このページでは、パラグライダーで飛んだことのある人を主な対象にして、ハングはパラとどう違うのか、書いてみたいと思います。
基本的には山の上から走ってテイクオフして、上昇気流で高度を稼ぐという同じ行動形態のスカイスポーツですし、同じエリアで飛ぶことが多いし、操縦感覚が多少違う程度のはずなんですが、細かく見てゆくといろいろ相違があります。
特徴1:真っすぐ飛ばない
パラは強い振り子安定があるので、ブレークコードを戻せば直進飛行に戻るし、風に流されはしますが手放しでも真っ直ぐ飛んでくれます。しかしハングは体重移動をしてバンクをかけた後に体を中央に戻しても、バンクはつきっぱなしです。水平に戻すには逆方向へのあて舵が必要で、この辺の操作はセールプレーンや飛行機と一緒です。
パラでは簡単にできる手放し飛行も、ハングは難しいです。放っておくと、機体は必ずどちらかに勝手に曲がってゆきます。特に慣れないうちは常に地平線と進行方向を意識して機体の水平を保つようにしないとダメで、操作が非常に忙しく感じます。
特徴2:慣性が大きい
簡単に言えば、操作してから機体が反応するのにパラより時間がかかるし、オツリも大きい傾向です。そしてその傾向は、上級機になるほど顕著になります。
パラの操縦は体重移動も使いますが、基本的にはブレークコードを引く/戻す操作で操縦が可能です。ハングの操縦は体重移動のみで行うのですが、下手な体重移動だと思ったように旋回してくれなかったりするので、しっかり練習して体全体をうまくコーディネートさせた操作をしてやらなければなりません。
特徴3:格好が違う
ハングはうつ伏せに寝た姿勢で飛びます。空気抵抗も少なそうだしナウシカとかウルトラマンみたいに自由に空を飛べそうなイメージだし、それになんかカッコイイ! 私がハングをやりたかった理由のひとつがこれでした。
実際飛んでみると、この寝た姿勢でも意外と快適だし、翼で空気の上を滑っているという感覚をよりダイレクトに味わえます。
ただし、視界に関してはパラの方が断然良いです。ハングはパイロットのすぐ上に翼があるので、真上が全然見えないのです。また、慣れないと後ろを振り向くだけで体重が偏って旋回が始まってしまうので、後ろを振り返るのも大変です。
特徴4:スピードが出せる。性能がいい
ここでいう性能とは、飛行速度と滑空比のことです。
最近のパラの上級機の性能は素晴らしく、初級ハンググライダーに匹敵する速度を出せるものもあるようですが、一般的にはハングの方が速度を出せます。初級機でも30〜60km/h程度の速度レンジを持ちますし、上級機になればサーマル間で平均60〜70km/h程度の移動も無理なくできるし、100km/h以上の速度を出すこともあります。パラに比べれば空気抵抗も少ないので、滑空比も良いです。
そして何といってもハングはピッチコントロールによってスピードを自由に変えられるのが、パラと大きく違う点です。パラ以上に、空を自由に飛びまわる感覚を味わえると思います。
特徴5:絶対潰れない
金属パイプの骨格を持っていますので、乱気流を食らってもパラみたいに潰れることはありません。この違いは大きいです。気流が荒れててガタガタの空域を通過しても、絶対潰れないことが分かっているのであまり怖くありません。
ただし、あまりに強い乱気流に遭遇したり、空中でフルフレアをかけるといったアホな操作をすると、機体がその場でグルリと前転する「タッキング」に入る恐れがあり、そうなると引っくり返った機体の上に人間が落ちたり、マイナスGが加わったりすることにより機体が壊れることがあります。(ハングはプラスGには強いがマイナスGには比較的弱いため)
当たり前ですがハングの場合、パラのように潰れても元に戻ることはありませんので、すぐにレスキューパラシュートを投げる必要があります。まあ、そんな事態になることは普通ないとは思いますが。
特徴6:機体が高いが長持ちする
値段を比較するために2010年現在のWindTech社のパラグライダーと、WillsWing社のハンググライダーで比べてみましょう。
| パラ | ハング |
初級機 | Arial 33万円 | Falcon3 46万円 |
中級機 | Zephyr 43万円 | Sport2 69万円 |
上級機 | Tecno 48万円 | U2-2009 83万円 |
コンペ機 | Combat 47万円 | T2 97万円 |
こう比べると、どうしてもハングの方が高いです。特にコンペ機クラスになると構造材にカーボン複合繊維などを使用する(空気抵抗削減の目的で、翼の上についている支柱・ワイヤーを省くため)ので、コストがいきなり高くなります。
しかし、寿命はハングの方が大幅に長いです。使い方によりますが、パラの場合は数年も使用すればキャノピーがクタクタになって性能が低下し、安全面でも問題が出てきます。一方、ハングは金属の構造体を持っているし、セールも厚くて丈夫なので、数年程度ではたいして性能は落ちません。
そしてこれも大きな違いなのですが、道具解説のページでも書いたようにハングは初中級機でもそれなりの性能を持つため、同じ機体のままずっと楽しむことも可能だし、実際に初中級機で週末を楽しんでいるベテランの方もたくさんいます。
こういったことを考えれば、ハングの値段もそう高くはないということが分かるかと思います。
特徴7:機体を組む・解体するのが面倒
パラの場合は畳まれたキャノピーを広げてラインチェックするだけですが、ハングはコントロールバーを組んでから機体を広げ、バテンや翼端チップを入れてテンションを張り、各部のプレフライトチェックを実施するなど、機体を組むのに手間がかかります。それに要する時間は初級機で10〜20分位。そして着陸してから解体して車に積める状態にするまでも同程度の時間が掛かります。昔の機体に比べれば手早く組立てられるように工夫されているようですが、それでもパラには敵いません。
しかしこの点については、慣れとヤル気で何とかなると思います。特に初級者のうちはたくさんフライトするのが大切ですから、のんびりしてないで手早く準備すれば、思ったほど時間はかからないと思います。(それでも、パラに比べれば面倒な作業であることは仕方ありませんが)
ちなみに私の一日の最多フライト本数は6本。特に本数記録を狙ったわけではありません。エリア条件や天気によって違いますが、場合によってはハングもパラに負けない位の本数を稼ぐこともできるわけです。
特徴8:ランディングが難しい
これはランディングエリアの広さにもよりますが、日本では一般的な、田んぼ数枚程度の広さに降ろす場合、ハングのランディングはパラよりも10倍以上 難しいと思います。私自身、パラではランディングで転んだりケツランしたことが一度もないのが自慢といえば自慢でしたが、ハングではそうはいきませんでした。
基本的に八の字ターンや場周飛行で高度処理したあと、真っ直ぐ最終進入して最後にフレアーというパターンは一緒ですが、ハングは滑空比が良くスピードも速い上にパラのように小回りが効かないので、安全に着陸するためにはより高い精度が必要になります。例えばフレアーのタイミングひとつとっても、難しさがあります。早すぎれば機体が浮き上がってしまい、そのまま制御できずに地面にクラッシュしたり、フレアで急上昇してしまう「ロケットフレアー」になります。一方、遅すぎると走れず突んのめってクラッシュしたり、ボディランディングになったりします。パラの場合、ランディングでキャノピーを破くような事態になることは普通ありませんが、ハングはクラッシュすると機体が壊れてしまう(=1〜10万円程度の修理代がかかる)ことがあります。
とはいえ練習を積み重ねることで、ランディングは次第にうまくなっていきます。見事にフレアが決まったときの満足感は、パラ以上のものがあります。
パラグライダーも十分面白くて奥の深い趣味ですが、冒頭に書いたように操縦感覚はけっこう違うものがあります。
例えばパラグライダーもブレークコードやカラビナを通して結構翼の動きを感じることができますが、10mもの長さのラインの先に翼があるという遠隔感があるのは確かだし、旋回時などは、振り子のように振り回される感覚があります。(それを上手く操るのが面白さでもあるのですが)
一方、ハンググライダーは機体の骨組に一体化したコントロールバーを持って、体全体を使った体重移動で、すぐ上にある翼をコントロールします。翼との一体感というのとは違うかもしれませんが、旋回してみると、何というか、空気の上に乗って滑っているような感覚があります。
何故かわからないが飛び飽きてしまった人、マンネリを感じている人、長いブランクから再開する人、この機会にハングも始めてみてはいかがでしょうか?
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