第3回歯科麻酔考える臨床医フォーラム 議事録

テーマ:開業医における歯科麻酔認定医の意義 《地域での認定医はどう生かされるか》

1. フォーラム開会挨拶:担当幹事 別府孝洋

 今回のフォーラムのテーマに関しては、「開業医歯科麻酔認定医の全身麻酔」も考えたが、紆余曲折の末、このテーマになった。比較的タイムリーな話題と思われ、活発なディスカッションをお願いする。

2. フォーラム事務局長挨拶:事務局長 望月 亮

 このフォーラムは開業歯科麻酔認定医間の情報交換の場であった。最近は、大学に在籍中の若い歯科麻酔医に対して、歯科麻酔に希望を与えられるような情報提供も目的になってきた。今日は、単なる講演会ではなく歯科麻酔に関するディベートを展開していただきたい。

3. 基調講演「歯科麻酔認定医を考える」:
城 茂治 日本歯科麻酔学会認定医委員会委員長 岩手医科大学歯学部歯科麻酔講座教授

 前回の総会の会長が翌年の認定医委員長を行うことになっており、認定医委員長ということで、このテーマの基調講演を依頼されたものと思われる。
 認定医の定義ははっきりしたものはなく、認定医制度設立時の稲本先生の書かれた文書があるのみである。歯科麻酔専門医としての最低基準を十分に身につけた歯科医師を養成するというもので、さらに、その先に標榜医、指導医という考えがあった。以下は、私見として述べさせていただく。
 認定医受験者数は、S52年より年々増加し、合格率は低下傾向にある。第22・23回では、約50%の合格率であった。所属別の合格率は、医学部、開業医、病院歯科、歯学部他科、口腔外科からの受験者は減少もしくは少数のまま変化がなく、歯科麻酔科所属者の増加が著しい。平成13年からの改正もあり、今後ますます歯科麻酔科所属者の受験が増加すると思われる。受験時の所属は上述のとおりだが、現在の所属を見ると、大学歯科麻酔科所属者は全認定医の約9%にとどまり、病院歯科18%、障害者歯科・高齢者歯科11%で、開業医は39%にのぼっている。
 歯科麻酔認定医の目的・目標には、これまでは歯科麻酔学の普及、歯科麻酔科の設立があったが、今後は、一般歯科医への普及も必要になる。また、指導医の養成はいろいろな分野への関わりといった点で重要になる。いずれ実現するであろう標榜については、平成12年の広告の緩和により、認定医・指導医の広告を出すことができる。しかし、これについても、まだ、他科の認定医と基準を一定にできるかどうかの問題がある。
 歯科麻酔学は、大学教育において学ぶべきことが多い割にカリキュラムが少なく、現時点では、卒後教育が重要となっている。この点についても、認定医の活用が必要である。
 歯科麻酔認定医は、現在、様々な点で今後の歯科医療のニーズに答えるべく変革を迫られている。これは、認定医の約4割を占める開業歯科麻酔認定医が、歯科麻酔学会に対しても、患者さんや地域の一般医に対しても、どうアピールするかにかかっている。歯科麻酔学会は会員の意志で運営すべきである。

4. 指定発表「歯科麻酔認定医は開業医にとってどのような意味を持つのか」:
篠塚襄 篠塚歯科医院(千葉県佐原市)

 開業歯科医師にとっての認定医の意義について考えてきた。歯科医師会等において様々な努力の中で歯科麻酔の存在をアピールしてきた。
 認定医を取ろうとした動機は、歯科治療において、全身管理と麻酔研修の必要性を感じたためであり、麻酔研修時には、これからの歯科麻酔はどうすべきか? 開業医で歯科麻酔をどう活かせるか?を考えてきた。
地域の特殊性もあると思うが、目標に「開業医の全身麻酔、笑気鎮静法、静脈内鎮静法、ペインクリニック、有病者の歯科治療、障害者の歯科治療等」を考えた。しかし、結果的には笑気、静脈内、障害者歯科治療等を行っている。
 開業医で上記を行うにはスタッフの協力が必要で、熟練したスタッフがいるわけでもない。雇用者としての社会的責任もある。問診表、血圧のチャートをとることは、当然で、医科主治医との連携が重要。主治医への連絡も、チャートを添付して連絡をとったりすることで、コミュニケーションが深まって相互理解が得られる。緊急時には連絡網、高次医療機関への転送、訓練が重要。地域の医師会との関係については、麻酔を研修してきたと言うことで理解を得ることができる。また、自院内では、清潔な環境の保持にも注意している。基本的な清潔操作を心がけディスポ製品を多用している。地域歯科医師会との関係は、歯科麻酔ということに「なんだ?」という目で見られることもあるが、緊急時の転送マニュアルの作成、緊急薬剤・機材の準備等のいろいろな小冊子の配布、講習会の開催などを行っている。
 緊急医療体制は、地域に高次医療機関がないため、相互補助を心がけている。また、地域歯科医師会の中では、学術担当の立場を利用して、講習会、県歯の学術大会での発表等を行っている。また、医療施設見学会、在宅診療の推進(厚生省のモデル地区)、障害者の巡回診療、介護保険にも参画し、これらを通して対行政に働きかけ、対市民には市広報への執筆や、生涯学習を行っている。さらに、歯科麻酔学会での発表等の自己研鑚も必要であると思われる。
 歯科麻酔の知識は特別のものか?医療人として蘇生や全身管理ができることは、本来は基本的なことであると考える。しかし、現時点では、全身状態の理解や管理ができる歯科医師として歯科麻酔医が位置付けられている。歯科大学の問題点としては、歯科麻酔の講義時間の不足、在宅歯科診療の講義がないなどがあげられる。
 歯科麻酔を経験したことによる悩みや喜びはいろいろ挙げることができるが、歯科麻酔としての専門の目で患者を見ることができることが大きな利点であり、地域一次医療を行う上での能力として高く評価されうる。われわれ歯科麻酔認定医には、「歯科麻酔」という共通の言語があるのである。習得した知識を生かせる場所は数多くあり、いろいろな場面に積極的に参加すべきである。

5. 指定発表「開業歯科麻酔認定医の21世紀」:
伊藤正夫 メデント歯科センター(名古屋市)

 私は、歯科医師会や大学との関わりをまったく持たずに開業しており、以下については独断と偏見であることを予めおことわりしておく。
 最近の円の急騰や失業率の上昇という経済状況は、さらに悪化する可能性を秘めており、歯科界における影響も計り知れないものがあり、病院歯科・大学の統廃合、開業医の廃業の可能性も出てきている。こういった非常に厳しい状態のなかで、歯科麻酔の知識を持ったわれわれはどう対処するのか?
 現在、一般的に患者さんは歯科医を信用していないと考えられる。これは、有史以来「歯科は、怖い、痛い、嫌い」といった概念が受け継がれてきたことによる。21世紀に向けてこれを打破していくことが、現在置かれている危機を乗り切る手立てであると考える。すなわち、歯科医療は患者にとって快適で安心できるものでなければならず、痛くない確実な医療が求められている。
 歯科麻酔の研修は趣味ではない。歯科麻酔とは何か?Identity?全身麻酔?有病者歯科?医科との違いは?
一般の患者に受け入れられる「歯科麻酔」の説明が必要で、私は、「安心して治療を受けることができる歯科医院」をキャッチフレーズとしている。治療は全てgentle touchを心がけている。歯科医院自体も、歯科医院臭がなく、待たせず、カウンセリング室、術後のリカバリー、処置後にくつろげる応接室も用意している。
 ここで、当院で行える限界と思われる症例を呈示する症例は73歳男性、IHD、肺気腫、心不全を合併し、インプラント治療を希望してきた。各種検査データの把握と評価を行い、IVSを併用して最小限の外科侵襲にて咬合の再構成を成し得た。この症例も、歯科麻酔の知識なくしては治療できない症例であり、歯科麻酔の知識=安心できる歯科医療ということができる。そして、この事こそが国民にアピールできる点であると考える。

6. ディスカッション:
司会:緒方克也 おがた小児歯科医院(福岡市)

司会 緒方先生 私は、第1回目の認定医試験を受けた認定医38号です。われわれの共通の言語としての「歯科麻酔」。歯科麻酔認定医は今後の歯科医療の重要なキャスティングボードである。広範な話題ではあるが、開業歯科麻酔認定医は歯科麻酔の研修をどう活かすべきか?について、どなたか…

岩手医大 城先生 指定発言の2人の先生は、それぞれ違った立場で「歯科麻酔」を有効に利用している。学会でも歯科麻酔が供給できるものは何か?ということが問題になっている。一般歯科医に地する「歯科麻酔」のアピールが重要であり、各地における開業歯科麻酔認定医の活躍を期待している。

司会 緒方先生 開業している先生は認定医であっても歯科医であり、大学に在籍している先生は歯科麻酔医であり…立場の違いがあるわけですが、、、。

和歌山県 山本先生 開業して10年になるが、和歌山県は歯科麻酔に関心のない県で、当初は普通の診療のみ行っていた。地域歯科医師会でも「歯科麻酔」の話は全く聞いてくれなかった。しかし、歯科医療にはAmenity,Safetyが要求されつつあり、この点に関してこそ「歯科麻酔」が実践できると考え、医院内の清潔、痛みの少ない治療を心がけてきた。徐々に地域の患者に認められ、近隣の歯科医にも関心を持たれるようになり、歯科医師会からの講演依頼も来るようになった。歯科麻酔認定医の任務は、歯科治療の「怖い、不快だ」をなくすようにすることだと考える。

司会 緒方先生 他の歯科医との違いを明確にし、痛くない安全な治療を目指すということは、患者の側に立った医療を行うということだと思う。この考えはどういった視点から気づいたものなのか?

名古屋市 伊藤先生 「歯科麻酔」の視点から、患者さんに満足してもらうことを考え、他の医院との差別化に利用している。

司会 緒方先生 経済や流通の管理は全身麻酔の管理に共通するものがあると思われる…

名古屋市 伊藤先生 今日の歯科医療における経済危機は、医療の供給過剰によるものと考える。

司会 緒方先生 麻酔管理はまた、医院経営の管理にも通じるものがある。

秋田県 木村先生 saturationの算定が事実上できなくなっているが、これも予算の削減の煽りによるもので、こういったものも国民のニーズがあれば点数化されるものである。浸潤麻酔時に表面麻酔、33G針の使用等、痛くない麻酔を心がけている。

名古屋市 服部先生 私の場合は、「痛くない麻酔」は小児歯科で学んだ。安全な歯科治療については麻酔で学んだ。他の先生との出会いに関しては、この会の延長に「歯科麻酔開業医会…」等のネットワークが作れるのではないか?口腔外科から歯科麻酔を研修された先生が多いと思うが、どちらに重点をおいて開業されているのか?

千葉県 篠塚先生 口外目的に大学に残ったが、全身管理の必要性を感じて、その研修には歯科麻酔しかないと考えた。

名古屋市 伊藤先生 外科処置、Day surgeryに関しては口腔外科が有用であったが、それは一部の患者に当てはまるものであり、一般の患者に対して重要な「痛くない治療」には「歯科麻酔」が有用である。

新潟県 谷田部先生 認定医をどうするかということは、あまり好きではない…・このフォーラムをこんな時間帯に行うのはおかしい。歯科麻酔学会として認定医をどう育てるのかを考えるべきだ。全身麻酔をかけられる人が認定医ではなく、「歯科麻酔」の知識を持った人が、認定医である。自分の診療パターンをどうするか? 安全で痛くない治療をめざすなら、どういった近代医学を応用し、患者さんの要求をどれだけ消化できるか?こういった点に認定医の知識は役に立つと思う。

長崎大学 鮎瀬先生 認定医フォーラムの設定には苦労した。学会の空気はこの会がどうなるか様子をうかがっている段階。フォーラムの会合だけでなく、学会の中で自分の症例を発表したり、学会の中で討論すべきだ。

司会 緒方先生 開業歯科麻酔認定医が全認定医の約40%を占めているということを認識すべき。かなりの力があり、学会に貢献している。われわれに何ができるのかを考えるべきだ。

東京都 山川先生 学会に対する要望として、開業医の出席できる日程を考えてほしい。(金、土、日)指定発言者へ:全身管理の重要性は認識しているが、歯科医師会には派閥があり、なかなか意見が通らないのが現実。また、医師も「歯科麻酔」を知らない人がほとんど。Implantに関しても、高齢者に対するImplant careは全身状態や予後を考えて、最小限の侵襲にとどめる必要があることを歯科麻酔医が発言すべきだ。全身的合併症を考慮して歯科治療を行う必要性についても認定医が発言すべきだ。

明石市 廣田先生 歯科麻酔認定医は、私も宣伝に使っている。歯科医師会でも活動したいと考えている。歯科麻酔学会に対して:古い先生の功績については認めるが、そろそろ世代交代の時期ではないか?歯科治療についてもよく知っている新進の教授が上に立つべきだ。

岩手医大 城先生 確かに大学に在籍している歯科麻酔認定医は全認定医の9%でしかない。しかも、人員削減のため有給者は減少する傾向にある。歯科麻酔に関しては地方での出張麻酔もほとんど無く、医局員は生活のためには歯科医でなければならない。歯科麻酔科は歯科麻酔医を育てるだけでなく、歯科医も育てなければならない。このフォーラムにこれだけのパワーがあるということを学会の上の先生にわかってもらう必要がある。

司会 緒方先生 開業歯科麻酔認定医のネットワークを作るべきではないか?歯科麻酔認定医の技術や知識は、歯科の開業に役立つものであり、歯科麻酔の存在を他の歯科医に認知させるべきである。そのためには開業歯科麻酔認定医がその行動を起こす必要がある。周囲に理解してもらうことで、いろいろな場面で役に立てるようになる。来年もより多くのディスカッションができることを期待する。

7.次期フォーラムのお知らせ:昭和大学 西村先生

 来年は、今回のフォーラムとは違った形態で会を開いてみたい。学会との関係も変え、日中に十分な時間を取って行えるように努力していきたい。皆さんのご協力をお願いしたい。

8. 閉会の挨拶