一般開業医で可能と思われる日帰り全身麻酔法の検討

静岡県三島市開業 

○鳥居 孝

【目的】ノーマラーゼーションという概念が世に浸透し始め、歯科に措いても障害者に目が向けられて久しい。しかしながら地域によっては未だに障害者歯科を受け持つ高次医療機関が存在しないものも現状にある。そのことは歯科治療の困難な障害者の患者が、地域の開業歯科麻酔認定医の下へ薬物を用いた行動調整による治療を期待して来院する可能性を示唆している。そこで入院設備のない歯科医院における日帰り全身麻酔の可能性と必要性についてこれまでの経験をもとに検討した。

【対象及び方法】静岡県東部地区の一次医療機関である鳥居歯科医院にH12年5月からH13年2月にかけて齲蝕治療のために来院した歯科的障害者のうち全身麻酔適応患者と認めた10名を対象にした。いずれもGOSのマスキングで導入し、入眠後、静脈路を確保した。その後セボフルランをカットし、ペンタゾシンを0.25〜0.5mg/kgに続いて2〜3分後フルニトラゼパム0.01〜0.02mg/kgを静注した。気道の確保は、鼻咽頭チューブを挿入し半閉鎖循環式回路にてGOを自発呼吸下にて吹送しながら維持する方法を用い、麻酔を安定させながら治療を行った。

【結果】患者は自閉症7名、精神発達遅滞1名、自閉症+精神発達遅滞2名であった。年齢は5〜37歳(平均21.5歳)、体重は17〜97kg(平均57.6kg)であった。治療時間は10分〜1時間40分(平均42分)、麻酔時間は40分〜2時間10分(平均1時間15分)、帰宅時間は15分〜2時間10分(平均1時間12分)であった。21例中16例は午前中に帰宅を許可できた。これらの結果から、鼻咽頭チューブを用いたNLA変法麻酔を活用することで、日帰り全身麻酔の有効性を再認識できた。ただしこの方法の短所として、気道閉塞及び誤嚥を起こしやすいことやCO2蓄積などが考えられ、安全な麻酔と治療という観点からそれらに対応することも今後の課題であると思われる。

【参考文献】

杉山千枝美、山田正弘ほか:鼻咽頭チューブを用いたNLA変法麻酔の臨床経験日歯麻誌,25(5):779-780,1997
丸山久雄、神田元彦ほか:障害者歯科患者における日帰り全身麻酔の検討 臨床麻酔24(7):1129-1133,2000