焦点距離とカメラ用レンズの特徴
さて今回の話は最も重要な部分、レンズについてです。
最も身近で馴染み深いレンズといえば、虫メガネではないでしょうか。
たぶん小学生くらいの時に誰もがやったことがあると思いますが、虫メガネで太陽の光を集め、黒い紙に当てるとやがて紙が焦げ始めますよね。この、太陽の光が一点に集まった部分がレンズの「焦点」で、太陽の像がここに結ばれています。
太陽の場合は非常に遠距離にあるためレンズには ほぼ完全な平行光線として入射しますので、虫メガネ程度のレンズでは焦点面に結像する像も小さい点になってしまいます。しかし、太陽の代わりに遠くの山とか雲にレンズをかざすと、焦点面にはその風景そのままの像が結像します。
この、焦点面(カメラではここにフィルムが置かれることになります。)に像を結ぶというのが、レンズの役割です。
ちなみにレンズから焦点面までの距離は、レンズから被写体までの距離により変化します。(被写体が近くなると、そのぶんレンズを焦点面から離してやらないと像がボケてしまいます。つまりピントを合わせる必要があります。)
しかし被写体が無限遠にある場合、レンズから焦点面までの距離はそれぞれのレンズで一定です。これをそのレンズの焦点距離と呼んでいます。 ちょっとややこしい書き方ですが、「ひとつのレンズについて、レンズから焦点面(フィルム面)までの距離は被写体までの距離によって変化するが、焦点距離は一定である。」ということです。
そしてもちろんレンズ設計の仕方によって、いろいろな焦点距離をもつレンズを作ることができます。
ではレンズの焦点距離が違うと、何が異なってくるのでしょうか。
それは撮影倍率です。右の図を見てください。
同じ大きさの被写体ですが、フィルム面の像は焦点距離の長いレンズの方が大きくなります。つまり、焦点距離の長いレンズは被写体をより大きく写すことができる、つまり望遠レンズというわけです。
逆に焦点距離の短いレンズは被写体は小さくなりますが、そのぶん広い範囲をフィルムに写し込める、つまり広角レンズになるのです。
カメラ用のレンズにとって、焦点距離が何ミリかというのは大変重要な要素です。カメラ用レンズには、必ずこの焦点距離と、レンズの明るさを示すF値(後述)が書かれています。このふたつの数字だけで、そのレンズがどのような写り方をするかだいたい分かってしまうのです。
焦点距離は無限遠の位置にある被写体にレンズを向けた時、像が結ばれる位置までの距離を示したものですが、この焦点距離は固定のものだけではなく、可変できるものがあります。これがバリフォーカスレンズというやつで、その中でもズーミング(=焦点距離を変えても)ピント位置が変わらないものが、皆さんご存知の「ズームレンズ」と呼ばれているものです。
なおズームレンズに対して、焦点距離が一定のレンズを「固定焦点レンズ」または「単焦点レンズ」と呼んでいます。
ここまで読んで疑問を感じた方がいるかもしれません。
焦点に被写体の像を結ぶのには凸レンズ1枚でその役割を果たせるはずなのに、なぜカメラ用のレンズにはたくさんのレンズが使われているのか、と。
確かにカメラ用のレンズは様々な単レンズが使われています。大きさや曲率が異なるだけでなく、凹レンズや材質の異なるレンズなどが何枚も、時には十何枚も組み合わされています。なぜそんな手間のかかることをしているのでしょうか?
その大きな理由は、凸レンズ1枚だけでは現代のカメラ用レンズとして必要な性能が得られないからなのです。
確かにレンズ1枚でも像を結ぶことはできますが、その像はボヤけていたり滲んでいたり湾曲してたりでシャープな写りは得られません。その原因が「収差」と呼ばれる光学的な現象にあります。
収差をぜんぶ理解するのはとても難しく、私もごく簡単なことしか分からないので一部だけサラッと書きますと...
収差のひとつに「色収差」というのがあります。 空気中を進んできた光がレンズなど屈折率の違うものに入射すると、入射角と屈折率に応じて光は曲げられます。
しかし光はその波長ごとに曲がる角度が異なるため、プリズムで太陽光を分光したときのように、様々な色になって分散してしまいます。 このため焦点面に結ばれる像は滲んだようになってしまい、シャープな像が得られません。
(右図のように各色ごとに焦点距離が異なることになり、像が違う位置にできてしまいます。 このため、それが重なるとピントが合っていない様に見えてしまうのです。)
これを防ぐために分散した光を戻す効果のある別のレンズを通して修正してやる必要があります。これらレンズのそれぞれの曲率や材質をどうするか、どう組み合わせるかなどにノウハウがあり、高度な設計知識や学術計算が必要になるのです。
まあこのような理由があって、カメラ用のレンズは何枚ものレンズの組合せでできています。
もちろん、レンズの構成枚数が多いほど高性能というわけではありません。この辺が奥の深いところです。(2000.12)
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