思いつきSSログ保管庫
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雑記掲載SS保管庫 2007年第1期 3月29日 遙かに仰ぎ、麗しの sideshortstory 鷹月殿子 3月23日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 東儀白 3月16日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 紅瀬桐葉 3月14日 オリジナルショートストーリー 冬のないカレンダー#3 3月6日 FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 悠木陽菜 3月1日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 鷹見沢菜月 2月14日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 2月14日 オリジナルショートストーリー 冬のないカレンダー #2 2月5日 SHUFFLE! sideshortstory 2月3日 夜明け前より瑠璃色な -if- sideshortstory 2月2日 オリジナルショートストーリー 冬のないカレンダー 2月1日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 1月31日 いつか、届く、あの空に sideshortstory 1月29日 いつか、届く、あの空に おまけしなりおsideshortstory 1月25日 遙かに仰ぎ、麗しの sideshortstory 未収納 1月24日 月は東に日は西に sideshortstory 1月22日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory Mai Asagiri 1月5日 Canvas sideshortstory 1月4日 月は東に日は西に sideshortstory 1月3日 D.C. sideshortstory 1月2日 夜明け前より瑠璃色な sideshortstory
3月29日 ・遥かに仰ぎ、麗しの sideshortstory 「ごちそうさまでした」 「お粗末様でした」  いつものように自室で殿子の作ってくれたご飯を食べる。 「今日も美味しかったよ、殿子」 「ありがとう、お父さん」  お父さん。  そう、殿子の求めてる物は恋人ではなく、家族。  だから僕は殿子のお父さんになった。 「それじゃぁ、洗い物するね。」  食器を持って部屋に備え付けのキッチンに行く殿子。  僕は一人では持ちきれない分の食器を持っていくだけ。  いつか、手伝おうかと聞いたことがあったけど、殿子にやんわり  断られてしまった。 「・・・なんか、どっちが保護者かわからないな」 「ん? 何か言った?」 「なんでもない」  とりあえず、風呂にお湯をはっておくか。 「あの・・・お父さん?」 「なんだい?」  洗い物を終えてベットの所に戻ってきた殿子。  ・・・なんだろう、緊張してるみたいだな。 「あの・・・お風呂、入ろう?」 「あぁ、先に入って良いぞ」 「そうじゃないの・・・お父さん。その・・・一緒に入ろう?」 「あぁ、一緒に・・・って、なにっ!?」  一緒? ってことはあの狭い空間に裸で? 「うん」 「ななな、なんでかな?」  動揺して声が裏返ってるのがわかるけど、それより理由だ。 「あのね、家族はお風呂に一緒に入るって聞いたから。  お父さんの背中を流してあげたいの」  家族、その一言を聞いて僕の動揺は収まっていった。  なんてことない、家族と、父親とのコミュニケーションがしたい  だけなんだ。家族との絆をもっと深めたいだけなのだ。 「・・・だめ、かな?」  ちょっと悲しそうな顔をする殿子。  僕は、殿子のお父さんなんだから、答えは決まってる。 「良いぞ、殿子」 「本当? ありがとう!」 「でも、一つだけ僕のお願いを聞いてくれるのが条件だ」 「なに?」 「水着を着てくれないか?」 「なんで?」 「そのな・・・こればかりは親子でも恥ずかしいんだよ」 「私は恥ずかしくない」 「僕が恥ずかしいの、お父さんにもいろいろあるんだよ」 「そういうものなの?」 「そういうもん」 「・・・わかった」 「ありがとう、殿子」  ふぅ・・・なんとかなりそうだ。  先に水着に着替えて浴室に入る。  寮の部屋についてるバスは、普通のマンションのユニットバスとは違って  一人で入って足をのばしても余裕があるくらい大きなお風呂だ。 「・・どきどきしてきた」  いくら娘とはいっても、教え子の年頃の女の子だ。 「良いお父さんでいられるだろうか・・・」 「おまたせ、お父さん」 「おう、それじゃぁ背中を流して・・・」  振り返ってみると、バスタオルをまいた殿子がいた。 「お父さん、座って」 「あ、あぁ・・・」  殿子はバスタオルを巻いてるだけで、その下には水着を着ているのだ。  だから、大丈夫。水着姿なら海水浴の時にも見ているのだから。  落ち着け、落ち着け・・・  そんな僕の葛藤に気づくふうもなく、殿子はタオルに石鹸をつけて  泡立てていた。 「お父さん、痛かったら言ってね」 「あぁ、頼む」 「うん!」  ごしごし。  殿子が一生懸命僕の背中を洗ってくれている。 「・・・痛くない?」 「痛い所か気持ちよいよ」 「うん・・・よかった。初めてだから加減がよくわからなくて」 「だいじょうぶ、そのまま頼む」 「うん」  女の子の力じゃいくら強くされても痛くはないだろう。  それどころか、手の届かない所を丁寧に洗ってくれるのは気持ちが良かった。 「・・・お父さんの背中、大きい」 「そうか?」 「うん・・・大きい」  そのまま殿子は俺の背中に寄り添ってくる。 「と、殿子?」 「大きくて暖かい・・・」  寄り添ってくる殿子のふくらみがバスタオル越しに背中に当たっているのが  わかる。  落ち着け、落ち着け・・・  殿子が求めているのは父親の背中なんだから。 「よし、今度は殿子の背中を洗おう」 「・・いいの?」 「何を遠慮するんだ、家族なのだから」 「・・うん」  嬉しそうに笑う殿子。  うん、僕は間違ってない。大丈夫だ。  殿子は背中をこちらにむけて座った。 「お願い、お父さん」  そう言うと殿子はバスタオルをはずす。  そして、水着を脱ぎだした。 「・・・え?」 「なに?」 「だって、水着を・・・」 「背中を洗うんだもの、着てたら洗ってもらえない」  た、たしかに正論だ・・・  そうこうしてるうちに、殿子の背中はすべてあらわになった。 「準備おっけい」 「・・・」  覚悟を決めろ、滝沢司! 今の僕は殿子のお父さんだぞ!  ふるえる手でタオルに石鹸をつけて、そっと殿子の背中を洗う。 「んっ」 「痛いか?」 「ううん、違うの。なんだか気持ち良くて」 「そ、そうか・・・」  ・・・非常にまずい、とにかくまずい。  早く背中を流してしまわないと、まずい。  かといって乱暴に出来るわけがない、そっと丁寧に背中を洗う。 「・・・ん」 「・・・」 「・・・お父さん、気持ちいい」 「そ、そうか」  手桶でお湯をかけて、背中を流し終えた。 「ありがとう、お父さん」 「これくらいなんともないさ」  ・・・本当はすごく疲れてるけどな 「お父さん、一緒に暖まろう?」 「あ、あぁ・・・」  生き地獄、という言葉がふと、脳裏をよぎった・・・ 「あははっ、そういうふうに思ってたんだ」 「笑うなよ、あのときは良いお父さんでいるのに大変だったんだぞ?」  あのときと同じ部屋に備え付けの浴室の浴槽の中に僕と殿子が入っている。  足を延ばして座っている僕の前に殿子が背中を預けて座って、  殿子をそっと抱きしめながら暖まっている。  あのときと違うのは、水着を着ていないことと、関係。今は恋人同士。 「でも嬉しかった。お父さんとの思い出が出来て」 「あぁ、僕も間違っていないって思う。ただ、教え子とお風呂に入ると  言うのには問題があったかもしれないけどな」 「司、私は今でも司の教え子だよ?」 「殿子は教え子でもあるが、俺の大事な恋人でもあるからな」 「・・・うん」  殿子がそっとくちびるを重ねる。 「よし、殿子。背中流してくれないか?」 「うん。でもその後は」 「わかってる、殿子の背中を流してやる」 「・・・それだけ?」 「・・・わかったわかった、その後は風呂からあがってからな」 「うん♪」 ---  お風呂上がりに何があるのでしょうね?(笑)  というわけで、遥かに仰ぎ、麗しのから殿子のお話でした。
3月23日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory  お昼休みの始まりと共に、私は教室を出る。  人がいっぱいいるところは苦手だから、兄さまが待つ生徒会室で兄さまと  一緒にお昼ご飯を食べることにしているの。  兄さまにたよってばかりじゃ駄目なのはわかってるんだけど・・・ 「ふぅ」  自然とため息が出ちゃう。  ・・・早く行かないと、兄さまが待ちくたびれてしまうから、急がないと。 「あっ、白ちゃん発見っ!」  遠くから私の名前を呼ぶ声に、反射的にびくっとする。  この声は・・・ 「あ・・・りょ、寮長さん」 「こんにちは、白ちゃん。ちょっと、いいかな?」 「あ、兄さまが待っているので・・・ごめんなさい」 「おっ、それはちょうどいい。生徒会財務担当の東儀征一郎君に関わる事だから」 「兄さまに?」  なんだろう?  寮長さんがいつも一緒なのは会長の伊織さんと副会長の瑛里華さんなのに。 「あのね、白ちゃん。何も言わずに協力して征一郎君を落として欲しいの!」 「え?」  兄さまを落とす?  どういうこと? 「実はね、寮の方でちょっとした孝平くんの歓迎パーティーをサプライズして  開きたいの。もちろん、会長や瑛里華ちゃんにも協力してもらうんだけどね。  たぶん、会長や瑛里華さんが暴走して、征一郎君に止められて却下っていう  流れになっちゃいそうなのよ、これが!」 「・・・」  暴走するのは寮長さんも同じなのではないのでしょうか? 「そこで、ストッパーである征一郎君を巻き込むか、押さえ込んでおけば  このサプライズは成功するのです!」  押さえ込む?  巻き込む? 「だから、征一郎君を説得する最強の助っ人、白ちゃんが私には、私たちには  必要なのですっ!」 「ま、巻き込むって、何をするんです?」 「んー、最重要機密なんだけど公開しちゃおう!」  そういうと寮長さんは周りを気にしてか、私に近づいてくる。 「!?」  私は一歩後ずさる。 「大丈夫だって、痛くしないから」 「っ!」  笑いながら近づいてくる寮長さんが、怖いっ!  怖くて目をつぶったその後すぐに  すぱーんっ! 「えぅ」   何かをたたく音と、寮長さんの悲鳴?の声が聞こえた。  おそるおそる目を開けると、そこには頭を抑えうずくまっている寮長さんと 「ごめんなさいね、東儀さん。」  寮長さんと雰囲気の良くにた女の子、妹の陽菜さんが・・・  スリッパをもって立っていた。 「お姉ちゃん、東儀さんを怯えさえて何してるのよ!!」 「私なりのコミュニケーションのつもりだったのに」 「コミュニケーションじゃないっ! 怖がらせてどうするのよ!」 「・・・」  何がなんだか全然わからなくなってきた。 「東儀さん、ごめんなさいね。生徒会室に行く所だったんでしょう?」 「あ・・・はい」  そうだ、兄さまの所に行かないと。 「ほら、お姉ちゃんもちゃんと謝りなさい」  そういって振り返った先には・・・誰もいなかった。 「・・・逃げたわね」 「・・・」 「その、東儀さん。生徒会室まで送ろうか?」 「あ、だいじょうぶです」 「そう? それじゃ私は元凶を捕まえに行くわね。  後でちゃんと謝らせるからね」 「い、いえ・・・」 「ほんと、ごめんね。それじゃぁね!」  そういって走って去っていった。 「どうした? 白。」 「あ、兄さまっ!」  生徒会室から迎えに来てくれた兄さまの元へ小走りで駆け寄る。 「あんまり遅いから心配したじゃないか」 「おい、征一郎。ほんの5分ほどじゃないか?」 「だまれ、伊織。白に何かあってからじゃ遅いんだぞ?」 「はいはい、それじゃぁ戻るとするか。」  兄さまと会長さんの後ろについて歩きながら、私は今更ながら  寮長さんの、たった一言を思い出していた。 「孝平君の歓迎パーティーを」 「・・・支倉先輩」  私は自分でも気づかずに、先輩の名前を口にだしていた。  物静かな兄さまとは違って伊織さんに似たような活発な人だけど  あの優しい目は、兄さまと同じだった。  あのときの、支倉先輩と初めて出会った時に見た、優しい目。  その先輩を歓迎するパーティー・・・か。  私はたぶん出ることは無いと思うけど、パーティーはあっても良いと思う。  私には何も出来ないけど、寮長さんや伊織さんが暴走しないことを祈ろう。  そう思いながら、生徒会室へと向かう。  このとき、自分を変えていく最初の、ささやかだけど大きな一歩を  踏み出した時だった、ということに気づいたのはずっと後のことだった。
3月16日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory  いつものように中庭のはずれ、大きな木の下でお弁当を食べる。  その後木にもたれかかって目を閉じる。  学園の喧噪は広すぎる中庭のはずれまで聞こえてこない。  聞こえてくるのは静かな風のささやきと、小鳥の歌声と、  ガサガサッ  ・・・茂みの中を誰かが通る音。  閉じていた目を開けて、音のする方をみると茂みが揺れている。 「ぷはっ!」  そこからあらわれたのは制服の帽子をいつもかぶっている、小さな  寮長だった。 「ややっ、桐葉ちゃんじゃありませんか。こんにちはっ!」 「・・・」 「んもぅ、挨拶はコミュニケーションの基本だぞ?」 「私は別にコミュニケーションをとりたいとは思ってませんから」 「それじゃぁ、いつもお世話している寮長さんへの挨拶ならどう?  礼儀になるじゃない?」  えっへん、と言いたげそうに小さな胸をそらしてみせる寮長。 「・・・」  私は無言で小さな寮長を見つめた。 「・・・」 「・・・」 「・・・ごめん、私の負け。いつもお世話になってます」 「はい」  私は特に世話をしてる訳じゃないのだが、寮では何かとこの小さな  寮長に巻き込まれることが多い。 「ねぇ、桐葉ちゃん。さっきから妙に胸騒ぎするんだけど・・・  私に変な形容詞つけてない?」 「・・・別に」 「その空白の時間はなにっ!」 「・・・」 「・・・」 「それより、寮長。どうしてここに?」  ここは私のお気に入りの場所。誰にも教えたことはないし来ることも  無いはずなのだけど。 「あっ、桐葉ちゃんお願い、私を匿って!!  不当な弾圧を受けて私は今逃亡者なの、それは恐ろしい追跡者が」 「だ・れ・が、恐ろしい追跡者なのかな? お姉ちゃん」 「ひっ!」  いつの間にか後ろにあらわれた小さな寮長の妹で私のクラスメイト、悠木さん。 「さぁ、お姉ちゃん。謝りに行きましょうね?」 「すまないのぅ、ヨメに苦労かけるのは」 「そんな甲斐性捨てちゃいなさい!」 「えぅ、まだ最後まで言ってないのにぃ・・・・」  小さな寮長は悠木さんに首の後ろを捕まれて、借りてきた猫のような格好で  引きずられていく。 「紅瀬さん、お騒がせしてごめんなさいね」 「いえ・・・」  私が小さく返事をすると 「あっ・・・」 「?」  驚いた顔をした二人の姉妹がいた。 「見た? 今見た? 桐葉ちゃんが!」  すぱーんっ! 「えぅ」 「お姉ちゃん、落ち着いて」  悠木さんがどこからともなく取り出した携帯スリッパで小さな寮長の頭を  はたいていた。 「ごめんなさい、もう失礼しますね。」 「えぇ」 「・・・紅瀬さん、少し変わったね」 「え?」 「やっぱり、支倉君のおかげなのかな?」 「・・・」 「それじゃぁ、失礼します」 「うぅ・・・またね、桐葉ちゃん」  引きずり引きずられながら仲の良い姉妹は去っていった。  そこに残されたのは静寂。  風のささやきと、小鳥の歌声と・・・  でも、私の耳にはそれは届いてなかった。 「私が・・・変わった?」  私は何も変わってない。変わってないはず。  でも・・・  あの転校生。支倉孝平が来てから、周りは変わっていったと思う。  もしかすると私も・・・  そのときの私の口元がほころんでいたことは私自身も気づいてなかった。 ---
3月14日 ・オリジナルストーリー 冬のないカレンダーシリーズ  3月14日:春に三日の晴れ無し 「ふぅ」  何度目のため息だろう?  休み時間の教室、周りの女の子達はそわそわしているのがわかる。  今から一月前のバレンタインデーにあげた本命チョコのお返しが、いつ  来るかどうかどきどきしている真っ最中。  でも私は・・・ 「はぁ・・・」 「なぁにため息ついてるのよ?」 「・・・なに?」  声のした方を振り向きながら答える。  そこには私の親友・・・いや、悪友の唯がいた。 「今不穏な事考えてない?」 「・・・なんで?」  ・・・鋭い。 「うぅ・・・そんな怖い顔しないでってば〜」  え? 今の私ってそんな怖い顔してる? 「ん〜、怖いっていうよりぼけてる感じ?」  ・・・疑問系? 「どうせ幼なじみの彼から何の反応も無いことに腹たててるんでしょ?」 「べ、別にアイツは関係ない・・・・」 「はいはい、ごちそうさま」 「・・・」 「おー、怖い怖い、邪魔者は撤退しないとね。馬に蹴られたくないから」  笑いながら教室から出ていった。  結局放課後になってもアイツからはなんのアプローチもなかった。 「忘れてるのかなぁ?」  アイツはああ見えてもやるときはやる人だから、忘れる訳はないと思う。  でも、当日の放課後になって、アイツは先に帰ってしまったようだし・・・ 「はぁ・・・」  やっぱり期待しちゃいけないのかなぁ。 「よし、帰ろうっ!」  私はそのことを振りきるように、コートを羽織った。  学校を出て帰りの通学路からちょっと離れたところにある大きな公園。  一月前にアイツを呼び出して文字通りのすれ違いがあった噴水広場のベンチ。  そっとベンチに座る。  約束はしていない、だからここで待っていてもアイツが来るわけがない。  でももしかして・・・?  そう思ってしまうとこのベンチから離れる気がしなくなる。 「ちょっとだけ、待ってみよう・・・かな」  前の時と同じようなすれ違いが無いように、時折噴水の周りを確認する。  ・・・  ・・・  ・・・ 「あーっ、もうっ! なんで私がこんな気持ちで待ってないといけないのよっ!」  そうよ、待つなんて私じゃないっ!  アイツの家に押し掛けて奪う物を奪ってしまえばいいのよっ!  そう思うと腹が立ってきたけど、頭の中はすっきりした。 「よしっ、まずは家に帰って戦の準備っ!」  昨日買ってきた美味しいクッキーを食べて腹ごしらえしてからにしよう。  戦の前の食事は大事だから、ね。 「ただいまーっ!」  部屋に戻る前にリビングを目指す。  しまってあるクッキーを回収して、そうだ、紅茶もいれよう。  午後のティータイムを優雅に過ごしてから・・・  そう思いながらリビングに入った私は・・・ 「よぅ、遅かったな」 「なにやってたの? ずっと前から待ってるのよ?」  ごんっ。  リビングで私のとっておきのクッキーを食べているアイツとお母さんが  談笑している二人を見て思わず壁に頭をぶつけていた。 「なんでなのよっ!」 「折角訪ねてくれたのに邪険にしちゃだめじゃない。それにぼけてから  つっこみだなんて、順番がおかしいわよ?」 「別にぼけてるわけじゃないっ! それにそのクッキーは私のとっておきなの!」 「ちょうどお茶菓子切れてたのよね、ごちそうさま」  ・・・なんだか頭痛がしてきた。 「あ、そうそう。私はこれから晩ご飯の買い物に・・・  そうね、2時間くらい行って来るから」  お母さん、何を強調してるんですか・・・ 「そういうわけでごゆっくり」  そういってお母さんは買い物に出発してしまった。  そしてその場には気まずい沈黙が支配してしまった。 「あのさ・・・」 「えっ!」  急にアイツが声をかけてきたので思わず驚いた。 「ちょっと頼み事していいか?」 「な、何の事?」 「いや、さ・・・その、さ・・・」  なんだろう? アイツが緊張している?  そうわかってしまったら私も緊張してきちゃった。  お母さんがいない、二人だけの空間。  何かあっても何も出来ない・・・ 「えと・・・その・・・何?」 「目・・・つぶってくれないか?」  ・・・え?  えーっ!!  それって・・・もしかして・・・・ホワイトデーのお返しって  そういうこと? もしかしてもしかして、その先も?  どうしよう、心の準備が・・・あ、今の私ってどんな格好してるんだっけ?  可愛い下着つけてたっけ?  えと・・・えと・・・ 「頼む、目を・・・つむってくれ」  気がつくとアイツは私の目の前にいた。  私は・・・うん、女は度胸。  思い切って目をぎゅっと閉じる。  ・・・  私の顔の横の空気が動く、きっとアイツの手があるんだろう。  そして頬をそっと抑えてきっと・・・  そう思った私の首の後ろにアイツの手がまわる。  えっ、いきなり?  そう思った瞬間。  ごんっ! 「いたっ!」  私のおでこに何かがぶつかった。  額を抑えてうずくまる私。 「・・・つぅ」  目を開けると目の前に同じように頭を抑えてうずくまるアイツ。  ・・・二人で何してるんだろう?  それに、私の期待は? それよりもなんで頭突き? 「・・・」  私は怒りのあまり何も言えなかった。  そして、涙を抑えるのに精一杯だった。 「やっぱりこういうのは俺にはあわないな・・・  今はそれで我慢しろよな、それじゃぁな!」  アイツはそういって去っていった。 「・・・なんなのよっ!!」  階段を踏みつけるように上がっていき、自分の部屋の中にはいる。  もっていた鞄をなげつけて、ベットに仰向けに倒れ込む。  アイツ、許せない。乙女心を踏みにじったアイツを・・・許せないっ!  でも・・・嫌いになれない・・・だって・・・  涙がまたこぼれそうになった。  あわてて目を抑えようとしたとき、私の胸の所から金属のこすれるような  音が聞こえた。 「?」  自分の手を胸元にあててみると、そこに心当たりの無い金属の感触を感じる。  ベットの上で上半身を起こしてみると・・・ 「・・・綺麗」  そこにはシルバーのネックレスがあった。  もちろん、私はこんなネックレスを持っていない。  学校に着けていった記憶も無い。  そのとき不意にアイツの言葉がよみがえる。 「今はそれで我慢しろよな」  ・・・あのとき、つけてくれたんだ。  あふれる涙を、今度は我慢しなかった。 「格好つけすぎだよ・・・それに、今はって・・・期待しちゃうじゃない」  ぶっきらぼうで、ぼーっとしてて、やるきなさそうにしているアイツだけど  やるときはやる、そんなアイツが 「大好きだよっ」  少し落ち着いてくると、私の机の上に箱が二つあることに気づいた。  一つは開封されていて、たぶんこのネックレスの箱だろう。  もう一つは開封さえてなく、メッセージカードがおかれてある。 「たぶん、必要だろうから、これはおまけだ」  私は包装を丁寧にはずして中の箱を開けると・・・ 「・・・出来すぎ」  ハンカチが収まっていた。 「・・・」  私のことをちゃんとわかってくれているのだけど・・・ 「ここまでアイツのシナリオ通りっていうのは悔しいわね・・・  いえ、悔しいなんてもんじゃないわね。」  うれしさを怒りが一緒にこみ上げてくる。 「私を泣かせた事を、後悔させてあげるわ。絶対逃がさないから  覚悟しなさいよ!」 --- 「春に三日の晴れ無しってよく言うけど・・・  まさに恋する女の子の気分よね。あの子ちょっとひねくれてるから  上手く行くといいんだけどね。がんばれ、男の子、女の子!」  でも、ちょっと失敗だったかしらね。近所への買い物で2時間・・・  どこで時間をつぶせばいいのかしらね。  ・・・似た物親子であった。 ---
3月6日 ・FORTUNE ARTERIAL sideshortstory 「ねぇねぇ、ヒナちゃん知ってる?」  息を切らせながらお姉ちゃんが部屋に入ってくる。 「お姉ちゃん、寮の中を走っちゃだめだよ?」 「そんなことよりヒナちゃんニュースニュースだよ!」  お姉ちゃんのニュースって、また何かするのかな? 「あのね、ヒナちゃん聞いて驚くのだ!」 「・・・」 「ん、もうっ、反応薄いよ? すごいことじゃない!」 「お姉ちゃん、ニュースまだ話してくれてないよ?」 「あ、そうだった。」  てへっと舌を出す仕草を見ると、どう見ても年上には見えないけど  れっきとした私のお姉ちゃん。なんだよね。 「あのね、帰ってくるんだよ! 孝平君が!」 「え?」  帰ってくる、私が幼い頃一緒に遊んだ支倉・・・支倉孝平君が? 「それもね、修智館学園に転入するんだよ! もちろん、この寮に引っ越して  来るの。楽しみだよねっ!」  孝平君が帰ってくるんだ・・・何年会ってなかったんだろう?  どんな男の子になってるんだろう? 「きっと格好良くなってるよね? あ、もしかして可愛くなってたりして」 「お姉・・ちゃん?」 「それで久しぶりにあった幼なじみを見て「綺麗になったね」なーんて!」 「お姉ちゃん?」 「孝平君は・・・格好良くなったね、なんて返したりして。そしてそして  「かな姉には敵わないよ」とか言われちゃったりして」 「お姉ちゃん!」 「それでそれで良い雰囲気になったりして!」 「・・・えいっ!」  すぱーんっ! 「いたっ、ヒナちゃんがスリッパでぶったー、ぶったー!」  私はお姉ちゃん専用の携帯用スリッパで暴走を止めた。 「お姉ちゃんが人の話を聞かないからです!」 「ごめんよ〜、ヨメに迷惑をかけるのは旦那の甲斐性なんだよ〜」 「そんな甲斐性捨てちゃいなさい」 「えぅ〜」 「それで、お姉ちゃんのことだからもうなにか企んでるんでしょう?」 「ひどい、ヒナちゃん。企むなんて・・・企画してるって優しく言って」 「どっちも同じです」 「うぅ・・ヒナちゃんのいぢわる〜」 「それで、何を企んでるの? 白状してくださいね」 「ヒナちゃん・・・笑顔が怖い」  誰のせいだとおもってるんですか?  私は心の中でそっとため息をついた。  でも、それ以上に期待している自分がいることに気づいていた。  幼い頃いつもお姉ちゃんと孝平君と一緒だった。  転校して島から出ていってしまったあの時まで。  また3人一緒の時間が流れ出す。  きっと今よりもお姉ちゃんは暴走して私が苦労して。  そうなるのはわかるけど、孝平君が加わったら・・・  きっと、もっと楽しくなる。  そんな予感がした。
3月1日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「ん・・・」  徐々に眠りから覚めていく。 「・・・」  まだ眠い・・・もっと達哉と寝ていたい。  ・・・達哉?  そのとき私は達哉の肩の辺りに顔を乗せていることに気づく。  というか、認識する。 「っ!」  一気に覚醒する。  週末、達哉が私の住んでいるいる部屋に遊びに来てくれた事。  大学を案内したり一緒にショッピングをして楽しんだこと。  部屋に戻って・・・我慢できなくなったこと。  夜・・・激しかったこと。  ぼんっ!  自分でも音を立てて顔が真っ赤になるのがわかる。  久しぶりだったから、達哉と一つになりたかったから、私から  押し倒しちゃって・・・達哉の上であんなに・・・  でも、達哉もあんなに激しく・・・ 「って、何思い出してるのよ、私は」  ベットからそっと起きあがり部屋の暖房のスイッチを入れる。  程なくしてエアコンから暖かい空気が流れ出し、部屋を暖める。  傍らに眠る達哉を見る。 「・・・まだ起きそうにないわね」  それはそうだろう、あれだけ激しく頑張ったのだから・・・ 「だから、そこに思考を戻さないのっ!」  でも・・・  熟睡してる達哉の顔ってこんなにも可愛いんだ。  そっと前髪を撫でてみる。 「・・・くすっ」  暖かい気持ちが心を満たしていくのがわかる。 「達哉だけだよ? 私をこんな気持ちにさせてくれるの・・・」  そして、そっと唇を重ねる。 「そうだ、朝ご飯の支度しないと」  いつまでもカーボンカーボンなんて言わせないわよ?  私だって上達してるんだから。  カーボンになる確率もだいぶ減ったんだからね?  ・・・まだ何度かに一度あるけど。  ベットから出た私はまず、散らばってる洋服を集めた。  今の私は何も着ていない・・・のではなく、何故かオーバー  ニーソックスだけははいていた。  これだけは脱がせなかった・・・訳ではなく、そこまで二人に  余裕が無かっただけ・・・だとおもう。  きっと達哉の趣味じゃないと・・・思うんだけど・・・  そういえば、大学で出来た友達がこんなこと言ってたっけ。  男の人は浪漫を求める物だって。  浪漫を求めるのならお父さんだってしてるからわかるけど、  だからって何も着ないでYシャツだけとか、エプロンだけとか  メイドさんとか・・・  あ、でもウエイトレスの制服でなら、もう・・・  ぼんっ! 「うぅ・・・私ってこんなにもえっちだったんだ・・・」  達哉とはそれだけじゃないのに。  それもこれも昨日の夜の達哉がすごすぎだせいなんだからね?  ・・・そういうことにしておこう。 「いけないいけない、朝ご飯の支度しちゃわないと」  着替えようとして・・・ 「・・・達哉も、エプロンだけの方がいいのかなぁ」  ・・・ 「ちょっと、試すだけだからね?」  達哉が寝てるのを確認してから、私は着替えずにキッチンへ行き  普段つかってるエプロンだけをつけてみた。 「なんか・・・変な感じ」  胸元はエプロンで隠れてるけど、お尻は全く隠れてないから落ち着かない。 「あー、だめだめ、やっぱり恥ずかしいよぉ」  あわててクローゼットからショーツを取り出して穿く。 「ううん・・・もう朝か?」  そのとき私のベットの上で達哉が起きた。 「あ、達哉。おはよう!」 「おはよう、なつ・・・」  達哉が私の方をみて固まる。  そのとき私は、今どんな格好をしてるかを思い出した。  ぼんっ!
2月14日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「ふぅ」  俺はベットの上に身体を投げ出した。 「なんか、いつも通りだったな」  夕食後、麻衣とさやか姉さんが二人で作った手作りのチョコレートケーキを  バレンタインっていってくれた。  甘過ぎもせず苦みがちょっとあって、とても美味しくて、3人で食べて。  後はいつも通り。  イタリアンズの散歩をして、風呂に入って風呂掃除して。  もうすぐ日付が変わるという時間にベットにはいって。  ・・・ 「何を考えてるんだ、俺は。」  それもこれも、翠が学園であんな事言うからだ・・・ 「ねぇ、朝霧君。知ってる?」 「何を?」 「今年のバレンタインのプレゼントの話。」 「バレンタインっていえば、チョコだろ?」  翠は人差し指を左右にふって、否定する。 「今はチョコだけじゃだめなのよ、今の流行はやっぱり自分に  リボンを巻いて、私もどうぞ っていうのよ!」 「・・・翠、何かに影響されすぎ」  実際そんなのがあるわけがない・・・ 「もう、のりが悪いなぁ、朝霧君は。」 「翠だったらやるのかよ?」 「朝霧君だったら、いいよ?」 「・・・遠慮しておく。」 「もう、つれないなぁ」 「・・・」  俺も影響受け過ぎかな。  別にチョコをもらえなかった訳じゃないし、愛する人の手作りをもらって  食べれたんだ、なんの不満があるっていうんだ? 「・・・寝よ」  コンコン 「お兄ちゃん、起きてる?」 「あぁ、あいてるよ」 「失礼しまーす」  パジャマに着替えた麻衣が入ってきた。 「どうしたんだ? こんな時間に」 「うん・・・そのね・・・これを」  そういって後ろ手に隠し持った包みを俺に差し出す。 「今年はね、お姉ちゃんと一緒に作ることになったから、あまり手間が  かけられなかったんだけどね・・・ちゃんとお兄ちゃんに私だけの  手作りチョコ、あげようと思って」  ・・・こんなにも純粋に俺のことを思ってくれている麻衣にたいして  リボンがどうのこうのなんて思った俺が恥ずかしい。 「ありがとう、今年はケーキだけで終わりかと思ってたよ」 「ごめんね、遅くなって」 「いや、いいんだ。時間なんて。麻衣の気持ちが嬉しいよ。  チョコ、食べて良いか?」 「もう時間遅いよ」 「いま、食べたいんだよ。今日のうちに」 「・・・うんっ!」  手作りチョコはちょっと甘くて、美味しかった。  麻衣は俺の横にちょこんと座って、俺を見ている。 「・・・それとね」 「ん?」 「もう一つ謝らないといけないの」 「?」 「・・・」  なんだか言いづらそうな事なのか? 「あのね・・・男の人って、こういうとき何も着ないでリボンを巻いて  プレゼントって言われるのが良いんだって聞いたの」  俺は思わず食べてるチョコを吹き出しそうになった。 「・・・あのさ、麻衣? 一応聞くけど、それ誰が言った話しだ?」 「遠山先輩だけど?」 「・・・」  明日どうやって翠を懲らしめようか。 「でもね、ごめんなさい。私は出来ないの」 「そりゃそうだろう、そんな恥ずかしい事は出来ないよな」 「ううん、お兄ちゃんになら恥ずかしくないよ!」 「・・・」  そう言いきられると嬉しくもあり恥ずかしくもあるな。 「でも、やっぱり嘘は駄目だよね。」 「嘘?」  何がどう嘘につながるのか、俺には見当がつかなかった。 「プレゼントで私をって言うのは駄目なの。  だって・・・」  麻衣は顔を一度伏せて言葉をきった。  そして俺の方を見上げてこう、言葉を紡いだ。 「だって、私はもうお兄ちゃんのものだもん。だから、プレゼントは  できないよ・・・」 「麻衣・・・」  俺は麻衣を抱きしめ、そっと口づけをする。 「お兄ちゃん・・・甘い・・・」 「チョコレート食べた後だからな」 「チョコなんて関係ないよ、お兄ちゃんの口づけ、いつも甘いよ。  私が溶かされちゃうくらい・・・」  麻衣の仕草が、一言が甘く俺の脳に浸透する。 「お兄ちゃん・・・もっと・・・」  この夜、最高に甘いひとときを麻衣からプレゼントされた。
2月14日 ・オリジナルストーリー 冬のないカレンダー 「寒い・・・」  実際は寒くはない、今日はマフラーをするほど冷え込んでない所か  春一番が吹くってニュースで言ってたくらい暖かい。  なのに、寒いよ・・・  噴水の周りにあるベンチの一つに陣取ってからもうすぐ1時間。 「アイツ・・・来てくれないのかな・・・」  バレンタインデー、この決戦日のために二人でまくための長いマフラーを  昨日やっと仕上げた。  そしてすぐにアイツに電話した。 「いい? 明日の放課後、噴水の所のベンチで待ち合わせ、良いわね?」 「いきなりなんだよ・・・」 「い・い・わ・ね!」 「・・・わかった」  学校が終わって私はわき目もふらずに待ち合わせの噴水のベンチに陣取る。  鞄には編みあがったばかりのマフラーと・・・ 「・・・」  ずっとベンチに座っていれば、いくら寒くはないといっても冷え込んでくる。  午前中にあがった雨は、また降り出してきそうな感じもする。  泣き出しそうな空、まるで私みたい・・・ 「・・・」 「・・・」 「・・・」  なんだか腹が立ってきた、なんでアイツなんかのために私がこんな気持ちで  ずっとずーっと待ってなくちゃいけないのよ! 「遅いっ!」 「遅いっ!」  私が愚痴を叫んだ瞬間、同じ叫びが聞こえた。 「・・・え?」 「・・・なに?」  驚きの声も同じく聞こえる、それは、噴水の反対側からだった。 「何してるのよ!」 「おまえこそ、呼び出しておいて放っておきっぱなしだなんて」 「私はずっと待ってたわよ、1時間以上も」 「俺もだぞ?」 「・・・」 「・・・」 「ふぅ」 「はぁ」  こういうときお互いおかしくなって笑うものかとおもったけど  実際にはため息しか出なかった。 「それで、何のようだ?」  まさか、今日呼び出したって事に気づいてないの? 「今日の用事っていったら、一つしかないでしょ!」 「そうなのか?」 「・・・」  そうだった、そういうヤツだった。  ここは私の方から折れないと、いつもの流れになってしまう。  それはイヤ。せめて、今日くらい大人しい女の子でいないと。  そっと深呼吸して緊張をほぐす。 「何緊張してるんだ?」 「えっ? き、緊張なんてする理由なんてないじゃない!」  ・・・驚いた、見ていないようでアイツって見てるんだよね。  ぽむっ  アイツの癖、何かあると私の頭を撫でる。  それも、私がして欲しいときは必ず撫でてくれる。  ・・・やっぱりずるい。  私は気づかれないように、といってもきっと気づかれてると思う。  それでも気づかれないように深呼吸をして鼓動を整える。 「あ、あの・・あのね! こ、これ、プレゼント!  バレンタインの・・プレゼントなの!」  ベンチに二人で座って、一つのマフラーで二人をつないで。  そして、さっき買ってきたばかりの板チョコを二人で食べる。 「しかしさぁ、いくら何でも板チョコはないだろ?」 「うぅ・・だって、チョコのこと忘れてたんだもん」  マフラーを完成させることばかりを考えていて、当日まで  バレンタインのためのチョコレートのことを忘れていた。  今更あわてても間に合わず、コンビニで板チョコを買った。 「まぁ、その方がおまえらしいよな。」 「も、もういいじゃないっ! マフラーがメインなんだから!」  そのマフラーも渡したときのアイツの最初の言葉は・・・ 「おまえ、知ってるか? バカップルっていうのは公害なんだぞ?」  売り言葉に買い言葉、思わず口論になっちゃったけど、私気づいちゃった。  アイツは私とのカップルというところは認めてくれた発言だって。  そのことを指摘すると 「そ、それは一般論だ、おまえだって町中で一人で、そんなバカップル  みてみろよ、どう思う?」 「・・・たしかに、公害よね」  一人でそんなの見たら、たしかに公害に感じる、けど・・・ 「今は二人だもん」 「今だけだからな」  今だけって何度も強調するアイツ。  ちょっと残念だけど、夢が一つ叶ったんだもん。  今後のことは今後にがんばるぞっ! 「それじゃぁ、そろそろ私帰らないといけないから」 「おう」 「じゃぁね、また明日っ!」  私は勢いよく立ち上がっていつものようにかけだそうとして 「きゃっ」 「うわ」  バランスを崩してアイツの方に倒れ込む。  柔らかい感触が私を包みこんだ。 「・・・」 「・・・」  鼓動が早くなるのがわかる、私はアイツに抱きとめられている。 「・・・こ」 「・・・?」 「・・・この、ばかっ!」 「え?」 「二人がつながったマフラーしたまま、走り出そうとする馬鹿がいるか!」 「えぅ」  そうでした、まだマフラーしたままでした。  そういうとアイツは私の首元からマフラーをはずした。 「これは危険だから没収」 「ひどいー!」 「酷くない、正当な判断だ」  そういいながら、アイツはマフラーを自分の首に2重に巻いた。  てっきりしまう物だと思ったんだけど・・・ 「今だけっていう、約束だからな・・・」 「・・・うん」 「気をつけて帰れよ、それとさ・・・サンキュ」 「・・・うんっ!」  気持ちよくかけだして、私は帰途につく。  いろいろあったけど、悪くない、ううん、良いバレンタインだったと思う。  そんな、冬のないカレンダーの、1日でした。 「そういうときはさ、送ってもらえばもっとしてもらえたんじゃないの?  そのマフラー」 「あぁぁぁ!」  お母さんの指摘にショックを受けた私でした。 「詰めが甘いっ!」 「うぅぅ・・・」
2月5日 ・SHUFFLE! sideshortstory 「この私とした事が・・・」 「ん? どうしたの? 麻弓ちゃん。」 「あ、ううん、なんでもない。シアちゃん達は先行ってて」 「うん、わかった。麻弓ちゃんも早くね!」  そういって更衣室を出ていくシアちゃん達。 「・・・私って馬鹿」  土見君が追われるのはいつものこと。  土見君が悪口とか陰口を言われるのもいつものこと。  それをたまたまリンちゃんが一緒に聞いてしまって暴走するのも  いつものこと。  今回はたまたま破壊されたのが、学園のプールだったというのは  いつものことじゃないけど、神王様の魔法修繕部隊が来るのは  やっぱりいつものこと。  ここまでならいつもある平凡な1日だけど・・・ 「あれ、これが平凡って言うのは・・・」  私も相当毒されてるな、と改めて思ってしまう。  今回はその後が違った。  どこかの王様達の陰謀があったのかどうかは定かではないけど  十中八九、親馬鹿の王様達が仕込んだことだとおもう。  破壊されたプールは元の姿で復元されず、天井がついて室内プールに  なり、なおかつ温水仕様。  これで1年中いつでも泳げる室内プールになってしまった。  2階に保護者観覧席があるのが、間違いなくあの二人の仕業という  証明みたいな物だ。 「親馬鹿もここまで来ると何もいえないのですよ」  ・・・まぁ、もともと何か言えるレベルではなかった気もしないでも  ないのですが。  温水プールになったのだが、すぐに体育の授業に水泳が取り入れられる  訳でもなく、バーベナに水泳部が出来たかというとやはりまだ出来ては  いない。  ある施設を眠らせておくのはもったいないということになり、学園生の  ためにプールを開放する事になったのは自然の流れだろう。 「みんなで明日放課後に泳ごうよっ!」  明日から解放されることになり、シアちゃんのアイデアは誰も反対  する事もなく、今日の放課後を迎えた。 「ここで振り出しに戻る、かな」  お気に入りの赤のセパレートの水着を持ってくるはずだった。  でも、鞄に入っていない。  着替えとかタオルとかは全部はいってるのに、水着だけがない。 「うぅぅ・・・あの日ってことにして見学するしかないかなぁ」  それはそれでも良い、観覧席からみんなの写真を撮るだけでも  充分楽しめる。けど・・・ 「私も泳ぎたいな」  泳ぎたいけど水着が無い、買いに行くには時間がかかりすぎる。 「仕方がない、今日は見学に・・・って、え?」  あきらめた私に神は見放さなかった!  更衣室の中にある張り紙にしっかりと書かれた文字。  購買に水着入荷! 「これは神が私にくれたチャンスなのですよ!」  早速購買に水着を買いに行った私は購買で考えを訂正した。 「・・・チャンスをくれたのは神じゃなくて、魔王様だったのね」 --- 「麻弓、遅いな」 「そうだな、あれでも女の子だからな、準備に手間取ってるのだろう?」 「樹。それ聞かれたらまた蹴られるぞ?」 「だいじょうぶだ、いつまでもくらう俺様ではない・・・」  ドゴッ!  樹の言葉はかかと落としの直撃で遮られた。 「だーれーがー、一応なのですよ? 私は可愛い美少女なのですよ!」 「自分で言ってちゃ世話無いよな・・・」  プールサイドに沈む樹を見ながら俺はため息をついた。 「しかし遅かったな、何かあったのか?」  麻弓の方をみると、ジャージを羽織っている。  上着だけなので、素足しか見えない。まるで何も着ていないような・・・  って、俺、何を考えてる? 「ううん、何もないのですよ」  心なしか頬を赤らめてる麻弓。 「・・・」 「・・・」  なんかこう、居心地が良いというか、悪いというか・・・ 「麻弓、自信が無いのはわかるのだがその格好のままでは泳げないだろう?」 「自信が無い? そんな訳無いのですよ!」 「まぁ、この体型を維持する自信だけはあるものな、麻弓は・・・」  バシッ!  あ・・・今度は回し蹴りだ。  樹は物の見事にプールの中に沈んでいった。 「麻弓ちゃん、遅ーいっ!」 「シアちゃん!」 「さぁ、泳ごうよ!」  シアが麻弓に抱きついてプールに誘導しようとしている。 「そ、そんなにあわてなくてもだいじょうぶなのですよ」 「ほーら、いつまでもジャージなんて着てないでさっ!」 「シアちゃん、強引すぎっ!」 「えーいっ!」  シアが無理矢理麻弓のジャージを脱がした瞬間。 「・・・」 「・・・」 「・・・」  三者三様の沈黙が訪れた。 「麻弓・・・俺様は今、麻弓のことを見直したよ。  ちゃんとわかっていてその水着を着てきたんだな。  うん、やっぱり胸が無い女の子はスクール水着が一番だよ!」 「えいっ!」  麻弓はドロップキックの要領で樹の顔の真上に飛び込んだ。 「こうなたったら泳ぎまくるのですよっ! シアちゃん、勝負!」 「その勝負受けて立つっス!」 「・・・」 「おーい、樹。生きてるか?」  樹はプールの底に沈んだままだった。 「・・・ま、いっか」 --- 「土見君、お休みモード?」  プールサイドで休んでいる土見君を発見。  デジカメで写真を撮りながら横に座る。 「あぁ、さっきまでみんなと遊んでたからな。ちょっと休憩だ。」 「土見君、もてもてだもんね。いい絵撮らせていただきました」 「変なことに使うなよ?」 「だいじょうぶ、みんなに配るだけだから。  そういえば、亜沙先輩見ないけど? 誘わなかったの?」 「誘いました、誘わないと後が怖いし」  たしかに、お祭りに誘わないと後が怖い。 「カレハ先輩との約束があってこれないって泣かれた」 「稟ちゃん、どうして今日がプール開きなの?  折角お姉さんのきわどい水着で稟ちゃんを誘惑しようとしたのにぃ!」  亜沙先輩らしい。  麻弓=タイム(ブタベスト様作) 「あの・・・土見君は・・・何も言わないのね」 「何を?」 「・・・なんでもない!」  緑葉君みたいに変とかおかしいとか言ってくれた方が私は楽なんだけどなぁ。  変に気をつかった私が馬鹿みたいに思えてくる。 「まぁ・・・麻弓。悪くはないと思うぞ?」 「え?」 「嬉しくないかもしれないけどな、その、悪くはない」  ・・・悪くはないってことは、良いっていうこと?  えと・・・頬が熱を持つのがわかる。 「そういう殺し文句を使う相手は、私じゃないわよ? 王子様!」  そういいながら土見君を思いっきり突き落とす。 「おわっ!」  大きな水しぶきをあげてプールに落ちる土見君。  私は深呼吸をしてカメラを構える。 「麻弓っ!」  顔を出した瞬間をカメラに納める。 「良い絵、ありがとうなのです!」  私は笑いながらその場から書けだして離れる。  今はまだこれでいい、この関係を楽しみたいから。  心の奥深くにある、小さな感情はまだいらない。  せめて、卒業までは楽しく過ごしたいから・・・
2月3日 ・夜明け前より瑠璃色な -if- sideshortstory 「おじゃましまーすっ」 「いらっしゃい、菜月ちゃん。」  麻衣は菜月の手荷物を受け取りながら招き入れる。 「何も泊まりにこなくてもいいのに・・・」 「達哉、可愛くてか弱い女の子が一人で家にいるのって危険じゃない?」  可愛いのは認めるけど、かよわ・・・ 「!?」  俺は急激に寒気に襲われた気がした。  何かに狙われてる、とこんな気持ちになるんだろう・・・ 「ねぇ、達哉。今何か不穏な事思ってなかった?」  俺は冷や汗をかきながら顔を横に振ることしかできなかった。 「いつまでも玄関にいてもしょうがないよ? さぁ、菜月ちゃんあがって」 「うん、改めておじゃまします。」  菜月は今、遠方の大学に通っている。そのため寮で一人暮らしをしている。  連休を利用して満弦ヶ崎に帰ってきたのは良かったのだが、左門さんと仁さんは  この連休は商店街の寄り合いに参加して温泉に行ってしまっている。  菜月の帰郷より先に温泉のスケジュールが決まってたためキャンセルできず  二人で出かけていってしまった。  一人で残すことを心配した左門さんに姉さんが 「なんなら昔みたいに泊まりに来ればいいじゃない」  という経緯だ。そしてその姉さんは・・・ 「ごめんなさい、今日帰れそうにないの」  と、博物館での仕事に追われていた。 「それじゃぁ始めようか」 「うん、レベルアップした私の腕前を見せてあげるわ!」 「何を始めるんだ?」 「ふっふっふっ、私がいつまでもカーボンばかり作ってるとは思わないでね?」 「・・・え? 今日の晩ご飯は」 「私と菜月ちゃんの合作だよ」  ・・・一抹の不安を感じたが、口に出すと命が無い気がして黙ってしまう。  いや、ここで生きながらえても夜に倒れるかもしれない。 「達哉、私の腕前披露してあげる、楽しみにしててね!」 「・・・あぁ」  冷や汗を書きながら頷くことしかできなかった・・・  怖くて自室に戻ろうかとも思ったが。 「菜月ちゃん、包丁の使い方上手くなったね」 「えっへん、がんばったもの」  リビングのソファから見た二人は仲の良い姉妹のようだ。 「あ、胡椒入れすぎだって」 「だいじょうぶ、達哉の好みならこれくらいいれても」 「そう?」  ・・・仲の良い姉妹のように。 「それじゃぁ私はこっちの仕込みするね」 「おっけー、焼き加減は任せておいて。中華は炎が命よね」 「菜月ちゃん、それ中華料理じゃないから」  ・・・仲の・・・良い・・・ 「ふんふふ〜ん」 「るんるん〜」 「たらりらったらったら〜ん♪」 「るんらら〜♪」  ・・・  ・・・  ・・・なんか、涙出てきた。 「おぉっ」  机の上に並べられた料理は、俺の想像とは全く違った、見た目も香りも  とても美味しそうな物ばかりだった。  一つのお皿にはデミグラスソースがかかったハンバーグ。  もう一つの大皿には炒めたキノコと大根おろしであえてある和風ハンバーグ。  両方ともサイズが小さめに作られている。 「折角だから役割分担して、同じハンバーグで2度楽しめるようにしたの」  麻衣の説明を聞きながら俺はあのときの思いを恥じた。  そうだよな、あんなに一生懸命作ったんだ。美味しくないわけがない  じゃないか。  サラダにオニオンスープ、炊きたてのご飯まであって完璧な夕食。 「よし、それじゃぁ食べるかっ!」 「いただきまーす!」 「いただきまーすっ」  カツッ!  俺は早速デミグラスソースのハンバーグを箸で食べようとして。 「・・・」  俺の箸は見事ハンバーグの外皮で止まっていた。 「あ、あはははは・・・ちょっと焦げちゃったかな・・・」  目に見えて落ち込む菜月。 「麻衣のがあるから、そっちを食べようよ、ね?」  俺は無言のまま。 「あ、達哉っ!」  菜月のハンバーグを口の中に入れた。 「お兄ちゃん?」 「達哉?」  俺は無言のまま・・・というより口に食べ物が入ってるからしゃべれない  だけだが、菜月のハンバーグをちゃんと噛んで飲み込んだ。  そう、噛めたのだ。 「・・・」  菜月が無言で俺の方を見つめている。 「菜月・・・」 「は、はいっ!!」 「美味かったよ。」 「・・え?」 「たしかに外側はカーボンっぽかったけど、ちゃんと中まで火は通っていたし  そんなに固くは無かった」 「・・・うん、ありがとう、達哉っ!」  まぶしいくらいの笑顔でお礼をする菜月。  菜月のために嘘を言ったわけではない。たしかにすごく外側は固かったが  中はそんなに固くなかったし、何より味は良かった。  最初の頃のカーボンは噛むことさえできなかったのだから、これはすごい  進歩だ。 「やっぱり火力を制御するのが中華の基本よね」 「菜月ちゃん、ハンバーグって中華なの?」  それよりも自宅はイタリア料理じゃなかったっけ? 「ねぇねぇ、私の方のハンバーグは?」  麻衣にせがまれて、和風ハンバーグに箸をつける。  こちらは固くなく、肉の軟らかい食感と、大根おろしがすごくあい、  アクセントにキノコの食感がすごく良い。 「美味しいよ、麻衣」 「ありがとっ」 「うん、美味しいね。ところで麻衣。このキノコなに?  普通のキノコよりは大きかったよね?」 「うん、八百屋のおじさんからとっておきだよっ!って言われて買ったの」  ・・・あれ?  なんだろう、この展開。前にもあったような気が・・・  でも味は悪くないどころか美味しいし、まぁ、だいじょうぶだろう。  そのとき俺の脳裏に一つのフレーズがこだました。  ・・・たらりらったらったら〜ん♪ と。  食事が終わってお茶を飲んでくつろぐ時間・・・だけど。  妙に身体が熱い気がする。  シンクの方ではつかった食器を姉妹仲良く洗ってる・・・ようには  見えなかった。二人とも妙にそわそわしている。  俺の頭の中で何かが警告しているが、熱を持ったせいでそれが何だか  理解できなくなってるのかもしれない。 「・・・なんか、熱くない?」 「あぁ・・そうだな」  菜月に曖昧とした返事を返す。 「少し窓あけよっか?」  麻衣はそう言いながらリビングの扉を開けて・・・ 「きゃっ!」  突然吹き込んできた冷たい風に驚いて尻餅をついていた。 「も、もう・・・びっくりしたなぁ」  そういって立ち上がって扉を閉める麻衣。 「ん・・・」  扉を閉めた格好のまま止まってしまう麻衣。 「どうした?」 「ううん、なんでもない・・・あっ」  こちらを振り返り赤くなった顔で返事をした麻衣だが。  両手で自分を抱きしめてそわそわしている。  ソファには座り込んでぼーっとしている菜月がいる。  絶対おかしい、俺の中の冷静な部分がそう訴えるが、身体は  その思いに反応しない。 「・・・俺、部屋に戻るな。」 「あっ・・・」 「えっ・・・」  麻衣と菜月の驚きの声が同時に聞こえた。 「あの・・・達哉?」 「お兄ちゃん・・・」  二人とも頬を赤らめて、潤んだ目で何かを訴えてくる。 「その・・・」 「あの・・・」  まずい、非常にまずい。俺の理性が外部から削り取られていくのがわかる。  それでもなんとか留まろうとがんばった矢先に。 「・・・達哉っ!!」 「な、菜月?」 「ここまでしておいて、これ以上女の子に恥をかかせるの?」 「お兄ちゃん、お願い・・・」 「・・・」 「・・・」 「・・・」 「あのさ・・・どうなっても知らないぞ?」 「いいよ・・・達哉なら」 「お兄ちゃんだもん、大丈夫だよ」  俺は二人の手を取った。 「あ・・・」 「・・・」  赤らめた顔をさらに真っ赤にした二人。 「・・・部屋、行こうか」 「「うん」」 ---  抑えが効かないシリーズ(^^;  今回は無理矢理(w朝霧さんからリクエストをいただいて書き上げました。  いただいたキーワードは「カーボンvsデスマーチ」。  カーボンとデスマーチの対決だったはずなのですが、気がつけば共同戦線  でした(笑)  完全なるカーボンではなくなってしまいましたが、菜月も少しずつでは  ありますけど、上手くなっているはず・・・だと・・・いいなぁ(^^;;;  10万ヒット記念無理矢理リクエストを受けてSSSを書こうシリーズ、でした。
2月2日 ・オリジナルストーリー 冬のないカレンダー 「寒い寒いっ」  私を撫でていく北風に、マフラーを口元に当てて防御する。  ここのところ暖冬だって言ってたけど、今日はとっても冷え込んで風が  強くて寒い。 気を抜くと風邪をひいちゃいそう。  早く買い物を済ませて、お家で暖かいお風呂に入りたいな。 「まさかこのタイミングで毛糸が無くなるなんて・・・ついてないなぁ」  今月の決戦日に・・・アイツに渡すプレゼント。  アイツは恥ずかしがって着てくれないかもしれないから、長さを倍にして  編んでる、マフラー。  チョコを渡した後・・・一緒にしてもらうんだ。  二人で一つのマフラー。  きっと・・・暖かいだろうなぁ・・・  でも、マフラーしてくれるくらい寒い冬になってるのかな? 「何ぼーっとしてるんだ?」 「えっ?」  突然の声に振り返るとアイツがいた。 「こんな道ばたで立ち止まってると危ないやつだって思われるぞ?」 「な、何よぉ・・・こんな可愛い娘捕まえて危険だなんて言うの?」 「・・・自分で言ってちゃきり無いな。」  本当は言って欲しいけど、アイツは言ってくれない・・・  なんで・・・ 「どうした?」  なんで、アイツのことを好きになっちゃったんだろうな。 「・・・」  ぽむっ  アイツの手が私の頭を撫でる。 「まぁ、無理して風邪ひくなよ? それじゃぁな」  そういってアイツは言ってしまった。 「ずるい」  いつもわかんないのに、欲しいときだけわかってくれる。  不器用な優しさに、私は惹かれたんだ。 「・・・よしっ!、がんばるぞっ!!」  絶対アイツを見返してやるんだから、こんなに思ってるのだから  同じくらい思わせないと、気が済まないんだからっ! 「まずはマフラーを完成させないとね!」  私は思わず走り出したくなって、そのままの勢いで帰宅した。  マフラーの続きを編もうとして・・・ 「・・・やっちゃった」  マフラーの毛糸を買わずに帰ってきたことに今更ながら気づいた。
2月1日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory  最近お兄ちゃんの様子が・・・ちょっとだけおかしい。  それはほんの些細な、普通に生活してる分には全く気づかないと  言えるくらいだけど。  ・・・なんだか、とても不安になる。 「今が幸せすぎるからなのかなぁ?」  言葉に出してみても、この答えが合ってるとは思えなかった。  朝お兄ちゃんを起こしにいって、おはようのキスをして。  朝ご飯をお姉ちゃんと一緒に食べて一緒に学園に登校して。  時間が合えば一緒に帰ってきて、一緒に晩ご飯を食べて。  お姉ちゃんが遅いときやかえってこれないときだけこっそり  一緒にお風呂に入って。  寝る前にお休みのキスをして・・・  キスだけじゃ物足りなくて、一緒の部屋で抱いてもらうこともあって。 「・・・」  夜のことを思い出すだけで恥ずかしい。  でも、とても満ち足りて、安心して眠れる。  幸せか不幸か、と聞かれれば幸せって断言できるほど幸せ。  なのに・・・  今までと何かが違う気がして。 「何が、違うんだろう・・・」  幸せだからこそ、ちょっとした不安が今の生活を崩してしまう  そんな気がして・・・ 「・・・今日はもう寝よっと。その前に・・・」  お兄ちゃんの部屋に行って、おやすみの挨拶をしてこなくっちゃ!  いつもと同じ幸せな日々が続く中、一度芽生えた不安はうち消せなくて。  どんどんふくらんでいった。 「麻衣、悩み事でもあるのか?」 「ううん、そんなのないよ」 「・・・そうか、無理するなよ」 「だいじょうぶ、悩み事なんてないから無理もしてないよ」  そう、悩み事はないから嘘は言っていない。  ただ・・・不安があるだけ。何の不安かもわからない、不安があるという  不安が・・・  ドアをノックする。 「お兄ちゃん、起きてる?」 「あぁ、あいてるよ」 「失礼しまーす、お兄ちゃん。おやすみの挨拶だよ」  私はいつものようにお兄ちゃんにキスをしようとして・・・ 「麻衣、ちょっと時間あるか?」  どきっ。  お兄ちゃんに呼び止められた瞬間、急に鼓動がはやくなった。 「う、うん・・・だいじょうぶ」  お兄ちゃんと一緒にベットに並んで座る。 「あのさ・・・最近の麻衣。無理してるだろ?」 「何を?」 「ごめんな、麻衣。気づいてやれなくて、今も気づけなくて」 「誤ることなんてないよ、だって私平気だもん」 「平気って言うくらいだから、やっぱり無理してたんだな」 「あっ・・・」 「・・・ごめんな。俺、麻衣の事を考えているつもりで、自分の  事しか考えてなかったんだ」 「お兄ちゃんの事?」  お兄ちゃんも悩んでたの? 私、全然気づかなかった・・・ 「ごめんな、麻衣」 「ううん、それよりもお兄ちゃんが悩んでたこと気づけなかったのが  すっごく悔しい」 「・・・」 「ねぇ、何を悩んでいたの?」 「・・・」  あ、お兄ちゃんが目をそらした。 「・・・」 「・・・」 「お兄ちゃん?」  ふぅ、とお兄ちゃんはため息をついた。 「わかった、白状する」 「実はさ・・・その・・・」  なんだかもじもじしながら、言いづらそうに話し始めてくれた。  もしかして私が聞いちゃいけない悩みだったのかな。  そうだとしたら・・・無理矢理聞き出そうとしたことをちょっと  後悔し始めた。 「なんだかさ・・・俺、ずっと麻衣のことが頭から離れなくて」 「え?」 「授業中もバイト中も、集中してるはずなのに、麻衣がさ・・・  俺の中にいて・・・」 「・・・」  お兄ちゃんの悩みを聞くはずなのに、告白されてるみたい。  きっと私の顔は真っ赤になってると思う。 「場所なんて関係なく麻衣を抱きしめたくなっちゃんだ。  そんなの迷惑に決まってるだろう?  だからさ、ずっと自制しようと・・・自分を押さえようと・・・」 「なんで?」 「・・・外とか家の中でもどこでもかまわず抱きしめたら、迷惑だろ?」  ・・・そっか、わかっちゃった。  私の不安。  それは・・・  お兄ちゃんが私を求めてくれなかったこと、なんだ。  私を求めないっていうことは、私は飽きられた。  そんな怖い結果を理解したくなくて、ただただ不安という形だけが  ふくれあがったんだ。 「・・・麻衣?」 「お兄ちゃん、なんで私が迷惑だって思ったの?」 「・・・いくら恋人同士だからって、学校や商店街で抱きしめるわけには  いかないだろう」  ・・・たしかに、見られたら恥ずかしいかも。 「でも、お兄ちゃん。家の中でなら大丈夫でしょ?」 「さやか姉さんがいるから」  ・・・そうでした。 「でも、でもっ!! 求めてくれないのは寂しかったんだよ!」  そう、この不安は寂しさ。また一人になっちゃうのではないかという寂しさ。 「ごめん・・・麻衣のためって言い訳にして自分の事しか考えてなかった。」 「・・・うん、わかってる。ちょっとした、すれ違いなんだよね?」 「あぁ・・・ごめん」  原因がわかったらほっとしちゃった。  でも、なんだか腹が立ってきた。  ・・・よしっ。 「お兄ちゃん」 「?」 「私を不安にさせた償い、してもらうからね!」 「・・・えと、何をすれば宜しいのでしょうか?」  あ、お兄ちゃん敬語になってる、ちょっと驚かせすぎたかな? 「じゃぁね・・・その・・・」  してもらいたいことなんて、今は一つしかない。  だけど、私から言うのはちょっと・・・でも。 「私を求めてっ!」 「・・・」  頬がさっき以上に熱を持つのがわかる。  私ったらすごいことを・・・はしたないって思われちゃうかな・・・  でも、お兄ちゃんに求められたい、愛されたい。  お兄ちゃんを受け入れたい・・・ 「・・・女の子に恥をかかせないで」 「あぁ、麻衣。先に一つだけ言っておいていいか?」 「・・・なに?」 「・・・抑え、きかないからな」 「うん、いっぱい愛してね、お兄ちゃん!」
1月31日 ・いつか、届く、あの空に。sideshortstory 「ふぅ・・・」  もう調べる必要も無いはずなのだが、あの童話を探している自分がいる。  もしかすると童話ではないのかもしれない。  俺が体験した、神話の出来事なのかもしれない。  それでも・・・  どうしても調べないと行けない気がして。  学園から借りてきた本を、居間で読んでいた。 「どうして自分の部屋で読まないんだろうな」  未だに癖が抜けてないというのなら、そうなのかもしれない。  書斎はこの家には無いのが、どうしても書斎に適した部屋を探してしまう。  そして結局居間で読むようになる。  ・・・ 「もう遅いし、今日は寝るか」  自室の扉を開けて・・・ 「・・・」 「お、遅かったな」  今日もふたみは布団の中に潜り込んでいた。  ・・・その光景にすでに慣れてしまった自分がいた。 「悪い、ちょっと本を読んでいて・・・」 「そうか、お主人ちゃんは勉学にいそしむ学生だものな。関心関心」 「勉強とは関係ないさ、ただ・・・」 「ただ?」 「・・・なんとなく、かな」  そういいながら机の上に本を置く。 「将来童話作家になりたいわけでもないし・・・」  そういいながらベットの方を振り向いた俺は 「なっ!」  そこにはベットから抜け出したふたみが・・・  俺のYシャツだけを羽織った姿でいた。 「あ、えと・・・ふたみさん? その格好は?」 「旦那はこういう格好が好みだと、書いてあったのだ。  だから・・・その・・・」  顔を真っ赤にして言葉を紡ぐふたみ。 「お主人ちゃんも・・・好きな格好の方が・・いい、かな・・・  ・・・駄目、なのか?」  わ・・・その格好とその仕草って、卑怯なんですけど。  そんな格好で一緒に寝るなんて・・・押さえきれる自信ありません。  だからここは男らしくきっぱり断って・・・ 「・・・いや、嬉しいよ」  ・・・俺、弱すぎ。 「そうか、よかった。」  安堵するふたみ。  いつも一生懸命なふたみだからこそ、断れるはずがない。  だから、これで問題ない!  ・・・と、釈明している自分がいた。俺って弱すぎ。 「お主人ちゃん?」  いつものパジャマ姿も可愛いけど、このYシャツ姿って・・・  俺のサイズだからかなりぶかぶかで袖から指先しか見えてない。  ボタンがはずれているから胸元が見えていて・・・  すそからまぶしいくらいのおみ足がのぞいていて、見えるか見えないか  くらいのところに白い布が見え隠れしている気がして・・・ 「そ、その・・・そんなに見られると恥ずかしいぞ」 「あ・・・ごめん  見とれてた・・・何て言えないよな」 「・・・」 「・・・あれ?」  もしかして、本音が出ちゃった? 「・・・」 「・・・」 「ね、寝ようか」  顔を赤らめたまま頷くふたみ。  ・・・理性もつかな。 「お主人ちゃん・・・なんで背中を向けるのだ?」 「いや・・・そのな」  荒ぶる獣と戦っているのだとはいえないな。  これでもオオカミだけは確実に倒せるのだが、自分が武器ではなく  自分が狼になった場合はどうすればよいのだろう。 「む・・・お主人ちゃん。こっちを向きなさい」  そういって無理矢理俺の身体を反転させるふたみ。  ・・・なんでこんなに簡単に寝てる人をひっくり返せるのだろう? 「何か言いたい場合は相手の目をみるものだぞ?」 「あ、あぁ・・・」 「それとも・・・迷惑、か?」 「それはない」  即答していた。 「ただな・・・俺自身がふたみを・・・っ!」  俺の言葉を遮るように唇を重ねてくる。  短いようで長い、長いようで短い時間。 「お主人ちゃん・・・私に遠慮などするな。  お主人ちゃんは私の旦那様だぞ? 旦那様が望むことは私の望むところだ」 「・・・」 「だからな・・・遠慮するな。その・・・私も・・・んっ!」  今度は俺から唇をふさぐ。 「ふたみ・・・もう抑えが効かないぞ?」 「・・・望むところだ、勝負を受けるぞ!」  その後やはり攻守交代がありやはり主導権を奪われたことは言うまでもなかった。
1月29日  警告  このSSSはいつ空おまけしなりおのSSSです。  本編をクリアして、本編のおまけしなりおをプレイしてない方には  盛大すぎるネタバレがありますので、見るのはご遠慮ください(^^; ・いつか、届く、あの空に。おまけしなりおsideshortstory 「そういえば・・・俺って結構大変なことになってたんだよなぁ」  食後のお茶をすすりながら振り返ってみる。 「そうなのか? お主人ちゃん。」 「そうよねー、策はヘタレだし」 「・・・メメ、それは関係ないだろう?」 「そうそう、さっくんはただの優柔不断なだけですよ」 「傘姉・・・」 「そんなわけありませぬ、さくは・・・」 「此芽・・・」 「さくは・・・」  あの・・・此芽さん、そこで顔を赤くされても困るのですが。 「とりあえず数えてみよっか?」 「何を数えるのだ? 妾」 「えっとね、策が死んだ回数」  ぶっ  思わず飲んでいたお茶を吹き出した。 「こら、お主人ちゃん。ぼけるタイミングが違うぞ?」 「ぼける以前の問題だと思うのだが」 「まだまだよね〜、さっくん(はぁと)」 「そこではーとまーく出されても・・・」 「たしか、最初に空明市に来たときに生きる権利が奪われたから  そこで1回目」 「・・・」  ふたみが黙ってしまった。 「あれはふたみが悪いんじゃない。だから気にするな」 「お主人ちゃん・・・ごめんなさい」 「だから誤る必要はないんだって」 「アツアツねぇ・・・」 「熱々、ですわね」  ・・・傘姉と此芽の微笑み、目が笑ってないんですけど。 「その後空明を出る直前にまた殺されたんでしょ?  策って見境無いねー」  見境無く死ねるってどういうことなんでしょう? 「・・・申し訳ありません、媛があのとき死すべき」 「それも違う!」 「さく・・・」 「結果から言えば俺は此芽に助けてもらったのだから。  そのくせ俺はそのことを忘れてた。」 「ですから」 「ごめん、此芽」 「・・・さく」 「アツアツだな」 「アツアツねぇ・・・」  ・・・ふたみの視線と傘姉の視線が冷たいのですけど。 「そして空明に再び来て・・・えっと、何回死んだっけ?」 「・・・あまりそのことにはふれないでくれ、思い出したくない」  思い出せないほど死んだ俺っていったい・・・ 「あれぇ、ここでお姉さんとの思い出が入る順番なのにぃ。  なんでないのかな? さっくん」 「俺に聞かないでください・・・」 「だいたい事情はわかりました」  この中で数少ない一般の人である透舞のんさんがまとめに入って  くれた、正直助かる。 「ありがとう、透舞さん。貴女のようなまともな人がいて・・・」 「それで、本命は誰ですの?」 「・・・え゛?」  本命?  その言葉に3人の少女の目が光った気がした。 「お主人ちゃんは私のムコだぞ?」 「さ、さくは媛と結婚しておるぞ?」 「お姉さんを幸せにしてくれるんだよね?」  詰め寄ってくる3人・・・はっきりいって怖いんですけど。 「貴女は宜しいんですの?」 「なに? 愛?」 「えぇ」 「いいのいいの、お姉さまが幸せなら愛はぞれで充分満足なの」 「そうね、私もお姉様が幸せなら・・・」 「それにね、お姉さまが正妻なら愛は妾だから」 「・・・」 「お姉さまを選ばなければ・・・私がかしずかせるから」 「みどのちゃん、お姉ちゃん思いだね」 「当たり前です!」  ・・・あぁ、なんか向こうは向こうで大変な事になって  いるような気が・・・ 「そうだ、妙案があるぞ!」 「なんですか? クイ」 「ん?」 「みんな一緒になら解決だな」  ・・・あの、ふたみ大先生。それって重婚ってやつじゃ? 「そっかぁ、その手もあったわね〜」  傘姉、なんで賛同してるんですか? 「唯井と桜守姫の友好の証にもなりまするな」  あ、そういえば今の此芽は桜守姫の当主になってたんだっけ。 「うん、それもいいな。コノはいつも賢くて困るな」 「・・・」 「ここは閉じてるからばれないわよ〜」 「傘姉、もうあいてるって!」 「では、ばあさまに新たな結界を頼めば良いのだな?」 「便利よねぇ、結界って」  ・・・頭痛くなってきた。 「あら、お父様?」 「・・・」 「・・・え? やっぱりオチのために自爆する?」 「あらあら、今回も爆発オチ? では避難しましょう? みどの」 「はい、のんちゃん」 「また爆発オチなのか、芸が無いな」 「それを作者に求めるのは酷と言う物でおじゃる」 「まぁまぁ、作者さん、ですから」 「お姉様、そろそろ避難致しましょう」 「おねーさまもこっちへ」 「わかった、メメ。今いく。おねさまは?」 「んー、折角だから私も避難しようかな」 「・・・結局前向きに生きるしかないんだよな、俺は上手くないから  ・・・あれ?」 「・・・」 「此芽のお父さん・・・ってことは」  ・・・  ・・・  爆発が収まった後。 「掃除が大変じゃないか」  といいながら嬉しそうな顔をしたふたみがいた。

1月24日 ・月は東に日は西に sideshortstory 「恭子、恭子っ!」 「どうしたのよ? 結。そんなにあわてて」 「これを見てくださいっ!」  私は結がプリントアウトした用紙を手に取った。  これは私たちの時代、今いるこの世界より100年後の未来の世界での  記事だった。  なにかの新聞のコピーの記事の見出しには・・・ 「・・・なに、これ?」  議会が一夫多妻制を導入したことが書かれていた。  保健室に戻って珈琲を飲みながら落ち着いて記事のコピーを読み直す。 「・・・なるほどね〜」 「何を納得してるんですかっ、これは大変な事ですよ?」 「そんなに騒がないの、結。ちょっと考えればわかることでしょ?」  マルバスの驚異で人口はかなりの数まで激減してしまっている。  出生率の低下は100年前の今の世界でも起きている事態でもあり  このままでは遠からず人類は消えてしまう。  やっとマルバスの驚異から脱却したのに。 「だからって無理矢理子供を作らせるのも問題あるのなら、好きあって  いる物同士をくっつけるのが妥当だからでしょうね」 「でも、倫理的にこれは・・・」 「私たちの世界は、そこまで来ていたのよ、結。  研究者の私たちには政治のことまで口を出せないわ」 「・・・」  結は潔癖性というわけではないけど、やはりこの制度にショックだった  のだろう。  私も平静を装ってはいるけど、受けた衝撃は相当な物だったのだから。  それを表に出さないのは大人の余裕、結と違って。 「・・・恭子? 今、不穏な考えしてなかった?」  ・・・鋭い。 「ま、まぁ、この世界にいる私たちには関係ないことよ。今はまだむこうに  戻る気はないのだからね」 「でも・・・」 「はい、この話はおしまい。そろそろ仕事に行く時間よ?」  時空転移装置のこちら側の世界の管理保守が今の結と私の本職。  今日はこちら側へ来る人がいるので立ち会わないといけない。 「そう、ですね。とび太の所に行きましょう」  その日未来から「帰ってきた」のは、天ヶ崎美琴。  また座標がずれたらしく、屋上で昼寝してた久住の真上に転移した。  あわてて現場に駆けつけた私たちが見た物は、久住のおなかの上に  またがるように落ちてきた天ヶ崎美琴と・・・ 「直樹、知ってる? 未来でね楽しい法案が成立したんだよ?」 「楽しい?」 「直樹は未来世界では祐介っていう戸籍もあるの、知ってる?」 「・・・なんか嫌な予感がするのだが、気のせいか?」 「ふぅ、法案一つでも受け止め方でこんなに違う物なのね」 「・・・あははは」  結は乾いた笑いをあげるだけだった。
1月22日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory Mai Asagiri 「お父・・・さん? お母さん?」  二人が背を向けて歩き出す。 「なんで? ねぇ、どうしていっちゃうの?」  追いかけようとしても身体が動かない。 「私・・・ひとりぼっちになっちゃうよ! 行かないで!!」  ・  ・  ・ 「あ・・・れ?」  目を開けて最初に見えるのはいつもと同じ天井。  そっと上半身を起こす。 「夢?」  良く覚えてない・・・いや、思い出したくないだけなのかもしれない。 「・・・夢は夢だよね」  思い出したくない夢のことなんて忘れて、朝ご飯作らないと。  ベットから降りて制服に着替える。  クローゼットの姿見の鏡を見てリボンを直そうとして 「え? 私、泣いて・・・た?」  眼が真っ赤になっていて、頬には涙の後があった。 「今日は洋食にしてみましたっ!」 「美味しそうね、いただきましょう。」 「・・・」 「あれ? お兄ちゃんどうしたの? 和食の方が良かったとか?」 「あ、いや・・・なんでもない。」 「変なの」  お兄ちゃんが私を見て、ちょっとの間だけだけど怪訝な顔をしてた。 「そういえば、今日は午後から酷い雨になるそうね」 「雨か・・・」 「・・・」  私は何も答えれない、何故かはわからないけど、悪かった夢を思い出して  しまいそうな、そんな気がして。 「・・・麻衣?」 「え? 何?」 「どうかしたのか?」 「ううん、なんでもない。ただ雨だと外でフルートの練習できなくなっちゃう  かなって、思ったの」 「そうだな、麻衣のフルートが聞けないのは残念だ。」 「いつも寝てるくせに〜」  お兄ちゃんが目線をそらした。 「ごちそうさま、それじゃぁ私は仕事に行く準備するわね」 「おそまつさまでした」 「ごちそうさま、片づけて学園に行くか」 「うん」   雨は思った以上に強くなってきた、風も出てきたみたい。  天気予報ではこれからもっと酷くなるそうで、学園は午後を休校に  することになり、生徒全員を帰宅させることになりました。  もちろん、部活動もなし。  フルートの練習が出来ないのは残念だけど、仕方がないよね。 「麻衣、帰るか」 「うん」  お兄ちゃんと一緒の帰り道。お兄ちゃんの大きな傘にいれてもらう。 「自分の傘があるだろう?」 「私の傘だとこの風で壊れちゃうよ」 「俺のだといいのか?」 「お兄ちゃんのは丈夫だからね、大丈夫だよ」  それにね、こうしてなら堂々と、くっつけるでしょ?  と、声に出さずに付け加えた。 「それじゃぁバイトに行って来るな」 「うん、気をつけてね」 「心配するほどの距離じゃないさ」 「それでも気をつけてね」 「・・・あぁ、わかった。行って来るな」 「いってらっしゃい」  お兄ちゃんが出ていって玄関の扉はしまった。  外へ出るためにちょっとあけただけの玄関の扉の外は、台風が来た  みたいにあれていた。 「お店にお客さんくるのかなぁ?」  これだけ酷い雨と風なら外出する人は控えるだろうと思う。 「・・・うん、夕食の仕込みをしちゃおうっと」  夕食の準備中に電話が鳴った。 「もしもし、朝霧です」 「あ、麻衣ちゃん」 「お姉ちゃん、どうしたの?」 「うん、なんだか台風みたいな天気でしょ? だからね、今日はこっちに  泊まっちゃおうかと思うの。」 「・・・うん、わかった。お姉ちゃん、根を詰めすぎちゃだめだよ?」 「ありがとう、麻衣ちゃん。お家の戸締まりはしっかりしておいてね」 「まかせて!」  そっか、お姉ちゃんは帰ってこないんだ。  帰ってこない?  カエッテコナイ?  ・・・  ・・・  ・・・  なんだか寒気がしてきた。  リビングでTVを見る、リモコンのスイッチを切り替えてチャンネルを  変えてみても面白い番組があるわけでもない。  電源を落とすと、外の風の音が聞こえてくる。  家中の雨戸をしっかりしめているのでそんなに音がするわけないのに  心の中に否応なしに響いてくる風の音。 「家の中ってこんなに広かったんだね・・・」  私一人でいる自分の家。家族はみんな出かけていていない。  ・・・  なんだかここにいたくなくなって、部屋に戻った。  両膝を抱え込むようにベットの上に座る。  私の部屋、私しか住んでいない部屋、でも、お兄ちゃんが遊びに来る部屋  お姉ちゃんが遊びに来る部屋、菜月ちゃんも遊びに来る部屋。  でも、今は一人きり・・・  プツッ 「え?」  電気が突然消える音がした。 「停電?」  雨戸を閉め切っているので部屋の中が闇に包まれた。 「・・・怖い」  布団に潜り込み自分の身体を抱くように丸くなる。 「・・・一人は、一人きりは嫌」  闇に押しつぶされそう 「お兄ちゃん・・・」 「麻衣、だいじょうぶか?」 「え?」  お兄ちゃんの声がする。 「麻衣?」 「お兄・・・ちゃん」  私は布団から飛び出した、暗い中なのにお兄ちゃんの所だけ明るくて 「お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」  私は暖かいお兄ちゃんの胸の中に飛び込んだ。  お兄ちゃんの鼓動が聞こえる。  ずっと優しく頭をなでてくれている。  私をつかまえていてくれる。  私が、一人じゃないって感じさせてくれる。 「・・・おちついたか?」 「・・・」 「そうか」  お兄ちゃんはずっと頭をなでてくれた。  しばらくすると周りが明るくなった。 「ふぅ、やっと点いたか」  お兄ちゃんは立ち上がろうとした・・・けど 「そうだな、もう少しこうしているか」 「・・・ありがとう、お兄ちゃん」 「そうか、だから今朝から様子がおかしかったのか」 「え? 私おかしかった?」 「何年麻衣のお兄ちゃんをやってたと思う?  それにな、今は麻衣の恋人だぞ? わからないわけないじゃないか」 「えへへ」  私は簡単に事情を話した。  夢見が悪かったこと、内容は思い出せないことを話した。  お兄ちゃんには話せないけど、たぶん夢の内容はわかる。  私が一人きりだったっていうことが。  そのことがずっと心に残っていて、一人きりが怖かったんだ。 「ねぇ・・・お兄ちゃんは、どこにもいかないよね?」 「それはわからない・・・けどな」 「・・・」 「行くときは麻衣と絶対一緒だ」 「うんっ!」 「私、安心したら眠くなっちゃった」 「そうだな・・・俺も寝るかな」 「あの・・・お兄ちゃん?」 「今日は麻衣の部屋に泊めてもらってもいいか?」 「・・・ありがとう、お兄ちゃん」  今も外は雨と風が吹き付けてくる、その音も聞こえる。  でも、今の私にはお兄ちゃんが、達哉さんがいる。  もうひとりぼっちじゃない、ずっと、ずっと一緒だからね? ---  Epilogue Tatsuya  甘い香りがする・・・  柔らかい・・・ 「・・・」 「おはよう、お兄ちゃん。目が覚めた?」 「・・・あぁ」  そうか、俺は麻衣の部屋で麻衣と一緒に寝たんだっけ。  いつもなら、そういうことになることも多いのだけど、昨日の夜は  ただ麻衣を抱きしめて一緒に眠っただけだった。 「麻衣? 俺の顔に何かついてるのか?」 「ううん、なんでもない。お兄ちゃんも起きたし朝ご飯の準備するね」 「あぁ」 「あ、そうそう、もう一度」 「・・・?」  麻衣はぱたぱたと部屋の扉の所から戻ってくると 「ん・・・」  俺とくちびるを重ねた。 「えへへ、じゃぁまた後でね!」  そういうと部屋から出ていった。  麻衣の部屋に取り残された俺は、くちびるのふれた柔らかさの余韻に  浸っていた。 「・・・もう一度?」  ・・・  麻衣には敵いそうにない、な。  俺は苦笑いをしながら、麻衣が待つリビングへと降りていった。 ---
1月5日 ・Canvas sideshortstory 「ただいま」 「ただいまー」 「おじゃまいたしますわ」  三者三様の言葉で玄関の戸をくぐる。  リビングに入るなり俺はソファーにぐてっと座り込む。 「なにだれてるのよ」 「・・・疲れた」 「まったく、少しは運動した方がいいわよ?  お茶入れてくるわね、藍は座ってまってて」 「おかまいなくですわ」  そういいながら行儀良くソファーに腰をかける。  座るとき背もたれにもたれないのは、腰の帯を気にしてのことだ。  そう、今さっきまで近くの神社に俺と恋と藍ちゃんで初詣に行ってたところだ。  ・・・正確にはそのた大勢の皆様と一緒に。 「有名な方が2人もいらっしゃるのですもの、当たり前ですわ」  そういう藍ちゃんはSPを数人つれてきていた。 「確かに鷺ノ宮家令嬢と、信じられないがトップモデルともなれば  有名人だな」 「・・・今不穏な発言があったけど、それは聞かなかったことにして  あげるわ。」 「ふふっ」  最初から不機嫌な恋と、穏やかに微笑む藍ちゃん。 「でも、今の言葉本気で言ったの?」 「当たり前じゃないか」 「・・・あっきれた」 「お兄さまはもう少しご自覚されてもよろしいんですのよ?」 「俺が?」  周りを見回すと俺達を遠目で見つめる視線が多数ある。  すべてがモデルの恋に向いてる物だとおもったのだが・・・ 「お兄さまも立派な画家として注目を集めてらっしゃるのですよ?」 「・・・まさか」  確かに画家として成功とは言い切れないが良い成績を残しているとは  思うし個展を開くことも増えてきているが、そこまで俺自身に人気が  あるとは思っていない。 「だから、恋ちゃんはずっと不機嫌なんですわ」 「あ、藍っ!」 「なんで恋が不機嫌な理由になるんだ?」 「な、なんでもないわよっ! ほら、お参り行くわよ!!」  そういって俺と藍ちゃんの手をひっぱる。  それにあわせてSPの皆様方も移動する。  恋が不機嫌な訳を聞こうと思い藍ちゃんの方を向くと・・・ 「妬いてる恋ちゃんも可愛いですわぁ」  藍ちゃんは恋を見て目を輝かしていた。 「・・・ま、いっか」  初詣は滞り無く、本当に滞りもなく終わった。  これもSPの皆様方のおかげだと・・・思う、けど。  SPつきの初詣なんて始めての経験で必要以上に疲れた。  藍ちゃんと恋の合作のおせちを頂いたあと、藍ちゃんは帰っていった。 「もっといればいいのに」 「私ももっとご一緒したいのですが・・・あまり紗綾姉様を待たせる  訳にはいかないので」 「・・・なるほど」  納得した、あまり待たせると泣きつかれかねない。  藍ちゃんの一つ上の姉である紗綾さんは本当に愛ちゃんをかわいがって  いるからなぁ・・・あの時折発動するマシンガントークと運転の癖さえ  なければよいと、切実に思う。 「それでは失礼いたします、お兄さま、恋ちゃん」 「気をつけてね、藍」 「また遊びにおいで、藍ちゃん」 「はい、是非!」  お互いリビングに戻ってソファーに座る。  恋はまだ晴れ着のままだった。 「・・・」  時折俺の方を見ては、目線をそらす。  それの繰り返し。 「なにそわそわしてるんだ?」 「えっ? そわそわなんかしてるわけないじゃないっ!」  そういいつつも、身体がそわそわしている。 「・・・」 「・・・ふぅ、ばっかみたい。全部大輔が悪いんだからね!」 「いきなり悪者扱いか」 「だって、だって・・・私をこんな気にさせるんだもの」  恋がお茶を入れに席を外してる間に藍ちゃんに言われたことを思い出す。 「恋ちゃんは、女の子の視線を集めたお兄さまに妬いてるのですわ」  ふぅ・・・まさか周りの女の子の視線を集めただけで悪者扱いか。  だとするといつも男どもの視線を集めてる恋は一体何なんだ? 「悪かった、でも仕方がないだろう?」  そういって肩を抱き寄せそっと髪をなでる。 「ん・・・わかってる。大輔が悪いんじゃないことくらい。  でもね・・・なんかイヤなの。大輔が他の女の子に思われてるって  言うことが。私ってわがままなのかなぁ・・・」 「そんなことはないさ、俺だって恋が他の男に思われてると落ち着かないしな」 「本当?」 「あぁ・・・そんな姿は恥ずかしいから見せないけどな」 「えへへ・・・私と同じなんだ、嬉しいな」  恋は微笑みながら目を閉じて俺にすべてをゆだねてくる。  俺はただずっと髪を梳いてあげる。 「ん・・・」  気持ちよさそうに声を出す恋。 「ねぇ・・・大輔。私をこんな気にさせた・・・罰よ?」  そういってそっと俺の唇をふさぐ。 「いっぱいいーっぱい、愛してね」
1月4日 ・月は東に日は西に sideshortstory  今日は結先生と初詣へ行く日。  俺は何故か恭子先生の家に呼ばれていた。なんでも準備があるそうで  部屋の前に来た俺は 「準備があるから外で待ってて」  と、あっさり追い返された。 「寒い」  いつまで待てばいいのかわからないが、暖かい缶コーヒーくらいは  買っておいた方が良いだろう。  そう思い玄関の前を離れようとしたとき 「おまたせしましたぁ」  結先生の声がした。 「遅いですよ、結先生。一体なにを・・・」  玄関の方を振り向いた俺は言葉が続かなかった。 「・・・おかしいでしょうか?」  そこには綺麗な晴れ着姿の結先生がいた。 「・・・」 「久住、そこは嘘でもほめるところよ?」 「それはひどいですよぉ」 「・・・」 「く、久住君?」 「あ、ごめん。その・・・」 「その?」 「あんまり似合ってたからさ・・・」 「あ・・・ありがとうございますっ!」  頭を下げる結先生、いつものように長い髪を下ろしているのではなく  着物に合わせて結わえてある。  思わず見とれてしまったけど、そんなことは恥ずかしくて言えない。 「てっきり久住は見とれたかとおもったのに」 「きょ、恭子先生!」 「うふふ、なんでもないわ。でもいつ見てもこれは晴れ着っていうより  七五三よね〜」  ・・・正直俺も思った。 「恭子、いくらなんでも怒りますよ?」 「ごめんごめん、少しくらいいいじゃない。こんなにあてられてるんだから」 「・・・ごほん、それじゃぁみんなでお参り行きましょうか」 「私はパス」 「え? 恭子は行かないの?」 「てっきり恭子先生も行くものかとおもったんだけど・・・」 「面倒くさいもん、それに理事長との先約もあるから」 「飲みに行くんですか?」 「そうそう、寂しい独り者同士飲みに行くわ、最近飲み友達もできたし。」 「あまり飲み過ぎはだめですよ?」 「はいはい、それじゃぁいってらっしゃい」 「行って来ます」  俺は結先生と出発しようとした。 「あ、結」 「なんですか?」 「着物脱ぐときはしわにならないようにね」  俺は思わずこけそうになった。 「脱ぐって・・・それを言うなら着替えるときでしょ!」 「あら、そう? てっきり久住が脱がせる物かとおもってたわ。  帯をひっぱってあーれー、みたいにね」 「恭子っ!」 「はいはい、気をつけてね〜」  お賽銭を納めて、2礼2拍1礼。  願い事は・・・俺らしく世界平和にしておこうか。  横をみるとまじめに結先生がお願い事をしている。  ・・・俺もまじめに願い事をするか。 「久住君は何をお願いしたんですか?」 「秘密」  本当のところは恥ずかしくて言えないだけだ。 「私たちの間には秘密ごとはなしですよ? 久住くん」 「じゃぁ結先生はどんなお願い事をしたんですか?」 「えっ? それは・・・秘密」 「俺達の間には秘密ごとはなしじゃないですか?」 「うぅ・・・笑いませんか?」 「もちろん、俺の目を見てください。」 「・・・目が笑ってますよ」 「気のせいです」  ここはきっぱりと言い切る。 「その・・・ですね。あのぉ・・・  もっと女らしくなりたいですって」 「え?」 「あー、やっぱり笑ってる、久住君酷いです」 「ごめんごめん。でも何でかなって思ってさ。結先生は立派な女性ですよ?」 「だって、久住君の彼女として、釣り合いたかったんですもの。  もっと大きくなりたいし、胸だっておしりだって・・・きゃっ」  俺は結先生を抱っこする。  確かにこうしてみると親が子供を抱きかかえてるような感じに  みえるだろう。  だから、そう見えないようにするために、俺は唇を重ねる。 「ん・・・久住君」 「俺はどんな格好でもかまわない、結は結だからさ」 「久住君・・・大好きです」  そしてもう一度ふれるかどうかの優しい口づけ。  手をつないで神社からの帰り道。  ・・・やっぱりこうしてると恋人というより仲の良い兄妹にみえるんだろうな。 「でも、良かったです。久住君がロリコンで・・・って久住君?」  俺はおもいっきりこけていた。 「いったいなにがどーなったらそーゆー話になるんですかっ!」 「だって恭子が言ってたんですもの。久住君はロリコンでよかったねって」 「・・・」 「だから、私は今のままでいようと思います。  私は、私ですものね? 久住君!」 「えぇ、その点は保証します。でも、そのまえに・・・」  恭子先生にどうすれば仕返しができるのか、考えよう。 「それで、その・・・久住君。今日は・・・私の部屋にきませんか?」 「え? 結先生の部屋ですか?」 「はい、私の誕生日なんです、お祝いしてくれませんか?」  ・・・ちょっとだけ汗をかく。  誕生日って事を忘れた訳じゃない、プレゼントも用意してある。  それを渡す勇気が・・・まだ無いだけだ。 「もちろん、お祝いしないわけないじゃないですか!  行きましょう!」 「はい、美味しい手料理をご馳走しますね!」 「やっぱ久住はロリコンだったんだ」 「恭子先生、誤解を招くような発言はしないでくれますか?」 「でもねぇ、あれを見て言い訳なんでするわけ?」  そういって恭子先生が目線を送った先には、大事そうに左手を右手で  包む結先生がいた。  その左手に薬指には銀色の指輪が輝いていた。
1月3日 ・D.C. sideshortstory 「ついてしまったな、音夢」 「つきましたね、兄さん」 「あははは・・・」  三者三様の反応を示すここは、初音島にある神社の入り口。  俺は普段着だが、音夢とさくらは晴れ着を着ている。  その晴れ着に似合わないような、雰囲気。それは気構えというのだろう。  一人後ろで苦笑いしてるさくらは・・・ほっておいて 「お兄ちゃん? 今ボクのことのけものにしなかった?」 「・・・そんなわけないだろう?」 「その間はなに?」 「・・・」 「それよりも」 「お兄ちゃんごまかしたー!」 「音夢、準備はいいか?」 「えぇ、些か不満ではありますけど、これが最適だってわかってます」 「あぁ。では、ターゲットを押さえるか」 「はい」  そして俺達は目線をターゲットに向ける。  そこには晴れ着をきた一人の幼なじみであり、後輩の少女がいた。  少し前を歩いてた美春が不思議そうに戻ってきた。 「朝倉先輩、音夢先輩、難しい顔をしてどうしたんですか?  初詣しちゃいましょうよ!」  俺は有無を言わさず美春の右手を握る。 「え? 朝倉先輩・・・こんな道の真ん中で・・・え?」  そしてそのまま腕を組む。 「朝倉先輩・・・美春は恥ずかしいです」 「美春、何赤くなってるのよ!!」  反対の横から音夢が同じように腕を組む。 「え? えぇ!、これはなんなんですか!」  今の美春は俺と音夢に両腕を組まれて真ん中に挟まれている。 「よし、準備完了だ。音夢、いこう」 「はい、兄さん」 「え?」 「・・・お兄ちゃん達も大変だよね、うたまる」 「にゃぁ」  いつの間にか頭の上にうたまるを載せたさくらがうしろからついてきた。 「ふぅ・・・かったるい」 「ひどいですよー、先輩! チョコバナナの屋台がいっぱいあったのにぃ」  恨めしそうな視線で見られるが、俺はひるまない。 「それで去年の初詣、どれだけのことがあったとおもってるか忘れたのか?」 「それはそれ、今年は今年の話なんですよー!」 「美春・・・」  音夢がため息をついている。  そう、チョコバナナの屋台があるたびに美春は暴走する。  普段はそうでもない・・・いや、普段からそうかもしれないが、これだけ  出店があるなかでチョコバナナの屋台を見つけるたびに足を止め目を  輝かせているのである。  境内までの距離がこんなに長いとは思わなかったくらい時間がかかった。 「美春、お参りが先でしょう? チョコバナナは帰りに食べましょうね」 「本当ですか音夢先輩っ! 美春はチョコバナナを食べていいんですねっ!!」 「え、えぇ・・・お参りをしてからね」 「そうと決まればお参りしましょう、音夢先輩!」 「・・・」 「・・・かったるい」  お賽銭をいれて、2礼2拍1礼をする。  そして願い事をしようとして・・・ 「なぁ、さくら」 「何、お兄ちゃん?」  横でお願い事をしようとしてるさくらに小声で訪ねてみる。 「俺達魔法使いってさ、神様から一番遠い所にいるよな。そんな俺達が  神様にお願い事していいんだろうか?」 「だいじょうぶ、問題ないよ、だから神頼みって言うじゃない」 「・・・何か根本的に違うような気がするんだが」 「若いうちから心配してると、はげ・・  にゃっ! いったぁい。お兄ちゃん酷いよ」  俺は思わずさくらをはたいていた。 「俺は最後まではげない。よし、それをお願いしてやる」 「兄さん・・・もう少し建設的な願い事はないんですか?  将来のこととか」 「いいんだよ、神頼みなんてこの程度で。  将来は自分の手でつかめばいいんだから」 「・・・」 「・・・」 「・・・」  急に訪れる沈黙。 「・・・なんだよ」 「兄さんがまともなこといってる」 「朝倉先輩、バナナ食べ過ぎですか?」 「お兄ちゃん、お屠蘇飲み過ぎ?」 「・・・」  一つすごい場違いな意見がある気がしないでもないが。 「・・・かったるい、帰るぞ」 「あ、兄さん待ってください!」 「朝倉先輩、チョコバナナをおごってくれる約束は?」 「そんな約束なぞ知らん!」 「酷いですよ〜、美春のことだましたんですね!!」 「だますも何もそんな話なんてなかっただろうっ!!」  逃げるお兄ちゃんと追いかける音夢ちゃんと美春ちゃん。  ボクはお兄ちゃんのもらした、本音が心に響いていた。 「そうだよね、お兄ちゃん。将来は・・・自分の手でつかまないとね。  お兄ちゃんの言葉、ボクは絶対忘れない・・・」
1月2日 ・夜明け前より瑠璃色な sideshortstory 「どうしたの?」 「いや、その・・・」  思わず見とれてたなんて言えない、よなぁ。 「ふふっ、達哉。顔に出てるわよ?」 「俺ってそんなにわかりやすい?」 「えぇ、私に見とれてた、なんて言うんでしょう?」 「・・・」 「・・・え? 当たったの?」 「・・・」  うつむいて顔を真っ赤にするフィーナ。  俺も顔を赤くしているんだろうな・・・  朝霧家のフィーナの部屋。  一緒にベットの上に並んで座って、空に浮かぶ月を見上げながら  おせちの残りのお屠蘇を二人で飲んでいる。  お正月、新年の行事を終えたフィーナはそのまま、トランスポーターを  つかって地球にやってきた。  軌道重力トランスポーターは今はお互いの監視下にあるはずなのだが、  リースに協力を頼むのに成功すると月と地球に内緒で使えたりする。  普通の人や王族であってもリースに協力を取り付けるのは出来ないのだが  「リース、地球に美味しいおせちを食べに行きましょう?」  「・・・行く」  ・・・だそうだ。  いいんだろうか、と思いつつ俺もフィーナの誕生日の時使わせてもらって  いるので何も言えない。  あのときは左門のフルコースだったっけ・・・リースの説得材料。  ミアとリースと一緒にやってきたフィーナはいつものドレスではなく、  晴れ着だった。  最近月で和の文化が取り入れられてるそうで、その一環で王女の晴れ着姿が  新年の挨拶の時に公開されたそうだ。  そのときの貴族達の反応はすごかったそうだが、噂では国王様が紋付き袴姿  だったそうで・・・想像できない。  こちらに来たのが夜だったこともあり、いつものメンバーでの新年の挨拶と  食事会の後そのままフィーナは泊まることになったわけで・・・ 「達哉、そんなに見つめられると恥ずかしいわ・・・」 「ごめん、綺麗だったから」 「綺麗なのはこの晴れ着かしら?」 「晴れ着も綺麗だけど、晴れ着なんかなくても、綺麗だよ」 「・・・確かめてみる?」  そっと寄り添ってくるフィーナ。 「フィーナ、もしかして酔ってる?」 「・・・達哉は?」  潤んでいる瞳を見つめ返す。 「・・・ずっと前から酔ってるよ」  フィーナに、とは言葉にしないで、態度で伝える。 「ん・・・」  そのままベットに倒れ込む・・・ 「まって、今は駄目」  そっとベットから立ち上がり壁の方へ歩いていくフィーナ。 「着物が台無しになっちゃうから、今は駄目よ」 「・・・だからフィーナの部屋で、なのか」  夜を過ごすのはたいてい俺の部屋の場合が多い。  今日はフィーナが「私の部屋で」と言った理由がわかった。  ここなら着物を掛けておくハンガーもあるからだ。 「着物だって、王室の収入から支払われてるのですもの、  粗末に扱えないわ」 「それじゃぁ、着替えないとな」 「えぇ・・・達哉、手伝ってくれる?」 「フィーナ、やっぱり酔ってる?」 「えぇ、私もずっと前から達哉に酔いしれてるわ」  結局着物をちゃんとしまえたのは翌朝になってからだった。
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