夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if-


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・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 8.0「澱み」 「よーし、いいぞ」  わぉん、とほえながらイタリアンズは駆けだしていった。  夜の物見が丘公園、日課の散歩に連れてきた俺は、リードを離して  好きなように遊ばせている。  俺は手近なベンチに座って一息いれる。 「ふぅ」  フィーナがホームスティしてから1週間たった。  最初は慣れない環境なのか緊張してた二人だけど、今は自然に生活出来てると思う。  同じように慣れてなかった俺や姉さんや麻衣も、自然に接している。  フィーナもミアも、もう家族だった。  だからこそ、俺達の関係が重くのしかかってくる。  俺と姉さんと麻衣の、3人の家族以上の関係。  俺はそれとなく二人を見ている、以前のように何がきっかけで壊れてしまうか  わからないからだ。  もう、あの時のような思いはさせたくない。  だから、直接聞いてみることにした。 「私はだいじょうぶよ、それよりも達哉君こそだいじょうぶ?」 「俺は問題ないよ」 「さすが達哉君よね」  そう言っていつものように頭を撫でてくれた姉さん。 「私も大丈夫だよ、それよりもお兄ちゃんこそ大変じゃない?」 「俺はいつも通りだよ」 「すごい、さすがお兄ちゃん!」  麻衣も自分より俺の事を心配してくれている。  二人を信じてない訳じゃないけど・・・ 「ねぇ、達哉君。たまには、私も撫でて欲しいな」  頭を撫でてあげると姉さんは気持ちよさそうな顔をした。 「お兄ちゃん♪」  そう言って背後から抱きついた麻衣。 「ちょっとだけ、お兄ちゃん分を充電だよ」 「やっぱり二人とも無理させてるのかな・・・」  俺の意志でホームスティを受け入れた、そのことは後悔していない。  けど、失敗したのだろうか? 「そんな訳無いだろ!」  思わず自分自身を叱る。  フィーナを、ミアを受け入れないだなんてそんな選択肢はあり得ない。  月と地球の為を思う二人を地球が拒絶するだなんて・・・ 「ふぅ・・・それこそ言い訳だな」  夜空を見上げる、月が見えない夜だ。 「俺が・・・一番まずいのかもしれないな」  守ってあげれるよう強くなりたい、そう思ってる俺が一番弱くて  姉さんと麻衣に守られてる。 「まだまだだな、そんな事じゃ目指すゴールにたどり着けないからな。  よし、明日も頑張るぞ!」
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 8.1「真実と本音と」 「ただいま」 「お帰りなさい、お兄ちゃん」  イタリアンズの散歩から帰ってきてリビングに顔を出すと、麻衣が出かける  用意をしていた。 「麻衣、どこか行くのか?」 「うん、お姉ちゃんの所」  今日はまだ帰ってきていない姉さんの所へ、ということは 「もしかして帰れなくなったのか?」 「うん、さっき電話あったの。だから夜御飯を持っていこうとおもって」 「俺が行こうか?」 「お兄ちゃんは帰ってきたばかりだから疲れてるでしょう?」  そう言いながら出かけようとする麻衣を俺は止める。 「あのさ、麻衣。最近俺さ、運動不足だからもう一度散歩行って来るよ」 「お兄ちゃん、運動不足な訳ないでしょう? あっ!」  俺は麻衣からお弁当が入った鞄を取り上げる。 「良いんだよ、俺が行く。こんな時間に女の子を一人で出歩かせる訳にも  いかないしな」 「達哉は麻衣に優しいのね」 「あ、フィーナさん」  リビングの奥からパジャマを着たフィーナが出てきた。  どうやらお風呂上がりのようだ。 「そうか? 普通だと思うぞ?」 「そうかしら?」  優しく微笑むフィーナ、その目は何でも見透かしてしまいそうな、そんな  澄んだ目だった。 「ねぇ、達哉。もし私がさやかの所に届けるって言ったら同じように止めて  くれる?」 「当たりまえだ」  俺は即答した。 「フィーナだって女の子なんだからな、こんな時間に出かけさせる事はさせない」  その言葉にフィーナは一瞬驚きの表情を浮かべた。  そしてすぐに笑顔になる。 「それは、私が女の子だから? 王女だからじゃなくて?」 「あ・・・そういえばそうだった」  フィーナが王女であることを忘れていた。 「ふふっ、達哉らしいわね。気をつけて行って来てね」 「あ、あぁ。ありがとう」  フィーナは自室へと戻っていった。 「ねぇ、お兄ちゃん。もしかしてフィーナさんが王女様ってこと」 「あぁ、なんだか忘れてたみたいだ」 「・・・」  麻衣が複雑そうな表情をしていた。 「私も同じ理由なだけ?」  俺は周りを見回した、フィーナは部屋に戻ったしミアは見あたらない。  それを確認してから、麻衣にそっと顔を近づける。 「麻衣は、大事な家族で、可愛い女の子で、そして俺の彼女だから、だから夜の  一人歩きは心配なんだよ」  その言葉に麻衣の顔がぱぁっと笑顔になる。  そしてそっと眼を閉じる麻衣。 「行って来るな、麻衣」  そっと唇を重ねる。 「うん、行ってらっしゃい」 another view フィーナ・ファム・アーシュライト 「・・・ふぅ」  部屋に戻って深呼吸する。 「達哉ったら・・・」  私のちょっと意地の悪い質問に即答してくれた、それも私が求める答を。 「王女であることを忘れたという事は、私は王女らしくないということかしらね」  嬉しいのか悔しいのかおかしいのか、よくわからない感情が渦巻く。  常に王女であった私、それを忘れられたということが・・・ 「ふふっ」  自然と顔がほころぶのがわかる。 「達哉の前で変な顔しなかったかしら?」  気を緩めたつもりはない、でも私の隙をつかれたと思う。 「注意しなくては、ね」 another view 朝霧麻衣 「えへへ」  お兄ちゃんとのキス、柔らかい感触がずっと私の唇に残ってる。  触れるだけのキス、たったそれだけなのにとても心が満たされる。 「えへ、えへへ」  嬉しくて頬が緩む。緩みっぱなしかもしれない。 「お兄ちゃん、帰ってきたら美味しいお茶をいれてあげようっと」  私はリビングに戻ることにした。 「・・・あ」  その時気づいてしまった。 「一緒にでかければデートできたのに・・・」
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 8.2「密室・密会」 「参ったな」  博物館への道のりの途中、雨が降ってきた。  そんなに強い雨ではないが、預かった姉さんの荷物が濡れるのはまずい。  一度戻ることも考えたが、すでに半分以上進んでいるのと時間が遅いので  このまま博物館へ行くことにした。  俺は荷物を抱え込み、雨に濡れないよう走った。 「ふぅ」  博物館の裏手側にまわる、そこにある職員専用入り口。  もちろん、俺は入ることは出来ない。  中から開けてもらうしかないので、姉さんを携帯で呼ぶ。 「達哉君、ありがと・・・ってどうしたの? 雨降ってたの?」  濡れた俺の身体を見て姉さんが驚く。 「大丈夫だよ、これくらい。姉さんの荷物は濡れてないから」 「そんなことはいいの、それよりも達哉君、中に入って」  俺は博物館の中に通され、そのまま館長室へと連れて行かれた。  姉さんは館長室の奥にある、小さな扉へと向かった。  確かあそこは、館長用の宿直室じゃなかったか? 「ほら、達哉君入って」  姉さんに言われるがままにその部屋へと通された。  そこは、館長室とは違って狭い小部屋だった。  ベットと小さな机があり、もう一つ小さな扉がある。  ビジネスホテルの部屋を少し狭くした感じだった。  姉さんは帰れないとき、ここで寝ているのだろうか? 「なにぼーっとしてるの? ほら、早く服を脱いで」 「え?」 「濡れたままじゃ風邪をひくわ、早く脱いで」  そう言って姉さんは俺のシャツを脱がそうとする。 「わ、わかったから自分で脱ぐよ」  俺はシャツを脱ぐ、姉さんはそれを受け取る。 「乾燥機にかけてくるからズボンも脱いで」 「え? えっと・・・」 「早く」 「・・・はい」  俺は姉さんに背を向けてズボンを脱ぐ。とても恥ずかしい。  そして用意されてたバスタオルを腰に巻く。 「姉さん、これでいい?」 「・・・」 「姉さん?」 「え? あ、うん。それじゃぁ私は乾燥機に行って来るから達哉君は  シャワー浴びて待っててね」 「シャワーあるの?」 「えぇ、そこの扉の中よ」  部屋の中に出入り口以外のもう一つの扉は、バスルームのようだった。  中にはいると、そこは小さなシャワールームだった。  お湯を張る湯船は無く、脱衣所もない、本当にシャワーを浴びて汗を  流すだけしか出来ない場所だった。  俺はシャワーを出して浴びる。 「暖かい・・・やっぱり身体は冷えてたのか」  大したこと無いと思ってたが、あのまま家に帰ればまずかったかもしれない。  姉さんに感謝しないとな。 「達哉君、お湯加減はどう?」 「だいじょうぶだよ、ありがとう姉さん」  俺の返事に姉さんは何も言ってこない。 「姉さん?」  その時、扉が開いた。 「え?」 「達哉君、私も入って、いい?」  そこには一糸纏わぬ姉さんが立っていた。 「ね、姉さん?」  狭いシャワールームに姉さんは入ってきて、扉を閉める。  俺は思わず背中を向ける。 「ど、どうして?」 「どうしてもなにも、達哉君と一緒にシャワー浴びようと思っただけよ」 「確かに家から持ってきたのは夜食と姉さんの着替えだったはずだけど、なにも  今じゃなくて・・・」  俺の言葉は続かなかった、姉さんが背中から抱きついてきたからだ。  姉さんはそのまま俺の胸に手を回して強く抱きついてくる。  背中に柔らかいふくらみが当たり、理性を失いそうになる。 「達哉君・・・私、がんばれてるかな?」  その一言で俺はわかった、姉さんも頑張っているんだって。 「当たり前じゃないか、姉さんはいつも頑張ってる。俺はそれを知っているから」 「ありがとう、達哉君」  頑張ってるのは俺だけじゃない、姉さんも麻衣もだ。  そして、不安なのも俺だけじゃないんだ。  そう思った俺は抱きついてた姉さんの手をほどく。 「達哉君?」  そして姉さんと向かい合ってから、姉さんを抱きしめ、頭を撫でる。 「ん・・・」 「大丈夫だよ、姉さん。俺も頑張る」 「ありがとう」  俺はそっと姉さんの頭をなで続けた。 「達哉君、その・・・」  姉さんが身体を動かす、その時になって俺は気づいた。  自分の物が姉さんの下腹部に当たっていることに・・・ 「達哉君も・・・たまってたのね」  そう言うと姉さんはそっと手を添える。 「っ!」  それだけで刺激が体中に走る。  確かにフィーナ達が来てからそう言うのは全くなかったから・・・ 「ねぇ、達哉君。頑張ってるお姉ちゃんにご褒美、欲しいな」 「姉さん・・・」 「達哉くん君・・・女性にも性欲ってちゃんとあるのよ?」  その一言で俺の理性は完全に吹き飛んだ・・・
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 8.3「密室・孤独」 another view 朝霧麻衣  昨日の夜、お兄ちゃんが帰ってきたのはかなり遅かった。  ただ行って来るだけにかかる時間以上の時間。  雨が降ってきて、雨宿りしてたらこれくらい遅くなるかもしれない。  でも、その間にお姉ちゃんと二人っきり・・・  きっと、お姉ちゃんを抱いたんだ。  そう思うとちょっと悔しくなる。  私はこんなにも我慢してるのに、お姉ちゃんは・・・  そこまで思って、頭を振る。  もし、私が同じ立場にたったら、きっとお兄ちゃんを求めちゃう。  キスしてもらって、身体中触れてもらって、そして。 「あんっ」  いつの間にか私の手は一番敏感な所に触れていた。  いけない、声が聴かれちゃう!  私はベットの中に潜り込んで布団を頭からかぶる。  心地よい布団の重みと、暖かさがお兄ちゃんを想像させる。 「麻衣」  お兄ちゃんの声が聞こえてきた気がする。 「お兄ちゃん・・・」  いけないとわかってる、でも私の手は胸の上に添えられる。 「んっ」  駄目! こんなんじゃ嫌! お兄ちゃんじゃないと嫌なの!  その思いとは逆に開いてる方の手はショーツの中に潜り込んだ・・・  気が付くと朝になっていた。 「起きなくちゃ・・・」  ベットから出る。 「ん・・・」  眠ったはずなのに眠った気がしない。 「シャワー浴びよう」 「麻衣、どうかしたの?」  朝食の席でフィーナさんに訪ねられた。 「なんだか眠たそうね」 「あ・・・うん、ちょっと夜更かししちゃったの」 「そう、勉強は程々にしないと駄目よ?」 「うん。ありがとう、フィーナさん」  本当は勉強なんかしていない、けどそう答えることにした。  心が痛んだ。 「麻衣、大丈夫か?」  学院へ行く前にお兄ちゃんにも同じ事を訪ねられた。  私、そんなに酷い顔してるのかな・・・ 「そんなに心配そうな顔しなくて大丈夫だよ、お兄ちゃん」  笑顔でそう答える、ちゃんと笑顔になってるよね? 「わかった、でも駄目なときは言うんだぞ?まぁ俺が何か出来る訳じゃないけどな」 「そんなことないよ、お兄ちゃんはいつも困ってるとき助けてくれたもん!」  お兄ちゃんの言葉に私は想いを込めて反論する。  いつもお兄ちゃんは助けてくれた、お兄ちゃんでしか出来ないことで。 「そ、そうか?」 「うん、いつもありがとう、お兄ちゃん。それじゃぁ行こう!」
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 8.4「暗闇・逢瀬」 「今日も姉さんは遅いのか?」 「うん、さっき電話あったの」  左門での食事の席に姉さんはいなかった。 「今日も差し入れ持っていくのか?」 「今日はだいじょうぶだって、遅くなるけど泊まってこないっていってたから」 「さやかは大変ね」 「そうですね、帰ってきたらお食事の用意してさしあげなくては」 「ミアちゃん、それなら大丈夫だよ」  おやっさんがランチボックスを持ってきた。 「こういうこともあろうかと、サンドイッチを用意しておいた。  これをもって行くと良い」 「ありがとうございます、マスター」 「それじゃぁ達哉、また明日ね」 「あぁ、おやすみ菜月」  食事も終わってみんなで家に帰る。 「フィーナさん、お風呂わいてるからどうぞ」 「ありがとう、麻衣。ではお先にいただくわね」 「俺はイタリアンズの散歩に行ってくるか」 「あ・・・お兄ちゃん、たまには一緒に行ってもいい?」 「あぁ、良いよ」 「それじゃぁ準備してくるからちょっとだけ待っててね」  そう言うと麻衣は2階へ駆け上がっていった。  短いスカートが翻るのを見て、俺は慌てて視線を逸らした。 「ふぅ・・・無防備すぎる」 「なんだか久しぶりだね、お兄ちゃんと二人で散歩行くの」 「そうだな」  リードを持つ麻衣は楽しそうな表情をしている。  こんなに楽しそうにしてくれるならこれならもっと散歩に誘う  べきだったなと思う。 「これから増やせば良いか」 「ん? 何か言った?」 「なんでもないさ」  物見が丘公園の小高い丘の上でリードを離す。  イタリアンズは元気良く走り出した。 「麻衣、少し休むか」 「うん」  俺は丘の上のモニュメントに背を預けた。 「そういえば麻衣、そのバックなんなんだ?」  準備してくると言った麻衣はバックを持ってきた。  散歩に必要な者は俺が持っているから、麻衣はてぶらで良いはずだと思う。 「いろいろと入ってるの、女の子には準備ってものがあるんだよ?」 「そっか」  そう言われると男である俺が詮索するわけには行かないな。 「・・・ねぇ、お兄ちゃん。ちょっとつきあって欲しいんだけど、いい?」 「あぁ、構わないぞ。それじゃぁイタリアンズ呼ぶからちょっと待ってて」 「ううん、いいの。すぐ済むから」  そう言うと麻衣はモニュメントの裏に回り込んだ。 「麻衣?」  湾側はすぐ崖となっているため、策がある。そのため場所は狭くなっている。  ちょうど月明かりの影になっているため、さっきまでいた表より暗かった。 「麻衣?」 「お兄ちゃん!」  麻衣は俺に抱きつくと、唇を強引に重ねてきた。 「ん・・・」 「ま・・い?」 「ごめんなさい、でももう我慢出来ないの!」  そう言う麻衣の目に涙がたまっていた。 「ごめんなさい、えっちな妹でごめんなさい」 「麻衣」  俺の言葉に麻衣がびくっとする。 「大丈夫だよ、麻衣」  俺は麻衣をそっと抱きしめる。 「俺は麻衣を嫌いにならないから、ずっと側にいるから」 「お兄ちゃん・・・」  再び唇を重ねる。 「あ・・・」  お互いの舌が絡み合う、さっきと違う深い深い口づけ。  唇が離れたとき、お互いの唇に糸が出来る。 「ねぇ、お兄ちゃん・・・私はもう大丈夫だよ。だから・・・」  そう言うと麻衣はモニュメントに手を付いて腰をこちらに向ける。  短いスカートの下に見えるパンツのクロッチの部分はもうぐっしょりだった。 「お願い、お兄ちゃん・・・」  ・  ・  ・ 「麻衣、大丈夫か?」 「う、うん・・・たぶんだいじょうぶ」 「そろそろ戻らないと」 「そうだね・・・」 「あの、麻衣。ごめん」 「?」 「そのさ、そんなに汚しちゃって」  服を着たままだったので、スカートやパンツがかなり汚れてしまっていた。 「あ・・・大丈夫だよ、お兄ちゃん。持ってきてるから」  そう言うと麻衣はバックからスカートの替えを取り出した。 「なら安心だな・・・ん?」  バックに入ってる着替え? ということは? 「麻衣、もしかして」 「・・・女の子にだって性欲はあるんだよ?」
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 8.5「会話・距離」 「さやか、今日は帰れないから」  朝、リビングにやってきたフィーナは挨拶のあとこう続けた。 「帰れない?」 「そうよ、達哉。今日は検査の日なの」 「そういえば、もうそんなにたったのですね」 「フィーナさん調子悪いの?」 「いえ、そう言うわけではないわ」  フィーナの説明によると、地球という環境での生活で身体に影響が  無いかどうかの確認の検査とのことだ。 「検査項目が多くて夜遅くになってしまうの、だからそのまま大使館に  泊まることにするわ」 「明日はどうなされますか?」 「そうね、何もなければ大使館から直接学院に行こうと思うわ」  フィーナがそう言い終わるよりも早く、玄関のインターフォンがなる。 「はぁい」  姉さんが応対にでる。 「カレンね。ミア、準備は出来てる?」 「はい」  フィーナの部屋の方からでてきたミアは小さな鞄を持っていた。 「それじゃぁ行って来ます」 「行ってらっしゃい、また明日な」 「えぇ」  迎えに来たカレンさんと一緒にフィーナとミアは行ってしまった。 「検査か・・・王族って大変なんだな」 「王族とかは関係ないわ。達哉くんも知っての通り月と地球は環境が全く違うもの」  確かに、月と地球では環境が全く違う。 「月の空気は機械を通して循環させてるの、でも地球では必要ないでしょう?」  姉さんは一度言葉を区切る。 「管理された空気と自然の空気、それだけでも身体には影響でるものよ」  言われてみるとそうかもしれないと思う。 「お兄ちゃん、お姉ちゃん。朝ご飯食べちゃおうよ」  リビングから麻衣の呼ぶ声がする。 「そうね、片づかないものね。達哉くん、行きましょう」 「行って来ます」  玄関をでて鍵を閉める。  なんだかこの行為がとても久しぶりの気がする。 「お兄ちゃん、鍵しめた?」 「あぁ、だいじょうぶだよ」  二人で並んで歩き始める。 「・・・」 「・・・」  会話が続かない、いつもなら世間話で盛り上がる朝の通学路。  それはフィーナがいないから・・・だけではない。  なんだか麻衣との距離がつかめない。  麻衣もそう考えてるのだろうか? 「・・・あの」  麻衣が何かを言おうとしたとき後ろから菜月の声が聞こえた。 「はぁ」  麻衣は言いかけの言葉を飲み込み、変わりにため息をついた。 「達哉、今日はフィーナと一緒じゃないの?」 「今日は検査の日とからしくで、1日中大使館だよ」 「そうなの? 月人も大変なのね」 「きっと俺達が月に行ったら同じようなことがあるかもしれないぞ?」 「そうだね〜、でも月には行けないし」  俺は空を見上げる、月は見えない。  そう、月から来たフィーナは特別なのだ。月人も簡単に地球に来れない  ように、地球人も月には簡単には行けない。 「それっておかしいよな」 「ん? 達哉何か言った?」 「いや、なんでもない」  横で少し機嫌の悪そうな麻衣を見て俺は苦笑いしてしまう。  さっきより少しだけいつもの距離になれたかな、そう思いつつ学院に到着した。
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 8.6「家族・距離」  左門での食事が終わって家に戻る。  いつもと違うのはフィーナとミアがいない事。  二人は検査のため大使館に泊まってくることになっている。 「いつもと違うんじゃなく、前に戻っただけだよな」  それなのに、前に戻った気がしない。 「・・・」  やっぱりいつもと違うのだと思う、それは家族が足りないから。 「家族・・・か」  ホームスティにきた二人、何れは月に帰ってしまう。  なら、このままの関係が望ましい、いや、それが一番良いはずだ。 「・・・」  でも、解ってはいる。  家族に大事なことを隠している、この後ろめたさがずっと心を蝕んでいるの事を。 「・・・散歩」  そういえば、散歩に行ってなかったな。  なんですぐに行かなかったのだろう?  俺はイタリアンズの散歩に行くことにした。 「お兄ちゃん遅いよ」 「麻衣?」 「やっときたわね、それじゃぁ行きましょうか」  姉さんの合図にイタリアンズが立ち上がる。 「ほら、行こう!」 「ちょ、ちょっと危ないって」  麻衣に腕を引かれながら散歩に出発した。  物見が丘公園で人がいないことを確認してから、3匹ともリードを外す。  待ってましたとばかりに駆け出し遊び始める。  それを見てから俺はモニュメントに背中を預けるように座った。 「達哉くん、また悩み事かしら?」  横に座る姉さん。 「お兄ちゃんって隠し事出来ないよね」  反対側に麻衣が座る。 「スカート汚れちゃうよ?」 「洗えばいいのよ」 「そうそう」  二人が俺に寄り添うようにすわる。  そして無言の時間。 「・・・何も聞かないの?」  俺はそれに耐えられなかった。 「聞いて欲しいの?」 「・・・どうなんだろう」  解らない、聞いて欲しいのだろうか? 「私は聞きたいな、お兄ちゃんの悩み」  麻衣は逆に聞いてくる。 「だって、聞かないと一緒に悩めないじゃない。このままだとお兄ちゃん一人で  抱え込んで自滅しちゃうでしょ?」 「・・・かもな」  俺は正直に話し始めた。  新しい家族に隠し事をし続ける事がいいことなのか悪いことなのか。  これがいいって解ってるけど、納得できないこと。  そして、この悩みをうち明ける事が二人に不安を与えることも。 「俺って全く成長できてないよな」  そう言って話を締めくくる。 「ごめん、変な話しして」 「いいのよ、達哉くんが話してくれて嬉しかったわ。私もそうはおもってたもの」 「そうだよ、お兄ちゃん。これは家族の問題でしょ? お兄ちゃん一人の問題じゃ  ないんだからね?」 「・・・そうだな」  麻衣に言われて気づく、家族の問題は一人じゃ解決出来ないことに。  なんでそんな事に気づかなかったんだろう? 「確かにフィーナ様にこの関係を話す事は難しいわ、でも家族の問題だからこそ  フィーナ様にも話すべきなのかもしれないわね」 「でも、そう言うわけにはいかないだろう」  姉さんの立場的にそう簡単に話すことは出来ない。 「でもそうなるとずっと隠したまま過ごさなくちゃいけないんだよね」 「それがベストなんだろうな」  家族とは言っても数ヶ月後には月に帰ってしまう。  フィーナ達に地球での生活の思い出に余計なことを付け足したくない。 「もう少し考えましょう、そしてまた3人で話し合いましょう」  姉さんのその言葉に、俺がいかに無力なのか、それを再確認させられる。  けど、3人とも同じ思いを抱えて悩んでくれる、そう思うと少しだけ心が  軽くなった気がした。 「それじゃぁ帰りましょう」 「うん、そうだね」  二人が立ち上がったのを見てから俺も立ち上がる。  イタリアンズを呼ぶ事にした。
・夜明け前より瑠璃色な Another Short Story -if- Episode 8.7s「密接・距離」 「お兄ちゃん、痒いところ無い?」 「無いよ」 「達哉くん、気持ちいい?」 「あ、あぁ」  イタリアンズの散歩から帰ってきた俺は、何故かみんなと一緒に風呂に入っていた。  俺は目をつぶったまま腰掛けに座っている。 「達哉くんの背中って広いわね」  そう言いながら背中を流す姉さん。 「くせ毛発見♪」  麻衣は俺の前に膝立ちになって頭を洗ってくれている。  ・・・と思う。  だって俺は目を閉じたままなので、実際どういう格好かは見ていないからだ。 「お兄ちゃん、見ても良いんだよ? あ、今は駄目か。  シャンプーが目に入っちゃうもんね、もうちょっとまっててね」  二人に身体を洗われるのはくすぐったい。  けど、背中には手が届かない場所がある、そこまで丁寧に洗ってくれる姉さん。  麻衣も、髪を洗うだけじゃなく頭皮をマッサージするような感じで洗ってくれる。  正直に言うととても気持ちがよい。  しかし、この状況・・・隠せない物もある。 「お姉ちゃん、背中は大丈夫?」 「いいわよ、麻衣ちゃんお願い」  麻衣がシャワーを俺の頭からかける、シャンプーの汚れと石鹸の汚れが同時に  落ちていく。 「次にトリートメントっと」  顔の水分を両手でふき取り、目を開け、すぐに目を閉じる。  麻衣は俺の目の前に膝立ちになって両手にトリートメントをつけていた。  両手に液体、目の前に瑞々しい肢体を惜しげもなくさらしていた。  すぐに眼を閉じたけど、完全に目に焼き付いてしまっている。 「ふんふふ〜ん」  鼻歌を歌いながら麻衣はトリートメントを髪になじませていく。 「・・・」  俺はそっと薄目をあける、目の前に小さな、でも思い切り自己主張している  ピンク色の突起が見えた。 「・・・えい」  突然姉さんが後ろから抱きしめてきた。 「ね、姉さん?」 「達哉くん、ずるいわ。麻衣ちゃんばっかり見て」 「え? お兄ちゃん私を見てたの?」 「そうよ、その証拠に、ほら」 「あ・・・」  腰にタオルを巻いてあっても、隠せる状態ではなくなっている。 「んふ、達哉くんもうちょっとだけ我慢してね」  そう言いながらも俺に胸を押しつけてくる姉さん。  柔らかい二つのふくらみの中心に固さを感じる。 「ん・・・トリートメント終わり。お姉ちゃん、ちょっといい?」 「あ、うん」  姉さんの感覚が離れていくと同時にシャワーをまた浴びせられた。 「これで良しっと」 「それじゃぁ達哉くん・・・先に私の身体も洗ってもらおうかしら」 「え?」 「お兄ちゃん、私のもお願いね」  俺の前に座る二人。  傷一つない綺麗な背中、うなじから流れるラインは優雅に曲線を描き  腰にとつながっている。 「・・・達哉くん、そんなに熱い視線だと我慢出来なくなっちゃうわ」  腰を揺する姉さん。 「お兄ちゃぁん・・・」  麻衣は太股を擦りあわせてる、その揺れにあわせて可愛いお尻が揺れる。 「ねぇ、達哉くん・・・」 「お兄ちゃん・・・はやく」 「・・・」 「さすがに3人は狭いよね」  小さめの湯船に俺が入り、姉さんが背中を預けてくる、その姉さんに抱きかかえ  られるように麻衣が入る。  3人での入浴方法だ、けど入るときにお湯のほとんどがこぼれてしまう。 「でも暖かいわ」 「お兄ちゃんは大丈夫?」 「あ、あぁ・・・」  一番下になる俺に全てがかかってくるわけだが、お湯のおかげで重さは感じない。  今身体がだるいのは、さっきまでの疲れのせいだ。 「・・・」  3人とも無言になる、それは嫌な空気ではなく。  幸せをかみしめてる、そんな時間だった。 「そろそろ上がりましょうか」 「そうだね」  麻衣が先に湯船からでる。  続いて姉さんもでる。 「あら、達哉くんどうしたの?」  湯船からでた二人の姿を見た俺は・・・ 「・・・お兄ちゃんのえっち」 「もぅ、あれだけ出したのに・・・達哉くんは満足しなかったの?」 「そう言う訳じゃないんだけどな・・・」  身体は疲れてる、でもまだ欲しがってるのがわかる。 「達哉くん、麻衣ちゃん。今夜は3人一緒よ」 「うん、私もまだ大丈夫だから」 「いや、それを望んでる訳じゃないんだけど」 「お兄ちゃん、そんなにして説得力ないよ?」 「・・・」  フィーナ達がホームスティに来てから最初の3人だけの夜。  さすがに身体を酷使したせいか、姉さんも麻衣も裸のまま俺の横で  眠っている。  俺も心地よい疲れの中、まどろみに落ちそうになっている。 「俺は幸せだ」  それが第3者から見て本当にそうなのかどうかは・・・わからない。  でも、フィーナ達は第3者じゃない。 「・・・」  いつまでも先送りに出来ない問題を抱えながら俺は眠りに落ちていった。
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