3.歯科麻酔的医療行為の医療経済(3) −モニタリングの実施・保険算定状況について−

増田靜佳1) 久保田敦2) 望月 亮3)
1)愛媛県口腔保健センター  2)クボタ歯科・インプラントセンター(愛媛県) 3)清水市・望月歯科.

【目的】
術中の全身状態監視に要した医療コストを、どのように回収するか、という問題を考えたとき、現状は必ずしも満足できる状況にありません。今回我々は、モニタリングの臨床現場へのさらなる拡充・定着を願って、医療経済学的観点から実施・保険算定状況等を調査しました。

【対象と方法】
対象は、全国各地の大学・病院歯科・開業各々の医療機関に所属する、主として歯科麻酔科医としました。対象者の選定には、地域バランス、予想される回答のactivityなどを考慮しました。
方法は、血圧・心電図・パルスオキシメーターによるモニタリングの実施状況、保険算定・請求状況、査定・返戻の状況、保険請求に関する傾向、審査員に占める口腔外科医・歯科麻酔医の割合等について、アンケート調査しました。なお、アンケートの発送は全て電子メールにて行い、回答も、ほぼ全て電子メールで回収しました。

【結果と考察】
アンケート回収状況
発送したアンケート総数73通のうち、45通・62%の回答を得ました。
(グラフ1)
所属別の回答率をみたところ、病院歯科の回答率が76.9%(10/13)と最も高く、次いで大学の63%(17/27)、開業医54.5%(18/33)の順でした。大学からの回答率は、開業医を上回りました。
(グラフ2)
本調査におけるアンケート対象者の所属別構成は、大学38%・病院歯科22%・開業医40%となっています。
モニタリング実施状況
(グラフ3?5)
血圧測定・心電図監視・パルスオキシメーターによるSPO2監視のいずれにおいても、大学では全症例実施と答えたものが多く、それに対して病院歯科では全診療の2-3割と答えたものが多かったです。開業医においては、血圧測定では2-3割と答えたものが多かったが、心電図・パルスオキシメーターでは、2-3割と答えたものよりも、行っていないと答えたものの方が多かったです。
保険算定・請求状況
(グラフ6)
大学・開業医ではモニタリングを実施していながら、保険請求しないケースが多くみられたのに比べると、病院歯科で「算定しない」と答えたものは少なく、算定に対する積極性が伺われました。
保険算定の査定・返戻の状況
(グラフ7)
大学では「摘要欄に記載すれば認められる」の次に、「全く認められない」が多かったのに対し、病院歯科では、「全く認められない」はありませんでした。このような点からも、病院歯科が積極的に保険請求を行っている印象を受けました。
保険請求に関する傾向
(グラフ8)
大学と開業医では、「ほとんど通らない」が多くみられたのに対し、病院歯科ではありませんでした。一方、大学・病院歯科・開業医共に、「実績のあるところが通りやすい」と感じているようでした。
審査員に占める口腔外科医・歯科麻酔医の割合
(グラフ9)
大学(12/19=71%)・病院歯科(6/9=66%)・開業医(11/18=61%)共に、「歯科麻酔医が1名以上」あるいは「歯科麻酔に理解のある審査員がいる」の答えが多くみられました。一方で、「よくわからない」「理解のある審査員がいない」と答えたものも少なくありませんでした。
  回答者から頂いたご意見の一部をご紹介致します
  「審査の場で歯科麻酔学的考え方の浸透を図るには、歯科麻酔科医の審査員への進出と歯麻学会社保委員会の改革が必要。(開業医)」など、多くの積極的な意見をお伺いすることができました。
  以上より、モニタリングを正当な診療報酬として算定可能にするためには、保険算定のルール、保険審査の実態についての情報・知識が必須と思われました。
また、こうした歯科麻酔学的医療行為に関する保険算定状況の把握、状況改善のための働きかけ、ガイドライン作成などが歯科麻酔学会に求められると考えました。

【結語】
保険審査、医療経済について、歯科麻酔科医はより多くの関心を払わねばならないと思われました。