脳裏に浮かぶ桃色がそれを邪魔するのだ。 「孝平、どうしたの?」 「あ、いや・・・なんでもない」  集中の邪魔は、桃色の煩悩・・・が主じゃない。  原因はやはり後ろめたさだろう。  いくら眠っている間の不可抗力とはいえ、見られたくない物を見てしまったのだ。  それを黙っているのは卑怯じゃないだろうか。 「孝平、何か悩み事でもある?」 「・・・」 「私で良かったら聞くわよ?」 「・・・なぁ、瑛里華。悩み事というより懺悔する事はあるんだ。  その・・・聞いてもらっても良いか?」 「私で良ければ良いわ」  俺は覚悟を決めた。 「・・・」  全てを話し終えた。話を聞いた瑛里華は顔を真っ赤にしている。  それはそうだ、眠ってる間に下着を見ただなんて、恥ずかしいに決まってる。 「ごめん」  俺は頭を下げた。 「・・・ふぅ、別に怒ってなんかいないわよ」  俺は頭を上げる。 「すぐに毛布を掛けてくれたんでしょう? 孝平は悪いことは何もしてないし  この件で気に病むことは何もないわ」 「それでも見たのは俺だから・・・ごめんなさい」 「もぅ、孝平ったら初めての時からそう言うところだけは潔いわね」  初めての時・・・それはもしかしてあの風呂騒動の・・・ 「こら、孝平。そこであの時のことを思い出さないの!」 「あ、ごめん」 「でも、孝平が気に病んでるのなら私がそれを許すわ。それで良いでしょう?」  そう言って微笑む瑛里華の笑顔は慈愛に満ちた女神のようだった。  「今日のはお気に入りで良かった」 「瑛里華?」 「ううん、なんでもないわ」  小声で言った言葉は聞き取れなかった。 「ほら、遅れた分を取り返すわよ!」 「わかった、取り戻してみせる!」 「その意気よ、それじゃぁ行くわよ!」
5月23日 ・夜明け前より瑠璃色な SSS”最高のプレゼント” 「もう少しだな」  窓から見える景色は暗く、明かりが通り過ぎていく。  大学の授業を終え、バイトを終えた俺はすぐに準備してあった鞄を持って  電車に飛び乗った。 「麻衣にはちゃんとお土産買って帰らないとな」  イタリアンズの散歩は麻衣に頼んでしまった、早く出発したかったからだ。 「・・・あと少しだな」  何度めかになる、あと少しという言葉。 「焦っても着く時間は変わりないんだよな」  なのに心は焦る、焦ったって何も変わる事なんてないのに。 「・・・あと少し」 「達哉!」 「菜月?」  電車を降りて改札へ向かおうとした俺の前に菜月が居た。 「なんでここに?」 「我慢出来なくてホームまで来ちゃった」  そう言って微笑む菜月の顔を見てたら我慢できなくなって、抱きしめた。 「た、達哉? 人が見てるよ」 「構わない、そんなことより菜月を感じたい」 「もぅ、達哉ったらしょうがないんだから」  呆れられたようだ。 「でも・・・私も達哉を感じたいから」  そう言って俺の背中に手を回して、菜月も腕に力を込める。 「会いたかった、菜月」 「私もだよ、達哉」 「あのさ、今さらだけどあまりくっつかない方がいいかも」  駅からの帰り道、菜月は俺の腕に抱きついてきている。 「え、なんで?」 「俺さ、慌ててきただろう? その・・・汗くさいだろうし」  ここ数日急に暑くなったし、汗をかくようにもなった。  電車内は空調もきいているので大丈夫だろうけど、やっぱり汗くさいかもしれない。 「達哉のなら構わないから、こうさせていて」  腕をぎゅっと自分の胸に抱き込む菜月、大きくて柔らかいふくらみに腕が包まれる 「汗なら戻ったらシャワー浴びればいいだけのことじゃない」 「そりゃそうだけどさ」  菜月が良いっていうならまぁいっか。 「ただいまー」  菜月のマンションの部屋へと入る。  以前来たときと何一つ変わってない部屋だった。 「せっかくだからお湯入れるね」  バスルームの方から菜月の声が聞こえる。 「悪いな、菜月」 「そんなこと気にしないで良いんだから、すぐに準備できるからちょっと待っててね」  俺は部屋の中に入り鞄を置いて、その場に座る。 「菜月、準備出来たら先に入って良いぞ」 「達哉が先でいいよ」 「・・・やっぱり俺は後でいいよ」 「遠慮なんてしなくていいの、達哉はお客様でもあるんだよ?」  バスルームから出てきた菜月にそう言われてしまった。  でも風呂はいつも女性陣の後、最後に入る習慣が出来てしまった俺が最初に入るのは  どうも落ち着かない。 「いいのいいの、ほら入った入った!」  菜月にタオルを渡された俺は、バスルームへと押し込まれた。 「・・・まだお湯半分くらいじゃないか」  お湯はそのうちに溜まるだろう、俺は菜月の好意に甘えて汗を流すことにした。 「達哉、湯加減はどう?」 「あぁ、気持ち良いよ。ありがとう」 「・・・」 「菜月?」 「そ、その・・・失礼しましゅっ!」  扉が開き、一糸纏わぬ姿で、顔を真っ赤にした菜月がバスルームへ入ってきた。 「菜月?」 「私も汗かいちゃったから・・・一緒に入ってもいい?」 「あ、あぁ・・・」 「ごめんね、先にはいって良いって言ったのに」 「構わないさ、昔は良く一緒に入ってたし」 「わわっ、恥ずかしいこと言わないでよっ!」 「今の状況の方が恥ずかしいんじゃないかと思うんだけどな」  ぼんっと言う音と共に菜月は顔を更に真っ赤にした。  俺の胸板に菜月は背中を預ける形で 密着して入っている。 「・・・」  俺の視界は菜月の頭と、そしてお湯に浮かんでいる大きな胸に占められている。  胸って浮くんだな・・・ 「ね、ねぇ・・・達哉はさっきから・・・胸ばかり見てない?」 「わかっちゃったか」  菜月はくすりと笑う。 「女の子はね、視線に敏感なんだよ? それにね、さっきからお尻に当たってるから」 「・・・ごめん、ムードも何もなくて」 「ううん、いいんだよ。だって私も達哉に見られて・・・」  菜月が俺の手を自分の胸に誘う。 「あんっ」  俺の手が触れただけなのに菜月が反応する、俺の掌の真ん中にはすでに固く自己主張  している物が当たってる。 「たつやぁ・・・」  菜月は軽く腰を浮かせると、俺のにまたがるような体制になって腰を前後に  動かし始めた。 「菜月・・・ベットに行こうか」 「いや、我慢できないの・・・達哉」  瞳を潤わせながらおれを見上げてくる菜月。 「菜月、大好きだよ」 「私も大好きっ!」  熱い夜は過ぎ、目覚めたときはもうお昼過ぎだった。  二人とも顔を真っ赤にして照れ笑いし、今度はシャワーだけを浴びて汗だけを流す。  朝食兼昼食をとってから俺は鞄の中からプレゼントを取り出す。 「遅くなったけど、誕生日おめでとう」 「ありがとう、達哉」 「喜んでくれるかどうかはわからないけどな」 「そうかも」  そういって意地悪く笑う菜月。 「だって達哉が来てくれる事が最高のプレゼントだもの」 「そういうことか」  どんなプレゼントも俺が持ってくる段階で最高じゃなくなってしまう。 「なら、毎年最高のプレゼントとして菜月に会わなくっちゃな」 「うん、毎年期待してるね、達哉」
5月23日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”紫”  桐葉が午後から居なくなった。  授業が終わった俺はいつもの高台へと急ぐ。  今でも生徒会のメンバーに教えてない、桐葉の秘密の場所に。 「ふぅ」  山道を抜けると見晴らしが良くなる、一面草原のような高台。  その中に人が倒れているのがわかる。 「難儀だよな」  俺はそっと眠って居るであろう、桐葉の元へと向かう。 「っ」  突然強い風が吹く、だが飛ばされる物は何もない。 「最近風が強いよな」  監督生室で窓を開けていたときの突風で酷い目にあったことを思い出す。  注意しないとな、そんなことを思いながら桐葉の元へたどり着く。 「っ!」  そこには仰向けになって眠っている桐葉が居た。  いつものように静かに、まるで死んでいるかのように眠っている桐葉。  いつもと違うのは、風が強いせいだろうか。  スカートがめくれてる事だった。  黒いストッキングに包まれた桐葉の、その中に紫色の三角のラインが浮かび上がる。 「・・・」  思わず見て、目をそらす。 「私が眠ってるとき、孝平になら何をされてもいいわよ」  桐葉はそんな冗談を以前言ったことがあった。  だからといって眠ってる桐葉に悪戯をする気などない。  それは卑怯なことだからだ。 「・・・でも、何をしてもいいんだよな」  まずはスカートの裾をなおす、それから俺は桐葉の頭の所に座って足を延ばす。 「眠ってる人って結構重いよな」  俺の太股の所に桐葉の頭をのせる。  そしてそっと髪を梳く。 「・・・」 「・・・」  ・・・なんかおかしい、眠ってる桐葉の顔はいつも綺麗なのだが、今日はいつも  以上に綺麗に見える。  何でだろう? 桐葉の顔を観察してみる。  閉じられている瞼に綺麗なまつげが風に揺られてる。  赤く染まった頬に、規則的な寝息。 「・・・赤い?」  眠ってるときの桐葉の頬は赤くはないと思う。ということは・・・ 「もしかして起きてるのか?」 「・・・ん」  俺の声に反応するかのように桐葉が身じろぎする、そしてそっと瞼を開ける。 「・・・孝平」 「あぁ、おはよう桐葉。というかいつから起きていた?」 「・・・今さっき目が覚めたばかりよ」  そう言って顔を背ける桐葉。 「そっか」  俺はそれ以上追求するのを止めることにした。 「何も・・・聞かないの?」 「聞いて欲しいのか?」 「・・・馬鹿」 「そうだな、俺は馬鹿かもな」 「でも、ありがとう」  そう言うと桐葉は起きあがった。 「もう大丈夫だから」  その瞬間、また突風が吹いた。 「きゃっ!」  その突風は狙ったかのように俺の前に立ち上がった桐葉のスカートを翻す。  そこに見えるのはさっきと同じ光景。 「・・・こう言うときは目をそらすのが礼儀よ」 「ごめんなさい」  頬を赤く染めて怒る桐葉に、俺は素直に謝る。 「まったく、2度も見られるだなんて・・・」 「ん?」 「なんでもないわっ!」  そう言うと桐葉は歩き出した。 「桐葉?」 「怒られるわよ? 会長さんに」 「しまった!」  桐葉を探しに来たのは監督生室に連れて行くためだったのを思い出す。  俺も慌てて桐葉の後を追いかける、そして桐葉と並んでから走る速度を  落とし、一緒になって歩く。 「急いだ方がいいんじゃないかしら?」 「今さらだからな、ゆっくりいって一緒に怒られようぜ」 「嫌よ」  桐葉は即答した。 「孝平と違って私は何も良い思いしてないのだから、怒られるのは孝平だけにして」  さっきの風の事を言ってるのだろうな、やっぱり。 「わかったよ、俺は怒られるさ」 「・・・本当に馬鹿ね」 「あぁ」 「仕方がないわ、私もつきあってあげるわ。」  その時また突風が吹いた。 「私にも良いことあったから」 「桐葉?」  強く吹いた風に、桐葉は今度はスカートをちゃんと抑える。  ただ、その時の桐葉の声は聞こえなかった。 「行きましょう、孝平」  その後監督生室で遅刻を怒られるだけのはずだった俺は、桐葉の会長に対する  挑発でお互い言い合いとなり。 「もうその辺で・・・」 「支倉君は黙ってて」 「孝平は黙って!」 「・・・はい」  怒られるよりも怖い思いをしました・・・
5月21日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”純白” 「みんな、早く中へっ!」  俺が叫ぶまでもなく、美化委員のメンバーやその野次馬達は白鳳寮の中へ  非難していった。  美化委員の清掃活動中、突然襲った大雨で活動は一時中止となった。  一番近い建物が白鳳寮で良かったと思う、ここならみんなの部屋があるので  濡れたままの格好で居なくて済むからだ。 「それでは、今日の活動はここで終わりにします、みんな風邪ひかないようにして  くださいね」  委員長の陽菜の解散を受けて委員会のメンバーや他のみんなは散っていった。 「お疲れ、陽菜」 「孝平くんもお疲れ様」  陽菜に声をかける、そんなに長い間雨に降られてないはずだったが、陽菜は  びっしょりだった。  なんだか美化委員の制服も重そうだ。 「陽菜も早く着替えた方がいいぞ」 「うん、ありがとう。私のことはいいから孝平kんも着替えた方がいいよ」  俺よりも陽菜の方が早く着替えた方が良いと思う。  俺は白鳳寮へ先導し、陽菜は最後まで外に残ってみんなを誘導していた。  それだけ陽菜は濡れてるのだ。 「わかったから、陽菜も早く部屋へ行くんだ」 「うん・・・」  そう言っても動こうとしない陽菜。 「・・・もしかして鍵、無いのか?」 「孝平くんにはなんでも解っちゃうんだね」  そう言って微笑む陽菜。 「それじゃぁ向こうに戻らなくちゃいけないのか?」 「うん」  俺は慌てて回りを見渡す、すでにロビーに人の気配は無い。  もう少し早く気づいていれば女子の誰かに助けてもらえたのだろうが、今では  どうしようもない。 「非常事態だな、陽菜。俺の部屋へ来るんだ」 「でも、お部屋が濡れちゃうよ」 「そんなことより陽菜の方が大事だから、早く!」 「孝平くんっ」  俺は自分の部屋の中に陽菜を招き入れた。  すぐに大きめのタオルを渡す。 「俺、シスターを探して来るから」 「あ、孝平くん!」  陽菜が何か言いかけたが、それを聞き終えるまもなく俺は部屋から出ていた。  シスターならマスターキーを持ってるはず、それで陽菜を部屋に戻すのだ。  しかし、シスターは何処にも居なかった。 「当たり前か、この時間なら礼拝堂だよな」  玄関から外をみる、まだ雨は大降りだった。  俺だけなら礼拝堂に濡れていくのは問題ないが、シスターをこの雨の中寮まで  連れて来るには骨が折れそうだ。  それに、必ずしも礼拝堂にいるとは限らない。  それよりも今は陽菜の方が問題だ。 「一度戻るか」 「ごめん、陽菜。シスターはどこにも・・・」 「え?」  自分の部屋の扉を開けた俺は固まった。  すぐ目の前に下着姿の陽菜が立っていたからだ。  正確には制服を脱ごうとしている陽菜だ。 「こ・・・孝平くん?」 「悪いっ!」  俺は慌てて回れ右をした、そのとき外の廊下に男子生徒が歩いてきた。 「まずいっ!」  このままでは陽菜が見られてしまう、そう思った俺はすぐに扉をしめた。 「あ、あの・・・孝平くん?」  背後から戸惑ってる声が聞こえた。 「悪いっ、外に人が居たから扉を閉めた」  って、俺が外に出てから閉めればよかったんじゃないか? 「すぐに出ていく!」 「孝平くん、出て行かなくてもいいんだよ。だってここは孝平くんのお部屋じゃない。  でも、ちょっとだけ・・・そのままで居てくれるかな?」 「あ、あぁ・・・」  俺の背後から布ずれの音が聞こえる。  その時間は一瞬でもあり、とても長い間続いた気もした。 「もういいよ、孝平くん」 「そ、そうか」  俺は安堵のため息をつき、陽菜の方へ振り返る。 「ごめんね、勝手に借りちゃった」  陽菜は俺のYシャツを着ていた、サイズの違いからか、袖口はまくっている。 「後でちゃんと洗って返すね」 「あ、あぁ・・・じゃなくて、ごめん!」  俺は頭を下げる。 「孝平・・・くん?」 「不可抗力とは言っても、覗いたのは俺だ。本当にごめん!」 「あ・・・」  突然謝った俺に不思議そうな顔をしてた陽菜だけど、その意味をすぐに  理解したようだ。 「いいんだよ、バスルームで着替えなかった私がわるいんだから」 「それでも見たのは俺だから」 「孝平くんになら・・・いいよ」 「陽菜?」 「ううん、なんでもないよ」  そう言った陽菜の顔は赤く染まっていた。 「でもやっぱり恥ずかしいな」 「ごめん」  反射的に謝る俺。 「だって、そんなにプロポーション良くないから」 「そんなことはない!」 「え?」 「その、魅力的だと思うよ・・・ちゃんとは見てないけど」 「あ、ありがとう」 「・・・」 「・・・」  会話が続かなくなった。 「あ、雨が上がってきたみたいだね」  目線を逸らした陽菜が気づいた。 「一度更衣室に戻らないと・・・」 「あまり格好は気にできないけど、俺のジャージ着ていくと良いよ」  収納にしまってある、体操着用のジャージを陽菜に手渡す。 「うん、ありがとう孝平くん」 「今度は外で待ってるから、一緒に行くか」 「よろしくお願いしちゃおうかな」
5月19日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”白” 「ゆきまるー、どこにいっちゃったんですか」  監督生棟へ行く前に礼拝堂に寄った俺は、白ちゃんのいつもの声が  聞こえてきた。 「また脱走したのか」  雪丸の好奇心の強さは恐ろしいほど、ちょっとした油断があるとすぐに  脱走してしまう。  でも、たいてい白ちゃんの近くにいるのが可愛い所だ。 「よし、監督生室へ行く前の一仕事だ」  白ちゃんの所へ行ってから、雪丸を探すとするか。 「ゆきまる〜、どこですか〜?」 「白ちゃん、また脱走したのかい?」  声を頼りに白ちゃんの所へ向かうと、白ちゃんは四つん這いになって雪丸の  檻の中を覗いていた。 「あ、支倉せんぱ・・・きゃん」  その時強い風が吹いた。  その風はローレルリングのケープを巻き上げ、檻の金具に引っかけてしまっている。 「え、やんっ!」 「白ちゃん、動いちゃ駄目だ。ケープが切れてしまう」 「は、はいっ!」 「俺がとるからちょっと待ってて」  白ちゃんの所に来て今さらながらに気づいた。  スカートも一緒にまくれて、白いストッキングに包まれた可愛いお尻が丸見えに  なってることに。 「・・・」 「は、支倉先輩・・・まだですか?」 「あ、ちょっと待って」  律儀に身動き一つせず待つ白ちゃん。俺はなるべく下を見ないようにそっと金具に  引っかかったケープを外した。 「もう大丈夫だよ」 「はい、ありがとうございます」  檻から出てきた白ちゃんは顔が真っ赤だった。 「・・・あの、支倉先輩。」 「な、なにかな?」 「・・・見ました?」  恥ずかしそうに見上げてくる白ちゃん。そのまっすぐな瞳に俺は正直に答える。 「見た、ごめんなさい」  そして頭を下げる。 「え? は、支倉先輩、頭を上げてください!」 「不可抗力とはいえ、見てしまった俺が悪いし、そう言うときは見ないように  行動すべきだと思うから、ごめん白ちゃん!」 「い、いえ、支倉先輩は悪くありません。わたしを助けてくださっただけです」 「でも」 「そ、それに・・・支倉先輩になら・・・見られても平気です」 「白ちゃん?」 「な、なんでもありません!」  白ちゃんが小さな声を俺は聞き取ることが出来なかった。  そのことを聞くべきかどうか悩んだ時、俺の視界の端に何か動く白い物体があった。 「あ、ゆきまるっ!」  白ちゃんが慌てて追いかける、逃げる雪丸。  俺は慌てず回り込むようにして走る。 「チェックメイトだな、雪丸」  そっと俺は雪丸を抱きかかえた。 「支倉先輩、ありがとうございます」 「もう逃げられないようにしないとな」  雪丸を白ちゃんに渡す。 「そうですね、ゆきまるもわたしも」 「ん?」 「あ・・・その、失礼します」  白ちゃんは慌てて礼拝堂の方へと駆けていってしまった。 「・・・ま、いっか。そろそろ監督生室にいかないとな」
5月16日 ・月は東に日は西に SSS”青い薔薇” 「綺麗・・・だね」  陽が暮れた洋風の庭園、その一面に薔薇が咲き誇っている。  今日のデートの最後に誘ったこの庭園では、この時期薔薇のライトアップが  行われている。 「これが直樹がわたしに見せたかったの?」 「ああ」 「ありがと、直樹。でもどうして?」  確かにごもっともな質問だ、薔薇なんて俺の柄じゃない。 「・・・別に意味は無いさ、ただデートの最後に来たかっただけだよ」 「くすっ」  美琴が微笑む、それは解ってるといわんばかりの微笑みだった。 「それじゃぁ、聞かないであげる」 「わたしの居た世界じゃこんなにゆっくり花なんて眺められなかったな」 「・・・そう、だな」  俺は相づちをいれることしかできない。 「祐介にも見せたかったな」 「・・・」  やっぱり心配だよな、帰ったばかりのもう一人の俺、美琴の弟の事が。 「そろそろ帰ろうか、直樹」 「あぁ、そうだな。その前にちょっとトイレ」  そう言って俺は美琴から離れる、そして事前に調べてた店内の店へと向かった。 「もうすっかり遅くなっちゃったね、門限どうしよう」 「美琴、もしかして手続きしてないのか?」 「ううん、ちゃんとしてあるよ、外泊許可」  そう言って笑う美琴。 「そっか、エッチな美琴さんは俺と一緒に泊まることを想定してたわけですね?」 「え、えええっ! そそそ、そんなことなんて・・・」 「そんなことなんて?」 「・・・あるかも」  顔を真っ赤にする美琴。そんな美琴が愛おしい。 「それじゃぁ、帰るか。今日は親父も英理さんも仕事で帰ってこないんだ」 「茉理ちゃんは?」 「ちひろちゃんの所にお泊まりだそうだ、どうやら気を利かせたらしいな」 「そ、そうなんだ、あはは・・・」 「だから、今夜は二人っきりだ」 「・・・うん」  そうこう言ってる内に、家についた。  鍵を開けて玄関に入る。 「ただいま」  誰もいないけど、習慣でそう言ってしまう。 「おじゃまします」 「美琴、ただいまでいいんだぞ。もうここも美琴の居場所なんだからな」 「あ・・・うん、ただいま、直樹!」 「ん・・・」  夜中にわたしは目を覚ます。 「・・・」  わたしのすぐよこで直樹が眠っている。  直樹が目を覚まさないよう、そっとサイドテーブルの上にあるものを手に取る。  今日、眠る前に直樹がくれたプレゼント、それは薔薇をかたどった栞だった。 「青い薔薇かぁ・・・」  青薔薇は自然に存在しない品種で、絶対生み出せないと言われた色なんだって。  でも、諦めなかった科学者が生み出すことに成功した色。  その薔薇の花言葉、奇跡。  祐介に今度あったらこの話をしてあげよう。  そして、わたしにこの花を送ってくれた直樹。 「ありがとう直樹・・・ちゅっ」
5月12日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”春のうららの” 「ふぁ〜」 「孝平」 「っと、ごめんごめん」  暖かくなってきた気候につられて思わずでた欠伸はしっかり瑛里華に  見られてしまった。 「たるんでるんじゃない?」 「そうでもない・・・いや、そうかも」 「もぅ、どっちなのよ」  勉強は勉強、仕事は仕事で切り替えてるつもりだったのだけど、  ゴールデンウィーク明けのこの時期はまだ切り替え切れてなかったようだ。 「ごめんごめん」  謝ってから仕事を再開する。 「ん・・・ふぁ〜」  少ししてすぐに瑛里華も欠伸をした。 「な、なによ。何か言いたそうね?」  涙目で俺を睨む瑛里華、怖さはなく、なんだか可愛かった。 「そんなに私が欠伸したのがおかしい?」 「いや、そんな訳じゃないよ」 「じゃぁなんで笑ってるのよ、どーせ私はたるんでますよーだ」 「違うって、ただ瑛里華が可愛いなって思っただけだよ」 「え!?」  正直に白状した俺の言葉に、瑛里華は驚きの声をあげる。 「と、突然何言ってるのよ!」 「だって瑛里華が理由を聞いたんだろう?」 「そうだけど・・・もぅ」 「ははっ、少し休憩にしようか」  俺は立ち上がって給湯室に向かう。 「瑛里華は何がいい?」 「孝平と同じので良いわ」 「ん、美味しい」 「白ちゃんが煎れた方が美味しいけどね」 「もぅ、孝平が煎れてくれたのも美味しいの!」 「はいはい」  並んでソファに座ってお茶を飲む。 「・・・良い陽気ね」 「そうだな」  窓から見える青空は何処まで広く、吹く風は穏やかだ。  何でこんな時に仕事なんてしてるんだろうと、思わず思ってしまう。 「って、それは駄目だろ」 「孝平?」 「あ、いや、なんでもない」  こんな事言ったら瑛里華は絶対怒っていつもの台詞を言うだろう。  みんながより良い学院生活を送るために、と。  こつん、と瑛里華の頭が俺の肩にあたる。 「瑛里華?」 「え? あ、ごめんなさい」  慌てて俺から離れる瑛里華。 「眠いのか?」 「ううん、そんなこと無いと思うけど・・・ふぁ」  可愛い欠伸だった。 「少し休んだらどうだ?」 「だ、だいじょうぶよ、これくらい!」 「でもさ、眠い時は効率も良くないだろう? 1時間でも良いから休もうよ」 「でも」 「俺も少し休みたいしさ、な、瑛里華」 「孝平がそこまで言うなら・・・1時間だけよ?」 「あぁ、1時間だけな」  俺はソファに深く腰掛ける、瑛里華は俺の肩に寄りかかってくる。 「え?」  と思ったらそのまま俺の太股の上に頭を載せてきた。 「瑛里華?」 「・・・すぅ・・・すぅ」  呼びかけたけど返事は無い。変わりに聞こえてくるのは規則正しい寝息だった。 「ったく」  俺はそっと瑛里華の髪を梳く。  新年度に入って仕事の量は増え続け、でも生徒会は未だに増員されていない。  俺もそれなりに部屋に持ち戻って仕事をこなしてはいるけど、瑛里華はきっと  俺以上にこなしているのだろう。 「瑛里華、あんまり無理するなよ?」  太股に瑛里華の重さと暖かみを感じながら、俺も眠りに落ちていった。 「何で起こしてくれなかったの!」  二人して起きれず夜になって慌てたのはお約束だった。
5月9日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”あなたに愛される幸せ” 「ねぇ、孝平。ちょっと相談があるんだけど」 「相談?」  放課後の監督生室、書類と格闘し一段落した頃に瑛里華は相談を  持ちかけてきた。 「えぇ。笑わないで聞いてね」 「そんなに変な話か?」 「そうじゃないわ、実は母の日の事で相談したいの」  そういえば、もうすぐ母の日だったな。 「私の家族って今まで大変だったでしょう。だから母の日なんて気にする余裕  なかったんだけど、今は普通の家族だから、何かしてあげたいの」  余裕が無いなんて嘘だろうな。  瑛里華のことだからきっと去年までもいろいろとしてたに違いない。 「孝平は母の日にどういう贈り物してるの?」  俺の考えはとりあえず置いておこう、そんなことを確認する必要は無い。 「俺かぁ・・・」  俺は母の日に何をしてたんだろう?  振り返ってみようにも、その時期に転校があったりと大変でまともに何かを  した記憶が無い。 「・・・俺って親不孝者だったのかも」 「孝平?」 「あ、いや。世間一般で良ければ話せるけど、それで良いか?」 「えぇ」  知ってる限りの意見を話してみたが、どれもぱっとしないものだった。 「難しいわね・・・」  二人で悩みだしてしまう。 「感謝の意を伝える何か・・・か」  ・・・ 「そうだ、良い物があるかも」 「何?」  俺はパソコンの前に座り電源を入れる。 「良い物があるかどうか解らないけど、調べてみる価値はあるかも」  検索サイトを開けて、キーワードを打ち込む。 「なぁ、瑛里華。これなんてどうだろう?」 「ちょっと直球過ぎるけど・・・うん、良いと思うわ」 「それじゃぁこれを注文しよう、ちょうど時期だし」 「えぇ、ありがとう。孝平」 「それともう一つ、こう言うのはどうだろう?」  俺は考えたアイデアを話し始めた。 「伽耶、千堂さん達は帰ったの」 「あぁ」  あたしは縁側に座って空を見上げている。 「あら、綺麗な花じゃない。これは・・・アザレアね」 「わかるのか?」 「えぇ、花は好きですもの。ふふっ、千堂さんも良い花を選ぶのね」 「そうか?」 「そうよ、伽耶。アザレアの花言葉は知ってるかしら?」 「知らん」  そんなものを知っていても役には立たないだろう。 「くすっ、アザレアの花言葉はね・・・」 「そうか・・・あたしにその資格があるのだろうか」 「資格? そんな物なんていらないわ。伽耶の心次第よ」 「・・・そうだな、こんな物をよこす二人だ。まだまだ必要であろうよ」  あたしは手の中にある紙片に目を落とす。 「・・・肩たたき券? 千堂さんって以外に子供っぽいのね」 「子供っぽいのではなく、まだまだ子供なのだよ」  瑛里華だけじゃなく、何故か支倉まで用意してた肩たたき券。  たぶん、支倉の入れ知恵だろう、まったくあやつは大人なのか子供なのか  良くわからん。  だが、一つだけ言える事がある。  まだまだあやつらは目が離せない子供の部分が多すぎるのだ。 「ったく、いつまでたっても親離れできないのだな。瑛里華も支倉も」 「どっちもどっちよね」  隣に座った桐葉は呆れたようにそう言うが、顔は笑っていた。 「うるさい」 「はいはい」  頬を撫でる春風は、優しく暖かかった。

4月30日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”マッサージ” 「・・・」 「どうしたの、孝平くん」  部屋で二人で過ごしてた時、肩に違和感を感じた。 「いや、なんか肩がおかしいっていうか・・・なんだろう?」 「きっと疲れてるんだよ、孝平くんはいつもデスクワークで忙しいから」 「そうなのかな?」  これが肩こりっていうものなんだろうか?  たまに冗談半分で肩がこるって言うことはあったけど、今日のは少し  違う気がした。 「そうだ、孝平くん。マッサージしてあげる」 「え? 出来るのか?」 「たまにお姉ちゃんの肩を揉んであげた事があるの。」  今は卒業してここにいない陽菜の姉、かなでさん。  在学中は寮長と風紀委員長を掛け持ち、寮も学園も関係なく走り回っていた。 「それを言うなら陽菜もそうだろう? 寮長と美化委員と大変じゃないか」 「わたしは大した事してないもの、孝平くんの方が大変だと思う」  そうは思えないけど、陽菜は本当にそう思ってるのだろう。  そこが陽菜のいいところでもあり、悪いところでもあると思う。 「それじゃぁ、孝平くん、ベットにうつぶせになって」  結局押される形になった。 「それじゃぁ失礼します」  そう言うと陽菜は俺の上にまたがってくる。  ちょうどお尻の下辺りに陽菜の重みを感じる。 「痛かったら言ってね」  そう言うと陽菜は肩から背中にかけて揉み出し始めた。 「どう、孝平くん」 「あぁ、おもったより気持ち良い」 「やっぱり肩こりだね。ずっと座ってるから腰も固くなってるもの」  肩口から背中、そして腰にかけて指圧していく陽菜。  女の子の力じゃ大したこと無いと思ってたけど、こうして俺の上に乗って  体重をかけてくるから、思った以上の力になっていた。 「・・・」  俺の上に乗って?  そういえば、俺の太股付け根辺りに感じる陽菜の重みは・・・  考えちゃいけない、今は考えてはいけないことだ!  そう思うと思うほど考えてしまう。  陽菜の私服は大きめのワンピースに、下はいつもスパッツだった。  つまり、俺の太股は陽菜の太股に挟まれてる訳だ。 「ん・・・よいしょっ」  時折もらす陽菜の声が妙に色っぽく聞こえてしまう。 「ふぅ・・・」 「・・・」  余計な考えが止まらなくなってしまった。 「孝平くん? もしかして気持ちよくない?」 「いや、その思ってた以上に気持ちよくって・・・」 「よかったぁ、それじゃぁ今度はベットの端に座って」 「え?」 「今度は座った状態で肩を揉んであげる」  まずい、今はまずい。 「ほら、遠慮なんてしないで・・・あっ」 「・・・」 「も、もう・・・孝平くんったら・・・」 「ご、ごめん」  思わず謝ってしまう。 「でも・・・固くなってるなら揉んであげないと・・・」 「え?」 「孝平くん、ベットの端に座って」  陽菜の言うとおりにベットの端に座る、陽菜は俺の背後ではなく  俺の前にひざまづく。 「陽菜?」  この体制ですることは・・・ 「して・・・あげたいの。いい?」  潤んだ瞳の上目づかいで言われた。 「・・・あぁ、お願いできる、かな?」 「うん」
4月28日 ・穢翼のユースティアSSS”beginning -Yurii-”  つまらない報告を聞く場である会議。 「では、この件はこれでよろしいでしょうか」  私に対して聞いてくる大臣に、微笑み返しながら頷く。  特に問題のない件だし、私が口を挟むこともないからだ。 「次に、羽狩り部隊の件ですが」 「あぁ、あの若造の事か」  若造と呼ばれてるのは羽狩り隊を指揮する貴族の事。  改革派に属する貴族で、ここにいる大臣共からすれば気に入らない  相手であろう。  今の体制に甘い汁を吸う、自称穏健派達だからな。  頭の片隅でそう思考しながら報告を聞く。  どうやら牢獄で取り逃がしをしたらしい。 「珍しいな、失敗するなんて」 「所詮は若造ですからな」  私の一言に嬉しそうに言葉を返す古参の大臣。  だが、これを機に更迭、という言葉はでてこない。  なぜなら、改革派とはいえ民衆にある程度の支持がある貴族をそう簡単に  更迭はできない。  それに、更迭したとなれば、誰かがあの役を変わらなくてはならない。  おそらく、ここにいる誰もが、あの役をやりたがらないだろう。 「では、この件は注意をすると言うことでよろしいでしょうか?」  どうせ私が頷かなくても結果は変わらないだろう。  それでも私は 「頼む」  そう言って頷いた。  会議を終えスケジュールに空きが出来る時間。  私は自室へと戻る。  そして窓から外を見下ろす。  そこにあるのは、私の名前にも組み込まれている都市、  ノーヴァス・アイテルの町並みが広がる。  この城からでている橋の先にある聖堂。  そして、城の下に広がる町並み、その先にある平原と、地の果て。  その街の一角よりしたに、不自然に広がる暗闇。 「・・・」  私は空を見上げる。 「私にも羽が生えたのなら・・・自由が手にはいるのだろうか?」  あぁ、私は自由を手に入れられない、羽のない小鳥。  なんて不幸なんだろうか? 「・・・なんてね、くすくす」  羽が生えるとなったら怖い部隊に拉致されて治療院へ送り込まれてしまう。  例え、王族であろうとも。  でも気持ち良いわ。  無い物を欲しがる事ができるなんて。 「・・・馬鹿ね、私」  そして、そんな私を叱咤することも気持ち良いわ。 「ふふっ」  さぁ、また執務の時間がやってくる。  与えられた使命を果たすとしましょうか。  

4月23日 ・穢翼のユースティアSSS”beginning -Mireille-” 「そうか、ご苦労だった」 「はっ!」  提出された報告書を読み終え、ねぎらいの言葉をかける。 「この件は追って指示を出す」 「・・・あの!」  わたしの言葉に報告書を提出した少女、フィオネは退出せず、私に進言  しようとしている。  真面目な彼女のことだ、恐らくは・・・ 「追撃の指示を私に出してはいただけないでしょうか?」  それは、わたしの想像通りの言葉だった。 「どうしてだい?」 「私が取り逃がした患者です、早く処置をしないと大変な事になって  しまいます」  確かに、一般的な考え方ではそうなるのであろう。 「・・・いや、指示は出さない」 「何故ですか!」 「今回の患者は、まだ発症していないのだろう?」 「はい、ですが」 「確かに処置は早いに越したことはない。だが、生活あるものが感染したと  言うだけで隔離されてしまうのは恐ろしい物なのだよ」  わたしの言葉に彼女はうなだれる。  確かに羽狩りは、発症者の家族のことを全く考えていない。  ただ、患者を治療院へ送り届けるだけだ。  強制的に。 「それにな、君が無事で私は良かったと思っている」 「え?」 「君が相手した男、あれは不融金鎖の暗殺者だ」  言葉を失うフィオネ。  不融金鎖の暗殺者、その腕は上層にも届くほど恐ろしい物だった。  その暗殺者のフィールド内で狙われたら最後、気づいたときにはすでに  終わっているからだ。 「わ、私は遅れを取るとは思っていません!」 「そうだな、君がそう簡単に遅れを取るとは思わない、だが万が一という  事も考えなくてはならないのだよ」  この言葉は負ける可能性もあるということを示唆している。  わたしの予想とおり、彼女の顔が屈辱で歪む、だがそれは一瞬のことだった。 「患者を安全に確保し、治療院へ送る、それが第一だがその任務の中に  君たちの安全も入っている、わかるだろう?」 「・・・しかし」  素直なのは良い、だが素直すぎて頑固になってしまうのが彼女の悪い  所だと思う。 「・・・不融金鎖の暗殺者が確保した患者、その患者を不融金鎖と事を  起こさずに確保できるかな?」  牢獄でかろうじて守られている秩序、その頂点にいるのが不融金鎖。 「私は彼たちとも仲良くしたいのだよ」 「・・・」 「別に放置するわけではないよ、準備が整い次第君にお願いする」 「はっ!」 「・・・」  彼女が去っていった執務室は静寂が支配する。  この空気は嫌いではない。 「・・・それよりも」  報告書を見る。  計画通り、いや、それ以上の速さで計画が進行しているようだ。  女神の因子を持つ二人が出会った。  だが、交わるかどうかはまだわからない。 「・・・上手く動いてくれるだろうか?」
4月19日 ・夜明け前より瑠璃色なMoonlight Cradle sideshortstory「同じ気持ち」 「リース、美味しかった?」 「悪くない」  俺の部屋でいつものように俺の足の間に座っているリース。  初めてあったときは俺の腕の中にすっぽりと入るくらい小さかったけど  今は違う、リースも成長しているのだ。  1年前のあの日からリースは活動の拠点を朝霧家に変えた。  あの日の朝、いきなり帰ってきたリースを見て家族は驚いたけど、すぐに  受け入れてくれた。指輪を見つけられてからかわれたりもしたっけ。  それから1年。  俺は考古学者としての活動を続け、リースは使命に生きている。  逢えない日々も少なくはない、でも前とは違う。  リースの居場所は俺の横にあるから。  ずっと待っていられるから。  そして今日はリースの誕生日、この日は絶対帰ってくるようにお願いして  おいたかいもあって、こうして誕生会も開けて、そして一緒に過ごす事が  出来ている。  会話がずっと続くわけではない。  どちらかというと会話が無い時間の方が多い。  ただ、こうしてリースと一緒にいる、それだけの時間。  ただ、それだけの時間が、俺には幸せだった。 「ん・・・」 「リース、眠くなったか?」 「ん」  こくっと頷く。 「そっか、でもその前に風呂に入った方がいいぞ?」 「面倒」  リースらしいな、そう思うと頬が緩んでくる。  それじゃぁ寝るか? と俺が言おうとしたその瞬間。 「タツヤと一緒なら入る」  リースの爆弾発言が飛び出した。  もしこの場に誰か他の人がいたら大騒ぎになっていることだろう。  幸いここは俺の部屋、他に誰もいないから大丈夫・・・ 「いや、大丈夫じゃないだろうに」  リースとお風呂に入ることがばれることを危惧した俺。  リースとお風呂に入ること自体は危惧していない。 「んしょ」  リースは俺の腕から離れる。 「タツヤ、一緒に入る。ワタシとじゃ、嫌?」  嫌なわけは無かった。    風呂場に入ってきたリースは当たり前だけど、一糸纏わぬ姿だった。  年相応に成長したリース。  身長も伸び、身体のラインは丸みを帯びてきている。  髪は昔のままかもしれない。  ・・・胸はあんまり 「むっ」  リースが不機嫌そうな声をあげる。 「タツヤ、いま不穏なこと考えた」 「そ、そんなことは考えて・・・」 「本当?」  上目づかいで俺を見るリース。 「・・・ごめんなさい、ちょっとえっちなこと考えてました」 「ん・・・ならいい」  ・・・いいのかっ? 「タツヤ、髪を洗って」 「あ、あぁ・・・」  小さな腰掛けに座るリース、俺は膝建ちになってリースの後ろにまわる。 「シャワーかけるぞ」 「うん」  シャワーを浴びせて髪を湿らせる。  そしてそっとシャンプーをする。リースの髪は繊細だから、力をかけないように  撫でるようにそっと。 「ん・・・」 「痛いか?」 「違う・・・」 「そっか、なら続けるぞ」 「ん」  頭部の皮膚を痛めないよう、そっとマッサージするように髪を洗う。  それは思ってる以上に大変な作業ではあったけど、苦にはならなかった。  シャンプーを落とし、トリートメントをかけてから、バスタオルで纏めて結わう。 「よし、これでいいぞ」 「ん」  そう言うとリースは風呂からでようとする。 「温まらなくていいのか?」 「お風呂狭い」 「確かに二人ではいるには狭いかもな。先にリースが入るといいよ」 「タツヤは?」 「俺は別にシャワーだけでも大丈夫だ」  ちょっとは寒いかもしれないけど、もう4月だしだいじょうぶだろう。 「・・・タツヤ、先に入る」 「リース?」 「早く」 「あ、あぁ・・・」  リースに促されて、俺は風呂に浸かった。 「ん」  その俺の前にリースは潜り込んできた。  そしていつものように俺の胸に背中を預けてくる。 「問題ない」  そう言って俺の両腕を掴むと、リースを抱くような形にさせられた。 「暖かい・・・」 「・・・」  確かに二人で入るのは暖かいかもしれないけど、いつもと違うこの状況に  俺は焦っていた。  リースは何も纏っていない、俺は腰のタオルだけ。  そんな状況で密着されれば・・・ 「・・・タツヤ、元気」 「そりゃ好きな女の子とこんな状況じゃぁ・・・な」  反応しない方がおかしいだろう、と自分に言い訳する。 「大丈夫、ワタシもタツヤと一緒」  そう言うとくるっと俺の腕の中でリースはこっちに向き直った。 「タツヤ・・・」  上気した頬、揺れるエメラルドグリーンの瞳。 「リース・・・」  その瞳に吸い込まれるように、俺はリースと重なった。  ・  ・  ・ 「タツヤ、元気すぎ」 「面目ない」  風呂場からでた俺はリースを抱きかかえて自室に戻る羽目になった。
4月15日 ・天神乱漫 SSS”えすでーえむ” 「でも珍しいよな、若葉の方からつきあって欲しいだなんて」 「たまにはいーじゃない」 「別に悪いって言ってないさ」  いつも何処に行きたい?と聞くと俺に任せるっていう若葉。  今日のデートに限っては行きたいところがあると言われて、その場所へと  向かっていた。 「それで何処に行くんだ?」 「買い物よ」 「・・・あの、若葉・・・さん? ここはもしかして」  駅前のビルの中、以前卯ノ花の洋服を買いに来たのもここだったが・・・  この売り場は布地面積が妙に狭く、そして色とりどりの物が並べられていた。 「ねぇ、春樹。どれが好みかしら?」  ここはまずい、いろいろとまずい。  俺は逃走することにした。 「それじゃぁ俺は外で待ってるから」 「待って、なんで一緒に選んでくれないの?」 「ここは男のいる場所じゃない」 「回りを気にしてるの? そんなことよりワタシの下着を選んで。  それとももしかして春樹はワタシに下着なんてつけない方が良いって言うの?  そうしてお店で接客に出されるのね・・・ドキドキ」 「そんなこと言わねえよ!」 「じゃぁ春樹が選んでくれる? ワタシの下着」 「・・・」  上目づかいで迫ってくる若葉、断れるわけが無かった。 「しかしやっぱり俺の居場所じゃないよな」  若葉に何着か選ばされて、今は試着室の中に入っている。  俺はその試着室のところで待ってるわけだが・・・ 「・・・」  見渡す限りの下着と、そこにいる人は店員を含めみんな女性。 「逃げ出したくなってきた・・・」  だけどここで逃げるわけにはいかない。若葉と一緒にいる約束をしたのだから。  逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ! 「ねぇ、春樹。ちょっといいかしら?」  若葉のその声が天の助けに聞こえた。 「な・・・にぃっ!!」  振り返った俺の目に飛び込んできたのは、下着姿の若葉だった。 「どう、似合うかしら?」  黒の下着だけを身に纏う若葉。 「えと・・・」 「もしかして春樹の好みじゃないのかしら? やっぱり透ける生地とか、切れ目が  入った方がいい? そしてそれを春樹に着せられてそのまま放置されて・・・  あぁ、なんだかゾクゾクしちゃう」 「・・・」 「春樹、どうしたの?」 「あ、いや・・・似合ってる」 「そう? それじゃぁこれにしようかしら? でもまだ着てないのあるのよね。  ・・・ねぇ、これってどう?」  手に取って広げて見せたのは、縞々模様の布。 「・・・若葉、今着てるのにしよう」 「うん、春樹が好きならこれにする」  そう言って試着室に戻る若葉。 「ねぇ・・・カーテン閉めない方が、いい?」 「閉めなさい!」 「下着買ってくれてありがとう」 「気にすることないさ、今はバイト代もあるしな」 「・・・ねぇ、春樹。聞きたいことあるんだけど」 「なんだ?」  顔を赤らめている若葉。一体何を聞きたいんだ? 「春樹が買ってくれてプレゼントしてくれたの、ワタシすっごく嬉しいの」 「あ、あぁ・・・」 「でも、男の人が女の人に洋服をプレゼントするのって、着せたいからじゃなくて  脱がしたいから、なんでしょう?」 「・・・は?」 「ということは、ワタシはこの黒のアダルトな下着を着せられてから外に連れ出され  春樹の言うがままに脱がされるのよね? この挑戦受けて立つわ!」 「そんなことさせませんからっ!」 「脱がされるためには着なくちゃいけないのよね」 「話を聞いて!?」 「・・・本気(じょうだん)よ」 「だからそう言うルビの振り方は訳が分からないから止めて!」 「もう、春樹ったらワタシを焦らすんだから・・・でもそんなプレイも素敵」 「そこから離れようよ! 俺はそんな事させないし」 「え?」  若葉が突然驚いた顔をする。なんだ? 「駄目よ春樹、春樹はSじゃなくっちゃ。ワタシはMを絶対譲らないわよ?」 「そっちの話かよ!?」 「あ、ワタシとしたことが。Mじゃなくて、ドMだったわ」 「・・・」 「・・・」 「ははっ」 「ふふ、ふふふっ」 「まったく、俺達相変わらずだな」 「そうね、でも楽しいわ」 「よし、腹でも減ったし飯でも食いに行くか」 「そうね、でもその前に下着を着がえないと」 「だからそれはもういいから!」  何処まで行っても相変わらずの俺達だった。
4月12日 ・FORTUNE ARTERIAL SSS”手当て” 「・・・」  重い眠りからふと目覚めた、いや、目覚めてしまった。  覚醒仕切らない意識は、鈍痛によって強制的に目覚めさせられる。  今は何時なのだろう? 「っ!」  起きあがろうとして酷い頭痛が起き、起きあがれなかった。 「ふぅ・・・」  まったく、俺は何をしてるんだろうな。  季節の変わり目、瑛里華に風邪に注意するよう言った本人が酷い風邪を  ひいてしまった。  朝方はそんなに酷くないと思い、一度は授業を受けようと思ったけど、  瑛里華に押しとどめられて、今日は休むことにした。  それは正解だった、もし授業を受けていたら途中で倒れて騒ぎになって  しまったことだろう。 「・・・はぁ」  息を吐く、それだけで身体がだるい。  なんだか目が霞んできてる気がする。  頭にもやがかかってきたような気もする。  回りを見渡す、部屋に誰もいない。  当たり前の事だけど、その事実が怖い。  それは、思い出したくない記憶。  忙しい両親、小さいときも風邪をひいたとき一人で留守番してた記憶。  友達はお見舞いには来てくれない、それは友達を作らなかった俺のせい。 「・・・くっ」  ここに来て親友が出来た、けど今は授業中。  来てくれるわけがない・・・けど・・・  一人は嫌だ。  俺ってこんなにも弱い人間だったんだな。そんなことが頭の片隅に  ちらつく。 「・・・」  嫌だ。一人は嫌だ、誰か・・・誰か・・・  俺は無意識のうちに手を虚空に差し出す。 「誰か・・・」  ふと、虚空の手が暖かい何かに包まれた。  それは、きっと手。 「お母さん・・・」 「大丈夫だ、眠ると良い」  たった一言だった。  だけど俺には十分だった・・・ 「もう大丈夫みたいね、良かったわ」 「心配かけて済まなかった」  気づいたときはもう夜で、俺は起きあがれるほど回復はしていた。  生徒会の仕事を切り上げてお見舞いに来てくれた瑛里華から、缶詰の  果物をもらって食べたところだ。 「・・・」 「どうしたの、孝平?」 「いや、何か忘れてるというか・・・思い出せないと言うか・・・」  今朝、瑛里華がきて休むように言われて、その後のことが良く思い出せない。 「悪い夢でもみたんじゃない?」  夢だったのか? それなら悪夢を見た、そんな気がするけど・・・ 「いや、きっと良い夢だったと思う」 「ならいいじゃない」  そう言いながら俺に横になるように促す瑛里華。 「ほら、まだ治りかけなんだから寝たほうがいいわよ。」 「あぁ・・・」 「なんなら添い寝してあげましょうか?」 「それは魅力的な提案だけど、瑛里華に風邪をうつすわけにはいかないからな」  俺はおとなしく布団をかぶる。 「なら、孝平が眠るまで手を握っててあげる」  そう言うと瑛里華は俺の手を握ってくれる。 「あ」 「どうしたの? 今さら恥ずかしがる事じゃないわ」 「あぁ・・・」 「こう言うのも手当てって言うの知ってた?」 「そうなのか?」 「えぇ、母様から聞いたんだけどね・・・」  瑛里華が得意そうに説明し始めた。  俺はそれを何となく聞き流しながら、眠りに落ちていった。  なんだかまた良い夢が見られる、そう確信しながら。 「お休みなさい、孝平」 「どうしたの、伽耶」 「いや、なんでもない」  あたしは自分の手を見ていた。  幾度も血を吸ったこの手、忌まわしき手のはずなのだが。  今日だけは違った。  あたしのこの手で、人に安らぎを与えることが出来た。 「伽耶。今日はこっちに来てたんでしょう? 午前中は何処にいたの?」 「親離れ出来ない我が子の所だ」 「千堂さんの?」  桐葉が首を傾げるが、そんなことはどうでも良かった。 「まったく、瑛里華といい、支倉といい、あたしがいないと何も出来ないの  だからな」
4月6日 ・eden* SSS”再び悩んで遊んで” 「お帰り、榛名君」 「リョウ、昼食の準備が出来てるから座って」 「あ、あぁ・・・」  午前中、畑仕事を終えて帰ってきた俺はシオンと真夜に出迎えられた。 「とりあえず手を洗ってくる」 「うん、早くしてね」  シオン、そんなに腹が減ってたのだろうか?  手を洗いながらそんなことを考える。  まぁ、いいか。食欲は無いよりある方がいい。  ・・・真夜に関しては困りものだがな。  戻ると昼食の準備が出来ていた。  といっても、俺が付くって置いた物を暖めなおして並べただけだが、それでも  シオンが自ら準備したのだ、それだけ成長してるのだろう。 「待たせた、それじゃぁ食べよう」 「うん♪」  真夜が嬉しそうに頷く。 「真夜は食べ過ぎて食料の備蓄の底がつかない程度にな」 「なんで私だけっ! っていうか、私そんなに食べないよ!」 「そんなことよりも、リョウ。食べましょう」 「シオンにそんなこと扱いされた!」  うるさく反論する真夜をとりあえず置いて俺は食事をとることにした。 「・・・あれ?」  気づいたとき、俺は椅子に座っていた。  そして瞬時に自分の状態を把握する。どうやら俺はリビングの椅子に座った状態で  縛られてるようだ。  縛り方はきつくはない、この程度ならすぐにはずせる・・・ 「身体がだるい?」  しびれてる訳ではないが、妙に身体が重い。こんな状態ではまともに行動できない。 「あ、シオンー、榛名君起きたみたいだよ」 「真夜か?」  今になってシオンが無事なのかどうかに頭が回る、真夜は・・・どうでもいいか。 「リョウ、お寝坊さん」  そう言いながら俺の視界に入ってきたシオンは、いつか着たセーラー服姿だった。 「シオン・・・これは?」 「リョウのシチューに睡眠剤を混ぜて置いた、さすが即効性、効き目抜群」  たまにシオンが天才過ぎて凡人の俺に理解出来ないことをすることがあるが、  今日はずば抜けていた。 「同じシチューをみんな食べただろう?」 「あー、それはね、砕いた睡眠剤を榛名君のシチューにだけいれたの」  そう言いながら俺の視界に入ってきた真夜はこれもいつかの巫女服だった。  まぁ、それはおいといて・・・ 「なに! その榛名君の目は! まるで私は無視されてるみたいな!?」 「よくわかったな」 「そんなのわかりたくなんてないよ!!」 「それよりもシオン、どこでそんな薬仕入れたんだ?」 「私が調合した、普通だとリョウに気づかれちゃうから無味無臭にした」 「いったいどこでそんな知識を・・・」 「あー、わたしそれ知ってる。才能の無駄遣いって言うんでしょ?」  その言葉にシオンは少しむっとする。 「私は真夜と違って馬・・・じゃなかった、溢れる才能があるからたまには無駄遣い  しないと勿体ない」 「今何言おうとしたの?」 「聞きたい?」 「聞きたくない・・・」  二人のやりとりをぼーっとする頭で聞き流す。 「ってか、俺を自由にしてくれないか?」 「駄目だよ、こうしておかないと榛名君また逃げ出しちゃうでしょう?」 「そう、リョウにはどっちが良いか決めてもらう」  そう言うとシオンは俺の前で膝をつく。  そしておもむろにスカートをたくし上げる。   「リョウ・・・私にこんな事させて楽しいの? この変態」 「・・・」  声が出ないのは、その仕草のせいではない。  単に理解が追いつかないだけだ。 「・・・おかしい、今の流行だとこういう仕草が男の人を落とすはず」 「いったいいつの流行だよ・・・」 「ふっふっふっ、シオンにはまだ早すぎたようね。次はわたしの番だよ!」 「え? 真夜のターンあるの?」 「またそれ言うの!! それじゃぁ何のためにわたし着替えたの?」 「私の引き立て役?」 「なんで疑問系なの?」 「・・・」  なんだかもうどうでも良くなってきたような気がした。 「それじゃぁ、気を取り直して」  真夜も俺の前で座る。   「榛名君ってこういう趣味があったんだね、神聖な巫女さんの格好にさせて  何をするつもり?」 「何もしない」 「即答!?」  落ち込む真夜。 「いや、そんな訳なんて無い! きっと私を組み伏せて身体中まさぐられて、  そして全部脱がさないで、わたしのおっぱいの虜になるに決まってる!」 「そんなに楽しそうに言われてもな・・・」 「うー・・・やっぱりおっぱいが大きい方がリョウの好み? エリカが言ってたことは  嘘だったの?」 「シオン? エリカは俺のことなんて言ってたんだ?」 「榛名准尉は特殊な嗜好の持ち主って」  脳裏にあの笑顔が浮かんでくる、なんとなく黒い羽が見え隠れしてる気がする。  エリカ、いつかそっちに行ったら絶対仕返ししてやる! 「そんなことよりも榛名君、おっぱいだけならシオンに勝ててるよね?」  自分の胸を寄せて強調してくる真夜。 「リョウはこっちの方がいい、そうに決まってる」  スカートをたくし上げてむすっとしているシオン。 「榛名君!」 「リョウ」  その二人が突然動きを止める。 「・・・あれ、なんだか眠くなってきたよ」 「私も・・・あ」 「どうしたの、シオン?」 「真夜、リョウのスープを混ぜた時に使った木べら・・・  もしかしてそのまま私たちのスープに使った?」 「・・・あ」 「しまった・・・私としたことが真夜のドジまで計算に・・・」 「うぅ・・・」  どうやらそう言うことらしい、さすがはシオンの特製だけのことはある。 「・・・さて、と」  身体のしびれが取れてきた俺は縄を簡単に外す。 「まったく・・・」  シオンをそっと抱きかかえて部屋に運ぶ。真夜は・・・後でいいか。  ベットに寝かせる、さすがに服を着替えさせるわけにはいかないからそのままだ。 「・・・」  シオンの寝顔を見る、とてもやすらかだ。  またこういう騒ぎに巻き込まれるのは面倒だが・・・ 「シオンの好きに生きればいい、おやすみ」 「うぅ・・・シオンだけずるい」  ソファで目を覚ました真夜は部屋に運ばれてたシオンとの扱いに涙してたのは  後の話だった。
4月4日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory              「楽屋裏狂想曲〜速報!〜」 「こーへー、ビックニュースだよっ!」  監督生室で仕事をしてた俺達の所に、かなでさんが駆け込んできた。 「はぁはぁ・・・お姉ちゃん・・・」  一緒に連れてこられた陽菜は息を切らせていた。 「あ、あの、お水をどうぞ」 「あ、ありがとう、白ちゃん」  そんな陽菜に水を入れてきた白ちゃん。 「そんなことよりもビックニュース、とうとうわたしたちの時代が来たんだよ!」 「私たちの時代?」 「そうだよ、えりりん。とうとうアニメ化されるんだよ!」  アニメ化? 「証拠はあるのかい?」 「会長?」  かなでさんのニュースに珍しく神妙な趣の会長。 「ふっふっふっ、これが証拠だっ!」  そう言って携帯を取り出す。そして再生された動画。 「どうだ、いおりん!」 「あちゃー、フライングしてるよ」 「どういう意味ですか、会長?」 「あぁ、俺だって今の状況に甘んじてるわけじゃない、ゲーム化やアニメ化など  あちこちに働きかけていたんだ。出張生徒会は成功例だが、それで止まる  俺じゃない! 目指せハリウッド!!」 「それは飛躍しすぎじゃないかしら」  瑛里華は横で呆れてる。 「そしてついにアニメ化の企画を通すことに成功したのだ!」 「おー!」 「アニメ化に当たっていろいろと調べた。何が良くて何が悪いのか?」 「伊織、間違ったことは言うな。おまえは何も調べてないだろう」 「ほら、それは役割分担ってことさ」  調べたのは東儀先輩か・・・ 「兄さまは何をお調べになったのですか?」 「・・・あぁ、制作会社の事だ。れもんは〜と、IMAGICAエンタテインメント  バンダイビジュアルなどだ」 「過去に良い作品もあれば悪い作品もあるからね」 「はぁ・・・」  いまいち俺には意味がわからなかい。 「しかし、今回フライングしすぎだよな、征。後で全校集会を開いて  驚かせてやろうと思ってたのに残念だよ」 「はぁ・・そんな事考えてたのね」 「そういえば、あいよくのゆーすてぃあの時もずいぶん各サイトさんが更新を  早くされてましたね」 「良く気づいたな、白」 「はい」  東儀先輩に誉められて喜ぶ白ちゃん。 「それだけオーガスト作品はメディアにとって影響が大きくなった証であろう」 「そんなことよりも!! 問題はストーリーだよ!」  かなでさんが叫ぶ。 「アニメ化だもん、主役はもちろんわたしのヨメ! ひなちゃんだよ!」 「え、私?」  息を整えてた陽菜が驚きの声を上げる。 「そーだよ、その為に連れてきたんだから! アニメの主役のひなちゃんを  よろしく!」 「何言ってるのよ、こう言うときは作品のメインヒロインが主役でしょう?」  瑛里華が反論する。 「千堂さんは人気投票では2位だったわね」  今まで会話に参加せず黙々と仕事をしてた紅瀬さんが会話に加わった。  ・・・それも、爆弾発言で。 「う゛・・・」 「結果が反映されるなら、悠木さんがメインヒロインって事もあり得るわね」 「おおっ、きりきりくーるっ!」 「さっすがフリーズドライ、場を冷やさせるのが上手いねぇ」 「会長、その発言の方が場を冷やさせてると思います」 「支倉君もつっこみ上手くなったねぇ」  そういって笑う会長。  別に上手くなりたくてそうなったわけじゃないんですけどね・・・ 「ほ、ほら。私・・・じゃなかった、あの時は保奈美さんがTV版でメイン  だったじゃない? そしてメインヒロインの美琴さんがDVD版で」 「瑛里華、その例だと瑛里華はテレビ放送時ではメインじゃないと言ってる  ようなものだぞ?」 「え・・・あ」  今さらながらに自分がどういう発言をしてたのか理解したようだ。 「どちらにしろ、物語は千堂さんか悠木さんになるのかしらね。  私には関係ない話しだわ」 「私はヨメはメインならいいけど、きりきりはそれでいいの?」 「えぇ、構わないわ。アニメはアニメよ」  大人な発言をする紅瀬さん、伊達に長生きはして・・・ 「孝平、今何を思ったのかしら?」  突然鋭い目で見つめられる。 「・・・なんでもありません」 「そう? 孝平がそう言うならそう言うことにして置くわ。でも、貸し一つね」  そう言ってウインクをする紅瀬さんだった。 「どちらにしろ、まだ脚本は出来上がってないだろう。  ・・・俺も少し関わってくるかな」 「やめておけ、伊織。おまえが関わるとろくな事にならない」 「そんなことはないぞ?」 「なら聞くが、おまえの野望はどうなった?」 「え? あれは、えっと・・・鋭意制作中?」 「なら、先にそちらを仕上げろ」 「えー、アニメの方が面白そうじゃん、俺が加われば征と白ちゃんのシーン  増やせるよ?」 「あ、私も兄さまと一緒に出演したいです」 「そ、そうか・・・伊織、頼んでもいいか?」 「おう、任せておけ!」 「うー・・・結局どうなるか気になるわ」 「・・・」 「紅瀬さんは気にならないの?」 「決まってもいないことを気にしても仕方がないわ、それに第3位は  いくらがんばっても主役になることなんてないもの」 「悔しくないの?」 「別に良いわ、さっきも言ったけどアニメはアニメ、ドラマCDはドラマCDよ。  大事なことはその後ですもの」 「紅瀬さんの言うとおりかも、アニメはアニメですものね」  陽菜が紅瀬さんの意見に同調する。 「だから、収録が終わった後にね、孝平」  その一言に場が凍り付く。  俺は危険を感じ、その場から逃げ出そうと考えたが・・・諦めた。  紅瀬さん以外の4人が俺の方を見る。 「もてるわね、孝平」  誰のせいですか! 「こう言うときは支倉君に選んでもらえばいいんだよ」 「会長!! このタイミングで爆弾発言しないでくださいっ!」 「はっはっはっ、がんばりたまえ」  抗議しようとしたが、5人の視線に遮られる。 「支倉君・・・」 「支倉先輩・・・」 「孝平・・・」 「こーへー・・・」 「孝平くん・・・」 「誰がヒロインなの?」 「はは・・・」  俺、アニメが始まるまで生きてられるかな・・・

4月3日 ・穢翼のユースティアSSS”beginning -Vinoreta-” 「今戻った」  今回の依頼は思ったより手間取ってしまった。 「おかえりなさい、カイムさん」 「ティアだけか?」  ティアに訪ねる、その答を聞く前に俺が入ってきた扉が開く。 「ただいま、カイム。ごめんなさいね、ちょっと手間取っちゃって」 「そうか、ご苦労だったな」 「ううん、いいの。カイムの一言で疲れが取れたから」  そういってにっこりと笑うエリス。  本当にそれで疲れが取れるなら安い物だな。 「しかし、食材が無かったとは・・・」  夕食の準備に入ろうとして、食材が乏しいことに気づいた。 「申し訳ございません・・・」 「ティアが謝る事はない、店をちゃんと教えてなかったからな」  牢獄での相場は恐ろしく高く、そして変動し続けている。  そんな店で買い物などしたらどんなに金があってもすぐになくなってしまう。 「それで、これから行かれるお店ってどういうお店なんですか?」 「酒場だよ」 「いらっしゃい、あら、カイムじゃないの」  酒場に入るといつもの声で出迎えられる。この酒場を一人で切り盛りしている  メルトだ。 「世話になる」  俺は空いているカウンターの端にすわる。  その横にエリス、ティアと並んで座る。 「あら、この娘は?」  そう言いながら、3人分の飲み物を出す。 「知ってるんだろう?」 「情報としてはね、でもやっぱりカイムに直接聞きたいじゃないの」  そう言って笑うメルトの顔は優しさにあふれてる。  ・・・ように見えるだけなのだろう。 「理由あって引き受けただけだ」  俺はこれで説明は終わりにするため、目の前のジョッキに口をつける。 「カイムも若いわね、エリスちゃんだけじゃ足りないの?」 「っ!」  思わず吹き出しそうになる。 「カイム、私だけじゃ足りないの? それならもっと頑張るから!」 「えっと、何が足りないんでしょうか?」 「・・・」 「あははっ、相変わらず面白いわ、カイム」  このやりとりに本当に面白そうに笑うメルト。  ジークと幼い頃からの知り合いだけに、ジーク同様俺に遠慮がない。  こう言うのを腐れ縁って言うんだよな・・・ 「ねぇ、カイム。今夜は満足するまでつきあうからね」 「何をおつきあいすればよろしいんでしょうか?」  未だにずれた会話をするエリスとティア。  そして笑い続けるメルト。 「・・・メルト、そろそろ飯を出してくれないか?」  固いパンに干し肉、煮込まれたシチュー。  この酒場での定番メニューだ、そして値段も良心的だ。  俺はパンを囓りながら、酒を飲む。  ジークが持っている酒と比べると酷く不味いが、これはそう言う物だと  思えば飲めない物じゃない。  エリスとティアは果実酒を飲みながら食事をして・・・ 「それで、カイムの幼いころって?」 「そうね、あの話がいいかしら?」 「・・・メルト、何の話をしている?」 「カイムの昔話よ?」 「・・・やめてくれ」 「えー、どうしてよ。私と会う前の話聞きたいわ」 「私も聞いてみたいです」  女三人寄ればなんとやら、という言葉があったようなきがする。 「幼い頃のカイムって可愛かったわよ、私のことをお姉ちゃんって言って  慕ってくれたもの」 「カイムは年上が好みなの?」 「えぇ!? そうなんですか?」 「・・・」  メルトの一言に過剰反応するエリスとティア。 「幼い頃は可愛くて今は頼れる、なんてお姉ちゃん好みなんでしょう」 「メルト、もうお姉ちゃんっていう・・・」 「何かしら、カイム?」  笑顔でそう答えるメルト、だが俺はその姿を正視出来なかった。  本能が危険を感じ、対応するよう身体に求めている。  その緊張を感じたのか、エリスもティアも固まっているようだ。 「何そんなに緊張してるのよ、カイム」  メルトからふっと、その気配が消える。 「大丈夫よ、私は優しいから・・・泣く子も黙るくらいね」 「・・・あ、あぁ、悪かった、姉さん」 「そうそう、素直なカイムは可愛くて好きよ」 「・・・疲れた」  酒場からの帰り道、俺は凄く疲労していた。  食事を取りに行ってなんでこんなに疲れなくてはいけないのだろう? 「カイム、帰ったらいっぱい満足させてあげるね」 「えっと、よく解りませんが私も頑張ります!」 「大丈夫よ、ティア。私だけで満足させてあげれるわ」 「そうなんですか?」 「そうよ、私の胸はその為にあるのだから」  俺に安息の時間はあるのだろうか・・・
4月2日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory              「楽屋裏狂想曲〜みんなの思い〜」 「久々のかなですぺしゃるっ!」 「ぐはっ!」  後ろから不意打ちされた俺はおもいっきり吹っ飛んだ。  ここが白鳳寮の廊下でふかふかの絨毯が敷かれてなかったら怪我をしてた  かもしれない。 「いきなり何するんですかっ!」 「それはわたしの台詞だよっ!」  かなでさんの真剣な顔に、俺の怒気は収まった。 「どうかしたんですか?」 「なんで、なんでなの? こーへー?」 「えっと、何が?」 「なんで私の誕生日のお話が楽屋裏なの!?」  ・・・ 「あの、意味が解らないんですけど」 「今日は私の誕生日なのに、なんで私が主役のお話がないの? 無いだけなら  まだ我慢できるけど、なんで楽屋裏になってるの?」  かなでさんの誕生日なのは知っている。 「何騒いでるのかしら?」 「あ、紅瀬さん」  近くを通りがかったのだろう、紅瀬さんがこちらに来た。 「ほら! 楽屋裏だとみんな一杯出てきてわたしの出番減っちゃうじゃない」 「・・・はぁ、まだ理解してないのかしら」  紅瀬さんがため息をつく。 「そんなことよりこーへー、今すぐわたしの部屋に行こうよ、そうすればまだ  間に合うから!」  そう言って俺の手を引くかなでさん。 「まちなさい、このまま部屋に戻ったら話は続かないわよ?」 「ほら、こーへー行くよ!」 「ちょっと、危ないですって」 「・・・私の話、聞いてるかしら?」 「今日という日は有限なんだから。ほら、こーへー!」 「話を聞くときは静かにするって習わなかったかしら?」  その紅瀬さんの声は低く、そして響いた。 「悠木先輩、去年も言った話は覚えてるかしら?」 「え、えっと・・・なんだっけ?」  廊下に正座してる俺とかなでさん。  その前に立つは紅瀬さん。  下から見上げる紅瀬さんのボリュームは・・・ 「孝平は何処をみてるのかしら?」 「い、いえ・・・話を続けてください」 「・・・ふぅ、悠木先輩は6年生よね、その時孝平が転入してきた。  このとき、まだ人間関係は誰とも親密じゃなかったのよ、わかる?」  確かにその通りだ。 「そしてどんなルートを通ってどんなフラグを立てたとしても、次の悠木先輩の  誕生日の時、悠木先輩はここにはいないのよ?」 「・・・しまったぁ、そうだったぁ!」 「だからね、悠木先輩」  そう言うと紅瀬さんはうなだれてるかなでさんの前にかがみ込む。 「・・・誕生日おめでとうございます」 「へ?」  そう言うと小さな箱をかなでさんに渡した。 「楽屋裏にしないと、寮でプレゼント渡せないから。それにね・・・」  紅瀬さんが立ち上がり振り返る。  そこには瑛里華や陽菜、白ちゃんが立っていた。 「孝平、準備は良いかしら?」 「あぁ、それじゃぁかなでさん、行きましょうか」 「・・・うん、うん!」 「あとでちゃんとみんなにお礼しなくっちゃね」  誕生会はお開きになり、みんな部屋へと帰っていった。  かなでさんだけがまだ俺の部屋に残っている。 「そうですね、みんなの誕生会も盛大にしなくちゃいけないですね」 「うん」 「・・・」 「・・・」  二人っきりになって、急に落ち着かなくなった。 「ふふっ」  かなでさんが笑いだす。 「?」 「んー、さっきまで楽屋裏じゃやだって思ってたけど、そう悪くないかなって  思ったの。こうして二人っきりにもなれたしね」  そう言って微笑むかなでさん。 「あ、でもでも、だからといってその、えっとぉ・・・」  急にしどろもどろになる。 「あ、あはは・・・」 「かなでさん?」 「ううん、なんでもないの」  そういって一度目を閉じるかなでさん。 「ありがとう、こーへー」 「え?」  かなでさんは俺の頬に口づけしてきた。 「えへ」  頬を赤くしてるかなでさん。 「本当はちゃんとしたのがいいんだけどね、今日は楽屋裏だから。  抜け駆けはしないよ? 続きは、ちゃんとみんなと勝負してからね」
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